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「救世主」の対義語とは何であろうか? 世界を我が物にせんと侵略する魔王? 世界と共に救われるだけの、選ばれし者ではない一般人? 世界を救う選ばれし「救世主」は、しばしば神と同一視されるような、 唯一無二の絶対的な存在であり、それに対を成す者や示す言葉は無い。 故にそれは作られた。 ---- 邪なる終世主 ---- 薄暗い一室。 部屋には傾いた事務机が秩序なく点在し、机上と床には紙が散らばって埋め尽くされている。 目を凝らして見れば、その紙が何らかの設計図であることが分かる。 部屋の真ん中だけ紙が敷かれていない。 もっとよく目を凝らして見てみよう。 空間には人型の物が無数に散らばっている。 それは紅白の人形で、割れたり欠けたりしているものが大半、中には粉砕されているものもある。 そう、それこそはキクダ・ホビー製「40分の1アームヘッドモデル」シリーズNo.001、セイントメシアである。 破損し散らばった無数のメシア人形の中心には、墨をぶっかけたような雑な塗装の黒いメシア人形が、 ただ一体だけポージングをとって飾られていた。 これは果たして何のための部屋であろうか? メシア人形が大人買いされているが、おもちゃマニアならばこのような扱いはしない。 何にせよ気味の悪い光景だ。 この部屋の入り口に戻ってみよう。 ドアをよく見ると、内側と外側に別々の鍵をかけられるようになっている。 これはおそらく内外の意向が合った時以外の、入退室を禁じられているということだ。 誰かを閉じ込めておく、もしくは閉じこもっておく為の部屋なのか? 「おや?どこから入ったネズミかな?」 なにっ? リズ連邦の地下秘密研究施設。名前は無い。 この施設は軍の統治を離れ、別の協力者のバックアップを受けて動いている。 ここに集められた狂った研究者たちは、かつて軍部で失敗に終わったり頓挫したはずの研究開発を、 諦めることなく成果が出るまでひたすらに続行しているのだ。 「モルモットをまた一匹捕まえましたよ」 「活きのいいのが入ったね」 「やったぜ」 この施設の地下5階でもまた、失敗したはずの計画がひっそりと行われていた。 「邪なる終世主」計画は、帝国の救世主・セイントメシアの設計図を基に、 強化版コピー・メシアを生み出して元の最強機体を打倒するという計画だ。 しかし、一連の研究過程で投入を急がれたコピー・メシア達、 堕天使フォーレンメシア、悪しき救世主イーヴルメシアもその目的を完遂する事は無かった。 リズ軍ではその時点で計画は打ち止めとなり、携わった多くの研究者は離れていった。 だが研究の中心人物と一握りの同志は、この施設に引き込まれ計画を強制的に続行、あるいは嬉々として行うこととなったのだ。 そしてまた一体のコピー・メシアが、完成を迎えようとしていた。 「今回は異常なほど順調に進められましたね」 「向こうじゃ、こんなに高レベルなコアを7個も譲っちゃくれないしな。  ここには欲しいものが何だって揃ってる。俺たちゃそれを使って造るだけだ」 「問題は正常に動作するかどうか・・・・・・そろそろ始まるようですね」 研究者たちが覗くガラス窓の向こうには、セイントメシアに似た黒いアームヘッドの頭が見える。 アームヘッドの足元では、研究チームのリーダーがその機体を見上げていた。 「よし・・・・・・起動テストッ!開始だッ!!」 血色が悪く目の下も濃い隈で黒くなっているリーダーが気合十分に叫ぶ。 同時にその手に握りしめられたセイントメシア・フィギュアが砕け散った。 「共振用AI起動!」 「各個アームコアの覚醒、開始します!」 続いて観察室のオペレータ達が遠隔操作で起動をかける。 このアームヘッドは高レベルのアームコアを7つ搭載しているが、 各コアの調和波長パターンがそれぞれ異なる為、全てを覚醒できる人物を用意する必要がある。 