アカイイト&アオイシロ 短編小説集

第3話「動き出した運命」(遥視点・前半)

最終更新:

akaaonobel

- view
管理者のみ編集可

シロイユキ・第3話

「動き出した運命」(遥視点・前半)


1.騒ぎの中での邂逅


 約束の時間の夜10時の5分前に、遥と美羽が中庭に辿り着いた時には、先程起こったサテラ襲撃事件による騒ぎを聞きつけた野次馬たちによって、中庭が騒然とした雰囲気に包まれていた。
 事件を目撃していなかった遥と美羽は、一体何事なのかと首をかしげる。
 つい先程まではお茶会に相応しい、とても静かで幻想的な雰囲気に包まれていたというのに・・・あの男たちのせいで何もかも台無しだ。
 中庭には多くの人々が集まり、記者たちも多く駆けつけ、ロイヤルガードたちがサテラ開催のお茶会の邪魔をさせないようにと、彼らを必死に追い払っていた。

 「すいませ~ん、ちょっとこの先の広場に用事があるので、そこを通して下さ~い!!」

 中庭には色んな国籍の沢山の人々がいて、日本語が通じるような雰囲気では無かったので、取り敢えず美羽が野次馬たちに流ちょうな英語で呼びかけていた。
 世界で一番多く使われている言語と呼ばれているだけあって、美羽の英語を理解した人々が沢山いたようで、多くの人たちが快く道を開けてくれる。
 英語が話せない遥には、美羽が何を叫んでいるのか全然理解出来ていないのだが。

 「遥様、美羽様。お待ちしておりました。わざわざのご足労、痛み入ります。」
 「さあ、姫様がお待ちになっておられます。お2人共、どうぞこちらへ。」

 そんな遥と美羽を、数人のロイヤルガードたちが穏やかな笑顔で出迎えた。
 礼儀正しく敬礼をし、凛とした態度で2人をサテラとエスとファーネの元へと案内する。

 「・・・え~と、フランス語かしら?遥、この人たちが何を言ってるのか分かる?」
 「姫様が待ってるから、早くこっちへ来てくれだってさ。」
 「そう言えばベルギーではオランダ語だけじゃなくて、一部の地域ではフランス語も使われてるんだっけ。」

 ベルギーでは地理的に、フランスとオランダに挟まれているという位置関係にあるからなのか、オランダ語だけでなくフランス語を話す者も多いのだ。
 遥が警備員の仕事でやっているのと同じように、ロイヤルガードたちが遥と美羽を身体を張って守りながら、2人をサテラとエストファーネの元へと導いていく。
 普段は『守る』側なだけに、今こうして自分が逆に『守られる』立場になった事を、遥はとても新鮮に感じていた。 

 まさかの遥と美羽の登場に記者たちも大騒ぎし、記事のネタにしようと一斉にカメラのフラッシュを浴びせる。
 ロイヤルガードたちが必死に記者たちを追い返そうとするが、それでも世界選手権大会のメダリストがベルギーの皇族と邂逅するという、これ以上無い程の最高の記事のネタを逃がすまいと、記者たちも一歩も引こうとせずに押し問答を繰り広げている。
 その異様な光景に、遥も美羽も戸惑いを隠せずにいた。

 記者たちに一斉に日本語や英語、フランス語で質問されながら、遥と美羽はロイヤルガードたちに守られて、ようやくサテラとエストファーネの元へと辿り着いた。
 円卓のテーブルの上には、サテラが作ったクッキーと紅茶が用意されている。
 2人の姿を確認したエストファーネがぶんかぶんかと右手を大きく振り、サテラが立ち上がって穏やかな笑顔で、礼儀正しく一礼をした。

 「お待ちしておりました。遥、美羽。恐れ多くもベルギーで皇女を務めさせて頂いています、サテラ・スターライトと申します。以後お見知りおきを。」
 「・・・貴方も日本語を・・・!?」

