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5. PAPERCHASE - (2016/03/21 (月) 18:19:57) の1つ前との変更点

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辛太郎とグレイサードの目前に地下へと続くスロープが現れた。 降り始めるとまず暗闇があったが、入門者に反応するようにして天井ライトが次々に点きはじめる。 「ここがピーマーンの本拠地・・・・・・!」 そこに広がっていたのは広大な地下空間。そして物資コンテナやその他機械などが雑多にうず高く積み重なり、 しかし通路も確保されている為に、高い壁に囲まれた迷宮のようになっている奇怪な光景であった。 辛太郎の今いる高さからは部屋全体が壁の上部だけは見通せるが、下の通路の様子までは見えない。 このままスロープを下っていけば通路に達するが、壁に囲まれ視界が封じられるようになる。 即ち侵入者は迷宮で迷わされる上、待ち伏せる警備係からの不意打ちにも晒される。 入口の強力な門番と合わせて三重のセキュリティである。トンドルの残党はパプリカーンよりも遥かに手ごわいのだ。 「くそっ、迷路を通らず上から行きたいところだが・・・絶対撃ち落とされるんだろうな」 グレイサードが嫌々ながらも通路まで下ると、そこで地下空間天井のスピーカーからノイズが流れた。 『我々は地球圏統一帝国上位集団ゴールドブレス、  の下部組織カラスパーティの下部組織、  の残党の残党”ピーマーン”である。』 『そして我こそはピーマーン副官"チラシの裏"ピールペイラーである。  戦車網を抜け"ビビっと来たアベック"と"マサッジハンマー"を打倒し単身ここまで乗り込んできたことは評価しよう。  だがそもそも貴様は標的のロケットの代わりに落ちてきただけの存在でしかない上に、  あまつさえあの方を奪取して我らの計画を邪魔しようとは、でしゃばりにも程がある。  このまま我々と戦い続けるというならば最深部の首領の間を目指すがいい。もっとも道中で我ら精鋭に討たれることとなるがな』 そうしてピーマーンからの一方的な宣言が途切れる。 「ああクソ!どいつもこいつも勝手な事ばかり言いやがる!俺を何だと思っていやがる、どうせならもっと慌てやがれよ・・・  質の悪い喧嘩の大安売りだが買ってやる、覚悟しとけよ」 辛太郎は目前に続く一本道、そしてその突き当たりの曲がり角を目掛け前進する。 このまま道なりに進んでいいものかと思案していると異変! 角の向こうからドリフトめいて曲がってきた一台のバゲット戦車! 『戦いは飽きたのさ・・・』 あのノミ・アームヘッド、"ぼっち軍隊"パラサフィクサの声だ。 「やっぱり出やがったな!」 グレイサードは至近距離砲撃を屈んで交わし、ブレードで一刀両断! バゲットの残骸を一瞥し角の向こうを覗く。そこはまた一本道だが間に幾つか分岐路があった。 『地獄を見れば心が乾く・・・』 パラサフィクサの声は尚も何処からか聞こえていた。先の戦車の中には居なかったのだ。 「戦車は全部ノミ野郎が操ってると見て間違いなさそうだな・・・あの時潰しておけばッ」 辛太郎は新たな道を突き進み始めた、その矢先である。 ドゴドゴドゴッ! 「痛!痛ッッ」 突如としてグレイサードに降りかかったのは石の雨であった。 壁の向こうから投石器が恐ろしく短い連射間隔で撃ちこんで来ているのだ。 何とか脇道に転がり込むと、そこにはやはり連装ストーンキャノン装備アインバックが二台並んでいた。 「フッ、隙あ・・・」 指レーザーで片付けようとしたその時、横の壁から水流カッターの一斉掃射が襲う! 鉄屑の壁に出来た隙間から覗く銃口。水圧レーザー装備アインバックの待ち伏せだ! 「クソ!寄ってたかって・・・」 グレイサードは石と水刃の雨を浴びながら逃走!通路を挟んで反対側の脇道へ! T字路で行き止まり横を向くと、そこにはアームヘッド自壊粒子砲装備アインバックが! 非アームヘッドゆえテトラダイ充填時間のかかるその武器を、アインバックは既にチャージしている! 「読まれてる!」 辛太郎は自壊粒子砲の射線に対し半身になり回避するが、そこで背後から迫る更なる狙撃に気づく! バギジューン!バチバチバチ! 自壊粒子の奔流がグレイサードを掠める!翼のウェポンラックを貫くが、幸い無機部分へのダメージは少ない。 「まずい・・・・・・一発でも直撃したらアウトだぞ」 再びチャージ開始するアインバックに対し、グレイサードはレーザーで牽制しながら退避! 広い通路に戻り脇道に脇目を振らず直進!先のL字路を曲がる! 次の一本道では前方からナパームキャノン装備アインバックが五台連なって進撃! 退路からは脇道から出てきたと思しきキャタピラ音が響く。 グレイサードが再加速!戦車は砲口を上向けナパーム弾を放物線連射!火の海に変わる通路! 「何だ?自分の基地を燃やすつもりかよ!」 辛太郎のいぶかしみも束の間、壁の隙間からグレイサード目掛け水圧レーザーが撃ち込まれる!当たらなかった水流は炎に降りかかり消火! グレイサードは炎上し水流カッターに貫かれながらも、跳び上がり壁を蹴り、鉄屑の山を崩し壁向こうの戦車を潰しつつも、 目下のナパーム戦車にジャスティコンディショナルビームを浴びせる! アインバック群の爆発と共に着地するグレイサード。炎の向こうでは追跡戦車隊が消火しつつ壁の残骸を踏んでいる。 狭い迷宮を進み続ける辛太郎がたどり着いたのは、四方に道の入り口が見える開けた空間であった。 「中間地点か?だが休んでる暇はない」 正面の道を目指していたグレイサードだが、部屋の中心で足を止めることとなった。 『揺らめく影は蘇る悪夢・・・・・・』 パラサフィクサの声と共に部屋に雪崩れ込んでくるバゲット戦車。 それらは辛太郎に砲塔を向けながら部屋一杯に整列! 退路を振り向いたグレイサードが見たのは、今まで遭遇した追手アインバックが道一杯にごった返して迫る光景だ。 「まさに袋の鼠だな・・・・・・」 やがてアインバックも彼を囲み、全ての道が戦車によって塞がれる有り様となる。 