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パラサイトの星は流れた - (2015/04/26 (日) 23:29:38) の1つ前との変更点

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*パラサイトの星は流れた ◆w9XRhrM3HU イェーガーズ本部。 そこで戸塚彩加は、飛ばされた場所が屋内だったのは幸いだったと思っていた。 時刻は丁度深夜、辺りは真っ暗で明かりを付けなければ、歩くのも難しい。 更にそんな視界の最悪な状況で殺し合えという注文付だ。 あまり無闇出歩くよりは、屋内で明るくなるまで篭っていた方がいいかもしれない。 「……でも八幡や雪ノ下さん、由比ヶ浜さんも探さないと」 なんとか戸塚は場所には恵まれた。 だが、この三人はどうだろうか。 少なくとも、全員が安全な場所からスタートとは到底思えない。 特に後者の二人は女性だ。か弱い女性が深夜の真っ只中、殺し合いのなか放置される。 考えたくはないが、あまり良い想像は出来ない。 「しっかりしなきゃ……僕は男なんだから!」 両手で頬を叩き気合を入れる。 ヒリヒリと叩いた手、頬に痛みが走る そして、この男とは思えぬ天使のような美貌の白い頬に、赤い手形がうっすらと残る。 痛みに耐えながら、涙目になった目を閉じている様は、非常に可愛く微笑ましい。 だが、そんな愛らしい姿に反してその小柄な体は震えていた。 殺し合い。否応なく人の生き死にが起きてしまう惨劇の源。 そんなものは、テレビドラマぐらいでしか見たことがない。いわば他人事だった。 でもここでは違う。それは身近であり自分にも起こりうる事だ。 あの一番最初に殺された少年のように、次に死んでいるのは自分かもしれない。 その事実がとても恐ろしく、怖い。 「助けて……八幡」 そう言ってから戸塚は首を横に振るう。 さっき、八幡達を見つけなければいけないと言ったのは他でもない自分だというのに。 すぐに八幡に頼ろうとしてしまった。 これではいけない。戸塚は無理やり震える体を動かす。 早くここから出て三人を探しに行こう。 そう決意し、戸塚は辺りを警戒しながら廊下を進んでいく。 すると、一室明かりが付いているのを発見した。 (誰か、居る……?) そこは厨房のようだ。 何やらガサゴソと音がしている。 ここは、相手が気づかない内に早く逃げるべきだと考えたが、思いとどまる。 考えてみれば、一人でこの広い会場内を人を探すというのは非常に大変だ。 そうなると人手が欲しくなる。 決してこの場にいる人達全員が、みんな殺し合いに乗るとは限らない。 なら、そういう殺し合いに反対する人達と協力し合う事は大事なのではないか。 (そうだよね……。もしかしたら、八幡かもしれないし) 意を決して厨房へと足を踏み入れる。 だが、足元にバケツがあったのに戸塚は気づけなかった。 厨房の床を綺麗にするために、水を貯めておくものだろう。 そのバケツを、知らないうちに蹴飛ばしてしまう。バケツがカタンと音を鳴らした。 「ん?」 男は音のなる方法へと振り返った。 キョトンとした顔で戸塚の方を向いたその顔には食いカスが口の周りについていた。 □ 「実はお腹空いちゃって、ここで食べ物を探してたんですよ。  あとは武器になりそうな物を探してて……」 「そ、そうだったんですか」 罰が悪そうに頭を掻きながら男は苦笑いを浮かべながら話す。 厨房で漁っていた物は食べ物だったらしい。 余程、お腹が空いたのだろうか。確か食料がディバックの中に入っていた筈だったが。 「すみません。驚かせてしまって」 「そんな、僕が勝手に驚いちゃっただけですから」 戸塚は内心ほっと胸を撫で下ろしていた。 話を聞く限り、悪い人には見えない。 服装こそ、真っ黒なコートに真っ黒なズボンと怪しいが、その人柄はとても温かく感じた。 「そうだ。まだ自己紹介がまだでしたね。黒田と言います。  名簿には、渾名の黒(ヘイ)って名前で書かれてるので黒って呼んでください」 「へい……?」 「中国語では、ヘイは黒って意味なんです」 確かに、言われてみればこんな黒一色のファッションでは、そんな渾名を付けられてもおかしくはない。 戸塚は胸の内で納得する。 「僕は戸塚彩加って言います」 「彩加……いい名前ですね」 「でも、よく名前のせいなのか女に間違えられちゃうんです」 「え? 違うんですか?」 「僕、男なんですけど……」 戸塚は上目遣いで黒を見つめながら、少し不服そうな顔をしている。 この場に八幡が居たのなら、その可愛さを懇切丁寧に力説していてくれた事だろう。気持ち悪いぐらいに。 「ごめんなさい。てっきり……」 「……僕、そんなに女の子っぽいのかな」 「気を落とさないで下さい。確かに中世的な顔立ちかもしれませんけど、容姿だけが全てじゃありませんよ」 「え?」 「お友達を探して、こんな怖いところを見て回ってたんですよね?  それは、とても勇気が要ることです。そういうのは男らしいと思います」 黒は優しい顔でそう言ってくれた。 ただのお世辞かもしれないが、それでも嬉しい。 何処か力が沸いてくるような気にさせてくれる。 「ありがとうございます、黒さん。お世辞でも嬉しいです」 「とんでもない。それにお世辞なんかじゃありません」 「そういえば、友達で思い出したんですけど、黒って名前の横に銀って名前がありました。  黒さんと似たような名前でした。もしかして」  「はい、僕と同じ大学の同期で、銀髪の女の子です。早く探してあげないと」 「じゃあ、一緒に探しませんか? 二人なら心強いですし」 「そうですね。こんな状況ですし、一人よりは二人の方がいいかも知れません」 話が纏まった二人は早速互いの探し人の特徴を伝え合う。 そして情報交換が終わった後、黒は厨房を照らしていたランプへと手を伸ばした。 