「此方の岸」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る
此方の岸 - (2021/11/07 (日) 21:57:07) のソース
*此方の岸 ◆GHwqlpn0oc 2時間。 凡人であれば、剣に慣れるのが精一杯であろう短い暇で、小次郎は鉄塊を振るうための骨子を掴もうとしていた。 空気が熱と湿り気を帯び、剣の球状結界に触れた雑物が、その姿を著しく歪めて跳ね飛んでいく。 手に届くあらかたを瓦礫に帰したところで腕を下ろす。 顎から滴る汗を手の甲で拭い、そろそろ一時の休息としようと思い立った。 この鉄塊は、置き場所すらままならない。 右腕は、肘以上に持ち上げようとすると、小刻みに震えて命令を拒否するようになった。 鉄塊の柄に指をしっかり絡めつかせ、引き摺って歩く。 肘が外れそうだったが、何ほどのものでもない。肘を外さない程度の腕力は残っている。 憩いと安寧を求めてこの石の館に踏み入ったが、結局は夜風に当たりたくなるだけだった。 つくりものの光も、その刺さるような激しさを鬱陶しくも思ったが、日が昇るにつれてその便利さに感心し、 悪くないと思うようになってからは、宵闇に突き立つ光の柱にも風情を覚えるようになった。 ただ惜しむらくは、今宵は佳い月であることだった。 白い光で無粋に塗りつぶされた砂の広場を避け、塀の内から出た。 耳を澄ませば、涼やかな空気がさやさやと流れている。 川がある。 その音のする方向には、光がある様子はない。 月明かりであれば見つかりづらいという理由もあったが、ただ単純に、小次郎はやはり月光の幽玄な薫りの方を好む。 鉄塊を引き摺って、堤に来た。 川の流れは無数の波飛沫を煌かせながら、そ知らぬ顔で過ぎ去っていく。 見渡す限りの水の絨毯を、仄かに照らす淡い光。 身も心も軽く保てば、この川を歩いて渡れそうな気さえしてくる。 対岸に目を向け、同じように土手になった上に、ふと違和感を覚えた。 目を凝らす。目だけでは見えないが、サーヴァントとなって鋭さを増した勘が、その姿を捉えた。 月影に輪郭を描かれて、人の影が幽かに浮かび上がっている。 うずくまって、こちらの様子を窺っているようだった。顔は見えない。 暗闇もあるが、相手も小次郎に顔を向けていてなお面貌がわからない最大の理由は、顔を覆った飾り気のない兜のせいだった。 見れば、ひどく身動きに難渋している様子だった。 小次郎もまた見ていることに、相手も気づいたらしい。 しばし身に針鼠のような戦慄を走らせ、それが静かに収まっていったところで、こちらへ棒板状のものを掲げて見せた。 暗く遠いためよく見えないが、あの形状から考えるに、中身のない鞘だろう。 ほう、と思わず声が出た。 そんな言霊を寄せてくる者は、一人しかいない。 兜など被って身じろぎもしないから、気づかなかった。 どうせまた何処かで傷でも負ったのだろう。こちらも、肩にかかるばかりの左袖を舞わせてみせる。 壁面のように張り詰めた相手の警戒に、ひびが入って斜めに傾いだ。 いっそ本当に水面を歩こうか、と思ったことは心のうちに押しとどめた。 共に、死合うに十全の状態ではない。 そんなことをしているうちに、小次郎はここで修練の続きをやってやろうと思い立った。 水の音を含んだ夜風が、汗の引きつつある体を爽やかに撫でていく。条件としても申し分ない。 川の流れに逆らうように身を構え、僅かに過ぎなかった休息に不足を申し立てる右腕へ気を入れる。 剣を抜いて向き合っておらずとも、敵手がいるということは、身の活力を湧き上がらせる。 あれほど疲労に腫れ上がっていた腕は、いともあっさりと鉄塊を再び持ち上げた。 先刻苦心した甲斐が、十二分に発揮されていく。 一太刀ごとに迅さを増し、鋭さを増し、そして鉄塊はその重さを存分に発揮していく。 