ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko1077 うつほは舞い上がる、空高く
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ankoss
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最近聞いた「霊知の太陽信仰」のメタルアレンジが死ぬほどかっこよかった
ので、それ聴きながらノリノリで書いてたら、こんなんできました。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
独自設定だらけですので、苦手な方はご注意ください。
クラシック好きな方への推奨BGM
レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ
「揚げひばり」(ひばりは舞い上がる、空高く、という邦題がつくことも)
注意点:うつほの名前について
学術上正式名称はうつほであるが、うつほ自身は一人称として、
うつほ、うにゅほを使うことが確認されている。
また、さとり、おりんなど一部のゆっくりにおいては、うつほ
のことをおくうと呼ぶケースが報告されている。
本報告書においては上記の名称が状況に応じて使い分けられて
いることを了承の上、お読みいただきたい。
また、赤ゆについては、赤うつほと同じ意味で雛うつほという
単語が使われることも多いが、混乱を避けるため、本稿では赤
うつほ、子うつほといった従来のゆっくり研究で使われてきた
単語で統一する。
『うつほは舞い上がる、空高く』
うつほ
主に温帯以南に棲息する飛行可能なゆっくりである。
よく春から初夏にかけて、うつほが天高く飛びながら、
「うにゅ!うにゅ~っ!」
と鳴いているのを見たことがある人もいるだろう。
この行動は、他のうつほに対して、縄張りを主張するためのものとされて
いる。
生息数自体は決して少ないものではないが、人工飼育下での繁殖が難しい
ためペットショップでは希少種扱いを受けるゆっくりの一つである。
その春爛漫なあたまと天真爛漫な性格から人気は高く、一時期、「うにゅ
ほっかいろ★」という商品名の、ポケットサイズの改良品種が出回ったこ
とがあった。
うつほのように活発に飛行するゆっくりは平常時の代謝が人間よりも高く、
体温は40℃以上と、人間が抱いて暖かいと感じることができるほどである。
そのことから、携帯できるカイロ+ペットを!
といううにゅほをこよなく愛する某研究員の情熱によって強引に商品化さ
れたという。
結局、いくら死ぬまで使えるカイロとは言え、値段が高価であったこと、
実際にホッカイロ同様の使い方をして圧迫死するケースが相次いだことか
ら、販売から半月で生産中止の運びとなった。
だが、世間にうつほを認知させる、という点では、「うにゅほっかいろ★」
の果たした役割は大きく、現在ではいくと共に電力会社のマスコットなど
にも採用されている。
さて、うつほというと核エネルギーというイメージを抱く人が多い。とあ
る地方では幼鳥のうつほを蒸しあげて作る「イエローケーキ」という郷土
料理があるくらいである。
驚くべきことに、このイメージはゆっくりから人間へと伝わったものとさ
れている。
しかし、実際問題として、核エネルギーで動くならそれはもはや生物では
ない。本当にうつほの中にプルトニウムが入っているのならば、反核団体
は真っ先にうつほを絶滅させるべきだろう。
では、実際のうつほの姿はどのようなものなのか?
以下にこの天真爛漫なゆっくりの生態について紹介する。
春、桜が咲き乱れる頃、うつほは樹冠の中に木の枝で巣を作り、出産する。
巣の高さも重要であり、高すぎると猛禽や捕食種など、空を飛ぶ捕食者に
よって脆弱な赤ゆが狙われてしまう。
一方、低すぎると、今度はヘビやイタチが攻撃をしかけてくる。
だが、これはうつほ同士で繁殖を行う場合であり、それ以外のケースでは、
相手方の巣内に木の枝で出産用の巣をもう一つ作り、そこで出産すること
が知られている。ただし、相手方が出産する場合はその限りではない。
「ふゅーじょんするよぉっ!!!」
「ゆっくりふゅーじょんするよぉっ!!!」
今、うつほ同士でふゅーじょん(すっきり)を行おうとしている。
片方の個体の下腹部から、ゆっくりとぺにぺにが伸びていく。
うつほのぺにぺには「第三の脚」とも呼ばれ、他種のぺにぺにと比較した場
合、太ましく、極めて頑丈である。
形状は八角形の棒状であり、普段は体内に隠れているのだが、すっきり時に
興奮した際、体の外に飛び出すのである。
「Caution! Caution!」
この音は「うにゅ?」と並んで、うつほの鳴き声として有名だが、正確には
すっきり時ととある場合にのみ聞かれる鳴き声である。後者については後述
する。
「うにゅうぅっ!!!こーふんしてあたまがめるとだうんしそうだよっ!!」
「「すっきりぃぃぃっ!!!」」
次第に片方のうつほのおなかが膨らんでいく。今回は胎生だったようだ。
なお、うつほと他のゆっくりを交配させた場合、どのように赤ゆが生まれて
くるのか、実験を試みたものの、
「うにゅうっ!!!うつほ、さとりさまとふゅーじょんしたいよぉっ!!!」
「ちょっと!やめなさいおくう!!!無理!そんなの無理ぃっ!!!」
とすっきりになかなか至らなかったことを報告しておく。このときの実験の
詳細については機会があれば紹介したい。
約一週間後、巣には五匹の赤うつほが誕生していた。胎生にしてはなかなかの
出産数である。
幼鳥時は、ちょうど下腹部にまるで原子力マーク(正式には放射能標識、電離
放射線マークなどと呼ばれている)のような模様が産毛によって描かれる。
放射線標識が赤うつほの目印となって、親は餌を与えているらしい。この放射
線標識のような模様を剃ってしまうと、その赤うつほがいくら餌をねだっても
親うつほは餌を与えないことが室内実験によって確かめられている。
この黄色と赤の鮮やかな毛は幼鳥時のみのものであり、成長に伴って次第に色
褪せ、成鳥では完全に喪失する。そして、子うつほはそれまでに一人で餌を採
れるようにならなければならない。
「うにゅーっ!!!うにゅーっ!!!」
「ぱぱーっ!ままーっ!うにゅほはごはんさんほしいよぉっ!!!」
「うにゅほはごはんさんでゆっくちしたいよっ!!!
「うにゅ?」
口を一杯に広げ、親うつほに餌をねだる赤うつほたち。
下腹部にある赤と黄色の小さな放射線標識、ぼさぼさの黒髪につけた緑色のリ
ボン、そして真っ黒な翼、鮮やかな色合いの赤うつほがけたたましく鳴いてい
る。だが、マイペースなのか、中には早速よだれを垂らしながら、うつらうつ
らと昼寝をしている個体もいる。このどこかとぼけた感じが、うつほ種の最大
の特徴なのかもしれない。
「うにゅ~っ!!!うつほの赤ちゃんかぁいいよぉ~っ!!!」
「うつほのおちびちゃんたち、かわいさあびすのばっだよぉ~っ!!!」
涙を流して、赤うつほの誕生を喜ぶ両親、だが生まれたばかりの赤うつほたち
は、まず空腹を満たして欲しい様子であった。
「うにゅ!うにゅほはおにゃかすいてるんだよっ!!!」
「はやくごはんさんにしないと!ちぇれんこふ光がでちゃうにゅ~っ!!!」
「うにゅ~、じゃあさっそくおとーさんがとってきたごはんさんでゆっくりし
ようにゅ~!」
余程赤うつほが可愛らしかったのか、親うつほの言葉も幼児退行を起こしてし
まっている。
「うにゅ~!ごはんさんだよ!ゆっくり食べてね!」
親うつほは赤うつほに対して一匹ずつ、採ってきたばかりの虫やグミ、クワの
実などを咀嚼し、唾液と混ぜてから口移しで餌を与えていく。
このとき、親の唾液が生化学的な刺激となり、赤うつほの味覚や免疫系が構築
されていく。そのため、人工孵化させた場合、特に、免疫系の構築が人工餌料
ではうまくいかないため、病弱な個体が多くなり、ペットショップでのうつほ
の価格は以前高いままなのである。
「むーちゃむーちゃ…しあわせうにゅ~っ!!!」
初めての食事に喜ぶ、赤うつほたち。
しかし、この時期は脆弱な赤うつほたちにとって、非常に危険な時期でもある。
親の留守中に赤うつほを狙う鳥、大型昆虫、小動物、すかーれっとなどの捕食
種など外敵は多い。
「うにゅほはもっとむーちゃむーちゃしたいよっ!!!」
「うにゅほも!うにゅほも!」
次々と更なる餌をねだる赤うつほたち。
しかし、そこで悲劇が起きた。
「うにゅ!?おちゃないでね!!うにゅほ、おっこっちゃう!!」
餌を求め、身を乗り出す姉妹たちに押され、一匹の赤うつほが今にも巣から落
ちそうである。
「やべじぇね!!やべ!?うにゅぅぅぅうっ!!!」
赤うつほは巣から数メートル下の地上へ落ちてしまった。
幸い、巣が低木だったこと、地上に草が繁茂していたことから、外傷は大した
ことないようである。しかし、両親は赤うつほたちに餌を与えるのに夢中で、
一匹落下したことにまだ気づいていない。
「ゆえええええええええん!!いじゃいよおおっ!!たちゅけて!!!ぱぱぁ
~!!!ままぁ~!!!」
落ちた赤うつほは一生懸命泣き叫ぶ。しかし、うにゅうにゅ騒ぐ赤うつほたち
の世話に追われる両親にその泣き声は届かない。
「ゆゆ?なんだかゆっくりできないおちびちゃんが泣いてるんだぜ!」
「ほんとうだ!とりあたまのきたないおちびちゃんだよっ!!!」
「うにゅ?」
そこに通りかかったのは、とんがり帽子のまりさと、もみあげをわさわさ動か
すれいむの番だった。
「うにゅほね!てっぺんから来たんだよ!うにゅほをたちゅけて!ぱぱとまま
がてっぺんにいるんだよ!」
落ちた赤うつほは必死にまりさとれいむに対して助けを求めた。この状況では
赤うつほに他の選択肢を求めるほうが無理というものであろう。
「ゆゆ!?きたないぐずはこっちこないでね!」
「ゆへへへ!何がろくぼすなんだぜ!こんなとりあたま、むてきんぐのまりさ
さまにかかればらくしょーなのぜ!!」
「うにゅぅ?ゆぴっ!?」
二匹はまるでサッカーのパスでもするかのように、交互に赤うつほをあんよや
舌で弾き飛ばしていく。
「やべべ!たべじぇね!うにゅほなにもわるいごどじでな!!!ぶぶっ!!!」
まりさのおさげによる強烈な一撃が赤うつほの歯をへし折り、口からレモンカ
ードがあふれ出す。
「とりあたまは何も悪いことしてないのぜ!ただその顔がむかつくんだぜ!」
「う…うぎゅ…ううう゛!!?」
「ぷりちーれいむの!ゆっくりしゅぅぅぅとぉぉっ!!!」
「ゆ゛!!?」
次の瞬間、れいむがもみあげで勢い良く赤うつほを弾き飛ばした。赤うつほは
そのまま木の幹に叩きつけられ、弾けて死んだ。後に残ったのは、レモンカー
ドの黄色い染みとぐちょぐちょに汚れた緑色のリボンだけだった。赤うつほは
生まれて一時間と生きることを許されなかった。
哀れではあったが、そもそも巣から落ちてしまった時点で、彼女の未来も一緒
に墜ちてしまっていたのだろう。
「ゆふふ、きちゃないものは死ね!…まりさあれ食べる?」
と言って、もみあげで半分潰れた赤うつほを指し示すれいむ。