しかしその上で「血染の羽毛」を超える操縦技術を持ったパイロットという都合のいい存在がいるはずもなく、 それが出来る人類・アームヘディアンを生み出す研究はこの施設内でもまだまだ途上なのだ。 そこで彼らが目を付けたのは、これまた途上だが一応実用化には至っている、 アームヘッドを人工知能によって覚醒させる「ファントム」の技術である。 メシアの設計図同様、村井研究所・菊田重工から盗んだ試作技術を用いて、 高レベルデュアルホーンの無人アームヘッドを起動させようというのである。 「各コア、覚醒率上昇!」 「ファーストコアの覚醒率26%!」 「サードコアの覚醒率21%!」 「合計覚醒率は現在AI制御可能範囲内です」 「いいぞ・・・!その調子だ・・・・・・!  目覚めよ、エンデシア・・・・・・!!」 研究リーダーが血走った目をしながら言った。 「・・・・・・合計覚醒率、AI制御可能限界値に達しました!」 「AIの同調率自動低減が行われます!」 全てのコアが覚醒する直前の事だった。 現段階のAIに制御できるコアの覚醒率には限度がある。 この機体の場合、少なくとも7つ全ての覚醒率が30%を超えなければ正常な覚醒は得られない。 そのためAIの制御可能限界値は通常機体よりも遥かに高めにとってあるはずだった。 しかしこの規格外コアでは合計覚醒率が何らかの増幅を経ており、 容易にAIの安全装置を起動させてしまったのだ。 「なん・・・だと・・・・・・。  ・・・くっ・・・・・・ぬぅーッ・・・!」 研究リーダーは爪を立てながら頭を抱えた。 「覚醒率は安定して下降中、制御に関しては成功です」 「今回の実験は中止でよろしいですかな」 観察室から声がする。 「・・・・・・・・・。  い、いいや!実験は続行だッ!!  起動は!成功はもう目前なんだぞッ!これ以上失敗してたまるものか!!」 リーダーは微振動するアームヘッドの足元で取り乱した。 「し、しかし!AI制御を離れて起動すれば何が起こるか・・・・・・」 「自壊スイッチがあるだろう!事が起こりゃそれを使えばいい!!  我々にはもう時間がないのだ!今にセイントメシアが首を刈りに来るッ!  わかっているんだろうな!リミッターなどックソッくらえだッ!!」 リーダーは半ば発狂気味に、メシアフィギュアの破片を観察室の窓に投げつける。 「どういたしますか?」 「責任はリーダーがとってくれるんでしょう」 そしてAIの同調率制御が解除された。 7つのアームコアの覚醒率が見る見る上昇していく・・・・・・! 「全コア覚醒率29%超!起動します!」 「早く戻ってください!」 しかし研究リーダーはアームヘッドの足元で呆然と見上げていた。 「覚醒率急上昇!」 「・・・・・・エンデシアの覚醒完了を確認!」 「数値は依然上がり続けています!」 「おおおおお・・・・・・!?」 アームヘッドの目に青白い光が燈る。 覚醒した7本のホーンも赤黒いオーラを発し始めた。 やがてそれは全身に広がって収縮。 ・・・・・・黒いアームヘッドの身体は、更に吸い込まれるような深い黒に染まり、禍々しく形を変えていく・・・・・・! 「おおお!!すんばらしい!!これがTレベルコアの真価か!!  さあッ!産声を上げよ!動いてみせよ!お前の力を見せるのだ!」 リーダーは叫びながら手振りで指示を出す。 無人アームヘッド・エンデシアの各ホーン覚醒率は既に60%を超えていた。 エンデシアの目前で、白い風船が膨らみだした。 セイントメシア型バルーンだ。 「まだAIが生きているならあれにも反応するはずだ・・・・・・!」 エンデシアは膨らむバルーンを静かに見据えていた。 しばらくして右腕に持った鎌を構える。 「おお・・・動いた・・・やったぞ・・・・・・」 そして・・・・・・エンデシアは鎌を突き立てた! 狙いは床!そこにあるのはガスボンベだ! 爆発するボンベと音を立てて飛び回るバルーン!! 「な゙!!!!」 リーダーの想定では景気付けにメシアバルーンを真っ二つにするはずだった。 だがエンデシアの動きはその上を行っていた。 