「それはさせない。とこしえの恋はおしまいだあ」 源千代がいた。 赤い着物を羽織っている。頭には豪著な簪。黒地に黄色をあしらった帯。 その姿に似た者を知っている。 それを、縷々姫という。ぼくを跳ね飛ばした者。それに似ていた。 「余はいつだってるるの欲しいものがなにより欲しいの。なのに絶対に手に入らない者がひとつ見つかっちゃった」 彼女を縷々姫だったものが覆っていく。 「だから、余はるるが一番大切にしていたとこしえの生をもらうことにする」 「恋なんて思い出したるるじゃ、永遠の時なんて生きられないし」 「だから、色ボケさんたちは進みだした時間の残りだけをちみーっと味わって、あとは余にすべてよこしなさい」 「余に憧れたいんでしょう?余のとこしえを、羨みたまえ」 「だからはやくいけ!もうこの縷々の間は余のものだ。縷々姫だったもの。もう、そなたは縷々姫でない」 それは、あまりに突然のクーデターで、しかしすべて決まっていたようだった。 縷々姫は自分を切り捨てることのできるアームヘッド。 そして、今切り捨てたものは――。 るるとぼくは顔を見合わせた。 そうして、千代の姫を見る。 「ありがとうございます、千代姫」ぼくは、初めて信仰の対象に、心の底から感謝した。 縷々の間から出ていく。二度と来ることはできない。もう、るるの許しは何の意味も持たず、るる自身はもうただの少女だから。 だからかみしめるように歩く。るるの手の暖かさを感じながら。その汗でしっとりとした手を強く握りしめて。 世界が白でなくなる。荒廃に色づく。 自分自身と、るるをしっかりと感じられる。 そして、ぼくらの千年止っていた時は歩みだす。 戻ってきたのは、あの祭壇のあった場所だった。 そこに座った。もうないけれど、なつかしい。 「ぼくね、愛を知らなかった。だから、最初のティアーズにはね、名前を付けてあげられなかったの」 「今なら、どうですか」 「いひひ、どうだろう。でもあれは、ワールズマインって名前が気に入ってるみたいだから」 立ち上がり夕日を浴びる。 「るる」彼女の方を見る。彼女と見つめあう。顔が熱い。 そして、声を出す。 「るる、ぼくはそれでも、永遠の、幸福の、恋にしたい!」 「うぇっ、えへへ、それじゃ、よろしくおねがいします」 やっぱり、顔が熱い。