「クッ撃ってこないか、投降の猶予を与えてるつもりか?」 しかしグレイサードは右手にバズーカを左手に大剣を持ち構えてみせる。 『運命とあれば心を決める』 ”ぼっち軍隊”の一言でバゲット群が一斉砲撃開始!グレイサードのバリアを削る! そこへアインバックのフィジカル砲!更にバリアを減退した所で、投石・ナパーム・水流・自壊粒子砲が一挙に迫る! 「うおおーッ!」 対しグレイサードは包囲網に捨て身の攻撃!バズーカから伸びるセメント塊付き万国旗を振り回し、トシコソードでバゲットを両断! だが敵の主戦力はアインバックだ!バゲットを盾に対アームヘッド兵器をこれでもかと撃ちこんでくる! 「クッ・・・・・・」 剣を翳し水圧レーザーと自壊粒子砲を辛うじて受け流すが、機体と周囲を燃やされ、怒涛の石の雨に押し潰されそうになる。 「こんな・・・・・・」 ドドドドドドッ!ガガガガガガッ!砲弾が次々にグレイサードを飲み、部屋ごと硝煙と火焔に包まれる! 「ぐわあああああ」 水流カッターとテトラダイ砲も最早無抵抗の辛太郎に向け撃ちこまれる!万事休す! やがて砲声が止み、消火作業と共に煙が晴れて、うつ伏せに倒れるグレイサードの姿が露になった。 何とかアームキルには至らなかったものの、その損傷は甚大であり、起き上がるのも精一杯である。 「・・・・・・くそッ、まさか戦車ごときに・・・まさに多勢に無勢だな。  あああ、本物のセイントメシアみたくバリアで跳ね返して単機で無双できたら・・・・・・」 立とうと顔を上げたグレイサードの眉間に砲口が突きつけられた。 『お前を見れば心が冷える・・・・・・』 死を予感する辛太郎とグレイサード。 それは同時に起こり一人と一機の同期を深めることとなった。 「・・・・・・まさか、アレを使うというのか?セメントイシヤ?」 辛太郎は以前、ヘブンにおいて修行の末に調和能力らしきものを発現させていた。 だがそれは発動させても何も起こらず、自分でも何の能力か把握できなかったため、ホーンを光らせるカッコつけの為だけに使っていた。 しかしセメントイシヤが、グレイサードが今、それを使いたがっているということを、辛太郎は直感的に察したのだ。 「よし分かった、やるぞイシヤ!」 彼らは死の淵にいることを忘れ、集中を深め精神を深く没入させた。 グレイサードの角が光を帯びる。辛太郎は目を瞑る。不明瞭な何かが見える。 シンクロによって見えるそれはイシヤの見る光景だけではなかった。 『砕かれた夢を拾い集めて?』 周囲のバゲットとアインバックが振り向きはじめる。 カシン!カシン!カシン!小さいが、多数の鋼の足音が地下空間に響いていた。 『キシャアアアアア!!』 そして現れたのは回転頭突き古代生物、ボロックだ! この地下空間の陰に潜んでいたもの、鉄屑の壁に住んでいたもの、次々に通路で合流し、 奴らは群れでやって来る!小型ボロックの波が四方から戦車群を囲い込む! それだけではない!天井を掘って現れたのは、アームヘッドの半分ほどもある大型ボロック群! 全てはグレイサードが呼び寄せたものだ! 「これが俺たちの調和”カル・クラナズ”!」 この能力は、ボロックの頭部に格納される寄生生物・クラナの生体ネットワークに接続する能力である。 これによりボロックの群れに呼びかけることや遠隔コントロール、更にその視点さえも共有できるのだ。 故にこの力は、ボロックの存在しないヘブンでは微塵も発揮されなかったのだ! 『ピギーッ!』 小ボロックが戦車の足回りを頭突きで削り始める!キャタピラを破壊され群れに纏わりつかれるバゲット! 水圧レーザーで迎撃しながらボロックを轢き進むアインバック!正面から大型ボロックが回転突進! 大群同士の戦いが始まり、窮地を脱したグレイサードだが、肝心の本体が動かない。 突如として壁に叩きつけられ潰れるバゲット!辛太郎の来た通路から何かが進んできている! 『誰か呼んだかこの俺を?』 ボロックに続き現れたのは”マサッジハンマー”K1T3K2だ。丸みを帯びた姿が酷似! 『くそ~戦車じゃ肩叩きの練習にならねんだよな~』 バゲット群を叩き潰しながら進むK1T3K2だが、その先で倒れるグレイサードに気づく。 「げげっボクサー野郎!どうやってここまで」 『ボロックに助けられたのさ。俺を呼んだのはお前か?ちょうどいいマッサージさせろ!!』 K1T3K2が辛太郎の機体をボコボコに殴り、痛みを通り越して活力を与え自己再生を促し治癒していく! 「ぐはっ・・・・・・マシになったじゃないか」 フラフラと立ち上がるメシアは砲撃を浴びてた時に比べれば元気になった。 『勘違いするな、お前はただの俺の木偶だからな』 ”マサッジハンマー”は言い残し、投石アインバック群に立ち向かっていく! 『そっとしておいてくれ・・・』 やがてこっそりと一部の戦車群が後退し、再び迷宮の奥に潜んで罠を張ろうとする。 一方、予想外の味方を得た辛太郎もボロック軍の一部を率いて迷宮を進む事を決断。 「突撃ーッ!」 グレイサードが二本の剣を寄り合わせ腕からレーザー刃を発振しながら直進! 戦車群を掻き分け目前の通路へ!後から雪崩れ込むボロック! 進んでいくと三叉路!だが辛太郎は迷わず、先にボロック達を分散させて向かわせる。 「これで怖いものなしだぜ」 先遣隊の目から伝わる光景を基に進む方向を割りだす。 だがやはり壁の向こうではパラサフィクサの目が覗いていた! 隙間からナパームを撃つアインバック!ボロック群が焼かれる! 対し辛太郎は彼らに、壁を崩すよう指示してアインバックを潰させる。 正面から投石アインバックが二列で道を塞ぎながら出現! だが見通していた辛太郎が壁の隙間からスマートセメントガンで狙撃!ボロックは動けぬそれを破壊し支障なく突破する。 シンタロ連合軍の進撃は続き七叉路、十五叉路、猫又路などヤバイがボロック海戦術で迷わず正解を選び奥へ奥へと進んでいた。 その行く先、粗大ゴミの迷宮が終わり明確な壁のある部屋では、折り鶴めいたアームヘッドが微動だにせず待ち構えていた。 壁と床には何らかのチラシが一面に貼り付けられ、異様な雰囲気を醸し出しているが、 背後には如何にもといった観音開きの分厚い扉があり、首領の間に続く最後の砦であることを物語っていた。 