ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko0968 よくしゃべるものたち
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ankoss
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注:短編集ならぬSS集です。単品では投稿し辛かったSSを載せています。
全てにおいて直接的な虐待はないです。
○収録SS○
・よくしゃべるしんぐるまざー
・とある畑にて
・おぼうしさんがしゃべったよ!
・過去作品
ふたば系ゆっくりいじめ 709 五体のおうち宣言
ふたば系ゆっくりいじめ 713 最後に聞く言葉
ふたば系ゆっくりいじめ 722 育て親への説教
nue052 にんげんをたおして
ふたば系ゆっくりいじめ 787 ふたりなら
ふたば系ゆっくりいじめ 800 TAKE IT EASY!
作者:ハンダゴテあき
よくしゃべるしんぐるまざー
「れいむはしんぐるまざーなんだよ! かわいそうなんだよ!
なぐさめなくちゃいけないそんざいなんだよ!
だれもがれいむにゆっくりをていきょうしなきゃならないんだよ!
しんぐるまざーはつらいんだよ! ゆっくりりかいしてね!
でもあわれみはいらないよ! むしろけいいをひょうしてね!
たったひとりであかちゅんそだてているなんてふつうのゆっくりにはできないよ!
れいむだからできるんだよ!
れいむはとくべつなゆっくりであかちゃんもとうぜんとくべつなゆっくりなんだよ!
そこらのゆっくりとはわけがちがうんだよ!
ほんらいはとくべつなれいむたちにすべてのゆっくりとにんげんは
おいしいごはんとあたたかいねどこと
おもしろいおもちゃといけめんなどれいをわたすべきなんだよ!
でもみんなにわるいからいままでがまんしてきたんだよ!
れいむはえらいね!
でもしんぐるまざーになったいま、わるいけどさっきいったことすべていただくよ!
いままでがまんしてきたことにかんしゃしながられいむたちにせいいっぱいつくしてね!
れいむたちのためにつくせることはとてもゆっくりできるんだよ! こうえいなことなんだよ!
れいむにつくせるだいいちごうなれるなんてほんとうにうんがいいね!しあわせものだね!
だいいちごういわいにさっきしたうんうんたべていいよ! ありがたくおもってたべてね!
でもたべおわったらさっそくめいれいをきいてもらうよ!
もうれいむのどれいなんだからあまやかすつもりはまったくないよ!
ほら、なごりおしそうにうんうんみつめてないでさっさとたべる!
たべるけんりはくだつしちゃうよ! なにしてるの! もういい!
うんうんはたべさせないよ! ざんねんだったね!
もうにどとれいむのうんうんたべさせないよ! ないてたのんだってもうおそいからね!
ほら、どれい!
うんうんたべられなかったことをくやんでないでれいむたちにあまあまたくさんもってこい!
だいいちごうのどれいがのろまでぐずなんてはずかしいよ!
こうぞくのためにきびきびはたらいてくれないとこっちがこまるんだよ!
いつまでそこにつったってるの! れいむのことばりかいできる?
ばかなの? しぬの? あんこのうなの? しゃかいのごみなの?
たべてうんうんするだけのげすなの?
ねえ、きいてるの! あまあまもってこいっていってるんだよ!
はやくもってこないとせいっさいするよ! れいむはつよいんだよ!
にんげんなんかいちげきでたおせるんだよ!
おまえみたいなひよわなにんげんなんてさわっただけでころせるよ!
わかった? のうなしでもりかいできた?
おそろしかったらはやくあまあまもってきてね!
……いいからもってこいよじじい!
あまあまもってくればそれでいいんだよ!
れいむはしんぐるまざーだっていっているでしょ! かわいそうなんだよ!
なぐさめなくちゃいけないそんざいなんだよ! だれもがれいむにゆっくりを――」
帰宅するとれいむ親子に侵入されていた。
親れいむと目が合った瞬間、以上のような、
自分の都合が良いように展開していく言葉を投げかけ始めた。
現在も未だ続いている。
親れいむがひたすら得意げに喋る隣で、初めこそ、親同様に嫌味な笑みを浮かべていた赤れいむが、
途中からずっと表情を曇らせていたことが妙に印象的だった。
とある畑にて
お前、こんなところで何やっているんだ。
待てよ。逃げようとするな。ほら、この人参をやるよ。
毒は入っていない。心配するな。
ただ話をしたかったから、この人参を渡しただけなんだ。って聞いていないな。
幸せか。なぁ、さっきまで食べていた野菜は美味しかったか。
まぁまぁか。そうか。こっちの人参の方が美味しいのか。そうか。
もっと欲しい? そうだな。いくつかの質問に答えてくれたらもう一本やるよ。
早く話せ? ああ、判ったよ。
お前はさ、野菜が勝手に生えてくるものだと思っているのか?
“なにいってるんだぜ? あたりまえでしょ?”か。そうか。
質問を続けるよ。
お前は何で逃げようとしたんだ?
……なるほど。
“おやさいさんをひとりじめしようとするいやしいにんげんがおそいかかってくるからだぜ”か。
ということは、危険であることを承知でお前はここにきたのか?
“そうだよ、ゆっへん!”か。そうか。
他に食べるものはなかったのか?
……あるにはあったのか。けれどお前はグルメだから、
草や木の実、昆虫を食べずに美味しいお野菜を食べるのか。
ん? ここに来るまで大変だった? 何の話だ?