無闇に灯しておくより、消しておいた方が良い。 もしも後でやって来た、殺し合いに乗った参加者に、ここに誰かがいたと察せられるのは危険だからだ。 「ランプなんて珍しいですよね。今は色々電気で賄う時代なのに」 「ええ、僕も最初来た時は電気がなくて驚きました。  他の部屋も全然電気が繋がらないんです」 改めて考えるとこの建物は何かおかしい。 一見豪勢そうに見えるが、その実設備はまるでタイムスリップしたのかと思わせるほど古臭いものばかりだ。 そういう趣向の施設と考えるべきなのか。 「二人か」 黒がランプを消そうとした時、その炎はもう一つの人影を照らした。 「……後藤」 「何?」 「お前たちは、名前を知りたがる。だから先に教えた」 後藤と名乗る男はまるで能面のようだった。 無表情というより、顔そのものが作り物であるような。 目の前に居るのは、人の姿をしていながら、人ではない。そう印象付けられる。 「下がってろ」 「黒さん……?」 釣られるようにして黒の表情も変わる。 さっきまでの、温厚でお人よしのものではない。 一切の表情を隠すかのように、仮面を被ったかのような、後藤とはまた違う無表情。 その上に更に本物の仮面を被せる。 それを見て戸塚が下がる。 同じタイミングで、後藤の両腕が裂けた。 「ば、化け物……?」 恐怖のあまり、足がすくむ戸塚に目もくれず、後藤の体は変形を続けた。 裂けた腕が複数本の触手のように形作られていく。 うねうねと、柔軟にその触手は動いている。 そんな触手に反し、その先は鋭いナイフのような刃が形成されていた。 「―――ッ!」 風を切る音と同時に、触手が一斉に姿を消す。 いや、姿を消したと思わせるほどの速度で動いている。 加速した触手の先の刃が黒へと振るわれていく。 黒は上体を反らし触手の刃を避けた。 「契約者か……!?」 黒が腕を振るう。 手から離れた一本のワイヤーが近くの柱へと巻きつけられる。 黒の体が浮き、柱へと吸い寄せられた。 後藤は即座に黒の移動した柱へと触手を振るう。手応えはやはりない。 触手が辿りつくよりも早く、ワイヤーで別の位置で移動しているからだ。 更にワイヤーで飛びながら包丁を後藤へ投げる。 食料を漁っていた際、本来の得物であるナイフの代わりに幾つか拝借しておいたものだ。 だが触手により、包丁は砕けながら弾き落とされる。 (ワイヤーで人間には不可能な、立体的な移動を可能にしているということか) その場で思いついたような小細工ではない。 恐らく、この戦い方で幾つもの戦場を生き延びてきたのだろう。 とても工夫されていた。 「嬉しいな」 後藤は無表情無感情でそう言った。 直後、後藤の足が膨らんでいく。 血管が浮き、筋肉が増長する。既に両腕に続き、その両足までも人の姿であることを捨ててゆく。 後藤の両足の変形が終わった時、黒はもう一本のワイヤーで攻撃に転じた。 だが、そのワイヤーが男に巻き付くことはない。空を切り真っ直ぐと伸びただけだ。 後藤は既にその場から跳んでいた。 一瞬にして、ワイヤーで宙を飛び交う黒を見切り、先回りする。 黒は攻撃用に使ったワイヤーを、急遽反対側の柱へ巻き付け軌道を無理やり修正した。 同時に後藤の刃が振り下ろされる。 刃は仮面を割り、黒の頬に赤い一筋の線を増やすだけだった。 真っ二つに割れた仮面が床に落ち、乾いた音を立てる。 バランスを崩しながらも、転がり込む形で黒も着地する。 「死ね」 黒の体が青い光に包まれ、目が赤く輝く。 それを見て、後藤は自身の足元が濡れていたことに気づいた。 見れば、黒の背後の蛇口に繋がれたホースから水が流れている。 その水が床を流れ、後藤の足元へと続いていた。 黒の体に電流が走り、水を通して後藤へと流れていく。 後藤は真上へ跳躍し電流から逃れた。 黒は狙っていたかのように今度はワイヤーを後藤へと投擲。 空中では逃げ場のない後藤はその触手を壁へと振るう。 刃が壁にめり込むと、そのまま触手を手繰り寄せ後藤は壁へ向かっていく。 「?」 だがワイヤーは後藤を捉えなかったものの、その先にあるランプは捉えていた。 ガラスが割れ、中の火が消える。明かりは消え闇が充満していく。 明かりに慣れていたこともあり、視界が黒へと染まる。 もっとも視界がなくとも後藤にとっては些細なことだ。 後藤は人よりも五感が鋭い。仮に闇に乗じて奇襲を掛けたところで返り討ちだ。 そう例えば、この闇に紛れ投擲された何かを斬り落とした様に。 (小麦粉?) 投げられた何かは小麦粉だった。切り裂かれた瞬間白い粉をぶちまけていく。 視界がはっきりしていたのであれば、目の前の光景は真っ白になっていたことだろう。 それが後藤の鼻、喉を刺激する。 思わず咳が出そうになるのを抑えながら、これが投げられた方向を睨む。 バチッと電流が弾ける音が耳に付く。 (―――粉塵爆発か) その瞬間闇は真紅の業火へと変貌した。 □ イェガーズ本部を飛び出した黒と戸塚。 そんななか戸塚は、走る黒に抱きかかえられていた。 いわゆるお姫様抱っこというものだ。 戸塚の足では逃げ遅れるため、黒が無理やりそうしたのだがやはり気恥ずかしい。 「黒さん、もういいんじゃ……」 「まだだ。もう少し離れた方がいい。少し暴れすぎた。  あの爆発音で、殺し合いに乗った奴が集まってきていてもおかしくない」 都合が良かったのかもしれないが、黒に軽く持ち上げられる華奢な体躯に複雑な気分になる。 これではまるで女だ。 (僕、男の子なんだけどな……) とはいえ、黒の足の速さは並大抵のものではない。 戸塚がこうして抱かれているのも、仕方ない事なのかも知れない。 考えてみればあのワイヤーを使った戦いも普通では考えられない。 この身体能力とも合わせて考えると、戸塚の知らない世界に黒は生きているのだろう。 (黒さん。カッコよかったな) 人外の化け物を相手にワイヤーや電撃――どうやって出しているのかは分からないが――で渡り合う様は戸塚の目にはとても勇ましく見えた。 