そんな副官の間におずおずと一台のアインバックが後退してくる。 『どうした?"ぼっち軍隊"、敵はたった一機のぼっちではなかったのか?』 折り鶴が問い詰めると戦車は嫌そうに振り向いた。 『盗まれた過去を探し続けて・・・』 『言い訳になっていないぞパラサフィクサさん、だから趣味で食っていくのは厳しいと言ったのだ、戦車などではなくバイオニクルウェポンを集めていれば』 『そっとしておいてくれ・・・』 パラサフィクサ戦車に続き、生き残りの無人戦車もぞろぞろと副官の間に逃げ込んでくる。 『致し方が無い、お前の尻拭いに手を貸そう。奴はどの位でここに辿り着く?』 折り鶴が問うている間に、入室する戦車の走行音が変わりつつあった。別の音が混ざっている。 『シャーッ!』 戦車の列に続いて現れたのはボロックの行列だった。 それはバゲットの尻を追い飛ばすようにして頭突きを繰り出し攻め込んでくる! 『ええい、道案内をしてどうする!なるほど、敵はお前の戦車のようにボロックを指揮できるという訳か』 部屋に広がる戦車は砲撃で迎える!ボロックは球状形態で掻い潜り首領の扉へ一直線! だがそれらは全て斬撃を受け弾かれる!扉の前に立ちふさがるはただ一羽の折り鶴だ。 「ウワッ」 一方辛太郎は、深部に乗り込ませたボロックの視界共有が突如絶たれたため、意識が眩んだ。 見えたのはゴールと思しき入口と最後の門番だ。もはや兵を数ばかり投入しても解決しない敵が待っている。 辛太郎は意を決しグレイサードと共に、斥候の通ったルートを追跡し迷宮を突き進む! @1 10体のボロックを連れ辿り着いたそこには、やはり先程見た危険状況が広がっていた。 同数の戦車が砲塔を一斉にグレイサードへ向け、中心の折り鶴は滑るように静かに浮いて近づいてくる。 「紙だ」 『我はピーマーン副官、名は"チラシの裏"ピールペイラー。三度目は言わぬぞ。  よくぞここまで来たと言ってやりたいところだが、貴様はこれ以上進むことは出来ん。  我はこの、分厚い鉄扉よりも遥かに険しい壁であるからだ』 異形の折り鶴が、片翼に入れ墨めいて描かれたピザのチラシを歌舞伎がかって見せつける! 「その声、シャトルに喧嘩吹っ掛けてきたのもお前だな!壁だと?ぺらぺらのくせに!」 『軽薄な挑発だ・・・今のうちに叩いておけ、いずれ呼吸するのも億劫になる』 ”チラシの裏”が消える!同時に堰を切ったようなバゲット隊の砲撃! ナパーム砲撃に怯むグレイサードの目前に一瞬映る空間のゆがみ! 気づけばピールペイラーが腕のような紙刃を向け着地しており、メシアの胸部装甲は浅く斬りこまれていた。 「は、はや・・・」 再びピールペイラーが消える!激しく撃たれる砲弾幕、その弾速以上のスピードで縦横無尽に飛び交っている! サッサッサッサッ!音にすればそんなものだがグレイサードの各部に切り傷!体液が霧状になびく! 「くそっ追いつかねえ、せめてノミ野郎だけでも倒す!」 辛太郎はボロック達に指示送信!彼らはその意図を汲み戦車群に飛びかかる。 だが抵抗にあってもすぐに砲塔は破壊しない。ハッチを壊し中を覗くのだ! しかしバゲットはいずれも無人機であった。 『ギギィ・・・』 ボロックの一体が見回し探すと、部屋の隅にキャタピラで穴を掘るアインバックの姿があった。 すかさずそこへ転がり込んでいき風防に飛びつく。頭突き連打で粉砕!コクピット露出! 『キシャアアアー!!』 『そ、そっとしておいてくれー!』 @2 遂に古代生物と対面するノミ・アームヘッド! 次にボロックのとった行動は・・・自身も頭部の風防を開き、脳味噌めいた寄生生物を露出! 『シュルルルル!』 寄生生物クラナが戦車内のパラサフィクサ目がけて放たれる! 顔に貼りついて離れない!暴れ転がるパラサフィクサ!だがそれもやがて静かになる。 クラナ面のパラサフィクサは、そのまま何事も無かったかのようにアインバックへの寄生を再開した。 一方辛太郎は見えざる刃の渦の中で立ち往生していた。そこへ襲い来る砲撃! だがピールペイラーは咄嗟に飛び下がった。砲弾もグレイサードに当たらない。 『”ぼっち軍隊”!何処を狙っている?』 折り鶴が言った時、全てのバゲット戦車が砲塔をピールペイラーに向けていた! グレイサードを囲んでいた弾幕が一斉に援護射撃に変わり、ピールペイラーに降りかかる! 『どういうつもり・・・まさか?』 「たぶんそのまさかなんだよなあ!」 バゲットは操作系統に刺さる遠隔装置によって操作され、遠隔装置は子機であり、親機がいるアインバックによって操作され、 アインバックは親機パラサフィクサに寄生操作され、パラサフィクサは貼りついたクラナに操作され、クラナは辛太郎のグレイサードから指示を受け操作されているのだ。 つまり"ぼっち軍隊"を掌握したことにより、今や全ての戦車が辛太郎の手下となった! 『チッ、正気に戻れパラサフィクサさん!』 ピールペイラーの防御力は見た目通りゼロに近く、バゲットの大砲でさえ一発命中すれば勝負がつく。 ゆえに異常な速度で砲撃の間を掻い潜っているが、グレイサードを守る弾幕に突っ込んでいけば当たるのは時間の問題! 「この勝負もらった!」 グレイサードも両指先からレーザーを放ち牽制!進路を塞がれ避ける折り鶴に対し、砲弾が迫る! ピールペイラーが爆発!・・・いや厳密にはピールペイラーの装甲の表面で爆発が起こったのだ。 「な!?お前紙じゃなかったのかよ」 その着弾箇所は黒ずんだ金属光沢を放っており、周囲の装甲とは異質な印象を受けた。 『これが我が調和能力”メタルブレザー”・・・・・・』 ピールペイラーがバゲットの一台に突進!正面から大砲を受ける! まず弾が触れた頭部がガンメタリックに染まり変質する。そして弾き返し衝撃を与え、空中で爆発する。 即ちこの調和は〈触れた物よりも硬い金属質に体を変換する〉といったものである。 ピザチラシ柄の翼が硬質化しバゲットを両断!爆破!移動!切断!爆破!・・・ 「思い切った奴、戦車もお前らの戦力だろうに!」 グレイサードは後退しつつボロックと戦車をピールペイラーへ差し向ける! 