アカイイト&アオイシロ 短編小説集

第2話「新しい家族」(雨音視点・前半)

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akaaonobel

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シロイユキ・第2話

「新しい家族」(雨音視点・前半)


1.死闘・・・雨音VS雪花


 雨音の後輩の男性警備員の話を統合すると、彼が校内を巡回している途中にいきなり雪花が小雪の前に現れ、小雪にキスをして精気を奪い、さらにそれを止めようとした他の警備員も雪花によって叩きのめされたらしい。
 さらに雪花は駆けつけてきた古木にも、問答無用で襲い掛かってきた。
 何故か桂が雪花の事を必死に庇おうとしているし、彼女の正体は確かに気になる所なのだが、それでも雨音は警備員として、このような正体不明の危険人物をこのまま放置しておくわけにはいかなかった。
 力無き人々を凶悪犯から守る・・・それが警備員としての雨音の使命なのだから。

 雪花の猛攻を必死に凌ぎ、懸命にセラフィムを振るう雨音。
 だがそれでも雨音は、雪花を相手に防戦一方だった。
 繰り出される斬撃の1つ1つが非常に重い上に速くて正確無比。さらに雨音の太刀筋も完全に見切られ、繰り出す技をことごとく防がれてしまう。
 彼女は自らの事を『天翔流星剣の正当継承者』だと語っていたが、少なくとも雨音はそのような流派の剣術など全く聞いた事が無い。

 そもそも雪花から感じられる、この温かさすら感じられる『聖なる力』は一体何なのか。
 しかも雪花の太刀筋からは、殺気や邪念のような物が全く感じられない。
 それに雪花は小雪にキスをして精気を奪ったらしいのだが、だとしたら自分の教え子が大変な事をされたというのに、何故桂が加害者である雪花を懸命に庇おうとしたのか。
 彼女は一体・・・何者なのか。

 「太刀筋に雑念が混じっていますよ。雨音さん。」
 「・・・っ!?」

 雪花の一撃を辛うじて受け止めた雨音だが、それでもあまりの威力に吹っ飛ばされてしまう。
 何とか体勢を立て直した雨音だったが、雪花を相手に勝機を見出せずにいた。
 対照的に雪花は雨音を相手に、息1つ乱していない。
 それは雪花と雨音の間に存在する、ごまかしようのない実力差の表れだ。

 「くっ・・・貴方は一体・・・!?」
 「さすがに粘りますね。剣術だけでは貴方を崩し切れませんか。」
 「・・・っ!?」

 雨音を手強い相手だと判断した雪花は、長期戦になる前に一気に勝負を決める事にした。
 雪花の周囲に現れる、無数の氷の刃。
 それを見た雨音は、とても厳しい表情になる。

 「氷のアーゼまで・・・!?しかもこんなに沢山・・・!?」
 「このまま一気に押し切ります・・・!!舞いなさい!!氷のアーゼたちよ!!」

 雪花が召喚した無数の氷のアーゼが、一斉に雨音に襲い掛かった。
 全方位から襲い掛かる無数の氷のアーゼによる、オールレンジ攻撃・・・だが雨音はまるで背中にも目が付いているかの如く、次々とセラフィムで叩き落していく。
 柚明の聖なる力が込められたセラフィムによって、次々と粉々になっていく氷のアーゼ。
 それでも数があまりにも多く、雨音は次第に追い詰められていった。

 やがて雨音が捌き切れなかった氷のアーゼが、背中から猛スピードで雨音に迫る。
 勝った・・・雪花がそう思った次の瞬間。

 「・・・汐音ちゃん!!」
 (任せろ!!)

 雨音のベルトに装着された8つのリフレクビットが盾となり、死角から襲い掛かる無数の氷のアーゼから雨音を守った。
 リフレクビットに突撃して自爆する形になった氷のアーゼたちが、次々と粉々になっていく。
 いきなりの出来事に、雪花は驚きの表情を隠せずにいた。

 「これは・・・!?」
 「貴方は何故か私の事をよくご存知のようですが、どうやら最近完成したばかりのリフレクビットの事までは知らなかったようですね。」
 「リフレク・・・ビット・・・!?」

 襲い掛かる無数の氷のアーゼを、次々と粉々にするリフレクビット。
 汐音が操るリフレクビットが夜空を舞い、雪花の猛攻から雨音を守る。
 その美しくすらある光景に、思わず桂たちは見入ってしまっていた。
 そして汐音が自分を守ってくれている間に、雨音はセラフィムを鞘に収めて拳銃を抜き、マガジンを交換した。

