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3. I'M NO ANGEL - (2015/12/19 (土) 19:58:31) の1つ前との変更点

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謎のアームヘッド組織・ピーマーンの宣戦布告、その尖兵であるロンリーアンドを撃ち破った村井辛太郎は、 突如現れた協力者・アカリを隣に乗せ、愛機のセイントメシアグレイサードと共に当て所なくさまようのだった。 「あああ・・・もう休ませよう」 灰色の機体は広い駐車場に着陸し、簡易駐足場として違法駐足した。 しかしそれを注意する者どころか人っ子一人居ないため、足音の響いた後には不気味な静寂だけが広がった。 辛太郎はようやく一息つき、それから隣を見やった。長らくお目にかかれなかった(正真正銘の)女だ!・・・・・・。 「あ、アカリさんって言った?い、いったい何者なんだ、君は?」 「何者?なんていうか・・・」 「俺はヘブンから来た傭兵でパプリカーンのテロリストでもある御蓮人だ!君もアカリっていうんだから御蓮の人?」 「ううん。あたしはここの、月の人だよ」 「そ、そうなんだ・・・ハッでもそういえばトンドル人の名前は数字だって聞き覚えが」 「えっアッそう、またの名を9129-06-4046」 「それは青汁の電話番号だ!名前は4ケタか8ケタって聞いたぞ!」 「あっエッ、そ、それ以上はこじんじょうほうよ!しつこい!」 辛太郎は目を細め睨む。この少女は適当に合わせて答えているのか?あるいは何か隠している? 「まあ名前はアカリさんね、数字の名前が嫌だってのは分かる。それで、何でグレイサードを操縦できたんだ?  しかもロンリーアンドの機体特性から弱点までも知っていた、本人から聞いたようにも言ってたな・・・・・・  やっぱり俺たちの同業者なのか?」 「ええまあ、なんかそういうの」 「じゃあ・・・でも君の機体は?どこの所属?でもトンドルアムヘと喋った?つまりトンドル側?でも何で俺を助け・・・・・・」 「・・・・・・・・・」 思いがけず溜まった疑問を口走ってしまったが、アカリの目が次第に水分で潤うのを見てしまった。 「あああ!なんか触れてはいけない事を聞いたようでごめんなさい!質問攻めする奴ってクズだよな~」 「そうよ!まったくそのとおりよ!」 打って変わった元気な反撃に辛太郎は涙目になった。 「・・・えっと、そう、あたしは少し前までここに住んでた。お母さんと一緒にね」 「お母さん?」 「でも突然いなくなって・・・しばらくしたら街の人たちも何処かへ逃げていったわ。ここにあの、ピーマーンが来たからね。  連中は何かを探してて、その間あたしは一人でずっと隠れてた」 「置いていくなんて!ああいや、何でもない・・・」 「奴らの気配が無くなって、あたしは外に出てきて・・・そして出会ったの!地面に刺さったグレイサード君とね!」 突然表情の明るくなるアカリ。 「彼は話さなかったけど、ひどく困ってるのは分かった。きっとシンタロの事が心配だったのね。  だからあたしは彼をほっとけなくて、その流れであんたを助けたってゆーわけ」 「へえ・・・そんなにうちのグレイサードが好きなの?」 その質問に頬を染めるアカリの仕草を見、辛太郎までも骨抜きとなった。 「これは運命だわ」 「いやあでも人間とアームヘッドじゃあ?しかもコイツは俺の愛機だぞ」 「妬いてるの?」 「妬くの?どどどどっちが誰に?」 目前の美少女が惚れるアムヘの相棒・・・辛太郎は到来する謎の感情に半ば混乱していた。 「ごほっごほん!お母さんが行方不明なのか。色々複雑なんだな。ゴホン!  じゃあ一緒に見つけよう。そして俺とグレイサードはヘブンに帰る手段を見つけなきゃならん。  助けを借りようにも他に誰もいない。君も手伝ってくれ」 「いいよ!グレイサード君のためなら」 二人は機体を降り閑散とした街に踏み出した。 目の前には非常灯が不気味に燈る廃マーケット施設があり、停めていたのはそこの駐車場だった。 「とりあえずここが月のどの辺かだけでも知りたいな」 辛太郎が閉ざされたガラス扉と取っ組み合い、虚しく警報だけが響く。 「えっと銃、銃」 荷物入れを漁るがパプリカ型手榴閃光弾、ゲームボーズ、セイギマンDVDなど ズダダダダッ! 