092 *黒色の悲喜劇 ◆w9XRhrM3HU 「ひっ、な、何!?」 飛翔するイリヤの右足に一本のワイヤーが巻き付く。 黒から一刻も早く離れたい衝動と、不意の出来事によりイリヤは更に錯乱は増すばかりだ。 ワイヤーの主、黒はワイヤーを強く握ったまま契約能力を行使した。 電撃がワイヤーを伝い、イリヤの身体を流れていく。 「痛っ! や、やめて!!」 「何?」 電撃は加減されていた。 イリヤの錯乱を抑える為、黒はあくまで小学生女児が浴びても、意識を失う程度に能力を調節していたのだ。 しかし、ここで誤算が生じる。黒の認識は転身前のイリヤにしか当て嵌まらない。 今のイリヤはマジカルルビーの力を得て、転身した戦闘用の姿だ。当然、その耐久度も同じ年齢の子供とは比べ物にならない。 「やだっ、いやだっ!!」 「くっ……!」 電撃はイリヤの意識を奪うには至らず、いたずらに猜疑心を刺激しただけに過ぎない。 無我夢中で手のステッキを振るい、その先から放たれる魔力の衝撃波に黒はワイヤーの手を緩めた。 その隙に全身全霊を以って、イリヤはより高く上昇しワイヤーの射程外まで飛び上がる。 しかし、蓄積された疲労がイリヤの動きを阻害する。 イリヤの意に反して、上昇どころか落下してしまう。 そのまま、重力に従い地面に叩きつけられると転身が解除された。 「うっ、くぅ……」 身体を打ちつけた痛みに耐えながら、立ち上がろうとする。 今までルビーの忠告を無視し、転身を続けたツケをここにきて支払うことになった。 身体を支えようとする手足も小さく痙攣し、息も上がってくる。 それでも、イリヤの意識を繋ぎとめるのは恐怖心。近づいてくる黒の死神の足音。 猜疑心は今までのやり取りの中から、恐怖心へと変貌していった。 「あっ、あぁぁ……いや……」 『イリヤさん、落ち着いてイリヤさん!!』 ルビーの声がイリヤに届くことはない。イリヤの中により作られた空想の視点では、彼女は絶体絶命の危機にまで陥っているのだから。 黒が警戒しながら、それでもまだ敵意はなく、むしろイリヤの容態を伺っているのすらイリヤは気付きはしないだろう。 「た、助けて……戸塚さん」 「え?」 (戸塚を警戒していない?) 「イリヤ!!」 黒の足元に一本の矢が射られる。地に着き刺さった矢が光を帯て起爆する。 爆風から飛び出す黒に向かい、更に数本刀剣が投擲された。 バックステップでイリヤから離れ、黒はワイヤーで刀剣を纏めて巻きつけて勢いを殺す。 「大丈夫!? イリヤ!!」 その間に、クロエは倒れたイリヤの元へ駆け寄りイリヤを抱上げた。 イリヤは緊張の糸が切れたのか、一度安心しきった笑みを浮かべた。 「イリヤに何を……」 『ま、待って下さい。これは「あの人、殺し合いに乗ってるかもしれないの!」 ルビーの制止はクロエの耳に入ることはなかった。 イリヤの叫び声にかき消され、その誤解が解けぬままクロエは投影した弓矢を構えた。 「やるしかないってわけね。ここは引き受けたから先に逃げなさい」 「クロ……」 「早く、私もすぐ追いつくから!」 クロエの弓から、刀剣を更に変化させた数本の矢が連射される。 人の動きを超えた、機械染みた弓裁きは正確に黒へと狙いを定め、ただの一本も外さない。 黒は戸塚の首根っこを掴み、木に巻きつけたワイヤーで釣り上がる。 着弾した矢は爆発し、黒が居た場所を抉っていく。黒は爆風に煽られながらも着弾は避け、クロエの横方に回り込んだ。 クロエは弓を放り、両手に双剣を投影。一気に踏み込み、黒へ間合いを詰める。 「いたっ、……へ、黒さん!」 「イリヤを追え、あいつはお前を警戒していない。俺もすぐ行く」 「黒さん……」 戸塚を突き飛ばし指示を与えると、包丁を片手に黒も疾走する。 クロエの意識を引き付け、初撃の突きをいなし、斬りかかると見せて包丁の柄でクロエの頭を打つ。 フェイントを見切ったクロエは屈んでかわす。そして上体を起こす時、黒の顎下で双剣を交差させバツの字で振るう。 黒は空を見上げるように後方へ反り、紙一重で双剣を避け、そのままバク転で距離を取った。 (不味い、一人逃がした……早くコイツを倒してイリヤの元に……) 瞬間、視界が暗転する。 