アカイイト&アオイシロ 短編小説集

番外編「卯奈坂での邂逅」(後半)

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akaaonobel

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アカイイト新章・神の化身の少女

番外編・卯奈坂での邂逅(後半)


5.戦いが終わって


 目の前で繰り広げられた達人同士の戦い・・・それを観戦した部員たちは、誰もが驚き・・・そして感動したようだ。
 周囲がざわめく中、遥はとても穏やかな笑顔でアポロンを鞘に収める。
 根方に負けたというのに、この清々しさ・・・遥は何ともすっきりとした表情をしていた。 

 「さすがですね、根方さん。参りました。」
 「君こそ大した物だ。まさかこれ程とは思わなかったよ。」
 「しかし根方さん・・・貴方は1年前、本当に梢子に負けたんですか?私にはとても信じられないのですが・・・」

 遥は事前に梢子と戦った事があるからこそ、根方が梢子に負けたというのが信じられないのだ。
 今の自分のように、そこそこは戦えるだろうが・・・それでも1年前の卯良島での戦いは、今のような『試合』では無い。根方は真剣を使用し、梢子を殺すつもりで戦ったのだ。
 それを踏まえれば、梢子の実力で根方に勝てるはずが無いというのが、今の遥の見解なのだ。
 だがそれでも、根方が梢子に負けたというのは、紛れもない事実だ。

 「ああ、負けたよ。私は1年前、卯良島で梢子君と戦って敗れた。」
 「そうですか・・・烏月から話は聞いていたのですが・・・。」
 「だが・・・私が何故あの時、梢子君に負けたのか・・・今なら理解出来る気がするよ。」 

 1年前の、卯良島での戦い・・・梢子と根方は剣を交え、互いの信念をぶつけ合った。
 だが、あの時の梢子が桂との『アカイイト』の絆で結ばれ、桂の想いに支えられていたのに対し、根方は四面楚歌・・・心の支えとなるべき者が誰もいなかった。
 そして梢子は桂の為に、何としてでも生き残って幸せを掴み取ろうという『生きる覚悟』を心に秘めていたのに対し、根方は卯良島の祭司として、大切な娘であるナミを殺さなければならない事に葛藤し・・・半ば自暴自棄になっていた。

 そう・・・あの時の根方は表向きには平静を装いながらも、心の中では迷いがあり、葛藤し、悩んでいたのだ。
 いや、もしかしたら根方はあの時、梢子に自分を力づくで止めて欲しいと・・・自分を卯良島の祭司としての枷から解放して欲しいと・・・心のどこかでそう願っていたのかもしれない。
 そんな中途半端な心構えで、桂の『贄の血』をその身に宿し、大切な物を守る為に戦う覚悟を決めた梢子を相手に、最初から勝てるはずが無かったのだ。

 「遥君。何の為にその剣を振るうのか、何の為に強くなるのか・・・それだけは絶対に忘れてはいけないよ。」

 その事に対して心の中で迷いがあったからこそ、根方は梢子に敗れたのだ。
 そしてそれは、戦いが終わった後に梢子が根方に告げた事。
 だが遥の瞳には、一片の迷いも無かった。

 「その答えなら、もう出ていますよ・・・渚を守りたいから。渚と共に幸せになりたいから。」
 「そうか・・・その純粋な想いを、これからも心に刻み込む事だ。想いの無い力など、ただの暴力に過ぎないのだからね。」
 「分かっています。私もそれは嫌という程思い知っていますから。」
 「君はいずれ必ず、私より強くなれるはずだ。これからも己の信念を貫き通し、精進する事だ。」
 「はい。根方さん、ご指導ありがとうございました。」
 「うむ。いい戦いだった。」

 遥と根方が握手をした、その時だ。
 突然沸き起こった、黄色い悲鳴。
 何事かと思って遥が振り向くと・・・剣道部員たちが一斉に、遥にどっと押し寄せて来ていた。
 彼女たちは皆、目をキラキラと輝かせている。
 いきなりの事に、遥は戸惑いを隠せない。

