【SS】もしアムロがジオンに亡命してたら part8

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【SS】もしアムロがジオンに亡命してたら part8 - (2013/01/16 (水) 03:52:25) の編集履歴(バックアップ)


9 :1 ◆FjeYwjbNh6:2012/11/24(土) 16:59:44 ID:DcvHquOk0







「遅くなりました」

ニッキ・ロベルト少尉を伴い「青い木馬」のブリーフィングルームに現れたニムバス・シュターゼン中尉は、部屋の中央で彼の到着を待ち構えていたシャア・アズナブル大佐

にそう言いながら近づいた。

「ご苦労。ニッキ少尉、もういいのか」
「は、ご心配をお掛けしましたがもう大丈夫であります」

ニッキは痛めた方の手で敬礼を向けた。一見した所、そのしぐさにぎこちなさは見られない。
生気を取り戻したその様子に、シャアの後ろでランバ・ラル中佐と共に控える彼の上官ゲラート・シュマイザー少佐も、厳しい眼差しの中に安堵した光を宿している。

「大佐、オデッサ本営内部に送り込む為の方便として都合よく利用しただけで、もともと少尉の怪我は大したものではないのです。お気遣いは無用に願います」
「ふふふゲラート、その割にはやけにホッとした顔をしているではないか」
「・・・ラル中佐、余計な発言は控えて頂きたい」

憮然としたゲラートを豪快に笑い飛ばしたラルは恐縮するニッキに向けて軽く頷き、ニッキも嬉しそうに頭を下げてこれに答えた。

「報告を聞こうニムバス。例の核ミサイルの在り処は判明したか」
「はい、しかし残念ながら、ミサイルサイロからは既に運び去られた後でした」

シャアにニムバスがそう報告すると、場にじわりと重い空気が流れる。

「むう、それでは」
「恐らく、マ・クベ麾下のダブデに運び込まれたものと思われます」
「中尉には確信がありそうだな?」

ゲラートが発した問いに、ニムバスは頷いた。

「ミサイル発射施設が周辺地域にありません。マ・クベがあれを切り札と考えている以上、ダブデから直接発射する以外選択肢は無いのです。それに」

ニムバスが目で促すとニッキが口を開いた。

「表立ってはないですが、既に核ミサイルのダブデ搬入に関してはオデッサ中の噂になっています。
噂の大元を辿って行くと当日臨時でそちらに回されていたという現場作業員に行き当たりました。つまりミサイル搬入の当事者と言う訳です」

ほうとシャアとラルがニッキに注目する一方、ゲラートは鷹揚に頷いたのみである。
彼の意外と抜け目のない性格とコミュニケーション能力の高さを知り抜いているゲラートにとって、この程度の捜査報告は驚くには値しない。

「これは自分が直接本人に確認したので間違いありません。例の図面通りのミサイル一機、間違いなくダブデに搬入したそうです。
どうやら俺達が流した情報の信憑性の高さに、マ・クベお膝元・・・鉱山基地の連中は皆ブルッて、いえ、相当ナーバスになっていたみたいですね。
中には噂の真偽を直接マ・クベに詰問したバカもいたそうで、マ・クベに対する不満と不安は日増しに高まり続けているようです」

ゲラートが厳しい顔を少しだけ綻ばせた。

「極秘情報をリークして一般兵にマ・クベの思惑をスッパ抜き、彼への疑念を抱かせると同時にその動静を互いに監視させる・・・
我々の目論見通りに事態は進んでいると言っていいでしょう。
欲を言えば下からの突き上げでマ・クベがミサイルの使用を断念してくれれば良かったのですが、流石にそれほど甘い相手では無いという事でしょうな」

10 :1 ◆FjeYwjbNh6:2012/11/24(土) 17:00:32 ID:DcvHquOk0
ふうむと顎に手をやったシャアにニッキは更に言を継いだ。

「オデッサの傷病施設に送られた自分は、内部で状況収集に勤め、ニムバス中尉と合流した後、厳重な警備を突破して
密かにミサイルサイロ近づいたんです。が・・・」
「少尉、いらん言い訳はするな。我々がモタついたせいで事態はより困難なものになったのだぞ」