瞼を閉じたわけでもなく、クロエの視界が黒に染まっていた。 それは黒の着ていたコートだ。咄嗟にクロエに向かい投げたのだろう。 (コートは囮、本命は) クロエの耳には既に、コートに隠れ投擲された包丁の風を切る音が聞こえていた。 コートを避け、包丁を剣で叩き落す。 同時にワイヤーの収縮音がクロエの耳を撫でた。黒がクロエの眼前から消え、黒からすれば目の前、クロエからすれば背後の建物の窓へと飛び込んでいた。 弓矢を投影し、建物に狙いを付け射る。 建物そのものを消し飛ばすのは今のクロエの魔力量を考えるとあまり良策ではないが、黒が飛び込んだ部屋だけを消し飛ばすのであれば比較的燃費を抑えられる。 だが、爆風から飛び出した黒は更に隣接した別の建物の屋上へと飛び移っていた。 素早い。逃げ足、危機感知能力が非常に優れている。 一々狙撃していたところで、避けられ続けるのが関の山。クロエも高く跳躍し屋上へと乗り込む。 「水?」 クロエの着地地とその周辺にばら撒かれていたのは水。 黒が水に触れ、その目が赤く輝いた。 水を媒介にするのだから、恐らくは凍結か電撃系の攻撃だろうと当たりを付ける。 クロエは足をバネに上空へと飛び上がった。 「なっ!?」 だが、足に力を込めすぎた結果、水に足を取られ尻餅を付いてしまう。 「これ、ローションじゃない!」 次の瞬間、黒の手から電撃がローションを伝い流れた。 □ 「待ってよイリヤちゃん!」 イリヤに追いつくのはそう難しくはなかった。 運動神経抜群のイリヤではあるが所詮は転身なしでは普通の子供、テニス部で鍛えた戸塚の方が早い。 ましてや、疲弊しきったイリヤならば尚更だ。 腕を掴み、互いに息を切らしながら見つめ合う。 イリヤの顔は恐怖に塗られながらも、ある程度冷静だった。少なくとも戸塚に対し猜疑心はない。 落ち着いた声でイリヤは口を開く。 「戸塚さん……私……」 「イリヤちゃん、黒さんは悪い人じゃないんだ」 黒という名を出した瞬間、イリヤの顔が歪んだ。 これで確信を得た。イリヤは黒に対して異常な猜疑心を抱いているのだと。 理由は分からない。もしかしたら、精神的な病気なのかもしれない。とはいえ、このまま放っておくわけにも行かない。 戸塚は少し考えてから、意を決した。 「分かった。黒さんは人は信じなくていい。でも、僕は信じてくれないかな?」 今までお世話になりながら、何という言い草だろうと我ながら思ってしまうがイリヤの警戒を解かせるにはこれしかない。 イリヤも再び落ち着きを取り戻し、静かに頷いた。 (とはいえ、どうしよう? 情けないけど、正直僕一人でイリヤちゃんを守れるとは思えないし……) イリヤが戸塚を信じたのはいいが、これで黒との合流もこれでし辛くなった。 もう一度黒と会えばイリヤは再び錯乱する。 何とか黒にこの事を伝えつつ、黒の姿をイリヤに見せない方法を考えなければならない。 最悪、黒と別れ別行動を取ることも考慮に入れるべきだろう。 だが、戸塚に戦闘力はほぼ皆無だ。 殺し合いの中、イリヤを連れて二人だけで行動するのはあまりにも心許ない。 やはり、黒と合流するのが一番心強いが。 (駄目だ、人に頼ってばかりじゃ。何とか自衛の方法も考えないと) 「どうしたんだ? 女の子二人で」 不意に響いてきた男性の声。 振り向いてみると、甘いマスクに黒いコートの少年が居た。 女の子という呼ばれ方に不満を覚えたが、今の戸塚にそれを訂正するほどの余裕はない。 それよりも、何処か頼もしさのある少年に少し安堵感が沸いてしまっていた。 「俺はキリト、殺し合いには乗ってない。少し話を聞いていいかな?」 それから戸塚は今までの出来事を全てキリトと名乗る少年に伝えた。 イリヤが警戒する事柄は全て小声で話し、キリトは腕を組みながら思考に耽っていた。 「クロだ……。殺し合いに乗る奴じゃないと思うけど、間違いない」 「仲間なんですか?」 「知り合いだよ。別れ方はかなり悪かったけど。そのクロと黒って人が戦ってるのか」 「はい。さっきも言いましたけど、クロエさんって人は誤解してるんですよ」 「分かった。俺が行って止めてくる。 