いや、既にAIの制御下にはないのか!? ”我々を呼び覚まし、この肉体を賜った事、感謝しよう” リーダーと研究者の意識の中に、冷たい声が響き渡った。 人々はその瞬間、途端に凍えたように硬直した。 「・・・う、うわああああ」 「自壊スイッチ無効です!」 「暴走!危険!ただちにアームキルを!」 硬直から復帰した観察室は、不自然なほどの恐怖に駆られていた。 「おいどうした?まだ暴れちゃないだろ!大丈夫だ!!  しかし自壊スイッチが効かない?身体の全機能がコアの制御下に置かれている?  既に一個体の生物になったつもりだというのか!?」 リーダーが叫んだ時、背後のハッチが開いて7体の量産型アームヘッド・ヴァントーズが入室する。 「完全状態ではない今ならアームキルできる!」 「急げ!」 ヴァントーズのパイロット達が言って、総攻撃をかける。 エンデシアは7体の攻撃を全て、同数のホーンで受け止めた。 そして・・・・・・それを回転して弾くと同時、余った右腕の鎌も振り回す!! 胴部から真っ二つに引き裂かれる全ヴァントーズ! 「おおお!?」 エンデシアの足元に居たリーダーは、自身に飛び来るヴァントーズの体液を見た。 しかしそれが彼にかかることはなかった。 切り裂かれ飛び散ったはずのヴァントーズの体液は、急速にエンデシアの鎌に集まっていく。 それらは全て鎌に染み渡り、その色も完全に消えた。 「なんだ!?あの武器はただの鎌・・・・・・」 続いて悪魔的アームヘッドは、鎌をヴァントーズの残骸に突き刺して体液を吸い上げる。 ガス爆発の煙とヴァントーズの破片に囲まれながら、リーダーはそれを見ていた。 観察室の人員は脱出の為に鍵を開ける。 しかしドアは外側からの鍵もかけられており退室は不可能だった。 エンデシアは全敵の体液を吸いきった後で大鎌を振り回した。 その刃は瞬間的に紅く染まり、次には周囲の壁が大きく切り裂かれていた。 割られた観察室の窓に飛び込んできたのはアームヘッドの体液だ。 「血圧カッターとでも言うのかッ!?」 次に悪魔は引き下げた鎌を振り上げて、血の刃を放ち天井を深く切り裂く。 それを幾度か繰り返し、5層上の地上まで通ずるほどの深い穴を作り出した。 「おおお・・・・・・!何もかも想定を超えている・・・!  だがそれこそ私の思い描いていた邪なる終世主、イヴィレンデシアに相応しい・・・!!」 天井からの瓦礫の降る中、一人喜ぶ研究リーダー。 エンデシアはダメ押しと言わんばかりに、縦横に大鎌を繰り出した。 血の斬撃は観察室を完全に潰し、天井の崩落を加速させ遥か上の薄明るい空をより見易くした。 やがて黒いアームヘッドは静かに首を上げ空を注視した。 その周囲では瓦礫に紛れて研究員の人々や研究成果の数々も降り続けている。 エンデシアはそれらに意識を向けることなく、ゆっくりと宙に浮かび始めた。 「・・・・・・!?・・・い、いったい何処へ行くつもりだ・・・行ってしまうのですか!?  これから何をするつもりなんです・・・・・・お前を作ったのはこの私だ!  お前までもが去ったら私はここで一生を過ごすことになってしまいます!  私を見捨てるというのか、お前は!!??」 無休の研究で疲労も限界に達し、更にこのトラブルで遂に正気を失ってしまったリーダーは、 言葉を乱しながら、膝をつき神に祈るようにして絶叫した。 部屋の半ばまで浮いていたエンデシアは減速し、その冷たい眼光で生みの親を見下ろした。 #ref(kyojinmini.png) ”我々は貴様の救世主ではない。  だが安心しろ。  貴様の望み通り、この世界はじきに終わりを迎える。我々の手によって” エンデシア―否、イヴィレンデシアは、加速上昇を始め回転、 全身のホーンで天井をくり抜きながら空へ向かって飛翔した。 研究リーダーはその様子を呆然と見続け、やがて空の彼方へと研究成果が消えた時、 両手を床について、ただ嗚咽し続けた。 「・・・・・・また・・・・・・つくりなおさねば・・・・・・」 END