 雨音は悟ったのだ。拳銃を使わなければ、雪花は到底倒せない相手だという事を。
 迂闊に拳銃を使ってはいけないとか、国の上層部に怒られるとか始末書を書かされるとか、そんな悠長な事を言っていられる場合ではない。
 桂たちを彼女から守る為に、もう手段など選んではいられないのだ。

 「言っておきますが拳銃などでは、この私に触れる事すら出来ませんよ。」
 「貴方こそ、現代の日本の科学技術を甘く見ない方がいいですよ。」

 雨音に拳銃を突きつけられても、余裕の態度を崩さない雪花。
 そんな雪花にギャフンと言わせてやろうと、雨音は何の迷いも無く拳銃の引き金を引いた。
 放たれた赤色の弾丸が、正確に雪花の豊満な左胸へと飛んでいく。
 その赤色の弾丸を、雪花はいとも容易く氷の剣で切り裂いたのだが・・・。

 「な・・・!?」

 次の瞬間、雪花が切り裂いた弾丸から真紅のペイントが飛び散った。
 それが雪花の着物にべっとりと付着し、汚すのが勿体無いと思える程の雪花の綺麗な白い着物を、情け容赦なく赤色へと汚していく。
 ファルソック特製のペイント弾・・・元々は逃亡した犯罪者に対しての目印にする為の代物だ。
 専用の洗剤を使わなければ簡単に落とす事が出来ず、また蛍光塗料が使われているので、例え夜中でも犯罪者の追跡を容易にする事が出来る。

 「これは・・・!?」

 雪花が戸惑う暇も無く、雨音は次々と拳銃で弾丸を発砲した。
 それを雪花は反射的に次々と氷の剣で弾くものの、弾いた数だけ塗料が雪花に飛び散っていく。
 その塗料が雪花の着物だけでなく、傷1つ無い綺麗な白い肌までも汚していき、やがて飛び散った塗料が雪花の顔へと付着した。

 「くっ・・・視界が・・・!!」

 塗料が目にかかりそうになったので、反射的に右目を閉じる雪花。
 そう・・・これが雨音がペイント弾を使用した本当の理由でもあるのだ。
 確かにペイント弾自体に殺傷能力は無いし、それどころか硬質ゴム弾と違って当たっても痛くすら無いのだが、使い方によってはこうして相手の視界を奪う事も出来るのだ。

 雪花の右目が塞がった事で雨音は再びセラフィムを抜き、雪花の死角となる右へ右へと回り込み、ひたすら右から・・・雨音から見て左から攻撃を仕掛ける。
 まさか塗料が入った弾丸を使っての目くらましとは・・・雨音の予想もしなかった戦術に、雪花は戸惑いを隠せないでいた。

 「小賢しい真似を・・・!!」
 「私は、私の大切な人たちを守る・・・!!どんな手を使ってでも!!」

 死角から襲い掛かるセラフィムを辛うじて氷の剣で受け止め続ける雪花だが、右目を閉じた状態で勝てる程、雨音は甘い相手では無い。
 先程までと違い、完全に形勢が逆転してしまった雨音と雪花。
 右目が塞がっているにも関わらず凄まじい粘りを見せる雪花だったが、それでも雨音の猛攻の前に追い詰められてしまっていた。

 このまま一気に決めようと、雨音は自らの身に流れる『神の血』の力を覚醒させた。
 雨音の全身が、金色に神々しく光り輝く。
 その美しくも神々しい姿は、まさに神の化身だ。

 「くっ・・・!!」
 「貰ったぁっ!!」

 上段に振りかぶった雨音のセラフィムが、情け容赦なく雪花に襲い掛かる。
 勝った・・・雨音がそう思った次の瞬間。
 雪花の全身もまた、金色に神々しく光り輝いた。

 「な・・・!?きゃっ!!」

 雪花が繰り出した斬撃を辛うじてセラフィムで受け止める雨音だったが、あまりの威力に吹っ飛ばされてしまう。
 何とか体勢を立て直した雨音だったが、まさかの出来事に戸惑いを隠せずにいた。
 雪花の金色に輝く姿は、『神の血』の力を覚醒させた今の雨音と同じ。
 それは雪花の身にも、特別に濃い『神の血』が流れているという確固たる証だ。