そうだ、廃教会にエンブリヲさんっていう人が居るんだ。 俺が帰るのを待ってる筈なんだけど、多分あの人なら力になってくれるかもしれない」 キリトは放送後、辺りの偵察に行ってくるとエンブリヲを廃教会に残し一人で行動していた。 それから時間はあまり経っていない。エンブリヲが止むを得ない状況に陥り、教会を離れる可能性は少ないだろう。 「分かりました。ありがとうございます」 「二人の事は俺に任せてくれ」 キリトはそう言うと黒とクロエの争っている戦場へと走っていく。 「イリヤちゃん、取り合えずそのエンブリヲさんって人に会わない?」 「でも私、田村さんに会いたい……」 『正直、田村さんがずっと学校に居るか分かりませんし、誰かに会って情報を仕入れるのも大事だと思いますよ。 色々予定はズレましたけど、クロエさんとも会えた訳ですし、焦りは良くないと思います』 「う、うん。分かった。でももう黒さんには会いたくないよ」 未だ猜疑心の解けないイリヤの手を戸塚が取りながら、二人と一本のステッキは廃教会へと向かった。 □ 「それで、イリヤが変に喚き出したってこと?」 「そうだ」 全身ローション塗れになったクロエが不機嫌気味に口を開く。 黒はそれを気にする素振りもなく、淡々と肯定する。 電撃を流されたクロエだが、それは一時的に痺らせる程度に加減したものだった。 その後、黒が今までの一部始終を話し、未だ怪訝そうな顔をしながらもクロエは一応の納得を見せた。 「少なくとも、私を殺すつもりは今はないみたいだしね」 シャワーを浴びる暇もなく、適当に民家から持ってきたタオルでローションを拭くが、いまいち気持ち悪さが取れない。 勘違いから戦闘を吹っ掛けたクロエが悪いが、せめて別の方法はなかったのか問い詰めたくなる。 「こんなものが役に立つとはな」 ペットボトルに入った謎の液体。これが黒の最後の支給品だった。 何を考えて、広川がこんなものを支給したのか分からないが、物事は何でも工夫次第ということだろう。 この点に関しては、あの後藤と同意見だ。 「まあいいわ。とにかく、イリヤを追わないと。 私が会って、イリヤと話すからアンタは隠れててよ? 何故か怪しまれてるんだから」 「ああ、分かってる」 クロエがローションをふき取るのを諦め、渋々タオルを放り出す。 そして話を纏め、二人がイリヤと戸塚の追跡を開始しようとした時、イリヤ達が向かった道からキリトが焦った表情で走ってくる。 「クロ、か? 戦ってたんじゃ」 「キリト? アンタ……」 「待ってくれ、言いたい事は分かってる。ただ俺は、クロの姉妹のイリヤって娘から話を聞いてここまで来たんだ」 モモカを殺害し、逃げたことでキリトへの信頼はなくなっていることはキリト自身良く分かっていた。 だが今はその事を言い合う場合ではない事をキリトはクロエに言い、イリヤと出会った事をクロエに伝えた。 「今は廃教会に居るはずだ。エンブリヲさんも居るはずだし、安全だろ」 「エンブリヲ……? エンブリヲですって!」 「ああ、そうか……。とにかく話を聞いてくれ、駅のあれ、実はタスクって奴の罠なんだ」 クロエは決してキリトに好感を持ってはいないが、殺し合いに否定的であるとは思っている。 故にモモカ殺害に関して責める前に話を聞いていたが、途中から聞くのが馬鹿らしくなってしまった。 「それ、本当に信じたの?」 「当たり前だ! エンブリヲさんは俺を立ち直らせてくれたんだ! 例え、NPCでも!」 「何よ、NPCって何? だから、モモカを殺したのも許されるって事?」 「それは……。でも、とにかくあの二人は安全な場所に居るのは間違いない。それだけは保障できる」 ヒルダの話では、エンブリヲは女をたらし込んでヤリ捨てる。最低最悪のナルシストだとクロエは聞いていた。 イリヤもそこまで股の緩い女ではない、そもそもそんな年齢ではないが、更に性質の悪いことにエンブリヲはレイパーでもあるという。 あの疲労したイリヤがそんな男の手に渡るなど、考えたくもない。 「ふざけたことしてくれたわね、この馬鹿ッ!」 「何だよ……。そんなに信じられないなら、エンブリヲさんと直接話せよ」 「言われなくてもそうするわ!」 