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ロスト - (2012/11/22 (木) 05:21:23) の最新版との変更点

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&color(red){※閲覧注意} ---- 全体的に灰色で、無機質な印象の陰鬱な空間。 無数の機材があちこちに所せましと立ち並ぶ部屋の中で、少女はかすかに呻き声を上げた。 ここに連れてこられる前は、抜けそうなほどに白く艶やかだった肌は、無数の青い痣や赤い腫れで埋め尽くされ、見る影もなくなっていた。 その凄惨な身を隠すのも、小さなペンダントと少しだけ丈の長いシャツ一枚で、下着すらつけることを許されない彼女の姿を、辛うじて隠している有様だった。 「……」 少女は、垂直に立てられた拘束台に、まるで昆虫の標本のように鎖で磔にされたまま、ぐったりと項垂れていたまま、一言も話さなかった。 既にその瞳に光はなく、何も履いていない自分の足下、壁面と同じ材質でできた灰色の床を、ただ穴のあいたように見つめていた。 その時だった。 「……!」 少女の真向かいの壁に備え付けられた自動ドアが開き、複数の人物が現れた。 全員白衣を羽織った男性であり、青年といっていい若者から壮年と思われる人物が入り乱れていた。 そしてその中央に立つ、銀の髪をした中年の男が、少女の凄惨な姿を見るなり笑顔で彼女に話しかけた。 「具合はどうだ」 その瞬間、少女の光のない瞳が見開かれ、感情を宿した。しかしそれは安堵でも希望でもなかった。 それは、恐怖の色だった。 「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」 先程までの静寂がまるで嘘だったかのように、少女は眼前の男を認識するなり、聞いている者の背筋が凍るかのような絶叫を上げた。 傷だらけの身体が恐怖に暴走するまま、手足を拘束している鎖を引き千切らんとばかりに引っ張るが、無駄だった。 「実験開始」 男がその笑顔を微塵も崩さないまま、氷のような声音で呟いた。 途端、側に控えていた数人の部下の男たちがまるで慣れたような動きで少女に群がり、ただ一枚身につけていたシャツを剥ぎ取り、更にその身体に機材を取り付けていった。 肌に密着させるタイプの脈拍を計測する装置、肌に刺して感情の変動による筋肉の緩窮をリアルタイムで計測する装置、頭皮に取り付けて強引に信号を送り脳の反応を読み取る装置、その他もろもろの機材が、少女の皮膚を食い破り、一切の容赦なく取り付けられていく。 「嫌ああああああ!助けて!やめてえええええええ――えぐっ」 全身からチューブを伸ばされ最早人間の尊厳など微塵もない様相となった少女の口に、銀髪の男が笑顔のままゴムで出来た栓を押しこみ、悲痛な叫び声を殺した。 「ふぐううううう!んんんんん!」 満足に悲鳴をあげることすら許されなくなった少女のうめき声が、ただ虚しく部屋の中に響く。 必死に嘆願するような瞳が男の瞳と合い、少女は狂ったようにふるふると顔を横に振った。 「さぁ、いい子だ。我慢するんだよ」 男の笑顔はやはり崩れないまま、静かに白衣の袖から出た手袋をつけた掌が、 少女の横に振られる頭に添えられ、愛でるように撫でた。 同時に駆動音が響き、垂直だった拘束台が少女ごと後ろへ倒れていき、手術台のような様相へと変わった。 「むぐううう!んん!んぐううう――」 「脳髄への直接的な信号送信試験、開始」 男の声が、背後の操作パネルを叩く部下の一人に届き、それに応答して部下の男が一度大きくキーを叩いた。 その瞬間だった。 「ぐううううううううううううっっむぐううううう!ぐ、ぐぐぐっ!むぐううううううううううううう!ぐっぐううううううううううううううっっうううううううううううううううううううううううっ――!!」 栓に閉じ込められた、人の喉が決してあげてはいけないようなおぞましい悲鳴を、少女があげた。 一糸纏わぬ身体の背筋は弓なりに仰け反り、背骨から折れるのではないかと思うほどに曲がった。 