子供が見るような、特撮ヒーローを髣髴させる。 一種の憧れとでも言うのか。男として生まれたからには一度はあるヒーローへの憧れに近い。 後藤に抱いた恐怖が黒のお陰か和らいでいく。 ずっと、あの戦いでの黒の姿が脳裏から離れなかった。 (僕も黒さんみたいに戦えたら……) 八幡も雪ノ下も由比ヶ浜も傷付けずに守れるかもしれない。 だからこそ、こうやって守られるだけの自分が歯痒かった。 「俺は地獄門(ヘルズゲート)が気になる。  優先は銀だが、あいつを探しながら、地獄門に行こうと思うが良いか?」 「地獄門? 何だか怖い名前だけど……」 「知らないのか? 地獄門を」 「え? 何なんですかそれ」 「……いや、気にするな」 地獄門。 東京都心部に突如現れた未知の領域。 それが現れた瞬間から、世界は偽りの空に覆われた。 その筈だった。 黒は空を見上げてみる。 そこにあったのは、偽りでも何でもない。ただの星空。 黒がもう一度見たいと願った本当の星空が広がっていた。 だが、地図にはあの地獄門がある。ここは決して東京でも何でもない。ただの同名の別地なのか。 そして何故、本当の星空の中、黒のメシエコードBK201の星を含む偽りの星が混じっているのか。 (何がどうなっている……。ここは一体なんだ?) 腕の中の戸塚を一瞥する。 この少年は地獄門の存在を知らなかった。 名前からして日本人なのは間違いない。なら、東京の地獄門の名前だけでも、知っていなければおかしい筈だ。 世間知らずで片付けるのも無理がある。嘘というならば、吐くメリットもない。 成り行き上、同行していただけだったが。もう少し共に行動し、情報を引き出すべきだろうと黒は判断する。 今、自分がどのような場に置かれているのか。 全ては理解できない。 けれど、もし全てが終わり一段落着いたのなら、また本当の星を見たい。 もう一度、黒は星空を見上げた。 「追いついたぞ」 瞬間、空は異形に染まる。 それは後藤だった。 四肢は完全に人のそれではない。だが顔、胴体は間違いなく後藤だ。 有り得ない。あの爆発の中どうやって生き延びたのか。 黒は咄嗟に後ろへ飛び、真上からの刃をかわす。 そのまま戸塚を真横へ放り出しワイヤーを投げる。 だが後藤からすれば、既にそれは見慣れた光景。 身を屈みワイヤーをやり過ごし黒へと突撃した。 「お前は電撃を流せる。だが触れなければ流せない。その為のワイヤーだろう?」 「ッ!」 間合いに入り、振るった無数の刃は紙一重でかわされる。 やはり身体能力、というより反射神経とでもいうべきか。 その反射速度は後藤すらも凌ぐかもしれない。 後藤の動き、その動作の予兆、僅かな変化を見逃さず回避へと生かしている。 「だが、所詮は人間。捌き切れる数には限りがある」 黒の脇腹に強い衝撃が走る。 それは、後藤の放った蹴りだった。 見えてはいた。だが反応しきれない。 触手のように、無数に伸びる刃に加え、蹴り。 あまりにも後藤の手数が多すぎる。 後藤に近接戦闘を持ち込まれた時点で黒は距離を取るべきだった。 「電撃も発動までに時間が掛かる、か」 蹴り飛んでいく黒を眺めながら、後藤は足の様子を確かめる。 電撃を流されたような形跡はなかった。 つまり、僅かな間なら触れても電撃を貰う事はない。 「どうした? 工夫しろ」 刃の腕を振り下ろす。 黒が転がりながらかわしワイヤーを握るがその腕を触手で貫かれる。 「ぐっ!」 青く黒の体が発光する。 瞬時に見切った後藤は触手を抜き、黒から離れる。 電撃を纏わせながら、黒は体制を整え後藤へ向き直る。 後藤は体を変化させ武器として戦う。故に電撃を纏っていれば手出しはできない。 それを見て、後藤は自分のディバックを投擲した。 何の変哲もないただのディバックだが、後藤の腕力で投げられたそれは砲弾の如き勢いを付ける。 かわす黒。だがディバックは空中で勢いを止め、角度を修正した。 否、伸びた後藤の腕がディバックを掴み黒を殴り飛ばした。 ディバックごしであるのなら、感電せず殴ることが可能だ。 ディバックが焼き焦げ、使い物にならなくなるかもしれないが後藤には関係ない。 「黒さん!」 戸塚の叫びも空しく堪らず吹き飛ばされていく黒。 地面を無様に転がる姿に、どうにかしなければならないと焦るが、どうすればいいのか分からない。 「逃げ、ろ……!」 万事休す。 ワイヤーも電撃も全て対策されている。 あの厨房での戦いで学び、後藤はそれだけの工夫をしてきていた。 ここがもし、ワイヤーを巻き付けられる場所の多いビル街や木々の生い茂る森や林などであれば、話は別だったかもしれない。 後藤に近接戦闘に持ち込まれることもなかったろう。 いや、後藤はそこまで計算して追ってきていたのかもしれない。 「終わりだな」 その呟きは氷のように冷たい。。 纏わせた電撃は、殴られ集中が途切れたことにより消え、後藤が触れられる状態だ。 後藤の手が伸び、振るわれる。 後藤の刃が黒の首を切断した。 鮮血が飛び散った。黒の苦悶の声すら聞こえない。 「…………何をした?」 その筈だった。しかし、鮮血は黒のものではなく後藤の流したもの。 後藤と黒の間を遮った一筋の光線。 光線の奔ってきた方へ後藤は振り向く。 そこには、銃口から煙が上がっている巨大なライフルを握った戸塚が居た。 後藤は確信した。 今しがた自分を狙い、だが僅かに外し掠らせた光線の射手はあの少年だと。 「す、凄い……。本当に光線が……」 「逃げろ! 奴が!」 黒の止めを後回しにし、後藤は戸塚へと駆ける。 戦力にならないと無視していたが、あんな隠し弾を持っていたのでは別だ。 迫ってくる後藤に戸塚はそのライフル、名を――浪漫砲台(ろまんほうだい) / パンプキン――を構える。 使用者がピンチに陥るほど、その威力が増す帝具。故に条件を満たしたパンプキンは強力な光線を放てる。 