 エストファーネに続いてサテラまで日本語を完璧に話せる事に、驚きを隠せない美羽。
 そんな美羽を見つめるサテラは、とても澄んだ瞳をしていた。
 そのエメラルドのような翠色の瞳に、思わず美羽は吸い込まれそうになってしまう。

 「はい。日本はアメリカに並ぶ、世界でも類を見ない程の経済大国・・・我らベルギーの発展と未来の為に、いずれ友好関係を結んでおきたいと思いまして。それで日本語を話せるエストに頼んで教えて貰ったのですよ。」
 「それで日本語を・・・しかし凄いのね。そこまで流ちょうに話せるなんて。」
 「こんな所で立ち話は何ですので、どうぞ席にお座り下さい。」
 「え、ええ・・・」

 サテラに促されて、遥と美羽は席に座る。
 円卓のテーブルを介して、お互いに対角線を結ぶ形で向かい合う4人。
 サテラがお茶会をする為のテーブルとして円卓を選んだのは、お互いに均等に並び合い、対等の立場で話が出来るからだ。
 そんな4人を守る為に、ロイヤルガードたちが4人を取り囲むように警備体制に入っていた。
 サテラがティーカップに紅茶を注ぐと、ダージリンの優しくて香ばしい香りが周囲を包み込む。

 「この紅茶もクッキーも、ぜ~んぶ姫様の手作りなんだよ~♪」
 「皇族の皇女が、わざわざクッキーを自分で焼いたというのか・・・」
 「料理は私の趣味ですから。普段は屋敷のシェフが作ってくれるのですが、たまに自分で作る事もあるんですよ?」
 「ああ、それ分かる。私も普段はお母さんが料理を作ってくれるんだけど、たまに自分で作りたくなる時があるのよね~。」

 とても和やかな笑顔で、楽しく会話をする4人。
 遥がティーカップに注がれた紅茶を一口含むと、とても香ばしいダージリンの香りが、ふわっ・・・と口の中に広がった。
 これはもう、缶やペッドボトルで売られている紅茶飲料などとは比べ物にならない。
 紅茶にしてもコーヒーにしても、味を活かすも殺すも淹れ方次第・・・以前そう渚が語っていたのを、遥は今になって思い出していた。

 「・・・美味い。」
 「遥の口に合ったようで何よりです。やっぱり私は紅茶を淹れる天才ですね。ふふふっ。」

 とても優雅に、サテラは自分が淹れた紅茶を口に含む。 
 その紅茶の味と香りは、サテラが満足するに値する代物だった。

 「うん、美味しい。」

 そのサテラの一挙一動に、記者たちが一斉にカメラのフラッシュを浴びせる。
 4人で静かに穏やかに、美しい星空を眺めながら会話をしたかったから、人気の少ない中庭を選んだというのに・・・あの男たちが起こした騒ぎのせいで台無しだ。それを思ったサテラが深く溜め息をつく。
 人気の少ない中庭だからこそ、誘拐犯たちが作戦行動を実行に移そうとした・・・サテラの思惑が逆に裏目に出た結果になってしまったのだ。

 「円卓はいいですよね。お互い対等の立場で話が出来ますから。」
 「なあ、それはいいんだが、一体この騒ぎは何なんだ?私と美羽がここに来るまでに、一体ここで何があったんだ?」
 「ええ、つい先程の話なのですが、私を誘拐して身代金を取ろうなどという愚劣な男たちが、いきなり襲い掛かって来たもので・・・」
 「誘拐って・・・」
 「それで、その騒ぎを聞き付けた皆さんがこうして集まって来たのですよ・・・はぁ、困った物ですよね。」

 本当に困った物だ。これでは落ち着いて話をする事も出来やしない。
 おまけにICレコーダーを必死に自分たちに向けて、会話の内容を拾おうと躍起になっている記者たちも沢山いる。
 今回、自分が遥と美羽を呼び出した用件・・・そして4人の会話の内容を、記者たちに知られてニュースや記事にされてしまう事を好ましく思わないサテラは、仕方が無いので『記者たちを隔離する』事にした。

