神が下すその答えは―――、

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神が下すその答えは―――、 - (2011/05/18 (水) 08:49:30) のソース

―――これはバトルロワイアルという狂気のゲームの、その盤外で広げられたお話である。 



「それでは……バトルロワイアルを開始するっ……!」 

兵藤和尊によるバトルロワイアル開始の宣誓。 
高らかな宣言と共に、教室に居た総勢72名の参加者が消える。 
こうして開催された殺戮の遊戯。 
8キロ四方の狭い箱庭で、ただ一人の生存者を決めるまで執り行われる殺し合い。 
残された老人は、笑い続ける。 
今から始まる至上のゲームに思いを馳せて、狂った様に笑い続ける。 

「てめぇ……ふざけんじゃねえぞ!」 

そんな老人の傍らに、少年は取り残されていた。 
上条当麻。 
神の奇跡だろうと何だろうとそれが異能であれば打ち消す力を、右手に宿す少年。 
その右拳と決して揺るがぬ信念を以て、数多の強敵を打ち破ってきた少年である。 
上条当麻は怒りに身を焦がしていた。
意識を失う寸前まで大天使と戦っていた事、世界を救う為ベツレヘムの星ごと大天使へと特攻を果たした事、その特攻から生存せしめた事、
それら全ての出来事を忘却の彼方へと追いやる程に、上条は怒りを覚えていた。 
つい数分前に眼前で失われた命。 
命を奪った当の老人は、反省の欠片すら見せずに笑い声をあげている。 
馬鹿にしている。 
命を、他人の命を、馬鹿にしている。 

「どうしてあの男を殺した! 答えろよ、てめえ!」 

眼前の老人に命を握られているという事さえ忘れて、上条は吠える。 
その声に笑いを止め、視線を向ける兵藤。 
光の輪により拘束されている上条の姿を見て、兵藤は思い出したように手を叩く。 

「ん……? ああ君か、上条当麻君……! そうか、君はどうやら異能が効かないんだったな……! 彼女の転移魔法を知らぬ間に打ち消してしまったらしい……! いやはや厄介な能力だ……!」 

兵藤の顔に宿るのは、数瞬前と同様の歪んだ愉悦に満ちた笑顔であった。 
上条の言葉に答えを返さず、兵藤は手を叩いて自らの語りたい事を語っていく。 

「期待しているぞ、上条君……! この殺し合いには沢山の異能力者が参加している……君の『幻想殺し(イマジンブレイカー)』がどんな働きを見せるのか、今から楽しみだ……!」 

語る兵藤の姿は、本当に、心の底から楽しげであった。 
そんな兵藤の姿に上条は思わず言葉を無くす。 
彼が戦ってきた人達は、誰もが誰も自身の理念に則って戦っていた。 
例えば、とある女性を守る為。 
例えば、自らの居場所を守る為。 
例えば、世界に散らばる主義主張を一つに束ねる為。 
例えば、世界の争乱をいち早く無くす為。
例えば、他宗教の信者を全て滅する為。
例えば……その考え方と方法自体は歪んでいたものの……世界を救う為。 
誰もが何かしらの『戦う理由』を持っていた。 
その『戦う理由』の為に苦悩し、迷いながらも力を振るっていた。 

だが、この老人は違う。 

自らの愉悦の為だけに力を振るい、こんな殺し合いを開催したのだ。 
人間の最も邪悪な部分をまざまざと見せ付けられた上条は、強く強く唇を噛む。 

「やっぱり無理ね。この子には私達の世界の『魔法』も効かないわ」 

そんな上条を放置し周囲の状況は変化していく。 
上条から見て右奥の扉が開き、見知らぬ女性が現れたのだ。 
胸元と臍周りが大きく開けた漆黒の衣服に、その全身を包む紫色の外套。 
腰まで伸びた薄灰色の髪に、その手に握られた1メートル程の長杖。 
その特異な格好は、まるで御伽噺に出て来る魔女のようであった。 

「これはこれはプレシア君……!『彼』の方はどうなりましたかの……?」 
「五つものジュエルシードを使用したわ。それで何とか制限はできた筈だけど、それでも虐殺になりかねないわね」 
「いやいや、充分でありましょう……流石は大魔導師殿だ……!」 
「やはり『彼』は危険よ。シックスの推薦だからやむなく参戦させたけど、下手したらこちらがやられかねない。……それと、その大魔導師殿っていうの止めてちょうだい、虫酸が走るわ」 