……確かに最近は、殆どの畑でゆっくり対策がされているな。
ああ、そうか。だからお前は野菜を求めにここまで来たのか。
そして、仕掛けが手薄なこの畑に侵入したのか。
確かにここはゆっくり対策し過ぎるとまずいからな。
“たいへんだったんだぜー”か。そうか、大変だったのか。
……なに手を開きながら右腕を前に出しているのか、だって?
ああ、気にするな。特に理由はない。
それより聞いてもらいたい話があるんだ。
これが終わったら、人参やるから我慢して聞いてくれ。
この畑の裏に森があるだろ?
そうだ。お前が通ってきた森だ。
ある日さ、森からドスまりさを率いたゆっくりの集団が森から下りてきたんだよ。
目的は私の畑だった。
そう、お前のように、あちこち食い荒らしたんだ。
そいつらもさ、同じようなこと言ってたんだよ。
“おやさいさんはかってにはえてくるんだよ!”
“おやさいをひとりじめするな”って。
野菜は勝手に生えてこないことを説明しても彼らは信じなかった。
私はその光景を見て、先ず『馬鹿だな』って思ったんだ。
野菜が生える仕組みを知らない、そして信じないかよって。
でもさ、それがゆっくりの常識として受け入れられているのなら、
仕方のないことなんじゃないかって、ふと思ったんだ。
人間だって、常識に感じていたものを真逆に否定されたら戸惑うし、信じられないさ。
言っている奴を奇異の目で見たり、嘲り笑うかもしれない。
だから、ゆっくりたちの対応は間違っていないのだと私は思ったんだ。
……でもね、理屈ではそう解っても、もう一度畑の現状を見たとき、身体は動いていたんだ。
妻と一緒に、大切に育てた野菜だったんだ。
金に困っていたわけじゃなかったんだ。
総資産は文句の言いようがないほど潤沢としていたし、元々道楽で始めた農作業だった。
でもな、汗水垂らして育てて、失敗もして、それから何度も試行錯誤を繰り返して、
ようやく生えた野菜だったんだ。
私はドスまりさの顔面を素手で殴りつけたよ。
思いっきり地面に殴り倒した。その後、瞳から涙が溢れた。
上手く力の入らないパンチを何度も繰り出した。
許せなかったんだ。
理屈では分かっていても、私は抑えることが出来なかった。
妻も同じだったんだ。
ドスまりさを殴ることに疲れて、汗を拭いながら辺りを見渡した時、
妻がドスまりさを抜いて最後の一匹になるゆっくりを踏みつぶすところだった。
妻が上げていた足を踏み下ろした瞬間、短い断末魔が畑に響いた。
餡子こそ飛び出しはしなかったものの、頭部に足跡のつき、土に埋もれたゆっくりは動かなかった。
妻と眼があった。涙ぐんでいた。彼女は何も言わなかった。私も何も言えなかった。
畑に沈黙が流れた。
大勢のゆっくりが倒れる畑で、私たちは立ち尽くしていた……。
……おい、顔が青褪めているぞ。大丈夫か。
何震えているんだ? 私が怖いのか?
野菜を食ってしまったから始末されると思っているのか?
おい、勘違いするなよ。私は初めこう言ったはずだ。
話をしたかっただけだと。
約束は守るさ。だから安心しろ。私はお前を殺さない。
“なんだぜ! あんしんしたぜー”か。そうか。良かったな。
でだ、……んっ? なんだって。
話が終わったならさっさと野菜をよこせ?
いや、話には未だ続きがあるんだ。
“いいから、さっさとよこすんだぜくそじじい!”か。随分強気に出たな。
まあいいが。
ほら、持ってけよ。
……“ばかなじじいだぜ”か。そうか。
お前はそれを咥えて逃げるつもりなのか。
“もうおそいんだぜ! ながいはなしはこりごりなのぜ! すたこらさっさだぜ!”か。
そうか。やはり逃げるつもりなのか。
勝手にすればいい。
ただ逃げられればの話だが。
……なに立ち止まっているんだ。私から逃げるんじゃないのか。
そこに立っていたら私に捕まってしまうぞ。
まぁそれは私に捕まえる意思があってのことだが。
私はお前を捕まえるつもりはないよ。だから安心しろ。
安心して目の前のドスまりさ率いる群れたちと睨めっこをしてくれ。
……話の続きをしようか。
餡子まみれの畑で私たちが茫然と立ち尽くしていると、ドスまりさが息を吹き返した。
涙で力が入らなかったパンチとドス特有の生命力が働いたのかもしれない。
とにかく私たち夫婦はドスまりさにトドメを刺そうとした。
けれど出来なかった。
“ごめんなさい……まりさたちがわるかったです……おやさいさんたべてほんとうにごめんなさい……”
ドスまりさはこうも続けたんだ。
“よくわからないけど、おやさいさんはかってにはえてこないんですね。
まりさ、しりませんでした。ほんとうに、ほんとうにごめんなさい……。
まりさはころしてかまいません。
ただにんげんさん、おねがいがあります。
もりのみんなにおやさいさんのつくりかたをおしえてくれませんか。
まりさたちもおやさいさんたべたいんです。
おねがいします……”
……気がつけば、私たちはドスまりさたちを治療していた。
どういう心の変化があったのか判らない。ただ私たちは無意識のまま行動していた。
畑の耕された土がクッションとなったのか、ドスまりさたちは奇跡的に全員助かった。
それから私たちはゆっくりたちに野菜の作り方を教えた。
使っていなかった土地の一角をゆっくりに貸し、耕すことから始めさせた。
一年の間にいくつかの野菜を共に作った。共に作ったのだから分け前は半々にした。
それから先はゆっくりたちだけで野菜を作らせた。
私たちは手伝わず、判らないことがあったら、答えるだけにした。
もし作らせることが出来たのなら、その野菜を丸々分け与えることを伝えた。
ゆっくりたちは大喜びし、畑仕事に精を出した。
けれど一年の間、野菜がまともに育つことはなかった。出来ても痩せた不味い野菜だけが残された。
最初から上手くいくはずがなかったんだ。
私はゆっくりのことだからそこで諦めると思ったんだ。
けれどゆっくりたちは諦めず、農作業を続けた。
お前がさっき食べた野菜があっただろ?
