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 新光皇歴2100年代、後の世で『枯渇期』或いは『資源戦争期』と呼ばれる時代。  凡そ半世紀前に起こった13移民船団の宇宙進出に於いて、恒星間航行船を建造するために膨大な資源が費やされた。  更に内包した生物種を長らく生存継続させるため、より多くの惑星資源を積み込んでいる。  必要とされる全てを吸い上げて13移民船団がヘヴンを離れたことで、有限であった惑星資源は大幅に減少してしまう。  これが遠因となり、40年余りの時間を置いて深刻な資源不足が表出。各国ではライフラインの維持に悪影響が出始め、国民の不満と不安が急激に高まっていった。  当初こそ国際会議によって余剰資源を持つ国が、不足国へ提供するなど平和裏にことが進められていたが、抜本的な問題の解決には至らず、惑星自体の残有資源が枯渇の兆しを見せ始めた途端、国際的な一致協力姿勢は簡単に放棄された。  多大なエネルギー資源、物的資源、飽食料を糧として成り立っている人類文明は、それそのものを維持する重要要素なくしては存続出来ない。  資源が慢性的に欠乏し始めたことで、各国は独自に事態の緩和及び国民の生存方法を模索していく。  ことは急を要し、余談を許さない。  日々惑星資源の消費は進み、人類にはもはや時間的猶予がなかった。  新たな恒星間移民船を作り出すに足る材的力がヘヴンにはなく、惑星脱出計画そのものが実現不可能。  切迫した現実を前に、最も短期的且つ確実的な対処法を、大小の差に関わらずほぼ全ての国家が採択した。  即ち、武力による資源保有国への攻撃と、然る後、保全されていた資源徴発である。  有る場所から奪い、自分達が使用する。極めてシンプルで、だからこそ効果的な解決策。既にどの国も、他国を慮っていられる状況ではなかった。  早急に資源を得なければ、自国が傾き、民が飢えるのだから。  縁者、家族、愛する者、そして自分達を護り生かす為、人々は必死だった。  正義も、思想も、尊厳も、友愛も、誇りも、意味はなく無価値と堕す。  生物の根源に関わる本質的な欲求、生存本能こそが励起され、人は生きる為の純粋な活動を開始したのだ。  追い詰められ後がない故に、各国とも取り繕うことはせず、建前もなにもかなぐり捨て、資源争奪戦争へ臨んでいく。  それはまさに飢えた野獣の喰らい合いだった。  騎士道精神も、戦士の矜持も、人としてのモラルさえも、差し挟まれる余地はない。  生きる為の泥臭く醜悪な闘争。  戦いに勝ち、敵を屠り、少しでも多くの資源を奪い、持ち帰る。再び奪われることがないよう、徹底的に敵勢力を叩き、その側へ属する者は無辜の民も情け容赦なく殺し尽くす。  それこそが争奪戦争のスタンダード。あらゆる方策が打たれ、非人道的な手段さえ躊躇なく用いられた。  戦いは戦いを呼び、反目と対立は加速度的に深まって、日毎世界中で都市が焼き払われる。  数え切れない屍で山が築かれ、流れ出た血潮は大河を穿つ。  それでも尚争乱は激化の一途を辿った。  より強い力を、より多くを壊し、より多くを殺せる兵器を。人々の飽くなき求めは技術を躍進させる。  戦乱の狂気、自己保存本能の強烈な喚起は、人の持つ科学を劇的に発展させた。卓越した戦力へ対する底昏い欲動が、程なく明確な破壊の術として結実する。  ただただ破壊と蹂躙のみを追求した、全長数千mを超える超弩級機動要塞の建造。  戦闘へ特化した先鋭仕様のアームヘッド『TYPE-A』の誕生。  力への渇望から異界神話の武器名を冠された、最兇の闘神群。  超弩級機動要塞と『TYPE-A』の実用化は更なる混迷と戦闘規模の拡大を齎し、世界中を地獄の業火で席巻した。  最高の技術力と最優の文明へ至り、しかしてこれを揮う人類の魂はケダモノと化す時代。  自分以外は全てが敵。単一の意志が絶戦を誘引し、惑星全土で繰り返される血みどろの闘争を煽り立てる。  明日も知れぬ奪い合いは、新たな理論の下に新生エネルギー抽出計画が打ち建てられたことで、一時的な収束状態を迎えた。  とある研究チームがテトラダイ粒子を用いた効率的且つ画期的な有用エネルギー抽出理論を発表。  これを基に空前の転換生成施設、超巨大新生エネルギープラント『テトラ・レース・ノワエ』建造に着手した。  人々は荒ぶる牙を収め、静観の姿勢へ入る。  だが『テトラ・レース・ノワエ』が完成すると、今度はその占有権を求めて対立と争いが再燃するのだった。  少しでも多くの糧を欲する者達の、悲しいまでに愚直で必死な激闘は、エネルギープラントが大爆発を引き起こし、惑星環境を激変させる未曽有の災厄によって幕を閉じた。  勝者なき戦乱が人類に与えたのは、狂おしい絶望と、強大な戦機の亡骸のみ。

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