アンパンマンととぶ木馬(それいけ!アンパンマン)

登録日:2022/11/27 Sun 21:40:00
更新日:2023/01/19 Thu 09:09:39
所要時間:約 18 分で読めます







ばいきんまん…!ど、どうして君が…?





アンパンマンととぶ木馬」とは、アニメ「それいけ!アンパンマン」のエピソード(第48話Bパート)である。1989年9月11日放送。


概要

1988年10月3日、日本テレビ系で「それいけ!アンパンマン」の放送がスタートしてからもうすぐ一年が経とうとしていた。この回はそんな時期に制作されたエピソードのひとつだが、普段の話では滅多に描かれることのない特殊な展開が目白押しとなっており、ファンの間でも「神回」との呼び声が高い。


あらすじ


快晴の下、森の広場でカーニバルが開催された。

カーニバルを楽しみにやって来た人々でひしめき合い、会場はとても賑やか。ジャムおじさん達もパン工場での仕事から離れカーニバルを楽しむことに。

屋台などが並ぶ中で一際目を引くカーニバルの目玉はメリーゴーランド。子供たちからも絶大な人気を集めており、順番待ちをする子供達が列を成していた。



「ちぇっ、いいないいな」


そんな光景を木陰から覗き見ていたばいきんまん。どうやら彼も人気のメリーゴーランドに乗りたがっている模様。

そこで、いつものように変装したばいきんまんは、順番を待っていた子供達の列に無理やり割り込むが、チーズに正体を見破られてしまう*1


「あっあれは!」
「ばいきんまん!」

「また何か悪さをしに来たんだ!逃げろ~!!」


ばいきんまんの出現に来場客達はたちまち大パニック。
蜘蛛の子を散らすように会場から逃げ去っていく。

カーニバルの会場に一人取り残されるばいきんまん。係員にまで逃げられてはメリーゴーランドも動きやしない。


「ヘッ、誰もいなくなっちまった…。
俺様はただメリーゴーランドに乗りたかったんだっ!」



一方、こちらはパン工場。

(おそらくパトロールに出ていたと思われる)アンパンマンは、ジャムおじさん達からカーニバルにばいきんまんが現れた話を聞く。
どんなイタズラをされたのかと尋ねるも、後に現場を調べてみたところ悪事を働いたような形跡はなかったのだという。

「一体何をしに来たんだろう…?」

あのばいきんまんが何も悪さをせずに帰ったことがアンパンマンにとっても不思議でならなかった。





所変わってバイキン城。

ばいきんまんは工作室で何やら熱心に製作中。
ドキンちゃんが何を作っているのか尋ねてもまともに答えようとしない。

「よし、完成したぞ…」

しばらくして「スーパー手綱と鞍」なる道具を作り上げたばいきんまん。
これを使えば、誰の手を借りずともメリーゴーランドの木馬を動かすことができるというのだ。

あれからカーニバルのメリーゴーランドに乗れず悔しい思いをしたばいきんまん。いつものように破壊や盗難などイタズラをすることなく真っ直ぐ城へ戻ったのも、これを使って何としてでも念願の木馬に乗って遊びたがっていたからだったのである。

ところが、ばいきんまんの独り言をドキンちゃんはこっそり盗み聞きしていた。

「なんかおもしろそう~!」





夜も更け、再びカーニバル会場へ向かうばいきんまん。
お目当てはもちろんあのメリーゴーランドだ。

一台の木馬にスーパー手綱と鞍をセットする。

「クククッ…ここまでの道のりは長かったけど、これでやっと木馬に乗れるのだ…!」

目標のためならどんな苦労も惜しまない努力家の鑑ことばいきんまん。今回はやけにスケールが小さいのはともかく夢がついに実現したことに一人感涙する。
後はバイキンUFOの装置から木馬にエネルギーを送り込めば、木馬はひとりでに動き出す算段。

早速装置を起動し、最終段階に取りかかるが、そこへ……。


「ハーイ、ばいきんまん!そんなもん出してどうする気?」

「げっ、ドキンちゃん!」


いつの間にかドキンちゃんがついて来ていた。
その上、装置を取り付けた木馬に勝手に乗り込んでしまう。

早く離れるよう指示するばいきんまんだが、馬が気に入ったからと言って降りようとしない。
そうして2人が揉めているうちにエネルギー発射装置が作動してしまい、木馬にエネルギー波が照射されると共に大爆発!