 「・・・仕方がありませんね。折角足を運んで頂いたばかりで恐縮なのですが・・・場所を変えましょうか。」
 「場所を変えるって、一体どこに行くつもりなんだ?」
 「・・・ファンタズ・マゴリア。」

 次の瞬間、4人は無数の星々に包まれた幻想空間に飛ばされた。
 いきなりの出来事に、遥も美羽も驚きを隠せない。
 先程まで自分たちの周囲にいたロイヤルガードたちも記者たちも野次馬たちも、いつの間にか誰もいなくなってしまっている。
 今この場にいるのは遥と美羽、サテラとエストファーネの4人だけだ。

 「な・・・これは・・・一体どういうつもりなんだ!?」
 「これなら、4人で落ち着いて話が出来るでしょう?当初の予定では、ここまでするつもりは無かったのですけどね。」

 サテラは優雅な態度を崩さず、穏やかな笑顔で遥と美羽を見据えていた。
 その澄んだ翠色の瞳が、遥と美羽を捉えて離さない。

 「さて・・・邪魔者もいなくなりましたし、お茶会の続きをしましょうか。」

2.星空の下での邂逅


 サテラがその身にとてつもない力を宿しているであろう事は、遥も美羽も何となく気付いていた。
 だが、まさか周囲を幻想空間へと変えてしまう程までの、凄まじい力を有していたとは・・・遥も美羽も驚きを隠せずにいた。
 周囲には誰もおらず、まさしくサテラによって『隔離』され、今この場には遥たち4人しかいない。

 (・・・2人共、そんなに警戒しないで下さいますか?別に私やエストに敵意は感じないでしょう?)

 周囲を優しく包み込む、美しくも壮大な無数の星々。そして遥と美羽の頭の中に直接響く、サテラの優しく澄んだ声。言葉を交わすのではなく、想いを繋げる事で交わされる会話。
 これらは全て、遥が《剣》を《ファルシオン》へと進化させた時と全く同じ光景だ。

 (サテラ・・・お前は《ファルシオン》と同じ力を・・・!!)
 (これが私の秘術・ファンタズ・マゴリアです。私が望む者たちだけを、私が創り出した幻想空間へと導く・・・例え何者であろうと、この世界に干渉する事は出来ません。)
 (こんな真似をしてまで、一体私と美羽に何の話があるというんだ!?)
 (そうですね。ではそろそろ本題に入らせて頂きましょうか。)

 厳しい表情を見せる遥と美羽の前で、サテラは変わらず紅茶を優雅に飲んでおり、エストファーネもバリボリと美味しそうにクッキーを食べていた。
 確かにサテラの言う通り、サテラにもエストファーネにも敵意は感じられない。遥と美羽をどうこうしようというつもりでは無さそうだ。
 だがそれでも、ここまで大掛かりな術を使ってまで、自分たちを周囲から隔離するような真似をされては、遥も美羽も警戒せずにはいられなかった。

 (2人共、まずはこのような真似をして驚かせてしまった事を先に詫びさせて頂きますね。私が今から遥と美羽に話す事を、記者の皆さんに記事にされる事だけは避けたかった物ですから。)
 (それは・・・私と美羽の身に流れる特別な血に関する事か?)
 (察しが早くて助かりますよ。遥。私の占星術についてはエストから聞かされましたか?)
 (ああ。その占星術で私と美羽の事を知ったらしいな?)

