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暴漢×消失古泉 - (2007/10/28 (日) 20:01:59) の編集履歴(バックアップ)


「離しなさいよ!」
黒いブレザーを着た少女の怒鳴り声が路地裏に響く。
「ぶつかってきたのはそっちだろぉ?」
柄の悪い男が数名、少女の手を掴みながら小さな体を取り囲んでいた。

「周りも見ずに勝手にぶつかってきて良く言うわ!その目ん玉は何の為についてるのかしらね!
 しかもこんな所まで連れ込んで何様のつもり!?
 あたしは忙しいんだから!無駄な時間とらせないでくれない!?」
黄色いカチューシャから伸びるリボンを靡かせ少女が言うも
男達はにやついた表情のまま手を離さない。
焦れた少女が腕を掴む男の脚を蹴り上げ、逆上した男が腕を振り上げた。
「涼宮さん!」
勢い良く駆け込んで来た黒い学ランの少年が、そのまま男に体当たりをする。
男がよろけた隙に少女の手を取り、逃げ出すベく踵を返そうとして──。
狭い路地を塞ぐように立つ男達の前に足を止めた。

「えらいかわい子ちゃんだと思えば、こんなイケメン彼氏付きとは。なぁ……?」
「……別に彼女とはそういう間柄ではありませんが。しかし女性を誘うのならそれ相応の誘い方と言……」
言い終える間も無く再び振り上げられた拳に、少年が慌てて身を避ける。
「古泉くん!こんな奴ら人の話なんて聞きやしないんだから!相手するだけ無駄よ!」
涼宮と呼ばれた少女が少年の名を呼んで注意を促すも、道を塞ぐ男達を突破は無理と判断し、
二人は逆に路地の奥へと駆け出した。

しかし駆け込んだ先は行き止まりで。
壁を背に二人は追って来る男達へと向き直る。
「僕が彼らに突っ込むので、その間に逃げる事は出来ますか?」
涼宮を庇う様に立ちながら古泉が問う。
「だめよ。そんなの絶対許さないんだからね!」
あくまでも気丈な返事に、古泉は整った容貌を初めて微苦笑に崩して困ったように眉尻を下げた。
「残念だったなぁ行き止まりでさ」
「やっぱ彼女の前では良いカッコしたいってか?」
相談しあう二人に、追いついた男達が口々に囃し立てる。
「……逃げてくださいね」
そう呟いて古泉は男達の方へ足を踏み出した。

男達からすれば、古泉という少年は背丈こそあるものの、そこまで体格が良い訳でもなく。
その隅々まで手入れされていそうな風貌からして、大した事が無いと踏んでいた。
しかしながら殴りかかってくれば、注意はそちらに引かれるもので。
暴れる古泉を多勢に無勢で押さえつけるも、その背後から強烈な一撃を食らい、彼らは意識を改めた。
実は少女の方が手に負えないと。
「す、涼宮さん!」
地べたに押し付けられながら、古泉も驚いたのか目を丸くして涼宮を見ている。
「古泉くんをいじめたら許さないわよ!」
制服のスカートが捲れ上がるのも気にせずに、涼宮がしなやかな脚で男の頭に蹴りを入れる。
古泉を押さえつけていた男が地面に伏せた。

このまま直ぐ逃げ出さなかったのが二人の不幸と言える。

体を押さえつける手が減り、古泉がもがきながら身を起こしかけた時
それまで動き回っていた涼宮が高い声を上げて地に崩れ落ちた。
「涼宮さん!?」
何が起きたのか理解出来ない古泉に、涼宮の側に居た男が掌を向ける。
そこには小さく黒い器具が有った。
「まさか女の方にコレを使うとは思わなかったぜ」
それは電気ショックを与える器具。スタンガンだった。

スタンガン。
護身用とされるそれは、電圧で神経網を刺激して一時的に体の制御を奪う物。
基本的に外傷を残す事も無い。だが。

「涼宮さん!」
地に伏せたまま小さく痙攣する少女。乱れた呼吸音が聞こえてくる。
古泉は顔色を変えて、自分を押し留める男を押し退けて、涼宮に近づこうとする。
「おっと止まれよ。彼女にもっかい当てちゃうよぉ?」
涼宮の傍らに立つ男がバチバチと火花を散らしながら屈み込んだ。
古泉よりも、スタンガンを持つ男の方が涼宮に近い。
古泉は大人しく立ち止まった。
「こんなに可愛いのに凶暴だよなぁこいつ。あんたもこんなの彼女で苦労してんじゃないの?」
「……そういう間柄では無いと言ったはずです」
「ふーん。彼女でも無いのに随分と必死に助けようとしてたよなぁ。
 あれか、イケメン様はフェミニストってやつかぁ?でも女の方が強かったけどな」
不甲斐無さに唇を噛んで古泉は沈黙する。
古泉は学校では勉学に秀で運動神経も良しとされているが
このような状況では一男子高生には限界と言うものがあった。
涼宮も同様に普通の女子高生に過ぎないが、少女の気質は何か人の枠を越えた物だった。
古泉は涼宮のそういう部分にも惹かれていたのだが──。

「……古泉くんを馬鹿にするんじゃないわよ……」
自責の念に駆られる古泉の耳に、微かな声が届いた。
古泉がはっとして顔を上げる。
「はっ、元気な女だな。お前らやっぱ出来てんじゃねぇの?」
「彼女を侮辱するのは止めて下さい」
「怒るなよ。それとも何?片思いだったりするわけー?」
「……そういう訳でもありません」
的を射た煽りに一瞬言葉に詰まるも、涼宮が聞いていると思うと古泉は肯定もし辛かった。
男はにやけたまま古泉を眺めている。
どうやらこのスタンガンを持った男がリーダー格と言えるのだろう。

