◎The 0 day Wonder◎ ---- ――まるで鉛のようになった身体から、血ごと熱が抜けていく。 指先の感覚がなくなりはじめたうえに、瞼はひどく重い。 思いの外はやく全身を包み始めた、昏くて冷たい停滞に、ボクはぶる、と身を震わせた。 「――アリス、聞こえる?」 衰弱の始まった肺と喉から、ボクはかすれた声で彼女を呼んだ。 でも、ボクの呼び声は、誰からも返事が返されないまま、虚しい響きを残してすぐに消えた。 ボクは今、文字通り彼女の中にいるのに、こんなに近くにいるのに。 最期の最期でボクの声は、ついに彼女に届かなかった。 「――はは、ははは」 ボクは笑った。もう、笑うことしかできなかった。 自分が何のためにこんな結末を選んだのかもさえ解らなくなったのが可笑しくて、涙を流しながら笑った。 ――その時だった。 ちょうどスクリーンのように真っ白になった視界に、本当の映画のように別の景色が映し出された。 動くことも、返事もすることのなくなった彼女の残骸の中で。 ボクは、ボクの記憶を映し出す、誰にも見えない映画館を見つめ出した。 ――ボクは、思い出した。 とっくの昔に、何もかも解っていたはずだった。 ただ、認めたくなかった。 否定してみせたかった。 この世界でボクらだけは違うと、そう信じたかった。 何も怖くなかった。 例え明日、世界が滅んだって、人類すべてが消えてなくなったって、 ボクらには、何も困ることなんかない気さえした。 ――ボクの走馬灯の最初のシーンは、あの始まりの夕暮れだった。