133 *汚れた指先で ◆dKv6nbYMB. ★ 私は走っている。 今にも崩れ落ちそうな一本道を、まるでなにかから逃げるように、何かを追い求めるかのように。 ただただ、息を切らしながら走っている。 「どこへ行くんだよ。喧嘩売ってきたのはおまえだろ」 右腕の変化する少年―――泉新一が並走し、刃と化した右腕を振るってくる。 舌うちをしつつ、手首から流れる血を新一へと振り掛ける。 しかし、突如現れた目の死んだような少年―――比企谷とか呼ばれていたか―――が間に割って入り、新一へとかかるはずの血を防ぐ。 指を鳴らし、比企谷の身体を消し飛はす。しかし、彼は苦しみの声もあげずに嗤って告げる。 「俺なんかに構ってていいのか?」 比企谷の影から、新一が姿を現し、私の鳩尾に拳を叩き込んだ。 「ぐっ...」 「どうだ、こいつが比企谷の痛みだ!」 新一の拳の威力に私の身体は僅かに宙を舞い、そのまま一本道から落ちていく。 「ぐあっ!」 どれほど落ちたのか、地面に背中を打ちつけ苦悶の声をあげてしまう。 あれほどの高さから落ちれば命はなかったはず。 だが、私にはそんなことを考える暇も与えられなかった。 「ウェヒヒ、もう逃げられないよ」 背後からかけられる声に、振り向き様に血を浴びせ、指を弾く。 しかし、その対象―――鹿目まどかは、倒れない。 首に風穴が空いたと言うのに、尚こちらを睨み笑みを浮かべている。 「『魔術師の赤』!」 どこからともなく響く男の声と共に、炎が私の周りをぐるりと囲い込む。 そして、逃げ場を無くした私の前に現れるのは、青の巨人。 「オラァ!」 再び、私の鳩尾に拳が叩き込まれる。 しかし、その威力は新一の比ではない。 肺から空気を絞り出されるような感覚のまま吹きとばされる。 「ッ、ハァ、ハァッ」 地面を転がり、どうにか息を整えようとするが、どこからともなく飛来してくる桃色の矢はそれを許さない。 再び逃げるかのように、我武者羅に当てのない道を走っていく。 「皆を襲撃したのはお前だ...なら、私に葬られてもなにも言えまい」 今度は、赤い目の少女―――アカメとかいったか―――と、茶髪の青年が、逃げ道を塞ぐかのように立ち塞がっている。 「さあ、覚悟なさいまし」 制服を着た少女―――婚后光子とか名乗っていた―――が、妙な能力で本棚やイスなどを飛ばし、その影からアカメと青年が私へと攻撃を仕掛けてくる。 体術は私とほぼ同ランク...それが二人もいれば苦戦は必至。 痛みが、疲労が、私の身体を急速に蝕んでいく。 「邪魔だ!」 「邪魔なのはあなたです。私の仲間たちを殺させはしない」 アカメたちを殺すため、血を飛ばそうとした私の懐に潜り込む一つの影。 BK201に似ており、しかしその実態はまるで違うただの男。 男がかざした奇妙な物体が押し付けられると同時。 「ッ!?」 周囲が、全くの"白"に包まれる。 新一たちも、まどかたちも、アカメたちも誰もいない。 ただただ、純白の空間の中に、私だけが立ち尽くしていた。 (チィッ、このままではマズイな...身体を休めなければ) 襲撃がなくなったのは好都合だと私は休息のために腰を下ろした。 その時だ。 「―――!」 ふと視線をあげた先に、黒色の影が見える。 その姿は黒色の髪。背丈。全てが黒色の装いの死神の背中。 今度は間違いない。 「BK201...!」 私は、痛む身体を無視して、あの男のもとへと歩いて行く。 「クッ、ハハハ...この時をどれほど待ちわびたか...!」 奴は、背を向けたまま立ち尽くしている。 「貴様から受けた屈辱...一時も忘れたことはない...」 やがて、奴との距離を縮めるのさえじれったくなり、私は駆けだした。 「さあ、私と戦え!BK201!」 手にしたナイフで、手首を切りつけ血を流し、そこで気付いた。 「...!?」 奴との距離が、縮まらない。 奴は、私に背を向けたまま突っ立っている。 奴は―――私を見ようとしない。 「なにをしている?私はお前の敵だ。早く私を殺しに来い!」 いくら走ろうともなにも変わらない。 いくら叫ぼうとも奴は変わらない。 どうあがこうとも、私と奴の戦いは...