 「そんな・・・どうして・・・!?」
 「褒めてあげますよ、雨音さん。この私を本気にさせたのですから。」
 「・・・っ!?」

 右目の辺りに付着した塗料を乾く前に左手で拭い、雪花は右目の視界を回復させた。
 次の瞬間、雪花の姿が雨音の視界から消えた・・・と思った瞬間、雨音の背後から雪花の氷の剣が迫る。
 それを辛うじてセラフィムで受け止めた雨音だったが、次の瞬間また雪花の姿が消えた。
 何という凄まじい動きの速さ。これを前にしては千羽妙見流の縮地法など、まさに子供のお遊びも同然だ。

 (何て速さだ!!これじゃあリフレクビットでも追いつけねえっ!!)
 「それでも諦めない!!私は!!」

 雨音もまた縮地法を連発し、何とか雪花の速さに対抗しようとする。
 桂たちの目前で、無数の金色の閃光が何度もぶつかり合っていた。
 常人の目には到底捉えられない程の凄まじい速さで、人間の限界を超越した戦いぶりを繰り広げる2人。
 だがそれでも最後に勝利したのは、雪花の方だった。
 雪花の斬撃を受け切れずに吹っ飛ばされ、桂たちの隣にある槐の木に叩きつけられる雨音。

 「ぐあっ・・・!!」
 「これで終わりです!!」

 物凄い速さで雨音との間合いを詰め、氷の剣を振りかぶる雪花。
 このままでは雨音が・・・考える前に桂の身体が勝手に動いていた。

 「百子ちゃん、鬼払い貸して!!」
 「ちょ、はと先輩!?」
 「やあああああああああああああっ!!」

 百子から鬼払いを奪った桂が、とっさに雨音の前に立ちはだかる。
 そして振り下ろされた雪花の氷の剣を、何とか辛うじて鬼払いで受け止めたのだが・・・

 「ぶぎゃ~~~~~~っ(泣)!!」

 1秒で鬼払いを弾き飛ばされてしまった。
 乾いた音を立てて、鬼払いが地面に転がり落ちる。
 あまりの威力に、桂が鬼払いを握っていた両手がビリビリと震えていた。

 「はと先輩、弱過ぎです(汗)!!」
 「いえ、大した物ですよ。羽藤先生。あの状況で私の一撃を受け止めるとは・・・。」
 「もういいでしょう雪花さん!?これで決着は付いたんだし、そもそも2人が戦う理由なんてこれっぽっちも無いよ!!」

 桂は決意に満ちた表情で、雪花に敗北した雨音を両手を広げて必死に庇ったのだった。

2.語られる真相


 「取り敢えず玲紀さん、後で雨音ちゃんに詳しい事を説明しますから、騒ぎにならない内に早く白野さんを連れて帰って貰えますか?」
 「お、おう・・・取り敢えず先に小雪の忘れ物を取りに行かないとな。」

 桂に促されて、玲紀と呼ばれた小雪の父親の男性が、慌てて校舎内へと走って行ったのだが。

 「ったく・・・決着が付いただぁ?寝ぼけた事言ってんじゃねえよ。桂。」
 「な・・・雨音・・・ううん、汐音ちゃん?」

 桂の背後で汐音が槐の木にもたれかかりながらも、拳銃を雪花の顔に向けて突きつけていた。
 雪花が自分に止めを刺そうとする所へ、カウンターを狙おうとしていたのだ。
 そして汐音を守るかのように、雨音が操るリフレクビットが汐音の盾となっていた。
 あの状況下でも雨音と汐音は、雪花に勝つ事をまだ諦めていなかったのだ。

 「まだ勝負はついてねえ・・・と言いたい所だけどよ。結果は結果だ。アンタがアタシらを庇った時点でアタシらの負けだ。」
 「汐音ちゃん・・・」
 「それで桂。アタシらとその女が戦う理由は無いってのは、一体どういう了見だ?」
 「・・・そ、それは・・・」
 「まあいいさ。アタシは雨音と違って頭に血が昇りやすいから、交渉の類は苦手だからねぇ。ここは優等生の雨音に任せるとするよ。」

 桂の手を借りて立ち上がった汐音は、セラフィムを鞘に収めて拳銃の安全装置をロックしてホルダーにしまった。
 それは雪花に対する、戦意が無いという意思表示だ。
 雪花もまた汐音に戦意が無い事を悟り、氷の剣を消滅させる。
 水となった氷の剣が地面に溶け込み、あっという間に土の中に吸い込まれていった。 

