ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko0848 もりのけんじゃ(苦笑)とちびれいむ
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・読みやすさのため、ゆっくり同士の会話文で漢字を用いていますが
全匹が餡子脳なのであんまり気にしないでね!
・「幻想郷」なる単語が出てきますが、巫女さんが弾幕や飲み会してるあの世界の話ではないです。
・前半ゆっくりしすぎました。◆5章からすっきりー展開頑張りました。
はじまりはじまり。
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◆1 -赤れいむ、とても恐い思いをする-
生まれてまだ3日のゆっくり赤ちゃん、
ちびれいむは早くも迎えた死の恐怖に震えていました。
いいえ、ゆっくりの群れ全体が死の予感に怯えていました。
秋も終わりかけだというのに、冬篭りの為の群れの食料が尽きてしまったのです。
話はごくごく簡単で、
ボスのゆっくりまりさが「なんだかお腹が減ったのぜ!」という理由で
秋の間にみんなで集めたドングリ、キノコ、花びら、
その他の食べ物全てを昼寝のついでに食べてしまったのです。
汚く食い散らかされた残飯が広場のそこかしこに転がっていました。
「どおして食べ物しゃんが全部なくなっぢゃったのぜぇぇ!?」
ボスまりさは騒いでいたけど、本人……本ゆっくりにも理由は良く分かっていました。
自分がアホだから。
しかし自らの誤りを認めてはボスの威厳が揺らぎます。
群れのれいむ達やありす達もこれから新たに食料を集めるかどうかを
騒々しく相談し合っていますが、どう考えても不可能な事は分かりきっていました。
そもそもボスまりさが食べきった備蓄さえ1ヶ月ほどかけて群れ全体で集めたものなのです。
いくらゆっくりの鈍感な耳でも、冬の近づく音ははっきりと聞こえていました。
ここは成体ゆっくりが数匹、幼体ゆっくりは十数匹ほどの小さなコロニーでしたが
冬眠状態にならず動くゆっくり達には、冬の間も多くの食料が必要となります。
この危機的状況下において、リーダーは的確な判断を下しました。
「おちびちゃん達がいると、まりさ達の食べ物さんまで取られちゃうね!」
そう言うが早いが、その秋肥りした体に似つかわしくない軽やかな跳躍をして
近くで騒いでいた赤ん坊まりさを簡単に潰します。
そしてにんまりと歯茎を出して微笑んで、他の成体ゆっくり達を見回しました。
突然のボスまりさの凶行に唖然としていたゆっくり達は、
ボスまりさの顔に張り付いた笑顔と、決して笑っていない目を向けられて
慌てて我が子達の方を向きます。
「それもそうだね! おかーさんの邪魔するならゆっくりいなくなってね!」
「お、おちびちゃん達は春さんが来てからゆっくり産めばいいね!」
「つ、次はもっとりっぱなとかいはベイビーが欲しいわ!」
先ほどまでゆっくりぷれいすだった森の広場は、あっという間に子殺し会場。
幼体ゆっくり達はあらんばかりの叫び声を出しましたが殺戮は止みません。
優しかった母親に戻ってもらおうと、甘えた鼻声を出した子ありすは
ボスまりさ直々に食い殺されました。
子ども達はただ1匹を除いて死に絶えます。
そう、岩の陰で完全に眠りこけていた小さな赤れいむだけが生き残ります。
「ゆぅ? ちょうちょさん? すーやすーや……」
彼女はとにかく眠くて、何が起きているのかよく分かりませんでした。
地面に小さな餡子の染みがいくつも出来て、荒い息をつく親達だけが残った後で
ボスまりさは大きくゲップをしながら宣言します。
「おちびちゃん達はすっかりいなくなったぜ!
これで冬さんが来てもたくさんゆっくり食べ……」
そこでようやく気付きました。
赤ん坊達が減ったからと言って食料の蓄えが増えるわけではありません。
食料倉庫は空っぽなのです。
群れの全滅は確実でした。
他のゆっくり達もその事実に気付きます。
「おぢびぢゃああん!!」
「どぼじでみんなおめめ飛び出しぢゃってるのぉぉ!?」
「だれがママのあがちゃんつぶしぢゃったのぉぉ!?」
混乱と後悔と現実逃避に陥ったゆっくり達がボスまりさを睨みますが、
ボスは笑顔のまま、内心は大いに焦って
何か重大な事を考えているかのように周囲を見渡しながら
母親達と目を合わせないようにしていました。
そして、岩陰で生き残った赤れいむに気付きます。
「こ、このおちびちゃんもいなくなれば、まりさ達の食べ物さんは、
き、きっとたくさん来てくれるのぜ?」
ボスまりさは誰にともなく言い訳をしながら、赤ん坊に擦り寄ります。
ただならぬ雰囲気にようやく目を覚ました赤ちゃんれいむ。
寝ぼけ眼できょろきょろすると、周りには今朝まで楽しく一緒に遊びまわっていた
他の赤ゆっくりや子ゆっくり達の残骸が散らばっていました。
「ゆきゃぁぁ!?」
すっかり眠気の覚めた幼いれいむは恐怖に震えることしか出来ません。
ボスまりさは相変わらずにやついた笑顔と
全く笑っていない目で赤ん坊の方へゆっくり進みます。
そうしてヒステリックな呼吸音と共にボスまりさが大きく口を開けた瞬間、
紫色の太い紐のような物がその血走った目の前を掠めました。
同時に、青ざめたままのちびれいむは高く空に上がります。
「おやめなさい」
静かな声が森の広場に響きました。
◆2 -ぱちゅりー、ゆっくり登場する-
いきなり空中に投げ出された赤ん坊れいむは
ボスまりさに殺される寸前だったというのに、自分の置かれた状況を冷静に把握していました。
「おそらをとんでゆー!!」
あまり把握していませんでした。
お空でふわふわしているのも楽しいけれど、この高さからどうやって着地しようかな、
ゆっくりと赤ちゃんれいむが考え始めたちょうどその時
その小さな体はふんわりとした布に柔らかく落とされます。
「大丈夫?」
自分のお尻の下から声が聞こえて、ちびれいみゅは驚きました。
1匹のゆっくりぱちゅりーが自分の下にいるのです。
いや、ゆっくりぱちゅりーの帽子の上にちびれいみゅが乗せられていたのです。
紫色のもみあげが、赤ん坊の丸く小さな体をそっと撫でました。
心配そうな声で、その成体ぱちゅりーが赤ん坊に話しかけてきました。
「ぱちゅりーのお帽子さんは柔らかいから、ゆっくりできると思うけど」
「しゅごーくゆっくちできるよ!」
ちびれいみゅは嬉しそうに飛び跳ねます。
飛び跳ねるごとに柔らかな帽子の生地に包まれて、赤ちゃんれいむはとても幸せな気分になりました。
ぱちゅりーは安心して、むきゅうと息をつきます。
「いっだいなんなのぉぉ!?」
殺そうとした赤ん坊が空に飛んだと思ったら、突如新たなゆっくりが現れて
状況変化についていけず少々思考停止に陥っていたボスまりさが、
とりあえず自分が無視され続けているという事だけは理解して激昂しました。
目を血走らせたまりさに少し怯みながらも
ぱちゅりーは静かな声色を変えず、体を揺すって笑います。
「ゆっくりしていってね!」
ゆっくり同士が出会った時の友好的な挨拶をするぱちゅりーに
群れの成体ゆっくりたちも脊髄(そんなものがあるかどうかは疑問ですが)反射のレベルで
元気に挨拶を返しました。
「「「「ゆっくりしていってね!!」」」」
先ほどまでの恐慌状態をすっかり忘れたかのように
にこやかに微笑むゆっくり達。
ボスまりさも今度は本当ににっこり笑いました。
ちびれいむも、帽子の上で嬉しそうに大人たちの真似をします。
「ゆっくちしていってね!」
あれほど興奮していたボスまりさはなんだか怒り疲れ、
大きく音を立てて排泄し、
たっぷりうんうんをした後の疲れだけを感じて秋の日差しの中で眠りこもうとします。
他の成体達はその様子を見て、そういえば今日はまだおトイレさんしてなかったよ、と思い出し
一斉にぶりぶりと糞をしてお昼寝の続きを始めようとしました。
ゆっくり達全体に和やかな雰囲気が漂ったのを察し、ぱちゅりーは慌ててもみあげを振り回します。
「あなた達、周りをご覧なさい」
広場を見渡して、大人ゆっくり達は再び叫びだしました。
「おぢびぢゃああん!!」
「どぼじでみんなおめめ飛び出しぢゃってるのぉぉ!?」
「だれがママのあがちゃんつぶしぢゃったのぉぉ!?」
最後に絶望的なボスまりさの声が響きました。
「みんなで集めた木の実さんが全部なくなっでるのぜぇぇー!?」
先ほどは眠ろうとしていたボスまりさは、新入りの……多分、新入りでしょう、
見慣れないゆっくりぱちゅりーの方を向いて甲高い声で
「こいつのしわざだぜ! ボスは見てたのぜ!」
と叫びました。
一斉に親ゆっくり達は憎悪を込めてぱちゅりーを睨みます。
誰がこの弱そうな紫色のゆっくりを殺すか、群れの中で無言の譲り合いが行われます。
ちびれいみゅもこの場の異様な雰囲気に感化され、とりあえず叫んで跳ねだしました。
「そうだよ! れいみゅもみてたよ! ゆきゃぁー!」
「少し黙ってなさい、おちびのおばかさん」
ぱちゅりーは自分の頭の上から飛び落ちそうなほど跳ね回る赤れいむを
その長いもみあげで器用に押さえつけながら、気だるそうに呟きました。
そしてゆっくり顔を横に振りながら
「こんなにたくさんのおちびさん達を潰すなんて
すぐ疲れちゃうぱちゅりーにはとても無理よ。
それに食べ物さんを全部食べるのも無理。
もし、やろうとしたってそこの大きなまりさに簡単に負けちゃうわ」
と口を動かしました。
ゆっくり達は言葉に詰まりました。
ボスまりさ自身も、こんな紫もやし(と言うにはずいぶん丸いけれど)が
群れのみんなにちょっかいを出そうとすれば
すぐに自分が体当たりで潰してやったであろう事は分かっていました。
けれど、可愛い大事な赤ちゃん達はみんなぐちゃぐちゃになっているし
冬ごもりの為の食べ物はすっかり無くなっているし
ぱちゅりーには怪我一つ無いのです。
ゆっくり達は混乱しきっていました。
その時、赤ん坊れいむが群れの気まずい雰囲気を意にも介さずぱちゅりーの帽子の上で跳ねながら
「あのね! れいみゅがみつけたんだけどね! おひさまがゆっくちしずんでるよ!」
と叫びました。
成体ゆっくり達がはっとして柿さんの色に染まった空を見上げます。
「ほ、本当ね! ママとゆっくりお家に帰りましょうね!」
一匹の親ありすがそう明るく、傍らにいたはずの赤まりさに呼びかけたけれど
そこには餡子の破片と破れた帽子しかありません。
「ゆっぇぇぇぇ!?」
我が子の死体を見て驚愕したありすが、弾みで破裂音と共に糞を噴射します。
成体れいむ達やボスまりさも、信じられないと言う顔で周囲の惨状に悲鳴を上げて
うんうんを盛大に漏らしました。
「どぼぢでぇ!? れーむのおぢびぢゃ」
「しつこいわよ」
ぱちゅりーがやや怒ったように横槍を入れました。
そして、なんだか喉の奥に粘液が絡まったような不安な咳を何度もしてから
荒い息を整えて群れのゆっくり達に話しかけます。
「とりあえず今夜はどうするつもりなの?
ぱちゅりーはどこかでゆっくり休みたいのだけど……
そう言えば、栗さんをちょっとだけ持っているわ」
そっと赤れいむを降ろして、大きく分厚いふかふかの帽子を外すと
その中にはゆっくり達が大好きな栗の実がごろごろと詰まっていました。
群れのゆっくり達は狂喜しました。
いつもなら栗などというご馳走は、落ちていてもその実を覆う棘で
口唇やお尻が傷つけられて食べられず
例え中身が転がり出ていても、大抵はリスやタヌキと言った他の動物に食べられてしまうからです。
おちびちゃん達のことなど忘れて大騒ぎしながら栗を食べるゆっくり達に微笑み
ぱちゅりーは首……というか胴体をかしげました。
「あなた達のゆっくりぷれいすに招待してくれる?」
栗の粒をくーちゃくーちゃと噛みながら、嬉しそうにボスまりさ達は声を上げます。
「ゆっくりしていってね!」
赤れいむも群れの一員としてぱちゅりーに何か挨拶をすべきだとは思ったのですが
大人達が邪魔で栗に近づく事すらできず、両目に涙を一杯溜めて震えていたので
何も言えませんでした。
◆3 -ボスまりさ、元気な虫さんをおおいに食べる-
群れの巣は茂みの中に木の葉を敷き詰めた簡素なものでした。
ドーム部分の作りも簡単で、外敵が壊そうとすればあっけなく壊れる程度のものでしたが
ちょうど夜風の当たらない場所に隠してありゆっくり達には寝心地のいい場所でした。
だいぶ木の葉の絨毯が湿っていますがまだまだゆっくり眠れます。
新入りのぱちゅりーもすっかり気に入った様子で巣の隅に潜り込みました。
「「「明日もゆっくりしようね!」」」
ゆっくり達は声を掛け合い、お互い擦り寄って肌で暖めあいながら眠りこけました。
しかし、赤ちゃんれいむはいつものようには眠れません。
色んな事が一度にありすぎて、眠るには少し気が高ぶりすぎていました。
そんな落ち着かない気分で赤れいむがもそもそとしていると
「むきゅー? しーしーしたいの、おちびちゃん?」
と、ぱちゅりーが小さな声で話しかけてきました。
ちびれいむはすっかり嬉しくなって、ぱちゅりーの丸いアゴの辺りに軽く体当たりしました。
するとぱちゅりーは少し口からクリームを吐いて、苦しそうな声を出したので
ちびれいむはびっくりして目を白黒させて
「おねーしゃん、びょーきなの?」
と聞きました。
ぱちゅりーはまた何度も咳き込みながら、自分は病気ではなくてちょっと体が弱いだけだ
と言おうとしたが声になりません。
赤ん坊れいむは心配して、ぱちゅりーの頬に自分の体をぐいぐいと押し付けました。
「すーりすーりしゅればだいじょうぶだよ!」
しばらくちびれいむが体を動かしていると、まだ苦しそうな音だけど、ぱちゅりーは息をし始めます。
なんだか安心して、ちびれいむはそのまま眠ってしまいました。
「むきゅう、ありがとう……だいぶ良くなったわ」
そうして大事な秘密を打ち明けるように、ぱちゅりーは眠りこけた小さなれいむの耳元で
そっと囁きました。
「おちびちゃん、あなたは神さまになるのよ」
朝。
まだ太陽が昇って間もない頃、ぱちゅりーは深く眠っている赤れいむを
もみあげでそっと持ち上げて帽子の上に載せ、
みんなを起こさないようにゆっくりと巣の外に出ました。
ゆっくりと草むらを進むぱちゅりーと赤れいむに、朝露の粒がぱらぱらと落ちます。
まだ夢の中にいた赤ちゃんれいむは、身を裂くような寒さに体を震わせて
大きくクシャミをしました。
「あら、起きちゃったかしら?」
ぱちゅりーがゆっくり歩きながらそう聞くと、赤れいむはぴょこぴょこ跳ねて
「まだねてたいのにどーちておこしゅの!?
