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あたしは殺しだってやってやる - (2015/05/18 (月) 00:19:07) のソース

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*あたしは殺しだってやってやる◆BEQBTq4Ltk


タツミは状況をいち早く理解した。

「俺は殺し合いをさせられている……!」

当然である。
自分の帝具であるインクルシオが手元にない。
完全に後手に回っている。あの広川と名乗った男はどうやらデキる人間らしい。
裏の世界に踏み込み経験を積んできたタツミでも拉致には気づかなかった。

名簿を見るとアカメも参加させられているようだ。
任務の可能性もあったが流石に聞かされているだろう。
他にもエスデスを始めとするイェーガーズの名前も乗っていた。
彼女達の名前が在ることに疑問を覚えるが気にしていても仕方が無い。

悪である広川を斬りこの場から脱出することが大切だ。
その過程イェーガーズ達と衝突する可能性もあるが遅かれ早かれなことに変わりない。
最も正義を振り翳す彼女達とは運が良ければ協力出来るかもしれない。

彼女達も巻き込まれているのか、それともナイトレイドを狩るための作戦なのか。
だどしたら何故自分とアカメだけなのか、イェーガーズは全戦力を注ぎ込まないのか。
帝具を押収している時点で自分達を殺せるのではないか。
読めない。全く以って広川の考えを読むことが出来ない。

自分が置かれている状況と現時点の情報を噛み合わせる。
アカメとの合流を考えるべきだが何処に居るかが解らない。
広川を殺すべきだが何処に居るかが解らない。

「……とりあえず歩くか」

方針は定まるが過程に対して明確な答えは出ない、出るはずがない。
今出来る事は足を動かすことだけだ。

危険人物に遭う可能性もあるがそれは仕方が無い。
ナイトレイドとイェーガーズが参加しているのだ、他の参加者も碌でもない人間なのだろう。
決して天国には招かれない闇の住人が蔓延っていると考えれば……殺す側の気持ちも少しは楽になる。 


殺す側の気持ち。
創られた顔で真実を隠すように、隠すように、隠すように。


「ねぇ、私はどうすればいいと思う……思いますか?」


前方に現れた少女は尋ねてきた。
蒼い髪と鎧に白いマントは正義の戦士を連想させる。
それに似合わない程の黒い表情が気になるが。
タツミは質問の中身に戸惑いながらも取り敢えず返した。

「どうすればって……どうしたい?」

「願いを叶えるにはどうすればいいの」

少女の顔は暗い。
見た目から察するに年はまだ十代。そんな少女が尋ねてきたのだ、願いを叶える方法を。
本来ならば努力だの何なの答えるべきだろうが一つの言葉が脳裏をよぎる。
最後の一人になれば願いが叶う――広川が言った言葉だ。
信じればそのとおりだろうが――まさか。
タツミの表情が変わる。この少女はもしかすると――乗っている。

「あたしはさ、ただ治って欲しかった。もう一度バイオリンを演奏出来るようになってもらえばよかったの」

少女は一人空を見上げ、円を描くように歩き独吐を始めた。

「願いは叶った、でもその代わりあたしは絶望にドーン……って堕ちたの。
 恭介は仁美とで、あたしは死なないように魔女を狩る、でもこの身体は死んでいるの……わかる?」

「いや、解らない……君が願いを叶えたことも絶望に堕ちたことも俺は知らない」

「はは……だよねー。それでさ、願いを叶えるチャンスがもう一度巡ってきたの」

足を止めて振り返る少女。
その瞳には若干の潤いを灯しており、先程まで泣いていたことが伺える。
彼女がどんな人生を送ってきたかは知らないがそれなりの惨劇があったのか。
だがそれを考慮しても彼女の思考は許せはしないだろう。
仮に違ったとしても彼女は願いのために人を殺そうとしている。

「願いを叶えるために人を殺すってのか?」

「待っていれば警察が来るかもしれない。そうしたら広川は逮捕される。
 でも人間に出来るのはそれまででしょ? あたしが何人か殺しても証明する証拠がないワケ。
 だから責任は全部広川に取って貰うの。願いが叶うのは嘘かもしれないけどあたしは一度奇跡を体験してるからね、信じる」