身振り手振りを交えて熱弁を始めたニッキを鬱陶しそうにニムバスが遮った。
しかし、ニッキはけろりとしたもので一向に口を噤もうとはしない。
 
「まあ、でも自分はこれで良かったかもと思っていたりしますがね」
「なんだと、それはどういう意味だ」

すっと剣呑に細まったニムバスの眼光には委細も動じず、ニッキは体の向きを変え彼の顔を正面から見つめ返した。
この若者、これでなかなか度胸が据わっており言うときには言う。

「もしあそこにミサイルがあったなら」
「・・・」

何を言うつもりだとニムバスはニッキを睨み付けた。

「中尉は・・・・・・自分自身を犠牲にしてでも施設の破壊を」

ラルとゲラートはぎょっと目を剥いた。シャアは微動だにしないが仮面のせいでそうと判別できなかっただけであろう。
数瞬の沈黙の後、ニムバスは極めてゆっくりと口を開いた。

「・・・迂闊だぞ少尉。憶測で物を言うな」

その声は低く心なしか掠れている。

「とぼけても無駄ですよ。俺の集めた情報を聞き出すなり中尉は俺にすぐ原隊復帰しろと命令した。
一人より二人、それに一応は傷病兵のレッテルが貼られている俺が一緒にいた方が、基地内の行動は何かと有利な筈なのに」
「・・・」

遂にニムバスが黙り込んだ。この沈黙は反論の余地がない事を意味している。
詭弁の類がすぐに出てこない所は騎士を自認する彼の潔癖さに依るものだろう。


「潜入は自分一人でやると言って譲らなかった。だから俺はピンときたんですよ。
ああこの人を単独にしちゃいけないなとね。だから何だかんだと中尉に引っ付いて行動したんです」
「貴様」

表情には出さないものの、正直ニッキという男を見縊っていたとニムバスは心中で苦笑いしている。
良くいるタイプの軽い熱血バカかと思っていたが、流石に切れ者ゲラート率いるフェンリル隊に所属しているだけの事はある。
ニムバスはニッキから視線を外しちらりとゲラートを窺うと

「・・・」

ゲラートも無言でニムバスを凝視していた。
実はゲラートも常々、ニムバスはごく一部の例外を除き他者を見下す癖が抜けきっていないと感じていたのでる。
侮りは油断に直結する。
この悪癖は早々に根絶しておかねば、いつか取り返しのつかない事態を引き起こすだろうという懸念もあった。
だがプライドの高い人間にそれを面と向かって言う事は決して得策ではないという事もまた、ゲラートは経験で知っている。
こういうタイプは良くも悪くも自身の経験でしか物事を身に染み込ませる事が出来ないのである。

しかし今回の事を受けて明敏なニムバスは他者を顧慮するデータの更新を行うだろう。時を待った甲斐があったというものだ。
それを引き出したニッキの行動はフェンリル隊隊長として誇らしくもある。が、調子に乗り易い彼を敢えて褒めるつもりもない。
ゲラートは静かに床に視線を落としそのまま瞑目すると、隣のラルにだけ微かに聞こえるなんとも複雑な含み笑いを漏らした。

11 :1 ◆FjeYwjbNh6:2012/11/24(土) 17:01:14 ID:DcvHquOk0
「状況は把握した」

心の底では互いを認め合っている二人にわだかまりは無い。
シャアの言葉で視線を外し、ニムバスとニッキは再び正面に向き直った。

「では当初の予定通りに事を進めよう」
「はい。これが最終的な作戦要綱です。細部の変更は可能ですので叩き台にして頂ければ」

ニムバスからパネルに挟み込まれた紙媒体のファイルを受け取ったシャアは、ざっと目を通しながらぱらりとページを捲った。
他の媒体も無いではないが、オンリーワンの重要書類はやはりこれに限る。

「エルラン中将、ユーリ・ケラーネ少将両名への最終確認は済ませてあります。・・・こちらの指示で全ては手筈通りに」
「流石だな」

シャアは満足そうに笑いながらファイルを後方のラルに手渡した。
急いで内容を確認したラルとゲラートは目を合わせ頷く。ニムバスは叩き台と言ったがこれは殆ど決定稿に近いプランであろう。
様々な場所に張り巡らせていた策謀の支流が次第に寄り集まり遂に今、一つの大きな奔流になろうとしているのである。