「あんななまごみ、せれぶなまりささまはたべれないのぜ!!!でもしーしー
はしたくなったのぜっ!!!」
言うが早いかまりさはそれなりの距離からしーしーを放ち、木の幹にへばりつ
いている赤うつほの死体を洗い流していく。
「ゆははははははははっ!すっきりしたのぜ!!!」
「とりあたまで生き残れるほどだいしぜんは甘くないよ!!!たりないあたま
でゆっくりりかいしてねっ!!」
まりさとれいむは得意気な表情で高笑いしながら、自分たちの巣へと帰ってい
った。あとに残った赤うつほの無残な死体は少しずつアリやシデムシによって
解体され、運ばれていき、両親が我が子の悲惨な末路を知ることはなかった。
五月も終わりに近づく頃には、赤うつほたちは子うつほと言っていいくらいの
大きさにまで成長していた。下腹部の放射能標識はやや薄まってきているもの
の、まだはっきり確認することができる。
子うつほたちは依然として親うつほの養育下にあるものの、この頃になると、
親うつほは子うつほたちに飛び方を教え始める。
この日父うつほが餌を探している間に、母うつほは四匹の子うつほ全員を地面
へとくわえて下ろし、飛び方を教えていた。
「うにゅ~、かわいいおちびちゃんたち、いまからままがおそらを飛ぶから、
おちびちゃんたちもままのまねしてね!」
「「うにゅ!ゆっくりりかいしたよ!!!」」
母うつほは大げさな仕草で黒い翼を広げ、軽く羽ばたいて、近くの低木の枝に
飛び乗った。
「うにゅ~!!!まますごいよっ!!!」
「かっこいいうにゅ~っ!!!」
「おちびちゃんたちもやってみてね!!!」
母うつほの動きを真似て、必死に翼を動かす子うつほたち、しかし、その動き
はぎこちなく、思うように浮かび上がらない。翼を動かしながら飛び跳ねてい
るだけだった。
「うにゅ!うにゅ!うにゅ!うにゅ!うにゅにゅにゅぅっ!!!」
「うにゅ?とばないよ~…なんじぇ~?」
そんことを繰り返すうちに、なんとか一匹が浮かび上がることに成功した。
「うにゅ!!!うにゅにゅっ!!!飛んでる!うつほ飛んでるよぶっ!!!」
しかし、その飛行は不安定なものであり、すぐ木の枝にぶつかって落下して
しまった。
「ゆわああああああん!!!いじゃいよおおおおっ!!!木がうにゅほにいだ
いごどずるぅ~っ!!!」
そこへ母うつほが慌てて降りてくる。
「ゆゆ?うつほのおちびちゃんゆっくりしてね!!ままがペーろぺーろしてあ
げるよ!!ぺーろぺーろ!!」
「うにゃあああ゛!!!ま゛ま゛!いじゃがっだよう~!!!」
姉妹も心配して集まってくる。そこへ父うつほが帰ってきた。
「うにゅ?どうしたの!!?おちびちゃんゆっくりしてね!!ぱぱがごはんさ
ん持って来たよっ!!!」
「うにゅ?ごはんさんっ!!?」
ごはんさん、という単語に泣き止んで笑顔を見せる子うつほ。げんきんなもの
である。
その日、父うつほが持ってきたのは、とあるゆっくりの巣の前に潰されて捨て
られていた赤ゆの死体だった。巣の中で何かあったのだろうか?捨てられてい
るのはまりさ種ばかりであったが、帽子はひとつも被っていなかった。
「うにゅ~!これおいしいよっ!!!」
「ぺーろぺーろ…しあわせ~っ!!うにゅほしあわせ~っ!!!」
うつほはおりん同様、死ゆっくり食性を持つことが知られているが、おりん
ほどゆっくりの死体に対して強い嗜好性を持つわけではない。
うつほは死んだゆっくり以外にも、魚貝類、どんぐりなどの木の実や、果実、
昆虫や小動物を捕食することが知られている。だが、成長が早く、消化能力
も成体に近づきつつある子うつほたちにとって、新鮮な死体は何よりの餌だ
った。
「うにゅ~…よかったね!おちびちゃんたち!ぱぱがおいしいごはんさん持
ってきてくれたよー!!」
「うにゅ?ありがとうぱぱ!」
「ぱぱだいすきっ!!!」
「うにゅ?ぱぱしあわせ~だよっ!!!」
それから毎日、飛行訓練が行われた。早い個体は。梅雨明けには巣立ちの季
節を迎えるので、それまでに両親は一人前のうつほを育てなければならない。
そして、梅雨入りを数日後に控えたある日、
「うにゅうぅぅぅぅぅっ!!!」
とうとう子うつほのうち、長女が巣を越え、森を越え、高く飛び上がること
に成功した。
「すごいよっ!!!すごいよおちびちゃん!!!」
「うにゅ~っ!!!うにゅにゅ~♪!!!」
初めての空を楽しげに飛び回る長女うつほ。
「すごいよっ!!!おねーちゃんすごいよっ!!!」
「うつほもおそらを飛ぶよっ!!!うにゅううううう!!!」
妹たちも姉に負けじと翼を必死に動かし、空中に浮かび上がる。だが、まだ
長女に比べると、翼の動かし方がばらばらで、森の中をふらふら浮かぶのが
精一杯だった。
「うにゅーっ!!!」
そんな妹たちを尻目に一人大空の散歩を楽しむ長女うつほ。
「おちびちゃーん!!!一人のおそらは危険だからゆっくり戻ってきてね!」
「うにゅ?」
だが、生返事を返すと長女はさらに高く飛び上がろうと翼を動かした。
「ゆわぁ…」
長女うつほの眼下には、一面緑色の森が広がる。
一定の高さに揃った樹幹はまるで芝生のようだった。
その芝生の隙間に小さな点がうろうろしている。うつほの家族の姿だった。
まるで太陽を称えるかのごとく、手を伸ばし、広げる木々の上を長女うつほ
は踊るように飛び回った。
「うにゅ~っ!!!」
長女うつほは初めて知った。なぜ両親が空を飛ぶのかを。なぜ鳥が空を飛ぶ
のかを。そして確信した、空こそがうつほの本当の居場所であることを。
ずっと木々の間から垣間見えるばかりだった空は、今や長女うつほの視界い
っぱいに広がっていた。
「もっと!もっとあおいところへっ!」
長女うつほは空の頂、もっとも青いはずの有頂天へ向けて大気を蹴る。
そのときだった、大気を切り裂く音と共に、急降下してきた何かが、長女う
つほの体をしたたかに蹴りつけた。
「う゛に゛ゅ!!?」
黒い翼からぱっと羽が舞い落ち、背中に鈍い痛みが走る。
その衝撃で片目が破裂し、頭の中で何かが弾け、子うつほの意識は遠のいた。
「あ゛!!?」
空中から叩き落とされた長女うつほが今にも樹幹に突っ込もうかというその
時、ぐいっと何か強い力に引き上げられ、子うつほは再度空中に舞い上がった。
「!!?」
背中の皮を破り、何かが食い込んでゆく。しかし、長女うつほの意識は次第
に薄れてゆき、二度と回復することはなかった。
それはハヤブサによる襲撃だった。
ハヤブサは空中を飛ぶ獲物を上空から急襲する。時速200キロとも300キロと
も言われる急降下により運動量が最大になったところで、獲物を蹴り落とす
のだ。まさに必殺の一撃である。
これによってたいていの獲物は死亡か失神する。そして、落下していく獲物
を再び空中でキャッチし、食べるために運び去るのである。
「ゆあああああああっ!!!おぢびぢゃんをがえぜええええええっ!!!」
「おねーじゃあああんっ!!!がえっでぎでえええっ!!!」
「う゛に゛ゅ゛うううううううう!!!」
長女うつほの悲劇を目の当たりにし、泣き叫ぶ母、そして妹たち。
だが、その声が長女の耳に届くことはなかった。
ただ一本のちぎれた緑色のリボンがゆらゆらと風と遊ぶかのように空中を舞
い落ち、木の枝に引っかかった。
七月の半ば、やや遅めの梅雨明けを迎えたこの森で、あの子うつほたちはす
っかり飛ぶのが上手になり、今では、日中はほとんど巣にいなかった。
梅雨の間は、生い茂った木の葉と両親の翼が雨から子うつほたちを守ってく
れた。そして、梅雨の間でもお日様が帰ってきた日には父うつほが狩りの仕
方を教えてくれた。
ネズミのような素早い小動物や小鳥相手には、まだまだ勝率が悪いものの、
子うつほたちは単独でも生きていけるだけの力を着々と蓄えていた。
その日、生き残った三姉妹は、いつものようにたくさんの昆虫を捕まえて
巣への帰途についていた。
「うにゅ~♪これだけごはんさんとれれば、ぱぱもままもうつほのことほめ
てくれるよっ!!!」
「きっとうつほにもいいこいいこしてくれるよ!!!」
「うつほが一番にいいこいいこされるよ!!!」
三姉妹とも既に十分に成長し、下腹部の放射能標識は、幼毛から成体の羽毛
に生え変わり、ほとんど見えなくなっていた。
そうこうしているうちに巣が見えてきた。父うつほも母うつほも巣の中で三
姉妹の帰りを待っていてくれたらしい。
「うにゅ~!ただいま!!?」
ドンッ!
巣に着陸しようとしたとき、三女うつほは父うつほに体当たりされ、地面に
叩きつけられた。口の中にたっぷり詰め込んできた餌が辺りに無造作に散ら
ばる。
それを見て驚いた姉妹たちも思わず、巣から離れた枝に着地した。
「う…うにゅ?…ぱぱ?…なんで?…」
父うつほに体当たりされた三女うつほは何が起きたのか全く分からなかった。
「こっちに来ないでね!!!もううつほたちはぱぱのおちびちゃんじゃない
よっ!!!」
「ゆっくりしないでどこかへ行ってね!顔も見たくないよ!」
父うつほだけでなく、母うつほまでが三姉妹を巣から排除しようとする。
「なんで?なんでぱぱとままはうにゅほを怒っているの?なんで?」
「うるさいよっ!!!ゆっくりしないでどこかへ行ってね!!!」
父うつほは巣を飛び立ち、何度も小突くように三女うつほに体当たりをす
る。母うつほも次女と四女うつほを小突き回していた。
その行動は外敵に対する威嚇行動と全く同じだった。
「なんで?なんでぇー!?ぱぱ?まま?うにゅほのこと嫌いになっちゃっ
たの!!?そんなのやだよ!!うにゅほは!うにゅほはぱぱとままがだい
すき…」
「うるさいよっ!!!今まで育ててあげただけでも感謝してね!ゆっくり
しないで出て行ってね!」
「うにゃあああああああ゛!!!」
三姉妹は泣きながら、突如態度を豹変させた両親にすがりつくが、両親は
聞く耳を持たなかった。
結局、一時間近く泣きながらすがりついては小突き落とされを繰り返し、
三姉妹は諦めた。理由は分からなかったが、もう優しく、暖かな両親のも
とに帰れないことをやっと悟ったのだ。
「ゆっくり…理解したよ…もうぱぱとままはうにゅほのぱぱとままじゃな
いんだね…ゆっくり出て行くよ…」
「うにゅ?やっと出て行く気になったんだね!ゆっくりしないで遠くへ行
ってね!」
三姉妹はべそをかきながら、互いに身を寄せ合い、飛び立とうとした。
だが、三女は最後に両親の方を振り返る。
「集めたごはんさんは置いていくよ…ぱぱとままでゆっくり食べてね…う
にゅほはいつまでもぱぱとままが大好きだよ…」
「………」
最後の瞬間も、両親はただ黙って我が子をにらみつけるだけだった。
「さよなら…うにゅっ!!!」
三姉妹は飛び立った。
駆け抜けるように一直線に青空に上って行った。
そして、未練がましく何度か生まれ育った巣の上空を旋回した後、飛び去
って行った。
寂しくなった巣の中で、両親は静かに泣いていた。
梅雨明けは、巣立ちの季節だった。
親は心を鬼にして、成長した愛娘たちを、下腹部の放射能標識の消えた個
体を巣から、自分達の縄張りから追い払わなければならなかった。
うつほはゆっくりにしては優れた身体能力、飛行能力を有するが、その分
平常時の代謝を高く保たねばならないという生理的特長を有していた。
高性能だが、燃費の悪い車と考えてもらえば分かりやすいだろうか?