これは手厳しい、と兵藤が頭を叩いたところで一旦会話が区切られる。 
ジュエルシードやら、『彼』やら、重要そうなキーワードが飛び交っていたが、上条にはそれが何を示すのか分からない。 

「で、この子はどうするの。転移魔法は使えないわ」 
「気絶させて黒服にでも運ばせましょう……! 放置する地点はクジでも引いて決めれば公平だ……!」 
「任せるわ。私は結界の状況確認と『彼』の監視をしてくるから」 

パチンと兵藤が指を鳴らすと、外で待機させられていたのか黒服黒サングラスの集団が教室へと入ってくる。 
十数人ばかりの奇妙な黒服集団は瞬く間に上条を囲み、その中の一人が一歩前に出る。 
前に出た男の手には、青白い閃光を放つスタンガンが握られていた。 
プレシアと呼ばれていた女性はその様子を見ようともせずに、踵を返し教室から出て行こうとする。 
終ぞ、プレシアの視線が上条を捉える事はなかった。 

「待てよ」 

だから、呼び止めた。 
椅子に拘束されて、十何人もの人々に包囲され、首輪により命を握られて尚、上条は口を開く。 
相手の機嫌一つで命が失われる状況で、それでも口を開いた。 
振り返ったプレシアと上条の視線とがぶつかる。 


「お前らが何者なのか、何でこんな訳の分からねえ殺し合いを開いたのかは知らない。お前達にも何か深い理由があるのかもしれないし、考えたくはねーけど何の理由もないのかもしれない。
 俺は何も分からないし、何も知らない。そこまで深く考える頭もないしな。 ただそれでもこんな殺し合いに人々を、俺の仲間達を巻き込もうというのなら―――」 


数分前、上条当麻はある人物達を視界に捉えていた。 
自分同様椅子に拘束され、無骨な首輪をその首に巻き付けられた知り合い達。 
それは同じクラスの友達だった。 
それは何時も目の敵にされている知り合いであった。 
それは嘗て二度も命を賭して戦った敵でさえもあった。 


「―――その全てを、命ですらも思い通りにできると思っているのなら―――」 


しかし、友達でも、知り合いでも、それが敵であっても、上条当麻は怒りを覚える。 
こんな理不尽極まりない殺し合いに自分の知る者達が参加させられているというだけで、上条当麻を突き動かすには充分すぎた。 
語る口は、止まらない。 
自身の意志を眼前の敵に伝える。そうでなくては話は始まらない。 
両の瞳に確固たる光を灯してプレシアを睨み、上条当麻は語る。 


「―――俺は、絶対に、その幻想をぶち殺してやる」 


そして言葉を遮るように、バチリという音が首筋から鳴り―――上条当麻は意識を失った。 


 ―――こうして話は盤上へと移る。



◇ 



気付けばミリオンズ・ナイブズは深淵の森林に立ち尽くしていた。 
いや、立ち尽くすという表現は間違いであるか。 
現象そのままに伝えるのであれば、ナイブズは浮かんでいた。 
地上から十数センチの所で、まるで反発し合う磁石と磁石のようにフワリと。 
それは、人間には到底なし得ない事象。 
その事象をナイブズは、息をするかのように行う。 
気付けば出来ていた事であった。 
同種との融合に次ぐ融合の末、知らぬ間に手に入れていた力である。 
ナイブズの身体は、人間のそれとは大きく異なっていた。 
猛禽類の翼を思わせる身体。 
白一色の染め抜かれた身体。 
外見だけは人間と同様だった筈のプラント自立種が、同種の為にと行動し続けた末にあった身体。 
何百何千と融合を繰り返した末に、なるべくしてなった身体であった。 

