登録日:2022/05/28 (土曜日) 21:33:10
更新日:2022/05/28 Sat 22:42:34
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【ストーリー】
演劇部の部長から紹介されたテレビ局のアルバイトに参加した燈馬と可奈。
2ヵ月前、大手製薬会社社長、東屋耕一郎が自宅で殺害され、事件当日の来客者のうちアリバイの無かった娘婿、西陣晶が逮捕された。
しかし西陣は無実を訴え続け、証拠も状況証拠ばかりで決定的ではない。
そこで顧問弁護士の白台正義はテレビ局の協力のもと、西陣の他に犯行が可能な者がいなかったかを検証するために、
燈馬たちアルバイトに現場に居合わせた4人の来客者たちの当日の動きを再現してもらう事にしたのだ。
周囲の目を盗んで被害者の部屋に行けたらバイト代を上乗せするという約束のもと、事件の検証が始まった。
【事件関係者】
わかったようなことを…
生きるってことは他の命をすすることだ
違うか?
被害者。
製薬会社、東屋製薬社長。
離婚した前妻との間に2人の子供がいるが、息子は跡継ぎの勉強のために現在渡米中で、娘は西陣と結婚し家庭に入っている。
生前は玲子との離婚騒動のほか、経営に失敗しては周囲に責任を擦り付けるなどの問題行動を起こしまくっていた。
しかもそれを白台に咎められても「
生きるとは他人の命をすすることだよ
」などとしたり顔で語るという、正直、見ていて嫌気がさすレベルの男である。
しかし人の才能を見抜く目はあったようで、白台や西陣などは学生時代から彼に才能を見出され、学費や生活費などの援助を受けていたようだ。
だがそうして『投資』した相手を卒業後は恩義で縛ってこき使っていたため、女性リポーターは彼らを耕一郎の『戦利品』だと評していた。
2ヵ月前、自宅の書斎で何者かによりボウガンで胸を撃たれ、更に首を絞められて殺害された。
元々この日は多すぎるトラブルをまとめて解決しようとトラブルの相手を集めて話し合いを兼ねた食事会を開く予定になっていた。
死亡推定時刻は午後の4時〜6時。
耕一郎の後妻。年齢差26歳。
前妻と離婚後の耕一郎と3年前に再婚したが、「すぐ別れる」という世間の噂は見事に的中。
原因は耕一郎の浮気で、財産分与でもこじれて現在は離婚調停中。
事件当日の来客者の1人で、午後4時時点では客間に南井といた。
だが待ちくたびれたのか4時半に食堂に行き勝手に酒を飲み始め、酔って以降は台所で家政婦達に絡んだり裏庭の見える勝手口に立って飲み続けたりしていた。
5時半に庭に出て北中に「あいつのこと嫌いなら一緒に殺しに行こうよ」などと絡み始め、更に書斎から出てこない耕一郎に業を煮やしたのか、
「いるのはわかってんのよ!出てこい!!」などと叫び始めた。
耕一郎の機嫌を悪くしたくない他3人から止められ「じゃあ時間まで酒の相手してよ」と誘われ、以降は4人で食堂で飲んでいたらしい。
東屋製薬海外営業部部長。耕一郎の娘婿。
東屋製薬は抗がん剤の新薬開発に取り組んでいたが、耕一郎の発案で、人権意識が未発達で手続きの簡略化できる発展途上国で臨床試験を行う事にしていた。
だが時間優先で安全対策が疎かだったため、比較用に偽薬を与えられていたグループから死者が出てしまった。
そして発案者の耕一郎は海外担当の西陣(とついでに前社長の北中)に責任を押しつけたのである。
西陣は同時期に夫婦仲も悪化していたため、早く手を打たなければ公私共に破綻する危機にあった。
事件当日の来客者の1人で、午後4時時点では北中と共に時間潰しに庭を散策していたが、
4時半には宿泊用に用意されていた居間②に移っていた。
そして5時、一刻も早く耕一郎と話し合いたかったからなのか、まだ夕食前にもかかわらず1人書斎へと向かった。
しかし書斎の外から声をかけるも「その話は夕食後だと言ったろ!」と怒鳴られてあえなく退散。
それから5時半までまた居間②にいたが、酔って庭にいた玲子が耕一郎を挑発し始めたため、
他の2人と共に慌てて止め、彼女を宥めるため以降は食堂で共に酒を飲んでいた。
5時に書斎に向かったのを見ていたのは庭にいた北中だけで、
彼の目を盗めば書斎に入る事も出来たため、この時に耕一郎を殺害したと警察に判断されその日のうちに逮捕される。
逮捕の際に何とか駆けつけた白台からは「待ってろ!」と励まされていたが、
