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096 *Future Style ◆BLovELIVE. 「6時間で16人……多いな…」 名簿に引いた線を見返しながら、狡噛はその放送の内容を思い返す。 狡噛自身の知り合いは槙島聖護ただ一人。故に名前個人個人に思うところはない。 だが、16人という人間が死んだ、という事実は見過ごすことはできなかった。 16人。 つまり単純計算でも一時間に2、3人の人間が命を落としている。 その中にはあの黒が言っていたような後藤という怪物によるものもあるのだろう。 だが、おそらくはそれだけではないはずだ。 まだそう多くの人間に出会っているわけではないため何とも判断はつかないが、おそらく戸塚彩加や本田未央、そして肉体的には人間の域を出ないだろう槙島聖護のような者だっている。 そしてそんな人間全てが自分と出会ったような、守られるだけの存在であるとも思いにくい。 だとすれば。 「この状況そのものに恐慌状態に陥ったか、あるいは強要されたこの状況で止むに止まれず殺し合いに乗った者もいたということか」 例えば、殺さなければ殺されると判断して殺し合いに乗った者。 例えば、同じ殺し合いに呼ばれている知人、友人、肉親を守るために殺し合いに乗った者。 非合理な判断ではあるが、全ての人間がその行動に踏み切らないほどの強さを持っているかと言われれば、そうではないだろう。 もしそうであるなら、槇島によるノナタワー襲撃の際の市民の混乱など起きるはずもない。 「…少し待ちの態勢でいすぎたみたいだな」 放送後、狡噛は図書館にいたタスク、未央の二人の元を離れて移動を開始していた。 目的地は音ノ木坂学院。 そこに向けて一歩一歩足を進めていた狡噛。 そんな時だった。背後から不意に歩くような気配が移動してくるのが耳に入った。 足音は二人組。 慌てているのか足並みは乱れており、気配を隠すような様子もない。 (遭遇してみるか?) 足音から推察すると、二人とも成人男性よりも一回り小さい、中~高校生かあるいはあまり大柄でない女性か、くらいの体格。 何かしらの情報を持っているかもしれないし、もし子供だったとするなら見捨てるわけにもいかない。 音ノ木坂学院へと向けていた足を一度止め、足音の場所に向けて歩き始めた。 ◇ 「はぁ……はぁ……」 「し、白井さん、大丈夫…?」 「大丈夫、ですわ。これくらい…」 セリューから逃げるために幾度となくテレポートを行使してきた黒子。 それは考え無しにやったことではなく、セリューが連れていたコロを撒くために行ったことだ。 コロは犬のような生体をしていたこともあり、もしかすると臭いを嗅ぎつけられて追跡される可能性を考慮して移動には足とテレポートを併用していた。 だが、エンヴィー、ゾルフ・J・キンブリー、後藤といった面々と休息もそこそこに戦ったことで積み重ねられた疲労、そして佐天涙子の死やセリュー・ユビキタスとの遭遇といったことによる精神的な動揺。 それら全てによる影響もあって、黒子の疲労は限界まで溜まりつつあった。 息が上がり、顔色も悪い。その体調が芳しくないのは穂乃果が見ても一目瞭然だった。 「どうやら、撒いた、ようです、ね……、はぁ、はぁ…、ですができるだけ離れる必要はありますわ、休んでいる暇など……」 「…………」 休もう、とは穂乃果には言えなかった。 こうなってしまったのは自分のせいなのだから。 ―――――彼女は、死んで当然なんですから! ―――――悪・南ことりは人を殺めることに何の躊躇いも無い。血も涙も失った獣、外道なのです! ―――――危ないところでしたよ。高阪さんに何食わぬ顔で近づいて、友達を演じられたまま放っておけば、いずれ何をしでかすか……。 ―――――私、その前に南ことりを殺せてよかった それでも、あの時セリューに投げられたあの言葉を許すことはできなかった。 あの時、ことりの首を貪ったコロの姿を受け入れることはできなかった。 今の状況が最悪なのは穂乃果とて分かっている。最善な選択ができたわけではないことも理解している。 花陽やマスタングをおいてきてしまった不安だって心を締め付けている。 だったら。 「…白井さん、捕まって」 「高坂さん?」 「ずっと守られて、こんなことにしてばっかりだけど、せめて肩くらいなら……」 と、黒子の肩を抱えて歩き出す穂乃果。 今の自分にできることがこれくらいしか思いつかなかった。 そのまま、自分の体に伸し掛かる黒子の重さを実感しながらも一歩ずつ歩みを進める穂乃果。 だが、その歩みはあまりにもゆっくりで。 ズキン 「…っ……」 加えて、先ほどセリューに蹴られた痛みがぶり返してきた。 穂乃果にとってはあのような暴力を振るわれたのは初めてであり、痛みに対する耐性などなかった。 それでも耐えて10歩ほど進んだが、それが限界だった。 バランスを崩して倒れこむ穂乃果。 「高坂さん…!無理をされては―――」 「…………っ……」 気がつけばその瞳からは涙が流れていた。 何に対する涙だったのかは分からない。 ことりを、そして海未や凛を失ったことに対する涙? 怪我をしたマスタングや友人の花陽をおいてきてしまった自分の不甲斐なさに対する涙? 自分が原因でこんなことになっているのに何もできない自分に対する涙? 何なのかは分からない。あるいはそれらがごちゃ混ぜになっているのかもしれない。 「…、私は大丈夫ですわ。これくらいの荒事、学園都市では日常茶飯事―――…?…これは……」 と、穂乃果より先に起き上がった黒子は、ふと視界の隅に映った音楽プレイヤーに目を奪われた。 「これは、高坂さんの支給品ですの?」 おそらくは転んだ拍子に地面に落ちてしまっただろうその物体。 一見するとただの音楽プレイヤーであり、何の用途があるわけでもない所謂ハズレにあたるものだと考える。 だが、黒子の中で何か嫌な予感がしていた。その音楽プレイヤーを見た時にデジャヴのようなものを自分の中に感じ取って。 拾い上げた黒子は、その音楽プレイヤーの中を確かめ。 「…!レベルアッパー…?!どうしてここに…?」 中に入っていた音楽データの名前に思わず目を剥く。 その時だった。 カツ、カツ、カツ 「…!誰ですの?!」 迫ってくる足音に警戒して地面に落ちている木の切れ端を拾い上げて構える黒子。 「落ち着け、俺は殺し合いに乗っていない」 現れたのは、両手を上に上げた男。 敵意も武器もないことを示すポーズなのだろうが、黒子とてそれで信用できる精神状態ではなかった。 「…あなた、名前は?」 「狡噛慎也、まあそこから踏み込んで何者かと聞かれたなら刑事だとしか言い様がないな」 普段であればここまで警戒することもないだろう黒子だが、蓄積された疲労、そしてエンヴィーという変身能力を持った参加者の存在が安易に目の前の男を信じることを許さなかった。 「………少し失礼しますわ」 と、黒子は警戒を解くことなく狡噛の元に迫り。 その腕に手をやって。 「む?」 次の瞬間、狡噛の体がほんの30cmほどズレた場所まで移動して出現した。 それを確認した時、ようやく黒子の警戒心が緩んだ。 「今のは?」 「分かりましたわ、あなたの姿と名前は信じます。  私は白井黒子、こちらは高坂穂乃果ですわ。先に名乗るべきところで名乗れなかったことは謝罪しますわ」 「気にするな。だが、それよりもその様子は只事じゃないな。何があったか、話してくれないか?」 「ええ。分かりましたわ」 ◇ そこから黒子は穂乃果と共に道の脇に腰を下ろしてこれまでにあった出来事を狡噛に話した。 小泉花陽やロイ・マスタングとの出会い、そして放送より前に知らされた友の死。 その下手人達、そして後藤との戦い。 それらを切り抜けたところで遭遇した、セリュー・ユビキタス。 そして彼女によって貶められた高坂穂乃果の友人。 (……こんな子供が、それだけの修羅場を、か…) 一人はただの高校生、もう一人も超能力とやらを持っているようだがまだ中学生の女子だ。 ついさっきまではまだ別の仲間がいたというが、それでもこんな子供がそれだけの状況を必死でくぐり抜けてきたという。 自分が槙島一人に狙いを絞り、図書館に留まっていた間に、だ。 ともあれ、話の中には槙島聖護の名が出てくることはなかった。それはすなわち南西のエリアには槙島はいなかったということだろう。 無論、彼女達が去った後で南部を走る電車で移動、などという可能性も有り得るわけだが。 「それで、そのセリュー・ユビキタスという女だが、イェーガーズという部隊にいる、と言っていたんだな?」 「ええ。他にはウェイブさん、既に死亡したクロメさん、あとはまだお会いしてはおりませんがエスデスというお方もそうだ、と」 「いや、君の説明で納得がいった。図書館付近の道にさらし首になっている男がいてな。イェーガーズにより正義執行、などという書き置きと共にな」 「あの女…、何ということを……」 「男の体の特徴から言って、そいつ自体は何かしらの犯罪者だった可能性は高い。だがそれをあんな場所に放置していく、ということは他者に余計な刺激を与えることもある。  やはり君たちの話を聞くと、どうやらかなり独善的な人間のようだな。そのセリュー・ユビキタスという女は」 「――――…ことりちゃんは」 と、それまでおとなしく話を聞いていた穂乃果が口を開いた。 「あの人には、ことりちゃんもそんな人達と同じだって思われたんですか……?」 穂乃果にとっての大切な親友だった南ことり。 もしかしたらその首も、それと同じように並べられていた可能性があるという事実に心が締め付けられるような気がしていた。 「…君の友達が殺し合いに乗っていたと、セリュー・ユビキタスは言ったんだな?」 「…はい。でも、ことりちゃんはそんな子なんかじゃ……」 「おそらく彼女のいう南ことりという少女に対する見方にはかなりのフィルターがかかっているだろう。  だが、その始発点である『南ことりが殺し合いに乗った、あるいは人を殺そうとした』という点に限っていうならば事実の可能性は高い」 「…っ!」 そのようなことを言われるとは思っていなかったのだろう、穂乃果はショックを受けた表情で息を詰まらせる。 「どうして…、そんなこと――――」 「落ち着け、だからといってその子がセリュー・ユビキタスのように悪い子だ、などと言うつもりはない。  そもそも人が人を殺す理由なんて数え切れないくらいある。  娯楽のために殺す者、恨みをもって殺そうとする者。  恐怖にかられて衝動的に殺してしまう者もいれば、そうしなければいけないという強迫観念で殺す者だっている。  一つ聞きたい。南ことりにとって、君の友達はどういう存在だったか、分かるか?」 「それは………、私にとっては大切な幼馴染で、大切な友達です。きっとことりちゃんも同じはず……」 「俺はその子のことを知らない、だが聞いた情報からの印象で可能性として考えられるのは。  この状況で恐慌状態に陥ってしまったか、あるいは君たちのことを生かすためにそれ以外の皆を殺すという道を選んでしまったか」 「…………」 「当然その行為自体が悪かと言われればその女が言うように悪であることには変わりないだろう。  だが、その行動に向くまでにはその人間の様々な思いがある。本当に救えない悪なんてそう居るものじゃない。  