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*嵐の前に ◆dKv6nbYMB.

「てめえ...舐めてんのか?」
「......」

ヒルダさんが怒っている。
銀ちゃんは、ずっと黙っている。
私に向けられていない、この事態の経緯はこうだ。
キンブリーさんと別れた後、ヒルダさんは尋ねた。マスタングが東に向かったのは本当かと。
銀ちゃんの返答は、「わからない」。
ヒルダさんと私は顔を見合わせ、勘違いだったのか、嘘をついたのか、など理由を聞き出そうとした。
が、しかし銀ちゃんの答えは「わからない」か沈黙のみ。
そのことが、ヒルダさんの怒りを買うこととなったのだ。

その光景を見て、私は頭の片隅で考える。

(なんで?なんで、銀ちゃんはそんなことをするの?)

私は時間が経過すると共にマスタングへの憎悪を募らせていたが、銀ちゃんの不可解な行動で徐々に怒りは疑問に塗り替えられていった。

(銀ちゃんは嘘をついている?なんで嘘をついてまで私たちを連れだしたの?)

銀ちゃんが嘘をついているのだとしたら、なぜそんなことをする必要があるのか。
銀ちゃんは、マスタングが東へ向かったと告げた途端、私とヒルダさんを電車に連れ込んだ。
電車が発車しそうだったというのもあるけれど、それにしては判断が早すぎる。
あの場にいたのは四人。普通は二人ずつに分担するはず。
なのに、銀ちゃんは迷わず私とヒルダさんを連れ込みキンブリーさんを一人にした。
キンブリーさんは、それなりの腕前であると自負していたけれど、話し合うことすらせずに一人で行動させるのは、正直薄情だと思う。

(...銀ちゃん、キンブリーさんのことが嫌いなのかな)

そんなことを考えている間に、状況は悪化していって。


「いいか、お前の能力が失敗したってんならそれはいい。勘違いだったってんなら、我慢してやる。けどな、あたしらはお前の気まぐれや見え張りに付き合ってやるほど暇じゃねえんだ」
「......」
「もう一度聞く。雪子を殺したマスタングは、東へ向かったのか?」
「...わからない」

ヒルダさんの表情からは怒りが消え、代わりに一瞬にして曇ってしまった。
もう決めた、一発ぶん殴る。いまにもそんなことを言いだしそうだ。
ヒルダさんの拳が振りかぶられたので、私は慌てて間に滑り込んだ。 

「待って、ヒルダさん!」

一応、その制止の声は聞こえたようで、ヒルダさんは拳を止めてくれた。

「なんだよ、お前はムカつかないのか?」
「い、いや、そのぉ、銀ちゃんもなにか伝えたいことがあるんじゃないかなぁって」
「言いたいこともクソも、こいつはずっと黙ったままじゃねえか」

ヒルダさんのいう事は尤もだ。
伝えたいことがあるのなら、口に出せばいい。
なのに、銀ちゃんは話さない。なんでだろう。

(...落ち着いて。いままで問題に行き詰ったとき、あたしたちは...)

事件に臨むとき、あたしたちは必ず情報の整理からしていた。
進展があるとき無いとき様々だけど、それのおかげで徐々に一歩進んだような気持ちになれた。
だから今回もそうしよう、そうしたいと思った。

銀ちゃんは、私とモモカさんが逸れた後、雪子と共に行動していた。
雪子は私たちを追うため銀ちゃんから離れ、その後クマの救助の声を聞きいて駆けつけ、そこでキンブリーさんと遭遇。
キンブリーさんは言っていた。クマは既に殺されており、そこで雪子はマスタングという男に殺された。
キンブリーさんは、クロメとウェイブというイェーガーズの人たちと戦っていたため雪子を守ることができなかった。
キンブリーさんは、マスタングとウェイブから命からがら逃げだせた...うん?あいつらを逃がしてしまった?どっちだろう。とにかく、あいつらから離れられたキンブリーさんは、銀ちゃんの待つ駅へ向かい、彼女と合流した。
そこからは私たちの知っている通り、銀ちゃんがマスタングを追うと言って、私たちを連れだした。
...駄目だ。やっぱり、銀ちゃんが話してくれないとなにもわからない。

「教えて、銀ちゃん。どうして嘘をついたの?」

私は銀ちゃんの肩に手を置きジッと目を見据え、銀ちゃんも私を見つめ返す。
やがて、銀ちゃんはその口を開いた。

「...私は、キンブリーのことをよく知らない」

銀ちゃんの言葉に、私はそれはそうだと思う。
なんせ、この場にいる誰もが彼とは知り合いではなく、少々会話をしただけにすぎないのだから。

「だから、マスタングが雪子を殺したかわからない」

銀ちゃんの言葉に、私の頭の中は真っ白になりかける。
なんで?キンブリーさんはあいつが雪子を殺したって言ってたよ?
銀ちゃんはマスタングを庇うつもりなの?
なんでなんでなんでなんでなんで―――――! 

