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第五話「結成」 - (2014/05/12 (月) 09:08:33) の最新版との変更点

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「……"バイオニクル"?」 ガラクタはユメから聞いた、その全く聞き慣れない固有名詞を、怪訝な表情で繰り返していた。 そう、とユメは相槌をつくと、更に話を続けた。 「今から十年以上前よ。私がまだまだ小さかった頃。あいつらは世界中のあちこちの都市に何の前触れもなくやって来て、破壊の限りを尽くしたの。街の人達は為す術もなく犠牲になって、当時の軍隊や自衛軍の持ってた兵器は、殆ど意味がなかったらしいわ」 ユメの語り口調は、その内容に反してそこまで陰鬱なものでもない。 ガラクタはその事に安心しつつも、先程より少し控えめな態度で彼女の話を聞いていた。 「あいつらはその後も、何度も何度も群れで襲いかかってきた。その度に多くの人達が死んで、街が消え去って……今までに、50以上の街が焼け野原になったらしいわ。幸い、まだこの"テッパン・シティ”はそうなってないけど」 ユメの言葉に、ガラクタは先程の戦場と化したシティのはずれを思い出していた。 思い返してみれば、あそこはシティの入り口のはずなのに住居が殆どなく、いやに荒廃した廃墟と奇妙な残骸じみた鉄くずがあちこちに散らばっているだけの有り様だった。 ……あれは、かつてあそこに住んでいた人達の名残と、それを守るべく戦って死んだ猛者たちの駆っていた武器だったのだ。 そしてその有り様が、今ガラクタがいる本部がある都市中心部にまで及んでいないのは、ユメ達が未だにそのバイオニクルなどという理不尽な悪意の侵攻を食い止めているからに他ならなかった。 ……ふつふつと、ガラクタの内側に熱を帯びた感情が湧き上がる。 「……私の家族もね、街を守るために戦ってたんだ。自慢じゃないけど、中々強かったって。でも私が12才のある日、お父さんとお母さん、それに兄さんは、それまでの活躍が嘘だったみたいに、突然死んだの。……運が尽きたんだろうね」 いつしかユメは零すように、ガラクタに向けてもういない身内の話をしていた。 彼女の表情には、悲壮感などは見受けられない。ただ、在りし日の思い出を懐かしむような、寂しい笑顔を浮かべていただけだった。 家族の想いを継いで戦い続ける日々の中で、いつしか涙も枯れてしまったのだろう事実を、ガラクタは無言で悟った。 ……ガラクタの胸の奥の熱が、更に膨れ上がった。 「私も、そう遠くないうちに死んじゃうかもしれない――最近、時々そう思うの。さっきだって、貴方が来てくれなかったら危なかったくらいだもの。でも、それはそれで良いんじゃないかなって思うの。――皆に、また会えるかもしれないから」 ユメが何処か冷めたように、ため息まじりにそう言った時だった。 「絶対に違う!!」 ガラクタが、肩を震わせて立ち上がっていた。 同時に、遅れて破裂音が響く。……左手に握られていた人参が、粉々になっていた。 ユメの驚いた表情を前に、ガラクタは彼女の両目をしっかりと見据えて、大きな声で言った。 「違う、違ぇぞユメの姐ちゃん!俺には確かにあんた達の事情はまだ詳しくねえし、こんなこと言える筋合いじゃねえかもしれねえけど……それでもこれだけは言える!それだけは違ぇぞ!!  この世界のどこに、生き残った娘に『早くこっちに来い』だなんて思う親がいる!? この世界のどこに、助かった妹に『お前だけ生きててズルい』だなんて思う兄貴がいるんだよ!?」 ガラクタの、絶叫にも近い声が、部屋に響いた。 ユメは目を見開いたまま、ガラクタの微塵もぶれない視線を見つめたままだった。 「頼む、俺に手伝わせてくれ。俺はお前の――いや、この街を守るお前の『仲間』の力になりたい。……あと、あのレンチとかいういけ好かねえ野郎にこれ以上調子乗らせるのもシャクだ!