十数度の試しを経て、身の丈ほどの鉄塊が、ついに存在せぬ燕を斬った。 対岸に目をやる。騎士王はまんじりともせずこちらの挙動を見ていた。 その姿に満足し、小次郎は煮立つように熱い右腕に目を落とす。 奥義の再現は叶わなかった。縦を割り、横を薙ぎ、円を刳る。その動作のいずれもが、ほんの刹那ほどに、ずれを生じている。 いや、身の程に合わない重量を片腕で振り回すという暴挙に及んで、刹那で済んだことはむしろ誇るべきとも言えるだろう。 これであれば、並の燕なら問題ない。 並であれば。 再び視線を対岸へ。 並の燕が抜け得ぬ間隙を、鮮やかにすり抜ける者がいる。 この不完全の奥義で、あの竜を斬れるか。 鉄塊の鑑定書には、この鉄塊が剣であることが記されていた。 銘なき剣の名は、竜ころし。まさしく折り紙つきであった。 ならば後は、使い手の腕が追いつくのみ――。 鉄塊を地に突き立て、その腹に背を預ける。 荷から水を出し、味気ない麺麭を肴に並べる。 月見と洒落込もうというところだが、揃うものは生憎とつれない素振りのものばかり。 この水も酒であれば少しは違ったであろうが、と警戒が無粋に張り詰めた対岸を見やる。 見立ての杯を眺めながら、そうそう悲嘆することもないことに気がついた。 樹脂瓶の蓋を猪口代わりに、水を少し注いで指でつまむと、かの好敵手へ小さく向ける。 日本には水杯という風習があってな、と声に出さず異国の剣士へ語りかける。 この馬鹿馬鹿しい宴には、相応しい趣向ではないか。 しばらく待っていると、対岸はこちらを見据えながらも、荷から同様に酒肴を並べ始める。 杯までは真似をする気はないらしく、蓋を開けた樹脂瓶を手に持ってこちらへ顔を向けた。 小次郎は、それでよい、と口元を緩ませ、手に持った蓋を目元まで軽く掲げた。 折角の夜明かしである。一人で呑むのは味気ない。 何しろ今宵は佳い月なのだ。 【C-2北岸/一日目/夜中】 【佐々木小次郎@Fate/stay night】 [状態]:疲労、左腕喪失(肘から先)、右腕に怪我 [装備]:ドラゴンころし@ベルセルク [道具]:コンバットナイフ、鉈、支給品一式2人分(水食料二食半分消費) [思考・状況] 1:今しばらく、宵涼み。 2:セイバーが治癒し終わるのを待ち、再戦。 3:ドラゴンころしの所持者を見つけ、戦う。 4:物干し竿を見つける。 基本:兵(つわもの)と死合いたい。戦闘不能と判断した者は無視。 ※佐々木小次郎の左腕(肘から先)はB-4エリア内に放置されています。 【C-2南岸/一日目/夜中】 【セイバー@Fate/stay night】 [状態]:腹2分、疲労、全身に中程度の裂傷と火傷、両肩に中程度の傷、右腕に銃創、魔力消費 [装備]:アヴァロン@Fate/stay night [道具]:支給品一式(食糧2/3消費)、スコップ、なぐられうさぎ@クレヨンしんちゃん (黒焦げで、かつ眉間を割られています) [思考・状況] 1:もうしばらく傷と魔力の回復を待つ。 2:できれば剣が欲しい。エクスカリバーならば尚良い。 3:優勝し、王の選定をやり直させてもらう。 4:エヴェンクルガのトウカに預けた勝負を果たす。 5:迷いは断ち切った。この先は例え誰と遭遇しようとも殺す覚悟。 ※アヴァロンが展開できないことに気付いています。 ※防具に兜が追加されています。ビジュアルは桜ルートの黒セイバー参照。 *時系列順で読む Back:[[ここがいわゆる正念場(後編)]] Next:[[以心電信]] *投下順で読む Back:[[なまえをよんで Make a Little Wish(後編)]] Next:[[以心電信]] |205:[[強者の資格たる欠損]]|佐々木小次郎|230:[[月下流麗 -月光蝶- ]]| |191:[[これがあたし達の全力全開]]|セイバー|230:[[月下流麗 -月光蝶- ]]|