そんな人間にもやり直せる機会を与えるために、俺達みたいな刑事がいて、法ってものが存在してるんだ」 「じゃあ……ことりちゃんは……」 「きっとやり方を少し間違えてしまっただけなんだろう。  死んで当然、などと言われるような悪じゃない。それは君がよく知っているはずだ」 「ことり…ちゃん……、う…あ、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」 声を上げて泣きじゃくる穂乃果。 往来で声が響くのは避けたいものだが、黒子にも狡噛にもその穂乃果の涙を止めることはできなかった。 「さて、話を進めようと思うが、大丈夫か?」 「お話なら私が。…そういえば一つ気になることがあるのですけど」 「何だ?」 「狡噛さんが言われていた、色んな世界の人間が集められている、と言われていた件ですが。  それに加えてシビュラシステム、というものについて言われていましたが」 「ああ、それがどうかしたか?」 そう言って黒子が取り出したのは、一つの音楽プレイヤー。 「これは過去、私のいた学園都市のとある事件で広まったプログラムなのですが……」 中に入っているレベルアッパーという音楽データ。 それは、過去に学園都市の能力者のレベルを気軽に引き上げることができるプログラムだった。 使用者の脳波に直接干渉し脳波パターンを統一させ、一つの巨大なネットワークを作ることによって高度な演算能力をもつ演算装置を作り上げ、能力者のレベル以上の能力を引き出すというものだ。 だがそれはネットワークを繋いだ能力者の脳に強制的な演算をさせて負荷をかけ、使用者を昏睡状態に陥らせるという副作用がある危険なもの。 「その事件は既に解決し、首謀者の方も逮捕され裁きを受けたのですが。  気になるのはこれがここにある、という意味ですわ」 「なるほどな。話を聞く限りじゃこれは君の世界のその多くの超能力者が使ってこそ意味を持つものだ。  ただのハズレ支給品である可能性もあるが、そうでないなら何かしらの意味を持つのではないか、と」 「そうですわ。それもあの広川という男が何かしらの手段で、効果を持たせる環境を整えている可能性もあると」 「それでシビュラシステムについて聞きたいということか」 「ええ、この機会ですから念のためと思いまして――――」 と、黒子は狡噛とそのシステムについての可能性について考えを広げている、その時だった。 カツリ 「ほう、興味深い話をしているな」 突如現れた気配に咄嗟に身構える黒子と狡噛。 そこにいたのは軍服にも見える服を纏った、眼帯の男。 「…あんたは?」 「キング・ブラッドレイ、というものだ。偶然通りすがりに興味深い話をしている様子なのが耳に入ってな」 「あんたが、そうか。図書館で待ち合わせをしてると言っていた―――」 「――――――」 男がそう名乗りを上げた瞬間、狡噛は一瞬黒子の表情が引き攣ったのを見ていた。 「どうかしたかね?」 「いえ、何でもありませんわ。私は白井黒子、そしてこちらは高坂穂乃果さんと狡噛慎也さんですわ」 「ふむ。私はこの殺し合いというものからどうにかして抜け出せないものか、と動いておる。  図書館で待ち合わせをしている者がいるのでその手土産に何か情報がないものか、と思ったものでな。二人との約束を一つ反故にしてしまった以上、それくらいは無ければ流石に面目も立たぬ」 「分かった。信じよう」 (…白井さん……?) と、そうして3人が話を進めていく中で、一人それに混ざることができなかった穂乃果は黒子の様子がおかしいことに気付いていた。 何というか、気張っているようにも見えて。 「ふむ、学園都市にシビュラシステム、そして地獄門か。なかなかに摩訶不思議なものが存在する世界もあるものだな」 「ああ、だが俺はそのシステムの中枢が何なのかまでは知らない。俺自身は一介の捜査官にすぎないからな」 「私もですわ。例え広川の協力者に学園都市に関わる研究者がいたとしても、私自身に把握できる範囲のものにはありません。  このレベルアッパーに関しては、初春という友人ならば解析可能かもしれませんけど」 「なるほど、ではその辺りには様々な角度から情報を集めていく必要がある、ということか」 (何か、白井さん警戒してる…?) 黒子の周囲にだけ感じる、妙にピリピリした空気を傍から見ていた穂乃果は感じていた。 「そういえば一つ聞きたいのだが」 と、そんな時に会話の中でブラッドレイは別の話を持ち出すように切り出した。 「君たちはエドワード・エルリック、ロイ・マスタングの二人を知らぬかね?」 「…え、マスタングさん?」 「知っているのかね?」 「白井が言っていたが。重症を負ってその治療のためにイェーガーズ本部に向かったと」 「――ほう」 その時、黒子はブラッドレイの変わらぬ表情のまま周囲の空気だけが変わったようにも思え。 「あ、あの!!」 テレポートを発動させようとしたその時、話を聞くだけだった穂乃果が後ろから呼びかけるように声を発した。 突然響いた大声に思わずそちらを振り向く一同。 「何かね?」 「あ、その……えっと……」 だが、呼びかけたはいいが特に何か言いたいことや考えがあったわけではない。 直感的に何かがまずいと思って声を出して空気を変えてみようと思っただけだった。 考えるように視線を動かすこと10秒ほど。 「その、……私だけ何もしてないってのは落ち着かないですし、その」 と、バッグに手を突っ込んだ穂乃果は。 一枚のチューインガムを取り出し。 「……ガム、噛みます?」 ◇ (あの様子、キング・ブラッドレイという男は何かしらの危険人物だったということか) 高坂穂乃果のあの行動の後は毒気を抜かれたのかあの剣呑な雰囲気になることはなく。 特に大きな動きもないまま、ひと通りの情報交換の後狡噛は自分の目的のために一人先に立ち去っていった。 当然槙島聖護のことについて警告しておくことも忘れない。 だが、それでもやはり気がかりではあった。 (少なくとも白井黒子はあの男が危険人物だという情報をロイ・マスタングという存在から聞いていた、ということか) 情報交換の途中で割り込まれたことはある意味幸運だったのだろうか。 キング・ブラッドレイは要警戒対象には違いないだろうが、しかしこちらから下手な行動に出なければ積極的に動くことはない、そういうスタンスで動いているのだろうと推察した。 「全く、子供に助けられてばかりだな、俺は」 それが分かっていながらブラッドレイの元を離れたのは、黒子の瞳にそれを願う強い思いを感じたからだった。 自分が残るから、先に行って欲しい、この場から逃げて欲しいというものを。 高坂穂乃果まで逃せなかったのは、おそらくセリュー・ユビキタスの件に自分が巻き込まれることを防ぐためだろう。 彼女はおそらく、自分を逃しつつも高坂穂乃果を守る自信、いや、意志があるのだろう。 黒と誤解のまま戦いに入った時は戸塚によって助けられ。 キング・ブラッドレイとの会話の中では高坂穂乃果の機転によって事無きを得ている。 さらに黒子が残り危険を引き受けることで自分だけが逃げ延びる、などというのはさすがに情けない話だ。 「待ってばかり、というのもやっぱり性に合うものじゃないが…」 だからこそ、狡噛は三人のいる場所に比較的近く、かつその視界には入らず気配を察するには少し離れているだろう場所で息を潜めていた。 もし本当にキング・ブラッドレイという男が黒子の警告するように殺し合いに乗った者、というならばこちらとしてもそれなりの対応が必要となる。 流石にここで少女二人を見捨てられるほど腐ってなどいない。 それに。 「高坂穂乃果…、音ノ木坂学院か……」 自分の推察の中で、槙島聖護が向かう可能性が高いのではないかと考えた場所。 そして彼女の友人も向かっているのではないかという考えがあった施設だ。 もし彼女達が切り抜けることができたなら同行することも可能だろう。 無論、それは守られるためにではない。 もし白井黒子が如何に稀有な力を持っていようともあの疲労状態で槙島聖護を前にすれば、いや、他の危険人物でもどうなるか分からない。 (さて、どう出るか、あの男は……) 心許ない状態ではあるが唯一の武器であるリボルバーをその手に握りしめながら、静かに狡噛は3人の様子を伺った。 ◇ 「さて、白井黒子くん、君が残ったということは聞きたいことに想像はつくが」 「……ええ。マスタングさんから伺っておりますわ。キング・ブラッドレイはホムンクルス、私達の交戦したエンヴィーの仲間であると」 万が一の時に備えて穂乃果の手を握ったまま、黒子はブラッドレイを前にそう答えた。 「ふむ、まあマスタング大佐であればそう言うのであろうな。それで、他にはどのようなことを聞いている?」 「そこまで詳細なことは聞いていませんけど、あなたが殺し合いに乗っている可能性のある要警戒人物ということですわね」 「なるほどな。それだけかね」 「…ええ。把握しているのは」 「なるほど、それを分かっていながら何も知らぬあの男を逃すために自分だけで残ったか。なかなか肝が座っておるようだな」 ふう、と一息つくような動作を見せるブラッドレイ。 その様子に舐められているのかと思った黒子は今度は自分の番とばかりに問いかけた。 「…安全な人間の振りをして皆の中に紛れ込んで一網打尽、という算段だとでも言われるんですの?」 「そう警戒するな。私とて巻き込まれた立場だ。エンヴィーがどのような考えで動いているのかはまあ想像はつくが、奴のようにそう無益に人を殺していこうなどとは考えておらん」 「つまりは、益があるならば殺すという理解でよろしいですのね?」 「……っ…」 穂乃果の、黒子の手を握りしめる力が強くなっている。 「そうだな、否定はしない。だが私としてはそう積極的に殺すつもりでいるわけではない。君にはまだ利用価値もあるようだしな。  最も、私としても襲われたというのならば我が身を守るために火の粉は払わねばならん。  その場合、先に死ぬことになるのは――――」 と、いつの間に抜いたのか穂乃果の眼前に細身の刺剣が突き付けられていた。 「力量も考えればこちらの少女、ということになるのだろうかな?」 「な……」 一時たりとも二人はブラッドレイから目を外しはしなかった。 それでも穂乃果はおろか、黒子すらもその動作を捉えることができなかった。 眼前に突き付けられた剣に、体がこわばって身動ぎすらもできなくなる穂乃果。 脳裏に浮かんでくるのは、先ほどセリューから真っ向に殺意を向けられたあの時のような恐怖。 しかし目の前にあるものはそれと比してもあまりに近かった。 「君は無力な存在のようだ。実際エンヴィーやエンブリヲのような存在と遭遇すれば蹂躙されるしかないだろうな。  別に私は力のないことを責めたりはしない。だが、逃げ、守られるだけの者であるならば、抗う気概すらも持たぬ者というのであれば話は別だ」 「…わ、私は……」 「そういえば、最初に会った少女、園田海未と言ったか。彼女もまた無力で守られるだけの存在だったようだが」 「え……っ、海未ちゃん……?」 「…っ、高坂さんから離れなさい!」 黒子が警告を発すると同時に、ブラッドレイの突きつけた剣の先に石が転移。 切っ先数センチほどの位置に石が移動し、分断された先端部分は音を立てて地面へと落ちた。 