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おしゃれなオープンテラスのカフェでカプチーノを頼んだ。 辺りの客は女性のグループかカップルが多いが、私のように女一人というのもちらほらいる。とにかく盛況という様で、少し遅れているようだった。 みんな蟹型電子端末でパンケーキの写真を撮り、自撮りをし、自分を少しでも良く見せようとしている。自分のことで精いっぱいという様子だ。 だというのに、私という女は視線を集める。 みんな、蟹型電子端末から目を離して私を見てしまう。 ひとたび私を見たのなら、もう虜になっている。 「ふふふ」 そうだ、もっと見ていいぞ。女は羨め。男は望め。応えはしないがその視線は頂こう。 そうだ、私は世界の視線を集めてしまう女。かわいいオブかわいい。我かわいい、故に世界ありだ。 「失礼致します。大変お待たせしました、ご注文のカプチーノです。それから、お待たせしてしまったお詫びにこちらもつけておきます」 差し出されるカプチーノと一口サイズのシフォンケーキ。ふふふ、これも私のかわいさゆえか。お詫びなどと言っているが、これで私がかわいいの権化でなかったら一緒に出されていたのはきっと黒豆の煮つけだ。 「いいわ、ありがとう」 そして差し出されたカプチーノとシフォンケーキの香りを楽しむ。とても良い。 口に含めば、ちょっと触感が違うだけで大体のものは同じだけど。もちろんこれも例外ではない。 半ば作業的にそれを食した後に何か様子がおかしいことに気付いた。 「足りない」 足りない。 あれが足りない。 私に何より必要なあれが足りない。 足りない。足りない 足りない足りない足りない。 いや、違う。 否、違う。 奪われている。 ――視線が!奪われている! 「この、わたしから?」 店の人間が一方向を見ている。仕方なく同じ方向を見ると、頭の悪そうな女。なんて頭が悪そうなの。 それからほどなく、一人の男が席を立ち、そのバカ女に「ファンです!サインください!」などと駆け寄った。わたしではなく!バカ男だ。 かと思えばほかの男も、あるいは女までも、同じように握手を!だとか言って近づいている。なんだこの店は。バカしか入ってはいけない店か!間違って私が入ってしまっているぞ! バカを吸い寄せる超バカ女は困ったように「プライベートなんで」なんて言っている。 私を差し置いてなにをやっているんだ、こいつらは。 私以上に視線を集めるものがいることが許せない。 私よりかわいくないバカが私以上に注目を集めているのが許せない。 許せない! 「エゴイスティック・プリティー(正式名称:タイラント・オブ・ロウレス)」 舌のピアスが赤く光る。 「さっさと家に帰って寝なさい!」 私の声を聞くとたちまちそれに従って店を立ち去る客。従業員までがエプロンをとって出ていく。これが私のかわいさ(アクセサリー型アームヘッドの調和)の効力。私のかわいさの前にはノーはないのだ。 「ふん!なんなのよ」 人っ子一人いなくなったはずの店内。 なのに、さっきこの、この私から、しせ、視線を、う、奪った、女がいる。なんでまだいるのよ!これじゃまるで私のかわいさがこのバカオブバカに通じなかったみたいじゃない! 「あ、ありがとうございます。私、とっても困ってて、あの、助けてもらって」 「助けた覚えはないわよ!」 「お礼をさせてくださいお姉さま」 「助けてない」 「それよりさっきのすごかったですね。私のためにあんなすごい力を使ってもらっちゃって」 「聞きなさいよ」 「うふふ、お姉さま、あんなすごい力で助けてくれちゃって。私のこと好きになっちゃったんですか。奇遇ですね、私もなんです」 「ちょっと」 「疲れてませんか、あっち(ホテル街)で休憩しませんか」 「人の話を聞いてないの」 「あ、わたし普段はグラビアアイドルをやってるメリー・ストロベリーといいます」 「ひ、と、の、は、な、し、を!」 「えへへ、お姉さまみたいな素敵な女性と出会えて私、とっても幸せです、結婚してください」 「(白目をむく)」 「あ、でもよく考えたら私たち今日から一緒に暮らすんですからホテルに行く必要はないですね。うふふ、たくさん愛し合いましょうね」 「(泡を吹いて倒れる)」 「あら、お姉さま、まだこんなところではだめですよ。私たちの家に案内しますから、それまで待っててくださいね」 「(意識が途絶える)」 3年後。 「ただいま!ノティアお姉さま!今回の撮影ではなんと暗黒大陸に行ってきました!今日のお土産は一味違いますんで、今度こそお姉さまに美味しいって言わせますよ!」 「おかえり」 「やだ、私のことを味わいたいだなんて、まだお昼ですよ!」 「おみやげ広げてよね」 大都市に建つ高層ビルの最上階、全面ガラス張りの部屋でダブルベッドに寝転んでだらだらと雑誌を読みながら答える。 世界一かわいい私と、私の次にかわいいこのパウィルのバカより、ずっとかわいくない女がいろんな服を着ている雑誌を眺めながら思う。 なんでこうなったのかしら。