咄嗟に伏せた辛太郎の前で砕け散るガラス! 「あっゴメーン」 アカリがグレイサードの指レーザーで撃ち破ったのだ。 辛太郎は何度も振り返り怒りの視線を投げながら店内に侵入する。 まず地図を盗むべく、薄暗い店内を懐中電灯で照らしながら二人は進む。 「ああそうだ、アカリさんのお母さんってどんな人?」 「赤いの」 「君と同じで赤毛なのか」 「それで赤が好きなの」 「服装も赤系というわけか」 「しかも強いの」 「母は強し・・・・・・うん?離れていても感じ取れるほどの戦闘力の持ち主という訳か、そりゃ探しやすそうだ?」 辛太郎はセイギマンシリーズに登場する女幹部を無意味に連想しながら歩みを進める。 特殊部隊めいた動きでガイドブック売り場に到達した。 「あったぞ地図!」「よかったね」 早速床に広げてライトを当てる。 「やべえ全然わかんねえ」 地図には何やら数字がおびただしく羅列されている。 「今いるのはたぶんここだよ」 アカリが指をさす一方、辛太郎も地形から思い出しかつての任務の拠点を見つけた。 「ええと、このマーケットは83252地区店、俺が出てきたロデオ基地は160・・・・・・  おい頭の数字もケタも全然違うじゃねーか!地名もクソ分かり辛い!」 そして当然その距離も想像以上に離れていた。 「あああ・・・・・・シャトルから落ちたから余計遠くに来ちまったんだ・・・・・・  ピーマーンの増援が来るっていうし早めに逃げたいところだが・・・この距離じゃ・・・・・・」 「じゃあどうすんの?」 「ん?他にも宇宙港が幾つかあるな・・・ここの人がそこから逃げたとすれば、まだ望みはあるか?」 「みんなしてヘブンに行っちゃったって?」 「俺はそう願いたいね」 「そんなの・・・・・・」 「・・・あっアカリのお母さんはまだ待ってるんじゃないかな?この街か宇宙港かどっか」 「そうだといいけど」 「まだ待ってくれてる船がないと困る、とりあえず当たってみよう」 辛太郎は地図を丸めリュックに差し込み、売り場を後にした。 特殊部隊めいた動きで下階の食品コーナーに到達した。 「うっ臭うな・・・・・・ナマモノは無理だ」 生鮮コーナーの消費期限は一週間近く前の表記であった。 だが保冷機能は働いているので、冷凍食品コーナーから冷凍テングの最強焼き、宇宙タコわさび、煮スカイフィッシュなどを盗みつつ進んだ。 主食を求め地下をさまよい、ドーナツ型シリアル、おつまみベビーパスターなど僅かな売れ残りを何とか回収した時だった。 「・・・・・・何か言ったか?」 「あたしは何も?」 空耳をしたか、と思った直後、暗闇の奥でガサガサと音が鳴った。 棚に陳列された商品を崩すような音だ。 「お、俺たち以外に、誰かいる・・・・・・!」 「どなたですかー?」 ガタガタッ!バサバサッ! こちらの声に反応するようにして物音は激しくなる。 辛太郎が恐る恐る電灯で周囲を舐めると、僅か一瞬蠢く影が壁に映った。 「ヒッ・・・い、今のは、人間の形じゃないぞ・・・・・・」 「へぇーなんだろ」 ガツガツ!ガツガツ! 乱暴に叩きつけるような音と咀嚼音が等間隔に鳴り響いている。 更に物音が二つに分かれたように感じ、片側が床に対する金属音に変わる。 本能的に危機を感じその方向をライトで射る!瞬間的に反射した鋭い眼光! カシン!カシン!カシン!カシン! 「うわァーッ!?」 それは紛うことなき鋼の足音だ!辛太郎が震える手でリュックを漁る! ようやく拳銃を探し当てる!発砲!狙いは明後日! 『ピギイーッ!』 機械音声的動物的悲鳴と共に響き渡る金属音! 「なんなのよ?」 アカリが辛太郎の手首を掴み、電灯でそれを照らさせる。 果たして床に転がっていたのは、丸みを帯びた殻に身を包んだ奇妙な生物であった。 「かっ回転頭突き生物!」 「子供のボロックだわ」 回転頭突き生物(通称ボロック)とはトンドルの月に住まう原始的生物だ。 有機的甲殻や機械的内部機構で構成されたそれは、一説にはトンドルのあらゆる生命(人間からアームヘッドに至るまで)の先祖であるとも言われている。 丸い体を持つ二足歩行、二・三頭身というほど巨大な頭を持ち、これによる頭突きを攻撃など様々な用途に使う。 また最大の特徴として手足を折りたたみダンゴムシめいた完全な球体への変形機構があり、身を隠す他にそのまま高速回転で移動する点がユニークで知られる。 