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第三話「花道・イン・ザ・フレイム」 - (2013/12/28 (土) 08:26:10) の最新版との変更点

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「……今何時だ、ユメ」 「5時35分。もうそろそろね。みんな、準備はいい?」 回線越しの青年の言葉に、ユメと呼ばれた女性が答えた。 続いたユメの更なる回線越しの言葉に、複数の者達が、やはり回線越しに「ヤー」とだけ答える。 朝日が昇りだして間もない、静かな街の片隅に、複数の巨大な人型が鎮座していた。 青年とユメが座っているのはそれぞれの巨大な人型のコクピット内で、正面モニターには視点がかなり高い街の景色が映っている。 「敵は"ワーカー"級、"ステインドロー"級、及び"パースエイダー"級と推測……発見次第、早急に迎撃・殲滅せよ、か。連中も飽きないな」 「レンチだって凝り性じゃない、お互い似た者同士なんじゃないの?類はなんとやらって言うし」 「はッ、光栄だな」 レンチと呼ばれた青年は、ブリーフィングで知らされた敵勢力を確認しつつ、ユメの言葉に肩をすくめる。 そしてそのまま、タッチパネルを兼ねたモニターを操作して、情報が表示されていたウィンドウを消した。 「ほら……来たぞ」 レンチの言葉に、別機体に搭乗しているユノが無言で応える。 それぞれの機体に搭載されたレーダーシステムは、30を超える敵性反応を捉えていた。 「――作戦開始。一番機"ギガスクラッパー"、レンチ・モアボルト、動くぞ」 「同じく二番機"ヘビーララバイ"、ユメ・ウェイストランド、行きます」 ---- 「……あ゛ー……」 愛機ハイエンドジャンクの上で、ガラクタ・ガッポはため息をついた。 今、彼の目の前に広がっているのは、村の外の世界。街の入り口が見える、巨大な岩が乱立する荒地だった。 あの日、勢いのまま、彼は気付けば故郷から大分遠いところまで来てしまっていた。 非日常に魅せられて、必要だと思われたものだけを持って村を飛び出したのはいいが、彼個人の財産は僅かだった。 そのことを遅く思い出したのはつい先程のことで、先立つものがなければ何処に行っても何も出来ないことに気付いたのは、荒地の向こうに街が見えた瞬間だった。 「農夫から盗賊にでもなれってことかよ……洒落になんねえ……」 言葉にしてみれば、なおさら気が進まない。というより、彼自身の気質からは無理があった。 非日常かと言われれば、これ以上ない程に非日常だ。しかし、ガラクタが惹かれたのは、そういう類のものではない。 「なあー……ジャンクよぉ、俺どうしたら良いかなぁー」 返事が返ってくることを全く期待しないまま、ガラクタは尻の下の愛機に話しかけた。 当然、返事は返ってこない。ハイエンドジャンクは静かに、その肩に主を乗せているだけだった。 ただ、風向きだけが変わって、彼が今まで進んできた方向の反対側、つまり帰り道に向かって吹き出した。 「……戻れ、ってことかよ。やだなー、情けねえなー。あーあ」 目の前には初めての、都会といっても過言ではない街。 しかし手元にニンジンや大根、ナスといった野菜以外ほぼ何もない事実が、彼の足を止める。 この野菜は食料だ。これが尽きればいよいよお先真っ暗な上、売るとしても金になるか解らない。 「……」 ガラクタはしばらくそうしていた。 そして振り返って、自分が進んできた景色を眺めると、また前を向いた。 「よし!行くか!!」 コクピットに乗り込み、操縦桿を握る。 ガラクタが街の向こう、遥か彼方から、見覚えのあるモノたちがやって来ていることに気付いたのは、 大分街に近付いた頃だった。 ---- 「こっ、こちら六番機"コールネーム"!もうだめで……うわああああっ!!」 「……こっ、こちら五番機"メタルプレート"!