「……何だ、これは……」 

ナイブズは一人言葉を紡ぐ。 
その表情には困惑が張り付いていた。 

「身体が、重い……?」 

まるで身体中に重りを吊り下げられているような、そんな感覚であった。 
加えて身体の芯に異常なまでの疲労感が刻まれている。 
動くことさえも億劫になる、ともすれば意識すらも霞むような疲労感が、常に身体を襲い続けていた。 
これは何なのだ、とナイブズは思考する。 
あのような愚昧の輩に拉致された上に、このような謎の仕掛けを仕組まれた事実。 
ビーストの反逆を退け、人類の最後の砦を陥落させようと行進していた最中のこれだ。 
疲労感を押しのけて憤怒が沸き立つ。 
そして、ナイブズは憤怒のままに、人間の身体であれば左腕にあたるであろう左羽根を掲げた。 
一瞬で終わらせてやろう、とナイブズは『力』を込める。 
人類共に虐げられている同種達を一刻も早く解放せねばならない今、こんな下らない児戯に付き合っている暇などない。
だから、終わらせる。
発動させるはプラントが御する二つの『力』の片一方、『持ってくる力』。
それを数億の次元刃へと変化させ、自身を中心として全方向に発射する。 
最大射程は数十万キロ単位。
たったそれだけで、この殺し合いの会場にある全てが切り裂かれ役目を終える。 
たったそれだけで、バトルロワイアルはナイブズの優勝をもって終焉を迎える。
それがミリオンズ・ナイブズ。
それだけの『力』をその身一つに内包している存在が、プラント融合体と化したミリオンズ・ナイブズであった。
瞬きの間に臨界へと至る『力』。 
そして、『力』が―――解放される。 



『力』が、四方八方に吹き荒れた。 



「な、に―――?」 



だが、望んでいた破壊は齎されない。 
次元刃が破壊し尽くした世界は、半径数十メートルの狭い狭い世界。 
本来のものとは比較する事さえ烏滸がましい、あまりに矮小な破壊。
次元刃の数も精々、十数程度。
やられた、とナイブズは思う。
どのような原理か、無尽蔵に内包された『力』が制限されている。
全力の一撃がたったこれだけの破壊しか生み出さない。
身体を包む疲労感も、まるで黒髪化が発生した時のように増大している。

「……こざかしい真似を」

思わず、笑みが零れた。 
自身の不甲斐なさに、あのような醜悪な人間に此処までしてやられた事実に、ナイブズは自嘲の笑みを浮かべる。 
所詮このような存在だったのかと、所詮は人間に制御される程度の力だったのかと、ナイブズは笑う。 

「良いだろう。受けて立つぞ、バトルロワイアル。そしてお前等を滅殺してやろう、俺の手で」 


自嘲のままにナイブズは宣告した。 
何処かで高みの見物をしているのであろう兵藤へと、渾身の殺意を以て言葉を飛ばす。 
思えば初めてだったかもしれない、特定の人間を相手に殺意を抱くなど。 
そうしてナイブズは視線を落とし、周囲の状況を確認する。 
方法は見当も付かないが、此方の『力』は相当に制限されている。 
本来のものからすればゴミ屑同然の『力』しか発揮できない。 
疲労感も身体を侵襲し続けている。 
今やナイブズは同じ舞台上にいた。 
何者にも届かぬ絶対的存在から、首輪に設置された爆弾でも死亡する存在へと。 
これは慢心が呼び込んだ事態、だからこそ自戒が必要。 
この殺し合いを開催した兵藤……いや、あの小物の裏にはもっと強大な『何か』がいるのであろう。 
その『何か』を滅ぼす為に、ナイブズはバトルロワイアルに集中する。 
視界に映り込む景色は、自身を中心として円形に切り裂かれた世界。 
草木が数十もの木片となり地面を埋め尽くしている。 
その中に巨大な血溜まりがあった。 
木片に混ざって浮かぶはおそらく人間の肉片か、先の破壊に巻き込まれた不幸者がいるらしい。 
そして、血肉の湖に浸かる人間。 
紺色の学生服にツンツンの尖り頭。 
意識を失っているのか、少年は両の目を閉じたまま動こうとしない。 
不思議とその身体には傷一つなく、完全な五体満足であった。 
偶然ナイブズの『力』が届く範囲外にいたのか、それとも他の『力』が作用したのか。 
白色の異形と化したナイブズの身体から人間の腕が生え、少年を掴み上げる。 
ナイブズは少年を観察していた。 
おそらく自分の攻撃はこの少年に届いていた。 
共に行動していた者だけ殺害してその傍らにいる者が傷一つ無いなど、狙って行わない限り有り得ない。 
自分の『力』から生き延びる事が出来た人間。 
記憶にあるのはただ一人。 
たった二人しかいない側近の片割れ、レガート・ブルーサマーズ。 
身体が操られた感覚はない。だが、何らかの『力』が作用したのは確実。 
自身の『力』から生存し得た人間にほんの少し興味が湧いたのか、ナイブズは僅かに目を細めて少年を見詰める。 