それから2ヵ月後の現在、ついに犯行を『自供』してしまう。
東屋製薬前社長。
何故か今回の登場人物の中では唯一下の名前が不明。
営業からの叩き上げで一時は社長にまで上り詰めたものの、創業者一族である耕一郎に疎まれ追い出された。
噂では失脚のために耕一郎に不正会計情報をリークされたとか。
その後も耕一郎は経営ミスがある度に前社長の北中に責任を押し付けていたようで(上記の臨床試験もその中の1つ)、
北中は周囲に「いつか殺してやる」と漏らしていたそうな。
事件当日の来客者の1人で、午後4時から時間潰しに庭を散策していた。
西陣が部屋に戻った4時半以降も1人で庭に残っていたが、そのせいで5時半に庭に来た玲子に絡まれていた。
部分的に描かれた回想では玲子の「耕一郎みたいなクズをかばうの!?」に「誰がかばうか!!」と反論していたが、
この会話の流れを考えると普段の言動とは裏腹に、耕一郎を庇ってると玲子に勘違いされるくらいには良識は持っているのだろう。
東屋製薬傘下の不動産会社社長。
一昨年に耕一郎の発案でマンションが建てられたが全然売れず失敗。
株主代表訴訟にまで発展するほどのその大赤字の責任を耕一郎に押し付けられていた。
事件当日の来客者の1人で、午後4時時点では玲子と共に客間にいたが4時半以降はずっと宿泊予定の居間①にいた。
5時半に北中が玲子に絡まれ出した時は巻き込まれたくなかったからか、
西陣共々居間の縁側から黙って眺めていたが、彼女が耕一郎を挑発し出した時は流石に慌てて飛び出して止めていた。
どうかみなさんの力で西陣を救ってやって下さい
あいつが殺人犯なんて考えられないんです!
東屋製薬顧問弁護士。
多すぎる案件を一つ一つ対処するにはとてもじゃないが時間が足りなかったため、
「1日でまとめてやってしまいますから夕食会か何か開いてください!」と耕一郎に頼み込んで彼に動機を持つ人物を集めさせてしまった。
こき使われてはいるが貴重な存在だと耕一郎も分かっているのか、幸いにも彼を恨みたくなるような事はまだされていないようだ。
事件当日に彼が東屋邸に到着したのは午後6時だが4人が食堂で揃って酒飲みに興じていたため、
3人に飲ませた玲子と玲子を止めなかった3人に苦言を呈した。
このままでは話し合いにならなくなる事を危惧し、予定を早めて食事会を開こうと耕一郎を呼びに行ったところで遺体を発見する。
投資の対象という似たような状況にいる西陣には仲間意識を持っているようで、緊急逮捕され連行される彼に言葉をかけて励ましていた。
その後「4人の中で唯一アリバイがない瞬間があったせいで西陣が逮捕されたなら、
他の3人の中にもアリバイがない者がいれば彼を救う事が出来る」と考え、テレビ局に事件の検証番組の企画を依頼した。
しかし検証してみても、西陣以外に書斎に向かえた者がいなかったと判明しただけだった事に落ち込み、
更にそこに警察からの連絡で西陣の自供を知らされ悲痛な表情を見せる。
シナリオに従いつつ こけしを倒そうと積極的に動いて下さい
視聴者もきっと西陣さんの無実を望んでると思います
みなさん がんばって下さいね!
女性リポーターとその他スタッフ数名のチーム。
リポーターは冒頭では事件直後の東屋邸の前で他局ともども中継中、西陣の逮捕の瞬間を報道していた。
その後白台の依頼で検証番組を企画する事になり4人の来客者役を務めるアルバイトを探す事になったのだが、
「若い女の子がいた方が視聴者に関心を持ってもらえる」という白台のアイデアで『玲子』役に女子高生を配役しようと決定。
スタッフの中にたまたま咲坂高校の出身者がいたらしく後輩の演劇部の部長に打診したようなのだが、
これまた偶然にもその演劇部長は過去に別のエピソードをきっかけに燈馬と可奈と知り合いだったため、2人にバイトの話が来たのである。
事件当時に同じく東屋邸にいた人たち。
2人いた家政婦は台所でずっと一緒に食事会の準備をしていた。
植木屋は午後4時から5時まで庭の池のそばにある庭木を剪定していた。
今回の検証ではテレビ局スタッフたちが役を務めており、4人の容疑者役はこの3人に見つからないように現場へ向かう事を求められる。
これじゃ5万円取りに行けないな〜
シナリオに従ってなおかつ誰にも見られずにこけしを倒すのがルールです
わかった! じゃあ燈馬君むこう向いてて
そういう問題じゃないんですよ!