 「遥先輩!!凄くかっこよかったです!!私、遥先輩のファンになっちゃいました!!」
 「あ・・・ありがとう・・・。」
 「遥先輩!!後で私に特別に稽古を付けて下さいっ!!」
 「いや、私はフェンシングならともかく、剣道に関しては素人なんだが・・・。」
 「何言ってるのよ!?遥先輩は私とデートする予定があるの!!」
 「そもそも私はそんな約束などしてないし・・・。」
 「わ、私・・・遥先輩になら、キスされてもいいかも・・・」
 「・・・は?」
 「何よ!?私だって、遥先輩になら抱かれてもいいわ!!」
 「・・・はあ!?」

 剣道部員たちに一斉に取り囲まれ、迫られる遥。
 予想もしなかった出来事に、さすがの遥もタジタジになっていた。
 そんな遥を庇うように、ぎゅっと遥の腕を抱き締める渚。
 物凄いジト目で、渚は剣道部員たちを睨みつけている。

 「駄目駄目駄目ーーーーーーっ!!姉さんは私の物なんだから!!割り込み禁止!!横取り禁止ーーーーーーっ!!」

 えーーーーーーっ!?
 部員たちが一斉に不満そうな声を挙げた。
 そんな騒がしい集団の中で、2人だけでぽつんと取り残された桂と美咲。

 「うわ・・・遥ちゃん凄い人気だね・・・って、美咲ちゃん?」
 「・・・ふうん・・・成る程ねぇ・・・。」

 美咲は遥の事を、とても興味深そうに見つめている。 
 自分たちと同年代の、フェンシングの達人の女の子。
 梢子を一度は打ち破り、敗北したとはいえ根方をあそこまで追い詰めた程の実力者。
 そして、瞬く間に部員たちの人気者になってしまう程のカリスマ性。
 美咲はそんな遥に、興味津々だった。

 「美咲ちゃん?どうしたの?」
 「・・・ねえ羽藤さん。遥さんは確か、ファルソックの正社員だって言ってたわよね?」
 「うん。経観塚支部のエースだよ。」
 「そうなの・・・」

 美咲はしばらく考え込んだ後・・・ある決断をしたようだ。

 「・・・駄目元で遥さんに頼んでみようかしら・・・2人の意思は尊重しないといけないけど・・・」
 「美咲ちゃん?何を?」
 「ううん、何でも無いわ。こちらの話。」
 「そお?」

 美咲は桂に穏やかな笑顔を見せ・・・遥を取り囲んでいる可愛い部員たちを、苦笑いしながら見つめていた。

6.巡り合う運命


 今回の合宿は強化合宿ではなく、部員たちの親睦を深める為の物・・・それ故に練習は午前中のみで、午後からは長い自由時間が設けられている。
 遥も一緒に練習に参加したのだが、先程の根方との戦いをきっかけに遥はすっかり部員たちの人気者になってしまい、部員たちの誰もが遥と一緒に練習をしたがるものだから、遥は正直タジタジだった。

 その午後からの自由時間・・・根方との戦いと練習で疲れ切った身体を癒すために、遥は渚と共に咲森寺自慢の温泉風呂に入っていた。
 午前中に卯奈坂での用事を済ませた根方は既に卯良島へと帰宅しており、他の剣道部員たちはトランプをしたり昼寝したり、あるいは商店街まで羽根を伸ばしたり、散歩がてらに近辺を歩き回ってみたり・・・思い思いの時間を過ごしている。

 「ふうっ・・・いいお湯だなぁ。」
 「・・・・・。」
 「な・・・渚?どうしたんだ?随分と機嫌が悪いようだが・・・」
 「・・・・・。」

 渚は物凄いジト目で遥の隣に寄り添い、遥の右腕をぎゅっと両腕で抱き締めている。
 今日の練習で、遥が部員たちに引っ張りだこだったのが気に入らないのだ。 
 それは、遥の事が好きだからこその独占欲・・・大好きな遥を、他の誰にも渡したく無いから。

 「だって・・・姉さんってば、剣道部の皆に凄く人気があって・・・何だか姉さんが皆に取られてしまいそうで・・・」
 「ははは・・・私もまさか、こんな事になるとは思わなかったよ。」