だったら俺もノる!そんであのバラ肉とかいう奴らの根性一から叩き直してやらあ!!」 ユメの右手を、人参の汁まみれになったガラクタの左手が容赦なく掴んだ。 文句を言うまでに思考が及ばず、ユメはガラクタの真っ直ぐな瞳をただ見つめるだけだった。 ……そして、漂う人参の青臭い匂いで、ふと我に返った。 「……ふふ、ありがとう。そんな風に言ってくれる人なんて、もう随分いなかった気がする」 ユメはそう言って、ガラクタの血管の浮いた手の甲に手のひらを乗せて、そのよく日焼けした肌を撫でた。 それでも、と言葉を置いて、ユメは続ける。 今度はユメの方から、ガラクタの瞳を確かに見据えて。 「……それでも私は、戦いを辞めない。それは、私が自分の意志で決めたことだもの」 ガラクタの瞳は、ユメの言葉に動じなかった。 もし自分がユメの親だったなら、そもそも娘が自分たちの後を継いで戦場に出向いていることすら快く思わないだろう――ガラクタはそう思った。 しかし、これはユメの選択なのだ。それは誰にも踏み込むことが許されない、彼女の生き方だから。 だからこそ。 だからこそ――ガラクタは、ユメに『死んでもいいかも』などとは、絶対に思ってほしくなかったのだ。 「……まあ……ぶっちゃけ、俺も家族いないんだ」 ガラクタの穏やかになった声に、ユメが表情を変えた。 左手の粉々になった人参を見つめながら、ガラクタは窓の外の青空を見つめて続けた。 「俺が小さい頃に、親父とお袋がいきなり消えたんだ。俺は引き取られた親戚のおっちゃんから、『仕事の都合』とだけ聞いてた。気づけば、親父とお袋の顔を暫く見ないまま、10年も経っちまった」 ユメが、ガラクタの言葉の意味を悟ったような表情をした。それだけの年数が経ってもなお会えていないのなら、生きている可能性は考えにくい。 「何があったのかは今でも知らねえ。どこかで面倒事に巻き込まれたか、それとも俺を捨てたか。今頃どこでくたばってるのかも解らねえけど……」 ガラクタの表情は――「見えない」。ユメがそう思った時だった。 「それでも俺は、親父とお袋を嫌いになれなかった。だから思ったんだ。  どんなにこの世界が大変で、醜くても――しっかり生きていれば、そのうちイイこともあるって」 ガラクタが、青空の光を背に振り返った。 ユメの瞳に写ったのは、よく日焼けして小麦色になっている、迷いのない笑顔だった。 「な?」 急に破顔して、今度はくちゃくちゃの笑顔になったガラクタの言葉に、ユメはくす、と笑って返事を返した。 「――そうね」 ――部屋の外。 ガラクタとユメの会話に聞き耳を立てていたレンチは、 ため息をひとつつくと、複雑そうな表情で廊下を進んでいった。 ---- ……翌日、機体格納ガレージにて。 『俺も戦わせてくれ』と生ナスを齧りながらユメの『仲間』兼『上司』に直談判してユメ直属の部下となったガラクタは、 バイオニクル殲滅作戦の出撃直前、同じく自身の『上司』に就任することとなった、細身の男を目の前にした。 「……今日からお前の上司になった、ギガスクラッパー、レンチ・モアボルトだ」 あからさまに機嫌のよくない声音に、ガラクタがうへえ、といった表情を押し殺しつつ「……よろしく頼む」とだけ呟いた。 ぴりぴり張り詰める空気。 昨日と同じように凍りつくユメ。 しかし以前と違ったのは、レンチがさっさとガラクタの横を通り過ぎ、自機のコクピットに乗り込んでしまったことだった。 ……通り過ぎる刹那。 レンチは殆ど蚊の鳴くような声量で、それでも確かに「悪かった」とだけ呟いた。 幻聴かとも思ったガラクタとユメが、驚きの表情を浮かべる。 そして一度すん、と鼻でため息をすると、レンチの方を振り向かないまま「おう!」と返し、自身もコクピットに乗り込んだ。 ――時に新光皇歴1982年8月、バイオニクル迎撃及び殲滅組織「ステンレスピース」テッパン・シティ支部。 ユメ・ウェイストランド、レンチ・モアボルト、そしてガラクタ・ガッポの三名から成る「第1292(テツクズ)小隊」による初の作戦が開始された。 第五話 終