この漫画の主人公兼ホームズ役。
過去のエピソードで知り合った演劇部部長の紹介で可奈と共に検証実験のバイトに参加したが、
「検証は所詮は再現で実際の事件とは違うのだから、期待するような結果にはならないだろう」とどこか懐疑的だった。
検証では『南井』を務めたが、基本的に南井は客間や居間など部屋にいる事が多いため検証でもあまり動いていない。
一応試しに人目を避けて現場の書斎に行ってみようとしていたのだが、
縁側から行こうとすると庭の『北中』や隣室の『西陣』に、廊下から行こうとすると食堂の『玲子(可奈)』に見つかるためやっぱり動けずにいた。
この漫画のヒロイン兼ワトソン役。
今回の検証では『玲子』を務めたが、彼女は3人の誰かや家政婦に何かと絡んでいたため、
「誰の目も盗めないから書斎に行けない」と不満そうな顔をしていた。
そんな時に西陣が話し合いに備えて1個2万円の桐箱入りメロンを持って来ていた事を女性リポーターから聞くが、
それを聞いて「2万円のメロンってイチゴ何個分のおいしさなんだろ?」とどこかズレた事を考えていた。
燈馬と可奈以外のバイト参加者。
書斎で説明を受けていた時は、今いる場所で耕一郎が殺されたのだと聞いて慌てるなど一般的な反応をしていた。
(一方で燈馬と可奈は黙って手を合わせていた。やはり場数が違う。)
『西陣』役の人は、元からの被疑者役を務める都合上、バイト代上乗せの条件に入ってないためかあまりやる気を見せていない。
一方『北中』役の人は5時に植木屋がいなくなったため「裏庭から回れば人目に付かず書斎に行ける」と考えたが、
その時は勝手口で飲んでた『玲子』こと可奈に見つかってしまい諦めて庭へと戻った。
【キーワード】
来客者の役である4人に事件当日の行動(シナリオは4人やその他家政婦等の証言を突き合わせた捜査資料を元に白台が作成)を再現してもらう。
ただし4人はお互いや『家政婦』『植木屋』に見つからない場合に限り、好きなように行動しても良い。
被害者の代わりに書斎に立てておいたこけしを誰にも見つからずに倒す事が出来ればクリア。
『西陣』以外の3人はもしクリア出来たらバイト代に5万円上乗せするとテレビスタッフから発破をかけられていたが、
書斎に向かおうとすると必ず誰かの目に入ってしまい、結局誰も倒す事はできなかった。
今回の事件の現場となった耕一郎の自宅。
敷地は広いが既に玲子は家を出ていたため事件当時は耕一郎が1人で住んでいた。
ちなみに2階も存在するが事件当時は誰も出入りしてないため今回の検証でも立入は禁止。
敷地の出入口は南東部の正門と北東部の裏口の2ヶ所。
母屋は敷地の北側にあり、内部は東側に玄関と台所のある土間、西に向かって伸びる廊下の北に食堂、南に客間と居間①、居間②がある。
2室の居間にのみ庭に通じる縁側があり、敷地南西部にある書斎にはこの縁側から伸びる渡り廊下で向かう。
書斎は4面のうち2面が壁、2面が障子になっているが、障子側は廊下を挟んで反対側に池があるため、庭から部屋に直接近づこうとしても迂回して結局渡り廊下まで行かないとならない。
今回の事件の凶器。
あまり一般的でない凶器が選ばれた理由について、燈馬は『音』にあると考えている。
拳銃に比べれば入手は容易で、音を立てずに素早く殺害できるからだ。
その後で首を絞めたのも、とどめを刺すというよりも恐らくうめき声を上げさせないためである。
という事は犯人は何らかの理由から、自然死や自殺に見せかけられなくてもいいから、音を立てずに済む方法を選びたかったのだと思われる。
書斎の壁に貼ってあった、どこかの砂浜でバーベキューをした時に撮ったと思われる、東屋夫妻の写真。
燈馬の目に留まった2枚の写真のうち1枚目には白台が、2枚目には西陣が夫妻と共に写ってる。
またサングラスをしてるので分かりにくいが両方に南井らしき人物も写ってる。
ちなみに玲子は1枚目では耕一郎の肩に体を預けているが、2枚目ではカメラに笑顔こそ向けているものの自分の肩に手を置こうとする耕一郎の手を払い除けている。
仲睦まじく見えながらも、夫妻はこの時から仲が悪かったのだろう。
最初に言った通り
期待通りの結果になるとは限りません
自白したとは言え、彼は本当に犯人なのか。
2ヵ月に及ぶ取り調べに心が折れて、嘘の自白をしただけなのではないか。
燈馬はある根拠からそのように考えていた。それはメロンである。
彼は今回の食事会に1個2万円のメロンをわざわざ買ってきている。
それは耕一郎にこれ以上無茶な責任の押し付けをやめてもらうよう「お願い」をするためである。
もし彼が犯人ならば、一度も「お願い」をしてないうちから殺害を決行した事になってしまう。これではメロンを持って来た意味がない。
一応、彼は5時に書斎へと向かい廊下から声をかけたが追い返されている。ある意味それは「お願い」を断られたとも見えるだろう。
しかし耕一郎からは正確にはこう言われていたはずだ。「その話は夕食後だと言ったろ!」と。
つまり西陣にとってまだ希望は潰えていないはずなのだ。
夕食後に予定されている話し合いがまだ決裂してないうちから犯行に及ぶのはやはり矛盾しているのだ。
では犯人は誰か。
今回の検証を通して、燈馬は確信を持ってある人物の名を挙げた。
今回の検証でわかったこと…それは
犯人は水原さんだということです
はーー!?
