Be Silent(世にも奇妙な物語)

登録日:2019/11/09 Sat 01:44:12
更新日:2019/11/09 Sat 23:36:13
所要時間:約 6 分で読めます




「Be Silent」は世にも妙な物語で放送されたエピソードの1つ。
初放送は2004年春の特別編。

よく「受験勉強中の息子が居間で喋る家族に『集中できない!』と怒る」なんてのはホームドラマやコメディの一幕であるが、人によって「集中できる音量」のボーダーというのも静かな方がいいが生活音ぐらいならという人、テレビなど自分の意思で制御できる音を聞きながらの人、あるいはフードコートやカフェなど多少騒がしくても集中できる人とまさに人それぞれである。
では、この男の場合はどうだろうか…

【登場人物】
  • 片岡亮
演 - 渡部篤郎
有名作曲家。様々な楽曲を手掛け賞の受賞経験もある。

  • 片岡加奈子
演 - 七瀬なつみ
亮の妻。

  • 浅野
演 - 山田明郷
亮への依頼主。社長、あるいはクライアントなのかといった関係性は不明。



【あらすじ】

そこは真っ白な部屋にノートとキーボードのみが置かれた部屋。キーボードを弾きながら恍惚の表情を見せ、ノートに楽譜を書いて作業をする亮。




その数日前。
亮の自宅には電話が鳴り響いていた。床にはぐしゃぐしゃに丸めた楽譜が散乱。そして今も亮は頭を抱えていた。
電話を受け取った加奈子が亮に取り次ぐ。相手は依頼先の浅野。打合せには出られないという亮の言葉に騒然とする浅野たちがいる会議室。
「国立劇場のこけら落としに間に合わせていただけるんですかね?」
「書けないものはしょうがない。天才も人の子っていうことですかな?」
そう口々に言う重役達から離れ会議室を出た浅野。もう3週間も締め切りを伸ばしている状況の中、それでも亮は「3日でもいいから」と締め切りを伸ばすよう頼み込む。

だが、何度考えても良い曲は浮かばない。ひとまず取り掛かろうとピアノを弾こうとすると外からカンカンと音が。それは外の道路工事の音だった。
苛立つ中ピアノの前に座り続け夜になり、再びピアノを弾くが全く浮かばず。今度はコチコチと時を刻む時計の秒針音にいら立っていた。

時計から電池を外し再びピアノを弾き始める。プロジェクターに映し出される風景とマッチするような素晴らしい曲を演奏するが、疲労からかいつの間にかピアノの上での突っ伏せて寝てしまっていた。
とりあえず楽譜に書き起こした曲をもう一度弾くが、カツカツコツコツと響く音にまたしてもイライラし楽譜を潰す。
上の階では加奈子が朝食を作っていた。
水を入れる音、スリッパを履いているとはいえ移動する音、ジューサーの音、包丁で切る音、卵をかき混ぜる音、フライパンを箸でかき混ぜる音…

家では無理と判断し、今度は図書館に移動する。
ピアノをエアで演奏しながら思案するが、そこにまたしても「雑音」が入る。
コピー機の音、ページをめくる音、本をキャスターで移動させる音、文章を書く音…
次第に重なっていく音にまたしても楽譜をグシャグシャにする。

今度は美術館に移動した亮。
だが、思案する前から客の咳払い、ヒールで床を歩く音、話声…
普通の人が「静か」に感じる所ですら、亮には無理であった…

再び夜になり帰宅。
今度こそ静かに演奏できる。そうピアノを弾き始めるが、何か異音を感じる。
それはキッチンの冷蔵庫であった。
冷蔵庫を動かし電源を抜く。
だが、またしても何かの音が響く…

翌朝。加奈子が目にしたのは家中のいたるところにある家電製品の電源が抜かれた光景だった。
加奈子が作業部屋を恐る恐る覗くとそこには茫然と座る亮の姿があった。

亮をテーブルに座らせ、やんわりとコンセントについて聞く加奈子。
だが、亮の目は心ここにあらずの状態。
加奈子が差し出したコーヒーカップがすれる音、ドリッパーの音…


「静かに…してくれないかな…」


その言葉に驚く加奈子を置いて、亮はおもむろに立ち上がり、ドリッパーの電源を抜いてそのままに落とし壊した。
唖然とする加奈子に対し、「静寂」を手に入れ笑みを浮かべる亮。