「ほう」 その能力に関心するように声を上げるブラッドレイ。 (―――っ…、転移先の精度が…!) 剣の根本から石を転移させてへし折るつもりだったが、しかし幾度も連続してテレポートを使用したことで、黒子の演算精度は大きく下げられていた。 それでも一瞬の隙にはなった。その間に穂乃果の元に駆け寄ろうとする黒子の体がふらつく。 ここにきて体までもが限界を迎えつつあったのだ。 膝をついた黒子はそれでも穂乃果に逃げるように叫ぼうとして。 しかし穂乃果はブラッドレイを見据えたまま、動かなかった。 「―――高坂さん?」 「あなたが、……海未ちゃんを、殺したんですか?」 震える声で、しかしはっきりとブラッドレイに向けて問いかける穂乃果。 「なるほど、友のことを告げられれば問い詰めるだけの気力は残っているか」 「…答えて!」 「そうだ、と言ったらどうするのかね?」 「…………」 答えを受けて、穂乃果は歯を食いしばって睨みつけるようにブラッドレイを見据える。 園田海未。南ことりと並ぶ、大切な幼馴染の親友。 それを殺した相手が、目の前にいる。 (私は――――) ―――――喜べ、南ことりを殺した刀でお前も殺してやる だというのに、その感情より先が、自分がどうしたいのかが見えなかった。 殺意を向けようとすると、セリュー・ユビキタスのあの時の表情が脳裏にちらついて動けなくなる。 今の自分が、このキング・ブラッドレイという男を殺せるのだろうか。 物理的にはおそらくは無理だろう。殺そうとした瞬間、きっとその手の剣が胸を貫いている。 それを思い浮かべたら、身が竦み、足が震えて動けなくなる。 セリュー・ユビキタスに受けた理不尽な暴力が頭をよぎる。 そして。 ここで殺そうとすれば、きっとセリュー・ユビキタスの言うような悪になってしまう。そんな気がした。 そうなってしまえば、あの女の言うことりの汚名をそそぐ資格もなくなる。 大切な友達は、ずっと悪人と誹られたままその存在を冒涜されることになる。 (―――どうしたら、いいの…?) では、この想いは。 友達を殺されたというこの感情はどうすればいいのだろう。 (分からない、分からないよ……) 「冗談だよ。私ではない」 そんな迷い続ける穂乃果を見かねたのか、ブラッドレイは剣を下げた。 「え……」 「確かに遭遇したことは事実だが、情報交換の後色々あった後空を飛んで去っていったのだ。  位置を推測するなら、おそらく向かった場所は音ノ木坂学院かな?」 「音ノ木坂学院で…?」 「そこで何があったのかは、私の知るところではないがね。行ってみれば何か分かるかもしれんな。  さて、白井黒子くん、これで私がただ無闇に他者を殺し回っているわけではないことは”理解”してもらえたかね?」 「…………」 膝をついたまま、苦々しい表情を浮かべた黒子に向けてブラッドレイが問いかける。 いくら疲労困憊の状態とはいえ、その言葉の裏にあるものを感じ取れぬほど黒子の頭が鈍っているわけではなかった。 「……分かりました。今はあなたの言葉に従いますわ…」 無論、それは本心で信じているわけではない。 だがここでもし尚も抵抗した場合、命を落とすことになるのは穂乃果となるのは明らか。 現状のコンディションでテレポートによる逃走もままならない以上従うしかなかった。 「さて、マスタング大佐の情報、感謝するよ。  ふむ、そうだな。ではお礼として2つほど、ちょっとした情報を教えておこうか」 と、こちらに背を向けたまま、ブラッドレイは顔が見えるかどうかというところまで振り返って告げる。 「…何ですの?」 「まず一つだが。さっきの君の考察を受けて私自身気付いたことがあったのだが。  名前は言えないが、私の知人には私の世界の、私の国の中でしか自分の力を発揮することができない者がいる。  能力は非常に強力だが、国の外に出てしまえばその能力を使うことはできないのだよ。  だが、その者の名も名簿に載っている」 「…つまり、もしその人が能力を使うことができたとするなら……」 「この会場は、何かそういう特殊な仕掛けが施されているのかもしれん、ということだな。それが何なのかは私には皆目検討もつかんが」 ブラッドレイの言うことが嘘か真か判断することはできない。 だがそれでも一つの情報として、黒子はその情報を頭の中に叩き込み。 「…それで、もう一つは?」 残りの一つのことについてを問いかけ。 「君は、御坂美琴という少女を知っているかね?電撃を使う短髪の少女だ」 「…!!お姉さま!?お姉さまに会われましたの!?」 思ってもみなかった名がその口から出たことに思わず疲労すらも一瞬忘れて声を上げて問う黒子。 「ああ、ここより東の場所でな」 「…っ、高坂さん、行けますか!?」 と、鈍った体に鞭打って穂乃果の手を引き走ろうとする黒子。 しかし、その足は次にブラッドレイから投げかけられた言葉で止められた。 「だが気をつけたまえよ。あの娘は殺し合いに乗っているようだったのでな」 ◇ 「さて、どうしたものかな」 黒子と穂乃果の二人から離れるブラッドレイは今後の動向について思案する。 図書館に向かうのが当初の目的ではあったが、しかしマスタングの所在、そしてその状態を確認してしまった。 人柱候補である彼のことは、極端な話腕や足の1,2本が欠損したとしても命さえ無事で錬金術が使えるならば問題はないと考えている。 だが、それでも怪我が重ければそれだけこの場で生き残るのは難しくなる。 もし命を落としでもした場合はまた新たな候補が必要となりお父様の計画の遅延にも繋がってしまう。 エンブリヲという存在に別の可能性ががあるとはいえ、確定とは言えない以上可能な限りは避けたい事態だ。 どちらにしてもイェーガーズ本部には向かうとして、図書館のタスク達の元にはとりあえず顔だけ出していくべきか、それともマスタングの元へと向かうことを優先するか。 「それにしても、白井黒子と高坂穂乃果か」 白井黒子。 学園都市という施設についての情報、そして空間転移という稀有な能力を持った者だ。 生かしておけば何かしら脱出の力になるかもしれない。今回は積極的に動きはしなかったのは彼女の存在が大きかった。 無論、マスタングからの情報を得ているという以上は完全に騙しきることはできないだろうから、ある程度の冷酷な部分を出すことで具体的なスタンスは覆い隠したのだ。 本来ならば図書館に向かわせるところだったが、彼女達は今現在危険人物と認定され追われている立場だという。 万が一にでもその巻き添えをくらってタスクのような人材を失われるのはことだ。かといって自分に同行させるわけにもいかない。何しろホムンクルスであることは割れている立場だ。 セリュー・ユビキタス。彼女達を追う存在の名。 独自の正義感で動く存在だというらしいが、白井黒子を悪と認定し殺そうとしていることを考えれば大いに人格に問題があるように思える。 ブラッドレイの見立てではあの少女が悪と呼ばれるような存在には見えない。 脱出を目指す者、その力を持つ者達にとっても得にはならないだろう。 それに殺人者名簿なるものから人を殺害した者についての情報を得ているらしい、というのはセリムのこともあり少々不都合でもある。 マスタングを保護に向かうついでに始末してしまうことも一考しておく。 そして高坂穂乃果。 彼女は何の力もないただの人間。言ってしまえばただの足手まといだろう。 だが、死んだ友の名を耳にした時に自分に問いかけた時の目はまだ死んではいなかった。 白井黒子の手前間引くこともしなかった。せめて生き残らせたことに得があったと思える者であればいいのだが。 「まあいい。もし君たちに生き残る意志と力があるのなら、また会う機会もあるだろうしな。  その時を楽しみにしておるよ」 その先に待ち受ける試練は音ノ木坂学院で起こった何かか、あるいは殺し合いに乗った御坂美琴か。 あるいはその両方か。 ブラッドレイは期待するように、きた道を一度だけ振り返り、自分のなすべきことのために進み始めた。 【D-5/図書館近く/1日目/朝】 【キング・ブラッドレイ@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】 [状態]:疲労(大)、腕に刺傷(処置済)、左腕に痺れ(感覚無し、回復中) [装備]:デスガンの刺剣(先端数センチ欠損)、カゲミツG4@ソードアート・オンライン [道具]:基本支給品、不明支給品0~2(刀剣類は無し) [思考] 基本:生き残り司令部へと帰還する。そのための手段は問わない。 1:図書館に向かいタスクらと一旦合流するか、それともマスタングの確保を優先するか? 2:稀有な能力を持つ者は生かし、そうでなければ斬り捨てる。ただし悪評が無闇に立つことは避ける。 3:プライド、エンヴィーとの合流。特にプライドは急いで探す。 4:エドワード・エルリック、ロイ・マスタング、有益な情報、技術、帰還手段の心得を持つ者は確保。現状の候補者はタスク、アンジュ、余裕があれば白井黒子も。 5:エンブリヲは殺さず、プライドに食わせて能力を簒奪する。 6:御坂は泳がしておく。 7:セリュー・ユビキタスは邪魔になるようなら排除する [備考] ※未央、タスク、黒子、狡噛、穂乃果と情報を交換しました。 ※御坂と休戦を結びました。 ※超能力に興味をいだきました。 ◇ (…想定はしていましたが、それでも実際に告げられるのは想像以上にきついですわね……) そうしてキング・ブラッドレイが立ち去った後。 強引に起こした体を焦燥感が無理にでも突き動かそうとする。 もう手遅れか、それともまだ間に合うのか。 せめてこの疲労さえなければ、もっと自分の考えをまとめ冷静に判断を下すことができたかもしれない。 しかし今はひたすらに焦りが先走る。 無論、嘘だと言えれば楽だっただろう。 しかし黒子にはその言葉が真実であるという直感があった。 「…早く、向かいませんと……」 「白井さん…!そんなフラフラで―――」 「いえ、休んでいる暇はありませんわ。こうしている間にも、お姉さまが……」 ふらつく体をおして進もうとする黒子。 しかし穂乃果の目から見てもその様子は大丈夫には見えなかった。 テレポートの連発により蓄積された疲労。 そして、ブラッドレイの残した情報による焦燥が黒子の精神を摩耗させていた。 「――――っ」 そうして無理をおして進もうとして、足をもつれさせて躓き。 受け身を取ることもかなわず地面に転がった黒子は、そのまま意識を落としていた。 「白井さん…?」 声をかけながら体を揺らす穂乃果。 息はしているが、目を覚ます気配はない。 「…………」 目を覚ますのを待つ暇がないことは穂乃果にも分かる。 じっとしていれば、いずれセリュー・ユビキタスが追いついてくるだろう。 それに、あの黒子の、ブラッドレイから御坂美琴の情報を告げられた時の表情。 これまで自分を守ってくれた、頼りがいのある存在だと思っていた少女のそれとは思えなかった。 「私が、やらなくちゃダメなんだよね…?」 意を決したように、穂乃果は黒子の体を背負い上げた。 ずっしりと体に伸し掛かるその体重は、しかし支えてみれば思った以上に軽かった。 (こんな、にこちゃんとそんなに変わらない体で、ずっと私達のこと……) 体が前に進む速度は思った以上に遅い。だが止まるわけには行かなかった。 