少女の眼球はぐるぐると左右別々の方向に狂ったように動き、白目の部分は一瞬で充血し濃いピンク色に染まった。 「ぐぐぐぐぐぐぐううううううううううううううううううううう――」 響く少女の悲鳴に、男たちは微塵も動じることはなかった。それぞれが己のすべき役目をひたすら冷徹にこなしていく。 ある者は手元の黒いボードに挟んだ紙に計測結果を書き記し、 ある者は実験が正常に進行できているかを計測し、その報告をすぐ横の観測員が聞き時刻と経過を記録し、 ある者は少女の全身を侵す機材の出力を一定時間ごとに更に上げ、ある者は少女の肉体そのものが見せる外的反応をこと細かに記していく。 「試験、終了」 男の声で機材の出力が落とされると同時に、少女の浮いていた腰がどさ、と台の上に落下した。 死ぬほうが良いまでの苦痛から逃れた彼女の全身が、びく、びくと定期的な痙攣を起こした。 「は――っ……は――っ」 乱回転をやめた少女の瞳の焦点が合わさるが、それはもうこの世界のどこも見てはいなかった。 灰色の天井も、自身につながれている無数の機材も、自身を壊していく者達の表情も、何も彼女の内面に響いてはこなかった。 死人と何も変わらない表情をしたまま、少女は息を続けているだけだった。 「続いて、精神面での攻撃に対する反応観測実験、準備」 男の声が先程と同じように発せられたことすら、少女の耳には入っていなかった。 少女の視界、意識の外で、部下の男たちが羽織っていた白衣を脱いだ。 続けて手袋も取り、観測用の実験器具からも一旦手を話した。 「神崎君のことでも考えているのかな」 銀髪の男が、穏やかな口調で少女に話しかけた。 想い人の名前を認識した少女の意識が、再び悲惨な世界へと引きずり戻され、瞳に僅かに感情が現れる。 「お前の幸せな幻想を、『また』全て打ち砕いてあげよう」 その男の言葉の意味を『思い出した』瞬間、少女の瞳に一気に恐怖の感情が戻り、手足がまた暴れだし、鎖ががちゃがちゃと音を立てた。 先程までの苦痛で消耗しているにも拘らず抵抗する少女の姿に、男が少し驚いたような顔を見せた。 「おや――流石に少し『覚えて』きたのか。新しい反応だ」 涙を溢れさせながら必死に拒否する少女を横目に、男は手元の小さなメモに『記憶残留を確認。実験後、通常通り記憶消去処置』と書き込み、そして後ろに並ぶ部下たちを振り返った。 少女もこれがデジャブであるという一縷の望みを賭け、顔を少しあげて男の見る方向を覗いた。 ……果たして、それはデジャブではなかった。 そこにいたのは、白衣はおろか衣服を完全に脱ぎすて、全裸となった男たちだった。 「投薬の作用で処女膜は再生してあるから、あとは君達の嗜好に任せる。好きにしたまえ。私はその間に観測を担当しよう」 男が少し悪戯じみたように片目を瞑って言うと、男たちの顔がおぞましい笑顔に歪んだ。 そして少女に背中を見せて向こう側の機材へと歩いて行く男と代わるようにして、 下卑た笑みを浮かべた男たちが、少女へと群がってきた。 拘束されたまま、ペンダント以外何も身に着けていない、彼女の身体に。 「んんん!んんんんんんんんんん――」 少女の悲痛な拒否と悲鳴など、微塵たりとも意にも介されなかった。 全身を穢されながらなおも苦鳴をあげ続ける自身の娘と機材のモニターを眺めながら、男は静かに呟いた。 「62度目の初夜、おめでとう。 次こそは忘れていると良いな」 ---- 「――ああああああああああっ!!」 絶叫と同時に、彼女は跳ね起きた。 時計の針は既に真夜中、二時四十五分を差して、絶叫の終わった静かな部屋の中でちく、たくと秒を叩いていた。 「はあっ……はあっ……」 銀の長い髪、青紫の瞳、首から下がるペンダント。 ベッドの上で息を切らす彼女は、先ほどの少女が成熟した姿だった。 息が戻ってくると同時に、夜の闇に包まれた部屋の中で、彼女は静かにその両肩を自分の腕で抱いた。 かちかちと奥歯が鳴り、前髪で隠れた瞳から、涙がとめどなく溢れた。 「そんな……私は、そんな……」 誰もいない部屋の中、彼女はベッドの上で、震えながら泣いた。 未来の特異点、セリア・オルコットは、窓の向こうに朝が来るまで泣き続けた。