六番機がっ、戦闘不能っ!」 仲間の死を見ていたらしい同僚からの通信が、レンチの機体「ギガスクラッパー」のコクピットに響いた。 レンチは小さく舌を打つと、目の前の「敵」――「ワーカー級」と呼ばれる最下級の個体を三体まとめて機体のハンドブレードで撃墜した。 五番機のいる別チームの救援に向かうべく進路を変えるが、そこに現れたのは更なる「敵」。 後方に長い頭部に鋭い牙を備えた口吻、両腕からは一対のブレードを生やした中級個体――「ステインド・ロー級」。 レンチの操るグガスクラッパーの進路を塞ぐように群がり、口吻からは円盤状の弾丸を生成して待っていた。 「――そこをどけ、愚図共」 低い声で悪態をつくと、レンチは操縦桿のトリガーを引いた。 その瞬間、ギガスクラッパーの巨体が空中に飛び上がり、ステインド・ロー達の上空を取る。 「せいッ!」 レンチの細い指が、操縦桿に備え付けられたキーを一瞬の内に複雑に操作する。 それに応え、ギガスクラッパーは空中でバーニアを噴かして横回転、ハンドブレードによる高速連続攻撃を繰り出す。 高速回転する超硬質の刃がその装甲をいとも容易く斬り裂き、あっという間にステインド・ロー五体を切り裂き、鉄屑へと変えた。 「――っ」 それとほぼ同時に、少し離れた位置にいた二番機"ヘビーララバイ"のパイロット、ユメが息を止め、トリガーを引き絞る。 ヘビーララバイに装備された遠距離カノンの砲身が巨大な薬莢を排出。発射された超高速の砲弾がギガスクラッパーのすぐ横を通りぬけ、 そこにいたステインド・ローの一体を撃ち抜き、その勢いを殺さないまま背後にいたニ、三体を更に貫いた。 「相変わらず危ねぇな、俺に当たったらどうする」 「ふふっ、当てたことないでしょ!」 レンチの憎まれ口を軽く流すと、ユメはキー操作で次弾を砲身に叩きこんだ。 同時にレンチもキーを操作、機体のブレードを構え直した。 「ブラボーチームがヤバいらしい。救援に向かうぞ、ユメ」 「知ってる。さっさと行くわよ!」 返事をし終わるか否かのタイミングで、ヘビーララバイとギガスクラッパーのバーニアが同時に点火。 炎の奔流を迸らせながら、二機はすぐさま街の東南方向に高速で移動。 「ユメ、敵を視認できたらすぐに狙撃だ!走りながらで良い!」 「わかってるわよっ!」 高速移動するヘビーララバイのカノンが作動し、砲身内の砲弾がいつでも発射可能な状態となる。 操縦桿のトリガーにはユメの指がかけられ、それでいて不意に引かないように力が込められる。 次の瞬間、 「見えた!」 レンチの声がする前に、ユメはもう既にトリガーを引いていた。 機体の演算よりも早い狙撃。撃ちだされた砲弾は唸りを上げて飛んでいき、 今まさに五号機を襲おうとしていた別タイプの「敵」――大顎に四足の昆虫のような外見の「パースエイダー級」の首を吹き飛ばした。 頭を遠くに飛ばされたパースエイダーは、ニ、三歩ほど五号機に向かってふらつくと、その巨体を地面に沈ませ、動かなくなった。 それに気を取られ、他のパースエイダー達がヘビーララバイの姿を捉えた時には、もう既に遅かった。 ……太陽の下、きらめく逆光を浴びて。 パースエイダー達の上空、完全な死角に舞い上がったのは、ギガスクラッパーの巨体――。 「終わりだ 虫共」 レンチの冷酷な死刑宣告と共に、トリガーが引かれる。 ギガスクラッパーの両腕のブレードが高速で振りぬかれ―― それから十秒しない間に、完全に不意を突かれた虫達は、ほぼ一方的に全身を切り刻まれて殲滅された。 「五番機、無事か?」 「……あ?……あ、ハイ!自分は、問題ありません……でも……」 五番機パイロットの返事を待たず、ギガスクラッパーとヘビーララバイが六番機の残骸に近付く。 六番機のコクピットは完全に大顎によって潰されており、内部に人間一人分が収まる隙間すら残されてはいないようだった。 「……駄目ね……あとで、遺体だけは連れて帰ってあげないと」 「そうだな……五番機、気は落とすなよ。