六等星(ブラック・ジャック)

登録日:2021/04/16(金) 00:12:37
更新日:2021/04/18 Sun 16:41:36
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「見える星は一等星から六等星まで分けてある。
一等星はあのでかい星だ。六等星はほとんど目に見えないくらいかすかな星のことだ。
だがな ちっちゃな星に見えるけどあれは遠くにあるからだよ。
じっさいは一等星よりももっと何十倍も大きな星かもしれないんだ。
世の中には六等星みたいにはえない人間がいくらでもいる。
━━わたしの出会った人もこんな人であった」




『六等星』は、『ブラック・ジャック』185話のエピソードである。
秋田書店チャンピオンコミックス旧版13巻・新装版13巻、秋田文庫版1巻他に収録。
テレビアニメではKarte:05『六等星の男』(2004年11月8日放送)として放送された。
また、テレビアニメ版以前に制作されたネット配信版アニメ(2001年)でも、第8話として公開されている。


【概要】

人の生き死にをテーマにする以上、どうしても患者が死ぬという「鬱展開」が避けては通れない本作において、珍しく落ち着いたトーンで描かれたエピソードである。
そのハートフルな展開から人気も高く、2013年に40周年企画として行われたエピソード人気投票では第2位という快挙を成し遂げた。



【あらすじ】

「ワーッ きえいー すろくきえいのよね」
BJと一緒に花火大会を見に行ったピノコはいつも以上にはしゃいでいた。
「キャー ちゅごーい もーちびれそー」
次々と打ち上げられる花火の大きさに感激するピノコ。


ドカン

「ちびれた」


直後、人だかりが発生する騒ぎが発生した。地上で花火が暴発し、大火傷を負う人が出てしまったのだ。救急車がすぐに来たこともあり、BJは静観を保つ。
花火大会が終わって2人が帰路につく途中、無数の星が瞬いている星空を眺める。
ピノコがBJにあの星は何かと尋ねると、BJは牽牛星、織女星といったメジャーな星を挙げていき、
「あのちっちゃーい消えそうなのは?」
「あんなのは知らん」
「あんなちっちゃいの消えたってわかんないわのよね」
そしてBJの本項目の冒頭の台詞へと続く。はたから見れば存在感がないように見えても、本当はすごい実力を秘めている人物がいるということをBJは語り始める……



【登場人物】

おなじみ名医。今回は権力欲にとらわれた医師たちに改めて「医師にとって必要なこと」を教えるべく憎まれ役を買って出る。
  • ピノコ
おなじみおしかけ妻。憎まれ役を買ったBJに「自分は最後まで先生の味方だ」と励ます。
おもらしを披露してしまった。


〇真中病院
今回の舞台となる病院。名の有る多く医師を輩出し、マスコミに取り上げられることの多い大病院だが
医局派閥政治的な負の面も持っており知名度の高く政治力に優れた医師が重用される弊害も抱えている。*1
劇中では、院長の死去による新院長の選挙活動が行われている最中であった。
アニメ版では、BJもかつて出入りしていたものの、当然ながら追い出されたことが本人の口から語られている。
  • 椎竹
CV:小林修、塩屋浩三(ネットアニメ版)
真中病院に20年以上勤めている医師。
キャリアは徳川や柴田に劣らないものの、「出世欲が全くない」という性格から、いつも手術では彼らのサポート役(本人曰く「下働き」)にとどまっていた。
この性格から病院内の医師からも「居るか居ないのかわからない」と言われるくらい影の薄い存在だが、いざという時の手際の良さはBJをうならせるほど。
  • 徳川
CV:筈見純、郷里大輔(ネットアニメ版)
新院長候補かつ派閥の主の一人。女性にもてるらしい。
周囲の医師曰く「人望・人格の点で申し分ない」という評価をされているほか、著書「ウンコのしかた」*2をベストセラーにするなどの経歴の持ち主。
演じるのは、『鉄腕アトム』のマグー、『きりひと賛歌』の竜ヶ浦博士。『ブラック・ジャック』では他に「化身」「帰ってきたあいつ」「助け合い」他に出演。
  • 柴田
CV:亀井三郎、田中和実(ネットアニメ版)
新院長候補の対立派閥の主の一人。
テレビの健康番組に出るなど一般層への知名度も高い他、経理にも明るいというアピール要素もある。
こちらは男性人気が高いらしい。
  • 椎竹の妻
CV:疋田由香里(ネットアニメ版)
全く出世欲がない夫にあきれながらも尽くすところは尽くしている。テレビアニメ版には登場しない(ネットアニメ版には登場)。




以下ネタバレ
新院長の選挙が決まった日、鉄骨を大量に積んだトラックが電柱にぶつかる事故が発生した。
運転手が鉄骨に押しつぶされて悲鳴を上げる中、帰路につく途中で事故に出くわした椎竹がそばに駆け寄った。
椎竹は「右腕が完全につぶされとる」と状況を確認する。
遅れてやってきた救急隊に、椎竹は「クレーン車で鉄骨をどけないと動かせない」と説明したうえで、応急処置として麻酔注射をすることにした。
「首を左へ曲げて……すぐ楽にしてあげるよ」
椎竹はそう言って運転手の首元に3秒で注射をした。
そして、救急隊にこれからの処置を説明して去ろうとする。救急隊はもう少し立ち会ってほしいと頼んだものの、椎竹はあとは病院に任せた方がいいとこの場を後にした。

一部始終を見ていたBJが椎竹に声をかける。
「先生…… しつれいですが…… 先生はどちらの病院ですか」
「真中病院ですよ」
「真中病院というと……あの……病院長がなくなられた…… 先生はそこの医長でも?」
「とんでもない。ヒラの医局員ですよ」
「信じられない!」

