接がれた紐(Q.E.D. 証明終了)

登録日:2021/10/18 (月) 03:09:00
更新日:2021/10/20 Wed 00:50:22
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見落としてた……

僕のミスだ



()がれた紐』とは、『Q.E.D. 証明終了』のエピソードの一つ。単行本第21巻に収録。
同時収録作は「狙われた美人女優、ストーカーの恐怖 絶壁の断崖にこだまする銃声 燈馬と可奈はずっと見ていた」。
以下、ネタバレにご注意ください。



【ストーリー】

級友たちとのスキーに寝坊した可奈とその保護者役として彼女を待つよう駅に置いていかれた燈馬。
バスで級友たちを追いかける2人だが、深刻そうな顔をしたカップルが雪山の登山口でわざわざ降りて行ったのを心中ではないかと思い、後をつける事にした。
足跡を見失い道に迷った末に、2人は大企業の東泉グループ所有の別荘へとたどり着き社員の厚意で泊めてもらえる事になったのだが、
そこで先ほどのカップルが社長の一人息子の東泉光司とその恋人の鹿島里美である事、彼らが社長の東泉昭信に結婚を反対されている事を知る。
重い空気の中で迎えた翌朝、昭信が自室で首を吊った姿で発見された。
当初は自殺かと思われたが自殺する理由がなくなっていた事、そして他に自殺する方法を用意しておきながらわざわざ首を吊った事から他殺の可能性が浮上する。



【事件関係者】

父さんの奴 話にならない
まるで耳を貸さないんだ
  • 東泉光司(ひがしいずみ こうじ)
東泉グループ専務取締役にして昭信の一人息子。
里美との結婚を考えているが父に反対されている。
説得のために父が静養中の別荘へと向かう所を可奈達に目撃された。
別荘到着後、さっそく父の部屋に向かうも「二度と顔を見せるな!」と話も聞いてもらえなかった。
2日目の朝は7時半に1人で起きてきたが、遅れて起きてきた彼女と会話せずに朝から部屋に戻ってウィスキーを飲んでいた。


やっぱり無理なのよ
私達の結婚……
  • 鹿島里美(かしま さとみ)
光司の恋人。
バツイチ(死別か離縁かは不明)で前夫との間の連れ子がいるため光司との結婚を昭信に反対されている。
光司とは同室で、就寝前には「やっぱり無理なのよ」と悲観的な事を口にしていた。
2日目の朝は1人遅れて起きてきたが光司とは目を合わせただけで会話せずに本を読んでいた。
光司は「疲れたから後で来る」と言っていたが、就寝前に喧嘩してしまったのかもしれない。
それでも前向きになったのか昭信の朝食を持って行く役を自分がしようかと名乗り出たが、沢口からは「よした方がいい」と止められてしまった。


  • 東泉昭信(ひがしいずみ あきのぶ)
東泉グループ社長にして光司の父親。グループの5代目当主。
光司と里美の間に子ができないまま光司が死ねば東泉の血を引かない里美の連れ子に家督が回ると考え、2人の結婚を反対している。
作中では肖像画でのみ顔が描写され、その肖像画からは柔和な性格の印象を受ける。
だが現実には自信家で周囲からも恐れられ一つ間違うと問題の中心になって誰にも止められなくなるという、『鬼神』に例えられるような存在らしい。
直接の面識がまだなかった時の宮部からの評価ですらこれなので、実際に会った人からの評価はお察しレベルだろう。

燈馬達がやって来て2日目の朝7時半過ぎ、朝食を取るか伺いに来た宮部に「2時間後に部屋に持って来い」と告げた(宮部曰く、まだパジャマだったらしい)。
しかし9時半、沢口が朝食を持って行くと部屋に鍵はかかったままで返事もなく、管理人室のマスターキーで開けると首を吊っていたのを発見される。
当初は業績悪化の経営責任を問われて精神的に追い詰められていた末の自殺と考えられていた。
しかし前夜に届いていた中間期決算報告のFAXでは業績がわずかながら好転していた。
更に彼のベッドサイドにはバルビツール酸系の睡眠薬(大量摂取すると死の危険のあるため現在は流通していない睡眠薬)がわざわざ置かれていた。
という事は彼はこの別荘に静養目的で来たのではなく、決算報告で業績回復の兆しがなければ睡眠薬で死ぬつもりだったのだと言える。
だが実際は決算が回復を示しているのに彼は自殺し、更に睡眠薬があるのに何故か首を吊っている事になる。
これはつまり、彼は自殺計画の事を知らない別の誰かに殺されたという事である。