 遥もサテラも、互いに言葉を交わしていない。想いを繋げる事で会話をしていた。
 これなら言葉の齟齬(そご)による誤解が無くなる。互いの考えが正確に相手に伝わる。
 サテラがファンタズ・マゴリアを使ってまで周囲の者たちを隔離したのは、それも理由の1つでもあるのだ。
 遥と美羽に、自分の想いを誤解されたくなかったから。

 (エストから聞いていると思いますが、私は星の力を司りし者・・・私たちスターライト一族は先祖代々より、星詠みによる未来予知の力に長けた血筋なのですが、私はその中でも例を見ない程の強大な力を有して、この世に生を受けました。)
 (姫様の占星術は凄いんだよ。王妃の占いの的中率は50%ちょいなんだけど、姫様の的中率は90%を超えてるんだから。)
 (ですが、私が遥と美羽の特別な血の事について知ったのは、本当にただの偶然でした。)

 遥も美羽も紅茶を飲みながら、じっ・・・とサテラの言葉に耳を傾けている。
 この紅茶やクッキーに、毒や薬の類は入っていない・・・想いを繋げて会話をしているからこそ分かる事だし、何よりもサテラの穏やかな表情、綺麗な澄んだ瞳を見れば一目瞭然だ。
 どれだけ演技が上手だろうと邪な事を考えている者は、どうしても微妙に態度や表情に出てしまう物なのだ。遥も美羽もそれを見逃すような真似は絶対にしない。
 遥も美羽も警備員と鬼切り役という職業柄、そういった者たちを何人も見てきたのだから。

 (先日、エストが今回の世界選手権大会の代表候補に選ばれた際に、これまでのフルーレ部門ではなくエペ部門に出てみたくなったと私に持ちかけて来ました。)
 (美羽にも以前話したけど、エペやサーブルにも挑戦してみたくなっちゃったんだよね。)
 (それで私は興味本位で、インターネットでエペ部門の出場選手登録者の名簿を見てみたのですが・・・そこで美羽の存在に目を奪われたのです。フェンシング後進国と呼ばれている日本の選手でありながら、世界で多大な実績を残している・・・一体何者なのかと興味が沸きましてね。)
 (で、姫様は面白半分で、占星術で占ってみたんだよ。美羽にはどんだけ凄い力が宿ってるのか、どんだけ強大な星の加護の下で生まれてきたのかって事をね。)
 (それで私は知ったのです。美羽がどのような生まれ方をしたのか・・・そしてその身に宿す『贄の血』の事を。)

 サテラの言葉で、美羽がとても厳しい表情になる。
 普段は自分の正体を周囲に悟られないように気を遣っているというのに、まさか占いという手段で丸裸にされてしまうとは。
 さすがの美羽も想定外だったし、これでは隠そうにも隠しようが無い。

 (そして私はサーブル部門に出場選手登録されている遥にも注目し、同様に占星術で占ってみたのですが、遥もまた太陽神天照の子孫である事、そしてその身に『神の血』を宿している事を知りました。)
 (美羽の事がきっかけで、私にも興味が沸いて占ってみたという事か・・・。)
 (そうです。ですが私は遥の事を占星術で占った際に、遥との深い繋がりに縛られている強大な邪神の存在も予知したのです。)

 サテラは胸元のポケットから1枚の紙を取り出し、それをテーブルの上に置いて遥と美羽に提示した。
 そこに書かれていたのはサテラが占星術で導き出した、遥と邪神とやらの繋がり。
 魔方陣の中心に位置する、アルファベットで「haruka」と書かれている小さな点、そして遥と美羽から見た上側に3つの小さな点。その内の2つの点に線が引かれて遥の点と結ばれており、そしてオランダ語で書かれた専門用語や図形がズラリと並んでいる。
 占星術なんて遥と美羽にはさっぱり分からないが、これが遥と邪神の繋がりを現しているという事は、何となくだが理解は出来た。

 (今、日本の脅威となろうとしている3つの大きな邪神・・・その内の2つに、遥への凄まじい憎悪を感じます。)
 (いきなり邪神に恨まれているとか言われてもな・・・心当たりが全然無いんだが・・・)
 (そうですね。ですがこれが私の占星術で導き出した結果なのです。)
 (それで・・・こんな物を見せ付けて、一体私と美羽にどうしろというんだ?) 