れーみゅはだいじなおちびちゃんなんだよ!」
とぷくぷく膨らんで抗議しました。
でも、本当に心から怒ったわけではなくて、
ぱちゅりーに構ってもらいたいから怒ったのでした。
そんな赤れいむの気持ちを察したのか、ぱちゅりーはのんびりと口を開きました。
「まぁ少し黙って乗ってなさい、おちびのおばかちゃん。
いつもそんなに威張っててお母さんに怒られないのかしら?」
それを聞くと赤れいむは小さな目に涙を一杯溜めて、
赤くなって震えました。
「おかっ……おかーしゃん……おかーしゃんっ……」
「そいつの母親はボスがせいっさいっしたのぜ」
いつの間にかぱちゅりーのすぐ横に、草を隔ててにやけた顔のボスまりさがいました。
「あらまぁ、それはどうして?」
驚いた様子も無く、相変わらずゆっくりした口調でぱちゅりーが頭上に聞くと
ボスまりさはせせら笑うように下唇を突き出しました。
「どうしてって、そいつの母親はでいぶだったからだぜ。
ボスさまに逆らったら即せいっさいっなのぜ?」
赤れいむは帽子の上から飛び出しそうな勢いでボスに喚きます。
今度は本当に怒っていました。
「おかーしゃんはぜんぜんでいぶじゃながったもん!!
ばかぼすがおかーしゃんで何度もすっきりーしようとちたから
おかーしゃんが嫌がって逃げようとしたんだもん!!」
「おとーさまに逆らうのぜぇ?」
ボスまりさの額に青筋が浮かぶのを見て、
ぱちゅりーが頭の上で泣き喚くちびれいむをすかさず押さえつけて言います。
「そうね、きっとボスさんの言う事が正しいんだわ。
このおちびちゃんはまだ小さくて何も分かっていないのね」
「分かればいいんだぜっ♪」
赤れいむは怒って怒って、すぐにもぱちゅりーの帽子から飛び降りようとしましたが
いくら草さんがあってもこの高さから落ちると結構痛そうだな、
と思ってやめにしました。
代わりにぱちゅりーの帽子を噛んで破ってやろうとしましたが、
ふかふかのお帽子さんは小さなれいむの歯ではとても噛み切れなかったのでした。
機嫌の直ったボスまりさは、今度はぱちゅりーを追い越してその前に立ち塞がり
膨れ上がって威圧しはじめました。
「で、こんなお日さまの上がったばかりに
おちびちゃんを連れて一体何の用なのぜ?
おちびちゃんはまりさの大事な緊急用あまあ、いや大事なおちびちゃんなのぜ」
「むきゅー……むきゅぅ……すぐそこよ、ボスさん」
ボスまりさが時々軽く小突いてくるので、すこし息を苦しそうにしながら
ぱちゅりーは紫の太いもみあげでボスまりさの後ろの大きな木、
つまりぱちゅりーの前の大きな木を指しました。
「ゆっ? ただの木さんなのぜ」
「そうかしら」
そう言ってぱちゅりーは近くにあった少し長い枝を器用に拾い上げ
両方のもみあげでしっかり持って、幹の少し上の方をこすり始めました。
ボスまりさはぽかんとした顔でその様子を見ていましたが、
赤ちゃんれいむにはその顔がおかしくてさっきの怒りも忘れてしまって
嬉しそうに跳ねだしました。
「れーみゅもやりゅー!!」
「いま落ちたら本当に潰れるから、かなり黙ってなさい。おちびのおばかさん」
ぱちゅりーがちょっと恐い声で言いながら、精一杯伸びて木の幹をこすっていると
その枝の先からぽとん、と緑色の小さな虫が落ちてきました。
緑色の小さな虫はひっくり返って、わさわさと手足を動かしています。
ボスまりさは飛び上がって喜びました。
「カナブンさんなのぜ!?
ぷりぷりしてておいしいのぜ!」
飛び上がった勢いで地面に顔から激突して、
砂利が口の中に入るのも構わずボスまりさはコガネムシを食べました。
まあカナブンもコガネムシも似たようなものです。
食べている最中にもたくさん虫が落ちてきます。
「私達は普段すごくゆっくり寝ているから、虫さん達が集まる場所に
なかなか気付けないの。
でもよく見れば森の木さんには所々、色が濃くなってる部分があるわ。
そこは何故かベトベトしてて、夜中や朝早くには虫さんが集まるのよ。
多分ぱちゅりーは虫さんにとってのゆっくりぷれいす的な何かではないかと
にらんでいるのだけど」
ぱちゅりーが帽子の上のちびれいむを撫でながら誰にともなく口に出しましたが
ボスまりさは次々落ちてくる虫を食べるのに精一杯で聞いていませんでした。
赤れいむは黙ったまま、ぱちゅりーが何を言っているか分からないけど
群れの大人達が誰も気づかなかった『かり』の方法を知っているのだと気付いて
感動に震えていました。
「すごーくゆっくりできたぜ!
せっかくだからお前達にもたっくさん分けてあげるのぜ!」
虫の手足や羽をプッと吐いて、嬉しそうにボスまりさが叫びます。
顔に付いたカミキリムシの硬い羽を拭い、オサムシの手足をもみあげで拾って
帽子の上のちびれいむにわけてあげつつ
ぱちゅりーは冷たい声で言いました。
「たっぷり食べたわね」
「たっぷり食べたぜ!
お前はなかなかゆーしゅーな新入りなのぜ!
ボスの奥さんにしてあげるのぜ!」
虫で膨れ上がった体の下から、ぺにぺにを充血……充餡させて
ボスまりさが食後のすっきりを始めようと近づきましたが
ぱちゅりーはさりげなく枝の尖った方を突きつけて遠ざけました。
「それよりも、まりさは新鮮な虫さんを食べたのって初めてではないかしら?」
ぱちゅりーの相変わらず冷ややかな声に
ボスまりさはひとまずぺにぺにから思考を離して記憶を辿り始めました。
そう言えば自分はこの短くも長いゆん生で、新鮮な虫さんというのを食べた事がない。
自分が生まれたのは夏さんの始まり頃で、虫さんはそこら中にいたけれど
お母さんやお父さんがくれたのはよく噛まれた柔らかいペーストだったし、
ゆっくりまりさ自身で捕まえられたのはほとんど死にかけのセミさんやコオロギさんだけだった。
あいつらだって美味しかったけれど、いま食べた虫さん達はもっと身がぷりぷりしてて
口の中ではじけそうだった。
この極上のゆっくりタイムをさらに豪華にしたいなあ。
そこで思考が完全に終わりました。
ボスまりさはにっこりと顔を歪ませ、凸型の生殖器を誇示し始めます。
「ゆゆぅ~ん ゆゆぅ~ん とにかくすっきりしたいのぜぇ~ん」
ぱちゅりーはため息をつきながら、枝で軽く相手のぺにぺにを突いて小さく呟きました。
「新鮮な虫さんって、体を食い破って這い出てくるのよねぇ」
「ゆぅっ!?」
聞き捨てならない一言に、ボスまりさの全神経が聴覚に向けられました。
ぱちゅりーは鼻歌を歌うように言葉を続けます。
「だってそうでしょう?
私達ゆっくりって、お水さんを飲みすぎたらすぐ体がぶよぶよになるもの。
あれはお水さんが体から出たがっているのよ。
ましてやあんなに元気に動く虫さんなんて……ああ、恐くて言えないわ」
「どっどうなるのぜ!?
ゆっくりせずに教えるのぜ!」
もう、ボスまりさは『すっきりー』どころではありません。
「言わなくても分かるでしょ?
助かる方法は……そうね、ここに来る途中にあった池さんに飛び込んで
お腹の中の虫さんを全部溺れさせることね」
「そっそんな事したら皮がふやけきっちゃうのぜ!」
「もちろんそうならない為に、石さんをたくさん飲み込んで、体を硬く強くして飛び込むのよ。
ほら! ひょっとして、お尻の辺りがむずむずしてきたんじゃないの?」
確かにそうでした。
お腹一杯になったまりさは、ぺにぺにもさることながら
お尻の辺りもなんだか何かが出そうになっていたのでした。
「ゆっくりしてる場合じゃないのぜぇぇー!!」
そう叫ぶが早いがくるりと向きを変え
ボスは一目散にひょこひょこと池を目指して駆け出しました。
もちろん道端に落ちている石ころを次々に口の中へ放り込む事は忘れずに。
ぱちゅりーはしばらくむきゅむきゅと頬を掻いていましたが
横の茂みに向かって明るく話しかけました。
「もう大丈夫よ。ボスさんはどこかへ行ったわ。
たぶん池に飛び込むのが恐くてずっと悩んでいるでしょうけど」
その言葉を聞いて、ごそごそと音を立てて群れのゆっくりありす種やゆっくりれいむ種達が
恥ずかしそうな笑顔で草の陰から顔をのぞかせました。
群れの皆はしばらくお尻をぶつけ合って何か相談していましたが
やがてありすが前に出ました。
「ボ、ボスまりさにぶたれなかった朝は初めてよ。
む、群れ唯一のとかいはを代表して、ゆっくりお礼を言うわ」
顔を真っ赤にして一気にそれだけ言うと、ありすはキャッと叫んでうつむいてしまいました。
ぱちゅりーは笑ってゆったりともみあげを回しながら
「まだまだ虫さんはたくさんいるわ。
ゆっくり別の木さんを探しましょ……大丈夫、ちゃんと噛めば食い破られないわよ」
とみんなを先導して、そこで果たして虫がたくさん集まった木を見つけ
ちょっと早めの朝ごはんをします。
そうしてみんなで連れ立ってお池へ水を飲みに行って
池に飛び込むか飛び込むまいかでゆんゆん唸ったあげく疲れて二度寝しているボスまりさを
れいむ達とありすに引っぱたいて起こしてもらい
「虫さんは『この大きなまりさの中で冬眠します』って言ってたわ。
春さんが来れば一斉に出てくるんじゃないかしら。むきゅー」
と脅してから口に詰め込まれていた石ころを取り除いてあげたのでした。
ボスはがたがた震えっぱなしでしたが、うんうんをすると落ち着いたようです。
巣に戻った群れのみんながゆっくり息をついて朝のお休みに入る頃、
ぱちゅりーは少し疲れた様子で(なにしろ朝早くから動きっぱなしでしたからね)
「みんなにお話があるのだけど聞いてくれるかしら?」
と、大事なことを打ち明けるように、群れの輪の中心に座りました。
◆4 -ぱちゅりー、げんそうきょうを語る-
帽子の上にずっと座っていた赤れいむを降ろして、ぱちゅりーは静かに話し始めました。
「ゆっくり思うに、私たちはすぐに『永遠にゆっくり』してしまいすぎるわ」
ずっとぱちゅりーの顔を見つめていたありすが顔を激しく縦に振ります。
これまで何匹もの仲間が、雨が降っただの、食べ過ぎただの、ちょっと転んだだので
餡子を体中から出してしまったのです。
可愛いおちびちゃん達も産んだ端からカラスやなにかが原因で死んでしまいました。
「ゆっくりするのはとてもいい事だけど、
少なくとも私が今までに見てきた永遠にゆっくりした子達のお顔は
みんな痛くて悲しそうに歪んでいたわ」
それを聞いた親れいむは昨日まで一緒にいたおちびちゃんを思い出して
おんおん泣き始め、隣に居た別の親れいむまで泣いてしまいました。
ぱちゅりーはしばらく黙って泣き声を聞いていましたが
ボスまりさが段々イライラしてきたのを感じて言葉を続けます。
「それに、私たちが見つけるゆっくりぷれいすはいつも
すぐにゆっくりできなくなってしまうわ」
ボスまりさは興奮して大声を出しました。
「普段ボスがゆってる通りだぜ!
今のおうちだってもういち、にぃ、いち、にぃ……いちにぃをいっぱい繰り返して作ったのぜ!
あんなにいたありすだって1匹だけになってしまったのぜ!」
ぱちゅりーは興奮をなだめるようにもみあげを上下に振りました。
「おうちが壊れたり、雨さんが入ってきた時以外でも
れいぱーや乱暴者や、けんかのせいでゆっくりぷれいすが台無しになることもあるわね」
「そうだよ! でいぶのおちびちゃん達はすぐママにわがまま言って
全然ゆっくり出来ないからぺしゃんこ……『ゆっくり』させてあげたよっ!」
さっき泣いていた2匹とは別の大きな成体でいぶが、にかにかと笑いながら声をあげました。
この賢そうなゆっくりぱちゅりーとお近づきになりたかったのです。
でも紫色の丸いゆっくりは、でいぶから視線を外して晴れた空を見上げました。
「それに、もうじきに冬さんが来るわ。
冬さんはゆっくりゆっくりして、いつまでもお空にいるから私達は寒くてお外に出られない。
そこで一つ考えがあるの」
ぱちゅりーの言葉が終わらないうちに、ボスまりさが叫びます。
「普段ボスがゆってる通りだぜ!
今すぐとっとと食料さんを集めにいくのぜ!