私が人なんか殺すわけないでしょ!!
だからそうじゃなくて…
水原さんの演じた玲子さんが犯人なんです
耕一郎を殺害した真犯人…の片割れ。
(燈馬も素直に「玲子が犯人だ」と言えばいいのになんでこんな誤解を招きそうな言い方したんだか…)
今回の犯行における彼女の役割は『陽動』。
常に誰かに話しかけ時には酔って騒ぐ事で、彼女は周囲の注意を自分へと向けさせて、それ以外の者、つまり真犯人に向けられる注意を逸らしていたのだ。
彼女は5時半を合図に庭に出て、庭にいた北中へと絡み出した。
更に巻き込まれないよう知らん顔をしていた西陣や南井の注意も引くために、わざと書斎に近づいて耕一郎を挑発したのだ。
これで耕一郎が出て来てしまえばご破算だが、酔っ払いのたわ言に彼が返事するはずなく無視するであろう事も玲子は(或いは真犯人は)確信していた。
しかし一方で西陣や南井は耕一郎の機嫌を損ねたくなくて玲子を止めにまんまと誘い出されてしまった。
後は北中を含めた3人を連れて玲子が食堂に向かう事で、書斎に誰の目も届かない状態にしたのである。
いくら忠実に事件を再現してもそれは決して本物ではない
なぜなら
犯人が書いたシナリオには真犯人が登場しないから
最初に言った通り
期待した結果にはならなかったでしょう?
こ…こんなことを…
こんな余計な検証をしなければ…
全てうまくいったってことか…
玲子と共謀して耕一郎を殺害した真犯人。
犯人は凶器にボウガンを使用するほどに、音を立てる事を極端に嫌っている。
ということは犯人は自分が人目に付かないようにする必要のあった人物である。
だが北中にせよ南井にせよ、もし殺害の動機があると明らかな彼らが犯人ならば、
他殺だとすぐ分かるボウガンを使うよりも、むしろ自殺や自然死に見せかけた方がリスクが少ないはずだ。
ということは犯人は、他殺だと分かる方法でもいいから何としても人目にだけは触れたくなかった事になる。
それ即ち、犯行時刻にはそもそも東屋邸に
いなかった事にしなければならない人物
こそが犯人だということである。
そしてそれはただ1人、6時になってから東屋邸に来た事になっている白台である。
玲子が3人を連れて庭を通って食堂に行くのと同じタイミングで裏口から侵入した彼は、4人とは反対に裏庭を通って書斎へ入り耕一郎を殺害。
誰の目も届いてない庭を悠々と通って玄関から家に入り直し、さも自分が今来たかのように振舞ったのである。
そして逮捕された西陣の弁護を申し出る事で彼の経過を見守りつつ、いずれ彼の心が折れて嘘の自白に至るのを待ち続けていたのだ。
だが耕一郎に恨みを持っていないであろう彼がなぜ、玲子と組んでまで犯行に及んだのか。
燈馬は先ほど目に留めた2枚の写真を根拠にその動機をこう推測した。
1枚目では玲子は耕一郎の肩に寄りかかるなど仲良く写っているが、2枚目では肩に乗せようとする耕一郎の手を払い除けている。
だが喧嘩したとか、玲子を怒らせるような事をしたとかなら、耕一郎だって最初からわざわざ抱き寄せようとはしないだろう。
そこで2枚の写真のその他の違いを比べてみよう。
両方の写真に写っているのは耕一郎、玲子、南井の3人。それ以外には1枚目のみ白台が、2枚目のみ西陣が写っている。
という事はこの2枚を撮ったのはそれぞれ写ってない方、1枚目は西陣で2枚目は白台である。
つまり玲子は白台が写真を撮るために正面に立った途端、何故か耕一郎の手を払い除けたのだ。
そこまで燈馬に聞かされて『北中』の人はその意味に気付いた。
白台と玲子は不倫しているのである。(離婚調停が続いているように、耕一郎と玲子の離婚はまだ成立していない。)
写真の時には既に白台と不倫していた玲子は、耕一郎と仲良さそうにしているのを白台に見られたくなくて、夫の手をはね除けたのである。