が、それも一瞬。 

ナイブズは直ぐさま思考を打ち切り、少年の命を刈り取る為に再度『力』を貯める。 
無意味だからだ。 
この少年が如何なる『力』を保有していようと、殺害する事に変わりない。 
ならば、思考に費やす時間は無駄でしかない。 
死する者に思慮は必要ない。 
ましてや醜悪な人間如きに思考を煩わせるなど、愚かの一言。 
『力』が解放される。 
一秒と満たないタメで、人一人を跡形もなく切り刻む程の『力』が解放される。 
死が、不幸な少年へと無慈悲に襲い掛かろうとしていた。 



「スタープラチナッ!」 



そして、その窮地に、救世主が舞い降りた。 
その救世主とは、ある世界に於いて『最強』の二つ名を冠する男。 
不幸な少年を救うべく、最強のスタンド使いが最強の異形の前に現れた。 



◇ 



「……兵藤和尊……」 

狂気の殺戮遊戯が開始されたからほんの数分が経過したその時の事。 
D-1に位置する森林には学ラン姿の大男が立ち尽くしていた。 
日本の高校生としては規格外といえる190をも越えた巨体。 
殺し合いという異常な状況に置かれて尚、その眼光には寸分の陰りもない。 
男の名は空条承太郎。勇敢なる先祖達から黄金の精神を受け継いだ少年である。 

「てめーはやっちゃならねー事をやっちまったようだな……」 

承太郎は一人言葉を紡ぎながら暗闇の森林を睨み付けていた。 
普段と変わらないクールな表情で、だが両の拳を渾身の力で握り締めながら言葉をこぼしていく。 

「てめーは自分の私利私欲の為だけに人を殺した……何も知らねー人間をてめーの愉悦を満たすためだけにッ! 
 『悪』とはッ! 自分自身の為だけに弱者を利用し踏みつける奴の事だッ! 兵藤、てめーがやったのはそれだッ!!」 

そう語る承太郎の脳裏に浮き上がる光景……富竹という男が爆殺された、その瞬間。 
拘束により動く事が出来なかった自分の眼前で行われた惨劇。 
承太郎は目に焼き付けていた。あの惨劇が行われた瞬間、兵藤が浮かべていた表情を。 
奴は、笑っていた。 
人を一人殺しておいて、笑っていたのだ。 

「てめーは俺が裁くッ!」 

その怒号は深淵の森林を駆け抜け、震撼させる。 
今の承太郎の状況を一言で言い表すならば、ブチ切れ状態。 
宿敵ノ吸血鬼に祖父を殺害された時、とまではいかずとも普段のクールさを忘れる程にはキレていた。 

そして、そんな承太郎の目と鼻の先で事は行われようとしていた。 

怒号と共に歩き始めると、承太郎の視界が唐突に開けた。 
鬱蒼としていた森林が、そこだけ何故か不自然に開けていたのだ。 
コンパスで図ったかのように綺麗な円状に、木々が切り落とされていたその地点。 
その真ん中に『それ』は悠然と立っていた。 
『それ』が何なのか承太郎には分からない。 
理解が追い付かないのだ。 
白色の異形に人間の顔が生えている『それ』。 
鳥の羽根を思わせる無骨な白色が全身を構成している。 
異形の足元には惨劇が広がっていた。 
地面に血が染み渡り、吸収しきれなかった血は溜まりを作る。 
血だまりには浮かんでいるのは数百もの肉片か。 
奇妙な冒険を通して数多の戦いを経験した承太郎であったが、その光景には思わず言葉を失う。 
直前の兵藤に対する憤怒すら、驚愕に塗りつぶされてしまっていた。 
息を飲みながら、承太郎は視線を這わせて状況を確認する。 
白色の異形と細切れの……おそらくは人間だったもの。 
それと、異形に掴みあげられた一人の少年。 
異形の中からその頭部と同じように生えた人間の腕。その腕がまだ高校生くらいの少年を掴み上げていた。 
少年の纏う学生服はその殆どが血に染められているが、少年自体は負傷していないようだ。 
だが気絶しているのか、異形を前にしてピクリとも動かない。 
異形に生えた顔は、まるで虫螻を見るような目で手中の少年を見つめていた。 
このままでは殺される、そう承太郎は感じた。 