訪れない。 そして。 「...!」 奴の身体が、巨大な刃物で貫かれる。 鮮血が飛び散り、奴の両手がダラリと垂れ下がる。 そのまま奴の身体は、地面にうち捨てられる。 そして、奴と目が合った。 『生』の光を失った、私がいままで数多く作りだした、死者の目と。 奴が"私ではない何者かに殺された"。 そう認識した瞬間、奴の死体は消え失せ、純白の空間には私だけが取り残された。 ★ ☆ 「―――ッ!」 飛び起きると共に意識が覚醒する。 呼吸は乱れ、嫌な汗がベットリと身体を濡らしていた。 「...?」 辺りを見回し、いまの状況を確認する。 自分がいるのは、ベッドの上。 休息を兼ねてここをしばらく拠点にしようと計画を練っていたところまでは憶えている。 が、しかしそれ以降の記憶がいまいちハッキリとしない。 「寝ていた...のか?」 今までの戦闘の疲労が溜まっていたのか、みっともなく惰眠を貪ってしまったようだ。 幸運だったのは、誰もこの施設を訪れなかったことだ。 流石に誰かが部屋に足を踏み入れれば気が付いただろうが、それでもこんな迂闊な行為には溜め息もつきたくなる。 と、なれば、先程の光景は... (夢...契約者が夢を見る...?馬鹿らしい) 契約者は夢など見ない。 曰く夢とは不合理的なものであり、合理的にしか行動しない契約者にとっては不要なものだ。 誰が言ったかは知らないが、事実、契約者となってからは夢など見たことは無い。 ならばなぜいまさら... (いや、待て...本当に、あれはただの夢か?) そもそも、ボディーガードをやっていた時から、ロクに休憩をとらずに仕事にあたることはいくらでもあった。 そんな私が、いくら疲れていたとはいえ、こんなところで眠るとは考えにくい。契約者なら尚更だ。 何者かが干渉した? いや、集団の中の一人に狙いをつけて悪夢を見せ、そこから亀裂が入るキッカケを期待するのならまだわかる。 だが、私は一人だ。しかも、ゲームに乗った側の人間だ。 眠らせたのなら、拘束なり殺害なりしなければ不自然だ。そのまま放置する理由が見当たらない。 仮に干渉したとすれば、それは参加者以外の人間と考えるべきだろう。 (...そういえば、アンバーは未来を読み、それを伝えることが出来ると聞いたことがある) アンバー。契約者集団、イブニングプリムローズの首謀者だ。 噂にしか過ぎないが、もし彼女が私に干渉したのだとしたら、アンバーがこの殺し合いに関わっていることになる。 正直、あの広川という男だけでこんな殺し合いを管理できないと思っていたため、別段不思議なことではないが。 ならばなぜ私に干渉を? 『さて、私の声が聞こえた時点で察していると思うが放送の時間だ』 私の思考を遮るかのように、広川の声が鳴り響く。 アンバーのことは気になるが、いまはこちらの方が大切だ。 私は、与えられる情報を聞き逃すまいと紙とペンを用意した。 広川が告げたのは、『禁止エリア』『死亡者』そして新たなルール『首輪交換制度』。 まず、禁止エリア。地獄門の付近が一つ指定されたのは痛いが、まだ道が閉ざされたわけではない。 それに、いまの自分がいるエリアとは全く関係のない場所ばかり指定されたため、ペナルティによる死亡の危険はないと見ていい。 次に死亡者。 12名。思ったよりも殺し合いは順調に進んでいるようだ。 ほとんどが知らない名前だったが、三つ知っている名があった。 『プロデューサー』『婚后光子』『鹿目まどか』。 プロデューサー。BK201と間違えたせいで一杯食わされたが、それだけだ。この手で殺せたため特に思い入れも無い。 婚后光子。図書館での戦いで妙な能力を使われたが、私が終始有利でありトドメを刺さなかっただけなので遺恨もない。 鹿目まどか。妙なトリックで私の能力から逃れた少女だ。いま思えば、あの閃光を放ったのは彼女だったかもしれない。大した強さではなかったが、右肩の傷と能力を破られた屈辱が果たせないと思うと、あまりいい気はしない。 (いい気はしない...?私は何を言っている) なぜ、まどかだけには思うところがあるのか。 プロデューサー。