村里みな山間に住し大抵揚川に傍ひ、薪樵の便よく漁猟の利あれども、田圃少し。農隙に炭を焼き伐木を伐り熊・羚羊を猟て生産の資とし、津川町に出て塩を買い耶麻郡小荒井・小田付の諸村に運送し米穀に易ふ。
船渡・日出谷等の村々は陸奥国大沼郡の方より伐出せる材木の筏を乗り、麦生野・新渡・船渡・馬取等の諸村は葛根を掘り或は紙を漉き、鹿瀬村・日出村にては勝栗・乾柿を製し鹿茸・紫萁を採て鬻ぎ出す。
実川村は高山の麓にて8月の末より山々に雪降り、寒気甚く雪積ること9尺計、4月の初まで残雪あり。因て多く蕎麦・粟の類を植えるのみにて水田なかりしに、近頃少しく田地を墾発しやや秋実を得る年ありという。
また揚川の左右に傍ふ村々は間近く相向えども、川荒く急流にて輙く船を渡し難く急用を弁じ難き故、川岸より大綱をわたし、藤蔓にて周1尺計の輪を作り細き縄を付け大綱に通しこれに物を結び、桐貝とて長5、6寸・周2、3寸計に桐を削り中を空虚に鑿り、その聲宝螺に似たるものを吹いて相図をなし両岸に出向いこれを引いて互いに用を弁す。土俗繰綱と唱ふ。
この組の諸村郷名を失う。共に小川荘と称す。
総て9ヶ村あり。
最終更新:2020年10月13日 23:02