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三話 開戦 - (2015/05/21 (木) 19:30:18) の編集履歴(バックアップ)


ここからわかることがあった。ふたり、こいつを求めてここを訪ねようとしている。

ひとりはあの少女だった。俺は、厳密には少女ではないあの少女のことが嫌いにはなれなかった。
あれはそれでも、純粋な愛だった。だから、否定したくなかった。

もうひとつは何かは知らない。ただ、不思議だった。

「縷々姫。忙しくなりそうだな」
「うん。そうだね。でも不思議なんだ。どちらも、ぼくが目をあげた記憶のない子なのに、縷々の間にたどり着きそうなの」髪の毛をきらきらとさせている。
「ドロップ、君の知り合い?」
「片方はな。なんか、変な風になっちまってるけど」
「そっか。だけど君は出ていかない方がいいよ。君らで勝てるようなのは多分あの中に一つもいないし」
「お前、ぶちのめすぞ」
けっけっけと笑う。なんだか嘘っぽかった。出会った頃のエクレーンの様な。
堕胎告知亡き今、縷々の間へたどり着ける道は少ない。
予想通り、双方が双方とも、るるが縷々姫となった祭殿跡を目指していた。
俺たちは、なにもせずにただ眺めていた。


余はきっと眺めているであろうるるのことを想った。急いで会わせてあげたい。
その時、何かが起きてほしいと、そう願った。
空間を飛ばしながら急ぐ先に、ついに見つけた。ただし、不穏な影もある。空間の歪みも見える。

「しん、そなたは行って。私とバヴェットは彼らを」
「えぇ、頼みます」
「思う存分謝ってきな」なんというか、すごくバヴェットらしく不器用な送り出し方で、とても嫌いになれなかった。
彼が消えていく。始まりのドレスコードがあれば未完成の片目でも縷々の間へ通じるのか、あるいはそもそもそれだけで通ることができるのかもしれない。
るるにとって彼が特別であることが何よりの励みだった。

自分の状況を思い出し下をよく見る。あの時よりも戦力を増やしているな。
ブラインド・アーリィ、とシュガーリィ・ファイン・ナイトメア、キングス・ブラッディ・ジョーク。
それからブロウクン・フウルワールドの四機が相手らしかった。だがここにホロウ・スローンが、虚ろの玉座が居ない。喜べることではなかった。
ならば、あれと、ただ一機のみの戦闘用ティアーズと、生まれたての、それも未完成のティアーズが戦うことになる。大丈夫だろうか。
しかし今はこちらに集中しなければならない。

キングス・ブラッディ・ジョークが変態し、飛ぶ。見つかった。
「女ァ!!」だが、残念、余には戦いのセンスがある。だから。
足を展開、狙うは、地上のシュガーリィ・ファイン・ナイトメア。あっけなく散った。知っている。あれは危機を知らないティアーズ。
だから、自身の判断ではなにもできない。
あれは調和能力で違和感を消す。本来なら特攻じみた攻撃をサポートするために。けれど実際は場合はそうはならない。ただ、現状のすべてに納得するだけ。疑問を抱かなくなるだけ。
それが敗北や死であっても。
だからそのホーンたるマントをはぎ取った。当然自壊はしない。巻き込まれただけの少女を殺したくはなかったので蹴り飛ばして終わりにした。

無視されたキングス・ブラッディ・ジョークは怒りに身を任せて余に襲い来る。
避けた後を考える。ブロウクン・フウルワールドが備えている。その足をこちらに向けて。

ブラインド・アーリィだけはバヴェットにつかまっている。あれが隔離されているだけでもはありがたいと想うことにする。それにしても、バヴェットは楽しそうだ。

とにかく避けた。足は展開したままに。蹴りあうと、こちらの足だけがはじけ飛んだ。それを好機とふたたびあのべたべたの塊が迫る。
空間を捻じる。べたべた塊がブロウクン・フウルワールドに向かう。その背中をもう片方の足でけり上げると、片翼の悪魔を巻き込んで吹っ飛んだ。
が、見届けるまでもなく後方にその悪魔がいた。空間へ作用する能力を使いこなしている、感心した。
「あんた、戦いは慣れてるみたいだけど頭そんなによくないでしょう」なんともアホっぽいあおりと共に蹴り上げてくる。それを掴む。
調和、フォーニィヒロイズムを発動する。
目の前には緑の月に照らされた弱々しい眼鏡の男の子がいる。余を見て驚いているようだった。
正直ここまでで結構消耗している。早めにけりをつけたいが、彼もきっとあの子と同じだな。
仕方がないので軽く顎を狙った。ワンパンケーオーだった。
一応ちゃんと気絶したか確認したかったが、望まないうちに月が隠れて、再び昼の世界を現した。
つまり、アームキルを喰らった。自壊はしない。もっとも、素のティアーズに大した戦闘能力はないが――。

ブラインド・アーリィとバヴェットを覗くとなんとも王道の空中戦をしていた。どちらも縷々の欠片を行使しない。気が合っているように見える。
バヴェットのエクリプス・ディザイアがあまりに大ぶりな剣を奮う。しかしそれは十分に速く、繊細だった。
しかし、ブラインド・アーリィの槍もまた、その大ぶりさからは想像できない速さで互いを貫いていた。そこを、バヴェットが打ち抜いた。
剣を使っていないもう片方の肩から取り出した銃で何発も撃ちぬいた。
槍がエクリプス・ディザイアを貫いたまま腕が落ち、機体が撃墜されたのを確認した。

余は素のホーリィ・フォーニィでとびかかった。あれは、それを受け入れると知っているから。
その期待は裏切られなかった。ならば。
コクピットを破壊する。膂力で。
そのまま軽やかに敵のコクピットへ昇ってゆく。地面はあまりに遠い。この巨体が飛んでいるのだ、仕方がない。
気合いを入れる。
コクピットのあたりに思う。その装甲をはがす。はがす。はがす。
「てめえ、どんな体してやがんだ」装甲から顔をのぞかせた。
「まぁ余もかれこれ千年くらい鍛えてるもんで」笑顔を向けてそいつを思い切りぶん殴った。壁と拳に挟まれて多分死んだ。
「るるのちからで女の子を好き勝手するなんて、余が許すわけないじゃん、ばかなの」変な奴だったけど、死ぬときは結構普通だった。

音がした。
下方、死にかけのブラインド・アーリィがブロウクン・フウルワールドの足を引きちぎり、こちらに全力で投げていた。
「最期の今まで頑張らなきゃねえ!」ブラインド・アーリィから声がし、それは志半ばであることを悔やみながら、あがきながら、倒れた。
しかしその足はその気持ちに一つも引きずられていない。
あぁ、そうか。足をなくした余にはそれを防ぐ術がない。