&color(red){※閲覧注意} ---- 全体的に灰色で、無機質な印象の陰鬱な空間。 無数の機材があちこちに所せましと立ち並ぶ部屋の中で、少女はかすかに呻き声を上げた。 ここに連れてこられる前は、抜けそうなほどに白く艶やかだった肌は、無数の青い痣や赤い腫れで埋め尽くされ、見る影もなくなっていた。 その凄惨な身を隠すのも、小さなペンダントと少しだけ丈の長いシャツ一枚で、下着すらつけることを許されない彼女の姿を、辛うじて隠している有様だった。 「……」 少女は、垂直に立てられた拘束台に、まるで昆虫の標本のように鎖で磔にされたまま、ぐったりと項垂れていたまま、一言も話さなかった。 既にその瞳に光はなく、何も履いていない自分の足下、壁面と同じ材質でできた灰色の床を、ただ穴のあいたように見つめていた。 その時だった。 「……!」 少女の真向かいの壁に備え付けられた自動ドアが開き、複数の人物が現れた。 全員白衣を羽織った男性であり、青年といっていい若者から壮年と思われる人物が入り乱れていた。 そしてその中央に立つ、銀の髪をした中年の男が、少女の凄惨な姿を見るなり笑顔で彼女に話しかけた。 「具合はどうだ」 その瞬間、少女の光のない瞳が見開かれ、感情を宿した。しかしそれは安堵でも希望でもなかった。 それは、恐怖の色だった。 「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」 先程までの静寂がまるで嘘だったかのように、少女は眼前の男を認識するなり、聞いている者の背筋が凍るかのような絶叫を上げた。 傷だらけの身体が恐怖に暴走するまま、手足を拘束している鎖を引き千切らんとばかりに引っ張るが、無駄だった。 「実験開始」 男がその笑顔を微塵も崩さないまま、氷のような声音で呟いた。 途端、側に控えていた数人の部下の男たちがまるで慣れたような動きで少女に群がり、ただ一枚身につけていたシャツを剥ぎ取り、更にその身体に機材を取り付けていった。 肌に密着させるタイプの脈拍を計測する装置、肌に刺して感情の変動による筋肉の緩窮をリアルタイムで計測する装置、頭皮に取り付けて強引に信号を送り脳の反応を読み取る装置、その他もろもろの機材が、少女の皮膚を食い破り、一切の容赦なく取り付けられていく。 「嫌ああああああ!助けて!やめてえええええええ――えぐっ」 全身からチューブを伸ばされ最早人間の尊厳など微塵もない様相となった少女の口に、銀髪の男が笑顔のままゴムで出来た栓を押しこみ、悲痛な叫び声を殺した。 「ふぐううううう!んんんんん!」 満足に悲鳴をあげることすら許されなくなった少女のうめき声が、ただ虚しく部屋の中に響く。 必死に嘆願するような瞳が男の瞳と合い、少女は狂ったようにふるふると顔を横に振った。 「さぁ、いい子だ。我慢するんだよ」 男の笑顔はやはり崩れないまま、静かに白衣の袖から出た手袋をつけた掌が、 少女の横に振られる頭に添えられ、愛でるように撫でた。 同時に駆動音が響き、垂直だった拘束台が少女ごと後ろへ倒れていき、手術台のような様相へと変わった。 「むぐううう!んん!んぐううう――」 「脳髄への直接的な信号送信試験、開始」 男の声が、背後の操作パネルを叩く部下の一人に届き、それに応答して部下の男が一度大きくキーを叩いた。 その瞬間だった。 「ぐううううううううううううっっむぐううううう!ぐ、ぐぐぐっ!むぐううううううううううううう!ぐっぐううううううううううううううっっうううううううううううううううううううううううっ――!!」 栓に閉じ込められた、人の喉が決してあげてはいけないようなおぞましい悲鳴を、少女があげた。 一糸纏わぬ身体の背筋は弓なりに仰け反り、背骨から折れるのではないかと思うほどに曲がった。 少女の眼球はぐるぐると左右別々の方向に狂ったように動き、白目の部分は一瞬で充血し濃いピンク色に染まった。 「ぐぐぐぐぐぐぐううううううううううううううううううううう――」 響く少女の悲鳴に、男たちは微塵も動じることはなかった。