優れた能力を発揮するために、燃費の良さを犠牲にしたつくりになってい
るのである。
この平常時の代謝の高さが、高い体温につながり、前述した「うにゅほっ
かいろ★」も開発されたのだ。
しかし、当然、燃料、即ち、体を維持し、成長するためには他のゆっくり
よりもたくさんの餌、より高カロリーな餌を食べなければ生きてはいけな
い。
そして、そのためには成体うつほ同士の縄張りが重複することはあっては
ならないことなのである。
親は次の子を産み育てるために、前年に生まれた子うつほたちを縄張りか
ら追い出さなければならないのだ。
この行動は数少ない、飼育下での繁殖成功事例では確認されていないため、
周囲の環境や栄養状態など様々な要因が引き金となって誘発されていると
考えられるが、詳細はまだまだ不明である。
いずれにせよ、三姉妹は自分達だけで生きていかねばならなくなった。
両親は巣の中で、一晩中、ごめんね、ごめんねと泣き続けていた。
八月末、かつて三姉妹が両親と暮らしていた森から数十キロ離れた山の中
に三姉妹の姿はあった。本来、番になっていないうつほは単独で生活する
ものなのだが、この三姉妹は例外だったのか、ずっと一緒に暮らしていた。
そして、この森の豊富な恵みをそれを許していた。
三姉妹の体は巣立ったときよりもさらに一回り大きくなり、もう誰が見て
も成体と言えるサイズにまで成長していた。ただ、次女うつほは最年長と
しての責任感からか、餌を優先的に妹達に与える傾向があり、三匹の中で
は体が一回り小さかった。
その日、三女うつほは昼前に巣を出かけ、夕方前には餌を取って巣へと帰
ってきた。
うつほの捕食生態は、鳥などと比べて独特な特徴を持っている。
70年代以降、鳥類の捕食・摂餌生態については、最適捕食戦略と呼ばれ
る理論を元にした研究が盛んに行われている。
これは鳥が巣を離れて戻ってくるまでの、一回の出撃で、どれだけ時間や
エネルギーを投資し、どれだけ餌を利益として回収することができるか、
を考察するというものである。
例えば、巣から離れた場所まで餌を採りに行く場合、それに見合うたくさ
んの、または滋養豊かな餌がなければ、投資に見合わない。そのため、投
資に見合った餌を回収するまではなかなか帰ろうとしないと考えられる。
その一方で、巣の近くならば、小さな餌、大した栄養価のない餌でも、投
資した時間やエネルギーが小さいので、「割りに合う」餌ということにな
る。
実際のところ、強い鳥、弱い鳥、餌が豊富な環境、乏しい環境、競合者の
有無など、様々な要因によって、どのレベルの投資−利益のバランスが最
適かは異なってくる。強い鳥ならば最大の利益を追求する戦略で問題ない
が、弱い鳥ならば、捕食される危険を何よりも回避しなければならない。
当然、最大の利益を追求する戦略は取れないが、捕食されてしまえば利益
はゼロなのだ。
しかしながら、うつほは鳥と似た生態的地位を持ちながら、おつむが弱く、
捕食・採餌行動の効率性をまるで気にしていない様子だった。
餌場は忘れることが多いため一定ではない。
『うにゅ?おいしいごはんさんがとれるのは…どこか木がたくさん生えてい
る森さんだったはず…うにゅ~?どこだっけ?あるぇ~?』
縄張りはしばしば間違える。
『ここはうつほの縄張りな気がするよっ!!!ゆっくりしていないで出て行
ってね!』
『ちがうもん!うにゅほのだもん!きっとそうだもん!』
時折自分の巣を見失う。
『うにゅほはだれ~?ここはどこぉ~?』
それどころか時折巣を間違える。
『ぴゃぴゃー!ゆっくちちていってにぇ!!!』
『みゃみゃー!れいみゅはみゃみゃのことだいしゅきだよっ!!!』
『ゆゆ~!まりさとれいむの赤ちゃん!とってもゆっくりしているよ!!!』
『ゆ~ん!れいむ、おちびちゃんのおかげでとってもゆっくりしているよ!』
『うにゅ~!ただいまぁ~っ!!!』
ぶちゅ!!!
『どぼじでおぢびぢゃんづぶれぢゃっでるのおおおおおっ!!?』
『うにゅ?』
『でいぶのぎゃわいいおぢびぢゃんがああああああああああっ!!!』
『うにゅ!!?…!…そういえばうつほのおうちは木の上だったよ!!!』
『二度と来るな!ごのゆっぐぢごろじいいいいっ!!!』
『わああああん!おぢびぢゃああん!!!ゆっぐぢじでええええっ!!!』
そのため、海外の研究者の間では、従来の鳥類と比べてまったく新しい戦略
を取る動物として注目する声も高いが、単に忘れっぽいだけであり、それで
も生きていけるほど高い身体能力(ゆっくりにしては)、豊富な餌資源を有す
る環境がうつほの生態的地位を支えているのだろうか?
三女うつほが巣でのんびりうにゅうにゅしていると、姉妹の一匹が巣へと帰
ってきた。
「うにゅ~!おねーちゃん!ごはんさんたくさん捕ってきたよ!」
四女うつほが捕ってきたのはたくさんの赤ゆだった。
れいむ種、まりさ種、ありす種、ちぇん種、みょん種、ぱちゅりー種な
ど通常種が一通り揃っている。野良の巣を襲撃したのだ。
この山には人里から移住してくる野良ゆっくりが後を絶たなかった。彼ら
の多くは、飼いゆっくりよりは自然環境の中での生活に耐性があったが、
ずっと野生で暮らしてきたうつほたちから見れば、彼らの巣、けっかい、
ぷくーっなどただのお遊びに過ぎなかった。
野良ゆっくりは簡単に捕獲できる餌として、三姉妹の生活を支えてきたの
である。
「たちゅけりゅんだじぇ!!!ほかのゆっくちはたべちぇもいいきゃら!
まりちゃだけはたちゅけてほちいんだじぇ!!!」
「やまちぇ~!ありちゅをたべるゅなんていにゃかものよっ!!!」
「むっきゅっうぅぅぅんっ!!」
ぴーちくぱーちく喚く赤ゆたちを見て、三女うつほは満足そうにうなずい
た。
「これはとてもゆっくりできそうなごはんさんだよっ!!!うつほは味見
するよ!」
そう言って三女うつほは元気のいい赤まりさを口に含んだ。
「ゆわああああっ!!!やめるんだじぇ!!!まりちゃはまりちゃだきゃ
らたちゅけなきゃいけないんだじぇ!!!まりちゃを…ゆぎゃあああっ!
「むーしゃむーしゃ…しあわせぇ~っ!!!」
どうやら、野良とはいえど、赤ゆの味は格別だったようだ。
「うにゅ?うつほぺっぺするよ!ぺっ!!!」
うつほは木の下に向けて、ペリットを吐き出した。
ペリットとは、ワシやフクロウ、カワセミなど肉食鳥が飲み込んだ餌のう
ち、鱗や骨など消化できないものをまとめて吐き出したもののことである。
ペリットは数日に1回のペースでしか、吐き出さないため、うつほが吐き
出したペリットには、一昨日食べた昆虫の外骨格、昨日食べた魚の鱗、さ
っき食べた赤まりさの帽子などが含まれていた。
「うにゅ~?おねえちゃん帰り遅いよ~!うつほ、早くみんなでごはんさ
んむーしゃむーしゃしたいよ~!!!」
四女うつほが言うおねえちゃんとは次女うつほのことである。次女うつほ
は今朝方、巣を発ったきり、帰ってきていなかった。
うつほは心配だった、ひょっとして次女まで自分達を見捨ててしまったの
ではないかと。
この日、次女うつほはいつもより遠くまで餌を探しに出かけており、見慣
れぬ場所で何度か巣の方角を見失いながら飛んでいた。
三女と四女うつほが切望していた次女うつほの姿が見えたのは、もう太陽
が水平線に半分以上その姿を隠し、東の空から藍色の夜のベールが広がり
始めたときであった。
「うにゅ?おねえちゃんだよっ!!!おねえちゃんが帰ってきたよっ!!」
「うにゅ!!?」
三女うつほは四女うつほの視線を追う。そこには見慣れたシルエットがあ
った。
よく鳥目といわれるように、鳥は夜間、視力が著しく低下すると考えられ
ているが、それは誤解である。フクロウのような夜行性は当然としても、
ゴイサギのような薄明時行動性の鳥類、星を頼りに移動する渡り鳥など、
昼間活動する鳥でも夜間にある程度の視力を有する種は少なくない。
うつほも、昼間ほどではないにしても、ある程度、夜間でも視力を保持し
ており、現時点、薄暮時ではしっかりと次女うつほの姿を捉えることが出
来た。そして、次女うつほの飛行が異常なものであることも。
「うにゅ?なんか変だよ!!?」
次女うつほはふらふらと飛行していた。まるで、何かの狙いを攪乱するか
のように。
「「ううううぅぅぅぅーっ!!!」」
それは捕食種の鳴き声だった。
巣への帰りが遅くなった次女うつほは、ちょうど夜の捕食のために出撃した
すかーれっとと鉢合わせしてしまったのである。
四匹のすかーれっとはれみりゃ二匹、ふらん二匹の構成であり、二つのろっ
てを構成していた。「ろって」とは二匹一組の捕食飛行戦術のことで、すか
ーれっとは、自身と同等かそれ以上の飛行能力を有する相手に対して、二匹
で互いに支援しつつ戦う、この戦術をとることが知られている。
「おねえちゃああああんっ!!!」
次女うつほをたすけるために三女と四女うつほが飛び立ったそのとき、捕食
種の攻撃をかわし続けていた次女うつほと一匹のすかーれっとの影が交差し、
翼が散った。
次女うつほの影は力なく墜落していき、それを先程のすかーれっと−ふらん
だった−が追う。
「うっうー!!!」
ふらんは地面で潰れていた次女うつほにかぶりついた。
「むーしゃむーしゃ…う゛!!?ぶぼぉっ!ゆげえ!!」
ふらんは吐いてしまった。あまりにも次女うつほの中身のレモンカードが酸
っぱかったからである。うつほ種では栄養状態が悪いと、中身の酸味が増し
てしまう傾向がある。それは両親から離れた後、妹のために苦労を背負い続
けた姉のゆん生の味であった。
「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」」
三女と四女うつほは怒りに任せ、咆哮と共に夕闇へと飛翔した。
「「うううぅぅぅーっ!!!」」
地方によっては魔女の金切り声、ストゥーカなどと呼ばれる独特の泣き声を
発しながら、獲物に向けて緩やかな螺旋を描きつつ、急降下していく三匹の
すかーれっと。
その姿はまるで急降下爆撃機のようだった。
「「うにゅーっ!!!」」
対するはスクランブル発進した迎撃戦闘機のように急上昇していく二匹のう
つほ。
強風に対する耐久性、上昇速度ではうつほに分があったが、夜間視力と小回
りという点ではすかーれっとに分があった。
「お゛ね゛ーじゃん゛の゛がだぎぃぃっ!!!」
「ううー!!?」
四女は真正面かられみりゃに突っ込み、二匹は正面衝突した。
「う゛っ!!?」
「ゆべっ!!」
二匹の眼球が飛び出し、歯がへし折れ、そのまま二匹は錐揉み状態で落下し
ていき、大地に叩きつけられて四散した。
「ああああああっ!!!」
「ゆっくり死ねっ!!!」
残った三女うつほはふらんの攻撃をやり過ごし、後方から回り込むようにふ
らんにせまる。
「そうはさせないんだどーっ!!!」
だが、ろっての後衛を担っていたもう一匹のれみりゃがうつほの前に立ち塞
がる。
「うにゅう゛っ!!!」
強引に体をねじり、れみりゃの攻撃を回避するうつほ、互いの体をかすめた
翼がうつほの頬を、れみりゃの翼を小さく切り裂く。
「うにゅううううううっ!!!」
うつほは痛みを我慢し、一気に上昇し、高度を確保した。すかーれっとは一
瞬うつほの姿を見失う。
「落ちろぉぉぉっ!!!蚊トンボぉぉぉっ!!!」
うつほは真っ逆さまにふらん目掛けて急降下した。
「お前がこんてにゅーできないのさぁぁぁっ!!!」
対してふらんも渾身の力ではばたき、一気に上昇する。
だが、十分な高度から加速したうつほに対して、ふらんは強引に上昇したた
め、不安定な姿勢のままうつほと衝突することになった。
ばふっ!