おしゃれなオープンテラスのカフェでカプチーノを頼んだ。 辺りの客は女性のグループかカップルが多いが、私のように女一人というのもちらほらいる。とにかく盛況という様で、少し遅れているようだった。 みんな蟹型電子端末でパンケーキの写真を撮り、自撮りをし、自分を少しでも良く見せようとしている。自分のことで精いっぱいという様子だ。 だというのに、私という女は視線を集める。 みんな、蟹型電子端末から目を離して私を見てしまう。 ひとたび私を見たのなら、もう虜になっている。 私ノティア・ワールリフューズとはこうだった。 「ふふふ」 そうだ、もっと見ていいぞ。女は羨め。男は望め。応えはしないがその視線は頂こう。 そうだ、私は世界の視線を集めてしまう女。かわいいオブかわいい。我かわいい、故に世界ありだ。 「失礼致します。大変お待たせしました、ご注文のカプチーノです。それから、お待たせしてしまったお詫びにこちらもつけておきます」 差し出されるカプチーノと一口サイズのシフォンケーキ。ふふふ、これも私のかわいさゆえか。お詫びなどと言っているが、これで私がかわいいの権化でなかったら一緒に出されていたのはきっと黒豆の煮つけだ。 「いいわ、ありがとう」 そして差し出されたカプチーノとシフォンケーキの香りを楽しむ。とても良い。 口に含めば、ちょっと触感が違うだけで大体のものは同じだけど。もちろんこれも例外ではない。 半ば作業的にそれを食した後に何か様子がおかしいことに気付いた。 「足りない」 足りない。 あれが足りない。 私に何より必要なあれが足りない。 足りない。足りない 足りない足りない足りない。 いや、違う。 否、違う。 奪われている。 ――視線が!奪われている! 「この、わたしから?」 店の人間が一方向を見ている。仕方なく同じ方向を見ると、頭の悪そうな女。なんて頭が悪そうなの。 それからほどなく、一人の男が席を立ち、そのバカ女に「ファンです!サインください!」などと駆け寄った。わたしではなく!バカ男だ。 かと思えばほかの男も、あるいは女までも、同じように握手を!だとか言って近づいている。なんだこの店は。バカしか入ってはいけない店か!間違って私が入ってしまっているぞ! バカを吸い寄せる超バカ女は困ったように「プライベートなんで」なんて言っている。 私を差し置いてなにをやっているんだ、こいつらは。 私以上に視線を集めるものがいることが許せない。 私よりかわいくないバカが私以上に注目を集めているのが許せない。 許せない! 「エゴイスティック・プリティー(正式名称:タイラント・オブ・ロウレス)」 舌のピアスが赤く光る。 「さっさと家に帰って寝なさい!」 私の声を聞くとたちまちそれに従って店を立ち去る客。従業員までがエプロンをとって出ていく。これが私のかわいさ(アクセサリー型アームヘッドの調和)の効力。私のかわいさの前にはノーはないのだ。 「ふん!なんなのよ」 人っ子一人いなくなったはずの店内。 なのに、さっきこの、この私から、しせ、視線を、う、奪った、女がいる。なんでまだいるのよ!これじゃまるで私のかわいさがこのバカオブバカに通じなかったみたいじゃない! 「あ、ありがとうございます。私、とっても困ってて、あの、助けてもらって」 「助けた覚えはないわよ!」 「お礼をさせてくださいお姉さま」 「助けてない」 「それよりさっきのすごかったですね。私のためにあんなすごい力を使ってもらっちゃって」 「聞きなさいよ」 「うふふ、お姉さま、あんなすごい力で助けてくれちゃって。私のこと好きになっちゃったんですか。奇遇ですね、私もなんです」 「ちょっと」 「疲れてませんか、あっち(ホテル街)で休憩しませんか」 「人の話を聞いてないの」 「あ、わたし普段はグラビアアイドルをやってるメリー・ストロベリーといいます」 「ひ、と、の、は、な、し、を!」 「えへへ、お姉さまみたいな素敵な女性と出会えて私、とっても幸せです、結婚してください」 「(白目をむく)」 「あ、でもよく考えたら私たち今日から一緒に暮らすんですからホテルに行く必要はないですね。うふふ、たくさん愛し合いましょうね」 「(泡を吹いて倒れる)」 「あら、お姉さま、まだこんなところではだめですよ。私たちの家に案内しますから、それまで待っててくださいね」 「(意識が途絶える)」 3年後。 「ただいま!ノティアお姉さま!今回の撮影ではなんと暗黒大陸に行ってきました!今日のお土産は一味違いますんで、今度こそお姉さまに美味しいって言わせますよ!」 「おかえり」 「やだ、私のことを味わいたいだなんて、まだお昼ですよ!」 「おみやげ広げてよね」 大都市に建つ高層ビルの最上階、全面ガラス張りの部屋でダブルベッドに寝転んでだらだらと雑誌を読みながら答える。 世界一かわいい私と、私の次にかわいいこのパウィルのバカより、ずっとかわいくない女がいろんな服を着ている雑誌を眺めながら思う。 なんでこうなったのかしら。

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