だって、私は何もできていない。 ことりちゃんのことはまだ落ち着いたわけじゃない。それでも狡噛さんのおかげで少しは気持ちに整理をつけられた。 だけど、そうした後で出てきたのはあの時に私が置いてきたものに対する強い後悔だった。 負傷したマスタングさんを置いて逃げてきたこと。 幾度も自分を助けてくれたウェイブさんに、セリューの仲間だという事実で未だに信じ切れずにいること。 そして、大切な友達である花陽ちゃんをおいて一人逃げてきたこと。 そう、辛いのは私だけじゃないんだ。 自分がことりちゃんと海未ちゃんを失ったように、花陽ちゃんも凛ちゃんを失ったんだ。 なのに、まるで自分だけが辛い目にあったかのように一人逃げ出してしまった。 また、結局私は周りが見えていなかったんだ。 もしセリュー・ユビキタスが追ってきてくれれば、自分にとっては不幸だけど花陽ちゃんには危険は及ばないと思う。 だけどもし彼女が皆の元に戻れば、いや、そうでなくとも別の危険が彼女に襲いかかったら。 もう誰かが死ぬのは嫌だった。 花陽ちゃんも、真姫ちゃんも。白井さんやマスタングさん、ウェイブさんにも死んでほしいなんて思っていない。 でも今できるのは、白井さんの命を守り、花陽ちゃん達の安全を守るために、せめて少しでも早くセリュー・ユビキタスを引きつけられていることを信じて遠くに逃げることくらい。 それくらいしかできない。 (花陽ちゃん……、ごめん……ごめんね……) ポロリ 後悔が心を埋め尽くし、その瞳から涙を流させる。 黒子を背負った両手ではそれを拭うこともできずに視界を歪ませ、バランス感覚を狂わせて体を転倒させた。 「あぅっ……」 それでも黒子の体だけはかばうように受け身を取る。 女子二人分の体重の衝撃が穂乃果にかかり息をつまらせたがそれでも立ち上がろうとし。 「大丈夫か」 その目の前に、もう逃げただろうと思っていた一人の男の人の姿が見えた。 「狡噛…さん…」 「あの男は行ったようだな。白井はどうした、何があった?」 「その、白井さんは力を使いすぎて、疲れちゃって……」 「そうか。…なら彼女は俺が背負おう。音ノ木坂学院まで向かうんだろう?」 と、狡噛は黒子の体を背負い進もうとして。 「だ、ダメです!私達と行ったら、狡噛さんもセリュー・ユビキタスに悪者に…」 「憎まれ役なら別に慣れてるさ。それに目の前で泣いてる子供を見捨てていくやつなんて、刑事失格だろう?」 「だけど……」 それでも同行させることを渋る穂乃果。 自分の失敗に、考えなしにしてしまった行動の結果にこの人を巻き込んではいけない。 なのに、その優しさに心地よさを感じている自分がいた。 きっとこの人は自分なんかよりずっと強い。 だけど、その優しさや強さは、せめて他の誰か、私なんかじゃないもっと向けられるべき相応しい人が―――― 「………あの」 「どうした?」 「あの、それならお願いが、あるんです」 意を決したように、穂乃果は狡噛に向けて一つの懇願をした。 「私、花陽ちゃんやマスタングさんを…、友達や皆を放って一人で来ちゃって、花陽ちゃんはショックを受けててマスタングさんも怪我をしてて……。  だけど、私と白井さんはセリューに目をつけられてて…。  だから、お願いします。狡噛さん、花陽ちゃんやマスタングさんを、助けてください……!」 こんなことを頼む自分はおこがましいのかもしれない。 だけど、それでも皆のことは大切で、それに狡噛さんに自分と同じ悪だという誹りを受けてほしくはなかった。 迷惑で図々しいことを頼んでいるとは思う。 だけど、今の自分にできる、あの場においてきた皆に対する精一杯のことだった。 「……イェーガーズ本部だったな。分かった」 狡噛の答えは短く、そして早かった。 「その、ごめんなさい…」 「気にするな。必ず助ける。だから君は先に音ノ木坂学院に向かっていてくれ」 そうして、一人走り去る狡噛の背中を、穂乃果は静かに見送った。 ◇ 確かに優先すべきは槙島聖護を殺すことだ。 もしその所在に確証が持てたならば、刑事であることを捨ててでもその元に走っただろう。 だが、音ノ木坂学院にいるのではないかということも推測でしかない。 可能性が高くとも、もしかすると全く正反対の方角からスタートしたため別の場所に潜伏している可能性自体もゼロというわけではない。 それに何より、あんな少女が泣きながら友達を助けて欲しいと願う姿を見て放っておけるほど刑事として、いや人として腐っているつもりはなかった。 まだ、槙島に会う前に、刑事でいられる自分にできることがあるのであれば。 小さな願いや命であっても守ってやる。 そう、刑事でいるうちは自分の仕事は刈り取ることではない、守ることなのだから。 (槙島、お前と会うのはもしかしたら少し遅くなるかもしれないな) この選択が決して後悔するものではないと信じて、狡噛は走った。 一人の少女の願いを胸に。 ◇ 眠り続ける黒子を背負い、ゆっくりと歩み始めた穂乃果。 先ほどまで走っていた時と比べればあまりにも遅い歩み。 一歩足を踏み出すごとに、脳裏に色んな光景がよぎっていく。 名も知らぬワンちゃん。雪子ちゃん。 戦いの中で死んでいった、出会ったばかりだった者達。 ことりちゃん、海未ちゃん、凛ちゃん。 自分の知らない場所で命を落としていった仲間。 真姫ちゃん。 まだ会えぬ、まだ生きていると信じたい仲間。 花陽ちゃん、ウェイブさん、マスタングさん。 自分が弱いばかりに、見捨てるような形で離れてしまった仲間達。 マスタングさんとは結局話すことはできなかった。ウェイブさんも信じたいのに、未だにセリューの存在が心を揺さぶり続けている。 狡噛さんに託したとはいえ、それでも不安は収まりはしない。 (私が弱かったから……) あのレベルアッパーを使えば、自分にも何か力が宿ったのだろうか? 例え自分自身がいつか意識を失うことになったとしても、誰かを守れただろうか。 ワンちゃんのバッグに残っているのは指輪と変な球だけ。説明書を読んでも何が書いてあるのか理解できなかったし自分には役に立ちそうな道具ではなかった。 今の自分は無力だ。 実際、自分はただのスクールアイドル。超能力者でも戦士でもない。 そんな身で、できることなどないのかもしれない。 だけど。 (……私は、もっと強くなりたい) 白井さんに守られるだけの存在でなく、みんなの力になれるような強さが。 セリュー・ユビキタスやキング・ブラッドレイのような人達にも屈することがない強さが。 ことりちゃんのことを信じることができるような強さが。 花陽ちゃんや真姫ちゃんを、ウェイブさんやマスタングさん達大切な仲間を守れるような、強さが。 ◇ 穂乃果は知らない。 イギーの残したバッグに入った道具の持つ、秘められた力に。 確かにそれはイギーにとっても高坂穂乃果にとっても役には立たないものなのだろう。 だが、見るべき者が見ればその真価を知る道具。 球体の持つ、因果を遡って切り札に対するカウンターを発動させる効果。 指輪の持つ、空を舞う神の兵器を駆る鍵となる効果。 彼女はまだ、その事実を知らない。 【D-5/1日目/朝】 【高坂穂乃果@ラブライブ!】 [状態]:疲労(中)、精神的ショック(中)、決意 [装備]:練習着 [道具]:基本支給品、鏡@現実、イギーのデイパック(逆行剣フラガラック@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、指輪@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞) [思考・行動] 基本方針:強くなりたい 1:黒子と共にセリューから逃げつつ、音ノ木坂学院へ向かいたい 2:でも花陽ちゃん、マスタングさん、ウェイブさんも気がかり 3:セリュー・ユビキタスに対して――――― 4:レベルアッパーが少し気になっている [備考] ※参戦時期は少なくともμ'sが9人揃ってからです。 ※ウェイブの知り合いを把握しました。 ※セリュー・ユビキタスに対して強い拒絶感を持っています 【白井黒子@とある科学の超電磁砲】 [状態]:疲労(中)、精神的疲労(大)、焦燥、疲労による気絶 [装備]:なし [道具]:デイパック、基本支給品、幻想御手入りの音楽プレーヤー@とある科学の超電磁砲、スピリタス@ PSYCHO PASS-サイコパス- [思考・行動] 基本方針:お姉様や初春などの友人を探す。 0:お姉さま… 1:セリューから離れる。 2:初春と合流したらレベルアッパーの解析を頼みたい。 [備考] ※参戦時期は不明。 ※御坂美琴が殺し合いに乗っているということを知りました。 【D-5/一日目/朝】 【狡噛慎也@PSYCHO PASS‐サイコパス‐】 [状態]:健康、左腕に痺れ、槙島への殺意 [装備]:リボルバー式拳銃(4/5 予備弾50)@PSYCHO PASS‐サイコパス‐ [道具]:基本支給品、ノーベンバー11のタバコ@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、ライター@現実 [思考] 基本:槙島を殺す。そして殺し合いも止める。 1:高坂穂乃果の願いを聞き届け、イェーガーズ本部にいるという彼女の仲間を助ける。 2:槙島の悪評を流し追い詰める。 3:首輪解析の為の道具とサンプルを探す。 4:危険人物は可能な限り排除しておきたい。 5:イェーガーズ本部に向かった後は当初の目的通り音ノ木坂学院に向かう。 6:セリュー・ユビキタスは警戒。 [備考] ※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『DTB黒の契約者』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。 ※黒、戸塚、黒子、穂乃果の知り合い、ロワ内で遭遇した人物の名前と容姿を聞きました。 【逆行剣フラガラック@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】 イギーに支給。 バゼット・フラガ・マクレミッツの所有する、『宝具(エース)を殺す宝具(ジョーカー)』。 敵が切り札を発動した直後に発動することで、『時間をさかのぼって敵が切り札を発動する前に発動し、敵の心臓を貫く』という特性を持つ。 発動前は砲丸球のような形をしている。 本ロワにおいては魔力、あるいはそれに準ずるものを持っているものであれば誰でも使用可能という調整がなされている。 ただしそのまま使用すると手が焼ける恐れがあるため注意。 【指輪@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】 ラグナメイルの起動キーが埋め込まれた指輪。無論これ単体では意味をなさない。 どの機体のものかは不明(ミスルギ王家の指輪である可能性も有り) 時系列順に読む Back:[[STRENGTH]] Next:[[]] 投下順に読む Back:[[STREMGTH]] Next:[[]] |060:[[その一歩が遠くて]]|キング・ブラッドレイ|| |089:[[ダークナイト]]|高坂穂乃果|| |~|白井黒子|| |065:[[図書館にて]]|狡噛慎也||