 遥の質問に、サテラは真剣な表情で、威風堂々とはっきりと告げた。

 (単刀直入に言います・・・遥と美羽を、このまま日本に返す訳にはいきません。)
 (な・・・!?)

 いきなりのサテラの言葉に、遥も美羽も驚きを隠せない。
 その綺麗で澄んだ翠色の瞳で、サテラは遥と美羽をじっ・・・と見据えている。

 (先程も言いましたが、この2つの巨大な邪神は、遥に対して強い繋がりを有しています。そしてそれ故に遥が日本に戻れば、この2つの力に狙われる危険性が高い・・・それはつまり遥の『神の血』が取り込まれ、邪神がさらに力を増す恐れもあるという事です。)
 (だから私と美羽を返す訳にはいかないと・・・そういう事なのか・・・!?)
 (そうです。そしてそれは美羽とて同じ事・・・貴方の『贄の血』が邪神に取り込まれれば、最悪の事態になりかねません。だからほとぼりが冷めるまでの間、私はベルギーの皇女としての権限でもって、遥と美羽を保護しようと思います。)

 『贄の血』は資格に関係なく、問答無用で人ならざる者たちの力を増幅させてしまう。
 『神の血』は取り込むのに資格がいるが、宿している力は『贄の血』以上に強大だ。
 サテラが最悪の事態を想定し、遥と美羽を保護したいと考えるのは、皇女として当然の事なのだろう。それは遥も美羽も理解はしていた。
 その邪神とやらの力が増幅し、世界レベルにまで影響を及ぼすような存在にしてしまうような事態になる事だけは、国や国民を守る者として何としてでも避けなければならないのだから。
 だから2人共サテラの言っている事が理不尽な物だとは、少しも思っていなかった。

 だが、それでも。
 遥も美羽も、はいそうですかと素直に従うつもりは微塵も無かった。
 自分たちが留守にしている間に、そのような強大な邪神とやらが日本の脅威となろうとしている・・・だからこそ自分たちが戻らなければならないのだ。
 自分たちの大切な人たちを、この手で守る為に。

 (サテラ。貴方の言いたい事は私にも分かるわ。だけど私は鬼切り部相馬党の鬼切り役よ。鬼の脅威から力無き人々を守る事・・・それが私の仕事なのよ。)
 (よく分からんが全ての元凶は私なのだろう?ならば私が招いた種は私自身の手で刈り取るまでの事だ。)
 (私はもう二度と、大切な人たちを目の前で誰も死なせたくは無い・・・あんな辛い思いをするのはもう沢山なのよ。)
 (それにお前の言い分は、私と美羽さえ保護出来れば他はどうでもいいとも取れるしな。それはお前の本意では無いのだろうが、私とて青城女子大学を守る警備員として、邪神とやらを見逃すわけにはいかないんだ。)
 (だから・・・帰して貰うわよ。皆が待っている日本に。)

 遥も美羽も、その瞳に一片の迷いも無い。
 言葉を交わすのではなく、想いを繋ぐ事で会話をしているからこそ、サテラも2人の偽りの無い想いと決意を存分に感じ取っていた。
 大切な人たちを守りたい・・・2人の信念は、何があろうとも決して揺らぐ事は無いのだろう。
 まして2人共、目の前で大切な人たちを失った経験があるのだから、尚更だ。
 だからこそ、サテラは試さなければならない。
 遥と美羽が、邪神に立ち向かえるだけの力を有しているのかどうかを。

 (・・・嫌だと言ったら、どうしますか?)
 (力尽くでも帰して貰うまでだ。)
 (ならば試させて頂きます。2人の力を。2人の想いを。)

