【登場キャラ(敬称略)】 [[フェイツ]]、[[真島 正路]]、([[メネ]]、[[リヴィ]]、[[フェネキッス]]、[[ニュイ]]、[[ロノエル]])(名前のみ) 一月の路地の水たまりに、氷が張っている。 フェイツは憂鬱そうにそれを横目で見ながら、マフラーを口元に近づけた。 「アア、正路サマも酷い人だ。僕様みたいな上級悪魔にこんな雑用を」 ブツブツと呟く間にも、息はどんどん白く漏れていく。 「お陰様で、安売りの時間は覚えマシタガ」 スーパーのロゴが印刷されたレジ袋を、よいしょと持ち直した。 洗剤と、スポンジと、大根と、ネギと、ほうれん草、豚肉、豆腐、ポン酢……うむ、おそらく今晩の夕食は鍋で、その後は風呂掃除をやらされるのだろう。 「ご褒美がなきゃやっていけマセンヨォ~」 もう片手の袋には、国産100%の大豆を別入れで包んでいる。もちろん、重たい荷物に潰されるのを避けるためだ。 西日は沈みかけ、町並みの向こうに金色の陽が沈んでいこうとしているのが見える。 すぐ隣をバイクが走り去り、その奥では少女が母親と手をつないでなにやら笑っているのが見えた。 手前からは学生たちが笑いながら、連れ添って歩いている。 (僕様が以前訪れた時、この地域は焼け野原だった。その前は草原だった。更にその前は――) どこからかカレーの匂いが漂ってくる。帰宅して洗濯物を取り込む人、買い物帰りの自転車、たくさんの人間とすれ違う。ひしめき合う家々、窮屈に立ち並ぶ電線、和やかな多くの人々。 この国の平和は、豊富な物資に支えられている。なにも持たなかった国が、大きく変貌した。まるで悪魔が手を貸したかのような高度な成長。しかし、あくまでその欲望のエンジンを吹かしているのは人間なのだろう。 (いやはや、人間というのは誠に恐ろしい。なんという深い欲望、なんという探求心……悪魔など、いらないのではないか?) 苦笑した。 「にゃあお」 「ア! 猫!」 フェイツはしゃがみこみ、文字通りの猫なで声を出す小さな獣に、手を差し出した。 「にゃぁ~~」 「ウフフゥ、こいつゥ、人なつっこいデスネェ。いや、悪魔なつっこい? なんでもイイデス、アハハ、かわいいデスネェ~~」 頭を撫でていると、ごろんと仰向けになり、腹を見せてきた。ふわふわだ。もふもふだ。 「ウフフフフフフゥ~~~~~~」 「おいフェイツ」 猫が、にゃっ! と一鳴きし、飛び上がって逃げてしまった。 「アアッ!」 「テメー、道草食ってんじゃねぇよ」 正路が立っていた。人がいなければ蹴ってきかねない剣幕だし、実際見えないところでちょっと蹴られてる。何度も呼んだんだぞ、と彼は続けた。フェイツがポケットの中のスマホを見ると、確かに2件着信があった。 「すいません、マナーモードデシタ」 「あ? 100%出ろ。音量100%にしろ」 「そんな無茶ナ」 正路は明らかに、出かけにコートだけ羽織ってきた、というラフな服装だった。 「ニュイとフェネキッスとメネとロノエルとリヴィが部屋に来た」 「地獄絵図じゃないデスカァ」 人間一人に悪魔四人っテェ。憂鬱になりながら呟く。 「おう、だからなんか喰わせて黙らせる。しらたきと卵追加、あとなんか考えて買ってこい」 「ハァイ」 「じゃな」 「僕様が買うんデスカーーー」 すでにきびすを返した正路の背中から、当然だろ、あいつらだけ残しとくとか無いわ、無駄遣いすんなよ、殺すぞ、などの声がほとんど残響のように聞こえた。 「……全く、モウ!」 寒いのに! こたつ入りたいのに! もちろん、そんな怒りは誰にも届かない。最善策は、陽が落ちるまでに買い物を済ませ、さっさと暖を取ることのみ。つまりは正路の言うとおり……。 End ---- おまけ 超短編“うっかり” ※前述の話は、契約後でも契約前でもこういうことしてそうだなぁ~という妄想ですが、こちらはガッツリ契約後妄想になります。 「おい。お前今は俺のほかに誰と契約してんだ?」 「エ? 現在本契約を結んでいるのは正路サマのみ、魂の拘束目標としてファリーナサンだけデスネ」 「…………あ、マジで?」 「………………あ!!!! 嘘! 嘘です! 正路サマこれ、嘘!!」 「第三条別紙記載項目【甲は乙の質問に可能な限り誠実に】……」 「読み上げないでクダサイ! ……(しまった……)」 「質問だ。さっきのは嘘か?本当か?」 「……本当……デス……(クソッ……何をやっているんだ、僕は!)」 「あーーー……常々思ってたけどよ、お前さん、かなり、抜けてるよな。てか、バカ」 「うぐぐ……」 「上級悪魔でコレか……」 「……それ以上は、尊厳の侵害と見なしマスヨ」 「ま、現状がわかってよかったわ」 「…………」 「…………」 「…………」 「……おい」 「ハイ?」 「豆、食う?」 「……頂きマス」 ---- →[[フェイツ・正路契約ルート日常2/二十日]]に続く