アカイイト&アオイシロ 短編小説集

後日談「天才の孤独」(後半)

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akaaonobel

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アカイイト外伝・紡がれし心

後日談「天才の孤独」(後半)


3.激突・バスケットボール


 その翌日の午後・・・体育の授業でバスケットボールの試合が行われた。
 2-C在籍の女子20人が5人ずつのチームを4つ作り、準備体操をした後にそれぞれ20分ずつ試合を行う。
 最初に行われるのは美羽・宏美・理瀬と女子2人のチームと、メイベル・盾子・希咲と女子2人のチームの試合。
 先生のホイッスルと共に、美羽がボールをバウンドさせながら敵陣へと攻め込んだ。 

 「ここから先へは通しませんよ。野咲さん。」

 美羽の前に立ちはだかるのは昨日転入したばかりの、鉄壁の構えを見せる盾子。
 そのずっしりとした盾子の構えは、まさしく名前の通りゴールを守る盾であるかのようだ。
 それでも美羽は臆する事無く、盾子を見据えながら思い切り突進する。
 まるで盾子以外、何も視線に入っていないかのように。
 その美羽の一連の動きから、盾子は美羽がパスを選択肢に入れていないと瞬時に判断した。

 「この私と真っ向勝負ですか・・・いいでしょう!!」 

 姿勢を低くし、美羽のドリブルに備える盾子だったが・・・

 「・・・宏美!!」
 「な・・・!?」

 盾子への突進の勢いを止める事無く、美羽は盾子を見据えたまま、メイベルのマークを振り切った宏美にパスを送った。
 メイベルのブロックが間に合わず、宏美がバスケット部員顔負けの華麗なレイアップを放つ。
 そして盾子に突進した勢いのまま、美羽は宏美のシュートのフォローの為にゴール前まで走り抜けた。
 必死に追い掛ける盾子だったが、美羽と競り合う事無く宏美のシュートが綺麗に枠を捉える。

 「馬鹿な・・・私を見据えたまま、小瀬さんの気配だけを頼りにパスを送ったというのですか・・・!!」

 宏美とハイタッチをする美羽を見て、驚きの表情を見せる盾子。
 美羽は盾子を抜こうとする際に、チームメイトの誰にも視線を交わす事無く、ただ真っ直ぐに盾子だけを見据えていた。そして美羽のドリブルの勢いから考えて、盾子は間違いなく美羽が自分に真っ向勝負を挑むと思っていた。
 だがそれは、盾子に美羽の選択肢がドリブルだと思わせる為の巧妙な罠。
 それに盾子は見事に引っかかって、美羽にあっさりと翻弄されてしまったのだ。

 「タテコ(盾子)!!何ボーッとしてんのよ!?」
 「あ・・・すいません。メイベルさん。」
 「取られた点は取り返せばいいのよ!!行くわよ~!!」

 メイベルが希咲からボールを受け取り、即座にリスタートを掛ける。
 その優れた運動神経でもって、メイベルは立て続けに宏美たちを抜き去り・・・

 「えいっ!!」

 華麗なレイアップを放ったメイベルのボールが、綺麗に枠を捉えた。
 あっという間に同点に追いつき、メイベルは希咲とハイタッチを交わす。

 「さあ、今度はちゃんと守るわよ!!タテコ!!」
 「貴方に言われるまでもありませんよ。メイベルさん。」

 今度は決めさせない・・・盾子は再び自分にドリブルを仕掛ける美羽を迎え撃った。
 自ら美羽との間合いを詰めて、盾子は美羽からボールを奪いに行く。 
 だが美羽はまたしても盾子を見据えたまま、左側にいたチームメイトにパスを送った。
 そのまま美羽は盾子を抜き去り、チームメイトとの鮮やかなワンツーリターン。

 「くっ・・・また気配だけを頼りにパスを・・・!!」
 「こんの~っ!!撃たせないわよミユ(美羽)!!」

 盾子を抜いてシュート体勢に入った美羽を、今度はメイベルが迎撃した。 
 その抜群の身体能力によって高いジャンプを繰り出し、美羽のシュートをブロックしようとする。
 だが美羽はそのメイベルの動きまでも予測し、シュートに行かずに身体を回転させての高速ルーレットターン。

