ピアノ・レッスン(古畑任三郎)

登録日:2022/05/21 (土) 00:10:29
更新日:2022/06/24 Fri 23:42:34
所要時間:約12分で読めます




自分が人に嫌われてんじゃないかって心配している皆さん。
安心してください。そういう場合は大抵本当に嫌われています。
問題なのは、自分が人に嫌われているのが分かっていない人の方で…

『ピアノ・レッスン』は『古畑任三郎』のエピソードの1つ。
初回放送は1994年5月18日。1stシーズン第6話である。
文庫版でのタイトルは「井口薫のレクイエム」

※以下ネタバレが含まれますのでご注意ください。

ストーリー

ピアニストの井口薫は理事を務める音楽学校の前理事長の「音楽葬」に向けて、前日深夜に練習する川合をスタンガンで襲撃、心臓発作に見せかけて殺害する。
しかし、殺害時にレクイエムを演奏するのに大事なピアノの最低音である「D」の弦が切れてしまう。
翌日。古畑が捜査をする一方、代わりにレクイエムを演奏する人物として井口が呼び出された…

登場人物

【ゲスト】
  • 井口薫
演:木の実ナナ
ピアニスト。
テレビでも披露しているらしく知名度も高い。
塩原音楽学院の理事及び講師を務めており、前理事長だった「塩原一郎の最後の愛弟子」という異名を持つ。
しかし、純粋に音楽に向き合う自分に対して拝金主義に入った川合理事長の経営方針と反りが合わなかった事。さらに塩原の愛人だったこともあり、他の理事からも遺族からも疎まれており、強引に「アメリカでの仕事」を入れられ音楽葬への出席を拒まれていた。

深夜に翌日演奏する「追悼のレクイエム」を練習する川合をスタンガンで襲撃。一度目の襲撃で倒れこみ、逃げる川合にとどめの一撃を刺し殺害。外傷も無く、さらに川合には心臓の持病があることから心臓発作による自然死として処理され、さらに代打として演奏を頼まれるよう仕組む。しかし、川合がピアノに倒れた衝撃でレクイエムの演奏に必要なピアノの最低音の「D弦」が切れてしまい、それに頭を悩ませることになる…

明るい性格だが、楽器の取り扱いを含め妥協は一切許さず、生徒に対しては手を上げた事もあるらしい。また、2年前には痴漢を撃退したこともあるなど胆力も高い。

  • 川合健
演:中丸新将
音楽学院理事長。
実質引退状態だった塩原に代わり数年前から学院の実権を握っており、1ヶ月前に亡くなった塩原の後を継ぎ理事長に就任した。
ピアニストとしての腕は井口に劣るが、理事時代には音楽学院に新たに「一般コース」を設立し多くの生徒を入れる事に成功。急成長を遂げた一方、井口を始めとする「音楽を愛する人」には不満が持たれていた。
元々心臓に持病があり、1年前にも心臓の病で倒れておりそこから通院していたようだった。
練習中に背後から井口にスタンガンで襲われ、2度のスタンガンで息絶える。


【レギュラー陣】

ご存知和製コロンボ。
今回はタクシーで事件現場に来るが、1万円札を拒否されたため780円のタクシー料金を100円7枚、10円7枚、5円1枚、1円5枚と大量の小銭で支払う。
ピアノは少し齧ったらしく、北島三郎「函館の女」をちょっとだけ弾ける*1
また、コンビニ飯が好きという一面も。

ご存知最低のワトソン。
今回は目立ったポカはしないものの、説明の最中に古畑にピアノを弾かれたり、背後で学院の生徒が練習する音に集中をかき乱されるなど何もしていないだけにさらに不憫。
さらにコンビニのおにぎりを綺麗に開けられないという面を見せる。


序曲

古畑が「函館の女」を弾く間、今泉によって状況が説明される。
川合は夜11時に会場に来て練習を始め、日付が変わった2時の間が死亡推定時刻となる。と、1つ鳴らない鍵を古畑が見つけスタッフに教える。
やはり自然死と考えるのが普通と言う今泉を制止し、川合の死体についていた腕時計に注目する古畑。腕時計は日付が変わった15日の0時10分頃で止まっており、さらに秒針がチラチラ揺れる挙動を見せていた。

こういう状況下になってしまったが、音楽葬は中止できないと他の理事は決行を決断。しかし、レクイエムを弾ける人物がいない事から代打に井口を提案。他の理事は遺族への反応なども含め難色を示すが、背に腹は代えられず頼むことに。

明けて翌日。空港に向かう途中に自動車電話で理事からの要請を受け取った井口は行き先を変更し会場へ到着。応接室には古畑も入るが、入り口付近に置かれていたスーツケースを蹴飛ばして倒してしまう。
緊急事態に頭を下げる理事たちに嫌味を言いながらも井口はレクイエムの演奏を引き受ける。

古畑と井口が2人きりとなり、古畑が井口にサインを求める中、学院の生徒と遭遇。井口は応接室にあるスーツケースを運ぶことと、警察の捜査の影響も考え本番前にピアノの調律をするよう頼む一方、クラリネットをケースに入れずそのままの状態で持ち運んでいたことをきつく叱る。あまりの剣幕にそばで見ていた古畑も思わず自分のことのように緊張してしまう。