BJは先の注射の手際の良さを称賛するとともに、なぜヒラの下働きのままなのか疑問に思う。
「何しろえらい人が多いからね。大病院は」
「先生はベテランだ! なぜもっと地位を望まないのですか?」



「医者は欲が優先しちゃおしまいですよ…ハハ……」



BJはこの台詞に顔をほころばせた。


自宅に帰った椎竹は、晩酌をやりながら妻に選挙の話をする。
例によって自分はまるっきり無視されたという椎竹に対し、妻は「そうだと思ったわ」とこぼす。
「あなたって人はそういう欲が全然ないんですから」
「人には分相応ってもんがある。わしには今のままが一番合ってるんだ」
「もうあきらめてますけど さみしいわね」

一方、徳川・柴田両者の選挙活動はエスカレートしていた。
テレビ番組で大っぴらに院長の選挙をPRする柴田。
新刊『ウンコとトイレの関係』を配りまくる徳川。
そして当然ながら両者とも札束を各部署および各医師にばらまきまくった。
トラック事故の件を知り、椎竹も人気取りに関わっているのかと疑った柴田は
椎竹を呼び出して自分に投票しろと要求するが、椎竹は「わたしは自分で人をえらびますから」とつれない返事。
「とかなんとか言って徳川に入れるんだな!?」と憤る柴田を周囲(言動的に柴田の派閥の取り巻きの可能性が高い)がなだめる始末だった。



そして、暴力団にまで選挙資金を貰っていたことが発覚し、徳川・柴田両者のみならず、主だった医師がみな逮捕されてしまった。*3
新聞記事は「えらいこっちゃ」の文字で埋め尽くされていた。
真中病院は主だった医師が抜けたおかげで業務が麻痺してしまい、大変な騒ぎになったのだった。
これまでの話を聞いたピノコは「で その先生なにしてゆの」と聞く。
「さあね。じっとだまって見てるだろ」とBJは答える。
「さわがないの?」
「ああ。さわいだってムダだ。だれも気にとめない」
「まるでまぼよしみたいな人よのね」
そんな会話をしているうちに二人は自宅に到着した。


自宅に入ると電話が鳴り響く。
真中病院からの電話で、先の花火の暴発で大火傷した患者をBJに回したいと言ってきた。
今の真中病院は大手術をできるような医師が一人もおらず、お手上げ状態だと訴える。



「じょうだんじゃない。大病院でしょう。一人くらいいるでしょう」
「椎竹先生なんかどうです?」

そう、いいタイミングとばかりに椎竹の手腕を真中病院の医師たちに見せようという魂胆なのだ。
そんな先生の執刀なんて考えられないという病院側に対し、BJは「わたしに手術をたのみたいなら代金は5000万円ですぜ」と無理を承知で要求する。電話はこれで切れた。
電話をした医師は「こっちの弱みに付け込んで」と憤る。体表の36%が第三度火傷、そのうち3分の1が黒焦げ、おまけに骨折という重体状態の患者を助けられる医師がどこにいるかと困惑した。
やむなく医師たちは椎竹に執刀を依頼する。
椎竹は自分は今まで執刀責任者になったことがないのを承知でおっしゃるのかとたずねる。
どうせ怖気づいて断るとみていた周囲の医師たちだったが、

「やりましょう」
「ええっ」

みな仰天する。
「ほんとにやる気なんですか」と戸惑う医師に対し、椎竹は毅然とした態度で自分に協力してほしいと要求する。

まず、病院内から植皮の提供者を大至急で募るとともに、血液供給や血清を準備させる。
それ以降の椎竹の的確かつ迅速な指示に皆無言のまま従っていた。まるで今まで見ていなかったものを初めて見たかのような目で……

「今ごろ病院の連中は目がさめてるぜ。新院長をだれにするかってことをね」
「れも、そのかわい、にくまえちゃたじゃないのよさ」
「お前にはわからないんだよ……」
「先生って損よのね… いつれもひといぼっちで人にきやわえて……」
ピノコは窓から夜空を見上げる。



「ね、先生。あのずーっとはなえてひといぼっちで光ってゆのが先生よのね」
「ねー。そいれ あの先生の横れくっついてちっちゃーく光ってゆのは ピノコなのよのね」



【アニメ版】

  • ピノコと写楽が秋祭りがあることを知って大いにはしゃぐところから始まる。
  • ピノコの浴衣を買う際に、ピノコは大人向けを欲しがるが、結局子供向けを買うことに。すねるピノコに対し、BJは「ナイスバディになりたかったらお星様にお願いするんだな」
  • 劇中の事故は、クレーン車の横転に変更。椎竹の他に、居合わせていたBJも他の患者の治療に参加している。
  • 花火の暴発の際、BJ・ピノコも患者と共に救急車で真中病院へ向かう。その際に足の骨折の応急処置をBJが施す。*4
  • 真中病院内で、BJは医師たちに改めて椎竹に手術を任せるか、5000万円を支払うかを選択させる。




【余談】

現在の観測史上最も明るい光を放つ恒星は、大マゼラン雲内にある「R136a1」と呼ばれる恒星である。その光度(放出されるエネルギー)は太陽の871万倍という明るすぎるにも程がある威力を誇っている。しかし、地球から16万3000光年という途方もない距離に位置しているせいか、地球での見かけの等級は12等級と暗すぎるにも程があるにとどまっている。


追記・修正は肉眼で六等星を見つけられる人がお願いします。


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最終更新:2021年04月18日 16:41

*1 アニメ版ではBJが「院長は自分の気に入った医師しか目にかけない」と語っているほど。

*2 アニメ版ではさすがに「健康本」とぼかされていた

*3 アニメ版では病院の金を横領したということになった

*4 その跡を見た椎竹は「これは応急処置のレベルではない」と驚嘆する