お前のせいじゃない」 レンチは五番機パイロットに声をかけると、タッチパネルを操作して高感度レーダーを起動、索敵を始めた。 それに続くようにユメや他のパイロット達も索敵を開始する。 敵性反応は、どの機体のレーダーにもにもなかった。 ――その時は。 「敵性反応なし。敵勢力の全滅を確――」 レンチの言葉が言い終わらない内の、僅かな瞬間。 ――突如、レンチ達の陣の内側に、「敵」が姿を表した。 「――な――」 自分たちのすぐ後ろに現れた敵性反応にすぐに反応、ギガスクラッパーとヘビーララバイが咄嗟に振り向いた瞬間だった。 ギガスクラッパーは「敵」によって蹴り飛ばされ、ヘビーララバイは発射された弾丸を回避しきれずに喰らい、倒れた。 「――っぐ、ユナっ!」 「大丈夫、生きてるよ!それより――」 「うわああああああああああ!!」 ギガスクラッパーとヘビーララバイが大勢を立て直す間もなく、通信から悲鳴が響いた。 視点だけを前に戻すと、そこに広がっていたのは、五番機をはじめとした仲間たちの機体の残骸だった。 ――「敵」がこちらを向く。 ……その姿は、爬虫類のような頭部に巨大な背びれ、長い四肢を持ち、両手持ちの槍状の武器を持った異形の姿だった。 瞬間移動の能力を持つ、「敵」の中でも強力な上級個体。索敵に反応しなかったのは、範囲外から瞬間移動したからだった。 「な――"キル・デヴァイス級"だと!?ブリーフィングと違うぞ!!」 「……いくらなんでも、相手が悪すぎる!しかもこっちは二人、あっちは六体よ!?」 大勢を立て直した二機が寄り添い、孤立を防ぐ。 キル・デヴァイス達は、まるで追い詰められた獲物を嘲るかのように、ゆっくりとその周囲を取り囲んだ。 気付けば二機は、背後からの襲撃を防ぐために、自然と背中合わせになっていた。 「きゅ……救援を呼ばなきゃ……」 「今から呼んでももう遅い……どうする……」 二機の周囲を緩慢に、それでいて確実に取り囲むキル・デヴァイス達の視線は揺らがない。 そして少しずつ、その円周は、二機との距離を詰めてきていた。 「……ど、どうしよう……どうしよう……!?」 「……」 冷静さを失いつつあるユメと、眉間を割らせて敵を睨むレンチ。 しかしその食いしばった歯は、彼自身の唇を噛み切り、血を流させていた。 ――不意に、キル・デヴァイス達の動きが止まる。 そして六体全てが、ほぼ同時に頭を深くもたげ、低い唸り声を上げだした。 「ひっ――」 「――ッ」 ユメとレンチの時間が止まる。 その瞬間から一拍置いて―― ――キル・デヴァイスの一体が、倒れた。 「え……?」 「な……」 状況が把握できないない二人から、キル・デヴァイス達は目を逸らす。 その瞬間、ギガスクラッパーがヘビーララバイの腕を無理やり掴み、バーニアの最高出力でその場から離れた。 キル・デヴァイス達は二機に目もくれることなく、全て同じ方向を見つめていた。 キル・デヴァイス達とレンチ達の視線の先。 そこに立っていたのは、錆びたような茶色と灰色にカラーリングされた、一体の機体だった。 「――やいやいやい、このバケモン共!!」 ……キル・デヴァイスの一体の頭部を撃ちぬいたライフルを構え直し、機体のスピーカーから逞しい声が響く。 「――揃いも揃って弱いモンいじめたぁ、随分性根が腐ってやがんなぁ!!」 ……反対側の腕に備えられたエネルギーパイルが起動し、その先端にオレンジ色の火花が散りだす。 「――この俺の目の黒い内にゃあ、テメーらみてえなクソッタレ共はただじゃ置かねえ!!」 ……戦場と化した街の片隅で。 舞い散る火の粉を纏いながら、その機体は地面を踏みしめ、構えた。 「――耳の穴カッぽじってよく聞きやがれ!!  農民生活二十年!畑は荒らされ家潰れ、それでも戻らぬ俺の道!!  金なぞなくても踏み外さねえ!!生き甲斐なくしゃあ新たに作る!  まだまだ終われぬこの花道を、邪魔するヤツぁこの手でシメる!!  テメーらは、このガッポ村出身・ガラクタ・ガッポが直々に叩き潰してやるからそう思えええええええッ!!」 第三話 終