それはそこにいるゆっくりたちがようやく完成させることが出来た野菜なんだ。
私と妻と同じで、汗水垂らして、失敗もして、ようやく出来た野菜なんだ。
……私はこの話をお前にしたかったんだ。
……戸惑うよな。常識が覆されたんだもんな。
お前はそこにいる群れのゆっくりと同じなんだよ。
野菜が勝手に生えるものだと思って、独り占めしているだろう人間から奪ったんだ。
でも違うところがあるとすれば、それは人間の畑を荒らしたことでなく、
ゆっくりの畑を荒らしたことだ。
私は何もしない。この畑で起きたことは私にとって、もう関係のないことだ。
私は未だに何故ドスまりさたちを助け、畑を貸したのか判らない。
妻もまた判らなかったそうだ。ただあるようにあったとしか言いようがない。
ドスまりさたちがお前をどう処遇するかは判らない。
ドスまりさたちは、恐らくだがお前が以前の自分たちのようだと感じているだろう。
憐みを抱いているのかもしれない。もしかしたら許してくれるかもしれない。
でも一つだけ言っておくことがある。
ドスまりさたちもまた、以前の私たちと同じ状況にたたされているということだ。
ようやく育ってくれた野菜をボロボロにされたんだ。怒りを抱いているかもしれない。
もしかしたら全員で踏みつけられるかもしれない。
私は何もしない。助けもしないし、殺しもしない。
……そろそろ行くよ。長々とすまない。
また会えたらいいね。
おぼうしさんがしゃべったよ!
「こんにちは! ぼうしはまりさのおぼうしさんだよ!」
森にある小さな洞穴の中で一つの声が響き渡った。
洞穴の中には、一匹の子れいむと子まりさがいた。
けれど、そのどちらとも口を開けていなかった。
「ゆっ! すごいよ! おぼうしさんがしゃべったよ!」
子れいむが驚き、目の前の子まりさに「どうして? どうして?」と尋ねる。
「ゆー、まりさにもわからないよ……。 あさおきたらとつぜん、
『おはようまりさ! いいあさだね!』っておぼうしさんがいいだしたんだよ……」
子まりさが照れくさそうに説明した。
子れいむは帽子を見上げながら、「ゆぅー」と言葉出すほかなかった。
『れいむにはなしたいことがあるんだ』と言われて、なくなく来たはいいが、
こんなことが起こるなど、子れいむは想像もしていなかった。
「れいむはとてもゆっくりしたれいむだね! ぼうしはれいむといろんなおはなしがしたいよ!」
再び洞穴に声が響く。子れいむはその声で楽しい気持ちになった。
「ゆゆぅ~。いいよ! れいむもぼうしさんといっぱいおはなしがしたいよ!」
子れいむと帽子が楽しそうに会話をしているなか、子まりさは嬉しそうにそれを眺めていた。
噂は瞬く間に広がった。
親がいなく、片目が潰れていて、いつも一人ぼっちだった子まりさの帽子が言葉を話すのだと。
連日、子まりさの巣である洞穴に大勢のゆっくりが訪問した。
子まりさがいる森に住むゆっくりだけでなく、隣の森からも喋る帽子を見に来るゆっくりもいた。
「そこでいってやったんだよ! このぼうしにまかせろってね!」
「ゆゆっ! そんなこといってないでしょ。いったのはまりさだよ!」
子まりさは訪れたゆっくりたちに、帽子が喋る光景を見せて行った。
来るゆっくり来るゆっくりが皆驚いていた。
子まりさは森の人気者になっていた。
子まりさが狩りに出ようとすると、成ゆっくりたちがそれを止めた。
外界には危険が付きまとい、帽子が失われる可能性があるからだと。
子まりさの代わりに成ゆっくりたちが狩りをするようになった。
以前まで食べたことのない山菜や木の実が葉の上に並べられていた。
子まりさにとって、とてもゆっくり出来る食べ物だった。
子まりさに友達が出来た。
帽子が喋るという特別なゆっくりと、皆知り合いになりたがった。
子まりさの傍にはいつも誰かがいた。ずっと一人ぼっちだった子まりさは幸せだった。
巣は温かいところに変わり、ずっと思いを抱いていた子れいむが婚約者になったりもした。
子まりさは今までの人生で味わったことのない、最高のゆっくりを享受していた。
けれどそれは長く続かなかった。
ある日、子まりさが眼を覚ますと、いつもつけたままにしている帽子がないことに気付いた。
巣を見回すが、帽子が落ちている気配はない。
誰かに盗まれたのかもしれないと思った子まりさは慌てて巣から出ようとした。
しかしそれは入口に立ち塞がった一匹の成まりさによって拒まれた。
成まりさの口には子まりさの帽子が咥えられていた。
子まりさはその成まりさに見覚えがあった。
自分に好意的ではない視線をずっと送っていた成まりさだった。
「ゆっ! このぼうししゃべらないよ! どういうわけかせつめいしてね!」
成まりさは口から子まりさの帽子を地面に落とし、踏みつけ、擦った。
子まりさにとって、大切な大切な帽子が汚されていく。
「やめてね! まりさのぼうしさんいじめないでね!」
「うるさいよ! そんなこときいていないんだよ! はやくせつめいしてね!
