<p align="left">「お前本当に弱いよな」<br> 僕の手からトランプを引き抜いて彼が言う。僕は今部室で彼と二人でババ抜きの最中だ。<br> それだけならいつもの光景だけれども……。<br> 「またお前の負けだな」<br> いつもは僕とのゲームなんて時間潰しとしか思って居なさそうなのに、今日の彼はいやに楽しそうに勝敗を言う。<br> 「なかなか敵いませんね」<br> 震える声を抑えて苦笑する僕。いつも通りに笑えただろうか。<br> 周りに気付かれてはいないだろうか。そんな事ばかりが気にかかる。<br> <br> 僕がトランプを切り直している間に、彼は手を自分の制服のポケットに忍ばせた。<br> 傍から見れば何のことも無い動作だが、今日は違う。<br> 「!……」<br> 僕の中に入れられているローターが、また一段と強く振動し始める。<br> 思わず声を出しそうになったのを必死に堪えるも、手に持つカードを取り落としてしまった。<br> 「どうした古泉?」<br> 目だけで笑いながら彼が問う。<br> 「いえ、手が滑ってしまったようで……」<br> ゲームで勝てば止めて貰える。そういう話だった。<br> しかし絶えず刺激を与えられながらのゲームには、いつも以上に勝てる気がしないのも事実だ。<br> 静かな部室に振動音が漏れないかと、気が気でない。<br> 「あんまり顔に出すとバレるそ」<br> 俯いて耐える僕に彼が小声で囁いた。</p>