みんなで力を合わせるのぜー!!」
「それはちょっと違うわ」
ぱちゅりーが静かに言いました。
「これから越冬用の食料を集めて、おうちをもっと丈夫にしても
私たちはすぐに食べ物を自分だけのものにしようとしたり、
ゆっくり寝やすい場所を取り合ってしまうでしょうね」
みんなは気まずそうにお互いの顔を盗み見ました。
ぱちゅりーは気にせず続けます。
「でも、それは仕方のない事なの。
私たちゆっくりの、ゆっくりした生き方は変えられないわ。
色んな群れのリーダーさんが、みんなをぶったり踏んだりして
無理矢理言う事を聞かせようとしたのを見たけれど結局はムダだったわ。
むきゅー。
リーダーさんのせいで全然ゆっくり出来ないし、リーダーさんのいない所でズルをする子が出るのよ」
ボスまりさやでいぶはなんだか急に大事な用事を思い出して
首をかしげてどこか遠くの雲を見る事に熱中しました。
「だから、みんながゆっくりできる大きな目標を決めましょう。
お腹が鳴るからたくさん食べたり、威張りたいからお洒落をするんじゃなくて
もっと立派なゆん生の目標よ」
みんなは、この紫の帽子さんの言っていることはよく分からないけれど
何かとても大事なお話だと感じて黙って聞いていました。
「みんなで『げんそうきょう』に行くのよ」
「げんそーきょー?」
熱心に聞いていたけれど、中身にはついていけないでいぶが
とりあえず聞こえた単語を復唱してみました。
ありすが鋭く睨みます。
「でいぶは黙ってなさい! ぱちゅりーが『げんそうきょう』のお話をしてくれるのよ。
さ、続けて」
少し上気した顔で、ぱちゅりーは深呼吸しました。
まるでこの演説の時のために何度も練習したかのようでした。
「そう、『げんそうきょう』よ。
あまあまが食べ放題で、キノコさんは全部おいしくて、
タヌキさんもカラスさんもイノシシさんも私達に優しくて、
ふかふかで乾いた葉っぱさんがたくさんあって、春さんがずーっとゆっくりしてて……
そしてとてもとても大きな、私たちゆっくりを全部混ぜたようなゆっくりがいるの。
その大きなゆっくりは、私達のおかーさんのおかーさんの……全てのゆっくりのおかーさんを産んだゆっくりなの。
おかーさんより優しい大きなゆっくりと一緒に、そこで好きなだけゆっくりできるのよ。」
みんなは我慢し切れずに一斉に声を上げました。
「『げんそーきょー』にはボスが真っ先に行くのぜ!」
「でいぶの場所でしょお!? もう決まったよぉ!?」
「とかいっぽくないけどのすたるじっくな響きだわ!」
「れいむも混ぜてぇぇぇ!」
「れいむが1番ね! れいむ!」「れーむに決まってるでしょお!?」「れいむだよぉ!」
「・・・・・」
ぱちゅりーは近くで黙り込んで俯いているちびれいむを少し心配しながら、
にこにことしてもみあげで口を覆いました。
「でも、げんそうきょうには悪い子は入れないのよ。
その大きなゆっくりは…『ゆっくりかみさま』って言いましょうか。
ゆっくりかみさまは1匹1匹のゆっくりを見て、この子はげんそうきょうへ入れてもみんなと仲良くできるかな、
って全部お決めになるのよ。
すぐワガママを言ってしまう子は無理でしょうねぇ」
「ま、まりさ様は心優しいのぜ?」と周りのゆっくり達に話しかけているボスを無視して
みんなはワガママばかり言っていた自分のゆん生を思い出し始めました。
ぱちゅりーは畳み掛けるように言います。
「しかも、ゆっくりかみさまに選ばれなかった悪い子は、『じごく』へ連れて行かれるの。
そこではごはんさんなんてちょっともなくて、いつもうるさくて、
とても寒くて、地面さんはトゲトゲで、ゆっくり出来る瞬間なんて無いわ……
他の子のごはんを奪ったり、すぐに威張ったり、お母さんに口答えしたり、
自分の子どもを大事にしなかった子は全員『じごく』へ行くの」
「いやよ! ありすも『げんそうきょう』へ行くんだわ!」
たまらずありすが叫びだします。
みんなも口々にげんそうきょうでゆっくりしたいと言い始め、広場は騒々しくなりました。
ぱちゅりーはケホン、と咳払いをしてみんなを黙らせます。
「あなた達、周りをご覧なさい」
さっきはゆっくりお休みする事だけを考えていたので、
広場に帽子や乾いた餡子がこびりついているのにみんなは全く気付いていませんでした。
昨日死んでしまったおちびちゃん達の残骸です。
悲痛な声でれいむが叫びました。
「どぼじ」
「うるさい」
だいぶ疲れた声でぱちゅりーが口を挟みます。
「このおちびちゃん達はみんな永遠にゆっくりしてしまったわ。
でも悲しがる事は無いの。
ゆっくりかみさまに運ばれて『げんそうきょう』に行けたのよ。
本当に永遠にゆっくりしているんだわ。
おちびちゃん達のゆん生は私たちよりずっと短い分、悪いことを全然していないから」
親れいむ達はぽかんと口を開けてぱちゅりーを見ていました。
「だけど、あなた達は別。
冬さんに備えてとは言え、おちびちゃんを潰すなんて凄く悪いことよ」
みんなの視線を集めている事に満足しながら、下を向く赤れいむをもみあげで抱き寄せ
ぱちゅりーはこの演説を締めくくります。
「だから私たちはこれから良いゆっくりになりましょう。
そして『げんそうきょう』へ行けるような良いゆっくりかどうかを、
このおちびちゃんに決めてもらいましょう。
何も知らないおちびちゃんこそ、その役目にふさわしいわ」
みんなはその言葉を聞いて大興奮。
小さなれいむに詰め寄り、自分が『げんそうきょう』に行けるかどうか
唾を散らしながら聞きましたが、赤ちゃんれいむはずっとうつむいて黙ったままです。
さすがにぱちゅりーも、とても心配して赤れいむのほっぺを何度も舐めました。
「さっきからおとなしいけど、どうしたのかしら?
もしかして毛虫さんに刺されたの?」
しばらくの沈黙の後でおそるおそる、赤れいむがぱちゅりーを見上げます。
「……ぱちゅりーが『かなり黙ってなさい』ってゆったの。
虫さんを取る時に。」
ひそひそ声で呟くと、ぱちゅりーは思わず涙としーしーが出るほど笑ったのでした。
「おちびのおばかさん!
あなたはやっぱり、げんそうきょうにふさわしいゆっくりだわ!」
◆5 -ゆっくりの群れ、越冬に成功する-
あのぱちゅりーの演説から1週間、群れのゆっくり達は一生懸命働きました。
ぱちゅりーが教えてくれた、枝を使ってトゲトゲの中の栗を出す方法。
木の肌に向かってみんなですーりすーりしていると、中で眠っていた虫さんが湧き出てくる方法。
苦くて食べられない葉っぱでも、落ちている柿に付ければおいしく食べられる方法など
色んな新しい知識を使って、群れは冬に備えて食料を集めなおしました。
れいむ達がせっせと働いている横にやってきたぱちゅりー。
「ゆっくちしてにゃいではやくごはんさんあつめてね!
ゆっくりしすぎちぇると『じごく』ゆきだよ!」
少しは舌が回るように育った赤ちゃんれいむが、ぱちゅりーの帽子さんの上で今日も元気に声を上げます。
「分かってるわよ!
そんなに飛び跳ねてぱちゅりーの帽子さんを汚さないでちょうだい!」
ありすが怒っても、赤れいむは「べぇーっ」と舌を出して笑うばかり。
でも、ぱちゅりーが
「ふざけてばっかりいると、あなたが『じごく』で酷い目に遭うのよ」
と叱ると小さなれいむは大慌てでありすとぱちゅりーに謝まるのでした。
群れのゆっくりぷれいすだった、木の葉を敷き詰めたトンネルは
「この作りだと雨さんが降ると漏れるわね……今まで降らなかったのが奇跡だわ」
「そいつぁ気がつかなかったのぜぇー!」
という1時間に及ぶ議論の末に捨てる事となりました。
ぱちゅりーと赤れいむが山をちょこっと登ると、ボスまりさが土を掘って
深くて大きな穴を作っているところでした。
かなり深くて、穴の入り口のトンネルからはボスの大きな帽子しか見えません。
「まぁ! 素敵なゆっくりハウスだわ!」
とぱちゅりーが褒めると、
「ボスさまはこう見えてもボスなのぜーっ」
ボスまりさは穴の中から大声で答えました。
赤ちゃんれいむがきゃらきゃら笑いながらおだてます。
「そのちょーしだよ! ボスさんは『げんそーきょー』ゆきだよ!」
「本当なのぜ? じゃあもうゆっくり寝るのぜ」
ボスが満足して眠りだそうとしたので、
ぱちゅりーは慌てて赤れいむを2回ほど紫のもみあげで打ってから注意しました。
「まだまだよボスさん。その大きさじゃあなたしか入れないわ。
そんな自分勝手なゆっくりは『じごく』ゆきよ。ねえ、おちびちゃん」
「しょーだよ! ボスさんは『じごく』ゆきだよ!」
「それはイヤなのぜぇぇん!?」
ボスはあっという間に眠気が覚めて、大きな体と口にくわえた棒で穴を広げだしました。
その様子を見て安心したぱちゅりーは、穴から少し離れたところで赤ちゃんれいむを帽子から降ろして
少し厳しい口調で言いました。
「ばかなおちびちゃん。そんな風に簡単にげんそうきょう行きを決めたら
みんなゆっくりしすぎてしまうわよ。
よっぽどの時じゃないとそんな事は言っちゃ駄目」
「で、で、でも、いいことをしたらげんそーきょーにいけりゅって」
「ばかね! げんそうきょうに行くのは最後の最後よ。
それまでは、いつもみたいにゆっくりするのは駄目」
「ゆぅぅ……」
それまで見た事の無い厳しいぱちゅりーの顔を見て
赤れいむはゆっくりできないよと思いましたが口には出しませんでした。
もじもじしている小さなお饅頭を見て、ぱちゅりーは顔を緩めました。
「大丈夫よ、おちびのおばかさん。
とりあえず『じごく』行きって言えばいいだけよ」
「ゆっゆー!」
「もの分かりのいい子は『げんそうきょう』へ行けるわ!」
そして2匹は、もみあげを繋いで
ありす達と一緒に新しいおうちに敷く葉っぱを探しに出かけました。
冬の始まり。
ボスまりさが急いで掘ったとは言え、なかなかゆっくり出来る新しいゆっくりぷれいすで
群れのみんなは肌を温めあっていました。
細い一本道のトンネルで内部もあまり広いものではなかったのですし
穴の入り口から冷たい風が流れてきていましたが冬の間にゆっくりするならこれで十分です。
隅っこにはご飯もたくさん溜まっていました・・・・・・が、
ボスがこっそり多く食べていたので残りは少なくなっていました。
小さなれいむは潰されないように、ぱちゅりーの帽子の中に潜り込んで一日中眠りこけていました。
何の前触れもなく、でいぶが怒鳴ります。
「さぶいよ! ぜんぜんゆっくり出来ないよ! ばかなのボスさん!
木の実さんはでいぶが全部貰うからね!」
狭い穴の中で何日もゆっくりしているだけで退屈だったのです。
ボスまりさはせいっさいっしようと思いましたが、ゆっくり達がすっぽり入る狭い穴の中
上手く動けずに「ゆゆゆ……」と唸るだけでした。
ボス自身も寝ているのに飽き飽きして、横のれいむですっきりーしたかったのですが
ぱちゅりーがさりげなく置いた石がちょうどお尻の穴に入ってしまって
そっちが気になってすっきりーどころではありません。
しかも巣穴はぎゅうぎゅう詰めです。
「わがままを言うと『げんそうきょう』でゆっくり出来ないわよ!」
ありすの怒る声が小さな寝床にキンキン響き渡ります。
「昔、人間さんのお婆さんと一緒に暮らしていたの」
ぱちゅりーが呟きました。
険悪だった群れの雰囲気がほどけ、みんなは一斉に
(と言ってもその場で方向転換しか出来なかったのですが)ぱちゅりーへ目を向けました。
「そのお婆さんはだいぶゆっくりしていて、あまあまをたくさんくれて、
色々な事を教えてくれたわ。
良い人間さんは神さまに連れられて『ちぇんごく』へ行けるんですって。
ちぇんがいっぱい住むところなのかしら……」
ボスまりさは鼻を鳴らしました。
「人間さんは大抵ちぇんが好きなのぜ。他のみんなの事は嫌いなのぜ」
「ぱちゅりーもそう思って、『ちぇんごく』なんてイヤって思って、
その時なんとなく『げんそうきょう』って言葉を思いついたの。
『ちぇんごくはイヤよ! ぱちゅりーはげんそうきょうへいくのよ!』って怒ったら
お婆さんは手を叩いて喜んで、私も一緒にげんそうきょうへ行くよって言ったの」
目をつぶって、ぱちゅりーは静かに呟き続けます。
「そのお婆さんはゆっくりしてたの?」と隣の成体れいむが聞くと
「ぱちゅりーよりもゆっくりしてたわ。
でも、ゆっくりしすぎて、夏さんが来た時にずーっと横になってたの。
『ぱちゅりーちゃんより先にげんそうきょうへ行くよ。ごめんねぇ』って言うの。
いくらぺーろぺーろしても具合が良くならなかったわ。
ある日ぱちゅりーが、お友達もげんそうきょうへ連れて行きたいって言ったら
お婆さんは『待っちぇるよぉ』って言ってゆっくり眠っちゃったわ。
いくら起こしてもあまあまをくれなかったから、きっと永遠にゆっくりしたのね。
それからぱちゅりーはお婆さんのおうちを出て、たまたまここに来たの」
ぱちゅりーは巣穴の上を見て、懐かしそうに答えます。
突然でいぶが目をキラキラさせて、ありすの耳元で叫びました。
「ぱちゅりーのお友達だからでいぶも人間さんにたっくさんあまあま貰えるね!
