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圧倒的な力、絶対的な恐怖 - (2021/09/08 (水) 22:25:45) のソース
*圧倒的な力、絶対的な恐怖 ◆Xbtp/256QU 「服は、これでいいよね」 彼女は静かに、店を出る。 彼女、朝倉涼子は民家を出てからは、街を歩き続けた。 そして幸運にも歩き始めてすぐに、女性向けのブティックを見つけた。 ここなら、代えの衣服はいくらでもある。 案の定、自分のサイズに合う服はすぐに見つかった。 彼女はとにかく制服のイメージを大きく変えるために、白のクラシックパンツと水色のブラウスを選択した。 その上には、先ほどの民家で手に入れた漆黒のコートを着込む。中に編みこんだ髪は防具の役割を果たすからだ。 本来の彼女なら、もっと素晴らしいコーディネートを見せてくれただろうが、今の彼女にはそんな余裕は無い。 服選びに時間を割く、心理的余裕を彼女は無くしていた。 「早く、誰か助けてくれる人にっ!」 彼女は焦っていた。 一刻も早く、自分を護衛してくれる人を見つけたかった。 死への恐怖、今までに無い感情に、かつての氷のような冷静さは、失われつつあった。 「あと十分」 吸血鬼アーカードは、時計を一目見て呟く。 二回目の放送までの残り時間。 ほとんどの参加者は、放送を気にして動きを止めるだろう。 アーカードも、獲物が見つかる可能性が低いのに、太陽の下を歩く気にはならなかった。 そのため、適当な建物を見つけ、中で放送が終わるまで待つことにした。 だが、その必要はすぐに無くなった。 窓越しに見える、反対側の店のショーウインドウが鏡の役割を果たし、そこに人影が映し出された。 「獲物!怪物か、それとも逃げるだけの狗か、先ほどのような殺し屋か?」 アーカードは、外へ向かう。 狩りへの出発だ。 「人間、私を倒してみろ!」 突然、目の前の壁が突き破られた。 少女の前に男が現れる。 獲物を見つけ、直射日光の最中にも関わらず飛び出した吸血鬼。 目は、新たなる闘争への喜びで輝いて見えた。 「ひっ!?」 少女は怯えた。 だけど怯えつつも、かろうじて残っている直感で全てを感じ取った。 この男は自分を『護衛』してくれる優しい男ではないと。 むしろ、獲物を狙い『狩る』ことしか考えていないと。 ――逃げないと―― 少女は思った。 逃げないと死ぬと。 でも…足は震えて動かない。 目の前の男に対する恐怖は、機動力を奪った。 少女は必死で考える。 逃げると言う選択肢を失った今、何をすべきか。 あらゆる考えが、浮かんでは消えた。 その無数の案の中で、最もシンプルな選択肢が残った。 右手に持つ鎖鎌を一目、見る。 そして、一番勇気の要る選択肢を、採用した。 少女は勇気を振り絞った。 「…うっ…えいっ!」 意を決して鎖鎌の分銅を、男の頭部めがけて投げる。 自分と男の距離は、わずか三メートル。 強化された分銅は、男の頭蓋骨を砕き、脳漿をぶちまけ、彼女は勝利を収めるはずだった。 仮に分銅が急所を外しても、当たりさえすればひるんだ隙に、相手の首を鋭さを増した鎌で切り裂き、やはり彼女は勝利を手にするはずだった。 そして彼女は死の恐怖に怯える、無力な少女ではない。 かつて、キョンに対し笑顔でナイフを向けた、このゲームでもピンク髪の少女の爪を笑顔で剥ぎ、笑顔で男二人の首を刈った、 笑顔が似合う、死を呼ぶ天使の朝倉涼子に、彼女は戻るはずだった。 だった。 そのはずだった。 「どうした、ヒューマン」 理想と現実は大きく食い違った。 上半身だけの手投げ、かつての殺人的勢いは分銅には無かった。 男はあっさりと、そして当然のごとく、左手一本で分銅を掴み取ってしまった。 そしてそのまま、鎖を引っ張る。 「うっ、くっ…う」 彼女も必死で鎌を、握り締める。 鎌を渡すまいと、両手で全力で、力強く握り締める。 両手は強く汗ばんでいた。 恐怖で、体は震えていた。 でも、絶対に手放せなかった。 今の彼女には、これ以外の武器が無かった。 これは彼女の強さを保つ唯一の術だった。 しかし現実は少女に対し、ことごとく残酷に進む。 「弱すぎるぞ、女!」 「きゃっ!」 男の怪力は、少女のそれを遥かに凌駕した。 鎖鎌を放さなかった少女は、自分の体ごと引っ張り上げられた。 ――うそ!―― 少女は体に浮遊感を感じる。 かつてない感覚。 周囲の全てが、スローモーションで見えた。 ただその中で、自分の体は…流されるだけだった。 「HAHAHAHAHA、チェックメイトだ人間!!」 銃弾を失った銃、ジャッカル。 その銃身を男アーカードは右手で握り締め、鎌を握り締めたまま宙を舞う少女朝倉涼子の腹部へと叩きつける。 銃弾を失ってなお、ジャッカルは猛威を奮い続けた。 「ぐっ…はっ……」 血を吐いて、少女は倒れる。 唯一の武器も、少女の手から離れた。 その武器は、男の左手に収まった。 