「救世主」の対義語とは何であろうか? 世界を我が物にせんと侵略する魔王? 世界と共に救われるだけの、選ばれし者ではない一般人? 世界を救う選ばれし「救世主」は、しばしば神と同一視されるような、 唯一無二の絶対的な存在であり、それに対を成す者や示す言葉は無い。 故にそれは作られた。 ---- 邪なる終世主 ---- 薄暗い一室。 部屋には傾いた事務机が秩序なく点在し、机上と床には紙が散らばって埋め尽くされている。 目を凝らして見れば、その紙が何らかの設計図であることが分かる。 部屋の真ん中だけ紙が敷かれていない。 もっとよく目を凝らして見てみよう。 空間には人型の物が無数に散らばっている。 それは紅白の人形で、割れたり欠けたりしているものが大半、中には粉砕されているものもある。 そう、それこそはキクダ・ホビー製「40分の1アームヘッドモデル」シリーズNo.001、セイントメシアである。 破損し散らばった無数のメシア人形の中心には、墨をぶっかけたような雑な塗装の黒いメシア人形が、 ただ一体だけポージングをとって飾られていた。 これは果たして何のための部屋であろうか? メシア人形が大人買いされているが、おもちゃマニアならばこのような扱いはしない。 何にせよ気味の悪い光景だ。 この部屋の入り口に戻ってみよう。 ドアをよく見ると、内側と外側に別々の鍵をかけられるようになっている。 これはおそらく内外の意向が合った時以外の、入退室を禁じられているということだ。 誰かを閉じ込めておく、もしくは閉じこもっておく為の部屋なのか? 「おや?どこから入ったネズミかな?」 なにっ? リズ連邦の地下秘密研究施設。名前は無い。 この施設は軍の統治を離れ、別の協力者のバックアップを受けて動いている。 ここに集められた狂った研究者たちは、かつて軍部で失敗に終わったり頓挫したはずの研究開発を、 諦めることなく成果が出るまでひたすらに続行しているのだ。 「モルモットをまた一匹捕まえましたよ」 「活きのいいのが入ったね」 「やったぜ」 この施設の地下5階でもまた、失敗したはずの計画がひっそりと行われていた。 「邪なる終世主」計画は、帝国の救世主・セイントメシアの設計図を基に、 強化版コピー・メシアを生み出して元の最強機体を打倒するという計画だ。 しかし、一連の研究過程で投入を急がれたコピー・メシア達、 堕天使フォーレンメシア、悪しき救世主イーヴルメシアもその目的を完遂する事は無かった。 リズ軍ではその時点で計画は打ち止めとなり、携わった多くの研究者は離れていった。 だが研究の中心人物と一握りの同志は、この施設に引き込まれ計画を強制的に続行、あるいは嬉々として行うこととなったのだ。 そしてまた一体のコピー・メシアが、完成を迎えようとしていた。 「今回は異常なほど順調に進められましたね」 「向こうじゃ、こんなに高レベルなコアを7個も譲っちゃくれないしな。  ここには欲しいものが何だって揃ってる。俺たちゃそれを使って造るだけだ」 「問題は正常に動作するかどうか・・・・・・そろそろ始まるようですね」 研究者たちが覗くガラス窓の向こうには、セイントメシアに似た黒いアームヘッドの頭が見える。 アームヘッドの足元では、研究チームのリーダーがその機体を見上げていた。 「よし・・・・・・起動テストッ!開始だッ!!」 血色が悪く目の下も濃い隈で黒くなっているリーダーが気合十分に叫ぶ。 同時にその手に握りしめられたセイントメシア・フィギュアが砕け散った。 「共振用AI起動!」 「各個アームコアの覚醒、開始します!」 続いて観察室のオペレータ達が遠隔操作で起動をかける。 このアームヘッドは高レベルのアームコアを7つ搭載しているが、 各コアの調和波長パターンがそれぞれ異なる為、全てを覚醒できる人物を用意する必要がある。 しかしその上で「血染の羽毛」を超える操縦技術を持ったパイロットという都合のいい存在がいるはずもなく、 それが出来る人類・アームヘディアンを生み出す研究はこの施設内でもまだまだ途上なのだ。 