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 騒騒(ざわざわ)、騒騒、騒騒、ざざ、ざ
 ざ。
 
 
 
 海鳴りが聴こえる。
 海が近いのだ。とういうより、四方を海に囲まれている。
 此処は文字通りの絶海の孤島なのだ。外部とは断絶されている。
 この島から生きて出る方法は一つしかない。
 すなわち『最後の一人』となる事。それが唯一にして絶対の条件。
 
 
 ならば私がなすべき事は、ただひとつ――
 
 
 
 騒騒、騒騒、騒騒。
 
 ***
 
 
 
 
 伊沢敦志は為政者である。
 新誠党の立役者にして党首。曰く『日本で最も民主的でない』議員である。
 その彼が現在強要されているのは――殺し合い。
 
 「新党設立の際には相当無茶をしたからな……」
 だが一人呟くその声音は落ち着いている。
 
 『この世界何が起こるかわからん。明日には刺されてるかも……』
 いつぞやの己の言である。確かにこの世の中何が起きても不思議は無い。無いのだがいささかこれは無茶苦茶に過ぎると言わざるを得まい。
 それでも彼のふてぶてしいまでの冷静さは、百戦錬磨の闇のフィクサーを以ってして『悪人がほれぼれするような悪党っぷり』と言わしめただけの事はある。
 
 これはテロルであると、そう伊沢は考えている。〈Mr.Java〉とはにテロリストであり、〈安価参加者〉というのはその母体なのだろう。
 それにしても随分と遠回しな手段を執ったものだ。伊沢は支給品の一つであるサブマシンガンを眺めながら苦笑を漏らす。
 恐らく彼らテロリストは伊沢を死に至らしめる事よりも、我が身可愛さに他人を殺させる事に重きを置いているのだろう。
 そうはならずとも、参加者に伊沢が殺されたところでテロリスト共は万々歳といったところなのだろうが。
 
 卑劣極まりない者共の好きにさせてやる訳にはいかない。
 だから、Mr.Java及び安価参加者は徹底的に壊滅させねばなるまい。圧倒的に殲滅せねばなるまい。
 どのような手段を使おうとも。
 
 名簿には平井銀二の名もあった。
 豪腕伊沢と敏腕平井――。どうやらテロリストの矛先は伊沢のみに留まらず、彼にも向けられたらしい。
 先ずは銀さんと合流しよう。
 喧嘩を売られた以上は買わねばならぬ。買った喧嘩にはキッチリ落とし前をつけさせてもう。
 そう考えた矢先、背後でがさりと音がして額を生暖かい何かが伝った。
 
 ***
 
 
 
 市村朱美は鉈の柄を握った両の手に力を込めた。
 息を吸って、
 息を吐く。
 
 失敗は許されない。
 相手は大の男である。仕損じれば女である朱美が返り討ちに逢う事は明白。
 確実に息の根を止めればならない。
 こちらに背を向けた男が、樹の根元に身を隠した朱美に気付く気配はない。何やら考え事をしている様子である。
 
 好機は一度だけ。しかも一瞬。
 覚悟はとうに決めている。
 あとはそれを実行に移すのみ。
 
 朱美は茂みから躍り出ると男の後頭部を目指して思い切り鉈を振り下ろした。
 
 しかし垂直に振り下ろしたそれが男の脳天を直撃したまでは良かったが、滑るようにして僅かに右に逸れる。
 結果、朱美の一撃は男の頭皮と頭蓋の一部を削り取るに終わる。
 朱美は妙に冷静に、人間の頭は球体やからな、などと思う。だから鉈がその球体に沿う形で真下ではなく、右方向にぶれてしまったのだと。
 男は薄桃色の脳を覗かせた状態で朱美の方を向く。
 右の頬に黒子があった。
 
 夢中で朱美は鉈を振り回した。
 頭の中で、思考にならない思考が濁流のように渦を巻く。
 
  返り討ち、
   殺される、
    まだ死ぬ訳にはいかない、
     だから、この男を、
    殺される前に、
   殺す。
  殺す。
   殺す。
    殺す。
   殺す。
  殺す。
   殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺
 
 
 
 男は最早半分ほどしか人の原型を留めていない。しかし彼女はそんな事は気にも留めずに鉈を振るう。男の死体目掛けて。
 鉈には脂肪が巻きついて、刃物としての機能を果たしておるとは言い難い。しかし彼女はそんな事は気にも留めずに鉈を振るう。男の死体目掛けて。
 黒い真っ直ぐな髪が、汗と返り血と肉片に濡れた顔に張り付く。しかし彼女はそんな事は気にも留めずに鉈を振るう。男の死体目掛けて。
 只管に。
 
 
 ぐちゃり、にちゃり、びちゃっ、べちゃっ、がつん、ぐちゃぐちゃ、びちゃん、ごりっ、ぐちゅ、
 
 ***
 
 
 
 騒騒、騒騒、ざ、ざざ。
 
 
 
 海鳴りの音で我に返った。
 足元を見ると男は肉の塊と化していた。
 それは赤というよりもピンク色に近い。
 肩で息をする。
 呼吸が苦しい。
 どうやら相当長い間、鉈を振るっていたらしい。
 
 
 体の震えが止まらない。
 しかしそれは恐怖から来ているのではない。後悔も嫌悪も罪悪感も全く無い。
 あるのは歓喜と充足感。綺羅綺羅と輝くような多幸感。
 それらが体を震わているのだ。
 
 ――私がなすべき事は、ただひとつ。この島にいる全ての人間を殺すこと。
 
 全員殺す。全部殺す。総て殺す。皆殺す。殺滅する。鏖にする。
 それが目的。
 それを達するまでは死ぬ訳にはいかないのだ。
 
 なんとしてもあの人を優勝させて、この島から生きて帰すのだ。
 その為なら何でもできる。
 その為なら何人でも殺せる。
 己さえも。
 この島の人間を全て殺し終えたら、自分も死のう。あの人の為に。
 愛する人の為に。
 
 
 
 
 「灰原さん、待っててなあ……。私がみぃんな殺したるさかいに」
 
 
 
 
 
 
 騒騒、騒騒、騒騒、ざ。
 【C-3/一日目・深夜】
 
 
 
 【名前】市村朱美@ナニワ金融道
 【状態】健康 精神不安定
 【持ち物】鉈 サブマシンガン ディパック(基本支給品一式×2、不明ランダム支給品2~4)、
  
 【思考】灰原達之を優勝させる。その為には自分を含めた全ての島内の人間を殺す。
 
 
 
 &color(red){【伊沢敦志@銀と金 死亡】}
 
 
 
 【鉈@現実】
 嘘だッ…じゃなくて、本来は主に山仕事ををする時に使う物です。
 刃渡り40センチ程の一般的な鉈。
 
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