ほう、とファイルを見ていたラルがうなった。
軍団長を筆頭に構成員の名前がずらりと並び、各員の搭乗MSや装備、携帯武器までが詳細に網羅されているリストである。
ニムバス一人でこれを作成したのだとすれば相当の時間と労力を費やした筈であった。

「この攻撃軍団の編成表は?」
「ここキエフに集められた大小30程の機動部隊を再編し、各軍団長の性格や搭乗MSの特性を考慮して割り振りました。
現時点では恐らくこれがベストの布陣だと思われます」

「そいつを聞かせて貰おうじゃねえか」

「ガイア大尉」

ブリーフィングルームの扉からどやどやと入って来たのはガイアをはじめとする【黒い三連星】の3人と、シーマ・ガラハウ、ジョニー・ライデン両人であった。
各々【青い木馬】隊の誇る一騎当千のエースパイロット達である。

「ニムバスが戻ると言うので私が召集を掛けた。我々は一蓮托生なのだからな」

シャアの視線の先には彼の影武者を勤めたジョニー・ライデン中尉がいる。
彼も腕組みしながらシャアに視線を返した。

「俺も聞きてえな、ニムバス教授様の作戦って奴をよ」
「逸るんじゃないよジョニー、アタシ等は大佐の命令通りにやりゃ良いだけさ」

いつもの如くライデンを嗜めながらばさりと長い髪を払ったシーマ・ガラハウ中佐も、口とは裏腹に楽しそうである。
シャアやラルと共に、ずらりと並んだ彼等の姿はやはり圧巻であった。

12 :1 ◆FjeYwjbNh6:2012/11/24(土) 17:02:32 ID:DcvHquOk0
「諸君、いよいよだ」

一同を見回したシャアは暫し言葉を切った。

「核ミサイルを随意に使用できるマ・クベにこの戦の主導権を握らせてはならない。
奴の全軍に向けた作戦発動命令を待ってはならないのだ。我々は、奴に先んじて動かねばならない。したがって」

誰かがごくりと喉を鳴らした。互いの胸の高鳴りが聞こえて来る様だとラルは場の雰囲気に手ごたえを感じている。
彼の経験からして、こういう時の戦に負けはない。


「我々はかねてからの手筈通り、ここキエフの戦力だけで敵本隊に払暁強襲を仕掛け、一気に決着をつける」


シャアの宣言に一同の目がギラリと光った。


「天候予測によると数日後この地を巨大な嵐が見舞う。諸君、実に我々に相応しい晴れ舞台だと思わないか」
「雨舞台だろう、嵐なんだから」

すかさず入ったライデンの茶々入れに、全員がそれぞれの仕草でどっと笑う。
いい感じに肩の力が抜ける、これが他の部隊には見られない【青い木馬】隊独特の強さだろう。

ゲラートが手元のスイッチを押すと床のスクリーンが点灯した。映し出されたのはデジタル処理された戦場の俯瞰図である。
連邦軍の布陣が地形に合わせて青で表示され、対するジオン軍は赤色で表されている。見るからに青色の表示領域が分厚いのが判る。
今回の戦いにおいて連邦軍は全軍総司令官レビルの座乗するビッグトレー型陸上戦艦と同型の艦をいくつも戦場に投入し、ジオン軍の攪乱を目論んでいた。
しかしエルランの背信行為により軍の布陣が筒抜けになってしまった今、彼等の偽装は丸裸同然だったのである。
敵本陣を現す光点が布陣の中央奥に点滅し、やがてその光点目掛けて中央やや右寄りから黄色い矢印が表示された。

「先鋒はガイア、オルテガ、マッシュがそれぞれ率いる部隊に任せる」
「へへへ」「任せておけ」「腕が鳴るぜ」

マッシュ、オルテガと共に嬉しそうに手指を鳴らしたガイアは一同を振り返るや「悪いな、一番槍は頂きだ!」と獰猛に笑った。
【黒い三連星】たる彼らの操る重モビルスーツMS-09【ドム】は機動力と突破力に優れ、部隊の先陣を切るにはうってつけである。
ジオン軍の中でも特に名の知られた彼らが先頭に立てば全部隊の士気が高まるだろう。もちろん彼らに付き従う一般兵のMSには高機動タイプを中心に厳選してある。