 サテラから放たれる、凄まじいまでの魔力。
 それを感じ取った遥と美羽はとっさに立ち上がり、サテラとエストファーネから間合いを離した。
 美羽は皇牙とデスペラードを召喚し、デスペラードを遥に手渡す。

 (やれやれ、まさかこんな事になるとはな。)
 (泣き言を言っても始まらないわよ。私たちの力を見せろって言ってるんだから・・・)
 (ああ、見せ付けてやるまでだ。)

 デスペラードと皇牙を構え、遥と美羽はサテラとエストファーネを見据える。
 そしてサテラとエストファーネが立ち上がると、テーブルと椅子が消えて無くなってしまった。
 どういう原理なのかはよく分からないが、とにかくこれで障害物が無くなったので存分に戦える。

 (さあ、私とエストに見せて御覧なさい。2人の全身全霊の力を。その全てを・・・!!)

3.譲れない想い


 当初の予定ではサテラのスケジュールの都合上から、本来はエストファーネだけに遥と美羽の説得を任せるはずだった。
 だからエストファーネもサテラが自らイタリアまで出向いた際に、驚きの表情を見せていたのだ。
 エストファーネとサテラの『ベルギーでもテレビで生中継されている云々』の会話は、記者たちに自分たちの目的を悟らせない為のフェイク・・・というかサテラがエストファーネの試合を生で観たくなったというのは本当なのだが、そのついでにサテラはスケジュールを前倒ししてまで、エストファーネを手伝う事にしたのだ。

 やはりエストファーネ1人では荷が重過ぎると思ったし、何よりも邪神から保護するという理不尽な理由で遥と美羽をベルギーまで連れて行く以上、皇族として遥と美羽に最大限の敬意を見せなければならない・・・そうサテラは思ったから。 

 サテラの右手から神々しい光が放たれた瞬間、そこから現れたのは一本の剣と弓。
 どうやら普段の彼女は美羽と同じ手段で、自らの武器を異空間へと隠しているようだ。
 エストファーネはサテラから剣を受け取り、サテラは左手に光の矢を生み出し、矢尻を引いて美羽に狙いを定める。

 (おい美羽。姫様はお前をご指名のようだぞ。)
 (じゃあエストは貴方に任せたわよ。遥。)
 (ああ、任せろ!!)

 デスペラードを手に、遥はエストファーネに斬りかかる。
 エストファーネもまた、とっても嬉しそうな表情で遥を迎え撃った。
 2人の剣が何度もぶつかり合い、2人の周囲に無数の糸状の閃光が走る。

 (こんな形で遥と戦いたくは無かったけど・・・まあ仕方が無いよね。)
 (その割には随分と嬉しそうだな、エスト・・・!!)
 (ほらほら、日本の格闘ゲームのキャッチコピーにもあるじゃん。『俺より強い奴に会いに行く』って奴。今の私の心境はまさにそんな感じ。)

 ひょうひょうとした態度で、エストファーネはミラージュステップで遥の斬撃を避ける。
 まるで掴み所の無い性格・・・本当に汀のベルギー人バージョンと戦っているような錯覚を遥は感じていた。

 (明鏡止水か・・・!!だが、しかし!!)

 それでも遥は戸惑う事無く、エストファーネの動きに食らいついていく。
 そして美羽とサテラもまた、壮絶な死闘を繰り広げていた。

 (美羽!!この世界の事を真に憂うのならば、私と共に来なさい!!)
 (お断りよ!!)
 (貴方の『贄の血』を、邪神に奪われる訳には行かないのです!!)
 (それでも私は戦うわ!!私の大切な人たちを守る為に!!)