「……今何時だ、ユメ」 「5時35分。もうそろそろね。みんな、準備はいい?」 回線越しの青年の言葉に、ユメと呼ばれた女性が答えた。 続いたユメの更なる回線越しの言葉に、複数の者達が、やはり回線越しに「ヤー」とだけ答える。 朝日が昇りだして間もない、静かな街の片隅に、複数の巨大な人型が鎮座していた。 青年とユメが座っているのはそれぞれの巨大な人型のコクピット内で、正面モニターには視点がかなり高い街の景色が映っている。 「敵は"ワーカー"級、"ステインドロー"級、及び"パースエイダー"級と推測……発見次第、早急に迎撃・殲滅せよ、か。連中も飽きないな」 「レンチだって凝り性じゃない、お互い似た者同士なんじゃないの?類はなんとやらって言うし」 「はッ、光栄だな」 レンチと呼ばれた青年は、ブリーフィングで知らされた敵勢力を確認しつつ、ユメの言葉に肩をすくめる。 そしてそのまま、タッチパネルを兼ねたモニターを操作して、情報が表示されていたウィンドウを消した。 「ほら……来たぞ」 レンチの言葉に、別機体に搭乗しているユノが無言で応える。 それぞれの機体に搭載されたレーダーシステムは、30を超える敵性反応を捉えていた。 「――作戦開始。一番機"ギガスクラッパー"、レンチ・モアボルト、動くぞ」 「同じく二番機"ヘビーララバイ"、ユメ・ウェイストランド、行きます」 ---- 「……あ゛ー……」 愛機ハイエンドジャンクの上で、ガラクタ・ガッポはため息をついた。 今、彼の目の前に広がっているのは、村の外の世界。街の入り口が見える、巨大な岩が乱立する荒地だった。 あの日、勢いのまま、彼は気付けば故郷から大分遠いところまで来てしまっていた。 非日常に魅せられて、必要だと思われたものだけを持って村を飛び出したのはいいが、彼個人の財産は僅かだった。 そのことを遅く思い出したのはつい先程のことで、先立つものがなければ何処に行っても何も出来ないことに気付いたのは、荒地の向こうに街が見えた瞬間だった。 「農夫から盗賊にでもなれってことかよ……洒落になんねえ……」 言葉にしてみれば、なおさら気が進まない。というより、彼自身の気質からは無理があった。 非日常かと言われれば、これ以上ない程に非日常だ。しかし、ガラクタが惹かれたのは、そういう類のものではない。 「なあー……ジャンクよぉ、俺どうしたら良いかなぁー」 返事が返ってくることを全く期待しないまま、ガラクタは尻の下の愛機に話しかけた。 当然、返事は返ってこない。ハイエンドジャンクは静かに、その肩に主を乗せているだけだった。 ただ、風向きだけが変わって、彼が今まで進んできた方向の反対側、つまり帰り道に向かって吹き出した。 「……戻れ、ってことかよ。やだなー、情けねえなー。あーあ」 目の前には初めての、都会といっても過言ではない街。 しかし手元にニンジンや大根、ナスといった野菜以外ほぼ何もない事実が、彼の足を止める。 この野菜は食料だ。これが尽きればいよいよお先真っ暗な上、売るとしても金になるか解らない。 「……」 ガラクタはしばらくそうしていた。 そして振り返って、自分が進んできた景色を眺めると、また前を向いた。 「よし!行くか!!」 コクピットに乗り込み、操縦桿を握る。 ガラクタが街の向こう、遥か彼方から、見覚えのあるモノたちがやって来ていることに気付いたのは、 大分街に近付いた頃だった。 ---- 「こっ、こちら六番機"コールネーム"!もうだめで……うわああああっ!!」 「……こっ、こちら五番機"メタルプレート"!六番機がっ、戦闘不能っ!」 仲間の死を見ていたらしい同僚からの通信が、レンチの機体「ギガスクラッパー」のコクピットに響いた。 レンチは小さく舌を打つと、目の前の「敵」――「ワーカー級」と呼ばれる最下級の個体を三体まとめて機体のハンドブレードで撃墜した。 