「スタープラチナッ!」 

そう感じた瞬間、驚愕など何処かへ吹き飛んでいた。 
命を救わねばという衝動が、感情の全てを抑えて身体を突き動かす。 
咆哮と共に発現するは彼の精神を映し描いた最強のスタンド・スタープラチナ。 
承太郎に寄り添うように発現したスタープラチナは、叫び声と共に腕を振り上げる。 
スタープラチナの射程距離は1、2メートル。 
白色の異形との距離は10メートル程、殴打により攻撃は到底届かない。 
スタープラチナの右手に握られるは、地面に転がっていた石つぶて。 

『オオオオオオラアアアアアアッ!!』 

それをスタープラチナは渾身の力で投げ付ける。 
ただの石ころであろうと、スタープラチナのパワーで投擲されたそれは銃弾にも迫る威力と速度を秘める。 
加えて、スタープラチナの精密動作により狙いも正確。 
その矛先は異形の顔面へと。 
脳天を撃ち貫きかねない勢いで、石つぶては異形へと急迫する。 


「ちっ……!」 

だが、つぶてが激突せず、異形に傷も無い。  
突如現れた異形の周辺に現れた「暗き穴」。その穴に全て吸い込まれた。 
音速の勢いで放たれた数十のつぶてが眼前に迫った瞬間、苦も無くソレに反応し「穴」を出現させたのだ。
彼のいた星の住人、ナイブズの配下の手駒である13人の人外戦闘集団にとってもこの程度の反応速度は造作も無い事なのだ。
承太郎は今の現実に背筋を凍らせながら、口から忌々しげに舌打ちが鳴らされる。 
あれだけの勢いと数で放たれたつぶてを全て防いだ事もそうだが、
何よりも恐ろしいのは白色の異形は視線すら承太郎に向けていなかった事だった。 
スタープラチナを発現した瞬間であっても。 
石つぶてが飛来していた瞬間であっても。 
石つぶてを防いだその瞬間であっても。 
視線は手中の少年へと注がれていた。 
まるで承太郎など眼中に無いといった様子。
相手にすら、されていない事。
死神の鎌は少年の首元から外れる事なく、今にもその命を刈り取らんとしている。 

「スタープラチナ―――ザ・ワールド!」 

だから、承太郎は己の切り札を躊躇いなく行使した。 
それは奇妙な冒険の果てに会得した最強の能力。 
世界の全てを支配する絶対の能力。 
使用可能な時間はほんの二秒。 
だがその二秒間、承太郎は世界の支配者となるのだ。 
『時』が、止まる。 
承太郎を残して、世界の全てが静止する。 
それに例外はなく、白色の異形も少年を掴み上げた姿勢のまま動きを止める。 
渾身の力で地面を蹴り抜くスタープラチナ。 
止まった時の中で承太郎が加速する。 
ほんの一秒で異形との距離を詰めた承太郎は、スタープラチナの全力を以て異形の腕を殴り抜く。 
少年を掴むその手が開いた。 
スタープラチナが再び地面を蹴り抜く。 
少年の首根っこ掴みながら、後方へと退避する承太郎。 
もう限界だ。『時』が、動き出す。 

(さて、上手くこいつを助け出せたのは良い。あとはこの訳のわかんねー『何か』がどうでるかだが……) 