「落ち着け、千枝」

頭に乗せられたヒルダさんの手により、ハッと我に返る。
ヒルダさんは、頭を掻きながら溜め息をついた。

「そういうことかよ、銀」
「......」
「え?どういうこと?」

納得したかのようなヒルダさんの言葉に、私は疑問符を浮かべる。

「要は、キンブリーの言葉を真に受けて先走るなってことだろ?」

ヒルダさんの言葉に、銀ちゃんが無言で頷く。
そこまでされて、ようやく気付くことができた。
キンブリーさんの言葉に矛盾はない。けど、それが真実かどうかは別問題だ。
ロイ・マスタングは本当に雪子を笑いながら焼き殺したのか。
それは、キンブリーさんの主観での出来事でしかないし、本当はなにかあってそうしたのかもしれない。
雪子を殺したのは、キンブリーさんの知るマスタングによく似た別の誰かなのかもしれない。
もしかしたら、雪子を殺したのは本当はキンブリーさんなのかもしれない。
どれが真実であろうとも、キンブリーさんの主観でしかない言伝だけで真実を決めるのは早計だと今さらながらに思う。


「だ...だったら、最初からそう言ってくれれば」
「それで素直に受け入れたかよ、お前は」

ヒルダさんの言う通りだ。
おそらく銀ちゃんがそう言っても、私は聞き入れはしなかったし、銀ちゃんに怒りをぶつけていたかもしれない。
でも、こうして銀ちゃんが何故嘘をついたのかと考える時間があったから、少しだけ頭も冷えてそれなりに受け入れることができた。

「...わるかったな、銀。っと、ここで停車だな」

ヒルダさんの言葉通り、電車はここ、民宿のある島で一時的に止まることになる。

「一旦降りるぞ。何回か通ったが、念のためだ。なにか変わったことがあるかもしれねえ」 

☆

ヒルダさんに促されるままに、私たちは民宿とその付近を探索していた。
どれほど探したかは覚えていないが、結局、私たちはなにも見つけることはできなかった。
いまは、民宿の一室で私たちはタブレットの地図を眺めている。
次の目的地を決めるためだ。

「ここから北に行けば、マスタングがいるかもしれねえエリアで、東に行けばお前の知るジュネスってところがあるエリアだ。お前らはどっちに行きたい?」
「私たちが決めていいの?」
「あたしの知り合いが目指す場所に心当たりがないからな。マスタングから真実を聞き出すのもよし、あんたらの心当たりを探すのもよしだ」

私だけでは決めかねると、助け舟を出すように銀ちゃんに視線を移す。

「...私は、黒と合流したい。黒は、地獄門を目指すと思う」

地獄門。最初に会った時も言っていたけれど、私の知らない場所だ。

「地獄門...こっからは遠いな。北から行こうが東から向かおうが、距離はあんまり変わらないな」
「なら、千枝が決めて」
「いいの?」
「黒と会えるなら、私はどっちでもいい」

結局、決定権は私に委ねられることになった。
改めてそう聞かれると、結構困るものだ。
少し前の私なら、迷わずマスタングを追うために北を選んだだろう。でも、頭がそこそこ冷えた私には、そんなにあっさりと答えを出すことはできなかった。
北に行ってマスタングに真実を問いただし、クロならそのまま―――してしまえば被害は広がらず、雪子の仇も討てる。でも、もし私たちが返り討ちにあえば被害は更に広まることになる。それに、私がマスタングを追っている間にも鳴上くんや足立さんも危険な目に遭っているかもしれない。
ジュネスへ向かえば、鳴上くんや足立さんとも合流できるかもしれない。足立さんはともかく、鳴上くんと合流できれば心強いしなによりもう友達を失わなくてすむ。足立さんにだって死んでほしくなんかないし。
けど、マスタングがクロだった場合、私たちがジュネスへ向かっている間に被害者が増える一方になるかもしれない。
そんなリスクとメリットを天秤にかけ、私が選んだ答えは――― 

☆

私たちを乗せた電車は進む。
その身体を揺らしながらも、真っ直ぐに進んでいる。
車内は沈黙に包まれており、電車の揺れる音だけが木霊するだけだ。
膝を抱えて席に座っている私や席に寝そべるヒルダさんとは違い、銀ちゃんは膝に手を置き、礼儀正しく座っている。

「...ねえ」

ヒルダさんと銀ちゃん、どちらにも向けられた私の言葉に、二人はピクリと反応する。

「もし本当にマスタングが雪子を殺してたら...私は、どうすればいいのかな」

もし、キンブリーさんの言ったことが本当で、マスタングが人を人とも思わぬ外道だったら悩むことなんてない。
けれど、いまはこんな異常な殺し合いの最中だ。事故や気が触れた可能性だって十分にある。
もしマスタングがなにかの事故で雪子を殺してしまったのなら。
もしマスタングが殺し合いに耐えられずに気が触れてしまったのなら。
私は、どうすればいいのだろう。

「......」
「......」
「......」

再び沈黙が車内を支配する。
二人は私の問いの答えを考えてくれている...というわけでもなさそうだ。
ヒルダさんは怒りでも悲しみでもなく、若干呆れのような感情を含ませた表情で私を見ている。
銀ちゃんは、何の感情を見せることもなく私を見つめている。
まるで、二人が『言わなくてもわかるだろう』と訴えているようにも見える。
けれど、私にはいくら考えても、なにが正しいのかわからなくて。

