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千代さんは泣いていた。泣きながら、この先へ案内してくれた。 彼女の涙は正真正銘悲しみの泪だった。 縷々の間を目の前にした。ついに。 あの日のことを思い出した。 るる様に祭壇へ招かれた日のこと。 「しん、ぼくは君が思うようなのではないよ」と言ったあの人のことを。 それを聞いて、いよいよぼくは何もわからなくなって、大好きだった神が人だと受け入れられなくて、苦しくて、けれど大好きだった。 それで、その人を穢してしまった。 その日のことを、思い出した。 百年忘れていたその日のことを。 ぼくは始まりのティアーズ。ぼくの彼女との縁は契りではなく、約束だった。 それがぼくを千年以上も生かした。千年の罰だったのだ。 罰だったのに、僕はついにそれに耐えられず、百年前に記憶を失ってしまった。 それでも、るる様に会う。会わねばならない。 覚悟を決め、足を踏み出そうとすると、黒髪の男が出てきた。しかし、彼はこちらを見もせずに、こちらの来た道をなぞって消えた。 「気にしないでいいよ、変な奴らしいからさ」千代さんが泣きながら気丈に振舞っていた。 「さ、入ろうか。るるの欠片。るるを、取り戻して」 そうだ、ここに立ち入るんだ。ついに。 真っ白な空間だった。今までも真っ白だったが、もっと真っ白に感じた。 真ん中に、少女が一人。何も変わっていなかった。 こちらを見ていた。なんとも言えない顔だった。知らない、知っている、好き、嫌い、良い、嫌、来て、来ないで、すべてが含まれていた。 だけどやっぱり、ぼくには彼女がるる様には見えなかった。 あの日顔は見た。何も違っていない。けれど、あの方は、もっと、楽しそうだった。それを、奪った。僕が。 聖剣から降りた。 「……生きてたんだね」先に声を発したのはるる様だった。 「恥知らずにも」 「……どうして、きたの」 「それは」続かなかった。 そうして作られた沈黙は堅く破られない。 だが、それではいけないのだ。 「悔いています。あなたに、謝りたい。謝って済む問題ではなくとも」 「うん、聞く」 「申し訳ありません!貴方の御身を穢してしまいました。ぼくは、あなたにお仕えする身でありながら」 「そういうの、なの」 「そういうの、とは」 「ぼくは、それが聞きたいんじゃない」 深呼吸をする。 「るる様」 「うん」 「るる様、たくさん、たくさん、悔いること、詫びるべきこと、たくさん、たくさん、浮かぶのです」 「うん」 「けれどるる様、あなたを一人にして、こんなにも長い時を、こんなになるまで生きながらえさせてしまったことが何よりも辛く、申し訳ないのです」 「うん」 「あなたを神でなく、人として」そこまで聞いて少し、るる様が笑顔になった。そうして遮る。 「ぼくにも、できるかなあ」 「な、なにを、でしょうか」 「ぼくにも、ぼくらにも、恋は、できるかな」 「で、ですが」 「何千年も、ぼくに謝ろうと生きてくれたんでしょ。そんな拷問、ぼくには耐えられない。十分な贖罪だと思うけど」 「いえ、ぼくもそれに耐えることはできず、記憶を」 言い終える前に押し倒された。 「いいんだよ!まどろっこしいなあしんは!なんだよ!ぼくをこれからずっと愛するって言えばいいんだ!いってよ!そうすれば僕はそれだけで」 顔が真っ赤で、声が上ずって、今にも泣きだしそうで、人だった。彼女は、るる様だった。 ついに泣いていた。 「るる様」 「うん」 「るる様」 「うん」 「るる」 「うん」 「これまでもとこしえの恋でした。あなたのおかげです。だから一から、今度はふたりで、またとこしえに、恋をしましょう」 「うん。うん。うん。うん」僕の胸で泣いていた。るる様が。それが、とても幸せで――。 「んーにゃ、それはさせない」声の主を見る。 源千代は笑っていた。