布団を勢い良く叩いたような音と共に、二匹は衝突した。無理な姿勢で上昇
したせいで、うつほの体当たりをまともに食らったふらんは気を失い、その
まま森に墜落していった。
一方、うつほも衝突でバランスを失い、必死に体勢を立て直そうとしながら
も、農業用の溜め池に墜落した。
「うにゅ!!?うにゅうううっ!!!」
必死に翼を動かし、池から出ようとするうつほ。
しかし、ふらんとの衝突の衝撃で頭がぼーっとして思うように体を動かせな
かった。それでもなんとか岸に上がったものの、疲労と頭痛で一歩も動けな
かった。
「うにゅほ…一人ぼっちは…やだよぅ…」
晩秋、三女うつほは相変わらず、あの森で生活していた。頭の傷は癒えたも
のの、少しだけ擦れたような傷跡が生々しく残っている。
「うにゅ~っ!!!うにゅほは冬さんが来る前にごはんさんを蓄えるよ!」
うつほはれいむ種やまりさ種のゆっくりなどのように穴に潜って越冬するこ
とはない。風雨を避けやすい、森の奥や鬱蒼とした枯れ草の中に冬用の巣を
作り、寒さをしのぎながら餌を採り、生活するのである。
冬の間、うつほは木の皮の下や、もろい枯れ木の中に隠れて越冬する昆虫や、
巣穴にこもって越冬している他のゆっくりを捕食して過ごしている。同様に
冬も活動する小鳥を襲って捕食することもあるらしい。
しかし、巧みに隠れている昆虫や、頑丈に巣穴に栓をしているゆっくりには
手を出せないため、やはり餌不足に陥ることも多い。
そのため、秋のうちから、うつほは森でどんぐりや栗のような堅果や、昆虫
を取ると、その半分を適当な木の窪みや割れ目、地面の穴などに差し込むよ
うにして隠す。これが、餌の乏しい冬を乗り切る保存食となるのである。
「この穴さんはうつほがごはんさんを隠すのにちょうどいいよ!!!早速隠
すよ!!!」
うつほ同様に、鳥の中には、冬季の食糧難に備えて、秋のうちに堅果や昆虫
を地面や木の中に差し込み、貯蔵するものがいる。
この行動は貯食と呼ばれており、ヤマゲラなどがこの行動をとる鳥として有
名である。また、モズの早贄も同様の目的を持つ行動ではないかと考えられ
ている。
貯食行動においてはどこに隠すかも重要であるが、どこに隠したかを思い起
こすことも同じくらい重要である。
カラスによる研究では、隠し場所周辺の特徴的な地形や石ころなどの目印を
学習し、貯蔵した餌を掘り当てていることが報告されている。
しかしながら、うつほの頭では貯蔵した場所を完全に記憶できるものではな
いらしい。
冬、木枯らしが森の中を吹きぬける中、あの三女うつほは泣き叫んでいた。
「うにゅうぅぅぅ!!!なんじぇごはんざんないのおおおおお゛っ!!!」
このうつほが隠した木の実は別段、誰かに盗まれたわけでもなく、周囲の目
印となるものが変わってしまったわけではない。
単に「鳥頭」のせいで忘れたのである。
「うにゅほおなかすいたよおおおおっ!!!ごはんさんでてきてよおおお
おっ!!!うにゅうううううっ!!!」
蓄えておいたはずの餌が見つからず、ひたすら泣き喚くうつほ。
しかし、泣き喚いたところで餌が出てくるわけでもなかった。
この「鳥頭」と呼ばれる忘れっぽい頭は、度々うつほのゆっくりを妨害する
が、森にとっては貴重な形質でもある。なぜならば、うつほがせっかく集め
ておきながら、その貯蔵場所を忘れてしまった堅果から、新しい芽が発芽し、
次代の森を形成していくからである。
「ゆゆぅ…おそとがうるさいんだぜ!!!…さぶっ…!!?」
木の根の下に掘られたゆっくりの巣穴、その入り口を覆い隠していた枯れ草
が動き、中から黒い帽子がトレードマークのまりさが顔を出す。
うつほの泣き声が、ぐっすり眠っていた越冬中のゆっくりを起こしてしまっ
たようだ。
まりさは鳥などが隠した貯食をちょろまかした経験があったため、うつほが
なぜ騒いでいるのか、すぐに気がついたようだ。
「ゆふふふ~ん、ばかなうつほが自分で隠したごはんさんをみつけられない
んだぜ!さすがとりあたまなんだぜ!ぷー!くすくす!」
「いんてりじぇんすなれいむと違ってとりあたまさんはたいへんだね!おお
あわれあわれ!!!」
まりさとれいむの罵倒にうつほは顔を真っ赤にして泣いていた。
「う゛にゅ゛う゛う゛う゛う゛っ!!!ぢがうっ!!!うにゅほどりあだま
じゃないもんっ!!!」
余程愉快だったのか、泣き喚くうつほを見て大爆笑するまりさとれいむ。
「ゆはははははっ!!!うにゅ?とかばかなの?しぬの?ぱーふぇくとなま
りささまはそんなばかなことしないから、えっとうなんてらくしょーなんだ
ぜ!!!」
「ゆひーひっひっひっ!ばーきゃ!ばーきゃ!とりあたまさんはれいむのう
んうんでもたべてあたまよくなってね!!!かしこくってごめんねーっ!!」
そう言ってあにゃるをこちらに向けてうんうんし始めるれいむ。
ことここに来て、うつほの堪忍袋の緒どころか、堪忍袋自体がメルトダウン
した。
「う゛にゅ゛う゛う゛う゛う゛っ!!!うにゅほ!ほんきでおこったよおお
おおおっ!!!」
涙と怒りで目を真っ赤にしたうつほがまりさとれいむの巣に向かって突進した。
「ゆゆ!!ばかがなにかやってるのぜ!」
「ちせいはなれいむはゆっくり、すのいりぐちさんをしめるよ~!おばきゃな
とりあたまはさむいおそとでひとりでふっとーしててね!れいむのちぼうは一
個艦隊にまさるからごめんね~!」
言うだけ言って二匹はさっさと巣の入り口を元通りに木の葉や枝で塞ぎ始めた。
だが、うつほの方が行動が一歩早かったようだ。最後に塞ごうとした隙間から
八角形の棒状のものが差し込まれる。
「ゆゆ?なにこれぇえええ!!?」
「うにゅうあああ゛!!じねえええええええーっ!!!」
それはうつほの第三の脚、屹立したぺにぺにであった。
「ゆぎゃああああ!!!これぺにぺにだああああっ!!!」
「Caution! Caution! うつほのあついぱとすをくらえええええっ!!!」
ぽんっという小さな爆発音と共に何かがぺにぺにから発射された。それは精子
餡ではない。
100℃以上はあろうかという高温の有毒ガスである。
うつほが体内に蓄えている二種類の化学物質、過酸化水素とヒドロキノンを反
応させることによって生成した、100℃以上の水蒸気とベンゾキノンの気体を
ぺにぺにからまりさたちに向かって噴射したのだ。
その一撃はまりさの左目を破壊し、飛沫がまりさの背後にいたれいむの顔面に
降りかかった。独特のゆっくりできない刺激臭が辺りに立ち込める。
「ゆ゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!あづいいいいいいっ!!!おべべが
いじゃいいいいいよおおおおおおっ!!!」
まりさのぽっかりと開いた眼孔は、高温の化学物質によって変色し、おぞまし
いほど赤黒く焼きただれていた。傷口には、破裂した眼球だったものと思しき
液体がべっとりと付着している。
「いじゃいいいいいっ!!!ばでぃざのくりくりじだおべべどうなっぢゃっだ
のおおおおおぅっ!!?」
「ぐじゃいよおおおおっ!!!ぐざいよおおっ!!!でいぶのの゛ーぶる゛な
ごあ゛ぐま゛けいふぇいずがああああっ!!!ひりひりずるよおおおっ!!!」
れいむは、飛沫が降りかかった部分だけ黒く変色し、そこからくる焼けるよう
な痛みに涙を流しつつ、悶え苦しんでいた。
「ゆっぎゃあああああっ!!!もどぜええええっ!!!でいぶのがれんなおが
おをもどにもどぜえええっ!!!」
「ばがっでいうほうがばがなんだぁっ!!!ばがぁっ!ばがぁっ!」
うつほは第二射を充填する。通常、このような化学物質は捕食者に襲われた時
に、逃げる隙を作るために使用される。そのため、連射するということはあま
りないのだが、そこは堪忍袋がメルトダウンしたうつほである。
更なるペタフレアがまりさとれいむを襲うのに一分とかからなかった。
「じねっ!じねっ!!ぐぞぶぐろっ!!!しにがみとふゅーじょんしてろっ!
Caution! Caution! うにゅううううっ!!!」
ぽんっ!!!
第二射はれいむを側面から直撃した。黒い髪は化学物質に焼かれてただれ、高
温の化学物質は表皮を溶かし、中の餡子を焼いていく。
「ゆぎいいいいいいいいっ!!!でいぶのぎゅーでぃぐるながみざんがあああ
ああっ!!!あがばばばあばばばああああっ!!!」
焼きただれた表皮に半ば溶けた髪が張り付き、れいむの顔は悲惨な何かへと変
形していた。この姿を見て、れいむや饅頭を思いつくものはいないだろう。そ
れは醜悪で小汚い何かだった。
その何かが、吐き気をもよおす刺激臭を漂わせながら暴れる姿に、まりさは心
底恐怖し、おそろしーしーを盛大に漏らした。
「ゆびいいいいっ!!!ぎだないばけものおおおおっ!!!」
「どぼじでぞんなごどいうのおおおおおおっ!!?ゆっぐぢでぎなばば!!!」
れいむの中枢餡は次第に浸透した化学物質によって壊されつつあり、長くは持
たないだろう。もっとも、れいむにしろ、まりさにしろ、既に生き延びたとこ
ろで苦しい生活をせざるを得ないだけのダメージを受けてしまっていた。
その上、この刺激臭はなかなか消えず、ゆっくりたちが毛嫌いする臭いである
ため、しばらくの間、ここの巣穴でゆっくりすることは不可能になる。
なお、このゆっくりが焼け爛れる攻撃、しばらくは刺激臭で近寄れなくなる化
学汚染、これらがゆっくりの間で広がり、人間から核関連の情報を知ることで
核うんぬんの話が形成されたものと考えられている。
「だじゅげで!!!ばでぃざをだじゅげで!!!おねがいだがらああっ!!?」
奇しくも、このまりさとれいむの番は、春にこのうつほの妹にあたる赤うつほを
永遠にゆっくりさせた番だった。
だが、そんなことを知る由もないうつほは泣きながら冬の寒空へと舞い上がり、
どこか向かうでもなく、ただ太陽に向けて高く飛んでいった。
「うつほはあああっ!!!うにゅほはばがじゃないもんっ!!!ゆあああん!」
うつほのぺにぺにが他のゆっくりよりもはるかに頑丈なのは、すっきりだけで
なく、このような化学物質の噴出による防衛行動にも使われるからであり、化
学反応のための丈夫な壁に覆われた小室があるためである。
この化学物質とその噴射機構ははミイデラゴミムシに代表される「へっぴりむ
し」の高温ガス攻撃と全く同じであり、収斂進化の例として学術的にも注目さ
れている。
この防御機構は親の保護下から離れる子うつほ時代に完成し、主にヘビやイタ
チ、他のゆっくりといった地上の外敵に対して使用される。うつほというと、
空を飛ぶことばかり注目されがちだが、地上での危険は馬鹿にならないのであ
る。また、猛禽やすかーれっとといった空中の外敵に対しては、空中での命中
率が悪いせいか滅多に使用されない。
空中では、射程の短い化学物質の噴射に頼るよりも、自慢の翼で逃げ切った方
が適しているのだろう。
なお、うにゅほはやっぱり「鳥頭」なので、すっきり時に精子餡と一緒に誤射
してしまい、
『すっきり!!!すっきり!!!すごいよっ!!!うにゅほ!あたまがふっと
ーっしそうだよっ!!!』
『うにゅううっ!!!うにゅうううっ!!!きてね!!!いつでもきてね!』
『すっきりーっ!!?』
ぽんっ!!!
『ウボァー!!!』
『うにゅうぅ…さいっこうっのふーじょんだったよぅ!!!…うにゅ?』
『ゆ゛…ゆ゛…ゆ゛げぇ…』
『どぼじでじんじゃっでるのおおおおおおっ!!?うにゅほすっきりしただ
けなのにいいいいいっ!!?』
というような悲惨な結果になることもあることを付け加えておく。当然のこ
とではあるが、まむまむがふっとーっしたゆっくりは例外なく死亡する。今
後飼育やブリーディングに挑戦したい方には、うつほを出産役にするか、出
産役となる番候補を複数用意しておくことを強く推奨する。
そして、雪が溶けて冬が去り、花が咲いて春が来て、初夏になった。
あの三女うつほは…
山の上を飛んでいた。
夏の青空に高々と舞い上がり、周囲に自分の存在をアピールするかのように
けたたましく「うにゅ!うにゅ!」と鳴くうつほ。この行動が縄張りを主張
するためだと考えられていることは既に紹介した。
「うにゅ~!!!うにゅ!!!」
だが、違うのかもしれない。
うつほは単に空が大好きで、ただそれだけの理由で、毎日、飛び、そして鳴
いているのかもしれない。
もちろん、証拠も何もない。推論ですらない。だが、その方がうつほに似合
っている気がするのだ。
「うにゅ~っ!!!」
その漆黒の翼いっぱいに風を受け、うつほは積乱雲を背景に更に高く上って
いった。
この風の神様に愛された小さな小さなイカロスは、太陽に会いたくてきっと
高く上り続けるのだろう。
その小さな命が、
小さな小さな彼女の太陽が燃え尽きる、その日まで。
− 完 −
神奈子さまの一信徒です。
今回はうつほの生活史に焦点をあてているので、縄張りの形成や、群れに所
属した場合の行動など、考えたら面白そうな部分がたくさん残ってしまいま
した。
これらについては、他のSS作者様に期待するか、自分の専門ではない鳥類の
生態について、もう少し勉強してから挑戦してみたいと考えています。
なお、うつほの中身は、黄色くて、うにゅほの源流である卵を使っているも
のということでレモンカードとして書き上げました。辛いものだと他のゆっ
くりに捕食されず生態系での役割が限られると考えたからです。もちろん、
それはそれでおもしろそうなのですが、自分は普通の生物として食物連鎖に
組み入れてみたかったので、このような形になりました。
よく言われるプルトニウムでは、死んだら危険、孕むのも危険…
というふうに生物としての描写が私では不可能でした。
アメ○カ軍に改造された…とかいうノリじゃないと生態系には組み込めない
かと。
うつほ=原子力じゃないと納得できないという方にはすみませんでした。
また、スレでこの質問をした際に、お答えくださった皆様、ありがとうござ
いました。
皆様のお暇つぶしとなれば幸いです。お目汚し、失礼いたしました。
ので、それ聴きながらノリノリで書いてたら、こんなんできました。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
独自設定だらけですので、苦手な方はご注意ください。
クラシック好きな方への推奨BGM
レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ
「揚げひばり」(ひばりは舞い上がる、空高く、という邦題がつくことも)
注意点:うつほの名前について
学術上正式名称はうつほであるが、うつほ自身は一人称として、
うつほ、うにゅほを使うことが確認されている。
また、さとり、おりんなど一部のゆっくりにおいては、うつほ
のことをおくうと呼ぶケースが報告されている。
本報告書においては上記の名称が状況に応じて使い分けられて
いることを了承の上、お読みいただきたい。
また、赤ゆについては、赤うつほと同じ意味で雛うつほという
単語が使われることも多いが、混乱を避けるため、本稿では赤
うつほ、子うつほといった従来のゆっくり研究で使われてきた
単語で統一する。
『うつほは舞い上がる、空高く』
うつほ
主に温帯以南に棲息する飛行可能なゆっくりである。
よく春から初夏にかけて、うつほが天高く飛びながら、
「うにゅ!うにゅ~っ!」
と鳴いているのを見たことがある人もいるだろう。
この行動は、他のうつほに対して、縄張りを主張するためのものとされて
いる。
生息数自体は決して少ないものではないが、人工飼育下での繁殖が難しい
ためペットショップでは希少種扱いを受けるゆっくりの一つである。
その春爛漫なあたまと天真爛漫な性格から人気は高く、一時期、「うにゅ
ほっかいろ★」という商品名の、ポケットサイズの改良品種が出回ったこ
とがあった。
うつほのように活発に飛行するゆっくりは平常時の代謝が人間よりも高く、
体温は40℃以上と、人間が抱いて暖かいと感じることができるほどである。
そのことから、携帯できるカイロ+ペットを!