 「・・・桂ちゃん。彼女は一体何者なの?どうして桂ちゃんは彼女を庇おうとしたの?」
 「あのね雨音ちゃん。落ち着いて私の話を聞いてくれる?」
 「うん。」
 「彼女は白野雪花さんって言うんだけど・・・。」

 桂は、雨音に全ての真相を話した。
 雪花がこの常咲きの槐の木に宿っていた元オハシラサマで、1200年前にこの日本を制圧しようと企んでいた、セラという氷の女神を今まで封じていたという事。
 そのセラが実は雪花の実の母親で、つい先程雪花の封印を破って脱出したのだという事。
 その時の衝撃で雪花は消滅寸前の危機に陥ったのだが、たまたま通りかかった小雪の精気を吸う事で、何とか辛うじて命を繋ぎ止めたのだという事。
 そこへいきなり警備員たちが雪花を不審者と見なして襲い掛かってきたので、仕方が無いので殺さない程度に退けたのだという事。

 「そ、そうなんですよ新堂先輩!!その女、怪し過ぎますよ!!いきなりオハシラサマだとか女神だとか電波な事を言い出して・・・!!」
 「もう、吉原君!!何でそれを先に言わないの!?」
 「ひゃ、ひゃいっ!?」

 思わずビクッとなってしまった男性警備員を見て、雨音は呆れたように深く溜め息をついた。
 雨音に肝心な事が伝わらなかったせいで、雪花との間で無用な争いを生む結果になってしまったのだ。
 雪花がいきなり小雪にキスをして精気を吸って、それで小雪が倒れて、さらに駆けつけた警備員を雪花が叩きのめした。
 これらの情報だけでは、雨音が雪花を鬼か何かだと勘違いして当たり前だ。 

 だがこれで雪花が宿していた『聖なる力』、そしてその身に『神の血』を宿していた事、さらに太刀筋に殺気や邪気が全く感じなかった事についても、充分に説明がつく。
 桂が言うように、雨音と雪花が戦う理由などこれっぽっちも無かったのだ。

 「もう、桂ちゃんも桂ちゃんだよ。それならそうと先に言ってくれれば良かったのに・・・。」
 「だ、だって、2人の戦いがあまりにも凄過ぎて、全然止める余裕が無かったんだもん。」

 止めようとした結果、こうして1秒で鬼払いを弾き飛ばされてしまったのだ。
 雪花の斬撃を受け止めた桂の両手には、未だに痺れが残っている。つまりそれだけ雪花の斬撃の威力が凄まじかったという事だ。
 これ程の威力の斬撃を、雨音は何度も何度も受け止め続けていたのだ。にも関わらず平気そうな顔をしている雨音を、桂は心の底から凄いと思った。

 「雪花さんも、私と戦う前にちゃんと説明してくれたって・・・。」
 「彼らにはちゃんと、私が元オハシラサマだと説明しましたよ?なのにいきなり襲い掛かってくるとか訳が分かりませんよ。自分で言うのも何ですが、オハシラサマが崇拝すべき存在だというのは一般常識じゃないですか。」
 「いや、確かに1200年前は一般常識だったかもしれませんけど・・・今の時代にそんな事を言ったって・・・その・・・通じるはずが無いです・・・。」

 戦う理由なんて無いのに、戦う必要が無いのに、互いに傷つけ合う結果になってしまった。
 互いの伝えたい事が伝わらずに、無用な争いを生む結果となってしまった。
 何かの歯車が狂って、こんな事になってしまったのだ。
 警備員たちにしてみれば、いきなり元オハシラサマとか女神とか『電波な事』を言い出す正体不明の女が突然校内に現れたのでは、職務として雪花を捕らえようとするのは当然の事だろう。
 雪花とて『元オハシラサマだと説明したのに』いきなり電波女だとか言われて警備員に襲われたのだから、正当防衛として力を振るうのは当たり前の事だ。

 こんな時に遥の《ファルシオン》があれば、高濃度意識共有領域を作って『想いを交わす』事で会話をし、今回の戦いを避ける事が出来たのだろうが・・・。
 もう少し雪花も機転を効かせて、自分が小雪の親族か何かだと説明しておけば、小雪と面影が似ているのだから警備員たちを納得させられたかもしれないのに。