一杯食わされた借りは、彼との一騎打ちで返した。 婚后光子。そもそもやられていないので借りもなにもない。 鹿目まどか。だいぶ痛めつけたが、彼女には大して効いていないように見えた。それに対して私の右肩の傷はまだ痛む。認めたくはないが、結果を見れば、よくて引き分け。少なくとも、彼女に勝利を収めたとは言えないだろう。 だが、この借りを返す相手はいない。もう死んでいるのだから。 「そうか...そういうことですか、アンバー」 なぜあんな夢を見せられたのか。 その答えを得た私は、あの男―――プロデューサーと呼ばれた男のもとへと向かうことにした。 ☆ 古代の闘技場の付近。 私が殺したプロデューサーという男の死体が転がっている。 刃物は持っているし、人体を斬ることに抵抗はない。 しかし、首輪を回収しているところを襲撃されては敵わない。 ならば手早く終わらせるべきだろう。 私は指先をナイフで軽く切り、僅かに血を滲ませた。 そして、その血をプロデューサーの首をなぞるように塗りつける。 これで準備は整った。 ―――パチン 指を鳴らす音と共に、血の付いた部分が消失する。それに伴い、プロデューサーの胴体から離れた首がごろりと地面を転がった。 そして、彼の首輪を回収し、闘技場の中へと足を踏み入れ広川の示唆した無人ボックスを探す。 その道すがら、首輪を眺めながら思う。 この首輪は本当に不思議なものだ。 こうして取り外しても機能は停止せず、加えて能力で破壊できない。 まどかに能力を使った時、私は確かに首輪にも血を着けていた。 しかし、結局首輪は破壊できず、彼女の首にしか効果はなかった。 彼女が死ななかったタネもそこにあるのだろうか。 (まあ、私にはあまり関係ないことですね) 要は、私が禁止エリアに逃げ込むヘマをしなければ、この首輪はただの参加者の証だ。 狙うのが優勝である以上、わざわざ首輪の考察にかける時間は惜しい。 私が見た、奴が何者かに殺される夢。あれがただの夢ではなく、アンバーからの警告だとしたら。 このままゆっくりと行動していれば奴と戦う機会が永遠に訪れないとすれば。 肩の傷の借りでさえ惜しく思ってしまう私だ。 唯一敗北を喫したあの男が、私と会う事すらせずにくたばれば、私のプライドは二度と取り戻せないだろう。 それだけは嫌だ。合理的ではないかもしれないが、それだけは避けねばならないのだ。 「色は黒で特に面白みも無い外見...あれだな」 石造りの闘技場の片隅。 広川の言った無人ボックスらしきものがポツンと置いてある。 扉を開き、中に入る。 外からボックスの中が見えなかったように、中からも外が見えないようだ。カギもかけられる。心置きなく首輪の交換に勤しめということだろうか。 中にある機械は、ATMに酷似している。 違う点を挙げるなら、金銭を入れる場所にご丁寧に『首輪投入口』と書いてあるところか。 『いらっしゃいませ。こちらは、首輪交換コーナーです。首輪をお持ちの方は、こちらにお入れくださいませ』 指示通り、空いている投入口に首輪を置くと蓋が自動でしまった。 なるほど、こうして首輪を回収するのか。 『確認中です...首輪ランク1.コード、プロデューサー。他に首輪をお持ちですか?』 タッチパネルに『はい』と『いいえ』のボタンが表示される。 『いいえ』を押す。 『それでは、ご用件をお願いします』 次いで画面に表示されたのは、『道具交換』と『情報交換』のボタン。 私は、躊躇わず『情報交換』のボタンを押した。 『それでは、質問がおきまりでしたら、赤いボタンを押しながらお願いします』 画面が切り替わり、赤のボタンが画面の中央に表示される。 私はそれを押しながら、一呼吸置き答えた。 「BK201...黒と、その周辺の参加者の居場所を教えなさい」 【G-7/古代の闘技場/一日目/日中】 ※G-7、闘技場付近に首を切断されたプロデューサーの死体が放置されています。 