じゃないともっとぐじゃぐじゃにするよ!」
「いだい! いだいよ!」
成まりさが帽子を擦ることを停止した。自分と子まりさ以外の声が聞こえたからだ。
「いだいよ! いだいよ! だずげで! だずげでまりざ!」
成まりさはいつの間にか子まりさが自分に近づいていることに気付いた。
子まりさは成まりさを見上げながら言った。
「まりさのおぼうしさんはねていたんだよ! わかったでしょ! だからはやくかえしてね!」
子まりさの声に、成まりさは怒りを抑えることが出来なかった。
何も言い訳できない子まりさを甚振るつもりだったからだ。
思い通りにならない展開に苛立った成まりさは、擦りつけていた帽子を口に咥え、
そしてバラバラに破った。
「ゆっ! な、なにしているの!」
子まりさが咄嗟に体当たりするが、体格差の問題でそれは敵わなかった。
子まりさは跳ね返り、壁に背中を打ちつけた。
「ふん! まりさがよびかけたのにずっとねてるぼうしなんて、
せいっさいされてとうぜんなんだよ! ゆっくりりかいしてね!
ずっときにいらなかったんだよ! ぼうしがしゃべるだけでちやほらされて!
ぼうしがなかったら、かためのないゆっくりできないゆっくりのくせに!」
成まりさはバラバラになった帽子の一片を子まりさの方へ放り投げて去っていった。
子まりさは千切れ千切れになった帽子を見つめながら、「どうして……」と思った。
まりさはただゆっくりしたかっただけなのに……。
子まりさは帽子の破片を拾い集めながら、そう思っていた。
子まりさは生まれたときから片目が潰れていた。
森のゆっくりからはゆっくり出来ないゆっくりとして扱われた。
けれど母親は優しく接してくれていた。
それだけ子まりさの救いだった。
けれどその母親がある日突然死んでしまった。れみりゃの襲撃によるものだった。
子まりさは一人ぼっちになった。
誰も話す相手がいなかった。
毎日、独りで狩りをし、独りで食事をとり、独りで眠りについた。
その間に会話はなかった。無言の日々が何日も続いた。
ある日、子まりさは新しい食料を求めにいつもとは違う道で狩りをしていた。
見たことのない美味しそうな食料を集められたものの、道に迷ってしまった。
子まりさはひたすら前に進むことにした。そうすれば知っている道に辿り着けるかもしれないと。
けれど、子まりさの進んだ先に会ったのは、人里だった。
人間はゆっくりできない。
母親からそう聞かされていた子まりさは慌ててその場から立ち去ろうとした。
けれど広場で、人間たちが一人の男に群がっている光景が眼に焼きつき、
子まりさはいつのまにかUターンをしていた。
叢に隠れながら、子まりさはあの男が何をやっているのかを眺めた。
それは口を開けずに喋るといった、俗に言う腹話術だった。
腹話術師の手には怪獣の縫い包みがつけられ、
怪獣が声を発しているときは口をパクパクとさせた。
「まぁこの男が声を出しているんですけどね。縫い包みが喋るとか有り得ないですから」
「ちょ、ちょっとギャモンくん! 何言っているの! 夢をぶち壊すようなこと言わないでよ!」
「いや誰もそんな夢とか抱いていないから。
この男がどの程度上手く腹話術が出来るかしか興味ないから」
「いやいやいやいや!」
といったブラックな漫才が繰り広げられていた。
子まりさはそれに感銘を受けた。
子まりさには怪獣のギャモンくんと男が仲の良い友達に見えた。
まりさもやってみようと子まりさは思った。
ギャモンくんのような縫い包みはないから、帽子を使って、と。
「まりさはいつもひとりぼっちだね! このぼうしさまをありがたくおもってね!」
「ふん! それはぼうしもいっしょでしょ!
まりささまがいることをありがたくおもってね!」
「なんだとこんちくしょう! もうしょうがない! ずっとともだちだからな!」
「ゆっ! きりかえはやすぎでしょ!」
いつかに繰り広げた会話を子まりさは思い出していた。
独り芝居の記憶だ。
けれど子まりさには楽しかった。
本当に帽子が生きているように感じられていた。
一人ぼっちであることを思わなかった。
どうしてあの時、子れいむに腹話術を披露してしまったのだろう。
どうしてではない。今以上にゆっくりしたいと思ったからだ。
自分はあの腹話術師のように披露して、周りにゆっくりを集めたがった。
帽子以外の友達や何かを欲しがった。
ゆっくりしたがってしまった。
帽子のおかげで、もう十分ゆっくりしていたというのに。
子まりさは涙を流した。
バラバラになってしまった友達から声を発せさせる気持ちになれなかった。
帽子は死んでしまった。子まりさはそう思った。
自分の身勝手のせいで殺してしまったのだ。
自らが作り上げた生命だと子まりさは判っていても、涙を抑えることが出来ない。
もう喋ることのない親友を思いながら子まりさは泣いていた。
・あとがき
一作目は何気に今まで書いた中では一番気に入っていたりします。でいぶかわいいよでいぶ。
二作目は作者のいつもの病気が発作を起こした結果です。本当にごめんなさい。でもついやって(ry
三作目はもともと乙一氏の「ぼくのかしこいパンツくん」的な展開にしようと考えていたのですが、
病気が発作を起こして何時の間にかこんな展開になっていました。
最後まで読んでくださった方ありがとうございました。
全てにおいて直接的な虐待はないです。
○収録SS○
・よくしゃべるしんぐるまざー
・とある畑にて
・おぼうしさんがしゃべったよ!
