何が何でもお花見を(ドラえもん)

登録日:2023/04/01 Sat 22:48:00
更新日:2023/05/25 Thu 12:27:26
所要時間:約 12 分で読めます





『何が何でもお花見を』は、漫画ドラえもん』のエピソードの1つ。
てんとう虫コミックス45巻および『藤子・F・不二雄大全集』16巻に収録。
小学三年生』1986年4月号掲載時のタイトルは『お花見』


●目次


【概要】

「一度は家族とお花見を楽しみたい」というのび太のささやかな願いをドラえもんが叶えようと奮闘するエピソード。
のび太と交わした約束を守るため、全力で彼のわがままを聞き入れ、実現のため奔走するドラえもんの男気溢れる姿は必見。

またストーリー前半では、ドラえもんが何らかのひみつ道具を駆使して問題を解決するが、作中では道具を使用する描写が無く結果だけが描かれるという、他のエピソードではあまり見られない独特の演出がある点も本作の特徴の一つである。




【あらすじ】

桜の咲く季節。静香の家に集まった仲間達は、家族とお花見を楽しんだ話で盛り上がっていた。

ところが、野比家だけはまだお花見に行けずにいた。
今年の桜のシーズンもそろそろ終わりが近づいており、明日の日曜日が最後ではないかと予想するジャイアン達。今年、家族とお花見に行けるチャンスはあと一日しか無い……。

これを聞いて急ぎ足で帰宅するのび太。一家のアルバムを引っ張り出し改まった口調でママへ見せる。


その中に1枚でも家族そろってお花見してる写真がありますか!

家族でお花見をした経験など、今年どころか生まれて此の方一度も味わったことが無いのび太。それだけにお花見の機会を今年こそ逃すまいと必死だった。

しかし、人ごみや遠出があまり好きでないゆえに*1イマイチ乗り気ではないママ。さらにパパも明日はゴルフへ行く予定を入れており「またいつか」と断られてしまった。

「いつか」ではもう一年待たなくてはならないのに。のび太は自らの不幸を嘆きひどく落ち込む。
見かねたドラえもんは「なんとかしてやるよ」とだけ言い残し、タケコプターでどこかへと飛び去って行った。


たよりにしてるからねー。

今となってはドラえもんしか頼れる存在はいない。のび太はドラえもんへ全幅の信頼を寄せるのだった。


しばらくして野比家を訪ねて来たのは静香のママだった。

なぜかとつぜんおじゃまします。

本人もわけがわからぬまま、家族と満開の桜を見に行った話をのび太のママに語りまくる静香ママ。
スネ夫の自慢話を彷彿とさせる饒舌な語り口と巧みな情景描写で、お花見への関心が薄かったのび太ママの心をガッチリ掴む。

その後、パパが会社から帰宅。
明日はゴルフだったにもかかわらず、突如周囲の気が変わってしまったとぼやいていた。
思いがけなく日曜の予定が空いたパパへ、ママが提案する。


じゃ、たまにはみんなで花見でもしない?

花見か……、それもいいな。

ドラえもんの暗躍により、野比家の日曜日は満場一致でお花見に決まるのだった。
ドラえもんの手を取り喜ぶのび太。あとは明日が来るのを待つだけだ。


明日天気になあれ。



ところが……。








 ザ ア 



その日の空は、初めてのお花見を待ち焦がれていたのび太を嘲笑うが如く大雨を降らせていた。


なんで雨なんかふらしたの!!

ドラえもんを責めるのび太だが、当然ドラえもんのせいではない。強いて言えば雨男指数マイナス8.5のパパだろうか。
『お天気ボックス』など気象操作系の道具で未然に防げた可能性もあるが、ドラえもんも人を誘導するのに精一杯でそこまで考えが行き届かなかったのかもしれない。なお、わさドラ版では実際に雨雲を除去しようとしたが結局失敗に終わっている(詳細は後述)。

いずれにせよお花見は中止である。パパも仕方ないと言いつつ、ママ共々その表情は沈んでいた。


みんなでぼくにいじわるしてるんだ!!

いいよ!!
どうせぼくなんか一生花見ができないんだ!!

自棄を起こすのび太は、ドラえもんの声にも耳を貸すことなく布団にこもってしまった。

そんなのび太を見てドラえもんは一人呟くのだった。

………………。

ぼくは約束を守るぞ!!



真夜中になった頃には、雨はすっかり止んでいた。
ドラえもんは昼間からずっと不貞寝していたのび太を起こす。


花見に行くぞ。

えっ。

2人は桜の木がある公園へ向かう。
今日の大雨で桜の花はすっかり散ってしまっていたが…。


でも約束は守る!