ゆっくりしてる場合じゃないよっ!」
そして、入り口近くのれいむを押しのけ、「痛いよ!」という抗議に耳も貸さず
でいぶはゆっくりハウスの外を目指します。
「何してるの」
ぱちゅりーのどうでもよさそうな声に反応して元気に振り返り、
でいぶは朗らかに、だけどバカにしきったように答えました。
「『げんそうきょう』を探してお婆さんにあまあま貰いに行くんでしょぉぉ!!」
その言葉に、群れのみんなも反応します。
「ボスさまが一番乗りだぜ!」「れいむも行くー!!」
「れーむもだよ!」「れいむ忘れちゃやだぁー!!」
狭い入り口に一斉に詰めかけ、葉っぱと枝で作った覆いを壊し
ぐいぐい押し合いながら冬風の吹くお外へ駆け出すゆっくり達。
ゆっくりぷれいすの中には唖然としているぱちゅりーとありす、
それに無理矢理起こされた赤れいむが残されました。
ありすは何故か満足そうに体を揺すり
「あのいなかもの達は全員『じごく』行きね! ありすは違うけど」
と、ぱちゅりーの方を横目で見ました。
ぱちゅりーは何も言わず眉間のあたりを掻き、壊れてしまった入り口を直し始め
行きがけにボスまりさ達が残していった糞を片付け始めます。
ありすはそれを見てますます満足そうに都会がどうの、げんそうきょうがどうのと言い
赤れいむは、げんそうきょうのベッドさんはよく動くんだな、と寝ぼけながら
ぱちゅりーと一緒に入り口を直しました。
ありすは口をヘの字に曲げて、壁の方を向いてしまいました。
その日の夕方、冬の冷たい風が吹き始める頃。
直し終わった入り口のそばで、ぱちゅりーが荒い息を整えてお夕寝を始め
赤れいむが紫色のもみあげをつたって大きな帽子の中に入ろうとしていると
すぐ近くに何か鼻息の荒い生き物が近づいてきました。
「ゆっ? ありしゅ、どーちたの?」
赤れいむは慣れた仲間の匂いにきょとんとして振り返りましたが、すぐに後悔しました。
母親のいない小さなれいむにも優しくしてくれたありす。
そのお腹部分からは大きなキノコみたいなものが生えていました。
「んほぉぉぉぉぉ! ぱちゅりぃぃぃぃ!!」
「ゆきゃぁぁぁ!!!」
ありすと赤ちゃんれいむの耳障りな声で、ぱちゅりーは重い瞼をなんとか開けました。
「やっと二人っきりよほぉぉん! すっきりしたいわぁぁん!」
血走った目で見つめられ、ぱちゅりーは顔をしかめます。
「おちびちゃん、言ってあげなさい」
赤ちゃんれいむはぷくーっと膨らんで「れいぱーはでていっちぇね! 『じごく』ゆきだよ!」
と言おうとしましたが、凶悪なぺにぺにの大きさにしーしーを漏らしてしまい
それどころではありませんでした。
「いなかものはどいてねぇっ!」
狭い巣の中で、ぺにぺにを振り回して赤れいむを潰そうとするれいぱー。
とっさに赤ちゃんの前に出たぱちゅりーの右目に、ぺにぺにが刺さりました。
「む゙ぎぃっ」
「まにあっくだわぁぁん!」
ぱちゅりーの悲鳴も気にせず、れいぱーが腰と言うかお尻を前後に激しく揺すり
その度にぱちゅりーの口から白いクリームが漏れます。
狭い巣の中なので十分に動けませんが、それでも一突き一突きが凄まじい力です。
小さなれいむは顔を真っ赤にして泣きながら怒りました。
「どおちてこんにゃことするにょおおお!?」
「ありすもぱちゅりーとゆっくりしたかったのよ!
そしたら出来たの! 愛よぉ! 愛の奇跡よほぉぉ!」
律儀に質問に答えたれいぱー(ゆっくり達は基本的には親切なのです。ズレていますが)は
自分のクリームをぱちゅりーの中に注ぎ込もうと一瞬腰を引きました。
その一瞬を見逃さず、小さなれいむはれいぱーの長いぺにぺにに飛び掛り
今まで出した事の無い力で噛みました。
ぱつん。
短く高い音と同時に、ぺにぺにに充填されていた大量のクリームが吹き出します。
「ゆっべぇぇぇ!?」
「ありすなんて『じごく』ゆきだよ!」
溢れたクリームを浴びた、真っ白な赤ちゃんれいむが涙目で叫びます。
ほぼ6割の体内クリームが漏れてしまったれいぱーありす。
少しでも取り戻そうとクリームと土が混じって茶色になった地面を舐めますが
ぺにぺにからはどんどん漏れて行きます。
「お、おちびちゃん、ありすは、ぱちゅりーを喜ばせてあげようと……」
「『じごく』ゆき! 『じごく』ゆきだもん!」
へつらったように笑うありすに、ちびれいむは何度も跳ねて残酷な判決を下します。
ぱちゅりーは体を痙攣させながら残った左目で2匹を見ていました。
「いやよぉ! ありすはゆっくりし続けるのよ、ね、お願い、あんなに遊んであげたのよぉぉぉ……」
「ありすは『じごく』ゆぎ!! にどとゆっくりできない『じごく』ゆぎぃ!!」
ありすの懇願をかき消す大声が巣穴に響き渡りました。
愕然としたありすが恐怖に怯えた顔のまま地面に崩れます。
まだ息を荒くつかせながら、クリームまみれの体でぱちゅりーの右目を舐める赤れいむ。
ゆぐゆぐ泣く小さな声に、ぱちゅりーは静かにかすれた声で言いました。
「本当に、ぜひゅ、ありがとう、おちびぢゃん」
でも小さなれいむは、お礼の言葉なんて聞きたくありませんでした。
「れ、れ、れいみゅも、なかまごろしだから、『じごく』ゆきなの?」
「それは・・・・・・」
「たぁっ、たっ、たぁぁ!!!!」
ぱちゅりーが何か答えようとした瞬間、外から騒々しい声がゆっくりぷれいすの穴まで響きました。
「タヌキさんなのぜぇぇぇぇっっ!!」
鼻水をたらし涎をたらし舌をたらしたボスまりさ、それから遅れてでいぶとれいむ達が
ゆっくりにしては物凄いスピードでこちらに向かってきました。
「ゆぴっ!?」
驚いた赤れいむに、壁にもたれかかったぱちゅりーが必死な声で言います。
「枝さんを真っ直ぐぐわえて入り口で膨らむのよ! はやぐ!」
赤ちゃんれいむはびっくりしすぎてなんだかよく分かりませんでしたが
ぱちゅりーの言うとおりに巣の奥にあった枝を構えてぷくーっと膨らみました。
ゆっくりぷれいすの入り口にある尖った枝と赤れいむを見て
ボスまりさは慌てて飛び跳ねにブレーキをかけたために、お尻が尖った石に引っかかって
皮が破けて餡子の線が地面に数十cmもついてしまいました。
「何してるんだぜぇ!? 早く入れるんだぜぇー!?」
そんな悲鳴をあげながら、お尻のまだ破れてない部分でずーりずーりと巣にじり寄るボスまりさ。
「ボスさまを早ぐ入れるんだぜドチビィィ!!」
必死の形相で叫ぶボスに、赤れいむはかたかた震えだしますが「ぞのままよ!」と
ぱちゅりーの声に従って一生懸命その場でぷくーっと膨らみ、棒で威嚇し続けました。
すぐ後ろから、でいぶとれいむ達が言い争いながら全力でゆっくり走ってきます。
「どぼぢでタヌキさん怒ってるのぉぉぉ!?」
「でいぶがタヌキさんのおうちでうんうんしたからでしょお!?」
「れいむだってタヌキさんのごはんさん食べたくせにぃぃ!!」
「ボスさんがタヌキさんにぷくーってしたのがいけないんだよ!」
お互いに罵りあいながらも、一直線にゆっくりぷれいすを目指しています。
「タヌキしゃん、ゆっくりしてね! おねがいね! おねがっ」
一番足の遅いれいむが黒いタヌキに噛まれ、ぽいっと投げ捨てられてゆん生を終えます。
「おちびちゃん、おうちの奥へ!」
ぱちゅりーが寝転んだまま叫び、赤れいむも枝を捨ててトンネルを転がってぱちゅりーの傍へ駆け寄りました。
地面のクリームはもう乾き始めています。
恐慌状態のでいぶとれいむ達は巣の前で倒れているボスまりさを思いっきり突き飛ばし
一度に中に入ろうとしましたが入り口のトンネルは狭くてぎゅうぎゅうに詰まってしまいました。
「ぶぱっ!」
2匹同時に入ろうとしたれいむ達が、仲良くおしくら饅頭しあって餡子を吐きます。
「入れでぇぇぇ」「入れでぇぇぇ」
ぐいぐいと押し合いますが、あまりに同時にピッタリと入り込んでしまったため
前にも後ろにも動けません。2匹は巣穴の奥に叫びます。
「「ぱちゅりぃぃぃ! たずげでぇぇ!!」」
外からはでいぶの悲痛な叫び声が聞こえてきました。
「ぱちゅりぃぃぃ! なんとかしてよねえええ!!」
我慢できなくなって、赤ちゃんれいむは泣きだしました。
「ぱちゅりーがたいへんにゃんだよ!
そんなにうるさかったらゆっくちできにゃいよぉ!
おばちゃんたちは『じごく』ゆきだよぉ!!」
じごく行き。
永遠にゆっくり出来ない世界。
死よりも絶望的な想像をして、ゆっくり達の悲痛な声が山に木霊しました。
「れいむは『げんそうきょう』に行くのぉぉ!!」
「でいぶはゆっくりしたいだげなのにぃぃぃ!!」
「ゆっぐりしたいぃ! 『じごく』行きやだぁぁぁ!」
小さなれいむは力いっぱい怒ります。
「『じごく』ゆきにゃにょぉぉっ!」
―しばらく後。
もうお外はすっかり夜になり、山に静けさが訪れます。
でも、冬の夜だと言うのに巣穴は全然寒くありません。
2匹のれいむが入り口のトンネルの途中でぴったりと挟まって風を防いでいるのです。
「ゆぅぅぅぅ……」
片方のれいむが息も絶え絶えになって体を震わせようとしますが
空ろな目ではそれすらも上手くできませんでした。
きっとこのまま、春さんが来るまで風と雪からゆっくりぷれいすを守り続ける事でしょう。
巣穴の近くにはボスまりさの帽子が転がっているはずですし、
でいぶの残骸と糞も転がっているはずです。
タヌキさんはもうどこかへ行ってしまいました。
でもそんな事は気にせず、赤ちゃんれいむはぱちゅりーのお目目をぺーろぺーろし続けました。
「むきゅう……むきゅう……ありがどう、だいぶ良くなったわ」
ぱちゅりーは蒼紫色の唇で微笑もうとしますが、すぐにクリームを吐いてしまいました。
赤ちゃんれいむは泣き腫らした顔で、でも明るい声で元気付けるようにぱちゅりーに言います。
「み、みんな、えーえんにゆっきゅりしちゃよ?
ぱ、ぱ、ぱちゅりーは『げんそうきょう』にいくんだよね?
ゆっくりかみさまと、おばーしゃんにあえりゅね!」
にっこり笑うちびれいむ。
「バカなチビ。無理に決まってるでしょそんなこと」
死に掛けのぱちゅりーが物凄く暗い左目で赤れいむを睨みました。
あまりに怖い声だったので、小さなれいむはしーしーを漏らす事も出来ず
ぺーろぺーろしようとした舌をだらんと出したまま固まります。
歯軋りをしながら、まるで赤れいむこそがゆっくりさせてくれない原因であるかのように
ぱちゅりーが呻きました。
「『げんそうきょう』なんてぱちゅりーの考えたウソっこの場所よ。
お婆さんはきっと『ちぇんごく』に行っちゃったんだわ」
そう言い切ると、舌を出した間抜けな顔の小さなれいむを紫のもみあげでパシンと叩きます。
とても弱い力でしたが、赤れいむには今までぱちゅりーにされたどんな事よりも痛みました。
ぱちゅりーは壁に寄りかかったまま真っ暗な巣穴の中で叫びます。
「だってぱちゅりーは、お婆さんのおうちでいっつも遊んでばかりだったもの!
お婆さんが苦しいよって言ってる時も、『はやくあまあまちょうだい!』ってわめいてたのよ!?
新聞さんをわざわざ運んであげて『ゆっくりかんしゃしてね!』って威張ってたの!
なんて悪いゆっくりなの!
お婆さんは、ぱちゅりーの事が嫌いだったのよ!」
右目の痛みとはなにか別の痛みで、ぱちゅりーは悲鳴をあげます。
「それにお婆さんはぱちゅりーがゆっくりしようとする度に怒ったわ。
いいじゃない、どこでうんうんしたって。
ぱちゅりーがしたくなった場所でうんうんするのよ。
ぱちゅりーが食べたくなった時にあまあまを貰えるはずなのよ。
気に入らない野良ゆっくりを踏んでいじめて笑ったっていいはずよ。
なのに『そんなんじゃ、げんそうきょうへ行けないよぉ、悪い子はじごくに連れてかれるよぉ』
って意地悪言うの!」
小さなれいむも、豹変してしまったぱちゅりーをがたがた震えて見上げる事しかできません。
「もし本当にげんそうきょうがあるとしたら、
ぱちゅりーはそこに住んでるゆっくり達を全員ぶってやりたい気分だわ。
その子達はみんな、大うそつきのずるっこさんだからよ。
幸せにゆっくり生きて、心配事も無くゆっくり笑っていなければ
げんそうきょうへなんか行けないわ。
きっとれいむやまりさとご飯さんを奪い合う事もなくて、
なんだかほわほわした気持ちの時に好きなだけおちびちゃんを作る事もなくて、
みんなの邪魔ばっかりするおちびちゃんを潰すこともしなくて、
いばりたい時もおとなしくして、たくさん食べたい時にはガマンしてたのよ。
そんな事が出来るのは大うそつきのずるっこさんだけよ。
どうしてそんな子達がとくべつ扱いなの!?」
そこまで一気に言うと、自分の言葉に興奮したぱちゅりーは
息を苦しそうに吸いながら、赤れいみゅに身体を撫でるよう頼みました。
小さなれいむはぱちゅりーが何に怒ってるのかよく分からなくて、怖くて泣きながらすーりすーりしました。
「それに、げんそうきょうの大きな大きなゆっくりなんてのに会ったら、
ぱちゅりーは大声で文句を言ってやるわ。
どうして雨さんが降るたびに体が溶けないように産んでくれなかったの?
どうしておちびちゃん達がみんな元気になれるように産んでくれなかったの?
どうして冬さんの寒さで凍えないように産んでくれなかったの?
どうして他のゆっくりの事を思いやれるように産んでくれなかったの?