・過去作品
ふたば系ゆっくりいじめ 709 五体のおうち宣言
ふたば系ゆっくりいじめ 713 最後に聞く言葉
ふたば系ゆっくりいじめ 722 育て親への説教
nue052 にんげんをたおして
ふたば系ゆっくりいじめ 787 ふたりなら
ふたば系ゆっくりいじめ 800 TAKE IT EASY!
作者:ハンダゴテあき
よくしゃべるしんぐるまざー
「れいむはしんぐるまざーなんだよ! かわいそうなんだよ!
なぐさめなくちゃいけないそんざいなんだよ!
だれもがれいむにゆっくりをていきょうしなきゃならないんだよ!
しんぐるまざーはつらいんだよ! ゆっくりりかいしてね!
でもあわれみはいらないよ! むしろけいいをひょうしてね!
たったひとりであかちゅんそだてているなんてふつうのゆっくりにはできないよ!
れいむだからできるんだよ!
れいむはとくべつなゆっくりであかちゃんもとうぜんとくべつなゆっくりなんだよ!
そこらのゆっくりとはわけがちがうんだよ!
ほんらいはとくべつなれいむたちにすべてのゆっくりとにんげんは
おいしいごはんとあたたかいねどこと
おもしろいおもちゃといけめんなどれいをわたすべきなんだよ!
でもみんなにわるいからいままでがまんしてきたんだよ!
れいむはえらいね!
でもしんぐるまざーになったいま、わるいけどさっきいったことすべていただくよ!
いままでがまんしてきたことにかんしゃしながられいむたちにせいいっぱいつくしてね!
れいむたちのためにつくせることはとてもゆっくりできるんだよ! こうえいなことなんだよ!
れいむにつくせるだいいちごうなれるなんてほんとうにうんがいいね!しあわせものだね!
だいいちごういわいにさっきしたうんうんたべていいよ! ありがたくおもってたべてね!
でもたべおわったらさっそくめいれいをきいてもらうよ!
もうれいむのどれいなんだからあまやかすつもりはまったくないよ!
ほら、なごりおしそうにうんうんみつめてないでさっさとたべる!
たべるけんりはくだつしちゃうよ! なにしてるの! もういい!
うんうんはたべさせないよ! ざんねんだったね!
もうにどとれいむのうんうんたべさせないよ! ないてたのんだってもうおそいからね!
ほら、どれい!
うんうんたべられなかったことをくやんでないでれいむたちにあまあまたくさんもってこい!
だいいちごうのどれいがのろまでぐずなんてはずかしいよ!
こうぞくのためにきびきびはたらいてくれないとこっちがこまるんだよ!
いつまでそこにつったってるの! れいむのことばりかいできる?
ばかなの? しぬの? あんこのうなの? しゃかいのごみなの?
たべてうんうんするだけのげすなの?
ねえ、きいてるの! あまあまもってこいっていってるんだよ!
はやくもってこないとせいっさいするよ! れいむはつよいんだよ!
にんげんなんかいちげきでたおせるんだよ!
おまえみたいなひよわなにんげんなんてさわっただけでころせるよ!
わかった? のうなしでもりかいできた?
おそろしかったらはやくあまあまもってきてね!
……いいからもってこいよじじい!
あまあまもってくればそれでいいんだよ!
れいむはしんぐるまざーだっていっているでしょ! かわいそうなんだよ!
なぐさめなくちゃいけないそんざいなんだよ! だれもがれいむにゆっくりを――」
帰宅するとれいむ親子に侵入されていた。
親れいむと目が合った瞬間、以上のような、
自分の都合が良いように展開していく言葉を投げかけ始めた。
現在も未だ続いている。
親れいむがひたすら得意げに喋る隣で、初めこそ、親同様に嫌味な笑みを浮かべていた赤れいむが、
途中からずっと表情を曇らせていたことが妙に印象的だった。
とある畑にて
お前、こんなところで何やっているんだ。
待てよ。逃げようとするな。ほら、この人参をやるよ。
毒は入っていない。心配するな。
ただ話をしたかったから、この人参を渡しただけなんだ。って聞いていないな。
幸せか。なぁ、さっきまで食べていた野菜は美味しかったか。
まぁまぁか。そうか。こっちの人参の方が美味しいのか。そうか。
もっと欲しい? そうだな。いくつかの質問に答えてくれたらもう一本やるよ。
早く話せ? ああ、判ったよ。
お前はさ、野菜が勝手に生えてくるものだと思っているのか?
“なにいってるんだぜ? あたりまえでしょ?”か。そうか。
質問を続けるよ。
お前は何で逃げようとしたんだ?
……なるほど。
“おやさいさんをひとりじめしようとするいやしいにんげんがおそいかかってくるからだぜ”か。
ということは、危険であることを承知でお前はここにきたのか?
“そうだよ、ゆっへん!”か。そうか。
他に食べるものはなかったのか?
……あるにはあったのか。けれどお前はグルメだから、
草や木の実、昆虫を食べずに美味しいお野菜を食べるのか。
ん? ここに来るまで大変だった? 何の話だ?
……確かに最近は、殆どの畑でゆっくり対策がされているな。
ああ、そうか。だからお前は野菜を求めにここまで来たのか。
そして、仕掛けが手薄なこの畑に侵入したのか。
確かにここはゆっくり対策し過ぎるとまずいからな。
“たいへんだったんだぜー”か。そうか、大変だったのか。
……なに手を開きながら右腕を前に出しているのか、だって?