 渚の機嫌が悪い理由を悟り、遥は苦笑いするしか無かった。
 渚は、部員たちに嫉妬しているのだ。
 それでも渚は部員たちに嫉妬しているからと言って、今日の昼食の山かけマグロ丼において、部員たちの分だけワサビを特盛りにするなどといったイジワルな事はしなかったのだが。
 その時、調理室で物凄いジト目で山かけマグロ丼を作る渚を見て、隣で味噌汁を作っていた美咲は必死に笑いを堪えていたのだ。

 「私達が通ってた経観塚高校は共学だったからなのかな?姉さんは皆に男女だとか散々言われて、後ろ指刺されてたよね?それなのに・・・」
 「そうだな・・・これが女子高という奴なのか・・・ある意味恐ろしいよな。」
 「姉さんも姉さんよ。この私という者がありながら、あんなにデレデレしちゃって・・・」
 「そう言われてもなぁ・・・あんまりキツい態度で接する訳にもいかないし・・・私には渚がいるからって、皆にも説明はしたんだがな・・・」
 「もう・・・姉さんったら・・・本当に誰にでも優しいんだから・・・」

 そんな姉さんだからこそ、私は姉さんの事が好きなんだけど・・・
 幸せそうな笑顔で、渚は遥の肩にそっ・・・と頭を乗せる。
 だが、その時だ。

 「遥さん、渚さん・・・一緒に入らせて貰ってもいいかしら?」

 美咲が突然、浴場に入ってきた。
 その透き通るような綺麗な肌、そして天使を思わせるような可憐な肢体を惜しみなく晒しながら、美咲はとても穏やかな微笑みで、遥と渚をじっ・・・と見つめている。

 「・・・美咲・・・お前たちはまだ入浴時間じゃ・・・。」
 「ちょっと、貴方達と腰を据えて話がしたくてね。遥さんは皆の人気者だから、こういう時でないとゆっくりと話が出来ないから。」
 「いや、入浴時間・・・」
 「今は自由時間だから、何をしててもいいのよ?そもそも自由時間にお風呂に入ってはいけないなんて決まりは無いし。」

 美咲は身体を軽く洗い流し・・・遥や渚と向かい合うようにして、ゆっくりと湯船に浸かった。

 「ふうっ・・・いいお湯ね・・・。」
 「あの・・・もしかして美咲さんも、姉さんの事を・・・」

 桂と美咲だけは他の部員と違って、練習中に遥に迫ったりはしなかった。
 それ故に渚は、桂と美咲に対してだけは物凄いジト目をする事は無かったのだが、それでもこうして一糸纏わぬ姿で湯船に浸かる美咲の姿は、渚でさえも一瞬心を奪われてしまった程までに、とても可憐で美しく・・・そんな美咲に何だか遥が心を奪われてしまいそうで、渚は思わず警戒してしまう。

 だが、そんな渚の警戒心を敏感に察知した美咲は、苦笑いしながらそれを否定した。

 「私は渚さんから、大好きなお姉さんを奪ったりなんかしないわ。だって私は、浮気は絶対にしない主義だから。」
 「え・・・浮気って・・・・」
 「今の私には烏月さんがいるから。」

 とても穏やかな笑顔で、美咲は遥と渚にそう告げる。
 美咲の瞳からは、一片の迷いも感じられなかった。

 「まあ、それはそれとして・・・本題に入るわね。実は遥さんにお願いがあるんだけど・・・」
 「お願い?私にか?」
 「単刀直入に言うわね・・・遥さんに青城女子大学の警備員になって貰いたいの。」
 「・・・はあ!?」 

 いきなりの事に、驚きを隠せない遥と渚。
 無理も無いだろう。いきなり昨日会ったばかりの美咲に、こんな事を言われたのだから。
 だがそれでも美咲は、とても真剣な表情で遥をじっ・・・と見据えている。