どうしてぱちゅりーたちが生きてる間にたっぷりゆっくりさせてくれなかったの!?
永遠にゆっくりしちゃった後でご褒美をあげますって言われても
そんなの全然嬉しくないわ!
まるでおやつを見せびらかして、でも結局分けてくれない意地悪な子みたい。
ゆっくりかみさまってそんなに……」
喉の奥に粘ったクリームが絡み、ぱちゅりーは激しく咳き込もうとしましたが
咳き込むための空気も吸う事が出来ず、顔がもはや黒い紫色になって苦しそうに震えました。
赤れいむが泣きながら心配しますが、なんの役にも立ちません。
文字通り身を振り絞り、ぱちゅりーはおちびちゃんを怒ったように睨んで
掠れた甲高い声で続けます。
「いま言った事もウソよ。
だって『げんそうきょう』なんてぱちゅりーが考えた言葉だもの。
ぜひゅ……ひっ ひっ……
うれしいのもウソなら、怒っているのまでウソなんだわ。
どこまでぱちゅりーはゆっくりできないの!」
泣いているのか笑っているのか、妙な声色でぱちゅりーは呟きました。
「みんなを騙した悪いゆっくりは、じごくへ落ちるのよ」
赤れいむはどうしていいか分からなくなって
とてもこんがらがった頭で精一杯考えました。
窒息しかけて青黒くなっているぱちゅりーに、上ずった声で言います。
「ぴゃ、ぴゃ、ぴゃちゅりーは『げんそうきょう』ゆきだよ」
ぱちゅりーは本当に驚いた顔で小さなれいむを見下ろしてから
急にその顔をみるみる赤く歪ませその太いもみあげを巻いて、小さなれいむを潰れないように、
でもとても力強く抱きしめました。
もう息は落ち着いて、弱々しいものでした。
「ちょっとの餡子さんしか入ってない、考えなしのおちびのおばかさん。
いつかお婆さんに会ったら、『ぱちゅりーはとってもゆっくりしていました』って言ってね。
うれしいけど、ぱちゅりーのじごく行きはたぶん変えられないわ。
それでもぱちゅりーは永遠にゆっくりする……いいえ。
もう二度とゆっくり出来なくなる前に、一つだけ良い事をするの」
あまりに耳元で囁かれたので、赤ちゃんれいむの体は
ぱちゅりーの熱い息と涙とクリームで湿ってしまいましたが
そんな事には2匹ともお構いなしに体を寄せ合いました。
そしてゆっくりと体に巻かれたもみあげが解かれ、ぱちゅりーが自慢のふかふか帽子を外した時
小さなれいむにはこれから何が起こるか分かっていました。
そして何があろうと自分がそれをやり遂げ、冬さんを見送り、春さんを迎えるのも分かりました。
れいむのおかーしゃんのいとこのおかーしゃんのそのまたおかーしゃんのともだちから
延々とゆっくり達の中身のどこかにそのやり方は伝えられてきたのです。
「さあ、おたべなさい」
◆6
「おせーよグズここまで喋んのに何日かかってんだ」
春の午後に俺は青空市場で糞饅頭に出会ってイライラが最高潮に達したところ
つれて帰った部屋の中でダラダラと興味ない話をされて怒りが腰に来ていた。
「れ、れいむは、それで、にんげんさんにあって」
「そんで?」
「れ、れいむは、ゆっくりかみさまにはこばれて、ぱちゅりーのおばあさんに」
「それ百万遍聞いたわボケ。
どう聞いても死んだって言ってんだろその婆さん」
「れ、れいむは、それで『げんそうきょう』に」
だからそんなもん無ぇって自分の話の中で言ってんじゃねえか。
イライラが足元を覆い全身を満たしたのでれいむの艶のない黒髪を引っ張り持ち上げる。
自重で饅頭の肉餡子がだらんと垂れ下がり皮膚が突っ張るらしくて痛いらしくうるさい。
「あハーイ♪ハーイ♪ハイハイハイハイ♪」
俺は極めてリズミカルにゆっくりデブれいむの肛門へぶっといボールペンを突き刺す。
やっべこのペンもう使えねー。
「やべでぇぇぇ! うんうんでぢゃうぅぅ! ぱぢゅりーがくれたぐりーむさん出ぢゃうぅ!」
「いやそれが狙いだから。お前に発言権とかないから。」
ハイハイハイハイ!
強くそして優しく四つ打ちを刻む俺。
テクノ知らないけど強弱のリズムと時々ねじ回す動作が超効くみたいで
れいみゅ(苦笑)ちゃんは舌を突き出して喘いでやがる。
うっわ洋物AVよりきめぇなっつーか三次元のアヘ顔って引くわー
とか思いながら、ここで俺は慈悲の心なるものを呼び起こして手を止める。
「やべてね! おがーしゃんいやがってるよ! やべてぇ!」
机の上で泣き叫ぶ赤豆ども。
道端で会った「おばーさんのところにゆっくりつれてってね!」とか言い出した脳無しれいむに
野良まりさのチンコ突っ込んでみた結果がこれだよ。
ちなみに使い終わった野良まりさは川に投げた。
そうだ!
こいつの餡子をガキゆっくりに食わせたらどうなるかな?
賢い2号ちゃんが生まれたら売れるかな……バカ共にはかなり売れるな、うん。
さっきから「おがーしゃん! おがーじゃんがぁぁ!」とか
ビャービャー泣いてた赤まりさをつまんで俺は冷酷に言う。ブサイクの罪でまりしゃは死刑!
赤まりさはびゃーぴゃー喚く。
生きてる事が罪だなこいつら。
そいつの姉の小さなれいむちゃんはどこかへかくれんぼ中で妹を助けに来ない。
ゲスゆっくりを始末するというのは趣がありますなぁ。
机の上でゆっくりとライターで尻を炙ると気持ちの良い声を出して赤まりちゃは暴れる。
ケツにボールペンつっ込んだままの母れいむがうつ伏せになって尻を上げて
「だ、だいじょうぶだよ! おちびちゃんはわるいことしてないから、
ゆっくりかみさまにのって『げんそうきょう』へいけるよ!」
と励ます。
おいおい死ぬの前提かよクソ母が。
「なワケねーだろ!」
と俺は赤まりさのくりくりした両目にシャー芯を突っ込み折る。
この小さなゆっくりサイズの目玉に正確にブッ刺すのは意外と技術が要るのだ。
「おでぃびちゃあああああん!!」
れいむは通算9回目(今のまりさは12番目の末っ子だ)の悲鳴を上げ、赤ちゃんもそれに呼応する。
部屋のどこかに隠れている子れいむも我慢しきれずビビリ声出してアンサンブル。
「ゆっぐい、ゆっぐいかみしゃまなんちぇいないよぉ・・・」
目玉を刺された赤まりさが絶望の声音で母に恨みを述べて事切れる。
母れいむはまーた泣き出してうるさいが、あまりに悲痛な声に俺の心はマジで動く。
「大丈夫だ、神は存在する」
ゆぎゃゆぎゃ泣き叫ぶ親れいむの姿に胸が痛くなって、
ボールペンを引き抜いた俺はつい優しい言葉をかける。
きょとんとした顔の親れいむがこちらを見上げたのを確認してから
俺は隅っこに隠れていた子れいむの揉み上げをそっと掴んで引っ張り出して
びっくりして焦ってぴこぴこ動くそいつのもみあげを2本とも思いっきり千切った。
「はい、ミロのヴィーナス」
「おがあしゃああん!」
「おちびぢゃんがああああ!!」
相変わらずうるさいガキれいむは舌を全部出して助けの声を求めるのだ。
うわー生き物の舌ってこんな長いんだなーとか思ってると
「にゃにしちぇるのぉぉぉ!?」
と相変わらず楽しい合いの手を入れてくれる親れいむ。
見て分かんねーのか。
神の再臨だ。
先ほど引き千切ったガキゆの揉み上げの傷口から
ぐちぐちぐちぐちと餡子が漏れてやがるので、俺はそこにありったけの爪楊枝を
両方から軽く刺してやる。
おちびちゃんは叫ぶと顎が動いて痛みが倍増するのをやっとご理解したようで
目を血走らせ歯を食いしばって激痛に対抗中。
賢いね。
おかげで顔の横に合計50本も爪楊枝が刺せたよ。
「千手観音」
「にゃにしちぇるのぉぉぉ!?」
あんなに見たがってた神様なのにつれないなー。
それじゃ地獄へ落ちて当然だね。
喚くだけの親れいむと違い、歯を食いしばって震えちゃって
健気に痛みに耐えてる子れいむちゃんはとっても偉いので
あまりにいじらしくて俺はその爪楊枝の千手をわさわさしてやる。
「ゆきゃぱぁー!!!!!!」
あ、なんか新しい叫び声出た。
新しい声は出たけどひくひく震えて、ゆん生の限界みたいだ。
というわけで俺は爽やかに、子ゆっくりの髪の毛を掴んで頭皮ごと引き剥がす。
むりむりむりむりぃっ!
今のは擬音だったのか……それともれいみゅの叫びだったのか……
僕にはよく分かりません。
よく分かんねーけど綺麗に頭皮が剥げました。
禿げました?
右目も一緒に取れてやたらキモい。
脳みそ餡子を露出して寒天の左目だけがまだ体に残って
身体の両端からいっぱいの爪楊枝をぶるぶるぶるぶる痙攣させて
それでもまだガキゆは生きちゃってる。
だって餡子はまだ全然こぼれてないもんねー!
そこで俺は頭皮をゴミ箱(口に枠を嵌めて改造したありす)に投げ、
子れいむの残った左目もぶちぶちと引っ張って取ってやり
半円形にくぼんだ目の部分にティッシュを詰め込み、
ふるふる震える餡子を漏れないようにしてやる。
これならあと10分は持ちこたえるな。
「サモトラケのニケ」
「おでぃびぢゃああああんっ!?」
うるせーよ。
俺はぱちゅりーの物真似をしてやって、れいむを少しでも慰めようとする。
「むっきゅぅぅぅ~~ん! 『ぐぇんすぉうきょう』へいくのよぉぉ~ん」
「ぱちぇはそんなに変なお顔じゃにゃかったも゙ん!!
ぱちぇはそんな変な踊りで喋んないも゙ん!!」
「ほうら、ぱちゅりーのもみあげさんよぉん? ブーラブラ♪」
「ゆっきぃぃぃぃ!!」
モストマスキュラーポージングの俺にれいむちゃんはブチギレ。
ぷくーっどころじゃなくて歯茎を露出して怒っちぇるよのお顔。
マジで死ねよ。
でも生きとし生けるものに愛を抱く俺は決してこいつを殺さないのだ。
殺さない代わり、また吼えようとして口を開いたれいむちゃんの左右の奥歯に
出産箱から取り出した最後の2匹である赤まりさと赤れいむを詰める。
「ゆっきゃー! おにーさんさっきのぽーずまたやっちぇ!」
「おかーしゃんのおくちのにゃか、ゆっくちできゅりゅよ!」
ハイハイ超萌え。
何にも気付いてないバカ赤ん坊どもと違って親れいむはさすがに分かったようだ。
「おめーが歯を食いしばったらこいつら両方死ぬからな。
俺は置いただけだから。
噛み殺すのはお前自身がやっちまう事なんだぞ。
あとガキ殺しは『じごく』行きだから俺より酷い鬼どもにたっぷり反省させられる。
『じごく』行きの親がいるガキも一緒にじごくで反省会だ」
れいむの真っ赤だった顔が未来の罪に真っ青になり
すっかり固まってくれちゃって作業をやりやすくさせる。
ぶにぶにとした唇を引っ張ってむりやり上下縫い付けてやる。
「ありぇっ? まっくらになっちゃよ!」
「こわいよぅおかーしゃん!」
「むぎゅー!? ゆぐっ、ゆぐぅぅー!!」
はい、ぷっくりれいむの完成。
「萎んだら大事な赤ちゃんを潰しちゃうぞー?」
注意してやるが、でっかく顎を開いてる親れいむはそのうち疲れて歯を閉じるかもしれない。
「ゆぶぶぶぶぶっ・・・・」
目を剥いて、縫われた唇の痛みに耐える親れいむ。
お口の中から精一杯の声が聞こえます。
「せみゃいよー! みゃみゃー!」
「もうやだおかーしゃんのところかえるぅ!」
大☆爆☆笑!
もう一度俺はサービス。
「むっきゅぅぅ~~ん! ぱちゅりーがひとつだけいいコトするわぁ~~ん」
ぶちゅっ。よぉれいむ! 今回の子どもの味はどうだい? ちゃんと喋れよ。
3日後、待望のお外の散歩で野良ありすにすっきりーさせられたれいむはぷっくりとお腹が膨らむ。
オレンジジュースを注いだら縫い付けられてべろべろになった唇もすぐに治りやがったので
全く生命力が強いのか弱いのか分からない。
ちなみにその3日間は足部分を焼いた父野良ありすをゆっくりゆっくり万力で潰して皮を剥いで反応を楽しんでた俺。
「ゆっ! ゆゔぅっ! うばれないでね! ゆっくりひっこんでね!」
餡子がきれいにふき取られた机の上で体を曲げ、
涙目の親れいむの尻の奥から小さく赤ゆが出始める。
それでもこのれいむは決して絶望しないだろう。
良い事をすれば『げんそうきょう』へ行けると信じている。
いくら砂糖水を飲んでも、いくら子殺しをしても、いくら人の机の上でうんうんをしても、
良い行いで最後の時にゆっくり神さまが来てくれると思い込んでいる。
赤ん坊が生まれる度に「こんどこそゆっくりするよ!」と期待して
無理だと分かりきっているのに数日間のゆっくりタイムを味わう。
助けを求める子ども達を『かみさまとゆっくりできるよ!』とか全くトンチンカンな方向で励ます。
自分でついた嘘を自分で信じている。
それが地獄なのに。
糞穴からウンコと粘液にまみれた紫色の丸いのが転がり出て俺は思わず笑う。
遺伝子もなんもない饅頭にこんな芸当が出来るとは!
れいむはすぐさまぺーろぺーろとそのベチャベチャの紫ゆっくりを舐め
周りの糞と粘液を舐め取って呼吸できるようにする。
そしてようやく自分の産んだ赤ん坊の種類に気付く。
地獄だ。
ぷるぷる体を震わせ、初めて見る世界にびっくりして目をまん丸にしてきょろきょろする赤ん坊。
うんうんぺにぺにしーしーまむまむおうち宣言ゲス地獄。りきゃいできりゅ?
