エゾミカサリュウ(古代生物)

登録日:2013/06/25(火) 03:30:50
更新日:2023/07/26 Wed 08:29:26
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恐竜は、実在したロマンである。
大地を揺るがす巨体や様々な武装を有し、過去の地球を闊歩していたこの動物たちは、今もなお世界中の人たちを魅了し続け、文化の面でも大きな影響を及ぼしている。wiki籠りの皆様にも、恐竜が大好きという方は非常に多いだろう。

……だが、もう一度言う。恐竜は「現実に」実在した事が証明されているロマン。現実と言うのは、時に非情な結果を見せる事もあるのである。

それを示す例が、「エゾミカサリュウ」、北海道で発見された古代の動物である。これとは関係ない。


≪発見≫

エゾミカサリュウの化石が見つかったのは1976年。
当時、日本で発見された恐竜は一つもなく、強いて言うなら戦前の樺太(サハリン)で見つかった草食恐竜「ニッポノサウルス」のみであった。
一応は『日本』の名前がついた恐竜が存在していると言う形にはなっていたのだが、戦後の樺太はロシア(当時のソ連)に吸収・占領された形となり、
日本列島に関しては恐竜は存在していなかったのではないか、という説も流れていた頃である。
実際『ブラック・ジャック』の化石発掘をテーマにした一遍「デベソの達」(1975年掲載)では、
主人公のデベソの達少年がニッポノサウルスを発掘し「日本で初めて恐竜を掘りだした男」として紹介されている。
(その後、達はゴルゴサウルスの全身化石を発見し、デューク東郷/ゴルゴ13そっくりな考古学者が「間違いなくゴルゴサウルスだ!」と驚いている)

そんな中、北海道の三笠市で巨大な動物の頭の骨が見つかった。
頭の全体では無く一部が欠けている状態だったのだが、その化石の形は、まるで恐竜の代名詞ティラノサウルス」そっくりだったのである。
日本初の「肉食恐竜」発掘の話題は日本中に広がり、当時放送されていた恐竜題材の特撮ドラマ『恐竜探険隊ボーンフリー』にも早速巨大な「肉食恐竜」として登場した。
特に地元の三笠市での盛り上がりは相当な物で、恐竜祭りが開かられるわ、復元像が飾られるわ(ただし当時の通説に従いゴジラ体型だが)、
さらにはマスコットの『リュウちゃん』まで登場するに至ったのである。
現在(主にリアルジュラシックパーク福井県)にも通じるであろう、恐竜を使った町おこしである。 

……しかし、同じ頃、このエゾミカサリュウの化石にはもう一つの可能性があった。「恐竜」ではない、別の動物ではないかとも考えられていたのである。 

≪現実≫

中生代の代表的な動物と言えば恐竜、と言うのは過言ではないかもしれないが、当時は恐竜以外にも多種多様な爬虫類が様々な場所で生態系の頂点に君臨していた。
空には翼竜、海には魚竜や首長竜、といった具合である。
ただ、今もなお恐竜の仲間であると勘違いされやすい彼らだが、実際には恐竜とは全く関係のない、同じ「爬虫類」の親戚筋と言った感じなのである。

その中でも特に分かりやすいのが、白亜紀の後半になって現れた、海のどう猛な肉食動物「モササウルス科」の仲間だろう。
当時、大規模火山活動を切っ掛けとした激しい海洋環境の変化が起き、魚竜など多くの海の肉食性爬虫類は、これに耐えられずに勢力を著しく減退させ、その多くは絶滅してしまった。
それに乗じ、このモササウルス科の先祖……現在の「トカゲ」の仲間が海への進出を始めたのである。
恐竜と全然関係ない、というのがこれで分かるだろう。
モササウルスは最初の恐竜であるイグアノドンやメガロサウルス、更には「古生物」という概念を作ったイクチオサウルスやプレシオサウルス以前に
既に化石が見つかっており、その後も皮膚や内臓の構造などかなり詳細な所まで判明している、中生代を代表する古代生物である。
ちなみに、このモササウルスの先祖の一部(現在のオオトカゲに近い種類)が別の方に進化し、現在も繁栄を遂げているのが「ヘビ」だとか。


……さて、ここで察しがついた人もいるだろう。

実は、この記事の主役「エゾミカサリュウ」の正体は、恐竜では無くこの『モササウルス科』だったのである。
頭の化石は復元の仕方でまさにこのモササウルスのような長い口となるが、決定的な証拠はその歯だった。
肉食恐竜の場合、鋭い歯の断面にはステーキや肉を切る時に使うナイフのようなギザギザがあるはずなのだが、
エゾミカサリュウの歯にはそれが無かったのである。