そこで彼らが目を付けたのは、これまた途上だが一応実用化には至っている、 アームヘッドを人工知能によって覚醒させる「ファントム」の技術である。 メシアの設計図同様、村井研究所・菊田重工から盗んだ試作技術を用いて、 高レベルデュアルホーンの無人アームヘッドを起動させようというのである。 「各コア、覚醒率上昇!」 「ファーストコアの覚醒率26%!」 「サードコアの覚醒率21%!」 「合計覚醒率は現在AI制御可能範囲内です」 「いいぞ・・・!その調子だ・・・・・・!  目覚めよ、エンデシア・・・・・・!!」 研究リーダーが血走った目をしながら言った。 「・・・・・・合計覚醒率、AI制御可能限界値に達しました!」 「AIの同調率自動低減が行われます!」 全てのコアが覚醒する直前の事だった。 現段階のAIに制御できるコアの覚醒率には限度がある。 この機体の場合、少なくとも7つ全ての覚醒率が30%を超えなければ正常な覚醒は得られない。 そのためAIの制御可能限界値は通常機体よりも遥かに高めにとってあるはずだった。 しかしこの規格外コアでは合計覚醒率が何らかの増幅を経ており、 容易にAIの安全装置を起動させてしまったのだ。 「なん・・・だと・・・・・・。  ・・・くっ・・・・・・ぬぅーッ・・・!」 研究リーダーは爪を立てながら頭を抱えた。 「覚醒率は安定して下降中、制御に関しては成功です」 「今回の実験は中止でよろしいですかな」 観察室から声がする。 「・・・・・・・・・。  い、いいや!実験は続行だッ!!  起動は!成功はもう目前なんだぞッ!これ以上失敗してたまるものか!!」 リーダーは微振動するアームヘッドの足元で取り乱した。 「し、しかし!AI制御を離れて起動すれば何が起こるか・・・・・・」 「自壊スイッチがあるだろう!事が起こりゃそれを使えばいい!!  我々にはもう時間がないのだ!今にセイントメシアが首を刈りに来るッ!  わかっているんだろうな!リミッターなどックソッくらえだッ!!」 リーダーは半ば発狂気味に、メシアフィギュアの破片を観察室の窓に投げつける。 「どういたしますか?」 「責任はリーダーがとってくれるんでしょう」 そしてAIの同調率制御が解除された。 7つのアームコアの覚醒率が見る見る上昇していく・・・・・・! 「全コア覚醒率29%超!起動します!」 「早く戻ってください!」 しかし研究リーダーはアームヘッドの足元で呆然と見上げていた。 「覚醒率急上昇!」 「・・・・・・エンデシアの覚醒完了を確認!」 「数値は依然上がり続けています!」 「おおおおお・・・・・・!?」 アームヘッドの目に青白い光が燈る。 覚醒した7本のホーンも赤黒いオーラを発し始めた。 やがてそれは全身に広がって収縮。 ・・・・・・黒いアームヘッドの身体は、更に吸い込まれるような深い黒に染まり、禍々しく形を変えていく・・・・・・! 「おおお!!すんばらしい!!これがTレベルコアの真価か!!  さあッ!産声を上げよ!動いてみせよ!お前の力を見せるのだ!」 リーダーは叫びながら手振りで指示を出す。 無人アームヘッド・エンデシアの各ホーン覚醒率は既に60%を超えていた。 エンデシアの目前で、白い風船が膨らみだした。 セイントメシア型バルーンだ。 「まだAIが生きているならあれにも反応するはずだ・・・・・・!」 エンデシアは膨らむバルーンを静かに見据えていた。 しばらくして右腕に持った鎌を構える。 「おお・・・動いた・・・やったぞ・・・・・・」 そして・・・・・・エンデシアは鎌を突き立てた! 狙いは床!そこにあるのはガスボンベだ! 爆発するボンベと音を立てて飛び回るバルーン!! 「な゙!!!!」 リーダーの想定では景気付けにメシアバルーンを真っ二つにするはずだった。 だがエンデシアの動きはその上を行っていた。 いや、既にAIの制御下にはないのか!? ”我々を呼び覚まし、この肉体を賜った事、感謝しよう” リーダーと研究者の意識の中に、冷たい声が響き渡った。 