【魏志軍@DAKER THAN BLACK‐黒の契約者-】 「状態」:疲労(中~大)、黒への屈辱、鎮痛剤・ビタミン剤服用済み、背中・腹部に一箇所の打撃(ダメージ:中・応急処置済み)、右肩に裂傷(中・応急処置済み)、右腕に傷(止血済み)、顔に火傷の痕 「装備」:DIOのナイフ×8@ジョジョの奇妙な冒険SC(魏志軍の支給品)、スタングレネード×1@現実(魏志軍の支給品)、水龍憑依ブラックマリン@アカメが斬る(魏志軍の支給品)、次元方陣シャンバラ@アカメが斬る(セリム・ブラッドレイの支給品)、黒妻綿流の拳銃@とある魔術の超電磁砲(星空凛の支給品) [道具]:基本支給品×3(魏志軍・比企谷八幡・プロデューサー・一部欠損)、テレスティーナ=木原=ライフラインのIDカード@とある科学の超電磁砲(比企谷八幡の支給品)、暗視双眼鏡@現実(比企谷八幡の支給品)、アーミーナイフ×1@現実(武器庫の武器)、ライフル@現実(武器庫の武器)、ライフルの予備弾×6(武器庫の武器)、パンの詰め合わせ@現実(プロデューサーの支給品)、流星核のペンダント@DAKER THAN BLACK(蘇芳・パブリチェンコの支給品)、参加者の何れかの携帯電話(蘇芳・パブリチェンコの支給品・改良型)、カマクラ@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。(星空凛の支給品)、うんまい棒@魔法少女まどか☆マギカ(星空凛の支給品)、医療品@現実(カジノの備品)、鎮痛剤の錠剤@現実(カジノの備品)×5、ビタミン剤の錠剤@現実×12(カジノの備品)、ビリヤードのキュー@現実×6(カジノの備品)、ダーツの矢@現実×15(カジノの備品)、懐中電灯×1@現実(カジノの備品) [思考・行動] 基本方針:全ての参加者を殺害し、ゲームに優勝する 0:BK201の居場所を聞く。方針を決めるのはそれから。 1:BK201(黒)の捜索。見つけ次第殺害する。 2:強力な武器の確保。最悪、他のゲーム賛同者と協力する事も視野に入れる。 3:合理的な判断を怠らず、可能な限り消耗の激しい戦闘は避ける。 [備考] ※テレスティーナ=木原=ライフラインのIDカードには回数制限があり、最大で使用できる回数は3回です(残り1回)。 ※上記のIDカードがキーロックとして効力を発揮するのは、ヘミソフィアの劇中に登場した“物質転送装置”のような「殺傷能力の無い機器」・「過度な防御性能を持たない機器」の2つに当てはまる機器に限られます。 ※暗視双眼鏡は、PSYCO-PASS1期10話で槙島聖護が使用したものです(魏はこれを暗視機能の無いごく一般的な双眼鏡と勘違いしている)。 ※スタンドの存在を参加者だと思っています ※シャンバラの説明書が紛失している為、人を転移させる謎の物体という認識です。 ※シャンバラは長距離転移が一日に一度で尚且つランダム。短距離だとエネルギー消耗が激しいですが、通常通りに使用できます。 ※ブラックマリン・シャンバラ共に適正を持ち合わせており、特に後者については出典元であるアカメが斬る!での所持者・シュラと同等の高い適正を誇っています。 ※シャンバラの大まかな使用用途を理解しました(長距離制限には気付いてない)。 ※あらかじめ水源付近(H7北部の河川)にシャンバラでマーキングを行っています。 ※プロデューサーの首輪で黒たちの居場所が聞けたかどうかは次の方にお任せします。 【首輪交換BOX】 現実にあるATMに酷似したもの。 首輪投入口に首輪を入れれば、その価値に見合うだけの武器か情報を得ることができる。 ・タッチパネル式である。 ・サイズは、成人男性が一人で入れる程度。 ・首輪の価値を知るには、首輪を入れるしかない。入れた首輪は返ってこない。 ・情報交換を望む場合は赤のボタンを押しながら質問しなければならない。赤のボタンを離し終えた時が質問の終わりを意味するので、途中で質問を区切ることは不可能。 また、首輪の価値に釣りあわない情報を求めた場合はエラーと表示され、別の質問を要求・ 時系列順で読む Back:[[翔べない天使]] Next:[[いつも心に太陽を]] 投下順で読む Back:[[翔べない天使]] Next:[[いつも心に太陽を]] |111:[[インヴォーク]]|魏志軍||