「……"バイオニクル"?」 ガラクタはユメから聞いた、その全く聞き慣れない固有名詞を、怪訝な表情で繰り返していた。 そう、とユメは相槌をつくと、更に話を続けた。 「今から十年以上前よ。私がまだまだ小さかった頃。あいつらは世界中のあちこちの都市に何の前触れもなくやって来て、破壊の限りを尽くしたの。街の人達は為す術もなく犠牲になって、当時の軍隊や自衛軍の持ってた兵器は、殆ど意味がなかったらしいわ」 ユメの語り口調は、その内容に反してそこまで陰鬱なものでもない。 ガラクタはその事に安心しつつも、先程より少し控えめな態度で彼女の話を聞いていた。 「あいつらはその後も、何度も何度も群れで襲いかかってきた。その度に多くの人達が死んで、街が消え去って……今までに、50以上の街が焼け野原になったらしいわ。幸い、まだこの"テッパン・シティ”はそうなってないけど」 ユメの言葉に、ガラクタは先程の戦場と化したシティのはずれを思い出していた。 思い返してみれば、あそこはシティの入り口のはずなのに住居が殆どなく、いやに荒廃した廃墟と奇妙な残骸じみた鉄くずがあちこちに散らばっているだけの有り様だった。 ……あれは、かつてあそこに住んでいた人達の名残と、それを守るべく戦って死んだ猛者たちの駆っていた武器だったのだ。 そしてその有り様が、今ガラクタがいる本部がある都市中心部にまで及んでいないのは、ユメ達が未だにそのバイオニクルなどという理不尽な悪意の侵攻を食い止めているからに他ならなかった。 ……ふつふつと、ガラクタの内側に熱を帯びた感情が湧き上がる。 「……私の家族もね、街を守るために戦ってたんだ。自慢じゃないけど、中々強かったって。でも私が12才のある日、お父さんとお母さん、それに兄さんは、それまでの活躍が嘘だったみたいに、突然死んだの。……運が尽きたんだろうね」 いつしかユメは零すように、ガラクタに向けてもういない身内の話をしていた。 彼女の表情には、悲壮感などは見受けられない。ただ、在りし日の思い出を懐かしむような、寂しい笑顔を浮かべていただけだった。 家族の想いを継いで戦い続ける日々の中で、いつしか涙も枯れてしまったのだろうことをガラクタは無言で悟った。 ……ガラクタの胸の奥の熱が、更に膨れ上がった。 「私も、そう遠くないうちに死んじゃうかもしれない――最近、時々そう思うの。さっきだって、貴方が来てくれなかったら危なかったくらいだもの。でも、それはそれで良いんじゃないかなって思うの。――皆に、また会えるかもしれないから」 ユメが何処か冷めたように、ため息まじりにそう言った時だった。 「絶対に違う!!」 ガラクタが、肩を震わせて立ち上がっていた。 同時に、遅れて破裂音が響く。……左手に握られていた人参が、粉々になっていた。 ユメの驚いた表情を前に、ガラクタは彼女の両目をしっかりと見据えて、大きな声で言った。 「違う、違ぇぞユメの姐ちゃん!俺には確かにあんた達の事情はまだ詳しくねえし、こんなこと言える筋合いじゃねえかもしれねえけど……それでもこれだけは言える!それだけは違ぇぞ!!  この世界のどこに、生き残った娘に『早くこっちに来い』だなんて思う親がいる!? この世界のどこに、助かった妹に『お前だけ生きててズルい』なんて思う兄貴がいるんだ!?」 ガラクタの、絶叫にも近い声が、部屋に響いた。 ユメは目を見開いたまま、ガラクタの微塵もぶれない視線を見つめたままだった。 「頼む、俺に手伝わせてくれ。俺はお前の――いや、この街を守るお前の『仲間』の力になりたい。……あと、あのレンチとかいういけ好かねえ野郎にこれ以上調子乗らせるのもシャクだ!だったら俺もノる!そんであのバラ肉とかいう奴らの根性一から叩き直してやらあ!!」 ユメの右手を、人参の汁まみれになったガラクタの左手が容赦なく掴んだ。 