 サテラが放った矢が、凄まじい速度で美羽に襲い掛かる。
 それを何とか皇牙で弾き続ける美羽だが、あまりの速度故に弾くので精一杯という感じだ。
 それにサテラは矢を放ってから次の矢を構えるまでの時間が、あまりにも短い。
 サテラが放つ矢は、彼女自身の魔力で生み出している光の矢・・・矢筒から矢を抜き出す時間を省略している上に、彼女自身が相当な弓術の使い手で動きに全く無駄が無いのだ。
 何よりも物理的な矢では無いので、事実上弾切れが発生しないのは厄介だ。

 (どれだけ弓の腕が凄かろうとも、懐に潜りさえすれば・・・!!)

 次々と放たれる矢を皇牙で弾きながら、美羽は一瞬の隙を突いて何とかサテラとの間合いを詰めたのだが、それで倒せる程サテラは甘くは無い。

 (舞いなさい!!シューティング・スター!!)
 (な・・・!?)

 サテラの周囲に現れた無数の星々が、一斉に美羽に襲い掛かった。
 まさに月光蝶の星バージョン・・・全方位からのオールレンジ攻撃を、美羽は明鏡止水で辛うじて避け続ける。
 そしてサテラから間合いを離す羽目になってしまった美羽に、再びサテラの矢が襲い掛かった。 

 (くそっ・・・!!)

 それを皇牙で弾く美羽だが、弾いた時には既にサテラは矢の発射体勢に入っている。
 距離を離せば超高速の矢が飛んできて、苦労して距離を詰めても無数の星々によるオールレンジ攻撃が待ち受ける。サテラには全く隙が無かった。
 基本的に弓術士は一対一の戦いは苦手だと言われているが、弓と魔術を組み合わせたサテラの戦いぶりは、そんな一般論を全く感じさせない代物だ。
 弓と魔術の融合・・・互いの弱点を補い合い、美羽を相手に互角以上の戦いを繰り広げている。

 (こうなったら、鏡花水月で矢を跳ね返して・・・っ!?)
 (そうはさせませんよ、美羽!!)

 次の瞬間、サテラの身体から白銀の光が放たれ、背中から光の翼が生えた。
 その美しくも神々しい姿は、まさに天使・・・美羽は驚愕の表情を見せる。

 (まさか、貴方自身もその身に特別な血を・・・!?)
 (テンペスト・アロー!!)
 (・・・っ!?)

 サテラが上空に矢を放つと、その矢が空中で無数に分解し、まさしく光の雨と化して一斉に美羽に襲い掛かった。
 一発一発の威力は低いが、これでは鏡花水月で攻撃を跳ね返しようがない。
 美羽の鏡花水月は技の性質上、正面からの攻撃しか跳ね返す事が出来ないのだ。
 無数に降り注ぐ光の矢を必死に避け続ける美羽だったが、サテラはもう次の矢の発射体勢に入っていた。
 放たれた矢を辛うじて皇牙で受け止める美羽だが、それでもあまりの威力に吹っ飛ばされてしまう。

 (くそっ・・・!!)

 何とか体勢を立て直す美羽だが、サテラはもう次の矢の発射体勢に入っていた。
 そしてサテラの周囲を華麗に舞う、無数の美しい星々。

 (強い・・・!!これがベルギーの皇族の力・・・!!だけど!!)

 それでも美羽は諦めない。美羽の全身が蒼白に輝き、背中から蝶の羽根が生える。
 その美しくも神々しい姿は、まさに蝶の化身だ。

 (私とて貴方を傷つける事は本意ではありませんが、私にも国の為、国民の為、成さねばならない使命があるのです!!)
 (譲れない想いは私にもあるのよ!!)

 サテラが放った矢を、辛うじて皇牙で弾く美羽。
 だがサテラは目にも止まらぬ速さで、もう次の矢の発射体勢に入っていた。
 そして美羽が体勢を立て直す暇も与えず、無数の星々が美羽の周囲を包み込む。
 その星々が美羽の周囲で、赤色の光を放ちながら巨大化していく。
 それはまさに、寿命を迎えた星が最期に見せる姿そのものだ。 

 (おうし座のかに星雲を知っていますか?一定以上の質量を持つ星が寿命を迎える時、その星は凄まじい光を放ちながら大爆発を起こします。かに星雲はその名残で、かつて昼間でも見えた程の凄まじい光を放っていたそうですよ。)
 (超新星爆発・・・!!)
 (凛々と輝く明星の如き一撃・・・ブレイブ・ヴェスペリア!!)

