アイスはお好き?
わんわん帝國宰相府より戦時法適用の旨が通達され、うーんと唸る者が居た。
愛鳴藩国が藩王、くぎゃ~と鳴く犬、その人である。
藩国の保有資産は他国と比べても標準と言うところであったが、
いかんせん連日のイベントで参加者が張り切りすぎた。
燃料が足りない。
提出課題を資金で全てまかなうにしてもまだ、足りなかった。
困りましたねぇと言いながらもさほど困った風でもなく、のんびりと窓の外を眺める藩王。
/*/
そんなこんなで国中が右も左も目をぐるぐるにしていた一方その頃。
孤児院に隣接する空き地では、三人の少年少女による作戦会議が始まろうとしていた。
「さっき商店街でおばちゃん達が話してたんだけどさ」
土管のてっぺんに陣取った少年が口を開く。
年の頃は10才前後、赤い髪を短く刈り上げていかにも元気そう。
他の二人も同じぐらいの年齢、どうやら孤児院の仲良しグループのようだ。
「なんか”ねんりょー”が足んなくて、くにがたいへんなんだって」
絶対意味解って無さそうに言う短髪くん。
「戦争を始める為に必要なのに、用意出来てないんだよ」
こちらは年の割に物知りそうな、瓶底メガネの少年が補足する。
「私も聞いたよ、こないだのパーティーの後でお姉さん達が心配そうにしてた」
最後に三つ編みの可愛らしい少女が肯定し、いよいよ話が本題に入る。
「なんか私たちに出来ること無いかな?」
「それなんだけど」
と瓶底メガネ君がポケットから取り出したのは、一枚の朝刊の折り込みチラシだった。
”裏マーケット:こんな商品があれば20億で買うネタ募集 報酬:燃料5万t”とある。
(20億がどのくらいの金額なのかの辺りから)一通りメガネ君が解説を施し、
アイデアを出し合う事にする一向。
最初に披露したのは短髪くんだった。
「じゃあさ、ウチの国のアイスクリームをいっぱい買える券!あれ美味いからきっと売れ」
「僕たちのぶんが無くなるだろ」
「私たちのぶんが無くなるでしょ!」
もの凄い勢いで却下されてヘコむ短髪くん、わんわん帝國風に言えば尻尾もしおしおである。
その時、突然大きな影が少年達をぬっと覆った。
「君達もアイスクリーム好きなのか、嬉しいなぁ」
見上げれば何とそこにはニコニコ顔の藩王、驚いたのは子供達だ。
「わっ!藩王……様!?なんで!?」
「いやーちょっと散歩にな。あーなるほど、裏マーケットのキャンペーンに応募して
お手伝いしようとしてたわけだな?エライぞー」
言いながら頭ナデナデして3人とも笑顔にした後、藩王は続けた。
「でもまぁ、万事この藩王様に任せなさい。君達は何も心配する事ないからね。
それじゃ、あまり遅くならないうちに帰るんだよ」
手を振って別れた藩王の背中に、子供達の嬉しそうな声がいつまでも響いていた。
/*/
執務室に帰ってきた藩王を、数名の女性官僚達が出迎える。
「あ、藩王様おかえりなさい。気分転換にはなりました?」
「そうだな。出かけて良かったよ」
「それは何よりで。あそうそう、藩王様これ御存知ですか?」
見ると女性官僚の手には先ほど子供達が持っていた物と同じチラシが。
「裏マーケットというお店でキャンペーンをやっているそうなんですよ」
「ああ知ってる。アイデアが採用されれば燃料が当たるんだったな」
「ええ、ええ。藩王さま何か良い案ございます?」
藩王はそうだなーと顎に手をあて、言った。
「ウチのアイスクリームをたくさん買える券なんてどうだろう」
一瞬の間。そして。
『私達のぶんが無くなってしまいます!』
その場にいた全官僚の声を揃えた抗議に、たまらず吹き出す藩王。
こんなに声をあげて笑ったのは久しぶりな気がした。
「え?え?」
「ははは、いや、やっぱり我が藩国は最高だと思ってね。子供ばかりの良い国だ、あははは」
「ちょっと、どういう意味ですか~」
「いやすまない、はは、まぁそうだなぁ。資金はみんなで内職でもしようか。さぁ忙しくなるぞー」
呆然とする官僚達と笑う藩王の横で、王犬・母なる犬が心なしか口元を緩め寝そべっていましたとさ。
(文章:カイエ)
最終更新:2007年01月30日 22:16