人々はその瞬間、途端に凍えたように硬直した。 「・・・う、うわああああ」 「自壊スイッチ無効です!」 「暴走!危険!ただちにアームキルを!」 硬直から復帰した観察室は、不自然なほどの恐怖に駆られていた。 「おいどうした?まだ暴れちゃないだろ!大丈夫だ!!  しかし自壊スイッチが効かない?身体の全機能がコアの制御下に置かれている?  既に一個体の生物になったつもりだというのか!?」 リーダーが叫んだ時、背後のハッチが開いて7体の量産型アームヘッド・ヴァントーズが入室する。 「完全状態ではない今ならアームキルできる!」 「急げ!」 ヴァントーズのパイロット達が言って、総攻撃をかける。 エンデシアは7体の攻撃を全て、同数のホーンで受け止めた。 そして・・・・・・それを回転して弾くと同時、余った右腕の鎌も振り回す!! 胴部から真っ二つに引き裂かれる全ヴァントーズ! 「おおお!?」 エンデシアの足元に居たリーダーは、自身に飛び来るヴァントーズの体液を見た。 しかしそれが彼にかかることはなかった。 切り裂かれ飛び散ったはずのヴァントーズの体液は、急速にエンデシアの鎌に集まっていく。 それらは全て鎌に染み渡り、その色も完全に消えた。 「なんだ!?あの武器はただの鎌・・・・・・」 続いて悪魔的アームヘッドは、鎌をヴァントーズの残骸に突き刺して体液を吸い上げる。 ガス爆発の煙とヴァントーズの破片に囲まれながら、リーダーはそれを見ていた。 観察室の人員は脱出の為に鍵を開ける。 しかしドアは外側からの鍵もかけられており退室は不可能だった。 エンデシアは全敵の体液を吸いきった後で大鎌を振り回した。 その刃は瞬間的に紅く染まり、次には周囲の壁が大きく切り裂かれていた。 割られた観察室の窓に飛び込んできたのはアームヘッドの体液だ。 「血圧カッターとでも言うのかッ!?」 次に悪魔は引き下げた鎌を振り上げて、血の刃を放ち天井を深く切り裂く。 それを幾度か繰り返し、5層上の地上まで通ずるほどの深い穴を作り出した。 「おおお・・・・・・!何もかも想定を超えている・・・!  だがそれこそ私の思い描いていた邪なる終世主、イヴィレンデシアに相応しい・・・!!」 天井からの瓦礫の降る中、一人喜ぶ研究リーダー。 エンデシアはダメ押しと言わんばかりに、縦横に大鎌を繰り出した。 血の斬撃は観察室を完全に潰し、天井の崩落を加速させ遥か上の薄明るい空をより見易くした。 やがて黒いアームヘッドは静かに首を上げ空を注視した。 その周囲では瓦礫に紛れて研究員の人々や研究成果の数々も降り続けている。 エンデシアはそれらに意識を向けることなく、ゆっくりと宙に浮かび始めた。 「・・・・・・!?・・・い、いったい何処へ行くつもりだ・・・行ってしまうのですか!?  これから何をするつもりなんです・・・・・・お前を作ったのはこの私だ!  お前までもが去ったら私はここで一生を過ごすことになってしまいます!  私を見捨てるというのか、お前は!!??」 無休の研究で疲労も限界に達し、更にこのトラブルで遂に正気を失ってしまったリーダーは、 言葉を乱しながら、膝をつき神に祈るようにして絶叫した。 部屋の半ばまで浮いていたエンデシアは減速し、その冷たい眼光で生みの親を見下ろした。 #ref(first1.jpg) ”我々は貴様の救世主ではない。  だが安心しろ。  貴様の望み通り、この世界はじきに終わりを迎える。我々の手によって” エンデシア―否、イヴィレンデシアは、加速上昇を始め回転、 全身のホーンで天井をくり抜きながら空へ向かって飛翔した。 研究リーダーはその様子を呆然と見続け、やがて空の彼方へと研究成果が消えた時、 両手を床について、ただ嗚咽し続けた。 「・・・・・・また・・・・・・つくりなおさねば・・・・・・」 END

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