 サテラが放った矢が、赤色巨星と化した星の1つに直撃し、大爆発を起こす。
 そしてその爆発が引き金となり、美羽の周囲の星々も次々と爆発した。
 その凄まじい爆発が、情け容赦なく美羽を飲み込む。
 これでは明鏡止水でも避けようが無いし、全方位から爆発されたら鏡花水月でも跳ね返しようが無い。
 勝った・・・サテラがそう思った、次の瞬間。

 (・・・私の知り合いに、柚明っていう術者がいるんだけど・・・)
 (な・・・!?)
 (彼女の技を、私の鏡花水月にも応用させて貰ったわ。)

 爆発の際の砂煙が吹き飛ばされ、そこから姿を現したのは・・・周囲に無数の障壁を展開している、威風堂々とサテラを見据える美羽の姿だった。
 その光景は、まさしく美羽を包み込む旋風(つむじ)の如く。
 障壁の1つ1つがサテラの攻撃の威力を限界まで吸収しており、今にも爆発しそうなまでに膨れ上がっている。

 美羽は鏡花水月を分割して周囲に展開する事で、正面からの攻撃しか跳ね返せないという鏡花水月の弱点を克服したのだ。
 分割したが故に、1つ1つの障壁が跳ね返せる攻撃の威力は通常の鏡花水月に劣るものの、それでも正直かなりギリギリではあったが、サテラのブレイブ・ヴェスペリアの威力を何とか全て吸収する事が出来たようだ。

 (最も、この技を編み出したのは、ほんの一週間前なんだけどね・・・!!)
 (ば・・・馬鹿な・・・!?)
 (・・・鏡花水月・旋風!!)

 美羽の周囲の障壁から、無数の蒼白の刃が一斉に放たれる。
 それに美羽の神切りが加わり、防御も回避も不可能な光の刃が、一斉にサテラに襲い掛かった。
 直撃を受けて、サテラは派手に吹っ飛ばされる。

 (きゃああああああああああああああっ!!)
 (姫様ぁっ!!)

 サテラと同様に全身から白銀の光を放ち、遥を追い詰めていたエストファーネだったが、サテラの敗北を目の当たりにして動揺を隠せない。
 その一瞬の隙を見逃す程、遥は馬鹿では無かった。
 遥の全身から、金色の神々しい光が放たれる。  
 その美しくも神々しい姿は、まさに神の化身だ。

 (余所見をしている場合かぁっ!!エストぉっ!!)
 (な・・・!?)
 (うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!)

 金色に輝く遥のデスペラードが、情け容赦なくエストファーネに襲い掛かる。
 サテラの敗北に動揺したエストファーネは、反応が一瞬遅れてしまった。
 そして遥のような神速の剣の使い手が相手だと、その一瞬さえも命取りになる。
 エストファーネはミラージュ・ステップで遥の斬撃を避けようとするが、既に遥はエストファーネを間合いに捉えていた。
 デスペラードでエストファーネを殺してしまわないように、しかしそれでも容赦のない渾身の一撃を、遥はエストファーネに放つ。

 (秘剣・神切りぃっ!!)
 (ぶぎゃああああああああああああああああっ!!)

 エストファーネもまた、遥の一撃をまともに食らって吹っ飛ばされた。
 そしてとても苦しそうに、地面に倒れてうずくまるエストファーネ。

 (はぁっ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・!!)
 (くっ・・・手ごわい相手だったわ・・・!!)

 遥と美羽もまた全身全霊の力を出し切り、とても辛そうに息を切らしながら、その場にしゃがみ込んだのだった。