稀にヘブンに輸出される個体は珍獣として大変人気を誇る一方、この生物を使った暗黒スポーツ競技さえも存在するという。 他にも脳に当たる器官に分離可能な寄生生物が共生するなど様々な特徴があるが詳しくは専門文献を参照(I・サニーレタス著「ボール・オーク全図解」等) 『ピー!ピギッ!』 驚きひっくり返ってじたばたするボロックに、アカリがしゃがみ込み覗く。 「おい気を付けろ!寄生されるぞ!」 「だいじょぶだってば」 恐れる辛太郎をよそにアカリがボロックをつつき、球状形態への変形を促す。 球体となった生物は綺麗に高速後転し引き下がり、距離を取ってから二足歩行に戻る。 「ホントに大丈夫か・・・・・・」 これを合図とするかのように、周囲の闇から鳴る物音が増え、二人を取り囲む。 「うーん、多分」 ガツガツ!ガツガツ! ふと商品棚を照らすと、ボロックが菓子袋の山に連続頭突きを繰り出して貪り食っているのが見えた。 『グルルルル・・・』 「食べ物が欲しいのかも、あたしたちとか」 「それだけは勘弁なんですけど・・・・・・」 にじり寄る小型ボロック群に対し、辛太郎はしゃがんで荷物からホウカーガン(着火用具)を取りだす。 そして先程盗んだテングの最強焼きの切り身を焼く!香ばしい臭いが地下空間を満たし、貪るもの達を魅了する! 「メシアがれ」 焼きテング切り身を床に置いた瞬間殺到するボロック群!その流れに飲まれる辛太郎とアカリ! 「今のうちに逃げるぞ!」 アカリの手を取り逃げる辛太郎であったがコケまくり、グレイサードの元に辿りついた頃にはアカリに引きずられていた。 「・・・・・・ふう、逃げ切ったか」 辛太郎は愛機の足元でマーケット内を振り返る。目を凝らすと、丸い影がぴょこぴょこ揺れるのが見えた。 「なつかれちゃったみたいね」 店内から漏れ出した野良ボロックは、グレイサードを見ると、一定距離で球状になって休眠し、周囲に円を描くように並んだ。 「か、カワイイところあるじゃん」 「この子たち、乱暴だけどホントは臆病だから、こんな街中まで出てくることはないのよ」 「何?じゃあこの街にはもうとことんまで人の気配が無いという訳か。明日からは他を当たろう」 そして二人はグレイサードの機内へと戻った。 「ボロックたちも住処を追い出されてるのかも、あのピーマーンのやつらにね」 「ピーマーンの増援がここに来たらまた追い出される羽目に遭う、俺たちもだ。まあ明日だ明日」 辛太郎とアカリは操縦席を間に挟んで眠りにつき、かくして月の遭難生活1日目が終わりを告げた。 ---- まもなく訪れる2日目。 「ハッ俺生きてる」 ピーマーンに寝込みを襲われる事を危惧していたが、勝手に見張り番にしていた周囲のボロック達にも反応は無く朝は来た。 辛太郎はグレイサードを降り、振り返ってその巨体を見上げる。 「おっ?傷の治りがずいぶんと早いな・・・・・・」 「たぶんあたしが乗ってるのが嬉しいのね!」 アカリも目を覚ましグレイサードのハッチから顔を覗かせた。 「お、おう・・・今日はとりあえず一番近いシャトル港に行くぞ。連中の来る前にな」 セイントメシアグレイサードは突風が巻き上げる小石を弾きながら岩石地帯を駆けていた。 辛太郎はドーナツ型シリアルを半ば流し込む食事をしつつ発射台の座標を目指した。 「荒れてるな・・・なんか急に不安になってきたぞ」 迷いに迷った末、遂に宇宙港の座標ポイントへと辿り着いた。 「・・・・・・ここでいいんだよなあ?」 「あたしに聞かないで」 そこは確かに金属の柱で出来た建造物に、舗装された地面のある、発射台と思しき場所であった。 しかしそれはごく簡易的なものだったようで、その上今では錆崩れてそこら中が石ころに覆われているような有様だ。 「なんてこった、人の気配すら何年も前から無いようだな」 錆びた倉庫の屋根をこじ開けるも、ロケットの類は面影もなくもぬけの殻であった。 「ハズレだったね」 「くそッ!長居してると帰り道も忘れそうだ、帰ろ」 そして辛太郎一行は紆余曲折の末に再びマーケット83252地区店前の駐車場へと戻ってきた。 「なんとか無事に帰れたがこれからどうする・・・・・・うーんうーん」 やがて辛太郎はグレイサードのコンソールをいじりだし、一枚のディスクを挿入した。 「それなに?」 \鉄壁正義!セイギマンメタル!