攻撃を避けながら腕の刃で切り刻み、障害を減らしていくピールペイラー! 「あの装甲・・・ずっと維持できなさそうなのが救いか」 ならば何処かに隙はある、辛太郎は再び戦車と共に一斉射撃しようとした。 だが”チラシの裏”は”ぼっち軍隊”の乗るアインバックへと肉薄する! 『!!』 至近距離フィジカルキャノン!その弾は紙のように薄い金属刃によって捌かれる! 『許せ・・・』 ピールペイラーの鋼鉄翼がパラサフィクサごとアインバックの装甲を紙のように裂く! 『炎のにおい染み付いてゲボーッ!』 アインバックの上部が吹き飛び爆散! その時アジト内の全ての戦車が操縦系からスパークを発し、やがてその活動を停止した。 砲声が止み地下空間に一旦の静寂が訪れた。 『パラサフィクサさん、これは戦車を管理しきれなかったお前の責任だ・・・だがお前も、集めた戦車隊これくしょん(タンこれ)と共に散ることが出来て本望だろうて』 ピーマーン副官は落ち着き払って呟き、グレイサードへ刃を向けた。 「くっ仲間ごと切り捨てるとはなんたる無慈悲」 『貴様が寄生しなければその必要もなかった、それに我々バイオニクルは貴様らと違って死を超越した魂の存在だからな』 動き出すピールペイラーに対しボロックらが頭突きで阻止しようとするも、飛び回る相手に追い付かず戦車以上に敵わない。 そこで寄生生物クラナに取り付かせようと飛ばすも空中で裂かれ、逆にボロック群が機能停止に追いやられる事態になった。 「なんてこった月面限定版パプリカーンが壊滅・・・これ以上ボロックを呼んでも通用する相手じゃないぜ」 『いい加減貴様自身の実力で勝負することだな。せいぜい厚みのある戦いになればいいが?』 辛太郎の視界からピールペイラーが消える!グレイサードはとっさにラックから剣を抜く! ガリィン! 仰け反る灰メシア、左手に持つトシコソードの刃が欠けていったのが見える。そのまま倒れるとピザ翼が眼前を通り過ぎていった。 「ダメだ、剣じゃ・・・」 グレイサードは素早く武器を持ち替えながら後ろへ飛ぶ!セメントバズーカ・スマートガンを両手に連射! その射撃も難なくかわし接近、撫で斬りしてくるピールペイラー!ラックに吊るったブレードが盾になり深手は逃れる。 『同志を倒した性能はその程度のものか?ならばメンバー総入替の切欠が出来て僥倖というもの』 「よく喋る紙め、お前も欠員すればいいのに」 次にグレイサードが持ち出したのは右肩のフェザーシックル! @3 折り鶴へ向け振るったかと思うとその勢いのまま手を離れ回転!だが敵は回避! ピールペイラーは翻り斜め上から斬りこんでくる!グレイサードは進行方向にレーザー射! 阻止された折り鶴は方向転換の為に一瞬減速する。その時背後から襲い掛かるフェザーシックル! ブーメランめいて戻ってきた鎌はピールペイラーを両断・・・しそうだったが硬質化により真上に高く弾かれた。 ガヅン! グレイサードの目前にフェザーシックルが刺さったかと思うと、鋭い風が真横をよぎる! 「ぐわッ!?」 迎撃の為構えようとしていた、左指先のレーザー銃口が切断される! 拡散する熱線!それを尻目にピールペイラーの影が渦を巻き、再び間合いを取る! 『これにてとどめる!さらばだ人間!!』 「うおおーッ!!」 セイントメシアを超えるかと言う程の瞬発力で迫りくる折り鶴! グレイサードは右手でフェザーシックルを引き抜く!左手はセメントスマートガン! 鎌ブーメランを投げる!高速回転しながらピールペイラーを目指す!翼で平行に撫でて受け流される! そこへ撃ち込まれるセメント弾丸!折り鶴は正面から同等速度で飛来するそれさえも避けてグレイサードの首を狙う! グレイサードの右腕は投擲動作からの戻り様、光学レーザー刃発振!その瞬間的攻撃も見据えた角度で肉薄するピールペイラー!その眼が勝利の色に怪しく光る! だが背後から襲ってくるフェザーシックル!折り鶴は余裕で硬質化調和!その体表は一瞬にして液化セメントを超える硬度に変化!衰えぬ勢い! グレイサードの左手!斬られ潰された指のレーザー発射口を構える!拡散した不均整なレーザーで迎え撃つ! ――二機が交錯! 「・・・ば・・・・・・馬鹿な・・・・・・』 ”チラシの裏”の予定では、金属化した装甲で光線を反射させ無傷で突破し、辛太郎らを真っ二つにしている筈だった。 だがあの時、セメントが塗られたフェザーシックルを止めた時、いやスマートセメントガンを避けた時、いやブーメランを受け流した時、何処かで狂ってしまったのだ。 辛太郎がセメントガンで狙っていたのはフェザーシックルであった。セメントの塗られたブーメラン鎌がピールペイラーに当たった時、 調和による硬質化は液状セメントの硬さを基準としたために鎌が食い込む。 そして同時に放たれた拡散レーザーは装甲が鎌の硬さに更新される前にピールペイラーを射抜いていた。 @4 ”チラシの裏”の現在はその貧相な体に細かい風穴を幾つも空けている有様であった。 至近距離の故障レーザーはショットガンめいて飛散し見えぬ致命傷を与えていた。 『・・・バイオニ・・・いや・・・アームヘッド・・・貴様は・・・!?』 無論その攻撃判断は辛太郎ほどの力量で、彼一人で出来る訳はなかった。 「フッ決まったな・・・お前もその身体では一撃もかわせまい、大人しく首領の間に案内するんだな」 グレイサードの左腕損傷はレーザー発射により拡大し、煙と火花を散らしていたが辛太郎はあくまで誇らしげだった。 『なッ・・・・・・まだだ!私はまだ戦える、この程度の穴など、むしろ、軽量化されたにすぎん!』 『・・・・・・もうよい、下がりおれ”チラシの裏”・・・・・・』 すると何処からともなくやんごとなき声が鳴り響いた。 『しゅ、首領!?しかし・・・・・・』 『支度は整った。あとはわらわに任せておけ』 「首領・・・だと?」 辛太郎が呟き、折り鶴は縮こまり、グレイサードは首領の間の鉄扉を見る。 分厚い扉が地響きと共に開き始め、中から赤い光と靄が漏れ出す。 その向こうに佇む影を見て、辛太郎たちは目を見開いた。 「あ、アカリ・・・・・・なのか!?」 首領の間の中心に立っていたのは、紛れもなく探し求めていたあの少女であった。 <続> [[戻>DOWN TO HAVEN]]
