アカイイト&アオイシロ 短編小説集

第3話「動き出した運命」(遥視点・後半)

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akaaonobel

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シロイユキ・第3話

「動き出した運命」(遥視点・後半)


4.己の運命を、己の意思で


 遥と美羽がエストファーネとサテラを倒した、次の瞬間・・・いつの間にか4人は元の世界に戻っていた。
 いつの間にか4人共、先程と同じように中庭の円卓でのんびりとくつろいでおり、サテラも何事も無かったかのように優雅に紅茶を飲んでおり、エストファーネもバリボリとクッキーを食べている。
 記者たちも何事も無かったかのように、4人のお茶会の光景を必死にカメラに収めており、そんな記者たちをロイヤルガードたちが必死に追い払おうとしていた。

 そして遥と美羽の手元にあったのはデスペラードと皇牙ではなく、紅茶が注がれたティーカップ。
 いつの間にか皇牙もデスペラードも、美羽の異空間の中に収納されていた。
 それどころか先程の戦いの疲労やダメージさえも、今の4人には全く残っていなかった。
 そう・・・まるで先程の戦いが、無かった事にされているかのように。

 「な・・・これは・・・一体何がどうなっているんだ・・・!?」
 (・・・己の力で己の運命を切り開く・・・それが貴方たちなのですね。遥、美羽。)
 「・・・っ!?」

 とても穏やかな笑顔で、じっ・・・と遥と美羽を見つめるサテラ。

 (今は3人の心の中に直接語りかけています。記者の皆さんに会話の内容を、記事にされる訳にはいきませんから。)
 (サテラ・・・お前は私と美羽に一体何をしたんだ・・・!?)
 (先程行われた戦いは、全て私たちの夢の中での出来事です。私たちは先程まで夢の中で戦っていたのですよ。)

 先程サテラを襲った男たちはファンタズ・マゴリアの中で拳銃を破壊され、それが元の世界でも現実になっていた。
 どうやらサテラが望みさえすれば、夢の世界での出来事を現実の世界でも反映させる事が出来るようだ。
 遥が時計を見てみると、時刻は午後10時3分。
 試しに紅茶を飲んでみたら、全然冷めていなかった。
 あの世界での出来事は、この世界においては一瞬の出来事でしか無かったのだ。

 だから記者たちも野次馬たちも、遥たちが先程まで壮絶な戦いを繰り広げていた事を全く知らない。ただ静かに紅茶を飲んでいると認識しているだけだ。
 一体何が起こったのか・・・それを知るのは遥たちとロイヤルガードたちだけなのだ。 

 (素直に認めましょう。私たちの完敗です。2人の力と想い・・・確かに見せて頂きました。)
 (サテラ、貴方の言いたい事は分かるけど、だけど私も遥も・・・)
 (戦いに敗れた私やエストに、今更貴方たちを止める権限などありません。それに貴方たちなら、もしかしたら邪神にも打ち勝てるかもしれない・・・私やエストを倒した貴方たちなら。)
 (御免なさい・・・私は本当は貴方を傷つけたくは無かったんだけど・・・貴方は手加減出来るような生易しい相手じゃなかった。)
 (気になさらないで下さい。先程の戦いは全て『無かった事』にしましたし・・・それに元々戦いを仕掛けたのは私たちの方なのですから。)

 美しい星空の下で、とても穏やかに紅茶を飲む4人。
 彼女たちの頭の中だけで繰り広げられている会話を、周囲にいる誰もが認識出来ていない。
 先程まで壮絶な戦いを繰り広げていた4人の姿は、そこには無かった。
 いや・・・その戦い自体もサテラによって、全て『無かった事』にされたのだ。

 「・・・そう言えばエスト。前から気になっていたんだが・・・お前は何でそこまで日本語がペラペラなんだ?」

 不意に、遥が何気ない日常会話を、突然エストファーネに持ちかけてきた。
 いつまでも頭の中だけで会話をして黙っているだけだと、周囲の記者たちに不審がられると思ったのだろうか。