といううにゅほをこよなく愛する某研究員の情熱によって強引に商品化さ
れたという。
結局、いくら死ぬまで使えるカイロとは言え、値段が高価であったこと、
実際にホッカイロ同様の使い方をして圧迫死するケースが相次いだことか
ら、販売から半月で生産中止の運びとなった。
だが、世間にうつほを認知させる、という点では、「うにゅほっかいろ★」
の果たした役割は大きく、現在ではいくと共に電力会社のマスコットなど
にも採用されている。
さて、うつほというと核エネルギーというイメージを抱く人が多い。とあ
る地方では幼鳥のうつほを蒸しあげて作る「イエローケーキ」という郷土
料理があるくらいである。
驚くべきことに、このイメージはゆっくりから人間へと伝わったものとさ
れている。
しかし、実際問題として、核エネルギーで動くならそれはもはや生物では
ない。本当にうつほの中にプルトニウムが入っているのならば、反核団体
は真っ先にうつほを絶滅させるべきだろう。
では、実際のうつほの姿はどのようなものなのか?
以下にこの天真爛漫なゆっくりの生態について紹介する。
春、桜が咲き乱れる頃、うつほは樹冠の中に木の枝で巣を作り、出産する。
巣の高さも重要であり、高すぎると猛禽や捕食種など、空を飛ぶ捕食者に
よって脆弱な赤ゆが狙われてしまう。
一方、低すぎると、今度はヘビやイタチが攻撃をしかけてくる。
だが、これはうつほ同士で繁殖を行う場合であり、それ以外のケースでは、
相手方の巣内に木の枝で出産用の巣をもう一つ作り、そこで出産すること
が知られている。ただし、相手方が出産する場合はその限りではない。
「ふゅーじょんするよぉっ!!!」
「ゆっくりふゅーじょんするよぉっ!!!」
今、うつほ同士でふゅーじょん(すっきり)を行おうとしている。
片方の個体の下腹部から、ゆっくりとぺにぺにが伸びていく。
うつほのぺにぺには「第三の脚」とも呼ばれ、他種のぺにぺにと比較した場
合、太ましく、極めて頑丈である。
形状は八角形の棒状であり、普段は体内に隠れているのだが、すっきり時に
興奮した際、体の外に飛び出すのである。
「Caution! Caution!」
この音は「うにゅ?」と並んで、うつほの鳴き声として有名だが、正確には
すっきり時ととある場合にのみ聞かれる鳴き声である。後者については後述
する。
「うにゅうぅっ!!!こーふんしてあたまがめるとだうんしそうだよっ!!」
「「すっきりぃぃぃっ!!!」」
次第に片方のうつほのおなかが膨らんでいく。今回は胎生だったようだ。
なお、うつほと他のゆっくりを交配させた場合、どのように赤ゆが生まれて
くるのか、実験を試みたものの、
「うにゅうっ!!!うつほ、さとりさまとふゅーじょんしたいよぉっ!!!」
「ちょっと!やめなさいおくう!!!無理!そんなの無理ぃっ!!!」
とすっきりになかなか至らなかったことを報告しておく。このときの実験の
詳細については機会があれば紹介したい。
約一週間後、巣には五匹の赤うつほが誕生していた。胎生にしてはなかなかの
出産数である。
幼鳥時は、ちょうど下腹部にまるで原子力マーク(正式には放射能標識、電離
放射線マークなどと呼ばれている)のような模様が産毛によって描かれる。
放射線標識が赤うつほの目印となって、親は餌を与えているらしい。この放射
線標識のような模様を剃ってしまうと、その赤うつほがいくら餌をねだっても
親うつほは餌を与えないことが室内実験によって確かめられている。
この黄色と赤の鮮やかな毛は幼鳥時のみのものであり、成長に伴って次第に色
褪せ、成鳥では完全に喪失する。そして、子うつほはそれまでに一人で餌を採
れるようにならなければならない。
「うにゅーっ!!!うにゅーっ!!!」
「ぱぱーっ!ままーっ!うにゅほはごはんさんほしいよぉっ!!!」
「うにゅほはごはんさんでゆっくちしたいよっ!!!
「うにゅ?」
口を一杯に広げ、親うつほに餌をねだる赤うつほたち。
下腹部にある赤と黄色の小さな放射線標識、ぼさぼさの黒髪につけた緑色のリ
ボン、そして真っ黒な翼、鮮やかな色合いの赤うつほがけたたましく鳴いてい
る。だが、マイペースなのか、中には早速よだれを垂らしながら、うつらうつ
らと昼寝をしている個体もいる。このどこかとぼけた感じが、うつほ種の最大
の特徴なのかもしれない。
「うにゅ~っ!!!うつほの赤ちゃんかぁいいよぉ~っ!!!」
「うつほのおちびちゃんたち、かわいさあびすのばっだよぉ~っ!!!」
涙を流して、赤うつほの誕生を喜ぶ両親、だが生まれたばかりの赤うつほたち
は、まず空腹を満たして欲しい様子であった。
「うにゅ!うにゅほはおにゃかすいてるんだよっ!!!」
「はやくごはんさんにしないと!ちぇれんこふ光がでちゃうにゅ~っ!!!」
「うにゅ~、じゃあさっそくおとーさんがとってきたごはんさんでゆっくりし
ようにゅ~!」
余程赤うつほが可愛らしかったのか、親うつほの言葉も幼児退行を起こしてし
まっている。
「うにゅ~!ごはんさんだよ!ゆっくり食べてね!」
親うつほは赤うつほに対して一匹ずつ、採ってきたばかりの虫やグミ、クワの
実などを咀嚼し、唾液と混ぜてから口移しで餌を与えていく。
このとき、親の唾液が生化学的な刺激となり、赤うつほの味覚や免疫系が構築
されていく。そのため、人工孵化させた場合、特に、免疫系の構築が人工餌料
ではうまくいかないため、病弱な個体が多くなり、ペットショップでのうつほ
の価格は以前高いままなのである。
「むーちゃむーちゃ…しあわせうにゅ~っ!!!」
初めての食事に喜ぶ、赤うつほたち。
しかし、この時期は脆弱な赤うつほたちにとって、非常に危険な時期でもある。
親の留守中に赤うつほを狙う鳥、大型昆虫、小動物、すかーれっとなどの捕食
種など外敵は多い。
「うにゅほはもっとむーちゃむーちゃしたいよっ!!!」
「うにゅほも!うにゅほも!」
次々と更なる餌をねだる赤うつほたち。
しかし、そこで悲劇が起きた。
「うにゅ!?おちゃないでね!!うにゅほ、おっこっちゃう!!」
餌を求め、身を乗り出す姉妹たちに押され、一匹の赤うつほが今にも巣から落
ちそうである。
「やべじぇね!!やべ!?うにゅぅぅぅうっ!!!」
赤うつほは巣から数メートル下の地上へ落ちてしまった。
幸い、巣が低木だったこと、地上に草が繁茂していたことから、外傷は大した
ことないようである。しかし、両親は赤うつほたちに餌を与えるのに夢中で、
一匹落下したことにまだ気づいていない。
「ゆえええええええええん!!いじゃいよおおっ!!たちゅけて!!!ぱぱぁ
~!!!ままぁ~!!!」
落ちた赤うつほは一生懸命泣き叫ぶ。しかし、うにゅうにゅ騒ぐ赤うつほたち
の世話に追われる両親にその泣き声は届かない。
「ゆゆ?なんだかゆっくりできないおちびちゃんが泣いてるんだぜ!」
「ほんとうだ!とりあたまのきたないおちびちゃんだよっ!!!」
「うにゅ?」
そこに通りかかったのは、とんがり帽子のまりさと、もみあげをわさわさ動か
すれいむの番だった。
「うにゅほね!てっぺんから来たんだよ!うにゅほをたちゅけて!ぱぱとまま
がてっぺんにいるんだよ!」
落ちた赤うつほは必死にまりさとれいむに対して助けを求めた。この状況では
赤うつほに他の選択肢を求めるほうが無理というものであろう。
「ゆゆ!?きたないぐずはこっちこないでね!」
「ゆへへへ!何がろくぼすなんだぜ!こんなとりあたま、むてきんぐのまりさ
さまにかかればらくしょーなのぜ!!」
「うにゅぅ?ゆぴっ!?」
二匹はまるでサッカーのパスでもするかのように、交互に赤うつほをあんよや
舌で弾き飛ばしていく。
「やべべ!たべじぇね!うにゅほなにもわるいごどじでな!!!ぶぶっ!!!」
まりさのおさげによる強烈な一撃が赤うつほの歯をへし折り、口からレモンカ
ードがあふれ出す。
「とりあたまは何も悪いことしてないのぜ!ただその顔がむかつくんだぜ!」
「う…うぎゅ…ううう゛!!?」
「ぷりちーれいむの!ゆっくりしゅぅぅぅとぉぉっ!!!」
「ゆ゛!!?」
次の瞬間、れいむがもみあげで勢い良く赤うつほを弾き飛ばした。赤うつほは
そのまま木の幹に叩きつけられ、弾けて死んだ。後に残ったのは、レモンカー
ドの黄色い染みとぐちょぐちょに汚れた緑色のリボンだけだった。赤うつほは
生まれて一時間と生きることを許されなかった。
哀れではあったが、そもそも巣から落ちてしまった時点で、彼女の未来も一緒
に墜ちてしまっていたのだろう。
「ゆふふ、きちゃないものは死ね!…まりさあれ食べる?」
と言って、もみあげで半分潰れた赤うつほを指し示すれいむ。
「あんななまごみ、せれぶなまりささまはたべれないのぜ!!!でもしーしー
はしたくなったのぜっ!!!」
言うが早いかまりさはそれなりの距離からしーしーを放ち、木の幹にへばりつ
いている赤うつほの死体を洗い流していく。
「ゆははははははははっ!すっきりしたのぜ!!!」
「とりあたまで生き残れるほどだいしぜんは甘くないよ!!!たりないあたま
でゆっくりりかいしてねっ!!」
まりさとれいむは得意気な表情で高笑いしながら、自分たちの巣へと帰ってい
った。あとに残った赤うつほの無残な死体は少しずつアリやシデムシによって
解体され、運ばれていき、両親が我が子の悲惨な末路を知ることはなかった。
五月も終わりに近づく頃には、赤うつほたちは子うつほと言っていいくらいの
大きさにまで成長していた。下腹部の放射能標識はやや薄まってきているもの
の、まだはっきり確認することができる。
子うつほたちは依然として親うつほの養育下にあるものの、この頃になると、
親うつほは子うつほたちに飛び方を教え始める。
この日父うつほが餌を探している間に、母うつほは四匹の子うつほ全員を地面
へとくわえて下ろし、飛び方を教えていた。
「うにゅ~、かわいいおちびちゃんたち、いまからままがおそらを飛ぶから、
おちびちゃんたちもままのまねしてね!」
