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 ミロカニア上空5000m地点を、アームヘッド専用輸送機「アノリウム」が飛行している。
 長く伸びた機首から厚い胴元へ繋がり、堅固な双翼を広げた姿は、上下に対して独特の幅を持つ。一見すると剛刃を有す両手剣のようでもあった。
 それというのも内部は二層構造となっており、上半分が操縦席を備えたキャビンブロック。
 下半分が簡易ハンガーを併設した格納庫となっている為だ。
 長大な機首の下方部は、刀剣に例えるなら剣身へ相当する。そこが内包するアームヘッドを送り出すカタパルトデッキとして機能する。
 今正にその全容が下方へと降り、刃が上下へ二分されたような形態を作った。
 出撃路の展開を経て、此処へ収められていた機体が走り出していく。乗せられたリニアレールが強力な磁場を形成し、鋼の巨躯を僅かに浮遊させると、高速度で射出した。

 引き絞られた矢の射放たれたが如く、空へと躍り出たのは白亜の人型。
 全長は9mに達するアームヘッド。
 前後に長い流線型の頭部パーツと、外へ向け突出した肩部装甲が特徴的な機体だった。
 頭部には中心面から両サイドへ向けて、深いスリットが入っている。
 バイザー型のスリット内部には複数のアイカメラが並列し、内蔵センサーは遺漏なく全方位をカバーする仕様。複眼を模すカメラ群は、各々の観測領に対して微光を発し、その連なりが眼光めいた揺らぎを与えていた。
 なだらかな胸部パーツの背面部からは、斜め上方へと翼骨を思わせる開閉式スラスターユニットが張り出す。
 機体が空中へ放られた瞬間、スラスターユニットのカバーハッチが左右同時に一斉開放され、内部からブースターノズルが突出した。
 即座にプラズマ化されたテトラダイ粒子を噴射して、全ブースターが光炎を吐く。
 強大な推進力が機体に十分な浮力を与え、輸送機の巡航速度を超過した猛スピードで前方への飛行を開始させる。
 柔軟な稼働域確保へ重点を置いた設計からやや細回りに見える腰部と、一動に連なる二脚フレームも、この機動へ大きな関与を持っていた。
 両腰へ備えられたサイドブースター、脚部膝裏に保持された擂鉢状のブースターノズル、それぞれが別個に激しく出力し、機体への大きな推力を上乗せする。
 中量級モデルの脚部フレームは踵が二股に割れ、双方外側に向けてエッジが飛び出していた。
 これは機体バランスと運動性のクセを調整する追加ウェイトで、高機動時の生命線とも成り得る安定化装置(スタビライザー)だ。
 重厚さは薄いが剛健な堅牢さを感じさせ、力強さと運動性の高さを確定的な空気感として纏う両腕。
 右手には長大な銃身直下へ、鋭角の刺突ブレードが接合されているアサルトライフルを。
 左手には、上下二股へ割れた砲身の中間点に挟まれる形で、集束照射器が取り付けられているレーザーライフルを。それぞれに握り持つ。
 加えて右肩部装甲の後面へ、別種武装を収納しておくハンガーユニットが接続されていた。
 一方、左肩部装甲には重量級の大型マスドライバーキャノンがジョイントされるが、その大きさ故に機体運動を妨げるため、砲身の中途から折り畳まれた状態で、右肩ハンガーユニット同様に装甲後部へ担がれる。

 幾多の戦闘装備を擁しながらも、武骨さはなく、凛然とした雄々しい姿。
 全体的に角張の少ない優美なフォルムを持ち、洗練された造形と機能的な艶やかさを湛える機体。
 純白の剣、雪麗の翼、そのような印象を見る者に与える覇蝋の騎士。
 それが、リィン・カーネーションの乗機『エクセレクター』。
 彼の名は、辺境地方の昔話に語られる魔峰の銘。
 森と共に生きる種族生み出した、生きた水晶より成る、持ち主と共に成長する魔峰剣。
 伝説の名剣を冠した機体である。


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最終更新:1970年01月01日 09:00