凄まじい爆発が起きたものの、ドキンちゃんと木馬は無傷だった。エネルギーを照射されたはずの木馬も動く気配がない。

「おかしいな、これで木馬が勝手に動き出して遊べるはずだったのに…」

おそらくいつものように失敗したのかもしれない。
ドキンちゃんからもそう冷たく指摘されてしまい面食らうばいきんまん。

「つまんないの、せっかく楽しみにしてたのに…」

ドキンちゃんがそうぼやいていると、何やら木馬が小刻みな振動と異音を発する。
そして、木馬が支柱ごと浮遊しはじめたかと思うと…。


「うわぁ~~~!」


木馬はドキンちゃんを乗せたまま、ひとりでに周囲を飛び回りだした!

突然の出来事にうろたえるドキンちゃん。片や苦心の発明が成功し歓喜の舞を踊るばいきんまん。

「何喜んでんの!これどうやって止めんの!」

「その手綱でコントロールするんだ!かる~く(・・・・)引けば止まるよ♪」

「わかったわ!こうね!!」

言われるがままドキンちゃんは木馬を止めようと手綱を思いきり引いた。


ブチッ。



「ぎょえぇ~!こ、壊した!!」



手綱が切れた木馬は、止まるどころかショートしはじめ、空高く急上昇。依然ドキンちゃんを乗せた状態で、空の彼方まで暴走を始めてしまった。


「た、大変だ…早く助けないと!」


すぐさまバイキンUFOに乗り込んだばいきんまんは、ドキンちゃんを連れ去った木馬を追いかける。




一向に止まる気配を見せない木馬にしがみ付くドキンちゃん。満月が照らす夜空に助けを呼ぶ彼女の悲鳴が響き渡る。


突如急降下したかと思えば、住宅地の屋根に穴を空けまくるなど、木馬は予測不能な動きを繰り返す。

男性「暴走族が暴れているのか?」

カバお「違う!『暴走木馬』だ!」

予期せぬ暴れ馬の出現に眠っていた町の人々も次々に起き出して顔を出す。



暴走木馬はパン工場の真上に差し掛かる。木馬はここでも飛び跳ねて屋根を穴だらけに。
眠りについていたジャムおじさん達も何事かと目を覚ます。

空飛ぶ木馬に乗ったドキンちゃんとそれを追うばいきんまんの姿を認めたアンパンマンは、すぐさま出動。2人の後を追う。


ばいきんまんは巨大な虫取り網で木馬ごとドキンちゃんを捕獲しようとするが、木馬の回避力が妙に優れており、なかなか上手く捕まえられない。

「ばいきんまーん!」

そんな中、駆けつけたアンパンマンがばいきんまんに声をかける。

「ドキンちゃんを助けたいんだろう?僕も協力するよ!」


困っている人がいればどんな時でも手を差し伸べるアンパンマン。それは、日頃イタズラで周囲を困らせるばいきんまんに対しても同じだ。

ところが、アンパンマンの手助けなど受けたくないばいきんまんはこれを断固拒否。説得を試みるアンパンマンだが、ばいきんまんにはそんな分け隔てない良心もお節介でしかなかった…。



ドキンちゃんを乗せた木馬は、とうとう町を離れ岩山地帯に到達。
再び木馬を生け捕りにしようとするばいきんまんだったが、既の所でUFOが岩壁に衝突。またもや失敗に終わる。
すぐに後をつけて来たアンパンマンがばいきんまんに代わってドキンちゃんの救出に挑む。

木馬とアンパンマンの追いかけっこがしばし続く中、岩山のトンネルを抜けた木馬は、前方にある滝の目前で直角カーブ。
後を追うアンパンマンは回避が間に合わず……。


「うわぁ~~!!」



「げっ!アンパンマン!」

「アンパンマン!しっかりして!」




「だ、だめだ…力が出ない…」

頼みの綱であるアンパンマンがここへ来て水没…。
いつもは喜ぶべき展開でも、今のドキンちゃん、そしてばいきんまんにとっては最も恐るべき事態でしかなかった。

木馬はダウンしたアンパンマンを嘲笑うかのように、ドキンちゃんを空の彼方へと連れ去って行った…。





「うーん……

悔しいがアンパンマンを蘇らせないと、ドキンちゃんが危ない!」



憎きアンパンマンの助けだけは頑なに受け入れようとしなかったばいきんまん。絶体絶命の状況下、彼は大きな決断を下す。





その頃、「後で応援に向かう」とアンパンマンに伝えていたジャムおじさんは、バタコさん、チーズと共にアンパンマン号で捜索に向かっているところだった。
ところが勾配と泥濘にはまってしまい足止めを食らっていた模様。