キリトとの話を打ち切り、クロエは全速で駆け出した。 □ 「あぁぁ……ん……!!」 「な、何これ……」 戸塚とイリヤの身体に今まで感じたことのない快感が走る。 廃教会に着いた二人はエンブリヲと合流し、その紳士的な態度に警戒を解いていた。 だが突如二人に触れたかと思うと、エンブリヲは変貌した。 「君たちの感度を50倍にさせてもらったよ」 その眼は野獣、口も釣り上がり、獲物の前で舌なめずりを行う肉食獣のように変わる。 エンブリヲの今までの紳士な態度は幻のように消えた。 醜悪な笑みを浮かべたまま、エンブリヲは戸塚の首の下を優しく撫でる。 それすらも快感に変化し、戸塚は股間を押さえながら悶えてしまう。 悶える動作もまた服が擦れ、新たなる快感を生み出し更に身体を敏感にする。 「っあ、ぁ……く……」 「フフ、中々辛抱強いじゃないか。……それに比べ、君はいけない娘だね、イリヤ?」 戸塚に比べ、最早イリヤは立つことも出来ず涙目で足を震わせながら脂汗を流していた 口から漏れる嬌声は小学生とは思えぬ濃厚な艶かしさを醸し出す。 脂汗でぺったりと濡れた夏服は、イリヤの未発達な肢体を余すことなく強調する。 「余程、感じているらしいね。服を全て脱いだらどうだろう? 摩擦による快感はなくなるはずだ」 『マスターいじりは私の生きがいといってもやりすぎですよこれは!』 「うるさい」 『んほぉおおおっ!!! 』 飛び掛ったルビーの感度を50倍にする。絶頂しながら、ルビーは地べたに転がってよがり狂う。 イリヤの手が服を掴み布が擦れる音を立てながら、キャミソールを脱いだ。 シャツの上から圧迫していたキャミソールが消えたことで、快感は僅かに薄まったがそれだけでは足りなかった。 「まだ一枚しか脱いでいないよイリヤ?」 シャツを脱ごうとして、僅かに残る理性が羞恥を思い出させる。 脱いで快感から逃れたところで、今度はエンブリヲにその生まれたままの裸体を視姦されるのだ。 気持ち悪い。屈辱的だ。だが、理性すら吹き飛ばさん快感の波がイリヤを襲う。 「やああぁぁぁっ、んっ、いっ、く……!」 どちらにしろ、男を悦ばせる事に変わりはない。裸体であろうとも、快感によがり悶えるのも、エンブリヲからすればどちらでも良い。 イリヤの次の行動を今か今かと待ちかねているエンブリヲの頬を光弾が過ぎる。 頬に一筋の赤い線が浮かび、痛みが伝わる。 「は、離れ……て……」 「やれやれ、彩加。危ないな、そんな銃を持っていたとは。 やはり、君からお仕置きをするべきかな?」 瞬間移動で戸塚の背後を取ったエンブリヲがパンプキンを取り上げ、戸塚を押し倒す。 既にエンブリヲの局部は再生を完全に終え、服の上からでも分かるほどそそり立っていた。 目を見開き、戸塚の服を眼光で脱がそうとしたとき、違和感に気付く。 「………………まさか、君は、男……」 ほぼ零距離の至近距離だからこそ気付いた。 戸塚彩加は男だということに。 エンブリヲは男に見惚れ、抱こうとしたのだと。 「馬鹿な、有り得ない……。そんな、私が選んだ女性が男だと……?」 女性の扱いに関して絶対の自信があったエンブリヲからすれば、屈辱以外の何物でもない。 男という不浄の存在を、よもや抱こうとしたなど調律者としてあってはならない愚行だ。 「……違う。私が間違っていたのではない。 君の性別が間違っているのだよ彩加。そうだ、私が君を女性へと作り直そう」 自らの過ちを否定するように、エンブリヲはガイアファンデーションを取り出した。 ガイアファンデーションの姿を変える能力と、エンブリヲの力を組み合わせれば戸塚を性転換させるのも容易いかもしれない。 容姿だけは完璧なのだ。残るは身体だけだ。 姿を変える能力で戸塚を女にし、それをエンブリヲの力で定着させれば性転換手術は終了だ。 「や、やめて……」 「待っていてくれ、すぐに私が愛せる身体へと―――おや?」 「イリヤ!」 「戸塚!」 廃教会のドアが蹴破られ、クロエと黒が同時に剣とワイヤーをエンブリヲへと放つ。 エンブリヲは戸塚を抱いたまま、姿を消し、剣とワイヤーは空を切り、エンブリヲを捉えないまま後方へと移動した。 