/ セイギマンDVDがコクピット内モニタ全体に映し出される。 「俺の精神統一に必要不可欠な一種の禅なのだ。そしてセメントイシヤもこれを見せると実際動きが良くなる」 \エピソード1!イノーガニックジャスティスエンフォーサー!/ 画面のセイギマンがポーズを決め、辛太郎がポーズを決め、グレイサードがポーズを決める。 「ハハハ、イシヤも台詞に身体が反応して勝手に動いてる」 「へぇーグレイサード君こういうのが好きなんだ」 アカリもしばらくセイギマンに見入り、瞬く間に時間は過ぎていった。 DVDを3枚見終わり夜・・・。 「やっぱりセイギマンメタルは名作だな・・・はっもうこんな時間か寝るか」 「シンタロ、ちょっと降りて」 唐突にアカリが言う。 「え?なんで?」 「いいからさ」 半ば追い出される形で辛太郎はグレイサードを降り、そしてアカリを見上げた。 「も、もしかして急に恥ずかしくなったのかあ~」 「あたし考えたのよ。今日はね、あたしとグレイサード君が一緒に寝る日!  明日はシンタロとグレイサード君て交代するの。それで文句ないでしょ?」 「文句も何も・・・なんで3人じゃ駄目なんだ?」 「駄目なの!今日はあたしたちの邪魔しないでね、じゃおやすみ」 そしてアカリはグレイサードの中に籠った。 「おい!!おっ俺はどこで寝るんだよ・・・」 狼狽していると休眠状態で丸くなるボロック群が目に入った。 「お~い俺も仲間に」 『キシャアアアアアア』ベシッ ボロックの頭が開きマスク型脳味噌寄生生物が射出され辛太郎の顔面に叩きつけられた。 「ひ、ひどい・・・俺になついた訳じゃなかったのか・・・・・・」 ---- ふと気づけば3日目の朝・・・・・・。 辛太郎は冷たいセメントの上で冷たくなっていたが命に別状は無かった。 「ああくそ、こんな夜は二度と過ごしてなるものか・・・今日こそヘブンに帰るぞ」 顔と全身に貼り付いたマスク型寄生生物を剥がしながら立ち上がり、アカリとグレイサードを叩き起こしに行った。 「そうねあなたはセイギマンー♪」 アカリの口ずさむセイギマンメタルEDをBGMに、辛太郎一向の星間船探しは続いた。 現在通っている場所は、手に入れた地図では海上ということになっていた。 そうトンドルの月では既に各地で海面の蒸発が深刻化しているのだ。 この環境下ではピーマーンなど現れずとも、83252地区が丸ごとヘブンへ退避するのはごく自然な流れであった。 かつて水底だったひび割れた地面に、爪先を擦るようにしてグレイサードは駆ける。 「アカリさんにもセイギマンの魅力が理解できるようだな!」 「まあ、グレイサード君もハマってるし」 「こいつには今まで何作品か見せてきたが一番反応良かったのがメタルなんだよな」 そして辛太郎がDVDを再生し始めた後も、3時間以上この旅は続いた。 \そのメタルヘッド・セイギギアは一度被ると二度と取れんのだ、本当に申し訳ない/ 何度聞いたか分からない博士の台詞を耳にこびりつかせながら進み続けている時だった。 「シンタロ、あれ」 「アアッ!?」 アカリが指さす先には、海のあった頃には島になっていただろう丘があった。 そしてその上には確かに、天にそびえる発射台と立ち並ぶシャトル群が視認できた。 「おお・・・遂に見つけたぞ!我が母星へと続く階段!!」 「ほんとに行っちゃうの?」 「発射台の根元をよく見るんだ!人が並んでる、あれは民族大移動だ!きっとアカリのお母さんもいるさ」 「いえ、あそこには・・・・・・いないわ」 「分かるものか!いなくともきっとヘブンで会える!今はとにかく行くぞッ!!」 テンションの上がる辛太郎に応えてブーストするグレイサード!いざ故郷へ! \ここから先は通さないぜ/ 裏腹にセイギマンDVDからは不吉な台詞が流れる。 ズドドドッ!!!! その銃声は映像からのものではなかった!グレイサードの目前を銃弾が抉り、砂煙の壁を立てる! 「ぐおっ!おっ、おい!一体誰だ!何しやがる!?」 取り乱す辛太郎の前の煙が晴れ、降り立った影が浮かぶ。 「ここから先は通さないぜ?」 果たして立ちはだかったのは2機のアームヘッドであった。 轟天重工のアームヘッド・グラブガンに、アプルーエ国家独自の量産型機体・ヨツアシ。 つまり彼らはヘブンから来た、辛太郎と同業の傭兵なのだ。 「俺はロデオ・スターズ所属のシンタロだ!ヘブンに帰りたい!