近くの公園で生徒たちの練習を聞きながら古畑はコンビニで買い出しをしていた今泉と合流。おにぎりは鮭とおかかとウニマヨネーズ、そして魚肉ソーセージを食べる中、今泉が調査した井口の人となりやここ最近の学院の事情について聞き出す。

古畑は井口の楽屋を訪ねる。井口は正直に「塩原の家族からは嫌われている」と打ち明ける一方、今朝は自動車電話で要請を受けとったと告白。しかし、昨夜の居場所を聞く古畑に「こういう質問に何の意味があるのかしら」と嫌悪感を抱き出ようとするが、川合の遺体が解剖に回されるという事に驚き踵を返す。
古畑は既に殺人だと踏んでいた。理由は腕時計が0時10分で止まっており、川合が亡くなった時間とほぼ一緒であること。「倒れた拍子に壊れた」と井口は言うが、腕時計の表面には傷一つない。さらに完全に止まったわけでなく秒針が震えており、物理的ではなく電子回路的に壊れていた事から。持ち主が死ぬと同時に時計も同時に壊れるだろうか…
と、井口のネックレスが壊れてしまいビーズが飛び散ってしまい2人で回収することに。
ネックレスを片付けながら再び話を続け、「『時計と心が通じ合っていた』といういい話」のロマンチックな説を訴える井口だが、古畑は「大きな電気ショックを浴びせられ心臓と共に時計も止まった」という現実的な説を訴える。
さらにレクイエムのための衣装は昨日クリーニングから帰って来たばかり。何もかもグッドタイミングな事を告げて古畑は井口の楽屋を去る。
徐々に井口に古畑の手が迫っていた…

リハーサル室にて井口が様々な楽譜を読む中、再び古畑が訪れる。
小腹空いたため持ってきた魚肉ソーセージを薦めるが断られたため1人で袋を剥きシールを地面に捨て食べ始める。井口も気を利かせて何か持ってきてもらおうと内線電話でスタッフを呼ぶが誰も応答してくれない。リハーサル室の外に出ても誰もおらず。だが、誰かがその様子を見ており…
結局頼むのは諦め再び古畑がピアノで「函館の女」を弾く中、井口もある楽譜を見つける。

「スタン銃ってご存知ですか?」

突然の言葉にシラを切る井口。実は2年前に痴漢を撃退した時に使ったのが「スタン銃」だった。アメリカで護身用に買ったがめったに使わないらしく今はどこにあるか分からないとの事。だが、古畑は川合がその「スタン銃」で殺されたと目星をつけていた。

「古畑さん、私のこと疑ってらっしゃるの?だったらどうしてスタンガンの事なんて私に聞くの?」

「スタン銃」ではなく「スタンガン」という名称だったことにようやく気付いた古畑だが、明らかに井口を疑っているのは見え見えだった。

「古畑さん、どうして私に目を付けたかはわからないけど、ちょっと不愉快です。」

謝る古畑だが、空気を良くするために2人でピアノの練習。流石の腕を見せる井口に喜ぶ古畑だが、リハーサル室の扉から何故か生徒が覗いていた。呼び止めて古畑への食事、そしてステージ上のピアノの調律の念を押す。井口も心配になったからか古畑と共にエレベーターでステージに向かう事に。だが、その様子をまた誰かが見ており…

エレベーターに2人で乗り込む中、古畑は井口にピアノの弦について尋ねる。ピアノの弦はそうそう切れないのだが、ステージのピアノは前にも切れたことがあったらしい。また、高い音の弦は切れてもすぐに直すことができるが、低い音の弦は修理に1週間程度時間がかかるらしい。
と、その時誰ががエレベーターの電源を落としエレベーターが止まってしまう。非常電源はついたものの、焦りで「非常ベルを鳴らしたほうがいい」という古畑に対し「あと1分待った方がいい」と怖がらず余裕を見せる井口。一方、古畑が塩原と井口の関係について聞くと「お互いの才能に惹かれあっていただけ」と答え、古畑も「それも1つの愛の形」と肯定する。宣言通り1分ほど経ち非常ボタンを押そうとしたところでようやくエレベーターが動きだした。ステージに向かおうとするがエレベーターが止まった結果、開演までギリギリ。既にお客さんも入ってきたため急いで楽屋で支度をすることに。

いよいよ音楽葬が始まった。
舞台の下手(客席から見て左側)に井口が準備、古畑も上手(客席から見て右側)の袖で様子を見守る。
舞台に井口が登場しピアノに座り「追悼のレクイエム」を弾く。が、客席の一部からはざわざわとした声が。古畑の近くの理事も演奏している曲が「追悼のレクイエム」でないと焦り始める。