 「遥がフランス語を話せるのと同じだよ。私は小学生の頃に父親の仕事の都合で、日本に住んでた事があるからさ。」
 「成る程、それでか・・・」
 「ベルギーの料理も美味しいけど、日本の料理も独特の趣があって好きなんだよね~。特に寿司と蕎麦が一番のお気に入りでさ~。」
 「外国人は生の魚を食べる習慣が無いと聞いた事があるんだけどな。」
 「確かに昔はね。だけど今ではベルギーにも寿司屋がある位なんだよ。」

 遥たちに必死にICレコーダーを向けて、その何気ない会話を何とか拾おうとする記者たち。
 ロイヤルガードたちが必死に抑えているものの、世界上位ランカーたちとベルギーの皇女のお茶会という格好の記事のネタなだけに、記者たちも写真や音声を拾おうと必死だ。
 美しい星空の下で、のんびりとしたお茶会にしたかったのに・・・これも全て誘拐犯が騒ぎを起こしたせいだと、サテラは深く溜め息をついた。
 4人の周囲で、記者たちとロイヤルガードたちの押し問答や怒鳴り合いが繰り広げられ、凄まじいまでの喧騒に包まれている。

 「2人共、機会があったらベルギーに遊びにおいでよ。その時は色々と案内してあげるからさ。」
 「まあ機会があればな。そんなに簡単には来れないと思うが・・・」
 「私は美羽だけじゃなくて、遥とも是非戦ってみたくなったしね。」

 先程の『戦い』などではなく、フェンシングのルールで。
 その時は世界ランク1位の座にかけて、今度こそ負けないと・・・エストファーネはリベンジに燃えていた。 

 「良かったらメアド交換しようよ。これが私の携帯のメアドで、こっちがパソコンのメアドね。」
 「ツイッターのアカウントは持っているか?」
 「持ってる持ってる~♪」
 「じゃあ早速フォローしてやるよ。」
 「・・・うわっ、20万人にフォローされてるとか・・・さすがに有名人は違うね~。」
 「喜べ。お前が記念すべき20万人目だ。ついさっきまで199999人だったからな。」
 「なんか明日はいい事がありそうな気がする♪」

 互いに携帯電話をいじくり回す3人は、とても穏やかな笑顔をしている。
 その遥と美羽の笑顔を見て、サテラは複雑な表情になった。
 遥も美羽も、日本に戻れば壮絶な戦いが待ち受けている事だろう。
 自分が占星術で存在を予知した邪神・・・正確な日時までは分からなかったが、それでも近い内に姿を現し、遥に対して凄まじい憎悪を浴びせるであろう事は分かっているのだ。
 それが3日後なのか、1週間後なのか、あるいは1ヶ月後なのかまでは分からない・・・それでも自分の占星術が90%という驚異的な的中率を誇る事は、サテラも自覚はしているのだから。

 だが美羽に敗れたサテラに、今更遥と美羽を引き留める権利など無い。
 お互いに正々堂々と戦い、全ての力と想いをぶつけ合った上で敗れたのだから。
 だから今のサテラに出来る事は、遥と美羽の無事を祈る事だけだ。

 (遥、美羽・・・せめて今この時だけは、貴方たちに安らかな一時を・・・)

 とても穏やかな瞳で、サテラはエストファーネと談笑する遥と美羽を見つめていたのだった。

5.帰国


 そして、遥と美羽が日本に戻る時がやってきた。
 現在の時刻は午後1時・・・これから成田への直行便に搭乗し、日本に到着するのは日本時間の翌日の午前8時頃になる予定だ。
 羽間口監督によると、日本とイタリアの8時間という膨大な時差ボケを少しでも解消する為の措置として、飛行機の中でぐっすり眠る事で『目覚めたら朝だった』という状況にする為に、午前8時に日本に到着するように飛行機の出発時刻を調整したとの事だ。 

 空港には多くの記者や野次馬たちが集まり、ちょっとした騒ぎになっている。
 そして遥たちを見送る為に、サテラとエストファーネ、そしてエミリーとフラニーも遥たちの下にやってきていた。

 「4人共わざわざ済まないな。何も見送りにまで来なくてもいいのに。」
 「いえ、気になさらないで下さい。折角こうして親交を深めたのですから、せめて見送りだけはきちんとさせて下さい。」