そして俺が神だ。
こいつらゆっくりの地獄に救いの糸を垂れ給う救いの御手。
「むっきゅー! ゆっきゅりしちぇいっちぇにぇ!」
生まれたての小さなぱちゅりーが、引きつった笑顔の母親とにこやかな俺に希望の声をあげる。
自分がこれからしあわちぇーになってゆっくちできりゅと何の疑いも無く信じる明るい希望の声だ。
頬を指先でつんつんしてやると、ゆきゃゆきゃくすぐったそうに笑う赤ん坊ぱちゅりー。
「よ、よかったね! おにーさんのおかげでゆっくりできたね!」
横目で俺の表情を伺いながら早口ではしゃぐ親れいむ。
寛大な神はこいつら親子をしばらく殺さない事に決めて誰にも聞こえないように呟く。
可哀想な、可哀想なゆっくり。
(終わり)
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・もしかしたら、「このゆっくりぱちゅりー賢すぎるよ」
という人もいるかもしれません。
でも全然賢くないんです。
なぜなら本当に賢いゆっくりは、生まれた瞬間に絶望して
飛び降り自殺でもしているはずですからね。
・前作で「ゆっくりがリュックサックなんて背負えるわけないだろ?」
と色々な方に叱られたので、自分なりに絵を描きました。
文章の書き方が悪かったのだと反省しております。
ヘタッピのみが可能な二次元のイリュージョンをご覧下さい。
いなかもの落書きスレ1263210872956.jpg
あれ、ひょっとして「もみあげを触腕みたいに動かして物を操作する」って一般的ではないのかな?
っていうことはオリジナル設定だね! 取ったらべんしょうきんね!
嘘です。
過去作:ふたば系ゆっくりいじめ 610 目指せ、ゆっくりユートピア
全匹が餡子脳なのであんまり気にしないでね!
・「幻想郷」なる単語が出てきますが、巫女さんが弾幕や飲み会してるあの世界の話ではないです。
・前半ゆっくりしすぎました。◆5章からすっきりー展開頑張りました。
はじまりはじまり。
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◆1 -赤れいむ、とても恐い思いをする-
生まれてまだ3日のゆっくり赤ちゃん、
ちびれいむは早くも迎えた死の恐怖に震えていました。
いいえ、ゆっくりの群れ全体が死の予感に怯えていました。
秋も終わりかけだというのに、冬篭りの為の群れの食料が尽きてしまったのです。
話はごくごく簡単で、
ボスのゆっくりまりさが「なんだかお腹が減ったのぜ!」という理由で
秋の間にみんなで集めたドングリ、キノコ、花びら、
その他の食べ物全てを昼寝のついでに食べてしまったのです。
汚く食い散らかされた残飯が広場のそこかしこに転がっていました。
「どおして食べ物しゃんが全部なくなっぢゃったのぜぇぇ!?」
ボスまりさは騒いでいたけど、本人……本ゆっくりにも理由は良く分かっていました。
自分がアホだから。
しかし自らの誤りを認めてはボスの威厳が揺らぎます。
群れのれいむ達やありす達もこれから新たに食料を集めるかどうかを
騒々しく相談し合っていますが、どう考えても不可能な事は分かりきっていました。
そもそもボスまりさが食べきった備蓄さえ1ヶ月ほどかけて群れ全体で集めたものなのです。
いくらゆっくりの鈍感な耳でも、冬の近づく音ははっきりと聞こえていました。
ここは成体ゆっくりが数匹、幼体ゆっくりは十数匹ほどの小さなコロニーでしたが
冬眠状態にならず動くゆっくり達には、冬の間も多くの食料が必要となります。
この危機的状況下において、リーダーは的確な判断を下しました。
「おちびちゃん達がいると、まりさ達の食べ物さんまで取られちゃうね!」
そう言うが早いが、その秋肥りした体に似つかわしくない軽やかな跳躍をして
近くで騒いでいた赤ん坊まりさを簡単に潰します。
そしてにんまりと歯茎を出して微笑んで、他の成体ゆっくり達を見回しました。
突然のボスまりさの凶行に唖然としていたゆっくり達は、
ボスまりさの顔に張り付いた笑顔と、決して笑っていない目を向けられて
慌てて我が子達の方を向きます。
「それもそうだね! おかーさんの邪魔するならゆっくりいなくなってね!」
「お、おちびちゃん達は春さんが来てからゆっくり産めばいいね!」
「つ、次はもっとりっぱなとかいはベイビーが欲しいわ!」
先ほどまでゆっくりぷれいすだった森の広場は、あっという間に子殺し会場。
幼体ゆっくり達はあらんばかりの叫び声を出しましたが殺戮は止みません。
優しかった母親に戻ってもらおうと、甘えた鼻声を出した子ありすは
ボスまりさ直々に食い殺されました。
子ども達はただ1匹を除いて死に絶えます。
そう、岩の陰で完全に眠りこけていた小さな赤れいむだけが生き残ります。
「ゆぅ? ちょうちょさん? すーやすーや……」
彼女はとにかく眠くて、何が起きているのかよく分かりませんでした。
地面に小さな餡子の染みがいくつも出来て、荒い息をつく親達だけが残った後で
ボスまりさは大きくゲップをしながら宣言します。
「おちびちゃん達はすっかりいなくなったぜ!
これで冬さんが来てもたくさんゆっくり食べ……」
そこでようやく気付きました。
赤ん坊達が減ったからと言って食料の蓄えが増えるわけではありません。
食料倉庫は空っぽなのです。
群れの全滅は確実でした。
他のゆっくり達もその事実に気付きます。
「おぢびぢゃああん!!」
「どぼじでみんなおめめ飛び出しぢゃってるのぉぉ!?」
「だれがママのあがちゃんつぶしぢゃったのぉぉ!?」
混乱と後悔と現実逃避に陥ったゆっくり達がボスまりさを睨みますが、
ボスは笑顔のまま、内心は大いに焦って
何か重大な事を考えているかのように周囲を見渡しながら
母親達と目を合わせないようにしていました。
そして、岩陰で生き残った赤れいむに気付きます。
「こ、このおちびちゃんもいなくなれば、まりさ達の食べ物さんは、
き、きっとたくさん来てくれるのぜ?」
ボスまりさは誰にともなく言い訳をしながら、赤ん坊に擦り寄ります。
ただならぬ雰囲気にようやく目を覚ました赤ちゃんれいむ。
寝ぼけ眼できょろきょろすると、周りには今朝まで楽しく一緒に遊びまわっていた
他の赤ゆっくりや子ゆっくり達の残骸が散らばっていました。
「ゆきゃぁぁ!?」
すっかり眠気の覚めた幼いれいむは恐怖に震えることしか出来ません。
ボスまりさは相変わらずにやついた笑顔と
全く笑っていない目で赤ん坊の方へゆっくり進みます。
そうしてヒステリックな呼吸音と共にボスまりさが大きく口を開けた瞬間、
紫色の太い紐のような物がその血走った目の前を掠めました。
同時に、青ざめたままのちびれいむは高く空に上がります。
「おやめなさい」
静かな声が森の広場に響きました。
◆2 -ぱちゅりー、ゆっくり登場する-
いきなり空中に投げ出された赤ん坊れいむは
ボスまりさに殺される寸前だったというのに、自分の置かれた状況を冷静に把握していました。
「おそらをとんでゆー!!」
あまり把握していませんでした。
お空でふわふわしているのも楽しいけれど、この高さからどうやって着地しようかな、
ゆっくりと赤ちゃんれいむが考え始めたちょうどその時
その小さな体はふんわりとした布に柔らかく落とされます。
「大丈夫?」
自分のお尻の下から声が聞こえて、ちびれいみゅは驚きました。
1匹のゆっくりぱちゅりーが自分の下にいるのです。
いや、ゆっくりぱちゅりーの帽子の上にちびれいみゅが乗せられていたのです。
紫色のもみあげが、赤ん坊の丸く小さな体をそっと撫でました。
心配そうな声で、その成体ぱちゅりーが赤ん坊に話しかけてきました。
「ぱちゅりーのお帽子さんは柔らかいから、ゆっくりできると思うけど」
「しゅごーくゆっくちできるよ!」
ちびれいみゅは嬉しそうに飛び跳ねます。
飛び跳ねるごとに柔らかな帽子の生地に包まれて、赤ちゃんれいむはとても幸せな気分になりました。
ぱちゅりーは安心して、むきゅうと息をつきます。
「いっだいなんなのぉぉ!?」
殺そうとした赤ん坊が空に飛んだと思ったら、突如新たなゆっくりが現れて
状況変化についていけず少々思考停止に陥っていたボスまりさが、
とりあえず自分が無視され続けているという事だけは理解して激昂しました。
目を血走らせたまりさに少し怯みながらも
ぱちゅりーは静かな声色を変えず、体を揺すって笑います。
「ゆっくりしていってね!」
ゆっくり同士が出会った時の友好的な挨拶をするぱちゅりーに
群れの成体ゆっくりたちも脊髄(そんなものがあるかどうかは疑問ですが)反射のレベルで
元気に挨拶を返しました。
「「「「ゆっくりしていってね!!」」」」
先ほどまでの恐慌状態をすっかり忘れたかのように
にこやかに微笑むゆっくり達。
ボスまりさも今度は本当ににっこり笑いました。
ちびれいむも、帽子の上で嬉しそうに大人たちの真似をします。
「ゆっくちしていってね!」
あれほど興奮していたボスまりさはなんだか怒り疲れ、
大きく音を立てて排泄し、
たっぷりうんうんをした後の疲れだけを感じて秋の日差しの中で眠りこもうとします。
他の成体達はその様子を見て、そういえば今日はまだおトイレさんしてなかったよ、と思い出し
一斉にぶりぶりと糞をしてお昼寝の続きを始めようとしました。
ゆっくり達全体に和やかな雰囲気が漂ったのを察し、ぱちゅりーは慌ててもみあげを振り回します。
「あなた達、周りをご覧なさい」
広場を見渡して、大人ゆっくり達は再び叫びだしました。
「おぢびぢゃああん!!」
「どぼじでみんなおめめ飛び出しぢゃってるのぉぉ!?」
「だれがママのあがちゃんつぶしぢゃったのぉぉ!?」
最後に絶望的なボスまりさの声が響きました。
「みんなで集めた木の実さんが全部なくなっでるのぜぇぇー!?」
先ほどは眠ろうとしていたボスまりさは、新入りの……多分、新入りでしょう、
見慣れないゆっくりぱちゅりーの方を向いて甲高い声で
「こいつのしわざだぜ! ボスは見てたのぜ!」
と叫びました。
一斉に親ゆっくり達は憎悪を込めてぱちゅりーを睨みます。
誰がこの弱そうな紫色のゆっくりを殺すか、群れの中で無言の譲り合いが行われます。
ちびれいみゅもこの場の異様な雰囲気に感化され、とりあえず叫んで跳ねだしました。
「そうだよ! れいみゅもみてたよ! ゆきゃぁー!」
「少し黙ってなさい、おちびのおばかさん」
ぱちゅりーは自分の頭の上から飛び落ちそうなほど跳ね回る赤れいむを
その長いもみあげで器用に押さえつけながら、気だるそうに呟きました。
そしてゆっくり顔を横に振りながら
「こんなにたくさんのおちびさん達を潰すなんて
すぐ疲れちゃうぱちゅりーにはとても無理よ。
それに食べ物さんを全部食べるのも無理。
もし、やろうとしたってそこの大きなまりさに簡単に負けちゃうわ」
と口を動かしました。
ゆっくり達は言葉に詰まりました。
ボスまりさ自身も、こんな紫もやし(と言うにはずいぶん丸いけれど)が
群れのみんなにちょっかいを出そうとすれば
すぐに自分が体当たりで潰してやったであろう事は分かっていました。
けれど、可愛い大事な赤ちゃん達はみんなぐちゃぐちゃになっているし
冬ごもりの為の食べ物はすっかり無くなっているし
ぱちゅりーには怪我一つ無いのです。
ゆっくり達は混乱しきっていました。
その時、赤ん坊れいむが群れの気まずい雰囲気を意にも介さずぱちゅりーの帽子の上で跳ねながら
「あのね! れいみゅがみつけたんだけどね! おひさまがゆっくちしずんでるよ!」
と叫びました。
成体ゆっくり達がはっとして柿さんの色に染まった空を見上げます。
「ほ、本当ね! ママとゆっくりお家に帰りましょうね!」
一匹の親ありすがそう明るく、傍らにいたはずの赤まりさに呼びかけたけれど
そこには餡子の破片と破れた帽子しかありません。
「ゆっぇぇぇぇ!?」
我が子の死体を見て驚愕したありすが、弾みで破裂音と共に糞を噴射します。
成体れいむ達やボスまりさも、信じられないと言う顔で周囲の惨状に悲鳴を上げて
うんうんを盛大に漏らしました。
「どぼぢでぇ!? れーむのおぢびぢゃ」
「しつこいわよ」
ぱちゅりーがやや怒ったように横槍を入れました。
そして、なんだか喉の奥に粘液が絡まったような不安な咳を何度もしてから
荒い息を整えて群れのゆっくり達に話しかけます。
「とりあえず今夜はどうするつもりなの?