だが、照準がまるで定まらない。トリガーを引く暇すらない。 戸塚は本来の所有者ではない上に、戦いの経験などない。 そんな戸塚に動く的。増してや後藤に当てるなど不可能だ。 距離はグングンと縮まり、既に後藤は自身の射程距離へと距離を詰めていた。 「あっ……」 完全に詰みだ。 後藤の刃を振り切るように、パンプキンを翳そうとするが間に合わない。 だが突如、その射程軌道上から後藤を外していたパンプキンが一人でに動き出し、照準を後藤へと合わせた。 「銃が……!?」 見れば、パンプキンの銃身にワイヤーが巻きつき銃身を持ち上げている。 背後に居た黒が、ワイヤーを投擲しパンプキンを持ち上げて、その照準を調整していた。 考えるよりも早く戸塚がトリガーを引く。後藤は攻撃を中断し両手、両足を硬化させ即席の盾とした。 後藤は光線の為すがまま吹き飛ばされ、深夜の深い闇の中へと消えていった。 「黒さん、僕……」 「おい、しっかりしろ!」 最後の一撃を放ってから、戸塚は糸が切れたように倒れた。 原因はこのパンプキンのせいだ。 精神エネルギーを衝撃波として打ち出すパンプキンは、少なくとも戸塚のような一般人が扱いきれる武器ではない。 2発の射撃で気絶するのは当然ともいえる。 傷を抑えながら、黒が駆け寄り戸塚を揺する。当然反応はない。 「助ける義理はないが……」 後藤があれで死んだとは断定できない。 厨房での爆発でも生き残ったのだから、あの光線を受けて生きていてもおかしくはない。 早めにここから離れるのが懸命だ。 戸塚を背負い、早足で早々にこの場から立ち去った。 【C-4/1日目/深夜】 【黒@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】 [状態]:疲労(中)、右腕に刺し傷 [装備]:黒のワイヤー@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、包丁@現地調達×3 [道具]:基本支給品、不明支給品0~1 [思考・行動] 基本方針:殺し合いから脱出する。 1:銀を探しながら地獄門へ向かう。銀優先。 2:戸塚を連れ、この場から離れる。 3:戸塚から情報を引き出す。 4:自分のナイフかそのかわりになる物を探したい。 5:仮面も調達したい。 6:後藤を警戒。 ※戸塚との話の食い違い、会場の地獄門や本当の星について疑問に思っています。 ※参戦時期は黒の契約者終了後です。 ※戸塚の知り合いの名前と容姿を聞きました。 【戸塚彩加@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】 [状態]:疲労(大)、殺し合いへの恐怖、気絶 [装備]:浪漫砲台 / パンプキン@アカメが斬る! [道具]:基本支給品一式、不明支給品0~2 [思考・行動] 基本方針:殺し合いはしたくない。 0:…… 1:黒と一緒に八幡達を探す。 2:地獄門って何だろう? ※黒の知り合いの名前と容姿を聞きました。 ※イェーガーズ本部の厨房が爆発で吹き飛びました。 【黒のワイヤー@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】 黒に支給。 ベルトに仕込まれている。 【黒の仮面@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】 黒に支給。 割れた。 【浪漫砲台(ろまんほうだい) / パンプキン@アカメが斬る!】 戸塚に支給。 巨大な銃の帝具。精神エネルギーを衝撃波として打ち出す。 使用者がピンチに陥るほどその威力が増し、戦況によって形状も変化する。 闇を切り裂くように奔り続ける光線。その先には後藤が両腕を盾としながら圧され続けていた。 (不味いな) このまま為すがまま、流されていては会場外に出てしまう。 会場外に出た参加者がどうなるのかは分からないが、少なくともペナルティなしということは無いだろう。 後藤は片足を伸ばし、それを近くの木に引っ掛ける。 そして体全体を反らし、盾となった両腕を滑らせながら、パンプキンの光線を受け流した。 「随分、飛ばされたようだ」 淡々とした声で後藤は呟く。 あの人間たちは何処にも見えない。 「腹が減ったな」 後藤は、いや後藤達パラサイトと呼ばれる生物は、基本人に寄生し成り代わって生きていく生物だ。 そのパラサイトの主食は人間。 人間を食い殺せという欲求に従い、狩を行い人間を食らう。 更に後藤は一般のパラサイトが頭部を乗ってるのに対し、頭部どころかその四肢もまたパラサイト。 その本能はパラサイト五体分。つまり食欲も五体分の大食いというわけだ。 加え、戦闘欲求も高まり、戦いこそが自分の存在意義だと自覚している。 だからこそ、この殺し合いにも積極的に参加することにした。 故に先ほどの戦闘で戦いへの欲求はそこそこ満たされたものの食欲はまるで満たされない。 むしろ、更に餓えたといってもいい。 後藤はパンプキンの光線を受けた両腕の調子を確認しながら、移動を始めた。 もちろん、餌となる人間、戦いを楽しめる強者を探す為だ。 後藤にとっては、死んだ筈の広川が生きていた事も、この場が如何なる場所であろうと関係ない。 いまさら、どうでもいいことだ。後藤のやることは1つ。 そう、後藤にとっては戦いこそが……。 【A-4/1日目/深夜】 【後藤@寄生獣】 [状態]:ほぼ健康、空腹、両腕にパンプキンの光線を受けた跡 [装備]:なし [道具]:基本支給品、不明支給品1~3 [思考] 基本:本能に従う。 1:人間を探し捕食する。 2:戦いも楽しむ。 [備考] ※広川死亡以降からの参戦です。 ※首輪や制限などについては後の方にお任せします。 *時系列順で読む Back: Next:[[]] *投下順で読む Back: Next:[[]]