辛太郎とグレイサードの目前に地下へと続くスロープが現れた。 降り始めるとまず暗闇があったが、入門者に反応するようにして天井ライトが次々に点きはじめる。 「ここがピーマーンの本拠地・・・・・・!」 そこに広がっていたのは広大な地下空間。そして物資コンテナやその他機械などが雑多にうず高く積み重なり、 しかし通路も確保されている為に、高い壁に囲まれた迷宮のようになっている奇怪な光景であった。 辛太郎の今いる高さからは部屋全体が壁の上部だけは見通せるが、下の通路の様子までは見えない。 このままスロープを下っていけば通路に達するが、壁に囲まれ視界が封じられるようになる。 即ち侵入者は迷宮で迷わされる上、待ち伏せる警備係からの不意打ちにも晒される。 入口の強力な門番と合わせて三重のセキュリティである。トンドルの残党はパプリカーンよりも遥かに手ごわいのだ。 「くそっ、迷路を通らず上から行きたいところだが・・・絶対撃ち落とされるんだろうな」 グレイサードが嫌々ながらも通路まで下ると、そこで地下空間天井のスピーカーからノイズが流れた。 『我々は地球圏統一帝国上位集団ゴールドブレス、  の下部組織カラスパーティの下部組織、  の残党の残党”ピーマーン”である。』 『そして我こそはピーマーン副官"チラシの裏"ピールペイラーである。  戦車網を抜け"ビビっと来たアベック"と"マサッジハンマー"を打倒し単身ここまで乗り込んできたことは評価しよう。  だがそもそも貴様は標的のロケットの代わりに落ちてきただけの存在でしかない上に、  あまつさえあの方を奪取して我らの計画を邪魔しようとは、でしゃばりにも程がある。  このまま我々と戦い続けるというならば最深部の首領の間を目指すがいい。もっとも道中で我ら精鋭に討たれることとなるがな』 そうしてピーマーンからの一方的な宣言が途切れる。 「ああクソ!どいつもこいつも勝手な事ばかり言いやがる!俺を何だと思っていやがる、どうせならもっと慌てやがれよ・・・  質の悪い喧嘩の大安売りだが買ってやる、覚悟しとけよ」 辛太郎は目前に続く一本道、そしてその突き当たりの曲がり角を目掛け前進する。 このまま道なりに進んでいいものかと思案していると異変! 角の向こうからドリフトめいて曲がってきた一台のバゲット戦車! 『戦いは飽きたのさ・・・』 あのノミ・アームヘッド、"ぼっち軍隊"パラサフィクサの声だ。 「やっぱり出やがったな!」 グレイサードは至近距離砲撃を屈んで交わし、ブレードで一刀両断! バゲットの残骸を一瞥し角の向こうを覗く。そこはまた一本道だが間に幾つか分岐路があった。 『地獄を見れば心が乾く・・・』 パラサフィクサの声は尚も何処からか聞こえていた。先の戦車の中には居なかったのだ。 「戦車は全部ノミ野郎が操ってると見て間違いなさそうだな・・・あの時潰しておけばッ」 辛太郎は新たな道を突き進み始めた、その矢先である。 ドゴドゴドゴッ! 「痛!痛ッッ」 突如としてグレイサードに降りかかったのは石の雨であった。 壁の向こうから投石器が恐ろしく短い連射間隔で撃ちこんで来ているのだ。 何とか脇道に転がり込むと、そこにはやはり連装ストーンキャノン装備アインバックが二台並んでいた。 「フッ、隙あ・・・」 指レーザーで片付けようとしたその時、横の壁から水流カッターの一斉掃射が襲う! 鉄屑の壁に出来た隙間から覗く銃口。水圧レーザー装備アインバックの待ち伏せだ! 「クソ!寄ってたかって・・・」 グレイサードは石と水刃の雨を浴びながら逃走!通路を挟んで反対側の脇道へ! T字路で行き止まり横を向くと、そこにはアームヘッド自壊粒子砲装備アインバックが! 非アームヘッドゆえテトラダイ充填時間のかかるその武器を、アインバックは既にチャージしている! 「読まれてる!」 辛太郎は自壊粒子砲の射線に対し半身になり回避するが、そこで背後から迫る更なる狙撃に気づく! バギジューン!バチバチバチ! 自壊粒子の奔流がグレイサードを掠める!翼のウェポンラックを貫くが、幸い無機部分へのダメージは少ない。 「まずい・・・・・・一発でも直撃したらアウトだぞ」 再びチャージ開始するアインバックに対し、グレイサードはレーザーで牽制しながら退避! 広い通路に戻り脇道に脇目を振らず直進!先のL字路を曲がる! 次の一本道では前方からナパームキャノン装備アインバックが五台連なって進撃! 退路からは脇道から出てきたと思しきキャタピラ音が響く。 グレイサードが再加速!戦車は砲口を上向けナパーム弾を放物線連射!火の海に変わる通路! 「何だ?自分の基地を燃やすつもりかよ!」 辛太郎のいぶかしみも束の間、壁の隙間からグレイサード目掛け水圧レーザーが撃ち込まれる!当たらなかった水流は炎に降りかかり消火! グレイサードは炎上し水流カッターに貫かれながらも、跳び上がり壁を蹴り、鉄屑の山を崩し壁向こうの戦車を潰しつつも、 目下のナパーム戦車にジャスティコンディショナルビームを浴びせる! アインバック群の爆発と共に着地するグレイサード。炎の向こうでは追跡戦車隊が消火しつつ壁の残骸を踏んでいる。 狭い迷宮を進み続ける辛太郎がたどり着いたのは、四方に道の入り口が見える開けた空間であった。 「中間地点か?だが休んでる暇はない」 正面の道を目指していたグレイサードだが、部屋の中心で足を止めることとなった。 『揺らめく影は蘇る悪夢・・・・・・』 パラサフィクサの声と共に部屋に雪崩れ込んでくるバゲット戦車。 それらは辛太郎に砲塔を向けながら部屋一杯に整列! 退路を振り向いたグレイサードが見たのは、今まで遭遇した追手アインバックが道一杯にごった返して迫る光景だ。 「まさに袋の鼠だな・・・・・・」 やがてアインバックも彼を囲み、全ての道が戦車によって塞がれる有り様となる。 「クッ撃ってこないか、投降の猶予を与えてるつもりか?」 しかしグレイサードは右手にバズーカを左手に大剣を持ち構えてみせる。 『運命とあれば心を決める』 ”ぼっち軍隊”の一言でバゲット群が一斉砲撃開始!グレイサードのバリアを削る! そこへアインバックのフィジカル砲!