ぱちゅりーはどこかでゆっくり休みたいのだけど……
そう言えば、栗さんをちょっとだけ持っているわ」
そっと赤れいむを降ろして、大きく分厚いふかふかの帽子を外すと
その中にはゆっくり達が大好きな栗の実がごろごろと詰まっていました。
群れのゆっくり達は狂喜しました。
いつもなら栗などというご馳走は、落ちていてもその実を覆う棘で
口唇やお尻が傷つけられて食べられず
例え中身が転がり出ていても、大抵はリスやタヌキと言った他の動物に食べられてしまうからです。
おちびちゃん達のことなど忘れて大騒ぎしながら栗を食べるゆっくり達に微笑み
ぱちゅりーは首……というか胴体をかしげました。
「あなた達のゆっくりぷれいすに招待してくれる?」
栗の粒をくーちゃくーちゃと噛みながら、嬉しそうにボスまりさ達は声を上げます。
「ゆっくりしていってね!」
赤れいむも群れの一員としてぱちゅりーに何か挨拶をすべきだとは思ったのですが
大人達が邪魔で栗に近づく事すらできず、両目に涙を一杯溜めて震えていたので
何も言えませんでした。
◆3 -ボスまりさ、元気な虫さんをおおいに食べる-
群れの巣は茂みの中に木の葉を敷き詰めた簡素なものでした。
ドーム部分の作りも簡単で、外敵が壊そうとすればあっけなく壊れる程度のものでしたが
ちょうど夜風の当たらない場所に隠してありゆっくり達には寝心地のいい場所でした。
だいぶ木の葉の絨毯が湿っていますがまだまだゆっくり眠れます。
新入りのぱちゅりーもすっかり気に入った様子で巣の隅に潜り込みました。
「「「明日もゆっくりしようね!」」」
ゆっくり達は声を掛け合い、お互い擦り寄って肌で暖めあいながら眠りこけました。
しかし、赤ちゃんれいむはいつものようには眠れません。
色んな事が一度にありすぎて、眠るには少し気が高ぶりすぎていました。
そんな落ち着かない気分で赤れいむがもそもそとしていると
「むきゅー? しーしーしたいの、おちびちゃん?」
と、ぱちゅりーが小さな声で話しかけてきました。
ちびれいむはすっかり嬉しくなって、ぱちゅりーの丸いアゴの辺りに軽く体当たりしました。
するとぱちゅりーは少し口からクリームを吐いて、苦しそうな声を出したので
ちびれいむはびっくりして目を白黒させて
「おねーしゃん、びょーきなの?」
と聞きました。
ぱちゅりーはまた何度も咳き込みながら、自分は病気ではなくてちょっと体が弱いだけだ
と言おうとしたが声になりません。
赤ん坊れいむは心配して、ぱちゅりーの頬に自分の体をぐいぐいと押し付けました。
「すーりすーりしゅればだいじょうぶだよ!」
しばらくちびれいむが体を動かしていると、まだ苦しそうな音だけど、ぱちゅりーは息をし始めます。
なんだか安心して、ちびれいむはそのまま眠ってしまいました。
「むきゅう、ありがとう……だいぶ良くなったわ」
そうして大事な秘密を打ち明けるように、ぱちゅりーは眠りこけた小さなれいむの耳元で
そっと囁きました。
「おちびちゃん、あなたは神さまになるのよ」
朝。
まだ太陽が昇って間もない頃、ぱちゅりーは深く眠っている赤れいむを
もみあげでそっと持ち上げて帽子の上に載せ、
みんなを起こさないようにゆっくりと巣の外に出ました。
ゆっくりと草むらを進むぱちゅりーと赤れいむに、朝露の粒がぱらぱらと落ちます。
まだ夢の中にいた赤ちゃんれいむは、身を裂くような寒さに体を震わせて
大きくクシャミをしました。
「あら、起きちゃったかしら?」
ぱちゅりーがゆっくり歩きながらそう聞くと、赤れいむはぴょこぴょこ跳ねて
「まだねてたいのにどーちておこしゅの!?
れーみゅはだいじなおちびちゃんなんだよ!」
とぷくぷく膨らんで抗議しました。
でも、本当に心から怒ったわけではなくて、
ぱちゅりーに構ってもらいたいから怒ったのでした。
そんな赤れいむの気持ちを察したのか、ぱちゅりーはのんびりと口を開きました。
「まぁ少し黙って乗ってなさい、おちびのおばかちゃん。
いつもそんなに威張っててお母さんに怒られないのかしら?」
それを聞くと赤れいむは小さな目に涙を一杯溜めて、
赤くなって震えました。
「おかっ……おかーしゃん……おかーしゃんっ……」
「そいつの母親はボスがせいっさいっしたのぜ」
いつの間にかぱちゅりーのすぐ横に、草を隔ててにやけた顔のボスまりさがいました。
「あらまぁ、それはどうして?」
驚いた様子も無く、相変わらずゆっくりした口調でぱちゅりーが頭上に聞くと
ボスまりさはせせら笑うように下唇を突き出しました。
「どうしてって、そいつの母親はでいぶだったからだぜ。
ボスさまに逆らったら即せいっさいっなのぜ?」
赤れいむは帽子の上から飛び出しそうな勢いでボスに喚きます。
今度は本当に怒っていました。
「おかーしゃんはぜんぜんでいぶじゃながったもん!!
ばかぼすがおかーしゃんで何度もすっきりーしようとちたから
おかーしゃんが嫌がって逃げようとしたんだもん!!」
「おとーさまに逆らうのぜぇ?」
ボスまりさの額に青筋が浮かぶのを見て、
ぱちゅりーが頭の上で泣き喚くちびれいむをすかさず押さえつけて言います。
「そうね、きっとボスさんの言う事が正しいんだわ。
このおちびちゃんはまだ小さくて何も分かっていないのね」
「分かればいいんだぜっ♪」
赤れいむは怒って怒って、すぐにもぱちゅりーの帽子から飛び降りようとしましたが
いくら草さんがあってもこの高さから落ちると結構痛そうだな、
と思ってやめにしました。
代わりにぱちゅりーの帽子を噛んで破ってやろうとしましたが、
ふかふかのお帽子さんは小さなれいむの歯ではとても噛み切れなかったのでした。
機嫌の直ったボスまりさは、今度はぱちゅりーを追い越してその前に立ち塞がり
膨れ上がって威圧しはじめました。
「で、こんなお日さまの上がったばかりに
おちびちゃんを連れて一体何の用なのぜ?
おちびちゃんはまりさの大事な緊急用あまあ、いや大事なおちびちゃんなのぜ」
「むきゅー……むきゅぅ……すぐそこよ、ボスさん」
ボスまりさが時々軽く小突いてくるので、すこし息を苦しそうにしながら
ぱちゅりーは紫の太いもみあげでボスまりさの後ろの大きな木、
つまりぱちゅりーの前の大きな木を指しました。
「ゆっ? ただの木さんなのぜ」
「そうかしら」
そう言ってぱちゅりーは近くにあった少し長い枝を器用に拾い上げ
両方のもみあげでしっかり持って、幹の少し上の方をこすり始めました。
ボスまりさはぽかんとした顔でその様子を見ていましたが、
赤ちゃんれいむにはその顔がおかしくてさっきの怒りも忘れてしまって
嬉しそうに跳ねだしました。
「れーみゅもやりゅー!!」
「いま落ちたら本当に潰れるから、かなり黙ってなさい。おちびのおばかさん」
ぱちゅりーがちょっと恐い声で言いながら、精一杯伸びて木の幹をこすっていると
その枝の先からぽとん、と緑色の小さな虫が落ちてきました。
緑色の小さな虫はひっくり返って、わさわさと手足を動かしています。
ボスまりさは飛び上がって喜びました。
「カナブンさんなのぜ!?
ぷりぷりしてておいしいのぜ!」
飛び上がった勢いで地面に顔から激突して、
砂利が口の中に入るのも構わずボスまりさはコガネムシを食べました。
まあカナブンもコガネムシも似たようなものです。
食べている最中にもたくさん虫が落ちてきます。
「私達は普段すごくゆっくり寝ているから、虫さん達が集まる場所に
なかなか気付けないの。
でもよく見れば森の木さんには所々、色が濃くなってる部分があるわ。
そこは何故かベトベトしてて、夜中や朝早くには虫さんが集まるのよ。
多分ぱちゅりーは虫さんにとってのゆっくりぷれいす的な何かではないかと
にらんでいるのだけど」
ぱちゅりーが帽子の上のちびれいむを撫でながら誰にともなく口に出しましたが
ボスまりさは次々落ちてくる虫を食べるのに精一杯で聞いていませんでした。
赤れいむは黙ったまま、ぱちゅりーが何を言っているか分からないけど
群れの大人達が誰も気づかなかった『かり』の方法を知っているのだと気付いて
感動に震えていました。
「すごーくゆっくりできたぜ!
せっかくだからお前達にもたっくさん分けてあげるのぜ!」
虫の手足や羽をプッと吐いて、嬉しそうにボスまりさが叫びます。
顔に付いたカミキリムシの硬い羽を拭い、オサムシの手足をもみあげで拾って
帽子の上のちびれいむにわけてあげつつ
ぱちゅりーは冷たい声で言いました。
「たっぷり食べたわね」
「たっぷり食べたぜ!
お前はなかなかゆーしゅーな新入りなのぜ!
ボスの奥さんにしてあげるのぜ!」
虫で膨れ上がった体の下から、ぺにぺにを充血……充餡させて
ボスまりさが食後のすっきりを始めようと近づきましたが
ぱちゅりーはさりげなく枝の尖った方を突きつけて遠ざけました。
「それよりも、まりさは新鮮な虫さんを食べたのって初めてではないかしら?」
ぱちゅりーの相変わらず冷ややかな声に
ボスまりさはひとまずぺにぺにから思考を離して記憶を辿り始めました。
そう言えば自分はこの短くも長いゆん生で、新鮮な虫さんというのを食べた事がない。
自分が生まれたのは夏さんの始まり頃で、虫さんはそこら中にいたけれど
お母さんやお父さんがくれたのはよく噛まれた柔らかいペーストだったし、
ゆっくりまりさ自身で捕まえられたのはほとんど死にかけのセミさんやコオロギさんだけだった。
あいつらだって美味しかったけれど、いま食べた虫さん達はもっと身がぷりぷりしてて
口の中ではじけそうだった。
この極上のゆっくりタイムをさらに豪華にしたいなあ。
そこで思考が完全に終わりました。
ボスまりさはにっこりと顔を歪ませ、凸型の生殖器を誇示し始めます。
「ゆゆぅ~ん ゆゆぅ~ん とにかくすっきりしたいのぜぇ~ん」
ぱちゅりーはため息をつきながら、枝で軽く相手のぺにぺにを突いて小さく呟きました。
「新鮮な虫さんって、体を食い破って這い出てくるのよねぇ」
「ゆぅっ!?」
聞き捨てならない一言に、ボスまりさの全神経が聴覚に向けられました。
ぱちゅりーは鼻歌を歌うように言葉を続けます。
「だってそうでしょう?
私達ゆっくりって、お水さんを飲みすぎたらすぐ体がぶよぶよになるもの。
あれはお水さんが体から出たがっているのよ。
ましてやあんなに元気に動く虫さんなんて……ああ、恐くて言えないわ」
「どっどうなるのぜ!?
ゆっくりせずに教えるのぜ!」
もう、ボスまりさは『すっきりー』どころではありません。
「言わなくても分かるでしょ?
助かる方法は……そうね、ここに来る途中にあった池さんに飛び込んで
お腹の中の虫さんを全部溺れさせることね」
「そっそんな事したら皮がふやけきっちゃうのぜ!」
「もちろんそうならない為に、石さんをたくさん飲み込んで、体を硬く強くして飛び込むのよ。
ほら! ひょっとして、お尻の辺りがむずむずしてきたんじゃないの?」
確かにそうでした。
お腹一杯になったまりさは、ぺにぺにもさることながら
お尻の辺りもなんだか何かが出そうになっていたのでした。
「ゆっくりしてる場合じゃないのぜぇぇー!!」
そう叫ぶが早いがくるりと向きを変え
ボスは一目散にひょこひょこと池を目指して駆け出しました。
もちろん道端に落ちている石ころを次々に口の中へ放り込む事は忘れずに。
ぱちゅりーはしばらくむきゅむきゅと頬を掻いていましたが
横の茂みに向かって明るく話しかけました。
「もう大丈夫よ。ボスさんはどこかへ行ったわ。
たぶん池に飛び込むのが恐くてずっと悩んでいるでしょうけど」
その言葉を聞いて、ごそごそと音を立てて群れのゆっくりありす種やゆっくりれいむ種達が
恥ずかしそうな笑顔で草の陰から顔をのぞかせました。
群れの皆はしばらくお尻をぶつけ合って何か相談していましたが
やがてありすが前に出ました。
「ボ、ボスまりさにぶたれなかった朝は初めてよ。
む、群れ唯一のとかいはを代表して、ゆっくりお礼を言うわ」
顔を真っ赤にして一気にそれだけ言うと、ありすはキャッと叫んでうつむいてしまいました。
ぱちゅりーは笑ってゆったりともみあげを回しながら
「まだまだ虫さんはたくさんいるわ。
ゆっくり別の木さんを探しましょ……大丈夫、ちゃんと噛めば食い破られないわよ」
とみんなを先導して、そこで果たして虫がたくさん集まった木を見つけ
ちょっと早めの朝ごはんをします。
そうしてみんなで連れ立ってお池へ水を飲みに行って
池に飛び込むか飛び込むまいかでゆんゆん唸ったあげく疲れて二度寝しているボスまりさを
れいむ達とありすに引っぱたいて起こしてもらい
「虫さんは『この大きなまりさの中で冬眠します』って言ってたわ。
春さんが来れば一斉に出てくるんじゃないかしら。むきゅー」
と脅してから口に詰め込まれていた石ころを取り除いてあげたのでした。
ボスはがたがた震えっぱなしでしたが、うんうんをすると落ち着いたようです。
巣に戻った群れのみんながゆっくり息をついて朝のお休みに入る頃、
ぱちゅりーは少し疲れた様子で(なにしろ朝早くから動きっぱなしでしたからね)
「みんなにお話があるのだけど聞いてくれるかしら?」
と、大事なことを打ち明けるように、群れの輪の中心に座りました。
◆4 -ぱちゅりー、げんそうきょうを語る-
帽子の上にずっと座っていた赤れいむを降ろして、ぱちゅりーは静かに話し始めました。
「ゆっくり思うに、私たちはすぐに『永遠にゆっくり』してしまいすぎるわ」
ずっとぱちゅりーの顔を見つめていたありすが顔を激しく縦に振ります。
これまで何匹もの仲間が、雨が降っただの、食べ過ぎただの、ちょっと転んだだので
餡子を体中から出してしまったのです。
可愛いおちびちゃん達も産んだ端からカラスやなにかが原因で死んでしまいました。
「ゆっくりするのはとてもいい事だけど、
少なくとも私が今までに見てきた永遠にゆっくりした子達のお顔は
みんな痛くて悲しそうに歪んでいたわ」
それを聞いた親れいむは昨日まで一緒にいたおちびちゃんを思い出して
おんおん泣き始め、隣に居た別の親れいむまで泣いてしまいました。
ぱちゅりーはしばらく黙って泣き声を聞いていましたが
ボスまりさが段々イライラしてきたのを感じて言葉を続けます。
「それに、私たちが見つけるゆっくりぷれいすはいつも
すぐにゆっくりできなくなってしまうわ」
ボスまりさは興奮して大声を出しました。
「普段ボスがゆってる通りだぜ!