これ以上進めそうになく困っていたところへ、前方から聞き慣れたダミ声の呼ぶ声が響く。


「お~~~~い!!」


「何の用なの?ばいきんまん!」
「ア゛ァヴウゥゥゥゥゥゥッ…!」
チーズも「この非常時に悪さをしに来た」と判断したかのようにばいきんまんを威嚇する。


「アンパンマンが水に落ちてダメになっちまったんだ!

俺様に新しい顔をくれ!アンパンマンに届けてやる!!」



予想だにしないばいきんまんの用件に驚くジャムおじさん達。
しかし、あのばいきんまんに限ってアンパンマンを助けるだなんてにわかに信じられず、この要求を断ろうとするバタコさんとチーズ。


尚もめげずにばいきんまんは交渉を続ける。



「ドキンちゃんが大変なんだ!!

嘘じゃない!信じてくれ!!」


「ばいきんまん…」




緊迫したばいきんまんの様子に厳しい目つきをしていた一同も表情を変える。目の前で必死にすがり付くのは、嘘や甘言で他人を騙して楽しむような、いつものばいきんまんではなかった。


そして、しばらく腕を組んで黙っていたジャムおじさんが口を開いた。


「…わかった。アンパンマン号に積んである新しい顔をあげよう!」


ばいきんまんの決死の訴えが心に通じたのだろう、ついにアンパンマンの顔をばいきんまんに届けさせることを決意したのだった。疑いの目を向けていたバタコさん、チーズの表情も和らぐ。


急いでアンパンマンの顔を持って行くばいきんまん。



今はばいきんまんへバトンを繋ぐより外はない。
彼の後ろ姿を見送るジャムおじさんは、今唯一アンパンマンを助ける事のできる一人の「宿敵」へ、新しい顔と全幅の信頼を託したのだった……。


「信じているよ。ばいきんまん…」




「アンパンマーン!」

「ん…?」


水で顔がふやけ、立ち上がることもままならないアンパンマン。ばいきんまんの呼ぶ声に反応する。


「ばいきんまん…!」


「ほらっ、新しい顔だ!さっさとつけろ!」

「ど、どうして君が…?」

「ダァ~ッ!そんな事はどうでもいい!」


ばいきんまんが急かすのは、何もバツが悪いからだけではない。
ドキンちゃんが乗っている木馬のエネルギーが間もなく切れてしまうからだ。
もしあのまま木馬のエネルギーがなくなれば大変な事になる。

顔を交換したアンパンマンは、ばいきんまんを乗せて木馬を追う。

「あっ!あそこだ!」

崖の上を木馬がドキンちゃんを伴い飛び回っていた。
そして木馬の鞍が点滅、恐れていたエネルギー切れの合図である。
激しく暴れていた木馬の動きが止まる。

そして、崖の下へ落下し、木馬は爆発。その衝撃で崩壊した崖と共にドキンちゃんは谷深く落ちて行くのだった…。


「あぁ…ド、ドキンちゃん…!」


決死の救出活動も虚しく、後一歩のところでドキンちゃんが助からず、ばいきんまんは泣き崩れる。










そこへ…。







「ばいきんま~~ん!」




ドキンちゃんは間一髪で救出したアンパンマンによって一命をとりとめていた!これにはばいきんまんも大喜び。「バンザイキーン!」というおそらく今話限りのフレーズも飛び出す。




こうして、とぶ木馬は木端微塵になってしまったものの、騒動は無事解決したのであった―――。









「ありがとう、ばいきんまん!」


夜が明け、アンパンマンは自身のピンチを救ってくれたばいきんまんに改めて礼を言う。


「お礼を言うのはこっちの方よね、ばいきんまん」

ところが、先ほどからそっぽを向いてばかりのばいきんまんの口から出たのは、お礼なんてものではなかった…。




「フンだ!!いいか、アンパンマン!これぐらいの事でいい気になるんじゃないぞ!