ポーカーフェイスを常とする承太郎にしては珍しく、その表情には焦燥が滲んでいた。 
眼前の『何か』からは途方もない威圧感を感じる。 
ともすればあのDIOをすらも遥かに超越する威圧感が、眼前の存在からは感じ取れた。 
冷たい汗が頬を伝う。 
距離は先程までと同様に10メートル程開いている。 
能力どころか、相手が何なのかすら分からない現状では慎重に事を進めたいところであった。 
異形は目を大きく開きながら、空手となった自身の右手を見つめている。 
一応敵前であるにも関わらず、何が起きたのか、ゆっくり考えているようであった。 
ナメられてる。 
だが、ナメられてると言っても、そう簡単に攻め込む事もできない。 
厄介な状況だと、承太郎は素直に思った。 
ちっ、と承太郎の口が再度鳴る。 

「―――貴様か?」 

声が、響いた。 
タイミングとしては承太郎が舌打ちした直後。 
これまで無言を貫いてきた異形が、遂に声を発した。 
それはこれまで聞いた事のない、地の底から響くような暗い暗い声。 
どす黒い、吐き気さえ催すようなどす黒い声であった。 
承太郎の頬にもう一筋の汗が流れる。 

「さあな……なんの事だか分からねーぜ、化け物」 

心中の感情を無理矢理に押し込めて、承太郎は挑発を含んだ答えを返す。 
何時も通り、冷静にクールに。 
自身のペースを取り戻すかのように承太郎は言葉を紡ぐ。 
だが、その言葉に対する返答は、あまりに熾烈なものだった。 
承太郎が立つ地面、その前後左右全方位から音も発てずに生え出た凡そ十数本の白色。 
承太郎にもその危険度が察知できた。 
人一人背負った状態での、完全な包囲状態。 
ヤバい、と心が思った時には身体が動き出していた。 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!』 

高速の突きを連続で放ちながら、スタープラチナがその場で一回転身体を回す。 
全方位に向けられた拳が白色の脅威を全て弾き飛ばし、同時にスタープラチナが地面を蹴り抜く。 
ドン、と後方へ加速する身体。 
大きく距離を離した承太郎は、異形を正面から睨み付ける。 

「一つ、俺からも質問だ。その足元の仏はてめーがやったのか?」 

返答はない。 
なくともその表情が語っていた。 
虫螻を殺して何が悪い、そう無言で語っていた。 
自身の内にある何かが熱く高揚していくのを、承太郎は感じた。 

「そうか、なら問題ねーな。俺がお前をぶちのめしても」 

今度は感情のままに言葉を発していた。 
燃えたぎる感情を抑えようともせず、承太郎は眼前の異形に視線を飛ばす。 
街中の不良であれば目があった瞬間に後ろへ転進を始めるであろう、射殺すような視線。 
そんな承太郎の視線を正面から浴び、それでも異形に変化は見られない。 
変わらぬ表情で、退屈げに承太郎を見詰めていた。 
やれるもんならやってみろ、という嘲りすら無い。 
単純に興味が湧かない、そんな表情であった。 

『オオオオオオオオ、ラアアアアアアアアアアッ!』 

主の代わりに雄叫びをあげる最強のスタンド。 
気合いの叫びと共にスタープラチナが、承太郎の前方へと躍り出る。 
対する異形は身構えもせずに最強のスタンドを見詰めるのみ。 
場は暗闇の森林。 この場にて死闘は繰り広げられる事となる。 



 ◇ 



「―――で、上条当麻は『彼』のいるエリアに置いてきたわけね」 
「いやはや彼は本当に不幸だ……公平にクジを引いて、まさか一番のハズレを引くとは……!」 
「一番の不幸人は上条当麻を運んでいた黒服だと思うけどね。『彼』の攻撃に巻き込まれるなんて、目も当てられないわ」

そこは照明の一つもない部屋であった。 
幅、奥行き共に長く広い広い部屋。照明がないにも関わらず、その部屋は非常に明るい。 
床一面が液晶画面になっており、その液晶からの光が部屋を照らしているからだ。 
とても目に悪そうな部屋にて、二人の人間が並び立ち、液晶を見詰めていた。 