五番機のいる別チームの救援に向かうべく進路を変えるが、そこに現れたのは更なる「敵」。 後方に長い頭部に鋭い牙を備えた口吻、両腕からは一対のブレードを生やした中級個体――「ステインド・ロー級」。 レンチの操るグガスクラッパーの進路を塞ぐように群がり、口吻からは円盤状の弾丸を生成して待っていた。 「――そこをどけ、愚図共」 低い声で悪態をつくと、レンチは操縦桿のトリガーを引いた。 その瞬間、ギガスクラッパーの巨体が空中に飛び上がり、ステインド・ロー達の上空を取る。 「せいッ!」 レンチの細い指が、操縦桿に備え付けられたキーを一瞬の内に複雑に操作する。 それに応え、ギガスクラッパーは空中でバーニアを噴かして横回転、ハンドブレードによる高速連続攻撃を繰り出す。 高速回転する超硬質の刃がその装甲をいとも容易く斬り裂き、あっという間にステインド・ロー五体を切り裂き、鉄屑へと変えた。 「――っ」 それとほぼ同時に、少し離れた位置にいた二番機"ヘビーララバイ"のパイロット、ユメが息を止め、トリガーを引き絞る。 ヘビーララバイに装備された遠距離カノンの砲身が巨大な薬莢を排出。発射された超高速の砲弾がギガスクラッパーのすぐ横を通りぬけ、 そこにいたステインド・ローの一体を撃ち抜き、その勢いを殺さないまま背後にいたニ、三体を更に貫いた。 「相変わらず危ねぇな、俺に当たったらどうする」 「ふふっ、当てたことないでしょ!」 レンチの憎まれ口を軽く流すと、ユメはキー操作で次弾を砲身に叩きこんだ。 同時にレンチもキーを操作、機体のブレードを構え直した。 「ブラボーチームがヤバいらしい。救援に向かうぞ、ユメ」 「知ってる。さっさと行くわよ!」 返事をし終わるか否かのタイミングで、ヘビーララバイとギガスクラッパーのバーニアが同時に点火。 炎の奔流を迸らせながら、二機はすぐさま街の東南方向に高速で移動。 「ユメ、敵を視認できたらすぐに狙撃だ!走りながらで良い!」 「わかってるわよっ!」 高速移動するヘビーララバイのカノンが作動し、砲身内の砲弾がいつでも発射可能な状態となる。 操縦桿のトリガーにはユメの指がかけられ、それでいて不意に引かないように力が込められる。 次の瞬間、 「見えた!」 レンチの声がする前に、ユメはもう既にトリガーを引いていた。 機体の演算よりも早い狙撃。撃ちだされた砲弾は唸りを上げて飛んでいき、 今まさに五号機を襲おうとしていた別タイプの「敵」――大顎に四足の昆虫のような外見の「パースエイダー級」の首を吹き飛ばした。 頭を遠くに飛ばされたパースエイダーは、ニ、三歩ほど五号機に向かってふらつくと、その巨体を地面に沈ませ、動かなくなった。 それに気を取られ、他のパースエイダー達がヘビーララバイの姿を捉えた時には、もう既に遅かった。 ……太陽の下、きらめく逆光を浴びて。 パースエイダー達の上空、完全な死角に舞い上がったのは、ギガスクラッパーの巨体――。 「終わりだ 虫共」 レンチの冷酷な死刑宣告と共に、トリガーが引かれる。 ギガスクラッパーの両腕のブレードが高速で振りぬかれ―― それから十秒しない間に、完全に不意を突かれた虫達は、ほぼ一方的に全身を切り刻まれて殲滅された。 「五番機、無事か?」 「……あ?……あ、ハイ!自分は、問題ありません……でも……」 五番機パイロットの返事を待たず、ギガスクラッパーとヘビーララバイが六番機の残骸に近付く。 六番機のコクピットは完全に大顎によって潰されており、内部に人間一人分が収まる隙間すら残されてはいないようだった。 「……駄目ね……あとで、遺体だけは連れて帰ってあげないと」 「そうだな……五番機、気は落とすなよ。お前のせいじゃない」 レンチは五番機パイロットに声をかけると、タッチパネルを操作して高感度レーダーを起動、索敵を始めた。 それに続くようにユメや他のパイロット達も索敵を開始する。 