「ふむ、邪魔が入ったね。教会で私と愛を結ぶというのは中々風情があると思ったのだが」 「お前が、エンブリヲか」 「ク、ロ……?」 「ど、どうしたのよそれ」 顔を火照らせ、目は蕩けながら、胸と股を抑えるイリヤ。 その姿は女性のちょっとした行為中を思い起こさせる。 クロエも知識はあるが、よもやイリヤのそのような姿を見るとは思いも寄らない。 「んっ、ふっあ……やぁ……見ない、でぇ……」 明らかに肉体の異常だ。 痛覚の共有の魔術も存在するのだ。人の快感を弄る術があってもおかしくはない。 「エンブリヲさん、これは一体……」 「ありがとう、キリト君。このような美しい女性を二人、いや二人になる予定か。 ともかく、君には感謝しているよ」 「そ、そんな……NPCが裏切るはずは……」 本来、決まった行動しか取らないはずのNPCがこのような暴挙に出るなど考えづらい。 いやそうプログラムされたNPCなのか? 「俺は、あの娘を本当に殺したのか……」 苦悶の表情を浮かべ、死んでいったモモカの姿が脳裏に蘇る。 そもそも、何故NPCが存在すると思った? アバターに差がある? SAOでもそうだったが、プレイヤーの実力によって差が生まれるのは当然だ。差があるからNPCなど馬鹿げてる。 元からNPCなど存在していないのでは。 「三対一、か。クロエと言ったかな? 君も迎えたいのだが、流石に分が悪い。 ここはイリヤと彩加の二人を先に迎えてから、君も後で堕としてあげよう」 「ふざけないで! この変態ナルシスト!!」 クロエが剣を投影し躍りかかるが、エンブリヲは余裕を崩さない。 剣は空を切り、再びエンブリヲは消える。今までのように姿を現すことはなく、もう二度とその姿を見せない。 見れば、イリヤと戸塚の姿もない。 教会にはクロエ、キリト、黒の三人だけが残った。 「逃がした……? イリヤ? イリヤ!」 エンブリヲの逃亡を許したという事実を認識した時、クロエはイリヤの名前を叫んだ。 もしかしたら、まだ近くに居るかも知れないという淡い希望を持ってだ。 だが、クロエの声が木霊するだけで、イリヤの声は何処からも響かない。 「嘘だろ、エンブリヲさん……嘘だろッ!」 裏切るように設定されたNPC。そう片付けるのは簡単だ。 だが、違う。キリトは既にこれがゲームでない事に気付いてしまった。 「俺が、本当に人を殺して……俺のせいで女の子がまた二人……」 今までは逃避の為にゲームだと思い込んでいた。 しかし、その逃避も限界が来た。元々、こんな逃避が長く続くはずがなかった。 キリトはそこまで現実逃避するほど弱くもなければ、自分を騙し続けられるほど強くもない。 エンブリヲの本性を見ずとも、キリトは近いうちに現実に気付いただろう。 それが、人を再び殺める前だったのは幸運だったのかもしれない。 「俺のせいで……俺の……」 「何で、あんな変態に……アンタさえ居なければ……!」 今にもクロエはキリトを殺しに掛かりそうな程、顔を歪めていた。 そのまま、キリトの胸倉を掴み、顔面に拳を叩き込む。 行き場のない怒りを拳に込めて何度も殴り続ける。 (痛くない……全然、痛くない……) 痛ければ、どれだけマシだったか。少なくとも、その時だけは苦痛という苦しみに逃げていられる。 苦痛という断罪を受けているという安心感がある。 だがアバターの身体はそれすら許さない。 「止めろ」 「離しなさい、この―――」 「黙れ!」 黒がクロエの手を止め、その頬を平手で打つ。 頬が赤く染まり、力が抜けたのかクロエは尻餅を付いた。 「コイツを殴る前に、奴を追うのが先だ」 「……」 淡々と述べてから黒はディバックを背負い直し教会のドアへと向かっていく。 クロエも頬を抑えながら、一度キリトを強く睨んでその後に続いた。 「どうすれば、いいんだ俺は……」 本当なら、あの二人の後に着いて行きエンブリヲから少女達を救いたい。 だが、ここに来てから、やること為すことが全てが裏目になる。 仮にあの二人に続いたところで、また何かをしてしまうんじゃないかと自分自身を信じられない。 それに、最後に見せたクロエの目をキリトは忘れることが出来なかった。 