空気が重い……
だろ?
だから君達にいて欲しかったんだ
  • 宮部洋太(みやべ ようた)
東泉グループ取締役付秘書。光司の秘書だが彼より年上。
沢口に追い払われようとしていた燈馬と可奈を泊めてあげるよう進言した。
光司の頼みで来たようなのだが(結婚を説得するための助っ人要員か?)話すら聞いてもらえない現状では出来る事も特にないようだ。
空気が重くなるであろう場所に1人で来たくなかったのか、当初は会社の同僚にも来てもらうつもりだったらしい。
しかし都合がつかずに来てもらえず、そこへ別荘に辿り着いた燈馬達を見つけ、地獄で仏とばかりに自分の責任で2人を迎え入れたのだそうだ。
2人に割と友好的な態度で接してるのも別荘全体がピリピリムードで居場所がないからかもしれない。

2日目の朝、昭信も食堂に来るのか最初に疑問を口にしたせいで沢口から「じゃあ本人に直接訊いて来てくれ」と頼まれてしまった
(まあ、その場にいたのが朝食準備中の沢口、胃腸炎に苦しむ浅井、「顔を見せるな」と言われたばかりの光司、そして部外者の燈馬と可奈なので仕方ないが)
この時が初めての昭信との直接の対面だったようだが、その内容が「朝ごはんどうしますか?」となってしまった彼の心境や如何に。


光司君もあきらめた方がいいな……
連れ子のいる相手との結婚など昭信社長は絶対認めんよ
  • 沢口順造(さわぐち じゅんぞう)
東泉家別荘の管理人。
別荘を売り払う計画が上がっているらしく、来年には仕事を失ってしまうかもしれないらしい。
そのせいなのか初登場時はかなり気が立っていて、吹雪の中をさ迷ってやって来たはずの燈馬達を当初は追い出そうとしていた。
宮部が責任を持つと言っても乗り気ではなく、ただ飯はさせないと言わんばかりに2人に配膳や暖炉用の薪運びなどをさせる。
昭信の遺体発見後は現場保存のために鍵をかけに行った所で現場検証中の燈馬と会い、遺体にかかっていた紐を始め、色々な事を教えてくれた。

別荘のマスターキーは沢口の寝泊まりする管理人室で管理され、遺体発見時に鍵を持って来たのも沢口である。
また彼自身のアリバイを証明できる人もいないため、鍵を持ったまま朝のうちに犯行を終え、遺体発見前に鍵を持って来たフリをすれば犯行が可能である。
一番疑われやすい状況という自覚は彼自身にもあったようだが、可奈が燈馬の指示でトイレや風呂場から外へ出られるか調べていたのを知り、
2人が自分を犯人と決めつけずに様々な可能性を考えていた事に意外そうな表情をしていた。

2日目の夜、管理人室に戻る時に遺体にかかっていた紐について何かを思い出しそうになっていたが、
凍りかけていた雪で足を滑らせそうになったのに気を取られてしまい、結局何を思い出しそうになったのか気にする事なく戻っていった。
しかし3日目の朝、朝食時になっても管理人室から出て来ないのを寝坊と思って起こしに来た燈馬達により、昭信と同じように首を吊った状態で発見された。
彼の遺体のあった管理人室は別荘から数メートル程度しか離れていないが、凍りかけていた雪上には沢口の長靴の足跡しか残っていなかった。
その後、駆けつけた警察により『自殺に見せかけて昭信を殺害したが、自分の犯行と見破られるのも時間の問題と考え追い詰められた末に自殺』と結論付けられた。


由美……孝二……
父さん頑張るからな
  • 浅井忠義(あさい ただよし)
銀行員。2児の父。
彼の銀行は不良債権を処理するよう行政指導を受けており、その中で彼は東泉グループの担当を任されていた。
現在の東泉グループは昭信の意向により強引な事業拡大を推し進め業績が下降気味だった。
その業績を回復させるには昭信を引退させて路線変更を図る必要があったため、彼を説得するために別荘へとやって来ていた。
しかし実の息子の光司の話すら聞いてもらえない現状で「社長を引退しろ」と説得できるとも到底思えず、心労は増すばかり。
定期的に訪れる吐き気、腹痛により昼夜問わず何度もトイレに向かっていた。

結婚の反対に憤る可奈に里美の家庭事情を教えてくれた。
それにしても光司と里美の件は他人のゴシップだし何より可奈に訊かれたからと納得できるのだが、
訊かれてもないのにグループの経済事情まで話してしまったのは銀行員として流石に如何なものか。
(まあ彼も上司から無理難題を押し付けられて、誰か後腐れの無さそうな人に愚痴りたかったのかもしれないが)


  • 東泉福生(ひがしいずみ ふくお)、永美(えいみ)
先々代のグループ当主とその妻。共に故人。
福生は昭信の兄にあたる。
昭信の部屋の箪笥には福生の浴衣が、物置には永美の着物が入ったままの京つづらが今も残っている。
沢口が言うには、2人の間には残念ながら子供はできなかったようだ。





熊でも出たらどうするんです?
そのときはこの棒でバーンと!

