閉店セール
様々な屋台が立ち並び、人通りも多く賑わう街路バザー。
店が密集する道の延長上310m先、一軒だけ離れて屋台が建っている。
それはカーダ・ヌイめいたおどろおどろしい造形の屋台で、
屋根の下では灰色の肌をした人間が無表情で人通りを眺めていた。
”・・・これで、いいんだよな~?”
イヴィレンデシアと人間型ファントム・遠藤は、人間社会を満喫するにあたって、
「ゼニ」なるものが無いと充分には楽しめないということを知り、銭稼ぎに挑戦していた。
商売という概念は、イヴィレンデシアの言う奴隷たちの間にはあったものの、奉仕に頼るだけだった彼らには無かった。
そして一切の所持金0からのスタートである。当然売り物を買って仕入れることはできない。
ではここで売っているものはそのへんで拾ったものだろうか?
『神聖なる緑色の液体!飲むとすごい元気になる!しかも安い10000縁』
『かわいい闇蛭。ひかりをあげるだけ。たくさん増える。しかもかわいい4980縁』
カーダ・ヌイめいたおどろおどろしいフォントで書かれた欺瞞ポップ!
ここで売られている禍々しい商品の数々は、イヴィレンデシア自らが自前で生み出したものだ!
緑色の液体は人間が飲んだらどうなるか知らないがマトランを奴隷にするものだ!元気になるわけない!
闇蛭はかわいくない!!
「・・・・・・遠藤です」
屋台の前で加速して通り過ぎる人々。
「・・・遠藤です・・・」
覗いてみたあと血の気が引いて後ずさっていく人々。
「・・・・・・遠藤です」
気づかないふりでぎこちない会話をしながら歩いていく人々。
誰も「ゼニ」をくれない。
もしかして言葉が通じていないのでは?
イヴィレンデシアは訝しんだ。
”おーいー、だれか買ってくれよぉー”
店の前を通るとうっすら聞こえる変な声!
客通りはさらに加速!!
”アンタじゃだめね。・・・買ってくれなきゃ、人闇にしちゃうわよ♪”
むしろ逆走していく人通り!!
”貴様ら・・・・・・そんな宣伝で商売が成り立つと本気で思っているのか?見せてやろう。
・・・エーラッシャー!!ヤッスィーヤッスィー!!ハヤクゥーシナイトォーイッチャァァウヨォォー!!”
響き渡る冷たい声に人通りは全員卒倒!!!
”・・・・・・だめじゃな”
”・・・・・・”
マジメな第一人格はひどく落ち込んだ。
”唯一の経験者だったのにね・・・もう立ち直れないんじゃない?”
”おいど~やったら売れんだよ・・・”
すると倒れた人々を踏み越えて、何者かが店の前に立った。
「遠藤です」
遠藤が見上げるとそこには、案山子マスクの女がいた。
「おひとつ、くださらない?」
”貴様には売ってやらん”
復活の第一人格。
しかし遠藤の投げてやった闇蛭に噛まれて案山子女は退散した。
”あいつぅ、なんかおいてったぞ?”
そこには一枚の金属片が落ちていた。
”これが「ゼニ」なんじゃない?”
”商売とは・・・こうやって進めていくんじゃな・・・”
そして遠藤は人々に闇蛭を投げまくって投げ売りした。
しかし銭はもらえずなんかヴァキめいた武装の警察特殊部隊に包囲されて交戦、
イヴィレンデシアが降ってきてコスプレヴァキの群れを吹っ飛ばした。
何とか逃げてきたイヴィレンデシアは人気のない場所で煌々と輝く奇怪機械を見つける。
遠藤を用いてそれを調査した。
”なんだんべ?”
”キャニスターに似ている、中にはトーアが・・・?”
”おいこんなにいっぱいならんであるぜやべーぞ!!”
”グルルルル・・・”
”ねえこの穴、この銭にぴったりじゃない?”
”まさか!銭でトーアを買うというのか!!?”
”かってみようぜ!!”
遠藤は自動販売機にコインを投入する。
何も起こらなかったので殴ると、がこんと音がして缶が落ちてきた。
”これが・・・”
”赤の缶だ”
”火のトーアかもしれん気を付けるんじゃ”
遠藤は缶を手に取る。
よく分からないのでかじって開けると液体が噴き出した。
”なんてことを”
”むごい”
”違う!これは元々液体だった!・・・つまり人間の飲料か?”
遠藤は吹きだすコーラを口の中に流し込んだ。
”なんだ?”
”うっ”
遠藤のゲップで自販機は倒壊!
”・・・間違いない、これはトーア能力を奴隷に与える危険兵器・・・”
”はやく口洗わないと!!”
遠藤はおどろおどろしい瓶を取り出し「神聖なる緑色の液体」を飲んだ。
二度目のゲップで自販機は爆散!
”トーア缶がこんなに!!”
”逃げろ!!!”
「っ遠っぷ藤ですっ」
イヴィレンデシアは小炎上する夜の町を飛び去った。
END