096 *Future Style ◆BLovELIVE. 「6時間で16人……多いな…」 名簿に引いた線を見返しながら、狡噛はその放送の内容を思い返す。 狡噛自身の知り合いは槙島聖護ただ一人。故に名前個人個人に思うところはない。 だが、16人という人間が死んだ、という事実は見過ごすことはできなかった。 16人。 つまり単純計算でも一時間に2、3人の人間が命を落としている。 その中にはあの黒が言っていたような後藤という怪物によるものもあるのだろう。 だが、おそらくはそれだけではないはずだ。 まだそう多くの人間に出会っているわけではないため何とも判断はつかないが、おそらく戸塚彩加や本田未央、そして肉体的には人間の域を出ないだろう槙島聖護のような者だっている。 そしてそんな人間全てが自分と出会ったような、守られるだけの存在であるとも思いにくい。 だとすれば。 「この状況そのものに恐慌状態に陥ったか、あるいは強要されたこの状況で止むに止まれず殺し合いに乗った者もいたということか」 例えば、殺さなければ殺されると判断して殺し合いに乗った者。 例えば、同じ殺し合いに呼ばれている知人、友人、肉親を守るために殺し合いに乗った者。 非合理な判断ではあるが、全ての人間がその行動に踏み切らないほどの強さを持っているかと言われれば、そうではないだろう。 もしそうであるなら、槇島によるノナタワー襲撃の際の市民の混乱など起きるはずもない。 「…少し待ちの態勢でいすぎたみたいだな」 放送後、狡噛は図書館にいたタスク、未央の二人の元を離れて移動を開始していた。 目的地は音ノ木坂学院。 そこに向けて一歩一歩足を進めていた狡噛。 そんな時だった。背後から不意に歩くような気配が移動してくるのが耳に入った。 足音は二人組。 慌てているのか足並みは乱れており、気配を隠すような様子もない。 (遭遇してみるか?) 足音から推察すると、二人とも成人男性よりも一回り小さい、中~高校生かあるいはあまり大柄でない女性か、くらいの体格。 何かしらの情報を持っているかもしれないし、もし子供だったとするなら見捨てるわけにもいかない。 音ノ木坂学院へと向けていた足を一度止め、足音の場所に向けて歩き始めた。 ◇ 「はぁ……はぁ……」 「し、白井さん、大丈夫…?」 「大丈夫、ですわ。これくらい…」 セリューから逃げるために幾度となくテレポートを行使してきた黒子。 それは考え無しにやったことではなく、セリューが連れていたコロを撒くために行ったことだ。 コロは犬のような生体をしていたこともあり、もしかすると臭いを嗅ぎつけられて追跡される可能性を考慮して移動には足とテレポートを併用していた。 だが、エンヴィー、ゾルフ・J・キンブリー、後藤といった面々と休息もそこそこに戦ったことで積み重ねられた疲労、そして佐天涙子の死やセリュー・ユビキタスとの遭遇といったことによる精神的な動揺。 それら全てによる影響もあって、黒子の疲労は限界まで溜まりつつあった。 息が上がり、顔色も悪い。その体調が芳しくないのは穂乃果が見ても一目瞭然だった。 「どうやら、撒いた、ようです、ね……、はぁ、はぁ…、ですができるだけ離れる必要はありますわ、休んでいる暇など……」 「…………」 休もう、とは穂乃果には言えなかった。 こうなってしまったのは自分のせいなのだから。 ―――――彼女は、死んで当然なんですから! ―――――悪・南ことりは人を殺めることに何の躊躇いも無い。血も涙も失った獣、外道なのです! ―――――危ないところでしたよ。高阪さんに何食わぬ顔で近づいて、友達を演じられたまま放っておけば、いずれ何をしでかすか……。 ―――――私、その前に南ことりを殺せてよかった それでも、あの時セリューに投げられたあの言葉を許すことはできなかった。 あの時、ことりの首を貪ったコロの姿を受け入れることはできなかった。 今の状況が最悪なのは穂乃果とて分かっている。最善な選択ができたわけではないことも理解している。 花陽やマスタングをおいてきてしまった不安だって心を締め付けている。 だったら。 「…白井さん、捕まって」 「高坂さん?」 「ずっと守られて、こんなことにしてばっかりだけど、せめて肩くらいなら……」 と、黒子の肩を抱えて歩き出す穂乃果。 今の自分にできることがこれくらいしか思いつかなかった。 そのまま、自分の体に伸し掛かる黒子の重さを実感しながらも一歩ずつ歩みを進める穂乃果。 だが、その歩みはあまりにもゆっくりで。 ズキン 「…っ……」 加えて、先ほどセリューに蹴られた痛みがぶり返してきた。 穂乃果にとってはあのような暴力を振るわれたのは初めてであり、痛みに対する耐性などなかった。 それでも耐えて10歩ほど進んだが、それが限界だった。 バランスを崩して倒れこむ穂乃果。 「高坂さん…!無理をされては―――」 「…………っ……」 気がつけばその瞳からは涙が流れていた。 何に対する涙だったのかは分からない。 ことりを、そして海未や凛を失ったことに対する涙? 怪我をしたマスタングや友人の花陽をおいてきてしまった自分の不甲斐なさに対する涙? 自分が原因でこんなことになっているのに何もできない自分に対する涙? 何なのかは分からない。あるいはそれらがごちゃ混ぜになっているのかもしれない。 「…、私は大丈夫ですわ。これくらいの荒事、学園都市では日常茶飯事―――…?…これは……」 と、穂乃果より先に起き上がった黒子は、ふと視界の隅に映った音楽プレイヤーに目を奪われた。 「これは、高坂さんの支給品ですの?」 おそらくは転んだ拍子に地面に落ちてしまっただろうその物体。 一見するとただの音楽プレイヤーであり、何の用途があるわけでもない所謂ハズレにあたるものだと考える。 だが、黒子の中で何か嫌な予感がしていた。その音楽プレイヤーを見た時にデジャヴのようなものを自分の中に感じ取って。 拾い上げた黒子は、その音楽プレイヤーの中を確かめ。 「…!レベルアッパー…?!どうしてここに…?」 中に入っていた音楽データの名前に思わず目を剥く。 その時だった。 カツ、カツ、カツ 「…!誰ですの?!」 迫ってくる足音に警戒して地面に落ちている木の切れ端を拾い上げて構える黒子。 「落ち着け、俺は殺し合いに乗っていない」 現れたのは、両手を上に上げた男。 敵意も武器もないことを示すポーズなのだろうが、黒子とてそれで信用できる精神状態ではなかった。 「…あなた、名前は?」 「狡噛慎也、まあそこから踏み込んで何者かと聞かれたなら刑事だとしか言い様がないな」 普段であればここまで警戒することもないだろう黒子だが、蓄積された疲労、そしてエンヴィーという変身能力を持った参加者の存在が安易に目の前の男を信じることを許さなかった。 「………少し失礼しますわ」 と、黒子は警戒を解くことなく狡噛の元に迫り。 その腕に手をやって。 「む?」 次の瞬間、狡噛の体がほんの30cmほどズレた場所まで移動して出現した。 それを確認した時、ようやく黒子の警戒心が緩んだ。 「今のは?」 「分かりましたわ、あなたの姿と名前は信じます。  私は白井黒子、こちらは高坂穂乃果ですわ。先に名乗るべきところで名乗れなかったことは謝罪しますわ」 「気にするな。だが、それよりもその様子は只事じゃないな。何があったか、話してくれないか?」 「ええ。分かりましたわ」 ◇ そこから黒子は穂乃果と共に道の脇に腰を下ろしてこれまでにあった出来事を狡噛に話した。 小泉花陽やロイ・マスタングとの出会い、そして放送より前に知らされた友の死。 その下手人達、そして後藤との戦い。 それらを切り抜けたところで遭遇した、セリュー・ユビキタス。 そして彼女によって貶められた高坂穂乃果の友人。 (……こんな子供が、それだけの修羅場を、か…) 一人はただの高校生、もう一人も超能力とやらを持っているようだがまだ中学生の女子だ。 ついさっきまではまだ別の仲間がいたというが、それでもこんな子供がそれだけの状況を必死でくぐり抜けてきたという。 自分が槙島一人に狙いを絞り、図書館に留まっていた間に、だ。 ともあれ、話の中には槙島聖護の名が出てくることはなかった。それはすなわち南西のエリアには槙島はいなかったということだろう。 無論、彼女達が去った後で南部を走る電車で移動、などという可能性も有り得るわけだが。 「それで、そのセリュー・ユビキタスという女だが、イェーガーズという部隊にいる、と言っていたんだな?」 「ええ。他にはウェイブさん、既に死亡したクロメさん、あとはまだお会いしてはおりませんがエスデスというお方もそうだ、と」 「いや、君の説明で納得がいった。図書館付近の道にさらし首になっている男がいてな。イェーガーズにより正義執行、などという書き置きと共にな」 「あの女…、何ということを……」 「男の体の特徴から言って、そいつ自体は何かしらの犯罪者だった可能性は高い。だがそれをあんな場所に放置していく、ということは他者に余計な刺激を与えることもある。  やはり君たちの話を聞くと、どうやらかなり独善的な人間のようだな。そのセリュー・ユビキタスという女は」 「――――…ことりちゃんは」 と、それまでおとなしく話を聞いていた穂乃果が口を開いた。 「あの人には、ことりちゃんもそんな人達と同じだって思われたんですか……?」 穂乃果にとっての大切な親友だった南ことり。 もしかしたらその首も、それと同じように並べられていた可能性があるという事実に心が締め付けられるような気がしていた。 「…君の友達が殺し合いに乗っていたと、セリュー・ユビキタスは言ったんだな?」 「…はい。でも、ことりちゃんはそんな子なんかじゃ……」 「おそらく彼女のいう南ことりという少女に対する見方にはかなりのフィルターがかかっているだろう。  だが、その始発点である『南ことりが殺し合いに乗った、あるいは人を殺そうとした』という点に限っていうならば事実の可能性は高い」 「…っ!」 そのようなことを言われるとは思っていなかったのだろう、穂乃果はショックを受けた表情で息を詰まらせる。 「どうして…、そんなこと――――」 「落ち着け、だからといってその子がセリュー・ユビキタスのように悪い子だ、などと言うつもりはない。  そもそも人が人を殺す理由なんて数え切れないくらいある。  娯楽のために殺す者、恨みをもって殺そうとする者。  恐怖にかられて衝動的に殺してしまう者もいれば、そうしなければいけないという強迫観念で殺す者だっている。  一つ聞きたい。南ことりにとって、君の友達はどういう存在だったか、分かるか?」 「それは………、私にとっては大切な幼馴染で、大切な友達です。きっとことりちゃんも同じはず……」 「俺はその子のことを知らない、だが聞いた情報からの印象で可能性として考えられるのは。  この状況で恐慌状態に陥ってしまったか、あるいは君たちのことを生かすためにそれ以外の皆を殺すという道を選んでしまったか」 「…………」 「当然その行為自体が悪かと言われればその女が言うように悪であることには変わりないだろう。  だが、その行動に向くまでにはその人間の様々な思いがある。本当に救えない悪なんてそう居るものじゃない。  そんな人間にもやり直せる機会を与えるために、俺達みたいな刑事がいて、法ってものが存在してるんだ」 「じゃあ……ことりちゃんは……」 「きっとやり方を少し間違えてしまっただけなんだろう。  