通してくれ!」 「おいこの機体、セメントなんとかとかいうメシアのパチモンの・・・」 「だがシンタロとかいう奴は帰還シャトル襲撃の犠牲者だったはず」 「・・・つまりコイツも連中の操る”宿主”でいいんだな?」 「お、お前たち何を、変な話をしている!?」 焦る辛太郎にアームヘッド達は銃口を向けた。 「へっ騙されるかよ」 「寄生虫とお喋りする趣味ないぜ!」 ヨツアシの重マシンガンが!グラブガンの14連装ミサイルが容赦なく放たれる! 「や、やめろーッ!?」 「きゃーっ!」 ガガガガ!キュッボボボン!! 爆風と閃光がグレイサードを飲み込み激しく揺るがす! 「やめ、やめろ!俺はヘブンに帰るぞ!帰るんだーッ」 グレイサードがラックからセメントブレードを引き抜き構える! だがグラブガンとヨツアシの背後、宇宙港の方面からは更なる傭兵アームヘッド群が迫っていた! 彼らはピーマーンのようなトンドル勢力残党から、星間輸送船の出港を守る為に雇われている! この警備の強化は、辛太郎が巻き込まれた襲撃事件に端を発したものだ。 しかし傭兵たち、ヘブンの者から見れば、今の辛太郎はヘブン機に偽装して侵入工作を謀ろうとする敵残党としか思えないのだ。 更なる弾幕が灰メシアに対して雪崩れ込み、反撃を封じつつ蜂の巣にせんと迫る! 「ぐ、グレイサードくん!シンタローッ!」 「だッだめだッ、肩ブースタがやられる前にっ逃げないと・・・クソッ!お前ら、呪ってやるからなー!」 撃ち抜かれながらもグレイサードは、片側推進器を爆発気味に噴射させ転回すると、全速力で逃げだした。 追撃ミサイルの爆発を背に、そして飛び立つシャトルの噴射煙を背に、辛太郎は逃げるしかなかった。 どこまでも駆け続けるセイントメシアグレイサード。追手などはとうに存在しなかった。 「くそっ呪ってやるやつら、呪ってやる」 「しっかりしてよシンタロ!どこ行くの!」 「まだだ、今日はもう一カ所宇宙港を見に行くぞ、俺は今日帰る、諦めてなるものか!」 辛太郎は今までの方向音痴を忘れてしまったかのような勢いで次の目的地へ! 砂嵐が激しく巨岩の並ぶ地形だ。 しかしそこには確かに発射施設らしきものはあった。 それは最初に行った発射台と同じような荒れぶりで、とても安全な飛行は期待出来なそうだったが、 大きく違う点がそこにはあった。 『シュッ、シュッ』 ボクサーめいた息遣いで、肩部から鉄塊の拳を弾きだしているアームヘッドの姿が見える。 そしてその背後には、辛太郎の輸送船を襲撃したラフフィッシュやロンリーアンド達が乗っていたのと同じ、 円筒型で缶ボトルに似た輸送装置・キャニスターが幾つも立ち並んでいた。 ここは紛れもなく、トンドル勢力残党に占領された宇宙港跡だったのだ。 岩陰に隠れたグレイサードは、辛太郎はそれを覗き込んでいた。 「そうだ、アレだ、アレに乗ってシャトルに張り付けば・・・・・・」 「なにいってんのよ!あそこにいるの、トンドルのアームヘッドよ!どうせアイツもピーマーン、待ち伏せされてるわ」 「だが!相手は一体だけだ!」 「シンタロのバカ!グレイサード君がこんなにボロボロなのに・・・相棒だっていうなら、そんな事も考えてあげられないの!?」 アカリの怒りを受けて辛太郎は我に返った。 「ああ、そうだ・・・セメントイシヤは俺の・・・ここで付き合わせて巻き添えにすることも無い。アカリ、君もだな」 それでも辛太郎は単身生身でキャニスターに乗り込む事を考えたが、アカリに腕を掴まれた。 「帰りたいのはわかるけどさ・・・・・・もう少し月(ここ)に・・・・・・いられない?」 やがてグレイサードは静かに岩場を去った。キャニスターの傍、一台の戦車がその方向に振り向いた。 輸送シャトルへ向け、大空へと撃ち出される強襲カプセル群。 グラブガンやヨツアシの傭兵たちは、それらを一つ余さず撃墜せしめていた。 辛太郎が再び83252地区マーケットに帰ってきた頃には、既に夜も深まっていた。 「さ、今日はシンタロとグレイサード君が寝る日だわ」 「あ!俺とアカリさんの日はないの?グレイサードだって一人で寝たい日があるかも?」 「ない」 「あっそっすよね」 「じゃ、おやすみ」 アカリはそう言い残しグレイサードから跳び降りた。 「あっちょっ寒いだろうに・・・・・・変わった娘だ。なあセメントイシヤよ」 アカリは暗がりを歩きながら、子ボロックを拾って抱え撫でていた。 