のび太と約束したドラえもんの決意は固かった。『花さかばい』を木々に振りかければ、一面満開の桜並木へ早変わり。


花がさけばいいってもんじゃないよ。

わかった!どうすれば気に入る。
なんでもどんどんいってくれ。

普段なら、せっかく出した道具にのび太が不満タラタラな態度を見せると怒るか愛想を尽かしがちなドラえもんだが、今回は違った。今まで実現しなかった親友の小さな夢を本気で叶えようという、確固たる信念が彼を衝き動かしているのだろう。

夜中の陰気くさく寂しげな雰囲気を払拭して明るくするために『夜昼ランプ』『立体効果音8チャンネル(花見のにぎわい)、お弁当やご馳走を出すために『グルメテーブルかけ』、家族も揃って花見がしたいというのび太のために『ゆめふうりん』を出す。

ふうりんの力でママやパパ、さらには静香までも『どこでもドア』をくぐって眠ったままお花見に加わる。
ついでにドラえもんは、付近にいた酔っ払いの男性達にも場の盛り上げ役として参加してもらうことに。


明るく賑やかとなった会場。のび太達は、満開の桜の下でお弁当をつまみながら終始楽しいお花見を満喫するのだった。



どう?満足した?

うん。
ごめんね、わがままばっかりいって。

生まれて初めての体験となった「家族とのお花見」を心ゆくまで楽しんだのび太。最後まで約束を守り抜き、夢を叶えてくれたドラえもんに詫びるのだった。


後日、ママがアルバムを開くと、見覚えのない一枚の写真が収められていた。


あらっ、いつお花見に行ったかしら。

桜をバックになぜかパジャマ姿で眠り顔のまま、家族と写真に写る自分の姿に驚くママだった。




【登場したひみつ道具】

○花さかばい
『かべ景色きりかえ機』などに登場した、民話『花咲かじいさん』の灰をモチーフにしたひみつ道具。
この灰を蒔くと元ネタのように満開の桜の花を咲かせることができる。

○夜昼ランプ
ランプ型の道具。強力な光で暗い空間を昼間のように明るくしてくれる。
暗い雰囲気を嫌がったのび太のために使用した。

○立体効果音8チャンネル
ラジカセ型の本体と8つのスピーカーからなる道具。いわゆる立体音響を表現するための音響機器である。
今回使われた効果音は「花見のにぎわい」で、お花見会場のガヤガヤとした騒ぎ声や歌声など賑やかな雰囲気を演出するのに使用した。他にどのようなシリーズがあるのかは不明。

○グルメテーブルかけ
「現実に欲しいひみつ道具」の一つとして度々挙がることでも有名。注文すればおいしい料理が何でも出て来る。
これを使ってお花見のお弁当やご馳走などを出した。
わさドラ版では、「お花見のご馳走」といった曖昧な注文をしただけでも、重箱入りの弁当やジュースなどお花見に相応しい食事が出現していた。