「敵の前面に楔を打ち込むのだ。包囲網を蹴散らして敵陣正面を何としてでもこじ開けろ」
「俺達を誰だと思ってる?機を見て離脱しても構わんのだよな」
「判断は任せる。戦場を掻き回せ」
「今回ばかりは敵に同情したくなるな」

髭だらけの口元を愉快そうに歪めたガイアの言葉は強がりではないだろう。
が、ジオンでも異例な3人一組の独立部隊として活動してきた彼らに、果たして単独の指揮官が務まるだろうかという慎重な声が当初ゲラートから上がったのは事実だ。
その為シャアは敢えて【黒い三連星】を分割してそれぞれ部隊の指揮を任せ、一人ひとり指揮官としての資質をこの一か月の間試し続けてきたのである。
そしてそれは誰もが認める成果となって表れた。

常に前線に身を置いてきたシャアは現場の状況を知り尽くしている。
刻々と変化する戦況に柔軟に対応するには後方から余計な口出しをせず、作戦目的だけ伝えた後は信頼のおける指揮官にゲタを預けてしまった方が
総じて良い結果をもたらす事を弁えているのである。
これは後方勤務の官僚、例えばマ・クベ等にはまず出てこない発想であろう。
彼らにとってのボスであるシャアがこういう料簡でいてくれる事はプライドと実力を兼ね備えた【黒い三連星】にとってなによりもやりやすく
また、思う存分に能力を発揮できる絶好の環境でもあった。

13 :1 ◆FjeYwjbNh6:2012/11/24(土) 17:03:05 ID:DcvHquOk0
敵正面にぶち当たった黄色い矢印が離脱すると混乱をきたした青色の布陣に乱れが生じ、すかさずそれを突く様に新たな矢印が表示された。


「右翼はジョニー・ライデンの部隊をあてる」
「おう」

腕組みをしたライデンがニヤリと白い歯を見せた。感情を露わにしがちな彼が静かに闘志を燃やしている。
【深紅の稲妻】と呼ばれる彼の乗機はMS-08TX【イフリート】
もともと高い機動力をチューンナップで更に引き上げ、恐るべき強襲型へと変貌を遂げた地上専用MSスペシャルバージョンである。
そのスピードは地上戦においてノーマルセッティングのガンダムを遥かに凌ぐ。手持ち武器の他に二振りの専用ヒート・ソードを携え迫撃と乱戦に無類の強さを発揮する。
つい先日バイコヌール経由で大量に送り届けられて来たメイ・カーゥイン発案の楕円形超鋼スチール合金製シールドを携えて出撃すれば
このMSの泣き所であるやや薄めの装甲を補う事もできるだろう。

余談だがジオニック社の造兵廠の片隅でこっそり試作されたそのシールドはやけに評判が良く、遂には熾烈なプレゼン合戦の末に決定した次期主力MS【ゲルググ】にも正式

採用される運びとなったらしい。
話を聞いたメイはそれならついでに盾だけじゃなくその新型MSも送ってくればいいのにとぼやいたものである。
ちなみに彼女がこのMSにチューンを施した際、パイロットの希望通り機体色をダークレッドに塗り替えている。
ライデンの高い技量はこの凶悪でクセのあるMSの持つポテンシャルを十二分に引き出すだろう。
また彼はいかなる分隊機動も難なくこなす指揮官としての能力も併せ持ち、その上面倒見がよく部下からも慕われ・・・というまことに稀有な人材でもあった。

ライデンの部隊を現す矢印の隣に並行してもう一本、更に新たな矢印が表示された。

「右翼は最も敵の布陣が厚い。従ってシーマ・ガラハウの部隊もここに配置する。深追いはするな、しばらくの間敵を抑え込めればいい」
「了解致しました」

階級がはるかに低いライデンの後の指名だったがシーマに異存のあろう筈がない。
シャアは彼等二人のコンビネーションについて様々な方面から報告を受けている。
ひとたび戦闘となれば手柄を争って反目する指揮官が多い中、阿吽の呼吸で互いを補え合えるこの二人が率いる部隊ならば
まず戦線が崩壊する事はないだろうとの読みがある。