文句を言うまでに思考が及ばず、ユメはガラクタの真っ直ぐな瞳をただ見つめるだけだった。 ……そして、漂う人参の青臭い匂いで、ふと我に返った。 「……ふふ、ありがとう。そんな風に言ってくれる人なんて、もう随分いなかった気がする」 ユメはそう言って、ガラクタの血管の浮いた手の甲に手のひらを乗せて、そのよく日焼けした肌を撫でた。 それでも、と言葉を置いて、ユメは続ける。 今度はユメの方から、ガラクタの瞳を確かに見据えて。 「……それでも私は、戦いを辞めない。それは、私が自分の意志で決めたことだもの」 ガラクタの瞳は、ユメの言葉に動じなかった。 もし自分がユメの親だったなら、そもそも娘が自分たちの後を継いで戦場に出向いていることすら快く思わないだろう――ガラクタはそう思った。 しかし、これはユメの選択なのだ。それは誰にも踏み込むことが許されない、彼女の生き方だから。 だからこそ。 だからこそ――ガラクタは、ユメに『死んでもいいかも』などとは、絶対に思ってほしくなかったのだ。 「……まあ……ぶっちゃけ、俺も家族いないんだ」 ガラクタの穏やかになった声に、ユメが表情を変えた。 左手の粉々になった人参を軽く振り払いつつ、ガラクタは窓の外の青空を見つめて続けた。 「俺が小さい頃に、親父とお袋がいきなり消えたんだ。俺は引き取られた親戚のおっちゃんから、『仕事の都合』とだけ聞いてた。気づけば、親父とお袋の顔を暫く見ないまま、10年も経っちまった」 ユメが、ガラクタの言葉の意味を悟ったような表情をした。それだけの年数が経ってもなお会えていないのなら、生きている可能性は考えにくい。 「何があったのかは今でも知らねえ。どこかで面倒事に巻き込まれたか、それとも俺を捨てたか。今頃どこでくたばってるのかも解らねえけど……」 ガラクタの表情は――「見えない」。ユメがそう思った時だった。 「それでも俺は、親父とお袋を嫌いになれなかった。だから思ったんだ。  どんなにこの世界が大変で、醜くても――しっかり生きていれば、そのうちイイこともあるって」 ガラクタが、青空の光を背に振り返った。 ユメの瞳に写ったのは、よく日焼けして小麦色になっている、迷いのない笑顔だった。 「な?」 急に破顔して、今度はくちゃくちゃの笑顔になったガラクタの言葉に、ユメはくす、と笑って返事を返した。 「――そうね」 ――部屋の外。 ガラクタとユメの会話に聞き耳を立てていたレンチは、 ため息をひとつつくと、複雑そうな表情で廊下を進んでいった。 ---- ……三日後、機体格納ガレージにて。 『俺も戦わせてくれ』と生ナスを齧りながらユメの『仲間』兼『上司』に直談判してユメ直属の部下となったガラクタは、 バイオニクル殲滅作戦の出撃直前、同じく自身の『上司』に就任することとなった、細身の男を目の前にした。 「……今日からお前の上司になった、ギガスクラッパー、レンチ・モアボルトだ」 あからさまに機嫌のよくない声音に、ガラクタがうへえ、といった表情を押し殺しつつ「……よろしく頼む」とだけ呟いた。 ぴりぴり張り詰める空気。 三日前と同じように凍りつくユメ。 しかし以前と違ったのは、レンチがさっさとガラクタの横を通り過ぎ、自機のコクピットに乗り込んでしまったことだった。 ……通り過ぎる刹那。 レンチは殆ど蚊の鳴くような声量で、それでも確かに「悪かった」とだけ呟いた。 幻聴かとも思ったガラクタとユメが、驚きの表情を浮かべる。 そしてガラクタは一度すん、と鼻でため息をつくと、レンチの方を振り向かないまま「おう!」と返し、自身もコクピットに乗り込んだ。 ――時に新光皇歴1982年8月、バイオニクル迎撃及び殲滅組織「ステンレスピース」テッパン・シティ支部。 ユメ・ウェイストランド、レンチ・モアボルト、そしてガラクタ・ガッポの三名から成る「第1292(テツクズ)小隊」による初の作戦が開始された。 第五話 終

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