「まぁいいさ。そいつを押さえとけよ。折角だからこの女がマワされるの見せてやろうぜ」
「なっ……!」
驚く古泉の体に男達の腕が回される。
二人掛かりで力任せに両腕を背中に捻られ、膝が地面に付けられた。
「こんだけ細い脚でアレだもんなぁ。人は見かけに寄らないってマジなんだな」
男が好色な顔付きでスカートから伸びる涼宮の脚を眺める。
その目つきに古泉は怒りを覚えた。
涼宮の脚に男の手が伸ばされる。
「やめ……」
「ぅ……汚い手でさわんないでよ……!」
古泉が声を上げようとした瞬間に、涼宮の手が動いて男の手を叩く。
爪が引っかかったのだろう、男の手に小さく傷が付いた。

涼宮が手だけでも動けた事に驚いたのか、男は数瞬叩かれた自分の手を見つめ。
「……気が強すぎる女は可愛くねぇな!」
再びスタンガンを涼宮に押し当てた。

流石に気絶したのだろう。古泉の叫びに近い呼び声にも反応は無く。
男は笑いながら涼宮のむき出しの脚を撫でた。
「彼女に触るな!」
捻り上げられた腕の痛みも気にせずに古泉は身を捩る。だが二人相手では敵わなかった。
「なんだよ。お前の彼女じゃないんだろ?なら良いだろうが。大人しく見てろって。
 もしかしたらお前にも番が回ってくるかも知れないぜ?」
男の手がプリーツスカートの中へ進んでいく。
古泉は怒りで自分がどうにかなりそうだと思った。
「……わーわーうるせぇなぁ。黙れよ」
興が削がれたのか、脚を撫でていた男の指示で、三人目の男が古泉を殴り始めた。

古泉は痛みに顔を顰めるも、こうやって自分に注意を向けてる間は
スタンガンを持った男が涼宮に手を出さない事に気が付いた。
──少しでも時間稼ぎになるのなら。
一度だけならまだしも、二度もの電気ショックでは、例え意識が戻ったとしても
直ぐには逃げられないかも知れないが。
殴られながらも抵抗を止めない古泉を、男は面白そうに眺め始める。
「お前本当にこいつの事好きなのか?」
それに答えるつもりは古泉には更々無かった。

男は思案顔で殴られる古泉を眺めていたが、ふと何かを思いついたのか、唇を品の無い笑みの形に歪めた。
「そうだな。折角のイケメンだ。顔は殴らない方が良いな」
腹を殴られ、咳き込んで地に伏せる古泉に言い放つ。
「なぁ。こっち見て答えろよ。この女の事が好きなんだろ?」
促されるまま顔を上げると、男は倒れている涼宮の近くでスタンガンをちらつかせていた。
古泉の顔色が変わる。これ以上使われては危険なのでは無いかと。

「ちゃんと答えないと……どうなるか解るな?この女が好きなんだろ?」
これではNOと言った所で信用されないだろう。それに古泉にとってもそれは嘘になる。
不幸中の幸いと言うべきか、涼宮は今意識を失っている。
逡巡の後、古泉は小さく頷いた。
それを見て男が更に笑みを深めた。
「なら、この女でセンズリくらいはしてるよな?」
突然の下卑た質問に古泉が固まる。
だが男の目は否定する事を許していない。
それを察して、古泉は同じように頷いた。
「意識が無い女をマワしてもつまらねぇからな。代わりにお前でも良いかな、とね。
 ほら、イケメンさんだし?顔だけ見りゃ悪くないよな」
あまりにも予想外の男の発言に、古泉は返す言葉も無かった。

「えー、幾ら顔が良くても男は無理ですよ、俺」
古泉を抑えていた男の片方から冗談交じりの非難の声が上がる。
涼宮の脚に未だ手を置いたまま男は笑った。
「だってさ。イケメンさんよ。頑張ってその気にさせてやったら?」
「え……?」
古泉には何を言われているのか解りもしない。
その表情を見て、男はただ笑う。
「何だよ。そんな顔してドーテーなわけ?彼女で抜いたりはしてんだろ?
 してるって言ったよな。そういう事やってやれっつってんだよ」
「なっ……」
絶句する古泉を男達はニヤついた笑みで眺める。
「あーあ。もう反応悪くてつまんねぇよなぁ。だめだなチェリーは。
 やっぱ女の方が楽しいかねぇ。意識無ぇけどな」
脚を撫でる手が再び動き始める。

「ま、待て!」
慌てて声をかける古泉に男は目を細めた。
絶対的優位は既に男達の手に有った。
「さっきまで敬語使ってただろ?それに戻せよ。
 彼女の前でだけなんて、裏表のある男は好かれないぜ?」
「待って下さい……」
震える制止に応じて男の手が止まった。
続きを促すかのように見つめられるも、古泉には何を言えば良いのか見当も付かない。
「彼女の代わりに自分で遊んで下さいって言いたいんだろ?
 そもそも俺達は彼女と遊びたかったんだしな」
古泉は青ざめながら頷くしか無かった。
「ちゃんと声に出して言えよ。何のためにお前の口は付いてんだ」
「……す、涼宮さんの代わりに……僕で、遊んで……下さい……」
屈辱に震えながら言う古泉を囲んで男達が笑う。
「さて、どうやって遊んでやろうか」