実質的な海兵隊の首魁、シーマ・ガラハウ中佐の愛機もライデンと同じくMS-08TX【イフリート】であるが、カスタムセッティングは幾分趣を異にする。
端的に表すとすればスピードや攻撃力よりも通信機能の強化により重点を置いた指揮官機仕様だと言えるだろう。
素早い情報伝達が生死を分ける近代戦において、増設された複合通信装置はここ一番で彷徨する兵達の拠り所となる。
先陣を切って敵に切り込むライデンとは対照的に、フィールド全体を見渡し的確な指示で兵を叱咤激励するシーマの【イフリート】は戦場の灯台と呼ぶべき機体なのである。


画面はその後いくつかのエフェクトが掛かり、いくつかの矢印が表示された後、崩れた敵陣を貫き敵の本陣目掛けて一直線に伸びる矢印が現れた。

「本隊は私とランバ・ラルの部隊が担う。【青い木馬】の守りにはフェンリル隊が、遊撃にはダグラス・ローデン大佐の部隊に勤めて貰う」

ダイクンの息子と轡を並べる万感の思いがあるのだろう、ラルの顔が密かに上気している。
【青い巨星】ことラルの愛機YMS-07B【グフ】は強力な地上専用MS。操縦者と共に幾多の修羅場を潜り抜けてきた円熟の機体である。
配下のラル隊も総じて練度が高く、MS抜きでの荒仕事も先頭に立って行える強者揃いだ。今回の作戦、彼ら無しでは考えられない。

14 :1 ◆FjeYwjbNh6:2012/11/24(土) 17:03:47 ID:DcvHquOk0
「大将、ちょっと質問いいかな」
「?、なんだライデン」

突然手を上げたライデンにシャアの気が削がれた。
が、ライデンがわざわざ場の空気を止めた事には何か意味があるのだろうと彼の言葉を待つ。
いつの間にかシャアを『大将』呼ばわりし始めたライデンを、本来は自身もそう呼びたいであろうラルはご満悦で眺め、うるさ型のゲラートが何となく咎められずにいるのが

興味深い。
ちなみにライデンはラルの事を敬愛を込めて『親父殿』、ゲラートを『(鬼)教官』と呼んでいる。シーマを『姉御』と呼べるのも、宇宙広しと言えど彼だけであろう。

「マ・クベの野郎、俺達がレビルの艦を制圧したら、悔し紛れに俺達に向けて核ミサイルを発射すんじゃねえのか?」

確かに、それはそれで有りそうな話だとガイア達は顔を見合わせた。しかしシャアは首を振る。

「いや、奴は物事の損得を天秤(はかり)にかける。奴がミサイルを発射するとしたら・・・条件は2つだろう」
「2つだって?」
「2つだ」
「・・・」

天井を見上げて暫し思いを巡らせたライデンは、やがて一歩前に出るとニムバスの脇腹を肘で小突いた。

「2つだとよ、お前判るかニムバス教授」

どうやら彼にとっての新たなニックネーマーが一人増えたらしい。
コメカミに青筋を浮かべかけたニムバスだったが、何かを諦めた様に溜息をついて心を静めた。

「・・・一つ目はジオン側の戦力が枯渇してオデッサ陥落が確定的となった場合」
「ま、そいつは判る。もう一つは?」
「シャア大佐がジオン・ダイクンの遺児だという事が奴に露見した時」
「――――なるほどな」

ザビ家の意向で意図的にダイクン派が多く集められたこの最前線キエフに君臨する指揮官が当のダイクンの遺児となれば、マ・クベならずとも国家転覆の危機を感じるだろう


その場合キシリア・ザビに心酔するマ・クベが何を置いても、どんな甚大な犠牲を払ってでも後顧の憂いを絶とうと思い切った行動に出る事は容易に想像できる。
2度目の訪問時にユーリ・ケラーネからジュダック拘束の顛末を聞かされていたニムバスは微かに眉をひそめた。
シャアの秘密は未だマ・クベの知る処ではない。しかし事が公になるのは時間の問題だろう、ぐずぐずしてはいられないのである。