 とても穏やかな笑顔で、握手を交わす遥とサテラ。
 そのサテラの右手の優しくて温かい感触が、遥の心を安心させる。
 そんな2人の様子を記者たちが一斉にカメラに収め、凄まじいまでのフラッシュが空港に鳴り響いている。
 いつもいつもご苦労な事だと・・・毎度の事ながら遥は溜め息をついた。
 エストファーネ、エミリー、フラニーとも、遥と美羽は次々と握手を交わす。

 (遥、美羽・・・あれから私は2人の事を占星術で占ってみました。)

 不意に、サテラが遥と美羽の頭の中に直接語りかけてきた。
 ここから先の話の内容を、周囲の者たちに聞かれたくは無かったから。
 遥と美羽もそれを瞬時に察し、同じように心の声でサテラと会話を交わす。

 (私と美羽が邪神とやらに狙われている云々の事だな?)
 (そうです。2人が邪神に見事に打ち勝てるのかどうかを・・・ですが占いの結果は、私にも想像もつかない代物でした。)
 (一体どんな結果だったんだ?)
 (2人と邪神のどちらが勝つのか・・・全く見えて来ないのです。)

 少し戸惑いの表情を見せながらも、サテラは遥をじっ・・・と見据えている。
 その身に特別な血を宿すといっても、サテラとて人間だ。そして人間とは時としてミスを犯す生き物なのだ。
 いかに90%という驚異的な的中率を誇るとはいえ、これまでに占星術によって導き出した占いの結果が外れるなんて事は、今までに何度もあった。
 だがそれでも『占いの結果自体が見えてこない』などというのは、サテラは今までに一度も経験した事が無かったのだ。
 それがサテラの心を、少し不安にさせてしまう。
 心の中で会話をしているからこそ、遥も美羽もサテラの心境を敏感に感じ取っていた。

 (・・・占いの結果が見えないのなら、私たちの手で未来を掴み取るまでの事だ。)

 それでも遥は前向きな笑顔で、サテラに力強く返答する。
 サテラの占星術を否定するつもりは無いが、だからといってそれに惑わされるつもりは無い。
 例え周囲から何を言われようとも、自分の運命は自分の力で切り開く・・・それが遥の揺ぎ無い信念なのだから。 

 (・・・貴方たちはもしかしたら、運命を捻じ曲げる力を持っているのかもしれませんね。)
 (運命なんて物は自分の手で切り開く物だ。他人に決められるような代物じゃない。)
 (私には2人の無事を祈る事しか出来ない・・・2人の戦いに加勢出来ない事に、私は何よりも歯痒さを感じています。)
 (気にするな。お前だって公務で忙しいんだろう?私たちの事は私たちで何とかするさ。)

 占いを得意としているからこそ、サテラは何となく気付いていたのかもしれない。
 遥と美羽が本当に、運命を捻じ曲げる力を宿しているかもしれないという事を。
 遥と渚は6年前、本来なら経観塚で馬瓏琉の手にかかり、死ぬ運命にあった。
 そして美羽もまた8年前、本来なら経観塚でスミレに敗北し、死ぬ運命にあったのだ。
 それは天上界において『人の数日先の運命を見通す力』を宿したカグヤが視た、遥と渚、美羽の揺ぎ無い運命だった・・・はずだった。
 それなのに遥も渚も美羽も、今こうして充実した日々を送っている。
 自らの運命を捻じ曲げ、今こうして生きているのだ。

 そんな遥と美羽の戦いに加勢出来ない事が、サテラは何よりも歯痒く思う。
 今の自分に出来る事は、せめて祈る事だけ・・・だからこそサテラは2人の無事を、精一杯祈ろうと思う。
 自らの想いを、遥と美羽の心と身体に刻もう・・・サテラはその想いから、遥と美羽を両腕で抱き寄せ・・・そして・・・

 「遥・・・美羽・・・2人にアストライオス(ギリシャ神話の星の神様)の祝福があらん事を・・・。」

 そっ・・・と、遥と美羽のほっぺに口付けた。 
 その凄まじいスキャンダルな光景に記者たちは仰天し、記事のネタにしようと物凄い勢いでカメラのフラッシュを浴びせる。

 「ちょ、おま・・・」
 「先日、エストも言いましたが・・・機会があれば是非ベルギーに遊びに来て下さいね。その時は精一杯おもてなししますよ。」

 遥と美羽に、とても可愛らしい笑顔を見せたサテラ。
 そこへ場内アナウンスで、日本行きの飛行機のフライトの準備が整った旨の知らせが届く。
 それを聞いた日本チームの関係者たちが、慌てて飛行機への連絡バスへと向かっていった。