「「うにゅ!ゆっくりりかいしたよ!!!」」
母うつほは大げさな仕草で黒い翼を広げ、軽く羽ばたいて、近くの低木の枝に
飛び乗った。
「うにゅ~!!!まますごいよっ!!!」
「かっこいいうにゅ~っ!!!」
「おちびちゃんたちもやってみてね!!!」
母うつほの動きを真似て、必死に翼を動かす子うつほたち、しかし、その動き
はぎこちなく、思うように浮かび上がらない。翼を動かしながら飛び跳ねてい
るだけだった。
「うにゅ!うにゅ!うにゅ!うにゅ!うにゅにゅにゅぅっ!!!」
「うにゅ?とばないよ~…なんじぇ~?」
そんことを繰り返すうちに、なんとか一匹が浮かび上がることに成功した。
「うにゅ!!!うにゅにゅっ!!!飛んでる!うつほ飛んでるよぶっ!!!」
しかし、その飛行は不安定なものであり、すぐ木の枝にぶつかって落下して
しまった。
「ゆわああああああん!!!いじゃいよおおおおっ!!!木がうにゅほにいだ
いごどずるぅ~っ!!!」
そこへ母うつほが慌てて降りてくる。
「ゆゆ?うつほのおちびちゃんゆっくりしてね!!ままがペーろぺーろしてあ
げるよ!!ぺーろぺーろ!!」
「うにゃあああ゛!!!ま゛ま゛!いじゃがっだよう~!!!」
姉妹も心配して集まってくる。そこへ父うつほが帰ってきた。
「うにゅ?どうしたの!!?おちびちゃんゆっくりしてね!!ぱぱがごはんさ
ん持って来たよっ!!!」
「うにゅ?ごはんさんっ!!?」
ごはんさん、という単語に泣き止んで笑顔を見せる子うつほ。げんきんなもの
である。
その日、父うつほが持ってきたのは、とあるゆっくりの巣の前に潰されて捨て
られていた赤ゆの死体だった。巣の中で何かあったのだろうか?捨てられてい
るのはまりさ種ばかりであったが、帽子はひとつも被っていなかった。
「うにゅ~!これおいしいよっ!!!」
「ぺーろぺーろ…しあわせ~っ!!うにゅほしあわせ~っ!!!」
うつほはおりん同様、死ゆっくり食性を持つことが知られているが、おりん
ほどゆっくりの死体に対して強い嗜好性を持つわけではない。
うつほは死んだゆっくり以外にも、魚貝類、どんぐりなどの木の実や、果実、
昆虫や小動物を捕食することが知られている。だが、成長が早く、消化能力
も成体に近づきつつある子うつほたちにとって、新鮮な死体は何よりの餌だ
った。
「うにゅ~…よかったね!おちびちゃんたち!ぱぱがおいしいごはんさん持
ってきてくれたよー!!」
「うにゅ?ありがとうぱぱ!」
「ぱぱだいすきっ!!!」
「うにゅ?ぱぱしあわせ~だよっ!!!」
それから毎日、飛行訓練が行われた。早い個体は。梅雨明けには巣立ちの季
節を迎えるので、それまでに両親は一人前のうつほを育てなければならない。
そして、梅雨入りを数日後に控えたある日、
「うにゅうぅぅぅぅぅっ!!!」
とうとう子うつほのうち、長女が巣を越え、森を越え、高く飛び上がること
に成功した。
「すごいよっ!!!すごいよおちびちゃん!!!」
「うにゅ~っ!!!うにゅにゅ~♪!!!」
初めての空を楽しげに飛び回る長女うつほ。
「すごいよっ!!!おねーちゃんすごいよっ!!!」
「うつほもおそらを飛ぶよっ!!!うにゅううううう!!!」
妹たちも姉に負けじと翼を必死に動かし、空中に浮かび上がる。だが、まだ
長女に比べると、翼の動かし方がばらばらで、森の中をふらふら浮かぶのが
精一杯だった。
「うにゅーっ!!!」
そんな妹たちを尻目に一人大空の散歩を楽しむ長女うつほ。
「おちびちゃーん!!!一人のおそらは危険だからゆっくり戻ってきてね!」
「うにゅ?」
だが、生返事を返すと長女はさらに高く飛び上がろうと翼を動かした。
「ゆわぁ…」
長女うつほの眼下には、一面緑色の森が広がる。
一定の高さに揃った樹幹はまるで芝生のようだった。
その芝生の隙間に小さな点がうろうろしている。うつほの家族の姿だった。
まるで太陽を称えるかのごとく、手を伸ばし、広げる木々の上を長女うつほ
は踊るように飛び回った。
「うにゅ~っ!!!」
長女うつほは初めて知った。なぜ両親が空を飛ぶのかを。なぜ鳥が空を飛ぶ
のかを。そして確信した、空こそがうつほの本当の居場所であることを。
ずっと木々の間から垣間見えるばかりだった空は、今や長女うつほの視界い
っぱいに広がっていた。
「もっと!もっとあおいところへっ!」
長女うつほは空の頂、もっとも青いはずの有頂天へ向けて大気を蹴る。
そのときだった、大気を切り裂く音と共に、急降下してきた何かが、長女う
つほの体をしたたかに蹴りつけた。
「う゛に゛ゅ!!?」
黒い翼からぱっと羽が舞い落ち、背中に鈍い痛みが走る。
その衝撃で片目が破裂し、頭の中で何かが弾け、子うつほの意識は遠のいた。
「あ゛!!?」
空中から叩き落とされた長女うつほが今にも樹幹に突っ込もうかというその
時、ぐいっと何か強い力に引き上げられ、子うつほは再度空中に舞い上がった。
「!!?」
背中の皮を破り、何かが食い込んでゆく。しかし、長女うつほの意識は次第
に薄れてゆき、二度と回復することはなかった。
それはハヤブサによる襲撃だった。
ハヤブサは空中を飛ぶ獲物を上空から急襲する。時速200キロとも300キロと
も言われる急降下により運動量が最大になったところで、獲物を蹴り落とす
のだ。まさに必殺の一撃である。
これによってたいていの獲物は死亡か失神する。そして、落下していく獲物
を再び空中でキャッチし、食べるために運び去るのである。
「ゆあああああああっ!!!おぢびぢゃんをがえぜええええええっ!!!」
「おねーじゃあああんっ!!!がえっでぎでえええっ!!!」
「う゛に゛ゅ゛うううううううう!!!」
長女うつほの悲劇を目の当たりにし、泣き叫ぶ母、そして妹たち。
だが、その声が長女の耳に届くことはなかった。
ただ一本のちぎれた緑色のリボンがゆらゆらと風と遊ぶかのように空中を舞
い落ち、木の枝に引っかかった。
七月の半ば、やや遅めの梅雨明けを迎えたこの森で、あの子うつほたちはす
っかり飛ぶのが上手になり、今では、日中はほとんど巣にいなかった。
梅雨の間は、生い茂った木の葉と両親の翼が雨から子うつほたちを守ってく
れた。そして、梅雨の間でもお日様が帰ってきた日には父うつほが狩りの仕
方を教えてくれた。
ネズミのような素早い小動物や小鳥相手には、まだまだ勝率が悪いものの、
子うつほたちは単独でも生きていけるだけの力を着々と蓄えていた。
その日、生き残った三姉妹は、いつものようにたくさんの昆虫を捕まえて
巣への帰途についていた。
「うにゅ~♪これだけごはんさんとれれば、ぱぱもままもうつほのことほめ
てくれるよっ!!!」
「きっとうつほにもいいこいいこしてくれるよ!!!」
「うつほが一番にいいこいいこされるよ!!!」
三姉妹とも既に十分に成長し、下腹部の放射能標識は、幼毛から成体の羽毛
に生え変わり、ほとんど見えなくなっていた。
そうこうしているうちに巣が見えてきた。父うつほも母うつほも巣の中で三
姉妹の帰りを待っていてくれたらしい。
「うにゅ~!ただいま!!?」
ドンッ!
巣に着陸しようとしたとき、三女うつほは父うつほに体当たりされ、地面に
叩きつけられた。口の中にたっぷり詰め込んできた餌が辺りに無造作に散ら
ばる。
それを見て驚いた姉妹たちも思わず、巣から離れた枝に着地した。
「う…うにゅ?…ぱぱ?…なんで?…」
父うつほに体当たりされた三女うつほは何が起きたのか全く分からなかった。
「こっちに来ないでね!!!もううつほたちはぱぱのおちびちゃんじゃない
よっ!!!」
「ゆっくりしないでどこかへ行ってね!顔も見たくないよ!」
父うつほだけでなく、母うつほまでが三姉妹を巣から排除しようとする。
「なんで?なんでぱぱとままはうにゅほを怒っているの?なんで?」
「うるさいよっ!!!ゆっくりしないでどこかへ行ってね!!!」
父うつほは巣を飛び立ち、何度も小突くように三女うつほに体当たりをす
る。母うつほも次女と四女うつほを小突き回していた。
その行動は外敵に対する威嚇行動と全く同じだった。
「なんで?なんでぇー!?ぱぱ?まま?うにゅほのこと嫌いになっちゃっ
たの!!?そんなのやだよ!!うにゅほは!うにゅほはぱぱとままがだい
すき…」
「うるさいよっ!!!今まで育ててあげただけでも感謝してね!ゆっくり
しないで出て行ってね!」
「うにゃあああああああ゛!!!」
三姉妹は泣きながら、突如態度を豹変させた両親にすがりつくが、両親は
聞く耳を持たなかった。
結局、一時間近く泣きながらすがりついては小突き落とされを繰り返し、
三姉妹は諦めた。理由は分からなかったが、もう優しく、暖かな両親のも
とに帰れないことをやっと悟ったのだ。
「ゆっくり…理解したよ…もうぱぱとままはうにゅほのぱぱとままじゃな
いんだね…ゆっくり出て行くよ…」
「うにゅ?やっと出て行く気になったんだね!ゆっくりしないで遠くへ行
ってね!」
三姉妹はべそをかきながら、互いに身を寄せ合い、飛び立とうとした。
だが、三女は最後に両親の方を振り返る。
「集めたごはんさんは置いていくよ…ぱぱとままでゆっくり食べてね…う
にゅほはいつまでもぱぱとままが大好きだよ…」
「………」
最後の瞬間も、両親はただ黙って我が子をにらみつけるだけだった。
「さよなら…うにゅっ!!!」
三姉妹は飛び立った。
駆け抜けるように一直線に青空に上って行った。
そして、未練がましく何度か生まれ育った巣の上空を旋回した後、飛び去
って行った。
寂しくなった巣の中で、両親は静かに泣いていた。
梅雨明けは、巣立ちの季節だった。
親は心を鬼にして、成長した愛娘たちを、下腹部の放射能標識の消えた個
体を巣から、自分達の縄張りから追い払わなければならなかった。
うつほはゆっくりにしては優れた身体能力、飛行能力を有するが、その分
平常時の代謝を高く保たねばならないという生理的特長を有していた。
高性能だが、燃費の悪い車と考えてもらえば分かりやすいだろうか?