 「遥さんと渚さんは2週間前に青城女子大学で起こった、ファルソックの警備員による学生への強姦事件は知ってるかしら?」
 「ああ、青城支部の奴がやらかした事件だろ?朝のミーティングで社長が言ってたよ。その学生はショックのあまり心が壊れて、廃人になってしまったってな。」
 「それで、おじい様が私に相談してきたのよ。こんな事があったのでは昼間の警備を男の人に任せてはおけないから、私の知り合いに強い女の子はいないかって。このままでは生徒達が安心して大学に通えないから、その子たちに青城支部で働いて貰いたいって。」

 生徒たちが学校に集う昼間は女性警備員が、誰も居ない夜間は男性警備員が警備をする・・・という形で、大学側とファルソックとの間で現在調整が進んでいるのだ。
 美咲も剣道をやっている都合上、警備員を務められる程の実力者に何人か心当たりはあった。
 だが事件が起こった時期があまりにも悪く、相談された時には該当者全員が既に進路が決まっている状態で、今更そんな事を言われても無理な話だったのだ。

 それで美咲は、ファルソックの社員である遥に白羽の矢を立てたと言う訳だ。
 ファルソックの社員ならば、青城支部へと転属してもらえば済むだけの話なのだから。

 生徒たちと同年代の女の子で、フェンシングの達人。梢子を一度は破り、根方とあれだけの戦いを繰り広げた程の実力者。男勝りの性格ながらも親しみやすく誠実な心の持ち主で、瞬く間に部員たちの人気者になってしまう程のカリスマ性の持ち主。
 確かに遥になら安心して青城女子大学の警備を任せる事が出来るだろうし、遥が昼間の警備をしてくれるのであれば、生徒たちも安心して大学に通う事が出来るだろう。

 「・・・ん?おいちょっと待て。今、おじい様がお前に相談したとか言ってたな。」
 「ああ、話していなかったわね。松本安雄は私の祖父なの。」
 「松本安雄って・・・あの松本グループの会長が、お前の祖父だというのか!?」
 「ええ。ファルソックが松本グループの関連会社だって事は、遥さんもファルソックの社員なら知ってるでしょう?」
 「ん?ああ、それは勿論・・・。」

 ちなみにファルソックの旧名は、松本警備保障という名前だったりする。
 それではインパクトが無いという理由から、お客様の元にどこの警備会社よりも速く、疾風の如く迅速に駆けつけて、お客様の安全を守る・・・その願いを込めて、『ファースト』と『ソニック』という英単語を合わせた『ファルソック』という社名になったのだ。

 「成る程な・・・確かにそれなら話の辻褄が合うな。そういえば社長がこの間、あの事件のせいで私が青城支部に転属になってしまうかもしれないと愚痴っていたが・・・。」
 「もちろん強制はしないつもりよ。あくまでも2人が良ければの話なんだけど・・・遥さんと渚さんがこれからも経観塚で暮らしたいと言うのであれば、私も無理に誘ったりはしないけど・・・。」

 無理に誘ったりはしないが、それでも美咲にとって遥は喉から手が出る程の人材だった。
 遥以上の適任者など、美咲には心当たりが無いのだから。

 「だけどもし引き受けてくれるというのであれば、2人の住居はこちらで責任を持って手配するし、家賃も全額松本グループの方で負担するように、おじい様に話をつけておくから。」
 「おいおい、何なんだその破格の待遇は・・・」
 「それだけ切羽詰まってる状況だと言う事なのよ。遥さんなら本当に安心して任せられるから。」
 「美咲・・・。」
 「どうかしら遥さん・・・引き受けて貰えないかしら?」

 遥は、渚をじっ・・・と見つめる。
 遥自身は、既に結論を出している。だがこれは遥だけの気持ちで決められる問題では無いのだ。
 青城女子大学の警備員になるという事は、両親との思い出の地である経観塚を離れるという事なのだから。

