「――こうして、仲間たちと一緒にあくまを倒したトマスは、世界を守ったのでした。めでたしめでたし」 壁のところどころに染みのある温かい部屋の中で、優しく朗らかな声が響いた。 少しぬるくなってしまった紅茶を啜り、声の主は目を輝かせている目の前の子どもたちを微笑みながら見ていた。 「さあ、次はどんなお話を聞きたいかしら?」 朗らかな声に、子どもたちは座ったままそれぞれの要望を言い合う。 紅茶を啜る音が静かに響くが、子どもたちの声でかき消される。 「次はね、うーんとね、うーんと……」 「今のお話はなんかカッコ良かったから、もっとカッコ良い冒険が聞きたい!」 「えー?わたしはもっとロマンチックなお話がいいー!」 小さな喧嘩を初めかけた子供達の頭に、皺くちゃになった手が優しく添えられ、撫でられる。 途端に「ぼくも!「わたしもー!」と他の子供が、その膝下にさらに近寄り、露骨に撫でられたがった。 「はいはい、喧嘩しないで。でもそろそろ日が落ちてしまうわ。もう帰らないと駄目よ」 「じゃあさ、じゃあさ、最後にひとつだけ聞かせて、おばあちゃん!」 元気よく手をあげた少年に、声の主の老婆は目を向けた。 「この前のお話にでてきた、世界のあちこちを見て回った旅人さんは、最後はどうしたのー?」 少年の疑問に満ちた表情を、他の子供たちが笑った。 「もうノルったら、いつも最後だけ聞きたがるんだから!お楽しみでしょ!」 「そうだよ!それに、最後はおうちに帰っちゃったに決まってるよ!」 「違うわよ!きっと素敵な人と出会って、その人とけっこんしたのよ!」 わいわいと騒ぐ子供たちの声が響く温かい部屋の中で、 老婆はにっこりと微笑み、ノルと呼ばれた少年の頬に手を添えて、答えた。 「それは、最後のお楽しみ。もしかしたら、まだ旅を続けているのかもしれないわね」 不満気な表情をしたノルだったが、優しく頭を撫でられて機嫌を直し、笑いながら「ちぇ!」と少し生意気に言った。 銀の長い髪を結わえ、青紫のどこまでも透き通った優しい瞳の老婆は、結局子供達の親が迎えに来るまで紅茶を啜りながらその相手をしていた。