確定だ。
目の前の少女は殺し合いを肯定した。
それも責任を総て他人に押し付け自分を正当化した悪党が行う外道の道を歩むつもりだ。

ならばどうする。
普通なら止めるだろう。
青臭い言葉を投げて相手の感性に訴えかける。
道を踏み外す前に正当な光が当たる世界へ再び引き摺り込もうとするだろう。

「そうか……なら、俺はお前が誰かを殺す前に殺すッ!」

「――!?」

巨大な斧を取り出したタツミはそのまま少女の元へ駆ける。
優しい言葉ではなく強く決意の籠もった言葉は死刑宣告と変わらない。
彼は多くの人間を殺してきた。
それは世界のため、謂わば平和のために、弱者のために戦ってきた。

「お前みたいな奴は誰かを不幸にする! その前に俺が引導を渡してやる!」

「信じられないッ……ちょっとは慰めてもさッ!」

それは修羅の道。
美化される話ではなく人殺しが罪なのは変わりなくタツミも自覚している。
自分は死ねば天国へは行かず碌でもない地獄に堕ちることも受け入れているのだ。
今更一人の少女――悪人を殺したところで何も変わらない。

跳躍し切断せんと斧を振るうタツミ。
その行動と現実に毒を吐きながらも少女は応戦する。
美樹さやかは魔法で剣を精製すると上空から迫る斧の一撃を防ぐため横に構えた。 


振り下ろされた一撃を受け止めるさやかだが細い剣では限界が生じる。
数秒も経たずに斧は剣を斬り裂き大地に突き刺さった。
冷や汗をかくさやかだが黙っているわけにも行かず、後退し体勢を整える。

再度剣を精製しタツミを睨む。

「あたしを殺すつもりなんだ」

「お前を放置していたら誰かを殺す……タツミって男はそんな奴を見逃す程甘くねえ」

タツミに揺さぶりを掛けてみたが意味は無いようだ。
揺れる天秤のように曖昧な心情なら隙を作れると思ったが彼の精神は完成しているらしい。
自分のような脆い心とは違い……剣を握る手に力を込める。
タツミは腰を落とし斧を力強く握ると一歩踏み出し腕を振るった。

「オラァ!!」

全力で投擲された斧は大きく風を切る音を響かせた。
螺旋のように回転を重ね対象へ――美樹さやかを殺すために迫っている。

之に対し防ぐことを諦めたさやかは剣を一度下し斧を見つめる。
一度深く呼吸を行い、間を開けた後、目を見開き己の身体を動かす。
自ら斧に近づくとそれを掻い潜るように重心を下へずらし更に足を踏み出す。

彼女の耳元を斧が通り過ぎ美しい蒼い髪が宙を舞う。
しかし彼女自身に傷はなく、斧は明後日の方向へ飛んでいってしまった。

本来の彼女の動体視力では斧を躱すことは不可能である。
それを可能にするのが魔法であり彼女達魔法少女の特権だ。
動体視力を魔力によって強化した彼女の能力は人間を超える。

斧が無いタツミは無防備であり斬るには障害が無い。
この手で人を殺すには躊躇いが有るがそうは言っていられなのだ。
このままではソウルジェムが濁りやがては魔女になってしまう。
自分が死んでしまう。その前に願いを叶え元の少女へ戻る、それが美樹さやかの願いだ。

叶えるためには甘さを捨てる。その一歩がタツミを殺すこと。
走りだした思いは誰にも止められない/止めてくれない。

剣を構え首を刎ねるように振るおうとするさやかだがタツミは微動だにしない。
違和感を覚えるが死を前に動けなくなったのだろう。
ならば構っている必要もなく瞳を閉じる。

人を殺す瞬間は見たくない。
甘さを捨てるつもりだがどうも現実を受け入れる覚悟が追いついていないようだ。
その甘さが彼女であり、死を招く結果となる。

そのまま剣を振るっていればタツミは死んでいただろう。
少しの躊躇いが勝敗を決定付けたのだ、甘さを捨てれば勝っていたものを。
気付けば美樹さやかの背中には斧が刺さっている。
前にタツミが投擲した斧である。