俺様とお前は、ずーっとずーーっと敵同士なんだからな~!!」



相も変わらずつれない態度を取ってアンパンマンを挑発するばいきんまん。そんな彼にジャムおじさん達は温かく声をかける。


「また困った事があったら、いつでもおいで。
アンパンマンは、どんな時でも力になってくれるからね」

「そうよ!」「アン!」




ここまで純潔な態度を取られて平気でいられるばいきんまんではなかった。たちまち体中を痒がりつつ…。




「クゥゥゥゥゥゥゥゥッッ!!そのイイ子ブリッ子が俺様にジンマシンを起こさせンだよッ!!


まぁ今日のところは我慢してやらぁ!あばよ!」



バイキンUFOに乗り込み、ドキンちゃんと共に帰って行くばいきんまん。
そんな彼らを見送った後、ジャムおじさん達も帰路に就くのだった……。






「へーんだ!俺様は世界一のワル、ばいきんまん様だ!


これぐらいの事で、アンパンマンと仲良くなると思うなよ!



ハッヒフッヘホ~~~!!」








余談

アンパンマンとばいきんまんの共闘を描いたエピソードはいくつか存在するが、その多くがアンパンサイド・ばいきんサイド共通の敵が現れた時などお互いの利害が一致した場合によるものがほとんど。比較的初期に製作された今話はそれらと比べても毛色が異なり、アンパンマンの分け隔てない正義感、ばいきんまんの「アンパンマンの敵」であり続ける強い信条が色濃く描かれているのが大きな特徴の一つである。
ばいきんまんがアンパンマンを「助けた」のはドキンちゃんの危機を救うための最終手段に過ぎず、決してアンパンマンに心を許したわけではないということは、クライマックス、そしてラストの本人の口上をもって全ての視聴者に伝わることであろう。

「ばいきんまんがアンパンマンへ新しい顔を届けに来るシーン」「アンパンマンの背中にばいきんまんが乗るシーン」はレアでありながら今話のテーマを表すに最も相応しいシーンと言えるだろう。ネットでもネタ画像や某大喜利サイトのお題画像でたまに使われる。

今回のばいきんまんは、悪さを一切していない*2。にもかかわらず、何もしていない段階で町の人々やバタコ&チーズ等に一方的に忌避される光景などは(普段の悪事が災いしているとはいえ)なんとも言えない哀愁を誘う。もっとも、現在と比べてアニメ初期はアンパンマンも含めばいきんまんに対して結構厳しめだったのだが。

当初、このエピソードは最終回として放送される予定だったという。それを踏まえると、アンパンマンとばいきんまんが一時的に力を合わせる最終回めいた熱い展開はもちろん、終盤でばいきんまん達を快く迎え入れようとするジャムおじさん達の姿勢についても感慨深いものがないだろうか。
その割には当時レギュラーだったカレーパンマンしょくぱんまんは登場しないが。

結局、「アンパンマン」は放送開始当初の予想を遥かに上回る人気を集める。最終回の予定も白紙になり、今後の放送継続が決定した。
そして開始から30年を超えた現在も、子供達のヒーローであり続けるアンパンマン。その裏でばいきんまんは、(時々借りを作ってしまうことはあっても)宣言通り「仲良くなる」などせず、「打倒アンパンマン」を夢見て日夜努力を続けるのである。

一大コンテンツにまで成長した「アンパンマン」の正式な「最終回」は描かれることのないまま、原作者・やなせたかし氏は2013年に逝去(いわゆる絶筆作品)。氏は生前、「俺が死んでもアンパンマンのアニメは終わりません。永遠に誰かが続けるでしょう」という内容のコメントを残している。





「いいか、Wiki篭り!追記・修正したぐらいでいい気になるんじゃないぞ!
荒らし(俺様)とお前は、ずーっとずーーっと敵同士なんだからな~!!」



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最終更新:2023年01月19日 09:09

*1 顔などは隠していたが尻尾が丸見えだった。

*2 強いて言えばメリーゴーランドの列に割り込みをしたり木馬を勝手に改造しようとした程度(改造と言っても悪用ではなくあくまで遊び目的)。