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――誰も恨んでなんかいなかった。 全ては私の決めた意思。故に、邪魔をされる訳にはいかなかった。 私の行為は裏切りなんだろうか。他の人から見たら、きっとそう見えるのだろう。 全て最初から解っていた。私の中で、何も変わってはいなかった。 きっとレインディアーズが一度排除されても、その後にまた姿を現さなくても。 きっと、何も変わらなかったんだと思う。 「貴様!何のつもり――」 「ごめんね」 行く手を阻んだ馴染みの機体、量産機のグリントランサー達を20秒で片付けた。 ごめんね、みんな。助けたこともあった。助けられたこともあった。 今でもみんな大好きだし、嫌いな人もあんまりいない。それでも、この歩みをやめるつもりはない。 「お前……お前は、どうして!どうしてだ!答えろ!」 「私を必要としてる人たちがいるから」 バイブレーションブレードで一閃、キルをせずに戦闘不能にした。 これが私の最後の気持ち。甘い、とロバートなら言ったんだろうけど、それでもいい。 次からは手加減は出来なくなるから。だからせめて、最後くらいは。 事前に設定しておいた脱出ルートを駆け抜け、更に駆け抜け、そして狭苦しい地下道から出る。 目の前に広がる広大な景色。空は青く、大地は土の赤茶と僅かな草の緑に染まっていた。 そしてその真中に、不似合いな巨大な人影が二体、静かに佇んでいた。 一方の色は黒。赤いカメラアイに、甲虫のようなホーン。逆関節の脚部に、光学狙撃銃を携えた機体。 もう一方は白に、ところどころ赤と青の入った機体。肩には鋭利なブレードが装備された、武器をもたない機体。 ――No.17ブライアン・オールドリッジ、No.11山田 テルミ、及びNo.12のウィノナ・サニーレタス。 「……それが、貴女の答えなの?」 静かな口調で、ウィノナさんから通信が入った。 今更な言葉でなくもないけど、私は自分の思いを静かに返した。 「私は裏切ってなんかないよ。ただ居場所を失くしたとき、手を差し伸べてくれたのがあの人達だったから。 私はもう、あの人達の側にいるもん。今更、"裏切れ"ないよ」 言い終えて、少しの間をあけてから、今度はブライアンの声が聞こえた。 「そうか。俺達のお誘いが、ちと遅かったか」 そう言いながら、ブライアンは自分の機体、『ジュリア』の狙撃銃を構えた。 それに呼応するように、白い機体……『マイティラバーズ』も、戦闘態勢を取る。 二対一。相手はそれぞれ遠距離支援型と、近距離強襲型。 少し苦しいかも、と思った時だった。 「――な…っ!」 轟音と共に、アームヘッド数体分はあろうかという長い刀がマイティラバーズを襲った。 その刃は、瞬間的に対応したマイティラバーズの両手によって掴まれ、コクピットには届いていなかった。 刃の根本、柄を握るのは、至ってシンプルな外装の機体『朱点童子』。 ウィノナ達が事態を把握するまでもなく、朱点童子は掴まれた刀身を完全に手放し、その勢いのままマイティラバーズに突進、頭を掴んで引きずり倒した。 咄嗟にジュリアのほうを確認すると、そっちには全身毛むくじゃらの、いろんな動物のパーツを取ってつけたような異形の機体が襲いかかっていた。 元々鈍重なジュリアは、その異形…『鵺』の極めて動物的な、恐ろしく俊敏な動きについてこれず、 あっという間に狙撃銃の砲身を噛み砕かれ、更に胸部を後ろ足で蹴られ、轟音とともに倒れこんだ。 地面に横たわる二機ともピクリともしなかったけど、どっちもあの装甲なら三人ともきっと生きているだろう。 思ったより落ち着いた心境のまま、私は通信を入れた。 「……ありがとう。エンシューさん、デッドマンさん」 「お礼なら後、今は一刻もはやくここから去りますよ。すぐに追っ手が来ます」 「……」 デッドマンさんだけ喋らず、獣じみた荒い息遣いだけが聞こえてきた。 彼が戦闘中にこうなのは、事前にエンシューさんから聞いていたから、特に驚きもしない。 まもなく、鵺はその俊敏さで一足先に向こうへと駈けだしてしまった。 それに続いて、朱点童子もバーニアを起動。地面を滑り始めた。 ……ふと、後ろを振り向く。倒れたまま動かない、白と黒の機体。 自分の選んだ道が、一体何を意味しているのかを無言で叩きつけてくれる光景を、しばらく見つめていた。 「行きますよ」 少し先でバーニアをふかし続ける朱点童子からの通信で我に帰る。 すぐさま私もバーニアを起動、二機の後ろに続いた。 「……さよなら、レインディアーズ」 「貴女の答え、見せてもらいました。ようこそヒリングデーモンへ。……エマ・チャーチ」 しばらく後に、ただ一度だけ、そう通信が入った。