優れた能力を発揮するために、燃費の良さを犠牲にしたつくりになってい
るのである。
この平常時の代謝の高さが、高い体温につながり、前述した「うにゅほっ
かいろ★」も開発されたのだ。
しかし、当然、燃料、即ち、体を維持し、成長するためには他のゆっくり
よりもたくさんの餌、より高カロリーな餌を食べなければ生きてはいけな
い。
そして、そのためには成体うつほ同士の縄張りが重複することはあっては
ならないことなのである。
親は次の子を産み育てるために、前年に生まれた子うつほたちを縄張りか
ら追い出さなければならないのだ。
この行動は数少ない、飼育下での繁殖成功事例では確認されていないため、
周囲の環境や栄養状態など様々な要因が引き金となって誘発されていると
考えられるが、詳細はまだまだ不明である。
いずれにせよ、三姉妹は自分達だけで生きていかねばならなくなった。
両親は巣の中で、一晩中、ごめんね、ごめんねと泣き続けていた。
八月末、かつて三姉妹が両親と暮らしていた森から数十キロ離れた山の中
に三姉妹の姿はあった。本来、番になっていないうつほは単独で生活する
ものなのだが、この三姉妹は例外だったのか、ずっと一緒に暮らしていた。
そして、この森の豊富な恵みをそれを許していた。
三姉妹の体は巣立ったときよりもさらに一回り大きくなり、もう誰が見て
も成体と言えるサイズにまで成長していた。ただ、次女うつほは最年長と
しての責任感からか、餌を優先的に妹達に与える傾向があり、三匹の中で
は体が一回り小さかった。
その日、三女うつほは昼前に巣を出かけ、夕方前には餌を取って巣へと帰
ってきた。
うつほの捕食生態は、鳥などと比べて独特な特徴を持っている。
70年代以降、鳥類の捕食・摂餌生態については、最適捕食戦略と呼ばれ
る理論を元にした研究が盛んに行われている。
これは鳥が巣を離れて戻ってくるまでの、一回の出撃で、どれだけ時間や
エネルギーを投資し、どれだけ餌を利益として回収することができるか、
を考察するというものである。
例えば、巣から離れた場所まで餌を採りに行く場合、それに見合うたくさ
んの、または滋養豊かな餌がなければ、投資に見合わない。そのため、投
資に見合った餌を回収するまではなかなか帰ろうとしないと考えられる。
その一方で、巣の近くならば、小さな餌、大した栄養価のない餌でも、投
資した時間やエネルギーが小さいので、「割りに合う」餌ということにな
る。
実際のところ、強い鳥、弱い鳥、餌が豊富な環境、乏しい環境、競合者の
有無など、様々な要因によって、どのレベルの投資−利益のバランスが最
適かは異なってくる。強い鳥ならば最大の利益を追求する戦略で問題ない
が、弱い鳥ならば、捕食される危険を何よりも回避しなければならない。
当然、最大の利益を追求する戦略は取れないが、捕食されてしまえば利益
はゼロなのだ。
しかしながら、うつほは鳥と似た生態的地位を持ちながら、おつむが弱く、
捕食・採餌行動の効率性をまるで気にしていない様子だった。
餌場は忘れることが多いため一定ではない。
『うにゅ?おいしいごはんさんがとれるのは…どこか木がたくさん生えてい
る森さんだったはず…うにゅ~?どこだっけ?あるぇ~?』
縄張りはしばしば間違える。
『ここはうつほの縄張りな気がするよっ!!!ゆっくりしていないで出て行
ってね!』
『ちがうもん!うにゅほのだもん!きっとそうだもん!』
時折自分の巣を見失う。
『うにゅほはだれ~?ここはどこぉ~?』
それどころか時折巣を間違える。
『ぴゃぴゃー!ゆっくちちていってにぇ!!!』
『みゃみゃー!れいみゅはみゃみゃのことだいしゅきだよっ!!!』
『ゆゆ~!まりさとれいむの赤ちゃん!とってもゆっくりしているよ!!!』
『ゆ~ん!れいむ、おちびちゃんのおかげでとってもゆっくりしているよ!』
『うにゅ~!ただいまぁ~っ!!!』
ぶちゅ!!!
『どぼじでおぢびぢゃんづぶれぢゃっでるのおおおおおっ!!?』
『うにゅ?』
『でいぶのぎゃわいいおぢびぢゃんがああああああああああっ!!!』
『うにゅ!!?…!…そういえばうつほのおうちは木の上だったよ!!!』
『二度と来るな!ごのゆっぐぢごろじいいいいっ!!!』
『わああああん!おぢびぢゃああん!!!ゆっぐぢじでええええっ!!!』
そのため、海外の研究者の間では、従来の鳥類と比べてまったく新しい戦略
を取る動物として注目する声も高いが、単に忘れっぽいだけであり、それで
も生きていけるほど高い身体能力(ゆっくりにしては)、豊富な餌資源を有す
る環境がうつほの生態的地位を支えているのだろうか?
三女うつほが巣でのんびりうにゅうにゅしていると、姉妹の一匹が巣へと帰
ってきた。
「うにゅ~!おねーちゃん!ごはんさんたくさん捕ってきたよ!」
四女うつほが捕ってきたのはたくさんの赤ゆだった。
れいむ種、まりさ種、ありす種、ちぇん種、みょん種、ぱちゅりー種な
ど通常種が一通り揃っている。野良の巣を襲撃したのだ。
この山には人里から移住してくる野良ゆっくりが後を絶たなかった。彼ら
の多くは、飼いゆっくりよりは自然環境の中での生活に耐性があったが、
ずっと野生で暮らしてきたうつほたちから見れば、彼らの巣、けっかい、
ぷくーっなどただのお遊びに過ぎなかった。
野良ゆっくりは簡単に捕獲できる餌として、三姉妹の生活を支えてきたの
である。
「たちゅけりゅんだじぇ!!!ほかのゆっくちはたべちぇもいいきゃら!
まりちゃだけはたちゅけてほちいんだじぇ!!!」
「やまちぇ~!ありちゅをたべるゅなんていにゃかものよっ!!!」
「むっきゅっうぅぅぅんっ!!」
ぴーちくぱーちく喚く赤ゆたちを見て、三女うつほは満足そうにうなずい
た。
「これはとてもゆっくりできそうなごはんさんだよっ!!!うつほは味見
するよ!」
そう言って三女うつほは元気のいい赤まりさを口に含んだ。
「ゆわああああっ!!!やめるんだじぇ!!!まりちゃはまりちゃだきゃ
らたちゅけなきゃいけないんだじぇ!!!まりちゃを…ゆぎゃあああっ!
「むーしゃむーしゃ…しあわせぇ~っ!!!」
どうやら、野良とはいえど、赤ゆの味は格別だったようだ。
「うにゅ?うつほぺっぺするよ!ぺっ!!!」
うつほは木の下に向けて、ペリットを吐き出した。
ペリットとは、ワシやフクロウ、カワセミなど肉食鳥が飲み込んだ餌のう
ち、鱗や骨など消化できないものをまとめて吐き出したもののことである。
ペリットは数日に1回のペースでしか、吐き出さないため、うつほが吐き
出したペリットには、一昨日食べた昆虫の外骨格、昨日食べた魚の鱗、さ
っき食べた赤まりさの帽子などが含まれていた。
「うにゅ~?おねえちゃん帰り遅いよ~!うつほ、早くみんなでごはんさ
んむーしゃむーしゃしたいよ~!!!」
四女うつほが言うおねえちゃんとは次女うつほのことである。次女うつほ
は今朝方、巣を発ったきり、帰ってきていなかった。
うつほは心配だった、ひょっとして次女まで自分達を見捨ててしまったの
ではないかと。
この日、次女うつほはいつもより遠くまで餌を探しに出かけており、見慣
れぬ場所で何度か巣の方角を見失いながら飛んでいた。
三女と四女うつほが切望していた次女うつほの姿が見えたのは、もう太陽
が水平線に半分以上その姿を隠し、東の空から藍色の夜のベールが広がり
始めたときであった。
「うにゅ?おねえちゃんだよっ!!!おねえちゃんが帰ってきたよっ!!」
「うにゅ!!?」
三女うつほは四女うつほの視線を追う。そこには見慣れたシルエットがあ
った。
よく鳥目といわれるように、鳥は夜間、視力が著しく低下すると考えられ
ているが、それは誤解である。フクロウのような夜行性は当然としても、
ゴイサギのような薄明時行動性の鳥類、星を頼りに移動する渡り鳥など、
昼間活動する鳥でも夜間にある程度の視力を有する種は少なくない。
うつほも、昼間ほどではないにしても、ある程度、夜間でも視力を保持し
ており、現時点、薄暮時ではしっかりと次女うつほの姿を捉えることが出
来た。そして、次女うつほの飛行が異常なものであることも。
「うにゅ?なんか変だよ!!?」
次女うつほはふらふらと飛行していた。まるで、何かの狙いを攪乱するか
のように。
「「ううううぅぅぅぅーっ!!!」」
それは捕食種の鳴き声だった。
巣への帰りが遅くなった次女うつほは、ちょうど夜の捕食のために出撃した
すかーれっとと鉢合わせしてしまったのである。
四匹のすかーれっとはれみりゃ二匹、ふらん二匹の構成であり、二つのろっ
てを構成していた。「ろって」とは二匹一組の捕食飛行戦術のことで、すか
ーれっとは、自身と同等かそれ以上の飛行能力を有する相手に対して、二匹
で互いに支援しつつ戦う、この戦術をとることが知られている。
「おねえちゃああああんっ!!!」
次女うつほをたすけるために三女と四女うつほが飛び立ったそのとき、捕食
種の攻撃をかわし続けていた次女うつほと一匹のすかーれっとの影が交差し、
翼が散った。
次女うつほの影は力なく墜落していき、それを先程のすかーれっと−ふらん
だった−が追う。
「うっうー!!!」
ふらんは地面で潰れていた次女うつほにかぶりついた。
「むーしゃむーしゃ…う゛!!?ぶぼぉっ!ゆげえ!!」
ふらんは吐いてしまった。あまりにも次女うつほの中身のレモンカードが酸
っぱかったからである。うつほ種では栄養状態が悪いと、中身の酸味が増し
てしまう傾向がある。それは両親から離れた後、妹のために苦労を背負い続
けた姉のゆん生の味であった。
「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」」
三女と四女うつほは怒りに任せ、咆哮と共に夕闇へと飛翔した。
「「うううぅぅぅーっ!!!」」
地方によっては魔女の金切り声、ストゥーカなどと呼ばれる独特の泣き声を
発しながら、獲物に向けて緩やかな螺旋を描きつつ、急降下していく三匹の
すかーれっと。
その姿はまるで急降下爆撃機のようだった。
「「うにゅーっ!!!」」
対するはスクランブル発進した迎撃戦闘機のように急上昇していく二匹のう
つほ。
強風に対する耐久性、上昇速度ではうつほに分があったが、夜間視力と小回
りという点ではすかーれっとに分があった。
「お゛ね゛ーじゃん゛の゛がだぎぃぃっ!!!」
「ううー!!?」
四女は真正面かられみりゃに突っ込み、二匹は正面衝突した。
「う゛っ!!?」
「ゆべっ!!」
二匹の眼球が飛び出し、歯がへし折れ、そのまま二匹は錐揉み状態で落下し
ていき、大地に叩きつけられて四散した。
「ああああああっ!!!」
「ゆっくり死ねっ!!!」
残った三女うつほはふらんの攻撃をやり過ごし、後方から回り込むようにふ
らんにせまる。
「そうはさせないんだどーっ!!!」
だが、ろっての後衛を担っていたもう一匹のれみりゃがうつほの前に立ち塞
がる。
「うにゅう゛っ!!!」
強引に体をねじり、れみりゃの攻撃を回避するうつほ、互いの体をかすめた
翼がうつほの頬を、れみりゃの翼を小さく切り裂く。
「うにゅううううううっ!!!」
うつほは痛みを我慢し、一気に上昇し、高度を確保した。すかーれっとは一
瞬うつほの姿を見失う。
「落ちろぉぉぉっ!!!蚊トンボぉぉぉっ!!!」
うつほは真っ逆さまにふらん目掛けて急降下した。
「お前がこんてにゅーできないのさぁぁぁっ!!!」
対してふらんも渾身の力ではばたき、一気に上昇する。
だが、十分な高度から加速したうつほに対して、ふらんは強引に上昇したた
め、不安定な姿勢のままうつほと衝突することになった。
ばふっ!