やがて彼女は空に輝く天球を見上げる。 「お母さん・・・・・・貴女はもう帰れたの?」 ---- そして次の朝が来る。 帰郷のチャンスを目前で二度も失った辛太郎の心境は、焦りや怒りを通り越し半ば開き直る段階にあった。 このまま地図の宇宙港を回っても、護衛傭兵か待ち伏せるトンドル残党に出くわし討たれるだけだ。 かといってここに止まっていても、あのロンリーアンドが言い残した通りピーマーンの増援が来るのだろう。 ではどうやってヘブンに生還する?それが思いつくまで、何もせずここでグレイサードの傷を癒し、 ピーマーンとやらが来るならそれを迎え撃って倒し、先のことはそれから考えようという結論に至った。 「そうだ、食糧なら店の中にたっぷりある、DVDも、ゲームボーズもあるし、かわいい女の子もいる、ここは楽園だったのさ・・・  ならいつまででも待っててやる、来いよピーマーン・・・いやヘブンが来い・・・ヘヘッ」 辛太郎は寝ぼけた己の顔を叩き、顔を洗いに行き、保存食で朝食を済ませ、グレイサードの肩ラックの上に座った。 「二人で何してるの?」 グレイサードの足元にアカリが現れ呼びかけた。 「アカリさんこそ一体どこで寝てたんだ、こんな生活続けたらお互い風邪ひくぞ」 「あたしは大丈夫なの。で、これからどうすんの?」 「待つことにした。グレイサードが治ってピーマーンが来るまでな」 「戦う気なんだ・・・グレイサード君に無理させないでよね?あたしも手伝うよ」 「まあ、まだ気楽でいればいいだろう」 そう言いながら辛太郎はリュックを漁って四角い板状機械を取りだす。 「それはなに?」 アカリもグレイサードを登って辛太郎の背後から覗く。 「ゲームボーズだ。月に上がる時に最新ゲーム機を持って来そびれてな、  こっちで探したら20年前ぐらいのモデルしか売ってなかったんだよ」 そしてそれに四角い板状のカセットを差し込む。 「このスペース・センベイダーも10年以上前のソフトだが、今でも遊べるし俺の過酷な傭兵生活を支える相棒だった」 スペース・センベイダーとは、宇宙空間を舞台に、ヘブンに迫る隕石をプラント皇帝を操作して破壊するゲームである。 平面的なグラフィック上では隕石が煎餅にしかみえないのだ。オカルトマニアの間では頁決戦や隕石ディバイン・パニッシュメント接近を予言していたゲームとも囁かれる。 @01 「ぬおっ、ぬおお」ピシュン!ピシュン! 電子音と共に放たれる皇帝の拳が煎餅隕石を次々に粉砕していき、更に隕石の発生頻度が増加していく。 やがて煎餅群が画面を埋め尽くし、撃ち漏らしがヘブンに落下しGAMEOVER 「は?今の当たってたっしょ?これだからバグゲーは」 「ちょっと面白そうじゃん?やらせてよ」 「フッ初心者には難しいぞ?」 アカリが操作する皇帝は拳が連なった剣のように見える凄まじい連射スピードで隕石を全て殲滅し、 やがて画面上部をうろつく邪神をタコ殴りにして辛太郎の10倍のスコアを叩きだした。 「あー楽しかった」 「ア・・・俺の青春の日々が・・・伝説が一瞬にして・・・」 「ちょっとこれ貸しといてくんない?」 「いいけど壊さないでよ」 辛太郎はそう言い残し、単身寂れた街に繰り出した。 「さてどこだ・・・・・・これかもな」 辿り着いた店は通りに面したガラス張りで、内側には何も映らぬ大画面テレビが複数置かれているのが見える。 辛太郎は周囲を見渡し、路地陰でゴミをつつく子供ボロックを発見した。 『ピギギー!』 抱え上げるなり途端に暴れ出したそれを、辛太郎は店の玄関まで持っていき頭突きを繰り出させてガラス扉を破壊した。 「まさにマスターキーだな」 電機店に侵入したものの、この生活ではコンセントの電力供給を必要とする機器はとても使えない。では目的は? 「・・・・・・ああくそ、ここもゲームボーズ止まりだな・・・」 やはりトンドルの一般店ではヘブン娯楽に輸入規制があるらしく旧式ゲームばかりであった。 白黒からカラーのゲームボーズ、カセットはボング、ロバゴリラ、スベルンダー先生、スーゲーマキオ兄弟など 「古さ・・・・・・」 他には独自技術で作られた機器もあるが遊び方がまるで分からず捨て置いた。 「あー勝った!よしッ今の見た?」 アカリがグレイサードの肩ではしゃいでいると辛太郎が上ってきた。 「ああシンタロ、どこ行ってたの?」 