*パラサイトの星は流れた ◆w9XRhrM3HU イェーガーズ本部。 そこで戸塚彩加は、飛ばされた場所が屋内だったのは幸いだったと思っていた。 時刻は丁度深夜、辺りは真っ暗で明かりを付けなければ、歩くのも難しい。 更にそんな視界の最悪な状況で殺し合えという注文付だ。 あまり無闇出歩くよりは、屋内で明るくなるまで篭っていた方がいいかもしれない。 「……でも八幡や雪ノ下さん、由比ヶ浜さんも探さないと」 なんとか戸塚は場所には恵まれた。 だが、この三人はどうだろうか。 少なくとも、全員が安全な場所からスタートとは到底思えない。 特に後者の二人は女性だ。か弱い女性が深夜の真っ只中、殺し合いのなか放置される。 考えたくはないが、あまり良い想像は出来ない。 「しっかりしなきゃ……僕は男なんだから!」 両手で頬を叩き気合を入れる。 ヒリヒリと叩いた手、頬に痛みが走る そして、この男とは思えぬ天使のような美貌の白い頬に、赤い手形がうっすらと残る。 痛みに耐えながら、涙目になった目を閉じている様は、非常に可愛く微笑ましい。 だが、そんな愛らしい姿に反してその小柄な体は震えていた。 殺し合い。否応なく人の生き死にが起きてしまう惨劇の源。 そんなものは、テレビドラマぐらいでしか見たことがない。いわば他人事だった。 でもここでは違う。それは身近であり自分にも起こりうる事だ。 あの一番最初に殺された少年のように、次に死んでいるのは自分かもしれない。 その事実がとても恐ろしく、怖い。 「助けて……八幡」 そう言ってから戸塚は首を横に振るう。 さっき、八幡達を見つけなければいけないと言ったのは他でもない自分だというのに。 すぐに八幡に頼ろうとしてしまった。 これではいけない。戸塚は無理やり震える体を動かす。 早くここから出て三人を探しに行こう。 そう決意し、戸塚は辺りを警戒しながら廊下を進んでいく。 すると、一室明かりが付いているのを発見した。 (誰か、居る……?) そこは厨房のようだ。 何やらガサゴソと音がしている。 ここは、相手が気づかない内に早く逃げるべきだと考えたが、思いとどまる。 考えてみれば、一人でこの広い会場内を人を探すというのは非常に大変だ。 そうなると人手が欲しくなる。 決してこの場にいる人達全員が、みんな殺し合いに乗るとは限らない。 なら、そういう殺し合いに反対する人達と協力し合う事は大事なのではないか。 (そうだよね……。もしかしたら、八幡かもしれないし) 意を決して厨房へと足を踏み入れる。 だが、足元にバケツがあったのに戸塚は気づけなかった。 厨房の床を綺麗にするために、水を貯めておくものだろう。 そのバケツを、知らないうちに蹴飛ばしてしまう。バケツがカタンと音を鳴らした。 「ん?」 男は音のなる方法へと振り返った。 キョトンとした顔で戸塚の方を向いたその顔には食いカスが口の周りについていた。 □ 「実はお腹空いちゃって、ここで食べ物を探してたんですよ。  あとは武器になりそうな物を探してて……」 「そ、そうだったんですか」 罰が悪そうに頭を掻きながら男は苦笑いを浮かべながら話す。 厨房で漁っていた物は食べ物だったらしい。 余程、お腹が空いたのだろうか。確か食料がディバックの中に入っていた筈だったが。 「すみません。驚かせてしまって」 「そんな、僕が勝手に驚いちゃっただけですから」 戸塚は内心ほっと胸を撫で下ろしていた。 話を聞く限り、悪い人には見えない。 服装こそ、真っ黒なコートに真っ黒なズボンと怪しいが、その人柄はとても温かく感じた。 「そうだ。まだ自己紹介がまだでしたね。黒田と言います。  名簿には、渾名の黒(ヘイ)って名前で書かれてるので黒って呼んでください」 「へい……?」 「中国語では、ヘイは黒って意味なんです」 確かに、言われてみればこんな黒一色のファッションでは、そんな渾名を付けられてもおかしくはない。 戸塚は胸の内で納得する。 「僕は戸塚彩加って言います」 「彩加……いい名前ですね」 「でも、よく名前のせいなのか女に間違えられちゃうんです」 「え? 違うんですか?」 「僕、男なんですけど……」 戸塚は上目遣いで黒を見つめながら、少し不服そうな顔をしている。 この場に八幡が居たのなら、その可愛さを懇切丁寧に力説していてくれた事だろう。気持ち悪いぐらいに。 「ごめんなさい。てっきり……」 「……僕、そんなに女の子っぽいのかな」 「気を落とさないで下さい。確かに中世的な顔立ちかもしれませんけど、容姿だけが全てじゃありませんよ」 「え?」 「お友達を探して、こんな怖いところを見て回ってたんですよね?  それは、とても勇気が要ることです。そういうのは男らしいと思います」 黒は優しい顔でそう言ってくれた。 ただのお世辞かもしれないが、それでも嬉しい。 何処か力が沸いてくるような気にさせてくれる。 「ありがとうございます、黒さん。お世辞でも嬉しいです」 「とんでもない。それにお世辞なんかじゃありません」 「そういえば、友達で思い出したんですけど、黒って名前の横に銀って名前がありました。  黒さんと似たような名前でした。もしかして」  「はい、僕と同じ大学の同期で、銀髪の女の子です。早く探してあげないと」 「じゃあ、一緒に探しませんか? 二人なら心強いですし」 「そうですね。こんな状況ですし、一人よりは二人の方がいいかも知れません」 話が纏まった二人は早速互いの探し人の特徴を伝え合う。 そして情報交換が終わった後、黒は厨房を照らしていたランプへと手を伸ばした。 無闇に灯しておくより、消しておいた方が良い。 もしも後でやって来た、殺し合いに乗った参加者に、ここに誰かがいたと察せられるのは危険だからだ。 「ランプなんて珍しいですよね。今は色々電気で賄う時代なのに」 「ええ、僕も最初来た時は電気がなくて驚きました。  他の部屋も全然電気が繋がらないんです」 改めて考えるとこの建物は何かおかしい。 