更にバリアを減退した所で、投石・ナパーム・水流・自壊粒子砲が一挙に迫る! 「うおおーッ!」 対しグレイサードは包囲網に捨て身の攻撃!バズーカから伸びるセメント塊付き万国旗を振り回し、トシコソードでバゲットを両断! だが敵の主戦力はアインバックだ!バゲットを盾に対アームヘッド兵器をこれでもかと撃ちこんでくる! 「クッ・・・・・・」 剣を翳し水圧レーザーと自壊粒子砲を辛うじて受け流すが、機体と周囲を燃やされ、怒涛の石の雨に押し潰されそうになる。 「こんな・・・・・・」 ドドドドドドッ!ガガガガガガッ!砲弾が次々にグレイサードを飲み、部屋ごと硝煙と火焔に包まれる! 「ぐわあああああ」 水流カッターとテトラダイ砲も最早無抵抗の辛太郎に向け撃ちこまれる!万事休す! やがて砲声が止み、消火作業と共に煙が晴れて、うつ伏せに倒れるグレイサードの姿が露になった。 何とかアームキルには至らなかったものの、その損傷は甚大であり、起き上がるのも精一杯である。 「・・・・・・くそッ、まさか戦車ごときに・・・まさに多勢に無勢だな。  あああ、本物のセイントメシアみたくバリアで跳ね返して単機で無双できたら・・・・・・」 立とうと顔を上げたグレイサードの眉間に砲口が突きつけられた。 『お前を見れば心が冷える・・・・・・』 死を予感する辛太郎とグレイサード。 それは同時に起こり一人と一機の同期を深めることとなった。 「・・・・・・まさか、アレを使うというのか?セメントイシヤ?」 辛太郎は以前、ヘブンにおいて修行の末に調和能力らしきものを発現させていた。 だがそれは発動させても何も起こらず、自分でも何の能力か把握できなかったため、ホーンを光らせるカッコつけの為だけに使っていた。 しかしセメントイシヤが、グレイサードが今、それを使いたがっているということを、辛太郎は直感的に察したのだ。 「よし分かった、やるぞイシヤ!」 彼らは死の淵にいることを忘れ、集中を深め精神を深く没入させた。 グレイサードの角が光を帯びる。辛太郎は目を瞑る。不明瞭な何かが見える。 シンクロによって見えるそれはイシヤの見る光景だけではなかった。 『砕かれた夢を拾い集めて?』 周囲のバゲットとアインバックが振り向きはじめる。 カシン!カシン!カシン!小さいが、多数の鋼の足音が地下空間に響いていた。 『キシャアアアアア!!』 そして現れたのは回転頭突き古代生物、ボロックだ! この地下空間の陰に潜んでいたもの、鉄屑の壁に住んでいたもの、次々に通路で合流し、 奴らは群れでやって来る!小型ボロックの波が四方から戦車群を囲い込む! それだけではない!天井を掘って現れたのは、アームヘッドの半分ほどもある大型ボロック群! 全てはグレイサードが呼び寄せたものだ! 「これが俺たちの調和”カル・クラナズ”!」 この能力は、ボロックの頭部に格納される寄生生物・クラナの生体ネットワークに接続する能力である。 これによりボロックの群れに呼びかけることや遠隔コントロール、更にその視点さえも共有できるのだ。 故にこの力は、ボロックの存在しないヘブンでは微塵も発揮されなかったのだ! 『ピギーッ!』 小ボロックが戦車の足回りを頭突きで削り始める!キャタピラを破壊され群れに纏わりつかれるバゲット! 水圧レーザーで迎撃しながらボロックを轢き進むアインバック!正面から大型ボロックが回転突進! 大群同士の戦いが始まり、窮地を脱したグレイサードだが、肝心の本体が動かない。 突如として壁に叩きつけられ潰れるバゲット!辛太郎の来た通路から何かが進んできている! 『誰か呼んだかこの俺を?』 ボロックに続き現れたのは”マサッジハンマー”K1T3K2だ。丸みを帯びた姿が酷似! 『くそ~戦車じゃ肩叩きの練習にならねんだよな~』 バゲット群を叩き潰しながら進むK1T3K2だが、その先で倒れるグレイサードに気づく。 「げげっボクサー野郎!どうやってここまで」 『ボロックに助けられたのさ。俺を呼んだのはお前か?ちょうどいいマッサージさせろ!!』 K1T3K2が辛太郎の機体をボコボコに殴り、痛みを通り越して活力を与え自己再生を促し治癒していく! 「ぐはっ・・・・・・マシになったじゃないか」 フラフラと立ち上がるメシアは砲撃を浴びてた時に比べれば元気になった。 『勘違いするな、お前はただの俺の木偶だからな』 ”マサッジハンマー”は言い残し、投石アインバック群に立ち向かっていく! 『そっとしておいてくれ・・・』 やがてこっそりと一部の戦車群が後退し、再び迷宮の奥に潜んで罠を張ろうとする。 一方、予想外の味方を得た辛太郎もボロック軍の一部を率いて迷宮を進む事を決断。 「突撃ーッ!」 グレイサードが二本の剣を寄り合わせ腕からレーザー刃を発振しながら直進! 戦車群を掻き分け目前の通路へ!後から雪崩れ込むボロック! 進んでいくと三叉路!だが辛太郎は迷わず、先にボロック達を分散させて向かわせる。 「これで怖いものなしだぜ」 先遣隊の目から伝わる光景を基に進む方向を割りだす。 だがやはり壁の向こうではパラサフィクサの目が覗いていた! 隙間からナパームを撃つアインバック!ボロック群が焼かれる! 対し辛太郎は彼らに、壁を崩すよう指示してアインバックを潰させる。 正面から投石アインバックが二列で道を塞ぎながら出現! だが見通していた辛太郎が壁の隙間からスマートセメントガンで狙撃!ボロックは動けぬそれを破壊し支障なく突破する。 シンタロ連合軍の進撃は続き七叉路、十五叉路、猫又路などヤバイがボロック海戦術で迷わず正解を選び奥へ奥へと進んでいた。 その行く先、粗大ゴミの迷宮が終わり明確な壁のある部屋では、折り鶴めいたアームヘッドが微動だにせず待ち構えていた。 壁と床には何らかのチラシが一面に貼り付けられ、異様な雰囲気を醸し出しているが、 背後には如何にもといった観音開きの分厚い扉があり、首領の間に続く最後の砦であることを物語っていた。 そんな副官の間におずおずと一台のアインバックが後退してくる。 『どうした?"ぼっち軍隊"、敵はたった一機のぼっちではなかったのか?』 折り鶴が問い詰めると戦車は嫌そうに振り向いた。 