「はいよ」 辛太郎が差し出したのは赤いゲームボーズであった。 センベイダーのカセットが差さっており他のソフトもセットで持ってきた。 「あ!あたしの?ありがとー!いいとこあるじゃん、シンタロ!」 @02 好感度がほんの僅かに上がったが、アカリはその後ゲームに熱中していた。 辛太郎も新しくパクってきたソフトを始めるが、ふと無邪気に遊ぶアカリを見て手を止めた。 (このまま俺は、俺たちはここで遊んで暮らしていくだろうか、あるいは・・・・・・) ---- 次の日、その次の日、またその次・・・・・・。 辛太郎は相変わらず保存食を糧に生き延び、時が来るのを待っていた。 セイギマンメタルを二周し、機能心停止グンタム+(クロス)、世紀末聖救世主伝説などを視聴する日々。 あるいはアカリと共にスーゲーマキオ兄弟の攻略とハイスコア取得に明け暮れる日々。 これまでの戦い続きの過酷な生活に比べれば、申し分のない充分な休暇であった。 しかしそれは戦い慣れした身体を堕落させるには充分すぎる時間だった。 「ああ・・・・・・今日もピーマーン来ねえよな」 グレイサードの肩ラックに寝そべる辛太郎。 「来ない方がいいんじゃないの?」 アカリも逆側の肩に座っている。 「確かにそうだが・・・・・・こんなことならこの間に宇宙港を探しておくべきだった」 「あたしはまあ、今日までグレイサード君とシンタロと居られて楽しかったよ。  ・・・・・・もういっそ、このまま、ここで一緒に暮らさない?」 予想外の言葉を聞いて辛太郎はわずかに固まった。 「・・・そっそういう訳にはいかないだろ!食糧だってゲームボーズの電池だっていずれは尽きるんだ。  ヘブンに帰って新作のセイギマンも見たいしパプリカーンの皆のことも気になる。このままじゃダメなんだ!  それに君はお母さんを探してたんだろ?」 「あたしは・・・お母さんが向こうに帰れたんなら、別にもう、置いてかれてたっていいと思ってるの・・・。  今はただ、グレイサード君の傍にいられたら・・・・・・あたしには分かる、彼もそう望んでる」 「な?何でそんな事を言う、こいつは今までずっと俺と一緒に戦ってきたんだ。こいつも故郷に帰りたいはずだ」 「どうしてそんな事が解るの!」「そっちこそ!」 グレイサードの頭を間に挟んで口論する二人。 「・・・・・・ならば!」 シンタロがおもむろにゲームボーズを取りだし通信ケーブルを差し込む! 「やるのね?・・・・・・」 アカリもゲームボーズのスペース・センベイダーを起動! 「勝った者がグレイサードを手に入れる。かもしれないしそうじゃないかもしれない」 「その勝負受けて立つ!」 ゲーム画面越しに睨み合う両者! @03 スペース・センベイダー対戦モード! 二人の皇帝が二つのヘブンを背に、宇宙空間を流れ来る隕石を殴り、撃ちあうのだ! これは敵の隕石を押し返す連射力、多数の隕石の挙動を予測する計算力、そして自機のみならず背後の天球を守る気配りが要求される! 上級者同士の対戦では小さな画面に膨大な情報量を詰め込んだ混沌の極みでさながら宇宙戦争の惨禍が幻視さえされるという! 激戦の末、煎餅は辛太郎ヘブンに叩きつけられ画面外に吹き飛ばされた。 「まだだ・・・これは10回戦ルールだ!」 5回戦目、辛太郎皇帝の拳がアカリ皇帝の顔面を直接殴り勝利! 「へぇ・・・やるじゃん!」 20戦目、アカリ皇帝が煎餅を縦に団子状に殴り飛ばし多段ヒットで辛太郎皇帝と辛太郎ヘブンが砕け散る! 「ハァー・・・ハァー・・・次で終わりにしてやる!」 そして30戦目、二人の皇帝の拳が、画面上を流れる全ての煎餅が同時に激突し、眩い光と共に全てが消え去る! 「クッ・・・引き分けか」 「まあそういうことにしてあげるけど」 「・・・・・・とにかく俺はヘブンに帰るのを諦めたくない。だが上手い方法が手に入るまではイシヤとここにいる」 「分かった、解ってる・・・・・・でもその為に、これ以上グレイサード君を酷い目に遭わせるのは止めてよね」 グレイサードの頭を間に挟んで握手する二人。 「しっかし、強いなアカリは・・・とても俺の後輩とは思えないぜ、まるで・・・アイツを思い出す」 「アイツって?」 「俺が傭兵だった時の同僚だ、アイツも俺が教えたくせに人間離れした強さになりやがって!  とことん無口だったが任務は完璧にこなす、まあ、大したやつだったよ」 「ふうん?」 