 「あの、雪花さん。そのペイントは普通の洗剤では簡単には落とせないので、これを使って落として下さい。」
 「ええ。ありがたく使わせて頂きます。」

 雨音は雪花に、液状の洗剤が入った小さなペッドボトルを手渡す。
 それを受け取った雪花の右手は、とても優しくて温かかった。 

 「それで雪花さんは、その・・・これからどうなさるおつもりなんですか?」
 「ああ、その事なんだけどよ。雪花ちゃんは俺らの家で保護しようかと思ってるんだ。」

 そこへ小雪の教室から、忘れ物のプリントを取りに行っていた玲紀が戻ってきた。
 彼の右手には、小雪が教室に忘れていった一枚のわら半紙が握られている。

 「雪花ちゃんは俺と小雪のひいひいひいひいひいひいひいひいひいお婆ちゃんだからな。だから俺らの家族も同然よ。」
 「・・・まあ、確かにそれしか無さそうですね。今の雪花さんには・・・その・・・他に行く当てが無いでしょうし・・・」
 「雪花ちゃんの事は俺に任せておいてくれ。俺が責任を持って面倒見てやるからよ。」

 小雪をお姫様抱っこした雪花を連れて、玲紀は車を止めている校門へと歩いていく。
 とても安らかな表情で、小雪は雪花に身を委ねて眠っていた。
 雪花に叩きのめされた警備員たちも、雨音と古木の手を借りてようやく立ち上がる。
 そして雨音は警備員たちに対して、今回の件に関して以下のように通達した。

 1.上層部に対して、小雪と玲紀の名前だけは絶対に出さないようにする事。
 2.夜中に校内に不審者が現れて、たまたま通りかかった雨音が応援に駆けつけて追い詰めたが、逃げられたと報告しておく事。
 3.今回の件に関しての全ての責任は、全て雨音が持つという事。

 それだけ雨音に通達されて、警備員たちは各々の持ち場へと戻っていく。
 何故雨音がこんな通達をしたのかというと、小雪と玲紀の名前を上層部に知られる事で、ファルソックや警察からの厳しいマークが白野家に付き、彼女たちの平穏な毎日を乱すような事は避けなければならないからだ。
 今回の一件は、夜中に不審者が現れて逃げられて終了。雪花に悪意が無い以上はそれだけで充分だ。

 だが雨音は雪花との戦いで、拳銃のマガジンに装填されたペイント弾を、18発中6発も発砲してしまった。
 1発撃っただけでも国から厳重注意を受ける上に、膨大な報告書を書かないといけなくなるというのに・・・それを思うと雨音は気が重くなってしまう。
 それでも今回の戦いでは拳銃を使わなければ、雨音はあそこまで雪花を追い詰める事は出来なかっただろう。だから雨音は拳銃を使った事を後悔だけはしていなかった。
 使える力を使わずに大切な人を守り切れない事の方が、雨音はもっと後悔するだろうから。

 「取り敢えず、今回の件を葛ちゃんに伝えておいた方がいいかな・・・?」
 「あの~、雨音っち~。そう言えば雨音っちって、タイムカードってもう押したの?」
 「・・・あ。」

 百子に指摘されて、雨音は右腕に付けられた腕時計を見る。
 現在の時刻は、既に夜8時を回ってしまっていた。

 「やば・・・。」
 「早く事務所に戻って上がった方がいいよ~。あんまり残業すると美咲先輩がうるさいから。」
 「そ、そういう百子ちゃんは・・・」
 「いや、アタシはタイムカードを押してからここに来てるから。ほら、夜食をはと先輩に渡せって雨音っちに頼まれたから。」
 「・・・あ・・・う・・・」

 そう言えばそんな事を百子に頼んでいた事を、雨音はすっかり忘れていた。
 まあ話が分かる美咲なら、事情を話せば分かってくれるだろうが・・・それでも他の上層部から色々とグチグチと文句を言われるのは雨音だって面白くない。
 それに今頃は、雪音や春奈もきっと心配しているだろう。だから早く帰って2人を安心させてあげないといけない。

 「ふ、古木さん・・・」
 「全く、とんでもない事に巻き込まれちまったなぁ。早く戻ってさっさと帰るぞ。新堂。」
 「は、はい・・・」

 桂と百子に見送られながら、雨音は古木と共に慌てて車に乗り込み、事務所へと走り去っていったのだった。