全てがキリトのせいではないだろう。黒に襲い掛かってしまったクロエ、そして無力なイリヤと戸塚を先に行かせた二人にも判断ミスがある。 けれど、もしキリトが現実を見て、エンブリヲに騙されていなければ……。この事態が起こらなかったのは事実だ。 「クソッ……」 無力さに打ちひしがれながら、キリトは床を叩いた。 【F-6 廃教会/1日目/朝】 【黒@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】 [状態]:疲労(中)、右腕に刺し傷 [装備]:黒のワイヤー@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、包丁@現地調達×3 [道具]:基本支給品、完二のシャドウが出したローション@PERSONA4 the Animation [思考] 基本:殺し合いから脱出する。 0:エンブリヲを追う。 1:銀や戸塚の知り合いを探しながら地獄門へ向かう。銀優先。 2:後藤、槙島を警戒。 3:魏志軍を殺す。 4:イリヤの変化に疑問。 [備考] ※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『サイコパス』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。 ※戸塚の知り合いの名前と容姿を聞きました。 ※イリヤと情報交換しました。 【クロエ・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】 [状態]:健康、焦り [装備]:なし [道具]:デイパック×2 基本支給品×2 不明支給品1~3 サイドカー@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 [思考] 基本:イリヤを守る。 1:エンブリヲ追って、イリヤを絶対に助ける。 2:魔力の補給についてどうにかしたい。 3;キリトには……。 [備考] ※参戦時期は2wei!終了以降。 ※ヒルダの知り合いの情報を得ました。 ※クロスアンジュ世界の情報を得ました。 ※平行世界の存在をほぼ確信しました。 【キリト@ソードアート・オンライン】 [状態]:HP残り5割程度、魔力残り4割 、自信喪失 [装備]:一斬必殺村雨@アカメが斬る! [道具]:デイパック 基本支給品、未確認支給品0~2(刀剣類ではない) [思考] 基本:…… 1:…… [備考] 名簿を見ていません 登場時期はキャリバー編直前。アバターはALOのスプリガンの物。 ステータスはリセット前でスキルはSAOの物も使用可能(二刀流など) 生身の肉体は主催が管理しており、HPゼロになったら殺される状態です。 四肢欠損などのダメージは数分で回復しますが、HPは一定時間の睡眠か回復アイテム以外では回復しません。 GGOのスキル(銃弾に対する予測線など)はありません。 ※村雨の適合者ではないため、人を斬ってその効果を発揮していくたびに大きく消耗していきます。 魔力から優先して消耗し、もし魔力が尽きればHPを消耗していくでしょう。 【F-6/1日目/朝】 【エンブリヲ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】 [状態]:疲労(極大)、服を着た、右腕(再生済み)、局部(完全再生) [装備]:FN Five-seveN@ソードアート・オンライン [道具]:ガイアファンデーション@アカメが斬る!、基本支給品×2 [思考・行動] 基本方針:アンジュを手に入れる。 0:イリヤと戸塚を浄化する。戸塚は女にする。 1:悠のペルソナを詳しく調べ、手駒にする。 2:舞台を整えてから、改めてアンジュを迎えに行く。 3:タスク、ブラッドレイを殺す。 4:サリアと合流し、戦力を整える。 5:タスクの悪評をたっぷり流す。 6:クロエもいずれ手に入れる。 [備考] ※出せる分身は二体まで。本体から100m以上離れると消える。本体と思考を共有する。 