一見豪勢そうに見えるが、その実設備はまるでタイムスリップしたのかと思わせるほど古臭いものばかりだ。 そういう趣向の施設と考えるべきなのか。 「二人か」 黒がランプを消そうとした時、その炎はもう一つの人影を照らした。 「……後藤」 「何?」 「お前たちは、名前を知りたがる。だから先に教えた」 後藤と名乗る男はまるで能面のようだった。 無表情というより、顔そのものが作り物であるような。 目の前に居るのは、人の姿をしていながら、人ではない。そう印象付けられる。 「下がってろ」 「黒さん……?」 釣られるようにして黒の表情も変わる。 さっきまでの、温厚でお人よしのものではない。 一切の表情を隠すかのように、仮面を被ったかのような、後藤とはまた違う無表情。 その上に更に本物の仮面を被せる。 それを見て戸塚が下がる。 同じタイミングで、後藤の両腕が裂けた。 「ば、化け物……?」 恐怖のあまり、足がすくむ戸塚に目もくれず、後藤の体は変形を続けた。 裂けた腕が複数本の触手のように形作られていく。 うねうねと、柔軟にその触手は動いている。 そんな触手に反し、その先は鋭いナイフのような刃が形成されていた。 「―――ッ!」 風を切る音と同時に、触手が一斉に姿を消す。 いや、姿を消したと思わせるほどの速度で動いている。 加速した触手の先の刃が黒へと振るわれていく。 黒は上体を反らし触手の刃を避けた。 「契約者か……!?」 黒が腕を振るう。 手から離れた一本のワイヤーが近くの柱へと巻きつけられる。 黒の体が浮き、柱へと吸い寄せられた。 後藤は即座に黒の移動した柱へと触手を振るう。手応えはやはりない。 触手が辿りつくよりも早く、ワイヤーで別の位置で移動しているからだ。 更にワイヤーで飛びながら包丁を後藤へ投げる。 食料を漁っていた際、本来の得物であるナイフの代わりに幾つか拝借しておいたものだ。 だが触手により、包丁は砕けながら弾き落とされる。 (ワイヤーで人間には不可能な、立体的な移動を可能にしているということか) その場で思いついたような小細工ではない。 恐らく、この戦い方で幾つもの戦場を生き延びてきたのだろう。 とても工夫されていた。 「嬉しいな」 後藤は無表情無感情でそう言った。 直後、後藤の足が膨らんでいく。 血管が浮き、筋肉が増長する。既に両腕に続き、その両足までも人の姿であることを捨ててゆく。 後藤の両足の変形が終わった時、黒はもう一本のワイヤーで攻撃に転じた。 だが、そのワイヤーが男に巻き付くことはない。空を切り真っ直ぐと伸びただけだ。 後藤は既にその場から跳んでいた。 一瞬にして、ワイヤーで宙を飛び交う黒を見切り、先回りする。 黒は攻撃用に使ったワイヤーを、急遽反対側の柱へ巻き付け軌道を無理やり修正した。 同時に後藤の刃が振り下ろされる。 刃は仮面を割り、黒の頬に赤い一筋の線を増やすだけだった。 真っ二つに割れた仮面が床に落ち、乾いた音を立てる。 バランスを崩しながらも、転がり込む形で黒も着地する。 「死ね」 黒の体が青い光に包まれ、目が赤く輝く。 それを見て、後藤は自身の足元が濡れていたことに気づいた。 見れば、黒の背後の蛇口に繋がれたホースから水が流れている。 その水が床を流れ、後藤の足元へと続いていた。 黒の体に電流が走り、水を通して後藤へと流れていく。 後藤は真上へ跳躍し電流から逃れた。 黒は狙っていたかのように今度はワイヤーを後藤へと投擲。 空中では逃げ場のない後藤はその触手を壁へと振るう。 刃が壁にめり込むと、そのまま触手を手繰り寄せ後藤は壁へ向かっていく。 「?」 だがワイヤーは後藤を捉えなかったものの、その先にあるランプは捉えていた。 ガラスが割れ、中の火が消える。明かりは消え闇が充満していく。 明かりに慣れていたこともあり、視界が黒へと染まる。 もっとも視界がなくとも後藤にとっては些細なことだ。 後藤は人よりも五感が鋭い。仮に闇に乗じて奇襲を掛けたところで返り討ちだ。 そう例えば、この闇に紛れ投擲された何かを斬り落とした様に。 (小麦粉?) 投げられた何かは小麦粉だった。切り裂かれた瞬間白い粉をぶちまけていく。 視界がはっきりしていたのであれば、目の前の光景は真っ白になっていたことだろう。 それが後藤の鼻、喉を刺激する。 思わず咳が出そうになるのを抑えながら、これが投げられた方向を睨む。 バチッと電流が弾ける音が耳に付く。 (―――粉塵爆発か) その瞬間闇は真紅の業火へと変貌した。 □ イェガーズ本部を飛び出した黒と戸塚。 そんななか戸塚は、走る黒に抱きかかえられていた。 いわゆるお姫様抱っこというものだ。 戸塚の足では逃げ遅れるため、黒が無理やりそうしたのだがやはり気恥ずかしい。 「黒さん、もういいんじゃ……」 「まだだ。もう少し離れた方がいい。少し暴れすぎた。  あの爆発音で、殺し合いに乗った奴が集まってきていてもおかしくない」 都合が良かったのかもしれないが、黒に軽く持ち上げられる華奢な体躯に複雑な気分になる。 これではまるで女だ。 (僕、男の子なんだけどな……) とはいえ、黒の足の速さは並大抵のものではない。 戸塚がこうして抱かれているのも、仕方ない事なのかも知れない。 考えてみればあのワイヤーを使った戦いも普通では考えられない。 この身体能力とも合わせて考えると、戸塚の知らない世界に黒は生きているのだろう。 (黒さん。カッコよかったな) 人外の化け物を相手にワイヤーや電撃――どうやって出しているのかは分からないが――で渡り合う様は戸塚の目にはとても勇ましく見えた。 子供が見るような、特撮ヒーローを髣髴させる。 一種の憧れとでも言うのか。男として生まれたからには一度はあるヒーローへの憧れに近い。 後藤に抱いた恐怖が黒のお陰か和らいでいく。 ずっと、あの戦いでの黒の姿が脳裏から離れなかった。 (僕も黒さんみたいに戦えたら……) 八幡も雪ノ下も由比ヶ浜も傷付けずに守れるかもしれない。 