それぞれが己のすべき役目をひたすら冷徹にこなしていく。 ある者は手元の黒いボードに挟んだ紙に計測結果を書き記し、 ある者は実験が正常に進行できているかを計測し、その報告をすぐ横の観測員が聞き時刻と経過を記録し、 ある者は少女の全身を侵す機材の出力を一定時間ごとに更に上げ、ある者は少女の肉体そのものが見せる外的反応をこと細かに記していく。 「試験、終了」 男の声で機材の出力が落とされると同時に、少女の浮いていた腰がどさ、と台の上に落下した。 死ぬほうが良いまでの苦痛から逃れた彼女の全身が、びく、びくと定期的な痙攣を起こした。 「ふ――っ……ふ――っ」 乱回転をやめた少女の瞳の焦点が合わさるが、それはもうこの世界のどこも見てはいなかった。 灰色の天井も、自身につながれている無数の機材も、自身を壊していく者達の表情も、何も彼女の内面に響いてはこなかった。 死人と何も変わらない表情をしたまま、少女は息を続けているだけだった。 「続いて、精神面での攻撃に対する反応観測実験、準備」 男の声が先程と同じように発せられたことすら、少女の耳には入っていなかった。 少女の視界、意識の外で、部下の男たちが羽織っていた白衣を脱いだ。 続けて手袋も取り、観測用の実験器具からも一旦手を話した。 「神崎君のことでも考えているのかな」 銀髪の男が、穏やかな口調で少女に話しかけた。 想い人の名前を認識した少女の意識が、再び悲惨な世界へと引きずり戻され、瞳に僅かに感情が現れる。 「お前の幸せな幻想を、『また』全て打ち砕いてあげよう」 その男の言葉の意味を『思い出した』瞬間、少女の瞳に一気に恐怖の感情が戻り、手足がまた暴れだし、鎖ががちゃがちゃと音を立てた。 先程までの苦痛で消耗しているにも拘らず抵抗する少女の姿に、男が少し驚いたような顔を見せた。 「おや――流石に少し『覚えて』きたのか。新しい反応だ」 涙を溢れさせながら必死に拒否する少女を横目に、男は手元の小さなメモに『記憶残留を確認。実験後、通常通り記憶消去処置』と書き込み、そして後ろに並ぶ部下たちを振り返った。 少女もこれがデジャブであるという一縷の望みを賭け、顔を少しあげて男の見る方向を覗いた。 ……果たして、それはデジャブではなかった。 そこにいたのは、白衣はおろか衣服を完全に脱ぎすて、全裸となった男たちだった。 「投薬の作用で処女膜は再生してあるから、あとは君達の嗜好に任せる。好きにしたまえ。私はその間に観測を担当しよう」 男が少し悪戯じみたように片目を瞑って言うと、男たちの顔がおぞましい笑顔に歪んだ。 そして少女に背中を見せて向こう側の機材へと歩いて行く男と代わるようにして、 下卑た笑みを浮かべた男たちが、少女へと群がってきた。 拘束されたまま、ペンダント以外何も身に着けていない、彼女の身体に。 「んんん!んんんんんんんんんん――」 少女の悲痛な拒否と悲鳴など、微塵たりとも意にも介されなかった。 全身を穢されながらなおも苦鳴をあげ続ける自身の娘と機材のモニターを眺めながら、男は静かに呟いた。 「62度目の初夜、おめでとう。 次こそは忘れていると良いな」 ---- 「――ああああああああああっ!!」 絶叫と同時に、彼女は跳ね起きた。 時計の針は既に真夜中、二時四十五分を差して、絶叫の終わった静かな部屋の中でちく、たくと秒を叩いていた。 「はあっ……はあっ……」 銀の長い髪、青紫の瞳、首から下がるペンダント。 ベッドの上で息を切らす彼女は、今見ていた夢が紛れも無い自分の記憶だと気付いていた。 息が戻ってくると同時に、夜の闇に包まれた部屋の中で、彼女は静かにその両肩を自分の腕で抱いた。 かちかちと奥歯が鳴り、前髪で隠れた瞳から、涙がとめどなく溢れた。 「そんな……私は、そんな……」 誰もいない部屋の中、彼女はベッドの上で、震えながら泣いた。 未来の特異点、セリア・オルコットは、窓の向こうに朝が来るまで泣き続けた。

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