 「渚・・・お前はどうしたい?経観塚から離れて、青城で暮らす事になっても・・・」
 「私の答えは常に1つよ。姉さん。」

 遥をじっ・・・と見据え、何の迷いも無い穏やかな瞳で、渚は笑顔ではっきりと遥に告げた。

 「私は姉さんと一緒にいられれば、それだけで充分だから。経観塚だろうと青城だろうと、姉さんさえ傍にいてくれれば、どこで暮らす事になっても私は幸せだから。」
 「渚・・・」
 「それに姉さん、顔に出てるわよ?青城女子大学の警備員になりたいんでしょう?」
 「・・・・・。」
 「別にいいんじゃない?住まいも用意してくれるし、家賃は全て美咲さんたちが負担するって言ってくれてるんだし。」

 渚のこの言葉が後押しとなった。
 遥にとって最大の懸念は、渚が経観塚から離れる事に猛反対する事だったのだが、その心配はもう無くなったのだ。
 遥と渚は頷き合い・・・とても真っ直ぐな笑顔で美咲に向き直った。

 「・・・分かった。その話、引き受けよう。」
 「ありがとう・・・後で遥さんを青城支部に転属させるように、経観塚支部に命令書を出しておくわ。色々と手続きに時間がかかるから、本格的に働いて貰うのは来年の2月からになると思うけど・・・」
 「やれやれ、折角羽様にもADSLが通ったばかりだというのに・・・。」
 「代わりに光回線を使える住居を手配させるから安心しなさい。うふふ。」
 「だがしかし、これもまた運命の巡り合わせなのかもしれないな。まさか梢子たちと同じ地域で暮らす事になるとは・・・。」

 そう・・・青城支部に転属になるという事は、経観塚で運命的な出会いをした梢子たちと、これからは身近に接するという事・・・そしてかつては敵として剣を交え、今はかけがえの無い友人である梢子たちを、今度は自分が命を賭けて守る事を意味しているのだ。
 梢子と桂は剣道の特待生として、既に青城女子大学への推薦入学が決まっているのだから。しかも梢子に至っては授業料完全免除という破格の待遇だ。

 「以前、柚明が私に言っていたな。私たちのような特別な血をその身に宿す者たちは、まるで天に導かれるように引かれ合う運命にあるのかもしれないと。」

 『安姫の血』を宿す梢子とナミ、『贄の血』を宿す桂と柚明、『神の血』を宿す遥と渚、美咲。
 きっかけはどうあれ、彼女たちはこうして1つの場所に集まろうとしている。まるで天に導かれるかのように・・・。
 桂が柚明との幸せな日々を10年ぶりに取り戻したのも、ナミが梢子と同居しているのも、遥が『神の血』を宿す京介と運命的な出会いをしたのも、梢子がチンピラに襲われた桂を助けて親しくなり、柚明の妹になったのも、桂が剣道部に入る為に美咲と親しくなったのも・・・全てはその身に特別な血を宿すが故の運命なのだろうか。

 「美咲。今ここには私達3人しかいないから言うが・・・昨日の夜に桂から聞いたぞ。お前も私や渚と同じで、特別に濃い『神の血』を宿す者・・・四柱神朱雀の化身だとな。」
 「ええ。だけど『今の私は』人間よ。」
 「お前と私たちがこうして巡り会う事になったのも、もしかしたら『神の血』を宿す者同士としての運命なのかもしれないな。」
 「運命的な出会いという奴?それは確かに素敵かもしれないわね。うふふ。」

 運命という言葉は、遥はあまり好きではない。
 自分の進むべき道は自分の力で切り開く物だと、未来は自分の手で掴み取る物だと、遥はそう信じているから。

 だが今の遥は、こういう運命なら悪くは無いんじゃないかと・・・心の中でそう思っていた。

7.帰り道


 そして咲森寺での合宿も無事に終わり・・・遥と渚は帰りの新幹線の中で、桂や美咲と向かい合うように座り、トランプのババ抜きをやっていたのだが。

 「うえええええええん!!また負けた~~~~~(泣)!!」

 桂の手札の最後の一枚は、ものの見事にババだった・・・。

 「もう、遥ちゃんも美咲ちゃんも物凄いポーカーフェイスだよ。何を引いても全然表情を変えないんだもん。」
 「いや、お前が物凄く表情に出過ぎなんだよ。桂。」
 「ねえ、今度は違うゲームにする?遥ちゃん、他に何か面白そうなゲーム知ってる?」
 「そうだな・・・なら大富豪にするか?あれは簡単だし、どう考えても完全に運ゲー・・・」