だからこそ、こうやって守られるだけの自分が歯痒かった。 「俺は地獄門(ヘルズゲート)が気になる。  優先は銀だが、あいつを探しながら、地獄門に行こうと思うが良いか?」 「地獄門? 何だか怖い名前だけど……」 「知らないのか? 地獄門を」 「え? 何なんですかそれ」 「……いや、気にするな」 地獄門。 東京都心部に突如現れた未知の領域。 それが現れた瞬間から、世界は偽りの空に覆われた。 その筈だった。 黒は空を見上げてみる。 そこにあったのは、偽りでも何でもない。ただの星空。 黒がもう一度見たいと願った本当の星空が広がっていた。 だが、地図にはあの地獄門がある。ここは決して東京でも何でもない。ただの同名の別地なのか。 そして何故、本当の星空の中、黒のメシエコードBK201の星を含む偽りの星が混じっているのか。 (何がどうなっている……。ここは一体なんだ?) 腕の中の戸塚を一瞥する。 この少年は地獄門の存在を知らなかった。 名前からして日本人なのは間違いない。なら、東京の地獄門の名前だけでも、知っていなければおかしい筈だ。 世間知らずで片付けるのも無理がある。嘘というならば、吐くメリットもない。 成り行き上、同行していただけだったが。もう少し共に行動し、情報を引き出すべきだろうと黒は判断する。 今、自分がどのような場に置かれているのか。 全ては理解できない。 けれど、もし全てが終わり一段落着いたのなら、また本当の星を見たい。 もう一度、黒は星空を見上げた。 「追いついたぞ」 瞬間、空は異形に染まる。 それは後藤だった。 四肢は完全に人のそれではない。だが顔、胴体は間違いなく後藤だ。 有り得ない。あの爆発の中どうやって生き延びたのか。 黒は咄嗟に後ろへ飛び、真上からの刃をかわす。 そのまま戸塚を真横へ放り出しワイヤーを投げる。 だが後藤からすれば、既にそれは見慣れた光景。 身を屈みワイヤーをやり過ごし黒へと突撃した。 「お前は電撃を流せる。だが触れなければ流せない。その為のワイヤーだろう?」 「ッ!」 間合いに入り、振るった無数の刃は紙一重でかわされる。 やはり身体能力、というより反射神経とでもいうべきか。 その反射速度は後藤すらも凌ぐかもしれない。 後藤の動き、その動作の予兆、僅かな変化を見逃さず回避へと生かしている。 「だが、所詮は人間。捌き切れる数には限りがある」 黒の脇腹に強い衝撃が走る。 それは、後藤の放った蹴りだった。 見えてはいた。だが反応しきれない。 触手のように、無数に伸びる刃に加え、蹴り。 あまりにも後藤の手数が多すぎる。 後藤に近接戦闘を持ち込まれた時点で黒は距離を取るべきだった。 「電撃も発動までに時間が掛かる、か」 蹴り飛んでいく黒を眺めながら、後藤は足の様子を確かめる。 電撃を流されたような形跡はなかった。 つまり、僅かな間なら触れても電撃を貰う事はない。 「どうした? 工夫しろ」 刃の腕を振り下ろす。 黒が転がりながらかわしワイヤーを握るがその腕を触手で貫かれる。 「ぐっ!」 青く黒の体が発光する。 瞬時に見切った後藤は触手を抜き、黒から離れる。 電撃を纏わせながら、黒は体制を整え後藤へ向き直る。 後藤は体を変化させ武器として戦う。故に電撃を纏っていれば手出しはできない。 それを見て、後藤は自分のディバックを投擲した。 何の変哲もないただのディバックだが、後藤の腕力で投げられたそれは砲弾の如き勢いを付ける。 かわす黒。だがディバックは空中で勢いを止め、角度を修正した。 否、伸びた後藤の腕がディバックを掴み黒を殴り飛ばした。 ディバックごしであるのなら、感電せず殴ることが可能だ。 ディバックが焼き焦げ、使い物にならなくなるかもしれないが後藤には関係ない。 「黒さん!」 戸塚の叫びも空しく堪らず吹き飛ばされていく黒。 地面を無様に転がる姿に、どうにかしなければならないと焦るが、どうすればいいのか分からない。 「逃げ、ろ……!」 万事休す。 ワイヤーも電撃も全て対策されている。 あの厨房での戦いで学び、後藤はそれだけの工夫をしてきていた。 ここがもし、ワイヤーを巻き付けられる場所の多いビル街や木々の生い茂る森や林などであれば、話は別だったかもしれない。 後藤に近接戦闘に持ち込まれることもなかったろう。 いや、後藤はそこまで計算して追ってきていたのかもしれない。 「終わりだな」 その呟きは氷のように冷たい。。 纏わせた電撃は、殴られ集中が途切れたことにより消え、後藤が触れられる状態だ。 後藤の手が伸び、振るわれる。 後藤の刃が黒の首を切断した。 鮮血が飛び散った。黒の苦悶の声すら聞こえない。 「…………何をした?」 その筈だった。しかし、鮮血は黒のものではなく後藤の流したもの。 後藤と黒の間を遮った一筋の光線。 光線の奔ってきた方へ後藤は振り向く。 そこには、銃口から煙が上がっている巨大なライフルを握った戸塚が居た。 後藤は確信した。 今しがた自分を狙い、だが僅かに外し掠らせた光線の射手はあの少年だと。 「す、凄い……。本当に光線が……」 「逃げろ! 奴が!」 黒の止めを後回しにし、後藤は戸塚へと駆ける。 戦力にならないと無視していたが、あんな隠し弾を持っていたのでは別だ。 迫ってくる後藤に戸塚はそのライフル、名を――浪漫砲台(ろまんほうだい) / パンプキン――を構える。 使用者がピンチに陥るほど、その威力が増す帝具。故に条件を満たしたパンプキンは強力な光線を放てる。 だが、照準がまるで定まらない。トリガーを引く暇すらない。 戸塚は本来の所有者ではない上に、戦いの経験などない。 そんな戸塚に動く的。増してや後藤に当てるなど不可能だ。 距離はグングンと縮まり、既に後藤は自身の射程距離へと距離を詰めていた。 「あっ……」 完全に詰みだ。 後藤の刃を振り切るように、パンプキンを翳そうとするが間に合わない。 