「『彼』に施した『枷』は正常に作動しているようね。ロストロギアを五個も消費したかいがあったわ」 

ほう、と息を吐いたのはプレシア・テスタロッサ。 
傍らの兵藤は、モニターの中で繰り広げられている死闘の数々に愉しげな笑みを浮かべている。 
そんな兵藤にプレシアは僅かな苛立ちを覚える。 
この男はロストロギアの価値を理解しているのだろうか。 
たった一つでも世界を変革しうる究極のアイテムがロストロギア・ジュエルシードだ。 
それを五つも体内へ埋め込んで、内部から強制的な制限を枷るしかなかった。 
ナイブズとは、少なくともあのプラント融合体とは、そんな存在であった。 
それでもこの殺し合いに参加させた猛者どもに匹敵……いや明らかにそれを遥かに超える実力を有している。
もし、ジュエルシードにより力を抑えなければ、文字通り彼の一撃により会場はおろか、星さえも破壊していただろう。
万が一の事があれば、主催者としての優位など易々と崩れ落ちる。 
警戒心は持ち続けなければいけない。 

「それにしても……『幻想殺し』、か」 

プレシアの言葉に連動するかのように、空中へ浮かび上がる小さなモニター。 
モニターには大柄な学ラン男に担がれた少年―――上条当麻の姿が映されている。 
未だ目を覚まさぬ少年を置いてけぼりにして、白色の異形と最強のスタンド使いはまさに激突しようとしていた。 
だがモニターはその次元を超越した戦闘ではなく、上条当麻の右手へとズームインしていく。 
『幻想殺し(イマジンブレイカー)』。 
あらゆる異能を打ち消すとされる、不可思議な能力。 
プラント融合体の次元刃すらも消滅させる、異能に対して圧倒的な力を持つ能力。 
それはプレシアが知るあらゆる情報を以てしても説明不可の、まさに謎の力であった。 

「フフ、興味が尽きないわね」 

その呟きは傍らの兵藤にする届く事なく、宙に消えていく。 
プレシアは思い出す。 
自分に向けて大言壮語を吐き捨てた上条当麻の姿を。 
彼がこの殺し合いの中でどれだけ生き延びられるか、それはプレシアにだって分からない。 
ただ見てみたいとは思った。 
上条当麻が、この殺し合いの中で過酷な現実に直面し、苦悩に心を痛めるその光景を。 
見てみたいと、プレシアは心底から思った。 
『幻想殺し』の少年は、まだ目を覚まさない―――


【一日目/深夜/D-1・森林】 
【ミリオンズ・ナイブズ@トライガン・マキシマム】 
[状態]融合体、疲労感(大) 
[装備]なし 
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3 
[思考] 
1:会場にいる全てを殺し、バトルロワイアルの主催者どもも殺害する 
2:眼前の人間を殺す
3:制限の源を解析し、制限を解く
[備考] 
※原作12巻・ビースト殺害の直後から参戦しています 
※ジュエルシード@魔法少女リリカルなのは×5が体内に埋め込まれ、力を大幅に制限しています。


【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】 
[状態]疲労(小) 
[装備]スタープラチナ・ザ・ワールド
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3 
[思考] 
1:殺し合いを止め、兵藤をぶちのめす。 
2:学生服の少年を守りつつ、目の前の異形をぶちのめす。 
[備考] 
※三部終了後から参戦しています


【上条当麻@とある魔術の禁書目録】 
[状態]気絶中
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3 
[思考] 
0:気絶中
1:殺し合いを止める。
2:仲間と合流する。 
[備考] 
※原作22巻終了後から参戦しています



|Back:[[人類最強VS吸血鬼最強 ~観客はお馴染みのネタに命を賭ける~]]|時系列順で読む|Next:[[一般人の皆さま、当バトロワは甘え禁止となっております。繰り返します、当バトロワは甘え禁止です(キリッ]]|
|Back:[[人類最強VS吸血鬼最強 ~観客はお馴染みのネタに命を賭ける~]]|投下順で読む|Next:[[一般人の皆さま、当バトロワは甘え禁止となっております。繰り返します、当バトロワは甘え禁止です(キリッ]]|
|&color(cyan){GAME START}|上条当麻|Next:|
|[[時報(オープニング)]]|兵藤和尊|Next:|
|&color(cyan){GAME START}|プレシア・テスタロッサ|Next:|
|&color(cyan){GAME START}|ミリオンズ・ナイブズ|Next:|
|&color(cyan){GAME START}|空条承太郎|Next:|
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