○ゆめふうりん
この風鈴を鳴らすと眠っている人間を寝たまま操ることができる。この音に誘われてパパやママ、静香、付近の酔っ払い達がお花見に参加した。

○どこでもドア
「ゆめふうりん」に誘われてやって来たパパ達がお花見会場へ来られるために用意した。

○タケコプター




【アニメ版】

これまでに計2回(大山版・わさドラ版で1回ずつ)アニメ化されている。

◇大山版『真夜中のお花見』

1987年3月27日に放送。

以下は原作との主な相違点。

  • ジャイアンのとうちゃんが酔っ払い、かあちゃんに蹴飛ばされるイメージが追加。またスネ夫の家の別荘の桜の木は短いものがたった2本を寝転んで見ていたこととなっている。
  • のび太から「お花見をしたことがあるのか」と問われたドラえもんが、22世紀*2ドラミやセワシと動く歩道の上でシーツを敷いてお花見を楽しんだことがあると語っている*3。それを羨ましがったのび太が一層悔しがってしまったため、気まずくなったドラえもんが原作通りの行動を起こす。
  • お花見に行けないのび太の悔しがり方が原作以上にオーバーになっており、「今年の桜が散り終えた時、ぼくの命も終わるんだ……」とまで言い放っている。が、ドラえもんが「なんとかする」と言うやいなやすぐ立ち直る。
  • 天気予報はお花見当日の降水確率は「10%」と予報していたが、原作通りどしゃ降りに。さすがに大外れが過ぎたためか気象予報士もテレビで平謝りしていた。
  • 「ゆめふうりん」で両親や静香に加え、ジャイアンとスネ夫も誘われて来た。
  • 大人が酒を飲めるのを羨ましがったのび太のリクエストにより「ホンワカキャップ」も登場。ドラえもん達もほろ酔い気分に。
ジヒフヒェヘハwwwいやぁおもしろくなってきたぞ、今日はもう大サービス!
  • ……と、上機嫌になったドラえもんはさらに「カラオケキング」*4を出す。トップバッターでパパが『北国の春』を歌おうとするも、ママに乗っ取られ、さらにジャイアンにマイクを奪われ*5、腹立ち紛れにジュースを彼の顔にぶっかけ追い払った怒り上戸のスネ夫が最終的にサビを歌い上げる……というグダグダなカラオケリレーとなった。最後は原作同様花見の様子の写真を見たママは驚くも「フフッ、でも楽しそう…」と呟くなどほっこりするオチになっている。


◇わさドラ版『何が何でもお花見を』

2013年4月12日に放送。

原作・大山版ともに不明だった「家族でお花見へ行けるよう行動していたドラえもん」の描写が詳細に描かれている点が大きな特徴となっている。以下は原作との主な相違点。

  • 静香のママを野比家へ向かわせるために「人間ラジコン」「ほくろ型スピーカーとマイク」を使用。のび太のママに桜の魅力をプレゼンするために歌や踊りまで交えるなど内容もオーバーなものに。
  • その後ドラえもんは「とうめいマント」でパパの会社へ侵入。静香ママと同様パパの課長に「ほくろ型スピーカー」を利用し、ゴルフは中止にした上で花見に行くよう忠告させた。原作ではゴルフの参加者複数人の「気が変わった」ことになっていたが、課長のみの都合でゴルフはお流れということになった。
  • 当日降りだした雨を解決しようと「くもとりバケツ」で雨雲を取り込もうとしたが、バケツに穴が空いていたせいで効果がなかった。
  • 「グルメテーブルかけ」でご馳走を出した際にのび太が「多すぎて2人じゃ食べきれない」と不満を言い出したため、ここまでのび太のわがままに堪えていたドラえもんがついに激怒してしまうが、その後、原作と同様「家族も揃ってお花見がしたい」というのび太の真意を汲み「ゆめふうりん」を出した。
  • 大山版と同様、ジャイアンとスネ夫もお花見に加わり、カラオケ*6で盛り上がったようだ。




【余談】

  • のび太は「今まで一度も家族とお花見に行ったことが無い」と語っていたが、それ以前のエピソード『かべ景色きりかえ機』(てんコミ31巻)では、予定していたお花見がパパの仕事の都合で中止になってしまったため、ひみつ道具を使い部屋の中で家族とお花見を楽しんでいた。
    また、『食べて歌ってバイオ花見』(てんコミ43巻)でもお花見に行けずガッカリしていたのび太のためにドラえもんが『バイオ植木カン』を出し、友達も誘って室内でお花見や世界中から取り寄せたフルーツパーティーで盛り上がった。
    以上のように、のび太の「お花見」にまつわるエピソードは何度も描かれていることがわかる。スネ夫の自慢話を聞かされたのを発端としてのび太が旅行などに行きたいと駄々をこねるパターンは本作のお約束とも言えるが、少なくともお花見を題材としたこれらエピソードでは、いずれもスネ夫を羨ましがるという流れを汲んでいないことから、のび太のお花見に対する思い入れの特別な強さを窺い知ることができるだろう。




追記・修正は、ご家族と一緒にお願いします。




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最終更新:2023年05月25日 12:27

*1 『ブルートレインはぼくの家』でも「寝台列車に乗りたい」とせがんだのび太に「変わった場所で寝たいなら物置で寝ろ」と返していたほか、『ハワイがやってくる』では「お金を使ってわざわざくたびれに行くなんてつまらない」といったことも言っている。

*2 この時代でもお花見は伝統行事として親しまれているらしい。

*3 この時の回想でゴンスケがカメオ出演している。

*4 『雨男はつらいよ』に登場。いつでもどこでもカラオケが楽しめる自動採点機能付きカラオケマシンで、音痴でも高得点を出してくれる「おせじレベル」など細かい調整もできる。

*5 ジャイアンのみ『北国の春』ではなく持ち歌の『おれはジャイアンさまだ!』を歌っていた。

*6 マシンは「カラオケキング」ではない模様。