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六話 クーデター - (2015/05/27 (水) 01:40:19) のソース

「それはさせない。とこしえの恋はおしまいだあ」
源千代がいた。
赤い着物を羽織っている。頭には豪著な簪。黒地に黄色をあしらった帯。
その姿に似た者を知っている。
それを、縷々姫という。ぼくを跳ね飛ばした者。それに似ていた。

「余はいつだってるるの欲しいものがなにより欲しいの。なのに絶対に手に入らない者がひとつ見つかっちゃった」

彼女を縷々姫だったものが覆っていく。

「だから、余はるるが一番大切にしていたとこしえの生をもらうことにする」

「恋なんて思い出したるるじゃ、永遠の時なんて生きられないし」

「だから、色ボケさんたちは進みだした時間の残りだけをちみーっと味わって、あとは余にすべてよこしなさい」

「余に憧れたいんでしょう?余のとこしえを、羨みたまえ」

「だからはやくいけ!もうこの縷々の間は余のものだ。縷々姫だったもの。もう、そなたは縷々姫でない」

それは、あまりに突然のクーデターで、しかしすべて決まっていたようだった。

縷々姫は自分を切り捨てることのできるアームヘッド。
そして、今切り捨てたものは――。

るるとぼくは顔を見合わせた。
そうして、千代の姫を見る。
「ありがとうございます、千代姫」ぼくは、初めて信仰の対象に、心の底から感謝した。
縷々の間から出ていく。二度と来ることはできない。もう、るるの許しは何の意味も持たず、るる自身はもうただの少女だから。
だからかみしめるように歩く。るるの手の暖かさを感じながら。その汗でしっとりとした手を強く握りしめて。

世界が白でなくなる。荒廃に色づく。
自分自身と、るるをしっかりと感じられる。
そして、ぼくらの千年止っていた時は歩みだす。

戻ってきたのは、あの祭壇のあった場所だった。
そこに座った。もうないけれど、なつかしい。
「ぼくね、愛を知らなかった。だから、最初のティアーズにはね、名前を付けてあげられなかったの」
「今なら、どうですか」
「いひひ、どうだろう。でもあれは、ワールズマインって名前が気に入ってるみたいだから」

立ち上がり夕日を浴びる。
「るる」彼女の方を見る。彼女と見つめあう。顔が熱い。

そして、声を出す。
「るる、ぼくはそれでも、永遠の、幸福の、恋にしたい!」
「うぇっ、えへへ、それじゃ、よろしくおねがいします」
やっぱり、顔が熱い。