作業部屋にかけられた自身の写真を外し、ついにDIYで防音壁を作り始める亮を見つけ止めに入る加奈子。
「ここがそんなにうるさいなら伊豆の別荘行きましょうよ」と引きとめるが、「だめだよ…波の音がする…」という言葉に何も返せない加奈子。
真顔の加奈子の目の前にし、完成した作業部屋の扉を閉める亮。

再び作業をしていくが、またしても何かカツカツ音がする。
それは加奈子がヒールで階段を下りる音だった。
だが、加奈子もそれに気づく。
何も見えない作業部屋。だが、その向こうからは明らかに自身をにらむ亮の視線を感じる。慌ててヒールを脱いで移動することに。

夜。作業の途中、またしてもパチパチと音を感じる。
それは加奈子が化粧水を肌にしみこませる音だった。
その様子を見た亮。


「うるさいんだ。」


家を出て行くことにし、少し心配そうな顔をしながら玄関の扉を閉めた加奈子。
ついに得られた「静寂」に机の上で笑顔を見せる亮…

だが、折角静寂を手に入れたにも関わらず、今度は救急車の音が鳴り響き集中できない。

ついに浅野に電話を入れ、スタジオを手配するよう依頼する。「曲が出来たのか!」と喜ぶ浅野に対し「静かな場所で…いや、音の無い場所…音の無い場所が必要なんです」と告げる。

防音スタジオを用意し、その中で思案する亮。
だが、スタジオの外で浅野に話しかけるスタッフの声がノイズのように聞こえて来る。
ピアノを叩き怒りを露わにする亮に驚く浅野とスタッフ。


「黙れ…」


「声が聞こえるはずがない」というスタッフに対し、マイクを通じて「静かにしろ!静かにしろ…」と亮は再び頭を抱えてしまう。


車で亮をどこかに連れていく浅野。後部座席でうなだれる亮を心配しつつ、ある施設に到着する。

用意されたのは真っ白いブロックが敷き詰められた異様な部屋。
研究員からは「この部屋は全ての音を吸収し、全くの無音の状態にします」と説明。そんな状況で作曲とは…という研究員に浅野は感謝し、亮に期待を込めて退室する。

分厚い部屋の扉が閉められ、部屋が機能する。
亮がキーボードのスイッチを入れ、鍵盤を叩いても音は出ない。それどころか叩く微かな音さえも発しない。ペンでキーボードを叩いても音はしない。
ついに手に入れた「完全な静寂」に亮は聞こえない雄たけびを上げる。

楽譜も筆が乗り、キーボードを叩きながら「聞こえない音」に聞き入る様に、染み入る様に順調に曲を仕上げていく。



が、


目を見開いて手が止まる。


何か音がする…



その音の正体を探るが、部屋の中には何もない…



再び不機嫌な顔を見せる亮。



その視線の先には…





あれから食事もとらず2日もこもりっきりであり、いくら「放っておいてくれ」と言えども限度があると説明する研究員に焦る浅野。

部屋を開いた浅野が見たのは



キーボードの前で微かな微笑みを浮かべながら微動だにしない亮。
亮は既に息絶えていた。



そして、その左胸には、愛用のペンが深く突き立てられていた。
あらゆる障害を排除した先に、彼が最後まで取り払えなかった「ノイズ」は、自身の心臓の鼓動だったのである。



だが、亮の表情は、とうとう「完全な静寂」を手に入れた事に満足気ですらあった…



【余談】
作中で登場した「無音状態にする部屋」は実在し、その呼称は「無響室」という。
特殊な造りになった壁の構造物が音の反響を吸収し、どんな微細な残響音も一切加わらない、音源本来の音を聞くことができる。
演奏家なら『楽器の純粋な原音を確かめることができる』、企業なら『機械の動作音の検証や音響機器の開発』などの用途で利用されている。
他の創作作品では、「怪奇大作戦」の恐怖の電話などにも登場している。
しかし、作中の描写のように「内部で発せられた音まで完全無音にしてしまう」というほどの力はなく、そんな現象を実現させるには、おそらく、音の発生原理的に、部屋の中が真空状態にでもなっていなければ不可能であると思われる。

追記・修正は静かな場所でお願いします

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