『盗まれた過去を探し続けて・・・』 『言い訳になっていないぞパラサフィクサさん、だから趣味で食っていくのは厳しいと言ったのだ、戦車などではなくバイオニクルウェポンを集めていれば』 『そっとしておいてくれ・・・』 パラサフィクサ戦車に続き、生き残りの無人戦車もぞろぞろと副官の間に逃げ込んでくる。 『致し方が無い、お前の尻拭いに手を貸そう。奴はどの位でここに辿り着く?』 折り鶴が問うている間に、入室する戦車の走行音が変わりつつあった。別の音が混ざっている。 『シャーッ!』 戦車の列に続いて現れたのはボロックの行列だった。 それはバゲットの尻を追い飛ばすようにして頭突きを繰り出し攻め込んでくる! 『ええい、道案内をしてどうする!なるほど、敵はお前の戦車のようにボロックを指揮できるという訳か』 部屋に広がる戦車は砲撃で迎える!ボロックは球状形態で掻い潜り首領の扉へ一直線! だがそれらは全て斬撃を受け弾かれる!扉の前に立ちふさがるはただ一羽の折り鶴だ。 「ウワッ」 一方辛太郎は、深部に乗り込ませたボロックの視界共有が突如絶たれたため、意識が眩んだ。 見えたのはゴールと思しき入口と最後の門番だ。もはや兵を数ばかり投入しても解決しない敵が待っている。 辛太郎は意を決しグレイサードと共に、斥候の通ったルートを追跡し迷宮を突き進む! #ref(005_01.png) 10体のボロックを連れ辿り着いたそこには、やはり先程見た危険状況が広がっていた。 同数の戦車が砲塔を一斉にグレイサードへ向け、中心の折り鶴は滑るように静かに浮いて近づいてくる。 「紙だ」 『我はピーマーン副官、名は"チラシの裏"ピールペイラー。三度目は言わぬぞ。  よくぞここまで来たと言ってやりたいところだが、貴様はこれ以上進むことは出来ん。  我はこの、分厚い鉄扉よりも遥かに険しい壁であるからだ』 異形の折り鶴が、片翼に入れ墨めいて描かれたピザのチラシを歌舞伎がかって見せつける! 「その声、シャトルに喧嘩吹っ掛けてきたのもお前だな!壁だと?ぺらぺらのくせに!」 『軽薄な挑発だ・・・今のうちに叩いておけ、いずれ呼吸するのも億劫になる』 ”チラシの裏”が消える!同時に堰を切ったようなバゲット隊の砲撃! ナパーム砲撃に怯むグレイサードの目前に一瞬映る空間のゆがみ! 気づけばピールペイラーが腕のような紙刃を向け着地しており、メシアの胸部装甲は浅く斬りこまれていた。 「は、はや・・・」 再びピールペイラーが消える!激しく撃たれる砲弾幕、その弾速以上のスピードで縦横無尽に飛び交っている! サッサッサッサッ!音にすればそんなものだがグレイサードの各部に切り傷!体液が霧状になびく! 「くそっ追いつかねえ、せめてノミ野郎だけでも倒す!」 辛太郎はボロック達に指示送信!彼らはその意図を汲み戦車群に飛びかかる。 だが抵抗にあってもすぐに砲塔は破壊しない。ハッチを壊し中を覗くのだ! しかしバゲットはいずれも無人機であった。 『ギギィ・・・』 ボロックの一体が見回し探すと、部屋の隅にキャタピラで穴を掘るアインバックの姿があった。 すかさずそこへ転がり込んでいき風防に飛びつく。頭突き連打で粉砕!コクピット露出! 『キシャアアアー!!』 『そ、そっとしておいてくれー!』 #ref(005_02.png) 遂に古代生物と対面するノミ・アームヘッド! 次にボロックのとった行動は・・・自身も頭部の風防を開き、脳味噌めいた寄生生物を露出! 『シュルルルル!』 寄生生物クラナが戦車内のパラサフィクサ目がけて放たれる! 顔に貼りついて離れない!暴れ転がるパラサフィクサ!だがそれもやがて静かになる。 クラナ面のパラサフィクサは、そのまま何事も無かったかのようにアインバックへの寄生を再開した。 一方辛太郎は見えざる刃の渦の中で立ち往生していた。そこへ襲い来る砲撃! だがピールペイラーは咄嗟に飛び下がった。砲弾もグレイサードに当たらない。 『”ぼっち軍隊”!何処を狙っている?』 折り鶴が言った時、全てのバゲット戦車が砲塔をピールペイラーに向けていた! グレイサードを囲んでいた弾幕が一斉に援護射撃に変わり、ピールペイラーに降りかかる! 『どういうつもり・・・まさか?』 「たぶんそのまさかなんだよなあ!」 バゲットは操作系統に刺さる遠隔装置によって操作され、遠隔装置は子機であり、親機がいるアインバックによって操作され、 アインバックは親機パラサフィクサに寄生操作され、パラサフィクサは貼りついたクラナに操作され、クラナは辛太郎のグレイサードから指示を受け操作されているのだ。 つまり"ぼっち軍隊"を掌握したことにより、今や全ての戦車が辛太郎の手下となった! 『チッ、正気に戻れパラサフィクサさん!』 ピールペイラーの防御力は見た目通りゼロに近く、バゲットの大砲でさえ一発命中すれば勝負がつく。 ゆえに異常な速度で砲撃の間を掻い潜っているが、グレイサードを守る弾幕に突っ込んでいけば当たるのは時間の問題! 「この勝負もらった!」 グレイサードも両指先からレーザーを放ち牽制!進路を塞がれ避ける折り鶴に対し、砲弾が迫る! ピールペイラーが爆発!・・・いや厳密にはピールペイラーの装甲の表面で爆発が起こったのだ。 「な!?お前紙じゃなかったのかよ」 その着弾箇所は黒ずんだ金属光沢を放っており、周囲の装甲とは異質な印象を受けた。 『これが我が調和能力”メタルブレザー”・・・・・・』 ピールペイラーがバゲットの一台に突進!正面から大砲を受ける! まず弾が触れた頭部がガンメタリックに染まり変質する。そして弾き返し衝撃を与え、空中で爆発する。 即ちこの調和は〈触れた物よりも硬い金属質に体を変換する〉といったものである。 ピザチラシ柄の翼が硬質化しバゲットを両断!爆破!移動!切断!爆破!・・・ 「思い切った奴、戦車もお前らの戦力だろうに!」 グレイサードは後退しつつボロックと戦車をピールペイラーへ差し向ける! 攻撃を避けながら腕の刃で切り刻み、障害を減らしていくピールペイラー! 「あの装甲・・・ずっと維持できなさそうなのが救いか」 ならば何処かに隙はある、辛太郎は再び戦車と共に一斉射撃しようとした。 