千代さんは泣いていた。泣きながら、この先へ案内してくれた。 彼女の涙は正真正銘悲しみの泪だった。 縷々の間を目の前にした。ついに。 あの日のことを思い出した。 るる様に祭壇へ招かれた日のこと。 「しん、ぼくは君が思うようなのではないよ」と言ったあの人のことを。 それを聞いて、いよいよぼくは何もわからなくなって、大好きだった神が人だと受け入れられなくて、苦しくて、けれど大好きだった。 それで、その人を穢してしまった。 その日のことを、思い出した。 百年忘れていたその日のことを。 ぼくは始まりのティアーズ。ぼくの彼女との縁は契りではなく、約束だった。 それがぼくを千年以上も生かした。千年の罰だったのだ。 罰だったのに、僕はついにそれに耐えられず、百年前に記憶を失ってしまった。 それでも、るる様に会う。会わねばならない。 覚悟を決め、足を踏み出そうとすると、黒髪の男が出てきた。しかし、彼はこちらを見もせずに、こちらの来た道をなぞって消えた。 「気にしないでいいよ、変な奴らしいからさ」千代さんが泣きながら気丈に振舞っていた。 「さ、入ろうか。るるの欠片。るるを、取り戻して」 そうだ、ここに立ち入るんだ。ついに。 真っ白な空間だった。今までも真っ白だったが、もっと真っ白に感じた。 真ん中に、少女が一人。見た目は違っていた。肌の色も髪の色も、目も。けれど何も変わっていないように思った。 こちらを見ていた。なんとも言えない顔だった。知らない、知っている、好き、嫌い、良い、嫌、来て、来ないで、すべてが含まれていた。 だけどやっぱり、ぼくには彼女がるる様には見えなかった。彼女のままにも思えるのに、そうでなくも思えてしまった。 あの日、顔は見た。何も違っていない。けれど、あの方は、もっと、楽しそうだった。嬉しそうだった。それを、奪った。ぼくが。 聖剣から降りた。 「……生きてたんだね」先に声を発したのはるる様だった。 「はい」 「……どうして、きたの」 「それは」続かなかった。 そうして作られた沈黙は堅く破られない。 だが、それではいけないのだ。 「悔いています。あなたに、謝りたいのです。謝って済む問題ではなくとも」 「うん、聞く」 「貴方の御身を穢してしまいました。ぼくは、あなたにお仕えする身でありながら」 「そういうの、なの」 「そういうの、とは」 「ぼくは、それが聞きたいんじゃない」 ぼくも、本当に勝手ながら、それを言いたいんじゃない。深呼吸をする。 「るる様」 「うん」 「るる様、たくさん、たくさん、悔いること、詫びるべきこと、たくさん、たくさん、浮かぶのです」 「うん」 「けれどるる様、あなたを一人にして、こんなにも長い時を、こんなになるまで生きながらえさせてしまったことが何よりも辛い」 「うん」 「あなたの隣に、ぼくがいたかった」そこまで聞いて少し、るる様が笑顔になった。 「ぼくにも、できるかなあ」 「な、なにを、でしょうか」 「ぼくにも、ぼくらにも、恋は、できるかな」 「で、ですが」 「何千年も、ぼくに謝ろうと生きてくれたんでしょ。そんな拷問、ぼくには耐えられない。十分な贖罪だと思うけど」 「いえ、ぼくもそれに耐えることはできず、記憶を」 言い終える前に押し倒された。 「そんなのいい。いいんだよ!まどろっこしいなあしんは!なんだよ!ぼくをこれからずっと愛するって言えばいいんだ!いってよ!そうすれば僕はそれだけで、だけでぇ」 顔が真っ赤で、声が上ずって、今にも泣きだしそうで、人だった。彼女は、るる様だった。 ついに泣いていた。 「るる様」 「うん」 「るる様」 「うん」 「るる」 「うん」 「これまでもとこしえの恋でした。あなたのおかげです。だから一から、今度はふたりで、またとこしえに、恋をしましょう」 「うん。うん。うん。うん」僕の胸で泣いていた。るる様が。それが、とても幸せで――。 「んーにゃ、それはさせない」声の主を見る。 源千代が笑っていた。

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