 その時、遥の携帯電話がブルブルと震えた。
 それを見た桂が、むー!!と頬を膨らませる。
 マナーモードではあるのだが、車内での通話は明らかなマナー違反だ。律儀な性格の桂は、こういうのを一番嫌っているのだが・・・。

 「・・・っと、ちょっと待っててくれ。」
 「遥ちゃん、電車の中では携帯電話を使ったらいけないんだよ?」
 「そうか。ちなみにお前の大好きな柚明お姉ちゃんからなんだが・・・」
 「・・・・・。」
 「心配しなくても、周りの迷惑にならないように小声で話すから安心しろ。」

 そのまま黙り込んでしまった桂に苦笑いしながら、遥は携帯電話の通話ボタンを押す。

 「もしもし。どうしたんだ?柚明。」
 『遥ちゃん・・・今ちょっと大丈夫かしら?』
 「ああ、構わない。たった今、桂をババ抜きでフルボッコにした所だ。」
 『そうなの・・・あのね、昨日美咲ちゃんから聞いたんだけど・・・遥ちゃんと渚ちゃん、来年から青城で暮らす事になったんですって?』
 「ああ。正式な日取りはまだ決まっていないが、青城支部に転属が決まってな。美咲に頼まれて、青城女子大学の警備を任される事になったんだ。」
 『まさか遥ちゃんと渚ちゃんが、私たちの近所に住む事になるなんてね。』
 「アンタが以前言っていたように、特別な血を宿す者同士の運命なのかもしれないな。」

 遥は直接戦ってはいないが、かつては敵同士だった柚明。
 それがこうして親しくなって、穏やかな会話をするようになった・・・これも特別な血を宿す者同士の宿縁なのかもしれない。

 『遥ちゃん・・・桂ちゃんと梢子ちゃんの事、お願いね。遥ちゃんが警備員になってくれるのなら、私は本当に安心して2人を大学に送り出せるから。』
 「おいおい、私は大学の警備を任されたのであって、桂と梢子の専属ボディーガードになったんじゃないんだからな?それよりも桂が今、私の目の前にいるが・・・代わるか?」
 『ええ、お願い出来るかしら?』
 「分かった。ちょっと待っててくれ・・・ほらよ。柚明から電話だ。」

 遥は桂に携帯電話を手渡した。

 「・・・あ、もしもし、柚明お姉ちゃん?今から帰る所だよ。それでね・・・」

 そのまま桂がとても嬉しそうな表情で柚明と通話するのを尻目に、遥は窓の景色を眺める。
 時速250kmもの速度で走る新幹線・・・そこから映る景色はじっくりと眺める余裕も無い程に、物凄い速度で目まぐるしく変化していく。
 来年から青城で暮らす事になった、今の遥と渚のように。

 両親が馬瓏琉に殺されてから3年間、本当に色々あった。
 『神の血』をその身に宿すが故に、馬瓏琉だけでなく千羽党にまで命を狙われる羽目になってしまい、一時はその事で自らの運命を呪ったりもした。
 だが運命というのは、何も全てが悪い意味での言葉というわけではない。

 桂と梢子と柚明、そして遥と渚・・・再び巡り会う運命。
 舞台の役者は再び揃い、運命の歯車は再び回り出す。

 (これもまた運命・・・か。)

 「お土産も用意してるから、楽しみに待っててね。うん、それじゃあね。」

 通話を終えた桂が、遥に携帯電話を返す。
 その時、遥の指にかすかに触れた桂の右手は、何だかとても優しくて温かかった。

 「こういう運命なら、悪くは無いかもしれないな。」
 「遥ちゃん?何が?」
 「・・・何でもない。こちらの話だ。それよりさっきも言ったが、今から大富豪でもやるか?」
 「うん!!」

 とても穏やかな笑顔で、遥はテーブルの上に散らばったトランプを集めて、慣れた手付きでシャッフルを始めたのだった。