敵性反応は、どの機体のレーダーにもにもなかった。 ――その時は。 「敵性反応なし。敵勢力の全滅を確――」 レンチの言葉が言い終わらない内の、僅かな瞬間。 ――突如、レンチ達の陣の内側に、「敵」が姿を表した。 「――な――」 自分たちのすぐ後ろに現れた敵性反応にすぐに反応、ギガスクラッパーとヘビーララバイが咄嗟に振り向いた瞬間だった。 ギガスクラッパーは「敵」によって蹴り飛ばされ、ヘビーララバイは発射された弾丸を回避しきれずに喰らい、倒れた。 「――っぐ、ユメっ!」 「大丈夫、生きてるよ!それより――」 「うわああああああああああ!!」 ギガスクラッパーとヘビーララバイが大勢を立て直す間もなく、通信から悲鳴が響いた。 視点だけを前に戻すと、そこに広がっていたのは、五番機をはじめとした仲間たちの機体の残骸だった。 ――「敵」がこちらを向く。 ……その姿は、爬虫類のような頭部に巨大な背びれ、長い四肢を持ち、両手持ちの槍状の武器を持った異形の姿だった。 瞬間移動の能力を持つ、「敵」の中でも強力な上級個体。索敵に反応しなかったのは、範囲外から瞬間移動したからだった。 「な――"キル・デヴァイス級"だと!?ブリーフィングと違うぞ!!」 「……いくらなんでも、相手が悪すぎる!しかもこっちは二人、あっちは六体よ!?」 大勢を立て直した二機が寄り添い、孤立を防ぐ。 キル・デヴァイス達は、まるで追い詰められた獲物を嘲るかのように、ゆっくりとその周囲を取り囲んだ。 気付けば二機は、背後からの襲撃を防ぐために、自然と背中合わせになっていた。 「きゅ……救援を呼ばなきゃ……」 「今から呼んでももう遅い……どうする……」 二機の周囲を緩慢に、それでいて確実に取り囲むキル・デヴァイス達の視線は揺らがない。 そして少しずつ、その円周は、二機との距離を詰めてきていた。 「……ど、どうしよう……どうしよう……!?」 「……」 冷静さを失いつつあるユメと、眉間を割らせて敵を睨むレンチ。 しかしその食いしばった歯は、彼自身の唇を噛み切り、血を流させていた。 ――不意に、キル・デヴァイス達の動きが止まる。 そして六体全てが、ほぼ同時に頭を深くもたげ、低い唸り声を上げだした。 「ひっ――」 「――ッ」 ユメとレンチの時間が止まる。 その瞬間から一拍置いて―― ――キル・デヴァイスの一体が、倒れた。 「え……?」 「な……」 状況が把握できないない二人から、キル・デヴァイス達は目を逸らす。 その瞬間、ギガスクラッパーがヘビーララバイの腕を無理やり掴み、バーニアの最高出力でその場から離れた。 キル・デヴァイス達は二機に目もくれることなく、全て同じ方向を見つめていた。 キル・デヴァイス達とレンチ達の視線の先。 そこに立っていたのは、錆びたような茶色と灰色にカラーリングされた、一体の機体だった。 「――やいやいやい、このバケモン共!!」 ……キル・デヴァイスの一体の頭部を撃ちぬいたライフルを構え直し、機体のスピーカーから逞しい声が響く。 「――揃いも揃って弱いモンいじめたぁ、随分性根が腐ってやがんなぁ!!」 ……反対側の腕に備えられたエネルギーパイルが起動し、その先端にオレンジ色の火花が散りだす。 「――この俺の目の黒い内にゃあ、テメーらみてえなクソッタレ共はただじゃ置かねえ!!」 ……戦場と化した街の片隅で。 舞い散る火の粉を纏いながら、その機体は地面を踏みしめ、構えた。 「――耳の穴カッぽじってよく聞きやがれ!!  農民生活二十年!畑は荒らされ家潰れ、それでも戻らぬ俺の道!!  金なぞなくても踏み外さねえ!!生き甲斐なくしゃあ新たに作る!  まだまだ終われぬこの花道を、邪魔するヤツぁこの手でシメる!!  テメーらは、このガッポ村出身・ガラクタ・ガッポが直々に叩き潰してやるからそう思えええええええッ!!」 第三話 終

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