 「ちょっと遥、美羽。早く行かないと飛行機に乗り遅れちゃうよ!?」
 「分かった、分かったから宏美、そんなに引っ張るな。」
 「うふふ、2人共どうかお元気で・・・」
 「サテラ、エスト。それにエミリーとフラニーも元気でな。それじゃ。」

 遥たちが乗った飛行機が日本に向かって飛翔する光景を、空港の屋上から穏やかな笑顔で見つめる、サテラとエストファーネ、エミリーとフラニー。
 もうすぐ5月になろうという時期なのだが、それでもイタリアはまだ少し肌寒かった。 

 「今度の大会では、今度こそ美羽にちゃんとした形で勝たないとね。」
 「どんな形であれ、勝ちは勝ちでしょう?」 
 「それでも勝った気が全然しないんだよ~。最後はあそこまで追い詰められちゃったしさ。」
 「いずれにしても、貴方がミウに勝てたのは紛れも無く実力です。それは誇るべきだと私は思いますよ。」

 流ちょうなオランダ語で、エストファーネと会話をするエミリー。
 遥たちが乗った飛行機が、あっという間に小さな点になってしまった。
 相変わらず記者たちがサテラたちの事を記事にしようと、カメラやICレコーダーを手に待ち構えており、それをロイヤルガードたちが必死に抑え込んでいた。

 「さてと・・・エミリー。私たちもそろそろ行きましょう。」 
 「え~?もう行っちゃうの~?マルセイユ行きの飛行機は4時にフライトでしょう?」
 「チームメイトたちをロビーで待たせてるし、それに外はまだまだ肌寒いから。」
 「娘さんに風邪を引かせたら大変って奴?親馬鹿だねぇ~。」
 「親馬鹿も親の務めなのよ。それじゃ。」

 エミリーを連れて、その場を立ち去ろうとするフラニー。
 そんなフラニーの後ろ姿に、エストファーネはニヤニヤしながら呼びかけた。

 「・・・ちなみにぃ・・・私が今一番戦ってみたいのは、アンタなんだけどね。」
 「・・・・・。」
 「身体は衰えても、研ぎ澄まされたその剣気だけは衰えていないみたいだね。引退なんかしなくても、まだまだ世界で充分通用するんじゃないの?」
 「私のようなオバサンの身には、今の世界という大きな舞台はしんどいわ。それに・・・」
 「それに?」
 「今は貴方たちの世代の時代なのよ。私のようなオバサンが出る幕じゃないわ。」

 それだけ告げて、フラニーはエミリーを連れてホテルへと戻っていった。
 エストファーネは何ともつまらなさそうな表情で、2人の後ろ姿を見つめている。

 「ちぇっ、つまんないな。私の剣気を軽く受け流されちゃったよ。」
 「老兵まだまだ衰えず・・・ですね。そんな事より、私たちもホテルに戻りましょう。」
 「そうですね。ついでに折角イタリアに来たんですから、この付近を観光でもしません?」
 「ふふふっ、相変わらずエストは元気ですね。」

 エストファーネと手を繋いで、サテラもまたホテルへと戻っていく。
 そして去り際に、遥たちが乗った飛行機が飛んでいった空を見つめ・・・

 (2人共、どうかご無事で・・・また会える日を楽しみにしていますよ。)

 記者たちに追いかけられながら、静かに空港を後にしたのだった。  

6.たとえ見守る事しか出来なくても


 「遥と美羽が日本に戻るか・・・このタイミングで、この状況・・・果たして吉と出るか凶と出るか・・・」

 日本時間の夜9時・・・美しい夜空の星々に包まれている天上界において、天照がとても真剣な表情で腕組みをしながら、目の前の映像を見つめていた。
 映像に映し出されているのは、雪花の封印を破って蘇った氷の女神・セラの姿。
 どうやらこの数日の間に、セラは雪花によって奪われた力のほとんどを取り戻したようで、今の青城はセラによって叩きのめされた警察官、そして行方不明になった青城女学院の女子生徒の一件で大騒ぎになってしまっている。