 「嘘っ!?」

 美羽からパスを受けたチームメイトが放ったレイアップが、希咲のブロックを超えて枠の中に吸い込まれていった。
 あっさりと美羽に翻弄された事で、悔しそうな表情を隠せないメイベル。

 「ぬぐぐぐぐ・・・!!」
 「メイちゃん、めげないの!!取られた点は取り返すんでしょう!?」
 「・・・ま~ね、そ~ねっ!!行くわよキサキ!!」 

 再び希咲からボールを受け取ったメイベルが、即座にリスタートを掛ける。
 そして希咲との息の合った鮮やかなパス回しで宏美たちを翻弄し、華麗に放たれたレイアップが枠の中を捉え、あっという間に同点に。

 「中々やるじゃないの。メイベル。」
 「アンタたちの好きにはさせないわよ~。ミユ~。」

 互いのプレーに触発され、不敵な笑顔を見せる美羽とメイベル。
 こうして美羽とメイベルの活躍によって、この試合は両者一歩も譲らない壮絶な点の取り合いになっていた。
 守りの要である盾子がどうしても美羽を止められないというのもあるが、それともう1つ・・・

 「あはは、御免ね椎名さん。」
 「・・・もう・・・好きにしてくれ・・・」

 運動が苦手な部類に入る希咲さえも止められない、理瀬の絶望的なまでの運動神経の低さも要因の1つだった。
 理瀬は苦しそうに息を切らして、簡単に希咲に振り切られてしまう。
 希咲のシュートは枠を外れたが、宏美のマークを振り切ったメイベルが派手なリバウンドを決めて、これでもう何度目かという逆転を決めた。
 理瀬が全く戦力にならない事で、事実上の5対4になっている・・・そして美羽がボールを持てば誰も美羽を止められない・・・
 これらの要素が絡み合う事で、壮絶な点の奪い合いになっているのだ。

 「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・いい加減・・・休ませろ・・・!!」
 「もう最後の一踏ん張りよ。理瀬、頑張って。」
 「う、うるさいな美羽・・・私は・・・お前と違って・・・運動は・・・大の苦手・・・なんだ・・・っ・・・!!」

 完全に足手まといになっている理瀬を全く責める事無く、美羽は笑顔で理瀬の肩を叩いて励ましを入れた。
 だが理瀬は息を切らして完全に足に来ており、立っているだけでやっとの状態だ。
 運動オンチな希咲でさえも、まだまだ元気に走り回っているというのに・・・理瀬のこの絶望的なまでの体力の低さは、もはや異常だと言わざるを得ない。

 残り時間は15秒で、メイベルたちが1点リード。
 事実上、次にシュートを決めた方が勝利チームとなる事は間違い無い。
 美羽はチームメイトからボールを受け取り、素早くリスタートを掛けた。

 「今度こそ決めさせませんよ!!野咲さん!!」
 「ちっ・・・!!」 

 ようやく美羽の動きに慣れてきた盾子が鉄壁の守りを見せ、美羽を今度こそ抜かせない。
 さらにメイベルや希咲たちも宏美たちを徹底マークし、美羽のパスを阻止せんと待ち構えている。
 そして美羽が盾子を相手に手こずっている間に、残り時間は刻々と過ぎていく。
 このままメイベルたちが美羽を封じて勝利か・・・そう思われた瞬間。

 「な・・・!?」

 美羽の選択肢はパス。だがそのパスを出した相手を見て、盾子は驚きを隠せない。
 この状況で美羽がパスを出した相手というのが・・・美羽の背後で完全に息を切らしている、戦力として全く計算にならない理瀬だったのだ。
 その異常なまでの運動オンチであるが故に、先程から理瀬だけが完全にノーマークになっていたのだ。
 その場にいた全員が、まさかこの状況で理瀬にパスが来るとは思っていなかったので、驚きの表情を見せている。