分身が受けたダメージは本体には影響はないが、殺害されると次に出せるまで半日ほど時間が必要。 ※瞬間移動は長距離は不可能、連続で多用しながらの移動は可能。ですが滅茶苦茶疲れます。 ※能力で洗脳可能なのはモモカのみです。 ※感度50倍の能力はエンブリヲからある程度距離を取ると解除されます。 【鳴上悠@PERSONA4 the Animation】 [状態]:失神、全裸、疲労(絶大) [装備]:なし [道具]:なし [思考・行動] 基本方針:仲間と合流して殺し合いをやめさせる。 0:………… 1:エンブリヲから逃げる。 [備考] ※登場時期は17話後。現在使用可能と判明しているペルソナはイザナギ、ジャックランタン。 ※ペルソナチェンジにも多少の消耗があります。 【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】 [状態]:疲労(大 倒れる寸前) 『心裡掌握』下 、美遊が死んだ悲しみ、黒に猜疑心、感度50倍 [装備]:カレイドステッキ・マジカルルビー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ(感度50倍) DIOのエキスが染みこんだイリヤのハンカチ DIOのサークレット [道具]:ディパック×1 基本支給品×1 クラスカード『ランサー』@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 不明支給品0~1 美少女聖騎士プリティ・サリアンセット@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 [思考] 基本:クロと合流しゲームを脱出する。 0:エンブリヲから逃げたい。 1:クロとの合流。 2:音ノ木坂学園に向かう。 3:田村、真姫を探し同行させてもらう。 4:花京院、、新一、サリアを探して協力する。 5:南下して美遊とクロに会えなければ図書館に向かう。 6:黒に猜疑心。もう会いたくない。 7:美遊……。 【心裡掌握による洗脳】 ※トリガー型 5/8時間経過 『アヴドゥル・ジョセフ・承太郎を名乗る者に遭遇した瞬間、DIOの記憶を喪失する』 『イリヤ自身が「放置すれば死に至る」と認識する傷を負った者を見つけた場合、最善の殺傷手段で攻撃する』 ※常時発動型 3/6時間経過 『ルビーの制止・忠告を当たり障りのない言葉に誤認し、それを他者に指摘された時相手に対し強い猜疑心を持つ』 [備考] ※参戦時期は2wei!の調理実習終了後。 ※『カレイドルビー』の制限は、自立行動禁止、引き出せる魔力の絶対量低下。 ※『カレイドルビー』には、誰でも使える改造が施されており、さらに吸血鬼の血を吸った事で何がしかの不具合が起きているようです。 ※アカメ達と参加者の情報を交換しました。 ※黒達と情報交換しました。 【戸塚彩加@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】 [状態]:疲労(中)、黒への信頼 、八幡を失った悲しみ、感度50倍 [装備]:浪漫砲台 / パンプキン@アカメが斬る! [道具]:基本支給品、各世界の書籍×5、不明支給品0~1 [思考] 基本:殺し合いはしたくない。 0:エンブリヲから逃げたい。 1:八幡達を探しながら地獄門へ向かう。 2:雪乃達と会いたい。 3:八幡の変わりに雪乃と結衣を死なせない。 4:イリヤちゃん一体どうして…… 5:黒さん…… 時系列順で読む Back:[[足立透の憂鬱]] Next:[[STRENGTH -世界-]] 投下順で読む Back:[[汚れちまった悲しみに]] Next:[[STRENGTH -世界-]] |063:[[サイコパス見し、酔いもせず…]]|戸塚彩加|| |~|黒|| |~|イリヤスフィール・フォン・アインツベルン|| |074:[[いろとりどりのセカイ]]|クロエ・フォン・アインツベルン|| |062:[[マッド・スプリクト]]|エンブリヲ|| |~|鳴上悠|| |~|キリト||