「大佐、部隊配置がまだ全て発表されていませんが」
「そうだな、左翼の配置だが」

シャアがラルから戻された手元の資料に目を落としたのを見てニムバスは姿勢を正した。
正面突破作戦なのにも関わらず、左翼の部隊には殿軍と同様の働きが求められる過酷なセクションだ。そこにはニムバス自身の名前が記してある。

15 :1 ◆FjeYwjbNh6:2012/11/24(土) 17:04:13 ID:DcvHquOk0
「左翼にはクランプ、コズンを隊長とした部隊を編成する」
「!?」

驚くニムバスを尻目にシャアは後方のラルを振り返った。

「問題は無いな」
「は、いずれもワシが手塩にかけた優秀なMS乗り。必ずやご期待に副う働きを見せるでしょう」

軽く頷いたシャアはニムバスを見る。

「ニムバス・シュターゼン。君には別にやって貰いたい事がある」
「は、いや、しかし・・・!」
「聞け。君の進言通り、アルテイシアはこの地から遠ざけた」
「は・・・」

今回の作戦でキャスバルに万が一の事があったとしてもアルテイシアが無事ならダイクン派は旗頭を失う事は無い。
補給を名目にアルテイシアをこの地から遠ざけ、護衛としてアムロを随伴させるよう提案したニムバスの案にラルやゲラートは大いに賛成しシャアも許可を出した。
彼の計画では更に、今後ダイクン派の強力な手駒になるであろうマハラジャ・カーン、の愛娘ハマーン・カーンも決戦前にこの艦から脱出させ
アムロ等と補給地で合流させる手筈となっていた。
彼女の護衛にはバーナード・ワイズマンを推してある。
バーニィにはその際『オデッサ防衛戦には参加せず、このままバイコヌール基地に移動すべし』という旨の命令書を持たせる予定であった。

「どうやら手違いで、ハマーン嬢は一足早くアルテイシアと合流を果たしているらしいのだ」
「な、なんと・・・」

怪訝な顔をしたニムバスだったが、何をどう聞けばいいのか戸惑っている間にシャアは言葉を継いだ。

「君には直ちにアルテイシアのいる補給基地に向かって貰いたい。ワイズマン伍長と共にな」
「し、しかし、それでは・・・!」

セイラにかこつける形で、乱戦が前提の極めて危険な戦場から年若いアムロとバーニィを回避させたニムバスの意図は誰が見ても明らかであった。
だからこそ、彼は最も危険だと思われる左翼の備えを自らが受け持つつもりだったのである。

「行けよ、お前は十分に下ごしらえをやってのけたんだ。それはここにいる皆が知ってる。仕上げは俺等に任せとけ」
「ライデン・・・」
「どうせここのケリがついたら俺達も宇宙に上がる。・・・んだろ姉御?」

ライデンがシーマを振り向くと、彼女はそっぽを向きエホンとわざとらしい咳ばらいをした。

「どうせなら月かコロニーで再会しようぜ?お、宇宙要塞ってのもいいな」

ライデンは戸惑うニムバス越しに視線を【黒い三連星】にやった。

「なあ?お前らもそう思うだろ?」

言われたガイアはじろりとニムバスを一瞥する。

「当たり前だ。この戦に女子供と貴様の出る幕は無いわ」
「ガイア大尉・・・」
「姫さん達をよろしくな」
「・・・」

マッシュの隻眼も笑っている。

「くそう、メイの奴・・・この艦を離れる様に言ったのに、テコでも動かねえ・・・まったく・・・・・・!!」

小声で発したつもりが周囲には大きく聞こえたオルテガのぼやきにシーマとニッキは噴き出した。
武骨そうに見える彼にも、思うところはあったらしい。ラルは歩を進め俯くニムバスの前に立った。

「これからのジオンは若者が作る。そして君にはこれからも若い彼等の懐刀となって貰わなければ困るのだ。頼めるな?」
「・・・・・・!」


絶句したニムバスに、ラルは自らの大きな手を力強く差し出した。
ツールボックス

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