 「理瀬!!思い切りぶちかましちゃいなさい!!」

 戸惑う理瀬に対して、美羽は力強い笑顔でそう告げた。
 理瀬は一瞬あっけに取られたものの、やれやれ・・・と溜め息をついて・・・

 「・・・全く・・・負けても私のせいでは・・・無いからな・・・っ・・・!!」

 苦笑いしながらとても重そうにボールを持ち上げ、精一杯のレイアップを放った。
 およそシュートとは呼べない力無いボールが、ヨレヨレと美羽たちの頭上を通過し・・・ボールはゴールネットに届く事さえも叶わず、その手前の誰もいない空間に力無く落ちようとしていた。
 そのこぼれ球をフォローしようと、最初からこうなる事を予測していた美羽が、懸命にボールに向かってダッシュ。
 それを盾子、メイベル、希咲が3人がかりで止めようとするのだが・・・

 「美羽ーーーーっ!!頑張れーーーーっ!!」
 「「ええええっ!?」」

 試合を観戦していた貴也が声を張り上げ、いきなり笑顔で美羽に声援を送った。
 それにメイベルと希咲は派手に動揺し、2人の動きを鈍らせてしまう。
 逆に貴也の応援に元気を貰った美羽は、空中で盾子と競り合い・・・

 「・・・でやあああああああああああああああっ!!」
 「ぐっ・・・!!」

 ただの体育の授業であるが故に、これまでクラスメイトを傷つけない為に派手なラフプレーは一切しなかった美羽が、盾子を相手に初めて力任せの強引なプレーを見せた。
 武術を習っていて身体能力が高い盾子なら、少し位ラフプレーをしても大丈夫・・・美羽はそう判断して最後の最後に力任せのプレーに切り替えたのだ。
 そして何よりも理瀬が放ったシュートを、絶対に無駄にはしたくなかったから。
 盾子のマークを無理矢理ぶち破って、美羽は派手なダンクを決める。

 (馬鹿な・・・!!この私が、地球人を相手に競り負けるなど・・・!!)

 そのまま美羽に弾かれるような形で、派手に尻餅をついてしまった盾子。
 その瞬間、先生の笛が勢い良く鳴り響いた。

 「ゲームセット!!」

 一点差で美羽たちの勝利・・・盾子を助け起こした美羽は、とても穏やかな笑顔で宏美たちとハイタッチを交わしたのだった。

4.穏やかな時の中で


 「ちょっとタカヤ!!何でさっきアタシやキサキじゃなくて、ミユを応援したのよ!?」
 「いや、だって美羽のチームが負けてたから、つい何となく。」
 「タカヤがミユを応援するから、アタシたち試合に負けちゃったじゃない!!」
 「はあ!?負けたからって変な言い訳をするなよメイベル!!」

 試合終了間際に自分や希咲ではなく美羽を応援した貴也に、何とも不機嫌そうな表情で食ってかかるメイベル。
 そのメイベルを、希咲が苦笑いしながら嗜(たしな)めていた。
 すぐ隣のコートでは男子のチームが、同じくバスケットボールで熱戦を繰り広げている。
 特に運動神経抜群の竜蔵院が大活躍を見せており、そのルックスもあって一部の女子生徒たちからキャーキャー騒がれていた。

 とても楽しそうに、体育の授業での穏やかな一時を堪能するクラスメイトたち。
 そんなクラスメイトたちを美羽と理瀬が身を寄せ合いながら、壁際に座り込んで見つめている。
 先程まで息が上がっていた理瀬も、しばらく休んでから随分と落ち着いたようだ。

 「・・・なあ、美羽・・・先程の場面なんだが・・・お前がその気になれば、あの状況で田中を強引に抜いて、シュートを決める位の事は出来たはずだろう?」
 「・・・ふふふっ、まあね。」
 「それなのにお前は何故、あそこで私なんかにパスを出したんだ?私は見ての通り運動オンチで、他の連中の誰もが私をほったらかしだったというのに。」

 周囲から『ミス仙人』と呼ばれている程の博識で、これまでクラスの問題事を幾度と無く解決してきた理瀬。
 だが、その異常なまでの運動神経の低さ故に体育の授業では立場が逆転し、今日のような団体競技をプレイするような状況では、これまで完全にチームの足手まといに成り果ててしまっていた。
 事実、今日のバスケットボールの試合でも、理瀬は運動オンチの希咲さえも止められない無様な醜態を晒し、少し走っただけで激しく息を切らし、全く戦力になっていなかったのだ。