だが突如、その射程軌道上から後藤を外していたパンプキンが一人でに動き出し、照準を後藤へと合わせた。 「銃が……!?」 見れば、パンプキンの銃身にワイヤーが巻きつき銃身を持ち上げている。 背後に居た黒が、ワイヤーを投擲しパンプキンを持ち上げて、その照準を調整していた。 考えるよりも早く戸塚がトリガーを引く。後藤は攻撃を中断し両手、両足を硬化させ即席の盾とした。 後藤は光線の為すがまま吹き飛ばされ、深夜の深い闇の中へと消えていった。 「黒さん、僕……」 「おい、しっかりしろ!」 最後の一撃を放ってから、戸塚は糸が切れたように倒れた。 原因はこのパンプキンのせいだ。 精神エネルギーを衝撃波として打ち出すパンプキンは、少なくとも戸塚のような一般人が扱いきれる武器ではない。 2発の射撃で気絶するのは当然ともいえる。 傷を抑えながら、黒が駆け寄り戸塚を揺する。当然反応はない。 「助ける義理はないが……」 後藤があれで死んだとは断定できない。 厨房での爆発でも生き残ったのだから、あの光線を受けて生きていてもおかしくはない。 早めにここから離れるのが懸命だ。 戸塚を背負い、早足で早々にこの場から立ち去った。 【C-4/1日目/深夜】 【黒@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】 [状態]:疲労(中)、右腕に刺し傷 [装備]:黒のワイヤー@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、包丁@現地調達×3 [道具]:基本支給品、不明支給品0~1 [思考・行動] 基本方針:殺し合いから脱出する。 1:銀を探しながら地獄門へ向かう。銀優先。 2:戸塚を連れ、この場から離れる。 3:戸塚から情報を引き出す。 4:自分のナイフかそのかわりになる物を探したい。 5:仮面も調達したい。 6:後藤を警戒。 ※戸塚との話の食い違い、会場の地獄門や本当の星について疑問に思っています。 ※参戦時期は黒の契約者終了後です。 ※戸塚の知り合いの名前と容姿を聞きました。 【戸塚彩加@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】 [状態]:疲労(大)、殺し合いへの恐怖、気絶 [装備]:浪漫砲台 / パンプキン@アカメが斬る! [道具]:基本支給品一式、不明支給品0~2 [思考・行動] 基本方針:殺し合いはしたくない。 0:…… 1:黒と一緒に八幡達を探す。 2:地獄門って何だろう? ※黒の知り合いの名前と容姿を聞きました。 ※イェーガーズ本部の厨房が爆発で吹き飛びました。 【黒のワイヤー@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】 黒に支給。 ベルトに仕込まれている。 【黒の仮面@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】 黒に支給。 割れた。 【浪漫砲台(ろまんほうだい) / パンプキン@アカメが斬る!】 戸塚に支給。 巨大な銃の帝具。精神エネルギーを衝撃波として打ち出す。 使用者がピンチに陥るほどその威力が増し、戦況によって形状も変化する。 闇を切り裂くように奔り続ける光線。その先には後藤が両腕を盾としながら圧され続けていた。 (不味いな) このまま為すがまま、流されていては会場外に出てしまう。 会場外に出た参加者がどうなるのかは分からないが、少なくともペナルティなしということは無いだろう。 後藤は片足を伸ばし、それを近くの木に引っ掛ける。 そして体全体を反らし、盾となった両腕を滑らせながら、パンプキンの光線を受け流した。 「随分、飛ばされたようだ」 淡々とした声で後藤は呟く。 あの人間たちは何処にも見えない。 「腹が減ったな」 後藤は、いや後藤達パラサイトと呼ばれる生物は、基本人に寄生し成り代わって生きていく生物だ。 そのパラサイトの主食は人間。 人間を食い殺せという欲求に従い、狩を行い人間を食らう。 更に後藤は一般のパラサイトが頭部を乗ってるのに対し、頭部どころかその四肢もまたパラサイト。 その本能はパラサイト五体分。つまり食欲も五体分の大食いというわけだ。 加え、戦闘欲求も高まり、戦いこそが自分の存在意義だと自覚している。 だからこそ、この殺し合いにも積極的に参加することにした。 故に先ほどの戦闘で戦いへの欲求はそこそこ満たされたものの食欲はまるで満たされない。 むしろ、更に餓えたといってもいい。 後藤はパンプキンの光線を受けた両腕の調子を確認しながら、移動を始めた。 もちろん、餌となる人間、戦いを楽しめる強者を探す為だ。 後藤にとっては、死んだ筈の広川が生きていた事も、この場が如何なる場所であろうと関係ない。 いまさら、どうでもいいことだ。後藤のやることは1つ。 そう、後藤にとっては戦いこそが……。 【A-4/1日目/深夜】 【後藤@寄生獣】 [状態]:ほぼ健康、空腹、両腕にパンプキンの光線を受けた跡 [装備]:なし [道具]:基本支給品、不明支給品1~3 [思考] 基本:本能に従う。 1:人間を探し捕食する。 2:戦いも楽しむ。 [備考] ※広川死亡以降からの参戦です。 ※首輪や制限などについては後の方にお任せします。 *時系列順で読む Back:[[バトロワ的ロードショー ダーティ アンジュ]] Next:[[始まってしまった物語に、奪われたままの時に]] *投下順で読む Back:[[バトロワ的ロードショー ダーティ アンジュ]] Next:[[始まってしまった物語に、奪われたままの時に]] |&color(blue){GAME START}|戸塚彩加|| |~|黒|| |~|後藤||

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