布団を勢い良く叩いたような音と共に、二匹は衝突した。無理な姿勢で上昇
したせいで、うつほの体当たりをまともに食らったふらんは気を失い、その
まま森に墜落していった。
一方、うつほも衝突でバランスを失い、必死に体勢を立て直そうとしながら
も、農業用の溜め池に墜落した。
「うにゅ!!?うにゅうううっ!!!」
必死に翼を動かし、池から出ようとするうつほ。
しかし、ふらんとの衝突の衝撃で頭がぼーっとして思うように体を動かせな
かった。それでもなんとか岸に上がったものの、疲労と頭痛で一歩も動けな
かった。
「うにゅほ…一人ぼっちは…やだよぅ…」
晩秋、三女うつほは相変わらず、あの森で生活していた。頭の傷は癒えたも
のの、少しだけ擦れたような傷跡が生々しく残っている。
「うにゅ~っ!!!うにゅほは冬さんが来る前にごはんさんを蓄えるよ!」
うつほはれいむ種やまりさ種のゆっくりなどのように穴に潜って越冬するこ
とはない。風雨を避けやすい、森の奥や鬱蒼とした枯れ草の中に冬用の巣を
作り、寒さをしのぎながら餌を採り、生活するのである。
冬の間、うつほは木の皮の下や、もろい枯れ木の中に隠れて越冬する昆虫や、
巣穴にこもって越冬している他のゆっくりを捕食して過ごしている。同様に
冬も活動する小鳥を襲って捕食することもあるらしい。
しかし、巧みに隠れている昆虫や、頑丈に巣穴に栓をしているゆっくりには
手を出せないため、やはり餌不足に陥ることも多い。
そのため、秋のうちから、うつほは森でどんぐりや栗のような堅果や、昆虫
を取ると、その半分を適当な木の窪みや割れ目、地面の穴などに差し込むよ
うにして隠す。これが、餌の乏しい冬を乗り切る保存食となるのである。
「この穴さんはうつほがごはんさんを隠すのにちょうどいいよ!!!早速隠
すよ!!!」
うつほ同様に、鳥の中には、冬季の食糧難に備えて、秋のうちに堅果や昆虫
を地面や木の中に差し込み、貯蔵するものがいる。
この行動は貯食と呼ばれており、ヤマゲラなどがこの行動をとる鳥として有
名である。また、モズの早贄も同様の目的を持つ行動ではないかと考えられ
ている。
貯食行動においてはどこに隠すかも重要であるが、どこに隠したかを思い起
こすことも同じくらい重要である。
カラスによる研究では、隠し場所周辺の特徴的な地形や石ころなどの目印を
学習し、貯蔵した餌を掘り当てていることが報告されている。
しかしながら、うつほの頭では貯蔵した場所を完全に記憶できるものではな
いらしい。
冬、木枯らしが森の中を吹きぬける中、あの三女うつほは泣き叫んでいた。
「うにゅうぅぅぅ!!!なんじぇごはんざんないのおおおおお゛っ!!!」
このうつほが隠した木の実は別段、誰かに盗まれたわけでもなく、周囲の目
印となるものが変わってしまったわけではない。
単に「鳥頭」のせいで忘れたのである。
「うにゅほおなかすいたよおおおおっ!!!ごはんさんでてきてよおおお
おっ!!!うにゅうううううっ!!!」
蓄えておいたはずの餌が見つからず、ひたすら泣き喚くうつほ。
しかし、泣き喚いたところで餌が出てくるわけでもなかった。
この「鳥頭」と呼ばれる忘れっぽい頭は、度々うつほのゆっくりを妨害する
が、森にとっては貴重な形質でもある。なぜならば、うつほがせっかく集め
ておきながら、その貯蔵場所を忘れてしまった堅果から、新しい芽が発芽し、
次代の森を形成していくからである。
「ゆゆぅ…おそとがうるさいんだぜ!!!…さぶっ…!!?」
木の根の下に掘られたゆっくりの巣穴、その入り口を覆い隠していた枯れ草
が動き、中から黒い帽子がトレードマークのまりさが顔を出す。
うつほの泣き声が、ぐっすり眠っていた越冬中のゆっくりを起こしてしまっ
たようだ。
まりさは鳥などが隠した貯食をちょろまかした経験があったため、うつほが
なぜ騒いでいるのか、すぐに気がついたようだ。
「ゆふふふ~ん、ばかなうつほが自分で隠したごはんさんをみつけられない
んだぜ!さすがとりあたまなんだぜ!ぷー!くすくす!」
「いんてりじぇんすなれいむと違ってとりあたまさんはたいへんだね!おお
あわれあわれ!!!」
まりさとれいむの罵倒にうつほは顔を真っ赤にして泣いていた。
「う゛にゅ゛う゛う゛う゛う゛っ!!!ぢがうっ!!!うにゅほどりあだま
じゃないもんっ!!!」
余程愉快だったのか、泣き喚くうつほを見て大爆笑するまりさとれいむ。
「ゆはははははっ!!!うにゅ?とかばかなの?しぬの?ぱーふぇくとなま
りささまはそんなばかなことしないから、えっとうなんてらくしょーなんだ
ぜ!!!」
「ゆひーひっひっひっ!ばーきゃ!ばーきゃ!とりあたまさんはれいむのう
んうんでもたべてあたまよくなってね!!!かしこくってごめんねーっ!!」
そう言ってあにゃるをこちらに向けてうんうんし始めるれいむ。
ことここに来て、うつほの堪忍袋の緒どころか、堪忍袋自体がメルトダウン
した。
「う゛にゅ゛う゛う゛う゛う゛っ!!!うにゅほ!ほんきでおこったよおお
おおおっ!!!」
涙と怒りで目を真っ赤にしたうつほがまりさとれいむの巣に向かって突進した。
「ゆゆ!!ばかがなにかやってるのぜ!」
「ちせいはなれいむはゆっくり、すのいりぐちさんをしめるよ~!おばきゃな
とりあたまはさむいおそとでひとりでふっとーしててね!れいむのちぼうは一
個艦隊にまさるからごめんね~!」
言うだけ言って二匹はさっさと巣の入り口を元通りに木の葉や枝で塞ぎ始めた。
だが、うつほの方が行動が一歩早かったようだ。最後に塞ごうとした隙間から
八角形の棒状のものが差し込まれる。
「ゆゆ?なにこれぇえええ!!?」
「うにゅうあああ゛!!じねえええええええーっ!!!」
それはうつほの第三の脚、屹立したぺにぺにであった。
「ゆぎゃああああ!!!これぺにぺにだああああっ!!!」
「Caution! Caution! うつほのあついぱとすをくらえええええっ!!!」
ぽんっという小さな爆発音と共に何かがぺにぺにから発射された。それは精子
餡ではない。
100℃以上はあろうかという高温の有毒ガスである。
うつほが体内に蓄えている二種類の化学物質、過酸化水素とヒドロキノンを反
応させることによって生成した、100℃以上の水蒸気とベンゾキノンの気体を
ぺにぺにからまりさたちに向かって噴射したのだ。
その一撃はまりさの左目を破壊し、飛沫がまりさの背後にいたれいむの顔面に
降りかかった。独特のゆっくりできない刺激臭が辺りに立ち込める。
「ゆ゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!あづいいいいいいっ!!!おべべが
いじゃいいいいいよおおおおおおっ!!!」
まりさのぽっかりと開いた眼孔は、高温の化学物質によって変色し、おぞまし
いほど赤黒く焼きただれていた。傷口には、破裂した眼球だったものと思しき
液体がべっとりと付着している。
「いじゃいいいいいっ!!!ばでぃざのくりくりじだおべべどうなっぢゃっだ
のおおおおおぅっ!!?」
「ぐじゃいよおおおおっ!!!ぐざいよおおっ!!!でいぶのの゛ーぶる゛な
ごあ゛ぐま゛けいふぇいずがああああっ!!!ひりひりずるよおおおっ!!!」
れいむは、飛沫が降りかかった部分だけ黒く変色し、そこからくる焼けるよう
な痛みに涙を流しつつ、悶え苦しんでいた。
「ゆっぎゃあああああっ!!!もどぜええええっ!!!でいぶのがれんなおが
おをもどにもどぜえええっ!!!」
「ばがっでいうほうがばがなんだぁっ!!!ばがぁっ!ばがぁっ!」
うつほは第二射を充填する。通常、このような化学物質は捕食者に襲われた時
に、逃げる隙を作るために使用される。そのため、連射するということはあま
りないのだが、そこは堪忍袋がメルトダウンしたうつほである。
更なるペタフレアがまりさとれいむを襲うのに一分とかからなかった。
「じねっ!じねっ!!ぐぞぶぐろっ!!!しにがみとふゅーじょんしてろっ!
Caution! Caution! うにゅううううっ!!!」
ぽんっ!!!
第二射はれいむを側面から直撃した。黒い髪は化学物質に焼かれてただれ、高
温の化学物質は表皮を溶かし、中の餡子を焼いていく。
「ゆぎいいいいいいいいっ!!!でいぶのぎゅーでぃぐるながみざんがあああ
ああっ!!!あがばばばあばばばああああっ!!!」
焼きただれた表皮に半ば溶けた髪が張り付き、れいむの顔は悲惨な何かへと変
形していた。この姿を見て、れいむや饅頭を思いつくものはいないだろう。そ
れは醜悪で小汚い何かだった。
その何かが、吐き気をもよおす刺激臭を漂わせながら暴れる姿に、まりさは心
底恐怖し、おそろしーしーを盛大に漏らした。
「ゆびいいいいっ!!!ぎだないばけものおおおおっ!!!」
「どぼじでぞんなごどいうのおおおおおおっ!!?ゆっぐぢでぎなばば!!!」
れいむの中枢餡は次第に浸透した化学物質によって壊されつつあり、長くは持
たないだろう。もっとも、れいむにしろ、まりさにしろ、既に生き延びたとこ
ろで苦しい生活をせざるを得ないだけのダメージを受けてしまっていた。
その上、この刺激臭はなかなか消えず、ゆっくりたちが毛嫌いする臭いである
ため、しばらくの間、ここの巣穴でゆっくりすることは不可能になる。
なお、このゆっくりが焼け爛れる攻撃、しばらくは刺激臭で近寄れなくなる化
学汚染、これらがゆっくりの間で広がり、人間から核関連の情報を知ることで
核うんぬんの話が形成されたものと考えられている。
「だじゅげで!!!ばでぃざをだじゅげで!!!おねがいだがらああっ!!?」
奇しくも、このまりさとれいむの番は、春にこのうつほの妹にあたる赤うつほを
永遠にゆっくりさせた番だった。
だが、そんなことを知る由もないうつほは泣きながら冬の寒空へと舞い上がり、
どこか向かうでもなく、ただ太陽に向けて高く飛んでいった。
「うつほはあああっ!!!うにゅほはばがじゃないもんっ!!!ゆあああん!」
うつほのぺにぺにが他のゆっくりよりもはるかに頑丈なのは、すっきりだけで
なく、このような化学物質の噴出による防衛行動にも使われるからであり、化
学反応のための丈夫な壁に覆われた小室があるためである。
この化学物質とその噴射機構ははミイデラゴミムシに代表される「へっぴりむ
し」の高温ガス攻撃と全く同じであり、収斂進化の例として学術的にも注目さ
れている。
この防御機構は親の保護下から離れる子うつほ時代に完成し、主にヘビやイタ
チ、他のゆっくりといった地上の外敵に対して使用される。うつほというと、
空を飛ぶことばかり注目されがちだが、地上での危険は馬鹿にならないのであ
る。また、猛禽やすかーれっとといった空中の外敵に対しては、空中での命中
率が悪いせいか滅多に使用されない。
空中では、射程の短い化学物質の噴射に頼るよりも、自慢の翼で逃げ切った方
が適しているのだろう。
なお、うにゅほはやっぱり「鳥頭」なので、すっきり時に精子餡と一緒に誤射
してしまい、
『すっきり!!!すっきり!!!すごいよっ!!!うにゅほ!あたまがふっと
ーっしそうだよっ!!!』
『うにゅううっ!!!うにゅうううっ!!!きてね!!!いつでもきてね!』
『すっきりーっ!!?』
ぽんっ!!!
『ウボァー!!!』
『うにゅうぅ…さいっこうっのふーじょんだったよぅ!!!…うにゅ?』
『ゆ゛…ゆ゛…ゆ゛げぇ…』
『どぼじでじんじゃっでるのおおおおおおっ!!?うにゅほすっきりしただ
けなのにいいいいいっ!!?』
というような悲惨な結果になることもあることを付け加えておく。当然のこ
とではあるが、まむまむがふっとーっしたゆっくりは例外なく死亡する。今
後飼育やブリーディングに挑戦したい方には、うつほを出産役にするか、出
産役となる番候補を複数用意しておくことを強く推奨する。
そして、雪が溶けて冬が去り、花が咲いて春が来て、初夏になった。
あの三女うつほは…
山の上を飛んでいた。
夏の青空に高々と舞い上がり、周囲に自分の存在をアピールするかのように
けたたましく「うにゅ!うにゅ!」と鳴くうつほ。この行動が縄張りを主張
するためだと考えられていることは既に紹介した。
「うにゅ~!!!うにゅ!!!」
だが、違うのかもしれない。
うつほは単に空が大好きで、ただそれだけの理由で、毎日、飛び、そして鳴
いているのかもしれない。
もちろん、証拠も何もない。推論ですらない。だが、その方がうつほに似合
っている気がするのだ。
「うにゅ~っ!!!」
その漆黒の翼いっぱいに風を受け、うつほは積乱雲を背景に更に高く上って
いった。
この風の神様に愛された小さな小さなイカロスは、太陽に会いたくてきっと
高く上り続けるのだろう。
その小さな命が、
小さな小さな彼女の太陽が燃え尽きる、その日まで。
− 完 −
神奈子さまの一信徒です。
今回はうつほの生活史に焦点をあてているので、縄張りの形成や、群れに所
属した場合の行動など、考えたら面白そうな部分がたくさん残ってしまいま
した。
これらについては、他のSS作者様に期待するか、自分の専門ではない鳥類の
生態について、もう少し勉強してから挑戦してみたいと考えています。
なお、うつほの中身は、黄色くて、うにゅほの源流である卵を使っているも
のということでレモンカードとして書き上げました。辛いものだと他のゆっ
くりに捕食されず生態系での役割が限られると考えたからです。もちろん、
それはそれでおもしろそうなのですが、自分は普通の生物として食物連鎖に
組み入れてみたかったので、このような形になりました。
よく言われるプルトニウムでは、死んだら危険、孕むのも危険…
というふうに生物としての描写が私では不可能でした。
アメ○カ軍に改造された…とかいうノリじゃないと生態系には組み込めない
かと。
うつほ=原子力じゃないと納得できないという方にはすみませんでした。
また、スレでこの質問をした際に、お答えくださった皆様、ありがとうござ
いました。
皆様のお暇つぶしとなれば幸いです。お目汚し、失礼いたしました。