 その気になれば自分の力だけで盾子を抜いて、逆転ゴールを決める事が出来たはずなのに。
 何故美羽はあの状況でドリブルに行かず、全く戦力になっていない理瀬にパスを出したのか。
 しかも美羽は理瀬に対して『思い切りぶちかませ』と・・・つまりはシュートを撃てと言い放った。
 何の迷いも無い充実した笑顔で、理瀬を真っ直ぐに見据えながら。
 合理的に考えれば運動オンチの理瀬がシュートを撃つよりも、美羽が自分で盾子を抜いた方が勝てる確率が高いというのに。

 「さっきの試合・・・皆の中で理瀬だけが、全然ボールに触れてなかったでしょう?理瀬だけが完全に浮いていたから、理瀬にも少しはゲームを楽しんで貰いたいって思ったの。」

 だが美羽の返答は、完全にチームの勝利や戦術を度外視した代物だった。
 相手の意表を突く為の戦術ではなく・・・いや、結果的に美羽をマークしていた盾子の意表を突く事には成功したのだが、それでも美羽が理瀬にパスを出した理由が、理瀬にボールを持たせてゲームを楽しんでもらいたかったからだというのだ。
 在り得ない返答に、理瀬はあっけに取られてしまっている。

 「・・・おい、まさか・・・たったそれだけの理由なのか?」
 「ええ、それだけよ?」
 「・・・・・。」
 「だって部活動の公式戦ならまだしも、これは楽しい体育の授業でしょう?だから試合の勝敗よりもまず、クラスの皆が平等に楽しむ事を考えなきゃいけないって思ったから。」

 とても可愛らしい笑顔で、理瀬を見つめる美羽。
 それは理瀬が・・・いいや、他のクラスメイトの誰もが、全く考えていなかった事だ。
 試合の勝敗だけに拘っていてはいけない。体育の授業なんだから、皆が楽しめる環境を作る事が大事なのだと。
 今日の体育の授業でそんな事を考えていたのは、クラスの中では美羽だけだった。

 それ故に美羽は試合中、本来なら1人でドリブルで抜くべき場面においても、敢えて個人技を控えて積極的にチームメイトにパスを送り、ひたすらチームプレイに徹していたのだ。
 自分1人だけ活躍してはいけない、チームの皆にもボールに触れて試合を楽しんで欲しいから。
 それでも美羽のズバ抜けた運動神経と身体能力故に、試合中はどうしても美羽にボールが集中してしまっていたのだが。

 「・・・フフフ・・・楽しい体育の授業か・・・私は見ての通り運動オンチだからな。これまで体育の授業を楽しいなどと思った事は一度も無いのだが・・・」
 「理瀬・・・」
 「だが今日はお前のお節介のお陰で、少しは楽しめたかもしれないな。」

 極度の運動オンチ故に、体育の授業では完全にクラスの皆から浮いていた理瀬。
 特に団体競技では完全にチームの足手まといになってしまい、理瀬と同じチームになったというだけで、口には出さないものの勝利にこだわるクラスメイトに、邪険に思われる事も度々あった。

 そんな理瀬に純真な笑顔で、真正面から『体育の授業を皆で楽しまないと』などと言ってきたのは、これまでで美羽が初めてなのだ。
 それに球技においてまともにボールに触れて自分の手でシュートを撃つなど、一体何年ぶりの事だろうか。
 あの時のボールの手触り、そしてシュートを撃った時の感触が、今も理瀬の手に染み付いて離れない。

 「そう・・・理瀬の学校での思い出作りに、少しは役に立てたかしら?」
 「思い出作りだと?何を言っている?」
 「理瀬、昨日言ってたでしょう?今更クラスの皆に馴染もうとは思わないって。」
 「・・・・・。」
 「余計なお節介だと思われるかも知れないけど・・・何の思い出も作らずに一人ぼっちで卒業するなんて、やっぱり悲しい事だと私は思うの。だからほんの些細な事でもいい、理瀬にはこの学校で少しでも多く、楽しい思い出を残して貰いたい・・・私はそう思ったのよ。」

 それが美羽が半ば無理矢理に、理瀬にシュートを撃たせた理由なのだ。 
 長い学校生活の中では、ただの体育の授業の一環でしか無いのかもしれない。それでもそこから得られる物、心に刻まれる思い出はきっとあるはずだから。
 それに理瀬が何と言おうが、やはりクラスの誰にも馴染もうとせずに孤独に卒業を迎えるなど、あまりにも寂しくて悲しい事だと美羽は思う。