「な、なんで……?」

斧は躱した、後ろへ飛んで行った、近くには誰もいない、斧を投げる人間は存在しない。
何故自分に斧が飛んできたのか、理解が出来ない。
大地に倒れこんださやかは痛みに顔を歪めながらタツミを見上げた。

「二挺大斧ベルヴァーク……投げた後は勢いが死なない限り相手を追尾する帝具だ。
 躱して油断したお前が悪い、それが敗因だ。願いを夢見てそのまま眠っていやがれ」 



二挺大斧ベルヴァーク。
美樹さやかは知らないだろうが斧の帝具である。
能力はタツミが言った通り投擲されれば勢いが死ぬまで相手を追尾する地獄の大斧。
二つに分離することも可能であり、単純な力技で絶大な力を発揮する帝具である。

タツミは嘗てこの帝具に苦しめられていた。
何の因果か彼に支給されたのは広川の嫌がらせなのだろうか。
初めは舌打ちをし、怒りに震えていたが結果として武器が手に入ったことは喜ぶべきだろう。
現に美樹さやかを倒すことに成功した。武器がなければ殺されていたのは自分だ。

「そ、んなの……しらな……っ…………」

最後の言葉は呆気無い。
創作のように誰もが劇的に、ドラマチックに死ねる訳ではない。
美樹さやかは己の人生の終幕に何の感想も得ずに息を引き取ったとタツミは認識した。

美樹さやかの背中に突き刺さるベルヴァークを回収する。
彼女の身体に触れると暖かく、少し前まで生を授かっていた事を実感する。
呼吸はしておらず絶命している。死因は斧であり犯人はタツミだ。

しかし今更一人殺した程度で彼の信念は揺らがない。

悪を殺す。

彼は斧をバッグに仕舞い込み、歩き出す。
この世総ての悪を殺すまで彼に平穏は訪れない。



【G-8/一日目/深夜】



【タツミ@アカメが斬る!】
[状態]:健康
[装備]:二挺大斧ベルヴァーク@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:悪を殺して帰還する。
1:アカメと合流する。
2:悪を斬る。
3:信頼出来る仲間を集める。
[備考]
※参戦時期は不明。
※美樹さやかを殺したと思っています。

【二挺大斧ベルヴァーク@アカメが斬る!」
 巨大な斧の帝具。一度投げられれば勢いが死ぬまで相手を追尾し続ける。
 二つに分離することも可能。タツミはさやか戦では分離した状態で扱っていた。 



魔法少女とは少女が憧れる夢のような存在だ。
キラキラでるんるんでフリフリでキュアキュアな魔法少女。
悪を倒し人々に平和を与え希望を振り撒く正義の味方。

魔法少女とは人々に不幸をばら撒く可哀想な存在だ。
願いを叶えたが故に絶望をその身に引き受ける残念な存在。

美樹さやかは愛する人の幸福を祈った。
けれど彼女が手に入れたのは絶望だった。

「あたしは……死ねない……」

魔法少女の身体は外付けのような物。
本体とも呼べる魂の拠り所はソウルジェムにある。
宝石が砕けない限り彼女達はゾンビのように死ねずに戦う。

「あたしは……死なない……」

死ねない、死なない、死ぬわけにはいかない。
美樹さやかはもう一度普通の少女に戻り日常を取り戻す。
その為にはこんなところで死ねる筈がないのだ。

血反吐を吐きながら大地を這い蹲る。
醜くてもいい、生きてやる、生きていれば先がある。
掴め、この手で幸せを勝ち取ってやる、主役はあたしだ。



もう一度願いを叶えるチャンスがあるってんなら、あたしは殺しだってやってやる。



【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:背中に裂傷(再生中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ソウルジェム(穢:中)、グリーフシード×3@魔法少女まどか☆マギカ
[思考]
基本:どんな手を使ってでも願いを叶える。
0:願いを叶えて普通の少女へ戻る。
1:傷を回復する。
2:出会った弱い人間は殺す。強い人間には協力する素振りを見せる。
[備考]
※参戦時期は魔女化前。 

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