こうして、「日本初の肉食恐竜」としてのエゾミカサリュウは幻に消えたのである……

……そして、その事実に最も落胆したのは、この巨大動物の墓場であった三笠市の皆様だった。


実は1980年代前半の時点で既に恐竜では無い、という事は判明していたのだが、当時「恐竜」としてエゾミカサリュウを祭り上げるという空気の前では、
そのような事実を伝える事は出来なかったのだ。しかし、その後少しづつエゾミカサリュウの真相が地元でも少しづつ広まっていった。

恐竜では無く「トカゲ」の仲間。
いくらモササウルスが白亜紀を代表し、現在でも根強い人気を誇る巨大生物だとしても、『恐竜』というブランドから外れたという衝撃はあまりにも大きかった。
リュウちゃんは姿を消し、復元予想図は取り外され、巨大な「エゾミカサリュウ」像は「ティラノサウルス」とされた(2009年に撤去)。
そして、完全に黒歴史と化したエゾミカサリュウは、それから長い間触れる事はおろか、研究する事すら許されないような存在になってしまったのである……。

≪復活≫

しかし、事態は21世紀に入り、大きく動き出した。

この頃になると、日本各地で恐竜が多数発掘されるようになり、
先述した福井県ではフクイラプトルやフクイサウルスなどの新種も続々と発見されるようになっていた。
間違いなく、日本列島にも「恐竜」の天下があったのである。
そんな中で、封印されていたエゾミカサリュウにも改めて学術調査のメスが入った。
その結果、確かにこの化石は古代の海の覇者である「モササウルス」の仲間であり、その中でも「タニファサウルス(Taniwhasaurus)」という種類である事が判明した。

ただ、これまでタニファサウルスが見つかっていたのは、現在の南半球の大陸の各地……白亜紀における大陸の一つ、現在『ゴンドワナ大陸』と呼ばれている場所だけであった。
しかし、この「エゾミカサリュウ」が見つかった場所は、現在の北半球に当たる『ローラシア大陸』の沿岸だったのである。
実は三笠市は世界的なアンモナイトの化石の宝庫の一つであり、市立博物館には日本で最も多くのアンモナイトの化石が収蔵されている。
エゾミカサリュウも、この豊富な食料を餌に生きていたのではないかと考えられている。

改めて学術的に重要な化石であることが証明された「エゾミカサリュウ」は、
タニファサウルスの一員「タニファサウルス・ミカサエンシス(Taniwhasaurs mikasaensis)」という立派な学名を名乗る事となった。
そして、同時に地元でも改めてこの化石の重要性を見直す動きが起こり始めたのである。



<図:これが実際の「エゾミカサリュウ」=タニファサウルス・ミカサエンシスである>
(画像出典:『タニファサウルス』 - wikipedia)

前述したとおり、確かにこの動物は「恐竜」では無く「トカゲ」の仲間であった。
しかし、エゾミカサリュウはただのトカゲではない。古代の海を我が物顔で泳いだ、文字通り古代の『猛者』の一員なのである。
特撮番組『恐竜探検隊ボーンフリー』では、ティラノサウルスのような外見の獣脚類として登場。作中では「謎の恐竜」と評されていた。
そして現在、三笠市には新旧の復元予想図が並ぶデザインのマンホールが存在し、マスコットの『リュウちゃん』も新設定で復活
改めて、町の主役の座に返り咲いている。

更に2010年代頃になると様々なメディアでエゾミカサリュウはじめとするモササウルスの仲間が恐竜時代の海の支配者であったことが盛んに描かれるようになる。
一般におけるエゾミカサリュウのイメージも又、ますます改善されて刷新されていくことだろう。

尚、三笠市の隣の芦別市で発見され、三笠市立博物館が管理している化石が中型のティラノサウルス類の尻尾の骨の化石だということが2018年に北海道大学の研究で判明。
道内初、国内でも数少ないティラノサウルス類とはっきり認定された化石であり、こちらもエゾミカサリュウ共々、博物館に展示されている。
幻として消えたはずだった「ティラノサウルスのような肉食恐竜」も又、確かに三笠市周辺に実在していたのが数十年越しに実証されたわけである。

<<創作におけるエゾミカサリュウ>>

1985年に出版された小学館の怪獣シリーズ『新ゴジラのひみつ』では、海生爬虫類から陸上獣類に進化しようとする中間の生物」とされるゴジラに関連して
北海道で発見されたエゾミカサ竜は、歯の形に海生は虫類のとくちょうが見られる。ゴジラ類が、日本近海で発達したエゾミカサ竜のなかまである可能性は大きい。
と言及されている。



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最終更新:2023年07月26日 08:29