「アイツの強さはセンベイダーだけじゃなかった。スイートピーっていうメシアに乗ってた、グレイサードより新型の奴。  それを乗りこなして俺にも太刀打ちできないようなトンドルアムヘを倒しまくってたよ。ヴァーミリオンを倒したのもアイツだったな」 「・・・・・・えっ?・・・・・・」 「うん?」 「ゔ・・・ヴァーミリオン・・・・・・」 「そうだヴァーミリオン、ヘブンから月に送られて暴走した朱いセイントメシア・・・・・・」 辛太郎が言いかけるが、アカリが次第に露わにする、驚愕の表情に気圧された。 「ヴァーミリオンを、倒した?」 「俺たちが雇われた理由の一つがそれだ、ヴァーミリオン討伐任務で送られてきた・・・」 「・・・・・・ど・・・・・・どうして・・・・・・」 「えッ・・・・・・・」 辛太郎は、アカリの声色が悲痛なものに変わっていくのを感じた。 「・・・・・・そんな・・・・・・ひどい、ひどいよ・・・・・・」 「・・・・・・・・・?」 「・・・・・・んな・・・そんなこと・・・それじゃ、あんた達が・・・・・・ッ」 アカリはその目に涙を溜め、やがて背後に振り向くと、グレイサードの肩を飛び降り、街へと駆け出していってしまった。 「お!おい待てッ!?・・・・・・いったいどうしちまったんだ、ヴァーミリオンがなんだって・・・・・・!?」 セイントメシアグレイサードは再び寂れた街の上空を駆けていた。 「セメントイシヤ!アカリが何処に行ったか感じないか!お前も方向音痴かッ」 閑散として陰影の強い無機質な街並みの中に、その影すら捉えることは出来なかった。 しかしこの時彼自身が気づかぬほど徐々に変化が訪れていた。シンタロのシンクロ係数は上昇を始めていた。 まず傾けた操縦桿が固くなったように感じた。それはグレイサード自身が進むべき方向へ修正していることに他ならなかった。 集中が深まるに連れそうした違和感も薄れ、機体は、身体は自然と目指す場所へと向かっていた。 シンタロがゴーストタウンの中に再び降り立つと、身をひそめていたボロック群が蜘蛛の子を散らすように別の陰へと逃げていった。 そしてグレイサードから辛太郎が飛び降りて街路を駆ける。 「アカリ!いるんだろ!」 そこは先日の戦いで廃屋と化した建物の並ぶ地区だ。 瓦礫など遮蔽物が多く散らばり、隠れている者を探すのは簡単ではない。 「アカリーッ!・・・分からないが、俺が悪かった!」 返事は無いが辛太郎は続ける。 「君にとってのヴァーミリオンが、何だったのか俺には想像もつかない!が、とにかく君を傷つけてしまった事を、謝る!」 まだ少し通っている感覚が残る、グレイサードのコアセンサーの余韻を頼りに探す。 「ああ、俺もイシヤも、君を傷つけるようなことは、したくなかった・・・そうだ、これからは君の望んだようにする!  消えてほしいと思ってもらっても構わない、だからもう泣かないでくれ・・・この遭難の旅で、俺たちが参っちまわなかったのは、  君が隣で笑っていたからだ・・・ああそうなんだ、グレイサードは確かに君の傍にいることを望んでる・・・俺も」 辛太郎は崩れた壁の向こう側に語りかける。 「・・・・・・そんな、そんなの・・・分かってるよ・・・あたしは、グレイサード君もシンタロの事も・・・嫌いになんてならないよ・・・だけど」 「アカリ・・・さあ、そんな所で隠れていないで、もう出てきてくれ」 辛太郎が壁の向こうを覗く為、一歩を踏み出す。 「・・・・・・来ないで!」 それは明確な拒絶の一言として見えぬ壁を作った。 「な・・・一体どうしてなんだ!ヴァーミリオンは君の・・・・・・」 しかしその時、アカリは壁の暗がりから立ち上がった。 そして、辛太郎へ向け振り返った。 その表情は悲しみでも怒りでもなく、恐怖と焦燥に満ちていた・・・・・・ 「逃げて!!」 彼女の叫びと同時に、突如として轟いたのは、砲声であった。 そうそれは紛れもなく大砲の撃ち出される轟音だった。 辛太郎には幾度か聞き覚えのある、戦車の咆哮であった。 そして無数の砲声が街を丸ごと包むかのように襲い掛かり、 辛太郎を、アカリを、グレイサードを、瓦礫と粉塵の雪崩が飲み込んでいった。 <続> [[戻>DOWN TO HAVEN]]

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