「...ねえ。もしも、もしもだよ」
「?」
「二人の大切な人が殺されたら」
「死なせないよ」

どうするの、と言いかけた言葉は、しかし銀ちゃんに遮られてしまった。

「銀?」
「あの男は、こんなところで死なせない」

そう言った銀ちゃんの言葉は、今までのどれよりも力強くて。
人形のようだと思っていた彼女とは思えない言葉だった。 

「...そう、だよね。ごめん、変なこと聞いちゃって」

わかってる。
私たちがするべきことは、大切な人たちを死なせないようにすることだ。
大切な人が死んだときのことなんて、聞くべきことじゃないし考えるべきことじゃない。
だというのに、私は聞いてしまった。
答えがほしかったから。
大切な人が殺された時、どうすればいいのか。なにが正しいのかを誰かに教えて貰いたかったから。

「...お前の友達、鳴上って言ったか」
「...うん」
「逆にあたしから聞くがよ、鳴上がマスタングを許せって言ったら、お前は許すのかよ」
「それは...」
「仮に許すとしても、だ。お前はそれで納得できるのか」
「......」

私は黙り込むことしかできなかった。
鳴上くんはたしかに大切な友達だ。
でも、もし鳴上くんが『雪子のことは水に流してマスタングを許そう』なんて言っても、私はマスタングを許すことはできないと思う。
許さなくちゃいけない状況になっても、それで納得することなんて以ての外だ。

「結局、どうするかなんて自分で決めるしかないんだよ。キンブリーじゃねえけど、はっきりとした目的や信念があるなら、仇討でもなんでも好きにすればいい。マスタングを殺すことがあんたのやりたいことから外れるなら殺さなければいい。あたしはあんたが決めた答えなら、それを邪魔をするつもりはないよ」

それだけ言うと、ヒルダさんは私から視線を外し、再びシートに横になった。
もう言う事はない、後は勝手にしろという意思表示だろう。

「そう...だよね」

声にして改めて確認する。

「私の答えは...私のものなんだよね」

キンブリーさんやヒルダさんの言う通りだ。
事を成すには、自分の意思や信念をハッキリと持たなければならない。
マスタングに会い、真実を確かめたとき。私の答えを決めるのは私でなければならない。
結果によっては、鳴上くんとぶつかることになるかもしれない。
それでも、答えを決めるのは自分でなければならない。

...でも、頭ではわかっていても、未だに私の中身はぐちゃぐちゃだ。
怒り。悲しみ。違和感。苛立ち。焦り。色んなものが渦巻いている。
マスタングが犯人だった時、私は私でいられるのかな。
電車が止まる時までには、答えを出せるのかな。
いまの私には、膝を抱えたまま黙り込むことしかできなかった。 

【D-7/電車内/一日目/午前】
※電車は北か東に向かっています。



【里中千枝@PERSONA4 the Animation】 
[状態]:健康、マスタングに対する憎悪 
[装備]:なし 
[道具]:基本支給品 
[思考] 
基本:殺し合いを止めて、みんなで稲羽市に帰る。 
0:雪子殺害の真実を見つける。雪子の仇を討つ?
1:マスタングとイェーガーズを警戒。
2:鳴上、足立との合流。
[備考] 
※モモカ、銀と情報を交換しました。 
※キンブリーと情報交換しました 


【ヒルダ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】 
[状態]:健康
[装備]:グロック17@魔法少女まどか☆マギカ 
[道具]:基本支給品、不明支給品1~2 
[思考] 
基本:進んで殺し合いに乗る気はない。 
1:目的地に着くまでは休憩している。
2:千枝に協力してやる。 
3:エンブリヲを殺す。 
4:アンジュに平行世界のことを聞いてみる。 
5:マスタングとイェーガーズを警戒。マスタングは千枝とは会わせないほうが良いかもしれないが、千枝には決着はつけさせておきたい。
6:キンブリーの言葉を鵜呑みにしない。
[備考] 
※参戦時期はエンブリヲ撃破直後。 
※クロエの知り合いの情報を得ました。 
※平行世界について半信半疑です。 
※キンブリーと情報交換しました 



【銀@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】 
[状態]:健康  キンブリーに若干の疑い
[装備]:なし 
[道具]:基本支給品、不明支給品1~2 
[思考] 
基本:…………。 
1:黒を探す。 
2:千枝とヒルダにしばらく同行する。
[備考] 
※千枝、雪子、モモカと情報を交換しました。 
※制限により、観測霊を飛ばせるのは最大1エリア程です。 





―――追記。




これは語るまでもないことなのかもしれない。
二人との会話の中で感じた僅かな違和感。私もヒルダさんも銀ちゃんも、誰もそれには触れなかった。
二人が気づいていないのか、それとも私が気にし過ぎているだけなのか...

違和感というには本当に些細なものかもしれない。
でも、正体のわからないそれは、私の中のもやもやをより一層深めていたことだけは確かだ。
この『違和感』は、いったいなんなんだろう...? 


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