ああ、気にするな。特に理由はない。
それより聞いてもらいたい話があるんだ。
これが終わったら、人参やるから我慢して聞いてくれ。
この畑の裏に森があるだろ?
そうだ。お前が通ってきた森だ。
ある日さ、森からドスまりさを率いたゆっくりの集団が森から下りてきたんだよ。
目的は私の畑だった。
そう、お前のように、あちこち食い荒らしたんだ。
そいつらもさ、同じようなこと言ってたんだよ。
“おやさいさんはかってにはえてくるんだよ!”
“おやさいをひとりじめするな”って。
野菜は勝手に生えてこないことを説明しても彼らは信じなかった。
私はその光景を見て、先ず『馬鹿だな』って思ったんだ。
野菜が生える仕組みを知らない、そして信じないかよって。
でもさ、それがゆっくりの常識として受け入れられているのなら、
仕方のないことなんじゃないかって、ふと思ったんだ。
人間だって、常識に感じていたものを真逆に否定されたら戸惑うし、信じられないさ。
言っている奴を奇異の目で見たり、嘲り笑うかもしれない。
だから、ゆっくりたちの対応は間違っていないのだと私は思ったんだ。
……でもね、理屈ではそう解っても、もう一度畑の現状を見たとき、身体は動いていたんだ。
妻と一緒に、大切に育てた野菜だったんだ。
金に困っていたわけじゃなかったんだ。
総資産は文句の言いようがないほど潤沢としていたし、元々道楽で始めた農作業だった。
でもな、汗水垂らして育てて、失敗もして、それから何度も試行錯誤を繰り返して、
ようやく生えた野菜だったんだ。
私はドスまりさの顔面を素手で殴りつけたよ。
思いっきり地面に殴り倒した。その後、瞳から涙が溢れた。
上手く力の入らないパンチを何度も繰り出した。
許せなかったんだ。
理屈では分かっていても、私は抑えることが出来なかった。
妻も同じだったんだ。
ドスまりさを殴ることに疲れて、汗を拭いながら辺りを見渡した時、
妻がドスまりさを抜いて最後の一匹になるゆっくりを踏みつぶすところだった。
妻が上げていた足を踏み下ろした瞬間、短い断末魔が畑に響いた。
餡子こそ飛び出しはしなかったものの、頭部に足跡のつき、土に埋もれたゆっくりは動かなかった。
妻と眼があった。涙ぐんでいた。彼女は何も言わなかった。私も何も言えなかった。
畑に沈黙が流れた。
大勢のゆっくりが倒れる畑で、私たちは立ち尽くしていた……。
……おい、顔が青褪めているぞ。大丈夫か。
何震えているんだ? 私が怖いのか?
野菜を食ってしまったから始末されると思っているのか?
おい、勘違いするなよ。私は初めこう言ったはずだ。
話をしたかっただけだと。
約束は守るさ。だから安心しろ。私はお前を殺さない。
“なんだぜ! あんしんしたぜー”か。そうか。良かったな。
でだ、……んっ? なんだって。
話が終わったならさっさと野菜をよこせ?
いや、話には未だ続きがあるんだ。
“いいから、さっさとよこすんだぜくそじじい!”か。随分強気に出たな。
まあいいが。
ほら、持ってけよ。
……“ばかなじじいだぜ”か。そうか。
お前はそれを咥えて逃げるつもりなのか。
“もうおそいんだぜ! ながいはなしはこりごりなのぜ! すたこらさっさだぜ!”か。
そうか。やはり逃げるつもりなのか。
勝手にすればいい。
ただ逃げられればの話だが。
……なに立ち止まっているんだ。私から逃げるんじゃないのか。
そこに立っていたら私に捕まってしまうぞ。
まぁそれは私に捕まえる意思があってのことだが。
私はお前を捕まえるつもりはないよ。だから安心しろ。
安心して目の前のドスまりさ率いる群れたちと睨めっこをしてくれ。
……話の続きをしようか。
餡子まみれの畑で私たちが茫然と立ち尽くしていると、ドスまりさが息を吹き返した。
涙で力が入らなかったパンチとドス特有の生命力が働いたのかもしれない。
とにかく私たち夫婦はドスまりさにトドメを刺そうとした。
けれど出来なかった。
“ごめんなさい……まりさたちがわるかったです……おやさいさんたべてほんとうにごめんなさい……”
ドスまりさはこうも続けたんだ。
“よくわからないけど、おやさいさんはかってにはえてこないんですね。
まりさ、しりませんでした。ほんとうに、ほんとうにごめんなさい……。
まりさはころしてかまいません。
ただにんげんさん、おねがいがあります。
もりのみんなにおやさいさんのつくりかたをおしえてくれませんか。
まりさたちもおやさいさんたべたいんです。
おねがいします……”
……気がつけば、私たちはドスまりさたちを治療していた。
どういう心の変化があったのか判らない。ただ私たちは無意識のまま行動していた。
畑の耕された土がクッションとなったのか、ドスまりさたちは奇跡的に全員助かった。
それから私たちはゆっくりたちに野菜の作り方を教えた。
使っていなかった土地の一角をゆっくりに貸し、耕すことから始めさせた。
一年の間にいくつかの野菜を共に作った。共に作ったのだから分け前は半々にした。
それから先はゆっくりたちだけで野菜を作らせた。
私たちは手伝わず、判らないことがあったら、答えるだけにした。
もし作らせることが出来たのなら、その野菜を丸々分け与えることを伝えた。
ゆっくりたちは大喜びし、畑仕事に精を出した。
けれど一年の間、野菜がまともに育つことはなかった。出来ても痩せた不味い野菜だけが残された。
最初から上手くいくはずがなかったんだ。
私はゆっくりのことだからそこで諦めると思ったんだ。
けれどゆっくりたちは諦めず、農作業を続けた。
お前がさっき食べた野菜があっただろ?