ドサドサドサ

……足跡が消えた……

  • 燈馬想
この漫画の主人公兼ホームズ役。
冒頭では可奈の遅刻に付き合わされて駅で待たされ、更に雪山で道に迷うなど色々と振り回されていた。
暖炉用の薪を取りに宮部の案内で物置に行った時には、永美の着物入りのつづらや中学生用の参考書を見つけると同時に違和感も感じていた。
また沢口の死後に駆けつけた警察が彼の足跡の写真を撮る時には自分の足跡を付けないよう板を渡して体重を分散させていたのを見て、何かを思いつく。
その後、自殺した沢口の犯行という事で取り敢えずの結論が出て帰されたがその3日後、
水原家の大掃除に付き合わされて彼女の家の物置を見た時に違和感の正体に気付く。
真相に辿り着いた彼はその後、大掃除のお礼として水原警部に容疑者たちを再度呼び出してもらう。

  • 水原可奈
この漫画のヒロイン兼ワトソン役。
熊が出た時用に枝を見つけるが、調子に乗って木の幹をぶったら雪が落ちてきて光司達の足跡は埋もれてしまい、2人は道に迷う結果となってしまった。
2日目の朝は朝食を取るか訊きにため息交じりで昭信の部屋に向かう宮部を「私達も一緒に行きましょうか?」と気遣い、
「少し離れた階段の辺りからこっそり覗きながら見守ってて」と涙目で頼まれ、燈馬と共に彼の雄姿を見届けた。
遺体発見後は燈馬の指示でトイレと風呂場を調べ、浅井がこっそり窓から出入りして管理人室に鍵を取りに行った可能性はないと判断した。
また帰宅後の大掃除では物置から幼少期に遊んだおもちゃの人形を見つけるが、
それを見た燈馬は違和感の正体が『 参考書はあったのにおもちゃが無かった事 』だと気づく。




【キーワード】

  • 東泉家の別荘
初代当主、東泉周蔵が建てた物で築50年は経っているらしい。
1階にはワンルーム型のLDKに窓のないトイレと換気用の天窓しかない浴室。
2階は突き当たりが昭信の部屋で、向かって右は奥から光司と里美、可奈、燈馬の部屋が、同様に左は奥から宮部、浅井の部屋が並ぶ。
沢口の寝泊まりする管理人室は別荘から数メートルほど離れた位置に、物置は別荘を挟んで管理人室とは反対側に位置している。
ちなみに光司は里美と同室だが2人の部屋はベッドの数やレイアウトから、どう見ても私室ではなく客室。
つまりこの別荘で私室を持つのは昭信だけで、それ以外は家族の光司すら特に私室を持ってないのだろう。

全部屋に使えるマスターキーは管理人室にあるため、昭信の部屋に侵入するにはまず外に出なければならない。
しかし2日目の朝、朝食を取るか宮部が訊きに行った7時半から遺体発見の9時半までの間に外に出たのは、
暖炉の薪を取りに行った燈馬と可奈、それに2人を手伝った宮部だけだと、玄関の見える位置にいた沢口は証言している。
また昭信の部屋の鍵は机の上に置かれていたが、沢口曰く普段彼は部屋に鍵をかけることはないらしい。

  • 肖像画
別荘の居間の壁に掛かっている歴代の東泉家の当主の肖像画。
初代、2代目、と続き3代目の福生、そして5代目にして当代の昭信の肖像画が並ぶ。
4代目に当たる人物の肖像画はないが、どうやら肖像画が描かれる間もないほど期間が短かったようだ。

  • 男性用の浴衣の帯と女性用の着物の帯留め
昭信の遺体を天井の梁から吊るすのに使われていた
輪になって昭信の首にかかっていたのは帯留めの方で、帯は帯留めに接ぎ足されるかのように、遺体を梁から吊っていた。
沢口曰く、帯は昭信の部屋の押し入れ内の箪笥に仕舞われていた福生の物。
帯留めには覚えがないようだが、昭信の妻(光司の母)は別荘に来た事がないまま亡くなっているため、永美の物だろうとの事。

  • 参考書
束ねた状態で物置に仕舞われていた中学生用の参考書。
手に取った可奈曰く20年前の物らしい。
宮部によれば光司は20代後半らしいのでどうやら彼の物ではないようだ。












以上……証明終了です。

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最終更新:2021年10月20日 00:50

*1 なお現実には首に痕が付くほどの強さで絞殺したならその時点で索条痕により他殺だとバレる(自分で首を吊った場合、横から見た時の縄の痕が斜めになるが、絞殺された場合は縄の痕がほぼ水平になる)。

*2 昭信の顔は肖像画でしか描写されていないと前述したが、このシーンのみ例外的に彼の表情が描かれている。と言うより、このシーンだけのために他のシーンでは彼の顔を描かなかったのだろう。ちなみに回想では永美の顔も描かれずにいる。

*3 ちなみにこの時の回想では墓石には『宮部家の墓』と刻まれているため、『洋太』と違い『宮部』は本名である事が窺える。