俺はここに、最後の報告書を書く。 きっともう俺は助からないだろうから、せめて何が起こったかだけ残したい。 敵方は、どうやら雇われたらしいたった一人の女だった。 その他に敵兵の姿は見えない上に、その女は鎧すら付けていない。 方陣を組んで、槍で串刺しにするだけで済む……はずだった。 俺達が構えた瞬間、女はまるで手品のようにその姿を消した。 そして一秒の間もなく、仲間の一人がいきなり首から血を噴き出した。 倒れていくそいつに目を奪われていた他の奴らが、また一人同じように。 また一人。また一人。 何が起きているのか全く理解できなかったが、俺達は逃げ出した。 今思えば、逃げても無駄だったのかもしれないとさえ思う。 実際、いきなり足元に開いた『無数の牙が生えた穴』に落ちていった仲間を後ろに何度も見た。 生き残ったのは俺一人。 もうすぐあいつはやって来るだろう。 最後にここに警告する。 "銀色の長い髪をした女を発見したら、絶対に近づくな" ---- 『書き終りましたか?』 前触れもなく、横から声が響いた。 その言葉を聞いて、俺はふと気付いた。 俺がこの遺書を書き終えるまで、そいつは待っていたのだ。 月の光を背景に、死神は確かにそこにいた。 その瞳は青紫で、銀色の長い髪が翼のように広がる。 皮肉なことに、俺の好みの女をそのまま絵にしたような美人だった。 かちゃり、と金属音。 黒く無骨な形状で、見たことも無い機構があちこちにある奇妙な鉄の武器だった。 その先端にある丸い穴は、迷いなく俺の眉間に。 ……なんとなく、使い方が解った気がした。 「最後にあんたを抱いてみたかったよ」 『……気持ちだけ、受け取っておきますね』