それはそこにいるゆっくりたちがようやく完成させることが出来た野菜なんだ。
私と妻と同じで、汗水垂らして、失敗もして、ようやく出来た野菜なんだ。
……私はこの話をお前にしたかったんだ。
……戸惑うよな。常識が覆されたんだもんな。
お前はそこにいる群れのゆっくりと同じなんだよ。
野菜が勝手に生えるものだと思って、独り占めしているだろう人間から奪ったんだ。
でも違うところがあるとすれば、それは人間の畑を荒らしたことでなく、
ゆっくりの畑を荒らしたことだ。
私は何もしない。この畑で起きたことは私にとって、もう関係のないことだ。
私は未だに何故ドスまりさたちを助け、畑を貸したのか判らない。
妻もまた判らなかったそうだ。ただあるようにあったとしか言いようがない。
ドスまりさたちがお前をどう処遇するかは判らない。
ドスまりさたちは、恐らくだがお前が以前の自分たちのようだと感じているだろう。
憐みを抱いているのかもしれない。もしかしたら許してくれるかもしれない。
でも一つだけ言っておくことがある。
ドスまりさたちもまた、以前の私たちと同じ状況にたたされているということだ。
ようやく育ってくれた野菜をボロボロにされたんだ。怒りを抱いているかもしれない。
もしかしたら全員で踏みつけられるかもしれない。
私は何もしない。助けもしないし、殺しもしない。
……そろそろ行くよ。長々とすまない。
また会えたらいいね。
おぼうしさんがしゃべったよ!
「こんにちは! ぼうしはまりさのおぼうしさんだよ!」
森にある小さな洞穴の中で一つの声が響き渡った。
洞穴の中には、一匹の子れいむと子まりさがいた。
けれど、そのどちらとも口を開けていなかった。
「ゆっ! すごいよ! おぼうしさんがしゃべったよ!」
子れいむが驚き、目の前の子まりさに「どうして? どうして?」と尋ねる。
「ゆー、まりさにもわからないよ……。 あさおきたらとつぜん、
『おはようまりさ! いいあさだね!』っておぼうしさんがいいだしたんだよ……」
子まりさが照れくさそうに説明した。
子れいむは帽子を見上げながら、「ゆぅー」と言葉出すほかなかった。
『れいむにはなしたいことがあるんだ』と言われて、なくなく来たはいいが、
こんなことが起こるなど、子れいむは想像もしていなかった。
「れいむはとてもゆっくりしたれいむだね! ぼうしはれいむといろんなおはなしがしたいよ!」
再び洞穴に声が響く。子れいむはその声で楽しい気持ちになった。
「ゆゆぅ~。いいよ! れいむもぼうしさんといっぱいおはなしがしたいよ!」
子れいむと帽子が楽しそうに会話をしているなか、子まりさは嬉しそうにそれを眺めていた。
噂は瞬く間に広がった。
親がいなく、片目が潰れていて、いつも一人ぼっちだった子まりさの帽子が言葉を話すのだと。
連日、子まりさの巣である洞穴に大勢のゆっくりが訪問した。
子まりさがいる森に住むゆっくりだけでなく、隣の森からも喋る帽子を見に来るゆっくりもいた。
「そこでいってやったんだよ! このぼうしにまかせろってね!」
「ゆゆっ! そんなこといってないでしょ。いったのはまりさだよ!」
子まりさは訪れたゆっくりたちに、帽子が喋る光景を見せて行った。
来るゆっくり来るゆっくりが皆驚いていた。
子まりさは森の人気者になっていた。
子まりさが狩りに出ようとすると、成ゆっくりたちがそれを止めた。
外界には危険が付きまとい、帽子が失われる可能性があるからだと。
子まりさの代わりに成ゆっくりたちが狩りをするようになった。
以前まで食べたことのない山菜や木の実が葉の上に並べられていた。
子まりさにとって、とてもゆっくり出来る食べ物だった。
子まりさに友達が出来た。
帽子が喋るという特別なゆっくりと、皆知り合いになりたがった。
子まりさの傍にはいつも誰かがいた。ずっと一人ぼっちだった子まりさは幸せだった。
巣は温かいところに変わり、ずっと思いを抱いていた子れいむが婚約者になったりもした。
子まりさは今までの人生で味わったことのない、最高のゆっくりを享受していた。
けれどそれは長く続かなかった。
ある日、子まりさが眼を覚ますと、いつもつけたままにしている帽子がないことに気付いた。
巣を見回すが、帽子が落ちている気配はない。
誰かに盗まれたのかもしれないと思った子まりさは慌てて巣から出ようとした。
しかしそれは入口に立ち塞がった一匹の成まりさによって拒まれた。
成まりさの口には子まりさの帽子が咥えられていた。
子まりさはその成まりさに見覚えがあった。
自分に好意的ではない視線をずっと送っていた成まりさだった。
「ゆっ! このぼうししゃべらないよ! どういうわけかせつめいしてね!」
成まりさは口から子まりさの帽子を地面に落とし、踏みつけ、擦った。
子まりさにとって、大切な大切な帽子が汚されていく。
「やめてね! まりさのぼうしさんいじめないでね!」
「うるさいよ! そんなこときいていないんだよ! はやくせつめいしてね!