 美羽のエペ部門の試合が終わった後に、スミレからセラ復活の一報を知らされた天照だったが、当初は雪花に力のほとんどを奪われた今のセラでは、大して人間たちの脅威にはならないだろうと・・・何も出来ないまま警察にでも捕まって終わりだと・・・そう思っていた。
 だがセラは偶然にも、自分と相性のいい『力』の提供者に巡り合ってしまい、失われた力のほとんどを取り戻し、天照の思惑とは裏腹に人間たちの脅威となりつつある。

 セラの性格ならきっと1200年前と同じように、近い内に人間たちに対して宣戦布告をしでかす事になるだろう。
 あの時は天照の策が功を奏してセラとの一騎打ちに持ち込む事に成功し、最小限の被害だけで済ませる事が出来たのだが、今の天照はもう死んでいるのだ。死者が現世に直接介入するなどという芸当は、例え神の力をもってしても不可能だ。

 あの時のように天照が直接人間たちを守ってやる事は、もう出来ない。
 それによって、一体どれだけ多くの犠牲者が出る事になるのか・・・どれだけ罪の無い人々が傷つき殺され、虐げられる事になるのか・・・それを思うと天照は胸が痛んだ。
 運命というのはどうして力無き人々に、こうも苦しみを味合わせ続ければ気が済むのか・・・。

 「この状況で鬼切り部はどう動くのか・・・だが烏月と朱雀が不在の今の現状で、果たしてどこまでやれるのか・・・」
 「天照ちゃん。コハクさんと汀ちゃんが、《剣》を千羽党の屋敷まで届けに来たわよ。」

 そこへ、栞が天照の下に姿を現した。
 彼女もまたセラ復活の一報をスミレから聞かされ、下界の様子をずっと見守っていたのだ。
 何の迷いも無い力強い瞳で、じっ・・・と天照を見つめている。

 「そうか。神々をも葬り去る《剣》は、まさに人間たちにとって虎の子の切り札・・・まさに神キラーとも言うべき存在だからな。これで一筋の希望が見えてきたか。」
 「ええ。後は遥ちゃんか美羽ちゃんのどちらかが、《剣》を手にしてくれれば・・・」
 「・・・意外だな。てっきり『遥ちゃんを戦いに巻き込みたくない』とか言い出すかと思ったのに。」
 「確かに天照ちゃんの言う通りよ。私の本心としては、遥ちゃんをセラとの戦いに巻き込みたく無い・・・だけど私は遥ちゃんを信じているから。これまでと同じように、自分の力で未来を切り開いてくれるって。」

 もはや遥とセラの戦いは、決して避ける事は出来ないだろう。
 1200年前に天照に敗れたセラ・・・その怨念が世代を超えて、子孫である遥に降りかかろうとしている。
 だがそれでも栞は、遥が必ずセラを倒し、渚と共に幸せの日々を掴み取ると信じていた。
 これまで死の運命を何度も打ち破り、自らの手で何度も未来を切り開いてきたのと同じように。

 今の栞には、遥と渚を見守る事しか出来ない。 
 だが例え見守る事しか出来なくても、栞は遥と渚の無事を祈る事は出来る。
 遥の剣が、その手で未来を切り開くと信じて・・・。

 「そうか・・・君は強いな。栞。」
 「今の私に出来るのは、2人を見守る事だけだから。」 
 「例え見守る事しか出来なくても、その想いは必ず遥と渚の力になるだろうさ。」
 「ええ。だから私は信じるわ。遥ちゃんと渚ちゃんが切り開く未来を・・・」

 天照が創り出した映像に映し出されているのは、飛行機の中で互いに手を繋いで安らかな眠りについている、遥と美羽、宏美の姿。
 美羽に寄り添いながら、遥と宏美が両側から美羽の手を握り締めている。
 日本に戻れば遥と美羽には、壮絶な戦いが待ち受ける事になるだろう。
 だからせめて今この時だけは、安らかな夢を観て欲しいと栞は思う。

 遥と美羽の寝顔を、神妙な表情で見つめる栞と天照。
 そんな2人をスミレが物陰から腕組みをして、気配を消してじっ・・・と見守っていたのだった。