そしてもし離婚が成立する前に耕一郎が死ねば遺産の半分は玲子に渡り、その彼女と結婚すれば白台にもその遺産が渡る。
つまり彼にも耕一郎を殺す動機が出来るということである。
「デタラメだ!!」と反論したものの、シナリオでは3人に酒を飲ませた玲子を窘めていた事から、
「6時に来たばかりのはずなのに『酒を飲んでいた4人の中で言い出しっぺは玲子』と分かっていたのは、殺人計画を立てた本人だから」と暴かれ、
返す言葉を失くし遂に膝をついてその場に崩れ落ちた。
だが彼の最大の敗因は、あまりにも杜撰と言わざるを得ない計画その物であろう。
彼は玲子を含め、耕一郎に恨みを持つ4人を現場へと集めた。
つまりこの計画のコンセプトは「容疑者はこの4人だけで、犯人もこの中の誰かだ」と思い込ませる事にある。
だがこれは自分と4人の誰かが裏で繋がってると疑われては意味がない。
仮にそれを示す証拠を残さないようにしていたとしても、そういう発想を周囲に持たれてはならないのだ。
しかし顧問弁護士という立場上、白台はどうしても耕一郎と調停中の玲子と何度も会う必要があるため、
例えやましい事を考えずとも「2人はデキてる」と根も葉もない噂レベルでも疑われてしまう危険が十分にある。
4人に比べれば疑われにくいというだけで、実は彼の立ち位置もそこまで安全ではないのだ。
それ故に本来ならもっと慎重に犯行に及ばなければならなかったのだが、
燈馬も言う通り、彼は今回の犯行計画において罪を擦り付ける予定のスケープゴートを用意していなかった。
本番ではたまたま西陣が現場に近づいてくれたおかげで彼に罪を擦り付けられたが、
もしそれがなかったら誰も書斎に近づかなかった事になるため「4人以外で犯行の可能性がある者を探そう」となってしまった恐れもある。
そうなってしまえば自分のアリバイを用意してなかったであろう白台自身が、『4人以外の誰か』として罪を暴かれる事もあり得たのだ。
要するに、
立ち位置が安全でない癖に計画が行き当たりばったり過ぎるのだ。
逆に「ガチガチに計画を決めたら本番でアクシデントが起こって計画と矛盾した」なんてケースもあるので一概には言えないが、
「動機がある奴がこれだけいるんなら誰か1人くらいは疑われるだろ」とでも言いたげなこんな計画は流石にアバウト過ぎである。
もちろん現実は計画と違うため、結局本番では運良く西陣に罪を擦り付ける事は出来た。
だが更に白台は、玲子のアリバイは確かな一方で西陣のアリバイは不確かだと強調するために、
わざわざテレビ局に検証番組を提案したのである。
玲子役に女子高生を希望したのも、遺産目当ての犯人だと見えにくくする事で視聴者の印象を誘導するつもりだったからである。
だがその結果、玲子のアリバイこそはっきりしたが、同時に北中、南井のアリバイも再確認され、
そしてメロンという形で西陣犯人説の矛盾も見つかってしまった。
それ故皮肉にも「真犯人は4人以外で犯行の可能な誰か」と燈馬に確信させてしまったのである。
色々と外道な彼ではあったが、自分だけだと思っていた浮気を妻にもこっそりされていたという面に限って言えば、唯一『お互い様』と言えるだろう。
そして恐らく予想外だっただろう白台に、これまた予想外であろう「不倫の末の遺産目当ての犯行」という動機で殺された訳だが、
果たして彼は「飼い犬に手を噛まれた」と悔しがっているだろうか。
それとも「世間に同情してもらえそうな理由で殺してもらえたぞ」などと喜んでいるだろうか。
いずれにせよ、「生きるとは他人の命をすすることだよ」などとしたり顔で語っていた奴自身が他人に命をすすられた事についてどう思っているか、
是非とも某AAのように訊いてみたいものである。
最終更新:2022年05月28日 22:42