死んで当然、などと言われるような悪じゃない。それは君がよく知っているはずだ」 「ことり…ちゃん……、う…あ、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」 声を上げて泣きじゃくる穂乃果。 往来で声が響くのは避けたいものだが、黒子にも狡噛にもその穂乃果の涙を止めることはできなかった。 「さて、話を進めようと思うが、大丈夫か?」 「お話なら私が。…そういえば一つ気になることがあるのですけど」 「何だ?」 「狡噛さんが言われていた、色んな世界の人間が集められている、と言われていた件ですが。  それに加えてシビュラシステム、というものについて言われていましたが」 「ああ、それがどうかしたか?」 そう言って黒子が取り出したのは、一つの音楽プレイヤー。 「これは過去、私のいた学園都市のとある事件で広まったプログラムなのですが……」 中に入っているレベルアッパーという音楽データ。 それは、過去に学園都市の能力者のレベルを気軽に引き上げることができるプログラムだった。 使用者の脳波に直接干渉し脳波パターンを統一させ、一つの巨大なネットワークを作ることによって高度な演算能力をもつ演算装置を作り上げ、能力者のレベル以上の能力を引き出すというものだ。 だがそれはネットワークを繋いだ能力者の脳に強制的な演算をさせて負荷をかけ、使用者を昏睡状態に陥らせるという副作用がある危険なもの。 「その事件は既に解決し、首謀者の方も逮捕され裁きを受けたのですが。  気になるのはこれがここにある、という意味ですわ」 「なるほどな。話を聞く限りじゃこれは君の世界のその多くの超能力者が使ってこそ意味を持つものだ。  ただのハズレ支給品である可能性もあるが、そうでないなら何かしらの意味を持つのではないか、と」 「そうですわ。それもあの広川という男が何かしらの手段で、効果を持たせる環境を整えている可能性もあると」 「それでシビュラシステムについて聞きたいということか」 「ええ、この機会ですから念のためと思いまして――――」 と、黒子は狡噛とそのシステムについての可能性について考えを広げている、その時だった。 カツリ 「ほう、興味深い話をしているな」 突如現れた気配に咄嗟に身構える黒子と狡噛。 そこにいたのは軍服にも見える服を纏った、眼帯の男。 「…あんたは?」 「キング・ブラッドレイ、というものだ。偶然通りすがりに興味深い話をしている様子なのが耳に入ってな」 「あんたが、そうか。図書館で待ち合わせをしてると言っていた―――」 「――――――」 男がそう名乗りを上げた瞬間、狡噛は一瞬黒子の表情が引き攣ったのを見ていた。 「どうかしたかね?」 「いえ、何でもありませんわ。私は白井黒子、そしてこちらは高坂穂乃果さんと狡噛慎也さんですわ」 「ふむ。私はこの殺し合いというものからどうにかして抜け出せないものか、と動いておる。  図書館で待ち合わせをしている者がいるのでその手土産に何か情報がないものか、と思ったものでな。二人との約束を一つ反故にしてしまった以上、それくらいは無ければ流石に面目も立たぬ」 「分かった。信じよう」 (…白井さん……?) と、そうして3人が話を進めていく中で、一人それに混ざることができなかった穂乃果は黒子の様子がおかしいことに気付いていた。 何というか、気張っているようにも見えて。 「ふむ、学園都市にシビュラシステム、そして地獄門か。なかなかに摩訶不思議なものが存在する世界もあるものだな」 「ああ、だが俺はそのシステムの中枢が何なのかまでは知らない。俺自身は一介の捜査官にすぎないからな」 「私もですわ。例え広川の協力者に学園都市に関わる研究者がいたとしても、私自身に把握できる範囲のものにはありません。  このレベルアッパーに関しては、初春という友人ならば解析可能かもしれませんけど」 「なるほど、ではその辺りには様々な角度から情報を集めていく必要がある、ということか」 (何か、白井さん警戒してる…?) 黒子の周囲にだけ感じる、妙にピリピリした空気を傍から見ていた穂乃果は感じていた。 「そういえば一つ聞きたいのだが」 と、そんな時に会話の中でブラッドレイは別の話を持ち出すように切り出した。 「君たちはエドワード・エルリック、ロイ・マスタングの二人を知らぬかね?」 「…え、マスタングさん?」 「知っているのかね?」 「白井が言っていたが。重症を負ってその治療のためにイェーガーズ本部に向かったと」 「――ほう」 その時、黒子はブラッドレイの変わらぬ表情のまま周囲の空気だけが変わったようにも思え。 「あ、あの!!」 テレポートを発動させようとしたその時、話を聞くだけだった穂乃果が後ろから呼びかけるように声を発した。 突然響いた大声に思わずそちらを振り向く一同。 「何かね?」 「あ、その……えっと……」 だが、呼びかけたはいいが特に何か言いたいことや考えがあったわけではない。 直感的に何かがまずいと思って声を出して空気を変えてみようと思っただけだった。 考えるように視線を動かすこと10秒ほど。 「その、……私だけ何もしてないってのは落ち着かないですし、その」 と、バッグに手を突っ込んだ穂乃果は。 一枚のチューインガムを取り出し。 「……ガム、噛みます?」 ◇ (あの様子、キング・ブラッドレイという男は何かしらの危険人物だったということか) 高坂穂乃果のあの行動の後は毒気を抜かれたのかあの剣呑な雰囲気になることはなく。 特に大きな動きもないまま、ひと通りの情報交換の後狡噛は自分の目的のために一人先に立ち去っていった。 当然槙島聖護のことについて警告しておくことも忘れない。 だが、それでもやはり気がかりではあった。 (少なくとも白井黒子はあの男が危険人物だという情報をロイ・マスタングという存在から聞いていた、ということか) 情報交換の途中で割り込まれたことはある意味幸運だったのだろうか。 キング・ブラッドレイは要警戒対象には違いないだろうが、しかしこちらから下手な行動に出なければ積極的に動くことはない、そういうスタンスで動いているのだろうと推察した。 「全く、子供に助けられてばかりだな、俺は」 それが分かっていながらブラッドレイの元を離れたのは、黒子の瞳にそれを願う強い思いを感じたからだった。 自分が残るから、先に行って欲しい、この場から逃げて欲しいというものを。 高坂穂乃果まで逃せなかったのは、おそらくセリュー・ユビキタスの件に自分が巻き込まれることを防ぐためだろう。 彼女はおそらく、自分を逃しつつも高坂穂乃果を守る自信、いや、意志があるのだろう。 黒と誤解のまま戦いに入った時は戸塚によって助けられ。 キング・ブラッドレイとの会話の中では高坂穂乃果の機転によって事無きを得ている。 さらに黒子が残り危険を引き受けることで自分だけが逃げ延びる、などというのはさすがに情けない話だ。 「待ってばかり、というのもやっぱり性に合うものじゃないが…」 だからこそ、狡噛は三人のいる場所に比較的近く、かつその視界には入らず気配を察するには少し離れているだろう場所で息を潜めていた。 もし本当にキング・ブラッドレイという男が黒子の警告するように殺し合いに乗った者、というならばこちらとしてもそれなりの対応が必要となる。 流石にここで少女二人を見捨てられるほど腐ってなどいない。 それに。 「高坂穂乃果…、音ノ木坂学院か……」 自分の推察の中で、槙島聖護が向かう可能性が高いのではないかと考えた場所。 そして彼女の友人も向かっているのではないかという考えがあった施設だ。 もし彼女達が切り抜けることができたなら同行することも可能だろう。 無論、それは守られるためにではない。 もし白井黒子が如何に稀有な力を持っていようともあの疲労状態で槙島聖護を前にすれば、いや、他の危険人物でもどうなるか分からない。 (さて、どう出るか、あの男は……) 心許ない状態ではあるが唯一の武器であるリボルバーをその手に握りしめながら、静かに狡噛は3人の様子を伺った。 ◇ 「さて、白井黒子くん、君が残ったということは聞きたいことに想像はつくが」 「……ええ。マスタングさんから伺っておりますわ。キング・ブラッドレイはホムンクルス、私達の交戦したエンヴィーの仲間であると」 万が一の時に備えて穂乃果の手を握ったまま、黒子はブラッドレイを前にそう答えた。 「ふむ、まあマスタング大佐であればそう言うのであろうな。それで、他にはどのようなことを聞いている?」 「そこまで詳細なことは聞いていませんけど、あなたが殺し合いに乗っている可能性のある要警戒人物ということですわね」 「なるほどな。それだけかね」 「…ええ。把握しているのは」 「なるほど、それを分かっていながら何も知らぬあの男を逃すために自分だけで残ったか。なかなか肝が座っておるようだな」 ふう、と一息つくような動作を見せるブラッドレイ。 その様子に舐められているのかと思った黒子は今度は自分の番とばかりに問いかけた。 「…安全な人間の振りをして皆の中に紛れ込んで一網打尽、という算段だとでも言われるんですの?」 「そう警戒するな。私とて巻き込まれた立場だ。エンヴィーがどのような考えで動いているのかはまあ想像はつくが、奴のようにそう無益に人を殺していこうなどとは考えておらん」 「つまりは、益があるならば殺すという理解でよろしいですのね?」 「……っ…」 穂乃果の、黒子の手を握りしめる力が強くなっている。 「そうだな、否定はしない。だが私としてはそう積極的に殺すつもりでいるわけではない。君にはまだ利用価値もあるようだしな。  最も、私としても襲われたというのならば我が身を守るために火の粉は払わねばならん。  その場合、先に死ぬことになるのは――――」 と、いつの間に抜いたのか穂乃果の眼前に細身の刺剣が突き付けられていた。 「力量も考えればこちらの少女、ということになるのだろうかな?」 「な……」 一時たりとも二人はブラッドレイから目を外しはしなかった。 それでも穂乃果はおろか、黒子すらもその動作を捉えることができなかった。 眼前に突き付けられた剣に、体がこわばって身動ぎすらもできなくなる穂乃果。 脳裏に浮かんでくるのは、先ほどセリューから真っ向に殺意を向けられたあの時のような恐怖。 しかし目の前にあるものはそれと比してもあまりに近かった。 「君は無力な存在のようだ。実際エンヴィーやエンブリヲのような存在と遭遇すれば蹂躙されるしかないだろうな。  別に私は力のないことを責めたりはしない。だが、逃げ、守られるだけの者であるならば、抗う気概すらも持たぬ者というのであれば話は別だ」 「…わ、私は……」 「そういえば、最初に会った少女、園田海未と言ったか。彼女もまた無力で守られるだけの存在だったようだが」 「え……っ、海未ちゃん……?」 「…っ、高坂さんから離れなさい!」 黒子が警告を発すると同時に、ブラッドレイの突きつけた剣の先に石が転移。 切っ先数センチほどの位置に石が移動し、分断された先端部分は音を立てて地面へと落ちた。 「ほう」 その能力に関心するように声を上げるブラッドレイ。 (―――っ…、転移先の精度が…!) 