 『ミス仙人』と呼ばれている今の理瀬は、確かにクラスに何かあった時に的確な助言をして、クラスの皆から何かと頼りにされている。
 だがそれはあくまでも『ミス仙人』としてであって、クラスの皆の理瀬への接し方は、『椎名理瀬』という1人の女の子に対しての物では無いのだ。
 それは理瀬の大人顔負けの博識、そして理瀬から放たれる独特の威厳と品格故に。

 恐らくクラスの誰もが想像出来ない事だろうが、もし理瀬に何か悩みが出来たり、精神的に追い詰められたりでもした時・・・今の理瀬を正面から受け止めて、理瀬の『逃げ場所』になってあげられる者が、果たしてクラスの中に何人いるだろうか。
 だから美羽は、せめて自分がそういう存在になってあげたらと思っている。
 理瀬が何か大きな壁にぶち当たった時、何か悩みが出来た時・・・それを受け止めて相談に乗ってあげられるような存在に。

 誰にも頼る事が出来ず、四面楚歌で追い詰められる・・・それは美羽が経観塚での一件で実際に味わった苦しみだ。それがどれだけ辛い事なのかは身に染みて分かっているつもりだから。
 あんな辛い思いを、理瀬には味わってほしく無いから。
 そんな美羽の心情を察したのか、理瀬は深く溜め息をついて、穏やかな笑顔を見せる美羽に対して苦笑いを見せた。

 「やれやれ、お前は本当に星野に匹敵するお節介焼きだな。美羽。」
 「そうかしら?私なんかより希咲の方が、余程お節介だと思うけど・・・」
 「とは言え、お前の気持ちは嬉しい。礼は言っておく。」

 ここまで自分に対してお節介を焼いて、本気で心配までしてくれたのは、『この世界』に来てから美羽が初めてだ。
 理瀬は美羽の優しさに、幾分か心を救われたような気がした。
 別に友達など無理をしてまで作る必要は無いと思っていたが、もしかしたら美羽こそが『この世界では』初めて出来た友達だと言えるかもしれない。 
 そして美羽なら悪くは無いんじゃないかと・・・理瀬はそんな事を考えていた。

 「・・・ところで美羽。先日も言ったが、私は百合もイケる口だからな?フフフ・・・」

 だからこそ、思わずこんな事を口走ってみたくなってしまう。
 顔を赤らめる美羽を見て、理瀬は何とも意地悪な笑みを浮かべている。

 「今日のお前の私への態度は、まさにフラグだな。」
 「・・・・・。」
 「冗談だ。そんなに顔を赤くするな。」

 恥ずかしそうな表情の美羽をからかって面白がっている理瀬だったが、その時だ。

 「お~い、ミユ~!!シーナ(理瀬)~!!もうすぐ第2試合が終わるから、先生が整理体操の準備をしとけだって~!!」

 壁際でひっそりと座り込んでいる美羽と理瀬に、遠くからメイベルがそう呼びかけた。
 言われてみれば、そろそろ体育の授業が終わる時間だ。
 男子と女子で別れて行われているバスケットボールの試合も、いよいよ大詰めを迎えて盛り上がりを見せている。
 竜蔵院の活躍ぶりに、一部の女子たちがキャーキャー騒いでいるのも相変わらずのようだが。

 「うん、分かった!!今から行くね!!メイベル!!」

 メイベルに会釈して、美羽はう~ん、と背伸びをして立ち上がった。
 そのまま理瀬に手を差し出して、床に座り込んでいる理瀬を立ち上がらせる。
 その美羽の温かくて優しい右手の感触が、理瀬にはとてもくすぐったく感じられた。

 「さて・・・先生にうるさく言われる前に、そろそろ行きましょうか。理瀬。」
 「ああ、そうだな。」
 「6時間目は古典の授業か・・・体育の直後だと眠たくて仕方が無いのよね~。」

 自分の隣で、穏やかな笑顔で他愛無い話をする美羽。
 そんな美羽の隣で一緒に歩きながら、理瀬は先程美羽に握られた右手を見つめ・・・

 「・・・フラグだな。」

 意味深な笑顔で、美羽に聞こえないように小さく呟いたのだった。