だが”チラシの裏”は”ぼっち軍隊”の乗るアインバックへと肉薄する! 『!!』 至近距離フィジカルキャノン!その弾は紙のように薄い金属刃によって捌かれる! 『許せ・・・』 ピールペイラーの鋼鉄翼がパラサフィクサごとアインバックの装甲を紙のように裂く! 『炎のにおい染み付いてゲボーッ!』 アインバックの上部が吹き飛び爆散! その時アジト内の全ての戦車が操縦系からスパークを発し、やがてその活動を停止した。 砲声が止み地下空間に一旦の静寂が訪れた。 『パラサフィクサさん、これは戦車を管理しきれなかったお前の責任だ・・・だがお前も、集めた戦車隊これくしょん(タンこれ)と共に散ることが出来て本望だろうて』 ピーマーン副官は落ち着き払って呟き、グレイサードへ刃を向けた。 「くっ仲間ごと切り捨てるとはなんたる無慈悲」 『貴様が寄生しなければその必要もなかった、それに我々バイオニクルは貴様らと違って死を超越した魂の存在だからな』 動き出すピールペイラーに対しボロックらが頭突きで阻止しようとするも、飛び回る相手に追い付かず戦車以上に敵わない。 そこで寄生生物クラナに取り付かせようと飛ばすも空中で裂かれ、逆にボロック群が機能停止に追いやられる事態になった。 「なんてこった月面限定版パプリカーンが壊滅・・・これ以上ボロックを呼んでも通用する相手じゃないぜ」 『いい加減貴様自身の実力で勝負することだな。せいぜい厚みのある戦いになればいいが?』 辛太郎の視界からピールペイラーが消える!グレイサードはとっさにラックから剣を抜く! ガリィン! 仰け反る灰メシア、左手に持つトシコソードの刃が欠けていったのが見える。そのまま倒れるとピザ翼が眼前を通り過ぎていった。 「ダメだ、剣じゃ・・・」 グレイサードは素早く武器を持ち替えながら後ろへ飛ぶ!セメントバズーカ・スマートガンを両手に連射! その射撃も難なくかわし接近、撫で斬りしてくるピールペイラー!ラックに吊るったブレードが盾になり深手は逃れる。 『同志を倒した性能はその程度のものか?ならばメンバー総入替の切欠が出来て僥倖というもの』 「よく喋る紙め、お前も欠員すればいいのに」 次にグレイサードが持ち出したのは右肩のフェザーシックル! #ref(005_03.png) 折り鶴へ向け振るったかと思うとその勢いのまま手を離れ回転!だが敵は回避! ピールペイラーは翻り斜め上から斬りこんでくる!グレイサードは進行方向にレーザー射! 阻止された折り鶴は方向転換の為に一瞬減速する。その時背後から襲い掛かるフェザーシックル! ブーメランめいて戻ってきた鎌はピールペイラーを両断・・・しそうだったが硬質化により真上に高く弾かれた。 ガヅン! グレイサードの目前にフェザーシックルが刺さったかと思うと、鋭い風が真横をよぎる! 「ぐわッ!?」 迎撃の為構えようとしていた、左指先のレーザー銃口が切断される! 拡散する熱線!それを尻目にピールペイラーの影が渦を巻き、再び間合いを取る! 『これにてとどめる!さらばだ人間!!』 「うおおーッ!!」 セイントメシアを超えるかと言う程の瞬発力で迫りくる折り鶴! グレイサードは右手でフェザーシックルを引き抜く!左手はセメントスマートガン! 鎌ブーメランを投げる!高速回転しながらピールペイラーを目指す!翼で平行に撫でて受け流される! そこへ撃ち込まれるセメント弾丸!折り鶴は正面から同等速度で飛来するそれさえも避けてグレイサードの首を狙う! グレイサードの右腕は投擲動作からの戻り様、光学レーザー刃発振!その瞬間的攻撃も見据えた角度で肉薄するピールペイラー!その眼が勝利の色に怪しく光る! だが背後から襲ってくるフェザーシックル!折り鶴は余裕で硬質化調和!その体表は一瞬にして液化セメントを超える硬度に変化!衰えぬ勢い! グレイサードの左手!斬られ潰された指のレーザー発射口を構える!拡散した不均整なレーザーで迎え撃つ! ――二機が交錯! 「・・・ば・・・・・・馬鹿な・・・・・・』 ”チラシの裏”の予定では、金属化した装甲で光線を反射させ無傷で突破し、辛太郎らを真っ二つにしている筈だった。 だがあの時、セメントが塗られたフェザーシックルを止めた時、いやスマートセメントガンを避けた時、いやブーメランを受け流した時、何処かで狂ってしまったのだ。 辛太郎がセメントガンで狙っていたのはフェザーシックルであった。セメントの塗られたブーメラン鎌がピールペイラーに当たった時、 調和による硬質化は液状セメントの硬さを基準としたために鎌が食い込む。 そして同時に放たれた拡散レーザーは装甲が鎌の硬さに更新される前にピールペイラーを射抜いていた。 #ref(005_04.png) ”チラシの裏”の現在はその貧相な体に細かい風穴を幾つも空けている有様であった。 至近距離の故障レーザーはショットガンめいて飛散し見えぬ致命傷を与えていた。 『・・・バイオニ・・・いや・・・アームヘッド・・・貴様は・・・!?』 無論その攻撃判断は辛太郎ほどの力量で、彼一人で出来る訳はなかった。 「フッ決まったな・・・お前もその身体では一撃もかわせまい、大人しく首領の間に案内するんだな」 グレイサードの左腕損傷はレーザー発射により拡大し、煙と火花を散らしていたが辛太郎はあくまで誇らしげだった。 『なッ・・・・・・まだだ!私はまだ戦える、この程度の穴など、むしろ、軽量化されたにすぎん!』 『・・・・・・もうよい、下がりおれ”チラシの裏”・・・・・・』 すると何処からともなくやんごとなき声が鳴り響いた。 『しゅ、首領!?しかし・・・・・・』 『支度は整った。あとはわらわに任せておけ』 「首領・・・だと?」 辛太郎が呟き、折り鶴は縮こまり、グレイサードは首領の間の鉄扉を見る。 分厚い扉が地響きと共に開き始め、中から赤い光と靄が漏れ出す。 その向こうに佇む影を見て、辛太郎たちは目を見開いた。 「あ、アカリ・・・・・・なのか!?」 首領の間の中心に立っていたのは、紛れもなく探し求めていたあの少女であった。 <続> [[戻>DOWN TO HAVEN]]

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