剣の根本から石を転移させてへし折るつもりだったが、しかし幾度も連続してテレポートを使用したことで、黒子の演算精度は大きく下げられていた。 それでも一瞬の隙にはなった。その間に穂乃果の元に駆け寄ろうとする黒子の体がふらつく。 ここにきて体までもが限界を迎えつつあったのだ。 膝をついた黒子はそれでも穂乃果に逃げるように叫ぼうとして。 しかし穂乃果はブラッドレイを見据えたまま、動かなかった。 「―――高坂さん?」 「あなたが、……海未ちゃんを、殺したんですか?」 震える声で、しかしはっきりとブラッドレイに向けて問いかける穂乃果。 「なるほど、友のことを告げられれば問い詰めるだけの気力は残っているか」 「…答えて!」 「そうだ、と言ったらどうするのかね?」 「…………」 答えを受けて、穂乃果は歯を食いしばって睨みつけるようにブラッドレイを見据える。 園田海未。南ことりと並ぶ、大切な幼馴染の親友。 それを殺した相手が、目の前にいる。 (私は――――) ―――――喜べ、南ことりを殺した刀でお前も殺してやる だというのに、その感情より先が、自分がどうしたいのかが見えなかった。 殺意を向けようとすると、セリュー・ユビキタスのあの時の表情が脳裏にちらついて動けなくなる。 今の自分が、このキング・ブラッドレイという男を殺せるのだろうか。 物理的にはおそらくは無理だろう。殺そうとした瞬間、きっとその手の剣が胸を貫いている。 それを思い浮かべたら、身が竦み、足が震えて動けなくなる。 セリュー・ユビキタスに受けた理不尽な暴力が頭をよぎる。 そして。 ここで殺そうとすれば、きっとセリュー・ユビキタスの言うような悪になってしまう。そんな気がした。 そうなってしまえば、あの女の言うことりの汚名をそそぐ資格もなくなる。 大切な友達は、ずっと悪人と誹られたままその存在を冒涜されることになる。 (―――どうしたら、いいの…?) では、この想いは。 友達を殺されたというこの感情はどうすればいいのだろう。 (分からない、分からないよ……) 「冗談だよ。私ではない」 そんな迷い続ける穂乃果を見かねたのか、ブラッドレイは剣を下げた。 「え……」 「確かに遭遇したことは事実だが、情報交換の後色々あった後空を飛んで去っていったのだ。  位置を推測するなら、おそらく向かった場所は音ノ木坂学院かな?」 「音ノ木坂学院で…?」 「そこで何があったのかは、私の知るところではないがね。行ってみれば何か分かるかもしれんな。  さて、白井黒子くん、これで私がただ無闇に他者を殺し回っているわけではないことは”理解”してもらえたかね?」 「…………」 膝をついたまま、苦々しい表情を浮かべた黒子に向けてブラッドレイが問いかける。 いくら疲労困憊の状態とはいえ、その言葉の裏にあるものを感じ取れぬほど黒子の頭が鈍っているわけではなかった。 「……分かりました。今はあなたの言葉に従いますわ…」 無論、それは本心で信じているわけではない。 だがここでもし尚も抵抗した場合、命を落とすことになるのは穂乃果となるのは明らか。 現状のコンディションでテレポートによる逃走もままならない以上従うしかなかった。 「さて、マスタング大佐の情報、感謝するよ。  ふむ、そうだな。ではお礼として2つほど、ちょっとした情報を教えておこうか」 と、こちらに背を向けたまま、ブラッドレイは顔が見えるかどうかというところまで振り返って告げる。 「…何ですの?」 「まず一つだが。さっきの君の考察を受けて私自身気付いたことがあったのだが。  名前は言えないが、私の知人には私の世界の、私の国の中でしか自分の力を発揮することができない者がいる。  能力は非常に強力だが、国の外に出てしまえばその能力を使うことはできないのだよ。  だが、その者の名も名簿に載っている」 「…つまり、もしその人が能力を使うことができたとするなら……」 「この会場は、何かそういう特殊な仕掛けが施されているのかもしれん、ということだな。それが何なのかは私には皆目検討もつかんが」 ブラッドレイの言うことが嘘か真か判断することはできない。 だがそれでも一つの情報として、黒子はその情報を頭の中に叩き込み。 「…それで、もう一つは?」 残りの一つのことについてを問いかけ。 「君は、御坂美琴という少女を知っているかね?電撃を使う短髪の少女だ」 「…!!お姉さま!?お姉さまに会われましたの!?」 思ってもみなかった名がその口から出たことに思わず疲労すらも一瞬忘れて声を上げて問う黒子。 「ああ、ここより東の場所でな」 「…っ、高坂さん、行けますか!?」 と、鈍った体に鞭打って穂乃果の手を引き走ろうとする黒子。 しかし、その足は次にブラッドレイから投げかけられた言葉で止められた。 「だが気をつけたまえよ。あの娘は殺し合いに乗っているようだったのでな」 ◇ 「さて、どうしたものかな」 黒子と穂乃果の二人から離れるブラッドレイは今後の動向について思案する。 図書館に向かうのが当初の目的ではあったが、しかしマスタングの所在、そしてその状態を確認してしまった。 人柱候補である彼のことは、極端な話腕や足の1,2本が欠損したとしても命さえ無事で錬金術が使えるならば問題はないと考えている。 だが、それでも怪我が重ければそれだけこの場で生き残るのは難しくなる。 もし命を落としでもした場合はまた新たな候補が必要となりお父様の計画の遅延にも繋がってしまう。 エンブリヲという存在に別の可能性ががあるとはいえ、確定とは言えない以上可能な限りは避けたい事態だ。 どちらにしてもイェーガーズ本部には向かうとして、図書館のタスク達の元にはとりあえず顔だけ出していくべきか、それともマスタングの元へと向かうことを優先するか。 「それにしても、白井黒子と高坂穂乃果か」 白井黒子。 学園都市という施設についての情報、そして空間転移という稀有な能力を持った者だ。 生かしておけば何かしら脱出の力になるかもしれない。今回は積極的に動きはしなかったのは彼女の存在が大きかった。 無論、マスタングからの情報を得ているという以上は完全に騙しきることはできないだろうから、ある程度の冷酷な部分を出すことで具体的なスタンスは覆い隠したのだ。 本来ならば図書館に向かわせるところだったが、彼女達は今現在危険人物と認定され追われている立場だという。 万が一にでもその巻き添えをくらってタスクのような人材を失われるのはことだ。かといって自分に同行させるわけにもいかない。何しろホムンクルスであることは割れている立場だ。 セリュー・ユビキタス。彼女達を追う存在の名。 独自の正義感で動く存在だというらしいが、白井黒子を悪と認定し殺そうとしていることを考えれば大いに人格に問題があるように思える。 ブラッドレイの見立てではあの少女が悪と呼ばれるような存在には見えない。 脱出を目指す者、その力を持つ者達にとっても得にはならないだろう。 それに殺人者名簿なるものから人を殺害した者についての情報を得ているらしい、というのはセリムのこともあり少々不都合でもある。 マスタングを保護に向かうついでに始末してしまうことも一考しておく。 そして高坂穂乃果。 彼女は何の力もないただの人間。言ってしまえばただの足手まといだろう。 だが、死んだ友の名を耳にした時に自分に問いかけた時の目はまだ死んではいなかった。 白井黒子の手前間引くこともしなかった。せめて生き残らせたことに得があったと思える者であればいいのだが。 「まあいい。もし君たちに生き残る意志と力があるのなら、また会う機会もあるだろうしな。  その時を楽しみにしておるよ」 その先に待ち受ける試練は音ノ木坂学院で起こった何かか、あるいは殺し合いに乗った御坂美琴か。 あるいはその両方か。 ブラッドレイは期待するように、きた道を一度だけ振り返り、自分のなすべきことのために進み始めた。 【D-5/図書館近く/1日目/朝】 【キング・ブラッドレイ@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】 [状態]:疲労(大)、腕に刺傷(処置済)、左腕に痺れ(感覚無し、回復中) [装備]:デスガンの刺剣(先端数センチ欠損)、カゲミツG4@ソードアート・オンライン [道具]:基本支給品、不明支給品0~2(刀剣類は無し) [思考] 基本:生き残り司令部へと帰還する。そのための手段は問わない。 1:図書館に向かいタスクらと一旦合流するか、それともマスタングの確保を優先するか? 2:稀有な能力を持つ者は生かし、そうでなければ斬り捨てる。ただし悪評が無闇に立つことは避ける。 3:プライド、エンヴィーとの合流。特にプライドは急いで探す。 4:エドワード・エルリック、ロイ・マスタング、有益な情報、技術、帰還手段の心得を持つ者は確保。現状の候補者はタスク、アンジュ、余裕があれば白井黒子も。 5:エンブリヲは殺さず、プライドに食わせて能力を簒奪する。 6:御坂は泳がしておく。 7:セリュー・ユビキタスは邪魔になるようなら排除する [備考] ※未央、タスク、黒子、狡噛、穂乃果と情報を交換しました。 ※御坂と休戦を結びました。 ※超能力に興味をいだきました。 ◇ (…想定はしていましたが、それでも実際に告げられるのは想像以上にきついですわね……) そうしてキング・ブラッドレイが立ち去った後。 強引に起こした体を焦燥感が無理にでも突き動かそうとする。 もう手遅れか、それともまだ間に合うのか。 せめてこの疲労さえなければ、もっと自分の考えをまとめ冷静に判断を下すことができたかもしれない。 しかし今はひたすらに焦りが先走る。 無論、嘘だと言えれば楽だっただろう。 しかし黒子にはその言葉が真実であるという直感があった。 「…早く、向かいませんと……」 「白井さん…!そんなフラフラで―――」 「いえ、休んでいる暇はありませんわ。こうしている間にも、お姉さまが……」 ふらつく体をおして進もうとする黒子。 しかし穂乃果の目から見てもその様子は大丈夫には見えなかった。 テレポートの連発により蓄積された疲労。 そして、ブラッドレイの残した情報による焦燥が黒子の精神を摩耗させていた。 「――――っ」 そうして無理をおして進もうとして、足をもつれさせて躓き。 受け身を取ることもかなわず地面に転がった黒子は、そのまま意識を落としていた。 「白井さん…?」 声をかけながら体を揺らす穂乃果。 息はしているが、目を覚ます気配はない。 「…………」 目を覚ますのを待つ暇がないことは穂乃果にも分かる。 じっとしていれば、いずれセリュー・ユビキタスが追いついてくるだろう。 それに、あの黒子の、ブラッドレイから御坂美琴の情報を告げられた時の表情。 これまで自分を守ってくれた、頼りがいのある存在だと思っていた少女のそれとは思えなかった。 「私が、やらなくちゃダメなんだよね…?」 意を決したように、穂乃果は黒子の体を背負い上げた。 ずっしりと体に伸し掛かるその体重は、しかし支えてみれば思った以上に軽かった。 (こんな、にこちゃんとそんなに変わらない体で、ずっと私達のこと……) 体が前に進む速度は思った以上に遅い。だが止まるわけには行かなかった。 だって、私は何もできていない。 ことりちゃんのことはまだ落ち着いたわけじゃない。それでも狡噛さんのおかげで少しは気持ちに整理をつけられた。 