「死んでないのか、素晴らしいしぶとさだ、ヒューマン」 普通なら背骨が砕け散り、致命傷となるはずだった。 しかし幸運にもジャッカルを叩き込んだ位置は、彼女が事前に服に仕込んだ硬質化した髪と同位置だった。 彼女はまだ意識があった。腹部への激しい激痛を伴いながら。 「うっ、うう」 腹を押さえもだえ苦しむ少女、男はそんな少女に向けて、鎌を振り上げた。 ゆっくりと、だが高く、鎌は振り上げられた。 「うう…ひっ!いやっ!お願いっやめてっ!」 少女の目に、高く振り上げられた鎌が映る。 彼女の恐怖は最高潮に達した。 自ら切れ味を強化させた鎌、あれを振り下ろされたらどうなるかは、本人が一番よく知っている。 「やめてっ!…うっうっうう」 少女の声は涙声に変わる。 目からは涙があふれ出る。 手で顔を押さえる。 男の絶大な力の前に、少女のプライドは崩壊した。 「……」 男は無言で、一瞬動きを止めた。 「…えっ!?」 男の動きが止まった、少女の恐怖がほんの少しだけ和らぐ。 ――助けてくれるの?―― 少女は期待した。 このまま自分を見逃してくれることを。 もしかしたら、無力な自分を『保護』してくれるかもしれないことを。 助けてくれることを。 「弱すぎる」 男の声と共に、少女の淡い期待は打ち消された。 そして次の瞬間、鎌は勢い良く振り下ろされた。 一度静止した分、力が込められていた。 狙いは、少女の… 「ひいぃぃぃっ!」 鎌は少女の顔と一センチも離れていない、路上の硬いアスファルトに鎌が深々と突き刺さった。 大きな音を立てて。 連戦によるダメージの蓄積が、手元をわずかに狂わせたのか。 少女の汗で湿った鎌の柄が、男の手を滑らせたのか。 それとも…… だがその一撃は、少女の心に絶大な恐怖を刻み付けた。 彼女は生まれて初めて、悲鳴を上げた。 そして彼女の意識は、恐怖が精神の限界を超過して、遮断された。 「つまらない、失望したぞ女!」 男は失望した、とても強く。 意識を失った少女に、罵声を浴びせるほどに。 この場に来てからの戦いは、どれも血肉踊る物だった。 自らの首をはねた魔術師、頭を使った賃金労働者、高潔な雰囲気を保ち続け自分と対峙した生き人形、 自分に幾つもの傷を負わせた女子学生、同じく幾つもの傷を負わし、死ぬまで真正面から戦い続けた殺し屋。 全ての戦いが、男にとって最高に幸せな時間だった。 だが今回のような、震えて逃げることも出来ず、命乞いをするだけの少女は、男を失望させるだけだった。 少女の黒いコートから、液体が流れる。 その少女の体液は、男の靴を汚す。 少女は自らが選んだ服を自らの体液で濡らした。 黒いコートの裏の白のクラシックパンツは、濡れて少し黒っぽくなった。 男は少女の醜態に、更に強く失望した。 これ以上に無いほどに。 青空には、放送を告げるギガゾンビの映像が、映し出されようとしていた。 【E-4 市街地/1日目/昼 放送直前】 【アーカード@HELLSING】 [状態]:全身に裂傷(回復中) 、靴に少女の体液が付着 [装備]:鎖鎌(ある程度、強化済み)、対化物戦闘用13mm拳銃ジャッカル(残弾無しのため、鈍器として使用予定)@HELLSING [道具]:無し [思考]: 1.とりあえず、放送を聞く。 2.目の前の少女を??? 3.不愉快な日光を避けるため、一時建物に潜伏。 4.ただし、獲物を見つければ闘争に赴く。 【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】 [状態]:恐怖による気絶、側頭部に傷(少し回復)、首までの短髪、死に対する恐怖、腹部に強い打撲。 [装備]:布状に編みこんだ髪(ある程度の強化済み) 、黒のコート(濡れている)、水色のブラウス、白いクラシックパンツ(濡れている) [道具]:支給品一式(食料無し)、ターザンロープの切れ端@ドラえもん、輸血用血液(×3p)@HELLSING [思考・状況] 1:目の前の男への、絶対的恐怖 2:優しい人に助けて欲しい。 3:劉鳳には会わないようにしたい。 4:桃色髪の少女が約束を守ってくれてるなら、一緒に居てほしい。 基本:絶対に死にたくない 備考 アーカードが朝倉涼子をどうするかは、不明です。 朝倉涼子の支給品のSOS団団長のワッペンは、近くの女性向けブティック店内に制服と共に放置されています。 ※鎖鎌の切れ味が強化されています。 ※布状に編みこんだ髪は硬度を強化されていますが、ナイフが通りにくい程度です。 *時系列順で読む Back:[[いつか見た始まり]] Next:[[黒い死神、赤いあくま、そして銀の殺人人形]] *投下順で読む Back:[[いつか見た始まり]] Next:[[黒い死神、赤いあくま、そして銀の殺人人形]] |145:[[正義の味方Ⅱ]]|アーカード|171:[[「聖少女領域」(前編)]]| |147:[[KOOL EDITION]]|朝倉涼子|171:[[「聖少女領域」(前編)]]|