音楽葬が終わり「なぜ違う曲を弾いたのか」と考える古畑の元に激怒する井口がやってきた。古畑が嗜めて事情を聞くとちゃんと調律できておらず、最低音の「D」の弦が切れていた事に寸前で気づき、そのためレクイエムではなくD弦を使わない曲を演奏したとのこと。「自分を貶めようとした」と理事たちに激怒し井口は楽屋に帰る。
一方、古畑は1人客席に戻るが、ステージのピアノの脚の車輪に「何か」が付いているのを発見し関係者を呼ぶ。


井口薫は川合健を殺害しました。
方法はスタンガンによるショック死。
証拠はありません。残念ながら。
しかし、彼女は1つボロを出しました。
彼を殺したのは自分であると知らず知らずのうちに告白していたのです。
考えてみてください。解決編はCMの後。
古畑任三郎でした。






※以下さらなる真相に至るまでのネタバレが含まれますのでご注意ください。





終曲

古畑によって井口はステージに呼び出された。井口によると先ほど演奏した曲は「北京の冬」とのこと。普通ならパニックになりそうなところを最低音のDを使わない曲を冷静に思いつくのは流石プロと古畑も讃える。
だが、「弦が切れていることにいつ気付いたのか」と古畑は指摘する。井口は「ステージに立った時に見えた」と言うが、古畑は頭を抱える。

「本当はもっと前から知ってたんじゃないですか?」

あれだけ口を酸っぱくして調律の事を気にしていたら当然細心の注意を払って調律するはず。そうすれば弦が切れているのが分かる。低音部の弦が切れると直すのには時間がかかる。そうなるとすぐにそのことを伝えに来るはず。
しかし、どれだけ待ってもその事を誰も言ってこなかった。それ故に井口は焦っていた。
リハーサル室で楽譜を調べていたのは低音部のDを使わない曲を探していたから。そのことを古畑の目の前で堂々とやってのけていたのだった。

だが弦が切れていたのを知ったのは演奏の前ではない。いや、「不可能」なのだ。
古畑がステージ上のピアノの最低音のDの場所を井口に再三確認させた上でそのキーを叩くと、音が出た。
「弦は切れてなんていないんです。あの音も!(ポン♪)この音も!(ポン♪)その音も!!(ポン♪ポロロロロン♪)どこも切れていません」

ならばどうしたのか?それはスタッフがピアノごと取り替えたから
実はステージ上にあったピアノはリハーサル室に置いてあったピアノ。その証拠に車輪にはリハーサル室で古畑が捨てた魚肉ソーセージのシールがついていたのだった。
「『弦が切れていない』と井口は思っている」と思っているスタッフたちは正直に報告したところで「管理がなっていない」と雷が落ちるのは目に見えていた。そこでスタッフ総出で極秘でリハーサル室のピアノをステージ上に持ってくる作戦を決行。スタッフルームに電話しても人がいなかったのも、生徒が見張っていたのもこの一環であり、さらにはピアノを運ぶのを見つからないためにもエレベーターを止めてまで時間稼ぎをしていた。
ちなみに弦が切れたピアノは古畑がいた上手側の袖にあった。
この日訪れてから本番まで井口は一度もステージの上には立っておらず、ピアノの弦が切れているのを知るチャンスは一度もない。なのに知っているのは川合を殺害した時に弦が切れているのを目撃したから…

井口は儲けに走る川合や今の理事会とやり方が合わず、純粋に音楽に一生を捧げた塩原の遺志を守りたかった。古畑も「気持ちはわかります」と寄り添うが「殺しはいけません」と嗜める。

古畑が最初に井口に疑いを持ったのは応接室にてスーツケースを蹴飛ばしてしまった時、それが軽すぎた事だった。これからアメリカへ行くにはあまりにも量が少なすぎる。何故なら理事たちが川合の死を知り自動車電話がかかってくることを知っていたから…
「嘘でももうちょっと詰め込むべきでした…」

逆に古畑は井口にある質問をする。川合を殺そうと思えば夜道でもどこでも殺すことが可能なのに何故リスクのある舞台上で殺したのか。
その質問に井口は「他の場所では発見が遅れることもあるでしょ。」と答える。舞台上なら遅くても朝には確実に死体が発見される。発見が遅れてしまうと本当に飛行機に乗ってしまい音楽葬に出ることはできない…

「そう…切れてなかったの…だったら…レクイエムを弾けばよかった…」

涙を見せる井口に古畑は追悼のレクイエムを弾いてくれるよう頼むが、井口は「大それたこと言うのね。弁えなさい。」と断り、古畑に連行されていった…

アンコール

  • 「古畑の好物のひとつが魚肉ソーセージである」という設定は、このエピソードが初出。
  • 「全ての真相があらわにされた後に犯人が落涙する」場面は、実は他のエピソードに無い。
  • Dの弦が切れた理由を「被害者が倒れ込んだ際に鍵盤部分へ強い衝撃が加わったから」としているのだが、この経緯についてピアニストの中村紘子が事実誤認を指摘している。低音域の弦はかなり太くて強度もあることから、実際にはよほど手入れがおろそかであるか設置環境が劣悪でもない限りは破断しない。


追記・修正は函館の女を弾きながらお願いします。

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最終更新:2022年06月24日 23:42

*1 この部分はヨナ抜き音階と言われる黒鍵だけで弾ける曲の一つ