だけど、そうした後で出てきたのはあの時に私が置いてきたものに対する強い後悔だった。 負傷したマスタングさんを置いて逃げてきたこと。 幾度も自分を助けてくれたウェイブさんに、セリューの仲間だという事実で未だに信じ切れずにいること。 そして、大切な友達である花陽ちゃんをおいて一人逃げてきたこと。 そう、辛いのは私だけじゃないんだ。 自分がことりちゃんと海未ちゃんを失ったように、花陽ちゃんも凛ちゃんを失ったんだ。 なのに、まるで自分だけが辛い目にあったかのように一人逃げ出してしまった。 また、結局私は周りが見えていなかったんだ。 もしセリュー・ユビキタスが追ってきてくれれば、自分にとっては不幸だけど花陽ちゃんには危険は及ばないと思う。 だけどもし彼女が皆の元に戻れば、いや、そうでなくとも別の危険が彼女に襲いかかったら。 もう誰かが死ぬのは嫌だった。 花陽ちゃんも、真姫ちゃんも。白井さんやマスタングさん、ウェイブさんにも死んでほしいなんて思っていない。 でも今できるのは、白井さんの命を守り、花陽ちゃん達の安全を守るために、せめて少しでも早くセリュー・ユビキタスを引きつけられていることを信じて遠くに逃げることくらい。 それくらいしかできない。 (花陽ちゃん……、ごめん……ごめんね……) ポロリ 後悔が心を埋め尽くし、その瞳から涙を流させる。 黒子を背負った両手ではそれを拭うこともできずに視界を歪ませ、バランス感覚を狂わせて体を転倒させた。 「あぅっ……」 それでも黒子の体だけはかばうように受け身を取る。 女子二人分の体重の衝撃が穂乃果にかかり息をつまらせたがそれでも立ち上がろうとし。 「大丈夫か」 その目の前に、もう逃げただろうと思っていた一人の男の人の姿が見えた。 「狡噛…さん…」 「あの男は行ったようだな。白井はどうした、何があった?」 「その、白井さんは力を使いすぎて、疲れちゃって……」 「そうか。…なら彼女は俺が背負おう。音ノ木坂学院まで向かうんだろう?」 と、狡噛は黒子の体を背負い進もうとして。 「だ、ダメです!私達と行ったら、狡噛さんもセリュー・ユビキタスに悪者に…」 「憎まれ役なら別に慣れてるさ。それに目の前で泣いてる子供を見捨てていくやつなんて、刑事失格だろう?」 「だけど……」 それでも同行させることを渋る穂乃果。 自分の失敗に、考えなしにしてしまった行動の結果にこの人を巻き込んではいけない。 なのに、その優しさに心地よさを感じている自分がいた。 きっとこの人は自分なんかよりずっと強い。 だけど、その優しさや強さは、せめて他の誰か、私なんかじゃないもっと向けられるべき相応しい人が―――― 「………あの」 「どうした?」 「あの、それならお願いが、あるんです」 意を決したように、穂乃果は狡噛に向けて一つの懇願をした。 「私、花陽ちゃんやマスタングさんを…、友達や皆を放って一人で来ちゃって、花陽ちゃんはショックを受けててマスタングさんも怪我をしてて……。  だけど、私と白井さんはセリューに目をつけられてて…。  だから、お願いします。狡噛さん、花陽ちゃんやマスタングさんを、助けてください……!」 こんなことを頼む自分はおこがましいのかもしれない。 だけど、それでも皆のことは大切で、それに狡噛さんに自分と同じ悪だという誹りを受けてほしくはなかった。 迷惑で図々しいことを頼んでいるとは思う。 だけど、今の自分にできる、あの場においてきた皆に対する精一杯のことだった。 「……イェーガーズ本部だったな。分かった」 狡噛の答えは短く、そして早かった。 「その、ごめんなさい…」 「気にするな。必ず助ける。だから君は先に音ノ木坂学院に向かっていてくれ」 そうして、一人走り去る狡噛の背中を、穂乃果は静かに見送った。 ◇ 確かに優先すべきは槙島聖護を殺すことだ。 もしその所在に確証が持てたならば、刑事であることを捨ててでもその元に走っただろう。 だが、音ノ木坂学院にいるのではないかということも推測でしかない。 可能性が高くとも、もしかすると全く正反対の方角からスタートしたため別の場所に潜伏している可能性自体もゼロというわけではない。 それに何より、あんな少女が泣きながら友達を助けて欲しいと願う姿を見て放っておけるほど刑事として、いや人として腐っているつもりはなかった。 まだ、槙島に会う前に、刑事でいられる自分にできることがあるのであれば。 小さな願いや命であっても守ってやる。 そう、刑事でいるうちは自分の仕事は刈り取ることではない、守ることなのだから。 (槙島、お前と会うのはもしかしたら少し遅くなるかもしれないな) この選択が決して後悔するものではないと信じて、狡噛は走った。 一人の少女の願いを胸に。 ◇ 眠り続ける黒子を背負い、ゆっくりと歩み始めた穂乃果。 先ほどまで走っていた時と比べればあまりにも遅い歩み。 一歩足を踏み出すごとに、脳裏に色んな光景がよぎっていく。 名も知らぬワンちゃん。雪子ちゃん。 戦いの中で死んでいった、出会ったばかりだった者達。 ことりちゃん、海未ちゃん、凛ちゃん。 自分の知らない場所で命を落としていった仲間。 真姫ちゃん。 まだ会えぬ、まだ生きていると信じたい仲間。 花陽ちゃん、ウェイブさん、マスタングさん。 自分が弱いばかりに、見捨てるような形で離れてしまった仲間達。 マスタングさんとは結局話すことはできなかった。ウェイブさんも信じたいのに、未だにセリューの存在が心を揺さぶり続けている。 狡噛さんに託したとはいえ、それでも不安は収まりはしない。 (私が弱かったから……) あのレベルアッパーを使えば、自分にも何か力が宿ったのだろうか? 例え自分自身がいつか意識を失うことになったとしても、誰かを守れただろうか。 ワンちゃんのバッグに残っているのは指輪と変な球だけ。説明書を読んでも何が書いてあるのか理解できなかったし自分には役に立ちそうな道具ではなかった。 今の自分は無力だ。 実際、自分はただのスクールアイドル。超能力者でも戦士でもない。 そんな身で、できることなどないのかもしれない。 だけど。 (……私は、もっと強くなりたい) 白井さんに守られるだけの存在でなく、みんなの力になれるような強さが。 セリュー・ユビキタスやキング・ブラッドレイのような人達にも屈することがない強さが。 ことりちゃんのことを信じることができるような強さが。 花陽ちゃんや真姫ちゃんを、ウェイブさんやマスタングさん達大切な仲間を守れるような、強さが。 ◇ 穂乃果は知らない。 イギーの残したバッグに入った道具の持つ、秘められた力に。 確かにそれはイギーにとっても高坂穂乃果にとっても役には立たないものなのだろう。 だが、見るべき者が見ればその真価を知る道具。 球体の持つ、因果を遡って切り札に対するカウンターを発動させる効果。 指輪の持つ、空を舞う神の兵器を駆る鍵となる効果。 彼女はまだ、その事実を知らない。 【D-5/1日目/朝】 【高坂穂乃果@ラブライブ!】 [状態]:疲労(中)、精神的ショック(中)、決意 [装備]:練習着 [道具]:基本支給品、鏡@現実、イギーのデイパック(逆行剣フラガラック@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、指輪@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞) [思考・行動] 基本方針:強くなりたい 1:黒子と共にセリューから逃げつつ、音ノ木坂学院へ向かいたい 2:でも花陽ちゃん、マスタングさん、ウェイブさんも気がかり 3:セリュー・ユビキタスに対して――――― 4:レベルアッパーが少し気になっている [備考] ※参戦時期は少なくともμ'sが9人揃ってからです。 ※ウェイブの知り合いを把握しました。 ※セリュー・ユビキタスに対して強い拒絶感を持っています 【白井黒子@とある科学の超電磁砲】 [状態]:疲労(中)、精神的疲労(大)、焦燥、疲労による気絶 [装備]:なし [道具]:デイパック、基本支給品、幻想御手入りの音楽プレーヤー@とある科学の超電磁砲、スピリタス@ PSYCHO PASS-サイコパス- [思考・行動] 基本方針:お姉様や初春などの友人を探す。 0:お姉さま… 1:セリューから離れる。 2:初春と合流したらレベルアッパーの解析を頼みたい。 [備考] ※参戦時期は不明。 ※御坂美琴が殺し合いに乗っているということを知りました。 【D-5/一日目/朝】 【狡噛慎也@PSYCHO PASS‐サイコパス‐】 [状態]:健康、左腕に痺れ、槙島への殺意 [装備]:リボルバー式拳銃(4/5 予備弾50)@PSYCHO PASS‐サイコパス‐ [道具]:基本支給品、ノーベンバー11のタバコ@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、ライター@現実 [思考] 基本:槙島を殺す。そして殺し合いも止める。 1:高坂穂乃果の願いを聞き届け、イェーガーズ本部にいるという彼女の仲間を助ける。 2:槙島の悪評を流し追い詰める。 3:首輪解析の為の道具とサンプルを探す。 4:危険人物は可能な限り排除しておきたい。 5:イェーガーズ本部に向かった後は当初の目的通り音ノ木坂学院に向かう。 6:セリュー・ユビキタスは警戒。 [備考] ※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『DTB黒の契約者』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。 ※黒、戸塚、黒子、穂乃果の知り合い、ロワ内で遭遇した人物の名前と容姿を聞きました。 【逆行剣フラガラック@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】 イギーに支給。 バゼット・フラガ・マクレミッツの所有する、『宝具(エース)を殺す宝具(ジョーカー)』。 敵が切り札を発動した直後に発動することで、『時間をさかのぼって敵が切り札を発動する前に発動し、敵の心臓を貫く』という特性を持つ。 発動前は砲丸球のような形をしている。 本ロワにおいては魔力、あるいはそれに準ずるものを持っているものであれば誰でも使用可能という調整がなされている。 ただしそのまま使用すると手が焼ける恐れがあるため注意。 【指輪@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】 ラグナメイルの起動キーが埋め込まれた指輪。無論これ単体では意味をなさない。 どの機体のものかは不明(ミスルギ王家の指輪である可能性も有り) 時系列順に読む Back:[[STRENGTH]] Next:[[]] 投下順に読む Back:[[STREMGTH]] Next:[[]] |060:[[その一歩が遠くて]]|キング・ブラッドレイ|100:[[正義執行]]| |089:[[ダークナイト]]|高坂穂乃果|| |~|白井黒子|| |065:[[図書館にて]]|狡噛慎也|100:[[正義執行]]|

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