――誰も恨んでなんかいなかった。 全ては私の決めた意思。故に、邪魔をされる訳にはいかなかった。 全て最初から解っていた。私の中で、何も変わってはいなかった。 きっとレインディアーズが一度排除されても、その後にまた姿を現さなくても。 きっと、何も変わらなかったんだと思う。 ……私の行為は裏切りなんだろうか。他の人から見たら、そう見えるのだろうか。 「貴様!何のつもり――」 「ごめんね」 行く手を阻んだ馴染みの機体、量産機のグリントランサー達を20秒で片付けた。 ごめんね、みんな。助けたこともあった。助けられたこともあった。 今でもみんな大好きだし、嫌いな人もあんまりいない。それでも、この歩みをやめるつもりはない。 「お前……お前は、どうして!どうしてだ!答えろ!」 「私を必要としてる人たちがいるから」 バイブレーションブレードで一閃、キルをせずに戦闘不能にした。 これが私の最後の気持ち。甘い、とロバートなら言ったんだろうけど、それでもいい。 次からは手加減は出来なくなるから。だからせめて、最後くらいは。 事前に設定しておいた脱出ルートを駆け抜け、更に駆け抜け、そして狭苦しい地下道から出る。 目の前に広がる広大な景色。空は青く、大地は土の赤茶と僅かな草の緑に染まっていた。 そしてその真中に、不似合いな巨大な人影が二体、静かに佇んでいた。 一方の色は黒。赤いカメラアイに、甲虫のようなホーン。逆関節の脚部に、光学狙撃銃を携えた機体。 もう一方は白に、ところどころ赤と青の入った機体。肩には鋭利なブレードが装備された、武器をもたない機体。 ――No.17ブライアン・オールドリッジ、No.11山田 テルミ、及びNo.12のウィノナ・サニーレタス。 「……それが、貴女の答えなの?」 静かな口調で、ウィノナさんから通信が入った。 今更な言葉だけど、私は自分の思いを静かに返した。 「私は裏切ってなんかないよ。ただ居場所を失くしたとき、手を差し伸べてくれたのがあの人達だったから。 私はもう、あの人達の側にいるもん。今更、"裏切れ"ないよ」 言い終えて、少しの間をあけてから、今度はブライアンの声が聞こえた。 「そうか。俺達のお誘いが、ちと遅かったか」 そう言いながら、ブライアンは自分の機体、『ジュリア』の狙撃銃を構えた。 それに呼応するように、白い機体……『マイティラバーズ』も、戦闘態勢を取る。 二対一。相手はそれぞれ遠距離支援型と、近距離強襲型。 少し苦しいかも、と思った時だった。 「――な…っ!」 轟音と共に、アームヘッド数体分はあろうかという長い刀がマイティラバーズを襲った。 その刃は、瞬間的に対応したマイティラバーズの両手によって掴まれ、コクピットには届いていなかった。 刃の根本、柄を握るのは、至ってシンプルな外装の機体『朱点童子』。 ウィノナ達が事態を把握するまでもなく、朱点童子は掴まれた刀身を完全に手放し、その勢いのままマイティラバーズに突進、頭を掴んで引きずり倒した。 咄嗟にジュリアのほうを確認すると、そっちには全身毛むくじゃらの、いろんな動物のパーツを取ってつけたような異形の機体が襲いかかっていた。 元々鈍重なジュリアは、その異形…『鵺』の極めて動物的な、恐ろしく俊敏な動きについてこれず、 あっという間に狙撃銃の砲身を噛み砕かれ、更に胸部を後ろ足で蹴られ、轟音とともに倒れこんだ。 地面に横たわる二機ともピクリともしなかったけど、どっちもあの装甲なら三人ともきっと生きているだろう。 思ったより落ち着いた心境のまま、私は通信を入れた。 「……ありがとう。エンシューさん、デッドマンさん」 「お礼なら後、今は一刻もはやくここから去りますよ。すぐに追っ手が来ます」 「……」 デッドマンさんだけ喋らず、獣じみた荒い息遣いだけが聞こえてきた。 彼が戦闘中にこうなのは、事前にエンシューさんから聞いていたから、特に驚きもしない。 まもなく、鵺はその俊敏さで一足先に向こうへと駈けだしてしまった。 それに続いて、朱点童子もバーニアを起動。地面を滑り始めた。 ……ふと、後ろを振り向く。倒れたまま動かない、白と黒の機体。 自分の選んだ道が、一体何を意味しているのかを無言で叩きつけてくる光景を、しばらく見つめていた。 「行きますよ」 少し先でバーニアをふかし続ける朱点童子からの通信で我に帰る。 すぐさま私もバーニアを起動、二機の後ろに続いた。 「……さよなら、レインディアーズ」 「貴女の答え、見せてもらいました。ようこそヒリングデーモンへ。……エマ・チャーチ」 しばらく後に、ただ一度だけ、そう通信が入った。

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