じゃないともっとぐじゃぐじゃにするよ!」
「いだい! いだいよ!」
成まりさが帽子を擦ることを停止した。自分と子まりさ以外の声が聞こえたからだ。
「いだいよ! いだいよ! だずげで! だずげでまりざ!」
成まりさはいつの間にか子まりさが自分に近づいていることに気付いた。
子まりさは成まりさを見上げながら言った。
「まりさのおぼうしさんはねていたんだよ! わかったでしょ! だからはやくかえしてね!」
子まりさの声に、成まりさは怒りを抑えることが出来なかった。
何も言い訳できない子まりさを甚振るつもりだったからだ。
思い通りにならない展開に苛立った成まりさは、擦りつけていた帽子を口に咥え、
そしてバラバラに破った。
「ゆっ! な、なにしているの!」
子まりさが咄嗟に体当たりするが、体格差の問題でそれは敵わなかった。
子まりさは跳ね返り、壁に背中を打ちつけた。
「ふん! まりさがよびかけたのにずっとねてるぼうしなんて、
せいっさいされてとうぜんなんだよ! ゆっくりりかいしてね!
ずっときにいらなかったんだよ! ぼうしがしゃべるだけでちやほらされて!
ぼうしがなかったら、かためのないゆっくりできないゆっくりのくせに!」
成まりさはバラバラになった帽子の一片を子まりさの方へ放り投げて去っていった。
子まりさは千切れ千切れになった帽子を見つめながら、「どうして……」と思った。
まりさはただゆっくりしたかっただけなのに……。
子まりさは帽子の破片を拾い集めながら、そう思っていた。
子まりさは生まれたときから片目が潰れていた。
森のゆっくりからはゆっくり出来ないゆっくりとして扱われた。
けれど母親は優しく接してくれていた。
それだけ子まりさの救いだった。
けれどその母親がある日突然死んでしまった。れみりゃの襲撃によるものだった。
子まりさは一人ぼっちになった。
誰も話す相手がいなかった。
毎日、独りで狩りをし、独りで食事をとり、独りで眠りについた。
その間に会話はなかった。無言の日々が何日も続いた。
ある日、子まりさは新しい食料を求めにいつもとは違う道で狩りをしていた。
見たことのない美味しそうな食料を集められたものの、道に迷ってしまった。
子まりさはひたすら前に進むことにした。そうすれば知っている道に辿り着けるかもしれないと。
けれど、子まりさの進んだ先に会ったのは、人里だった。
人間はゆっくりできない。
母親からそう聞かされていた子まりさは慌ててその場から立ち去ろうとした。
けれど広場で、人間たちが一人の男に群がっている光景が眼に焼きつき、
子まりさはいつのまにかUターンをしていた。
叢に隠れながら、子まりさはあの男が何をやっているのかを眺めた。
それは口を開けずに喋るといった、俗に言う腹話術だった。
腹話術師の手には怪獣の縫い包みがつけられ、
怪獣が声を発しているときは口をパクパクとさせた。
「まぁこの男が声を出しているんですけどね。縫い包みが喋るとか有り得ないですから」
「ちょ、ちょっとギャモンくん! 何言っているの! 夢をぶち壊すようなこと言わないでよ!」
「いや誰もそんな夢とか抱いていないから。
この男がどの程度上手く腹話術が出来るかしか興味ないから」
「いやいやいやいや!」
といったブラックな漫才が繰り広げられていた。
子まりさはそれに感銘を受けた。
子まりさには怪獣のギャモンくんと男が仲の良い友達に見えた。
まりさもやってみようと子まりさは思った。
ギャモンくんのような縫い包みはないから、帽子を使って、と。
「まりさはいつもひとりぼっちだね! このぼうしさまをありがたくおもってね!」
「ふん! それはぼうしもいっしょでしょ!
まりささまがいることをありがたくおもってね!」
「なんだとこんちくしょう! もうしょうがない! ずっとともだちだからな!」
「ゆっ! きりかえはやすぎでしょ!」
いつかに繰り広げた会話を子まりさは思い出していた。
独り芝居の記憶だ。
けれど子まりさには楽しかった。
本当に帽子が生きているように感じられていた。
一人ぼっちであることを思わなかった。
どうしてあの時、子れいむに腹話術を披露してしまったのだろう。
どうしてではない。今以上にゆっくりしたいと思ったからだ。
自分はあの腹話術師のように披露して、周りにゆっくりを集めたがった。
帽子以外の友達や何かを欲しがった。
ゆっくりしたがってしまった。
帽子のおかげで、もう十分ゆっくりしていたというのに。
子まりさは涙を流した。
バラバラになってしまった友達から声を発せさせる気持ちになれなかった。
帽子は死んでしまった。子まりさはそう思った。
自分の身勝手のせいで殺してしまったのだ。
自らが作り上げた生命だと子まりさは判っていても、涙を抑えることが出来ない。
もう喋ることのない親友を思いながら子まりさは泣いていた。
・あとがき
一作目は何気に今まで書いた中では一番気に入っていたりします。でいぶかわいいよでいぶ。
二作目は作者のいつもの病気が発作を起こした結果です。本当にごめんなさい。でもついやって(ry
三作目はもともと乙一氏の「ぼくのかしこいパンツくん」的な展開にしようと考えていたのですが、
病気が発作を起こして何時の間にかこんな展開になっていました。
最後まで読んでくださった方ありがとうございました。