今のおうちだってもういち、にぃ、いち、にぃ……いちにぃをいっぱい繰り返して作ったのぜ!
あんなにいたありすだって1匹だけになってしまったのぜ!」
ぱちゅりーは興奮をなだめるようにもみあげを上下に振りました。
「おうちが壊れたり、雨さんが入ってきた時以外でも
れいぱーや乱暴者や、けんかのせいでゆっくりぷれいすが台無しになることもあるわね」
「そうだよ! でいぶのおちびちゃん達はすぐママにわがまま言って
全然ゆっくり出来ないからぺしゃんこ……『ゆっくり』させてあげたよっ!」
さっき泣いていた2匹とは別の大きな成体でいぶが、にかにかと笑いながら声をあげました。
この賢そうなゆっくりぱちゅりーとお近づきになりたかったのです。
でも紫色の丸いゆっくりは、でいぶから視線を外して晴れた空を見上げました。
「それに、もうじきに冬さんが来るわ。
冬さんはゆっくりゆっくりして、いつまでもお空にいるから私達は寒くてお外に出られない。
そこで一つ考えがあるの」
ぱちゅりーの言葉が終わらないうちに、ボスまりさが叫びます。
「普段ボスがゆってる通りだぜ!
今すぐとっとと食料さんを集めにいくのぜ!
みんなで力を合わせるのぜー!!」
「それはちょっと違うわ」
ぱちゅりーが静かに言いました。
「これから越冬用の食料を集めて、おうちをもっと丈夫にしても
私たちはすぐに食べ物を自分だけのものにしようとしたり、
ゆっくり寝やすい場所を取り合ってしまうでしょうね」
みんなは気まずそうにお互いの顔を盗み見ました。
ぱちゅりーは気にせず続けます。
「でも、それは仕方のない事なの。
私たちゆっくりの、ゆっくりした生き方は変えられないわ。
色んな群れのリーダーさんが、みんなをぶったり踏んだりして
無理矢理言う事を聞かせようとしたのを見たけれど結局はムダだったわ。
むきゅー。
リーダーさんのせいで全然ゆっくり出来ないし、リーダーさんのいない所でズルをする子が出るのよ」
ボスまりさやでいぶはなんだか急に大事な用事を思い出して
首をかしげてどこか遠くの雲を見る事に熱中しました。
「だから、みんながゆっくりできる大きな目標を決めましょう。
お腹が鳴るからたくさん食べたり、威張りたいからお洒落をするんじゃなくて
もっと立派なゆん生の目標よ」
みんなは、この紫の帽子さんの言っていることはよく分からないけれど
何かとても大事なお話だと感じて黙って聞いていました。
「みんなで『げんそうきょう』に行くのよ」
「げんそーきょー?」
熱心に聞いていたけれど、中身にはついていけないでいぶが
とりあえず聞こえた単語を復唱してみました。
ありすが鋭く睨みます。
「でいぶは黙ってなさい! ぱちゅりーが『げんそうきょう』のお話をしてくれるのよ。
さ、続けて」
少し上気した顔で、ぱちゅりーは深呼吸しました。
まるでこの演説の時のために何度も練習したかのようでした。
「そう、『げんそうきょう』よ。
あまあまが食べ放題で、キノコさんは全部おいしくて、
タヌキさんもカラスさんもイノシシさんも私達に優しくて、
ふかふかで乾いた葉っぱさんがたくさんあって、春さんがずーっとゆっくりしてて……
そしてとてもとても大きな、私たちゆっくりを全部混ぜたようなゆっくりがいるの。
その大きなゆっくりは、私達のおかーさんのおかーさんの……全てのゆっくりのおかーさんを産んだゆっくりなの。
おかーさんより優しい大きなゆっくりと一緒に、そこで好きなだけゆっくりできるのよ。」
みんなは我慢し切れずに一斉に声を上げました。
「『げんそーきょー』にはボスが真っ先に行くのぜ!」
「でいぶの場所でしょお!? もう決まったよぉ!?」
「とかいっぽくないけどのすたるじっくな響きだわ!」
「れいむも混ぜてぇぇぇ!」
「れいむが1番ね! れいむ!」「れーむに決まってるでしょお!?」「れいむだよぉ!」
「・・・・・」
ぱちゅりーは近くで黙り込んで俯いているちびれいむを少し心配しながら、
にこにことしてもみあげで口を覆いました。
「でも、げんそうきょうには悪い子は入れないのよ。
その大きなゆっくりは…『ゆっくりかみさま』って言いましょうか。
ゆっくりかみさまは1匹1匹のゆっくりを見て、この子はげんそうきょうへ入れてもみんなと仲良くできるかな、
って全部お決めになるのよ。
すぐワガママを言ってしまう子は無理でしょうねぇ」
「ま、まりさ様は心優しいのぜ?」と周りのゆっくり達に話しかけているボスを無視して
みんなはワガママばかり言っていた自分のゆん生を思い出し始めました。
ぱちゅりーは畳み掛けるように言います。
「しかも、ゆっくりかみさまに選ばれなかった悪い子は、『じごく』へ連れて行かれるの。
そこではごはんさんなんてちょっともなくて、いつもうるさくて、
とても寒くて、地面さんはトゲトゲで、ゆっくり出来る瞬間なんて無いわ……
他の子のごはんを奪ったり、すぐに威張ったり、お母さんに口答えしたり、
自分の子どもを大事にしなかった子は全員『じごく』へ行くの」
「いやよ! ありすも『げんそうきょう』へ行くんだわ!」
たまらずありすが叫びだします。
みんなも口々にげんそうきょうでゆっくりしたいと言い始め、広場は騒々しくなりました。
ぱちゅりーはケホン、と咳払いをしてみんなを黙らせます。
「あなた達、周りをご覧なさい」
さっきはゆっくりお休みする事だけを考えていたので、
広場に帽子や乾いた餡子がこびりついているのにみんなは全く気付いていませんでした。
昨日死んでしまったおちびちゃん達の残骸です。
悲痛な声でれいむが叫びました。
「どぼじ」
「うるさい」
だいぶ疲れた声でぱちゅりーが口を挟みます。
「このおちびちゃん達はみんな永遠にゆっくりしてしまったわ。
でも悲しがる事は無いの。
ゆっくりかみさまに運ばれて『げんそうきょう』に行けたのよ。
本当に永遠にゆっくりしているんだわ。
おちびちゃん達のゆん生は私たちよりずっと短い分、悪いことを全然していないから」
親れいむ達はぽかんと口を開けてぱちゅりーを見ていました。
「だけど、あなた達は別。
冬さんに備えてとは言え、おちびちゃんを潰すなんて凄く悪いことよ」
みんなの視線を集めている事に満足しながら、下を向く赤れいむをもみあげで抱き寄せ
ぱちゅりーはこの演説を締めくくります。
「だから私たちはこれから良いゆっくりになりましょう。
そして『げんそうきょう』へ行けるような良いゆっくりかどうかを、
このおちびちゃんに決めてもらいましょう。
何も知らないおちびちゃんこそ、その役目にふさわしいわ」
みんなはその言葉を聞いて大興奮。
小さなれいむに詰め寄り、自分が『げんそうきょう』に行けるかどうか
唾を散らしながら聞きましたが、赤ちゃんれいむはずっとうつむいて黙ったままです。
さすがにぱちゅりーも、とても心配して赤れいむのほっぺを何度も舐めました。
「さっきからおとなしいけど、どうしたのかしら?
もしかして毛虫さんに刺されたの?」
しばらくの沈黙の後でおそるおそる、赤れいむがぱちゅりーを見上げます。
「……ぱちゅりーが『かなり黙ってなさい』ってゆったの。
虫さんを取る時に。」
ひそひそ声で呟くと、ぱちゅりーは思わず涙としーしーが出るほど笑ったのでした。
「おちびのおばかさん!
あなたはやっぱり、げんそうきょうにふさわしいゆっくりだわ!」
◆5 -ゆっくりの群れ、越冬に成功する-
あのぱちゅりーの演説から1週間、群れのゆっくり達は一生懸命働きました。
ぱちゅりーが教えてくれた、枝を使ってトゲトゲの中の栗を出す方法。
木の肌に向かってみんなですーりすーりしていると、中で眠っていた虫さんが湧き出てくる方法。
苦くて食べられない葉っぱでも、落ちている柿に付ければおいしく食べられる方法など
色んな新しい知識を使って、群れは冬に備えて食料を集めなおしました。
れいむ達がせっせと働いている横にやってきたぱちゅりー。
「ゆっくちしてにゃいではやくごはんさんあつめてね!
ゆっくりしすぎちぇると『じごく』ゆきだよ!」
少しは舌が回るように育った赤ちゃんれいむが、ぱちゅりーの帽子さんの上で今日も元気に声を上げます。
「分かってるわよ!
そんなに飛び跳ねてぱちゅりーの帽子さんを汚さないでちょうだい!」
ありすが怒っても、赤れいむは「べぇーっ」と舌を出して笑うばかり。
でも、ぱちゅりーが
「ふざけてばっかりいると、あなたが『じごく』で酷い目に遭うのよ」
と叱ると小さなれいむは大慌てでありすとぱちゅりーに謝まるのでした。
群れのゆっくりぷれいすだった、木の葉を敷き詰めたトンネルは
「この作りだと雨さんが降ると漏れるわね……今まで降らなかったのが奇跡だわ」
「そいつぁ気がつかなかったのぜぇー!」
という1時間に及ぶ議論の末に捨てる事となりました。
ぱちゅりーと赤れいむが山をちょこっと登ると、ボスまりさが土を掘って
深くて大きな穴を作っているところでした。
かなり深くて、穴の入り口のトンネルからはボスの大きな帽子しか見えません。
「まぁ! 素敵なゆっくりハウスだわ!」
とぱちゅりーが褒めると、
「ボスさまはこう見えてもボスなのぜーっ」
ボスまりさは穴の中から大声で答えました。
赤ちゃんれいむがきゃらきゃら笑いながらおだてます。
「そのちょーしだよ! ボスさんは『げんそーきょー』ゆきだよ!」
「本当なのぜ? じゃあもうゆっくり寝るのぜ」
ボスが満足して眠りだそうとしたので、
ぱちゅりーは慌てて赤れいむを2回ほど紫のもみあげで打ってから注意しました。
「まだまだよボスさん。その大きさじゃあなたしか入れないわ。
そんな自分勝手なゆっくりは『じごく』ゆきよ。ねえ、おちびちゃん」
「しょーだよ! ボスさんは『じごく』ゆきだよ!」
「それはイヤなのぜぇぇん!?」
ボスはあっという間に眠気が覚めて、大きな体と口にくわえた棒で穴を広げだしました。
その様子を見て安心したぱちゅりーは、穴から少し離れたところで赤ちゃんれいむを帽子から降ろして
少し厳しい口調で言いました。
「ばかなおちびちゃん。そんな風に簡単にげんそうきょう行きを決めたら
みんなゆっくりしすぎてしまうわよ。
よっぽどの時じゃないとそんな事は言っちゃ駄目」
「で、で、でも、いいことをしたらげんそーきょーにいけりゅって」
「ばかね! げんそうきょうに行くのは最後の最後よ。
それまでは、いつもみたいにゆっくりするのは駄目」
「ゆぅぅ……」
それまで見た事の無い厳しいぱちゅりーの顔を見て
赤れいむはゆっくりできないよと思いましたが口には出しませんでした。
もじもじしている小さなお饅頭を見て、ぱちゅりーは顔を緩めました。
「大丈夫よ、おちびのおばかさん。
とりあえず『じごく』行きって言えばいいだけよ」
「ゆっゆー!」
「もの分かりのいい子は『げんそうきょう』へ行けるわ!」
そして2匹は、もみあげを繋いで
ありす達と一緒に新しいおうちに敷く葉っぱを探しに出かけました。
冬の始まり。
ボスまりさが急いで掘ったとは言え、なかなかゆっくり出来る新しいゆっくりぷれいすで
群れのみんなは肌を温めあっていました。
細い一本道のトンネルで内部もあまり広いものではなかったのですし
穴の入り口から冷たい風が流れてきていましたが冬の間にゆっくりするならこれで十分です。
隅っこにはご飯もたくさん溜まっていました・・・・・・が、
ボスがこっそり多く食べていたので残りは少なくなっていました。
小さなれいむは潰されないように、ぱちゅりーの帽子の中に潜り込んで一日中眠りこけていました。
何の前触れもなく、でいぶが怒鳴ります。
「さぶいよ! ぜんぜんゆっくり出来ないよ! ばかなのボスさん!
木の実さんはでいぶが全部貰うからね!」
狭い穴の中で何日もゆっくりしているだけで退屈だったのです。
ボスまりさはせいっさいっしようと思いましたが、ゆっくり達がすっぽり入る狭い穴の中
上手く動けずに「ゆゆゆ……」と唸るだけでした。
ボス自身も寝ているのに飽き飽きして、横のれいむですっきりーしたかったのですが
ぱちゅりーがさりげなく置いた石がちょうどお尻の穴に入ってしまって
そっちが気になってすっきりーどころではありません。
しかも巣穴はぎゅうぎゅう詰めです。
「わがままを言うと『げんそうきょう』でゆっくり出来ないわよ!」
ありすの怒る声が小さな寝床にキンキン響き渡ります。
「昔、人間さんのお婆さんと一緒に暮らしていたの」
ぱちゅりーが呟きました。
険悪だった群れの雰囲気がほどけ、みんなは一斉に
(と言ってもその場で方向転換しか出来なかったのですが)ぱちゅりーへ目を向けました。
「そのお婆さんはだいぶゆっくりしていて、あまあまをたくさんくれて、
色々な事を教えてくれたわ。
良い人間さんは神さまに連れられて『ちぇんごく』へ行けるんですって。
ちぇんがいっぱい住むところなのかしら……」
ボスまりさは鼻を鳴らしました。
「人間さんは大抵ちぇんが好きなのぜ。他のみんなの事は嫌いなのぜ」
「ぱちゅりーもそう思って、『ちぇんごく』なんてイヤって思って、
その時なんとなく『げんそうきょう』って言葉を思いついたの。
『ちぇんごくはイヤよ! ぱちゅりーはげんそうきょうへいくのよ!』って怒ったら
お婆さんは手を叩いて喜んで、私も一緒にげんそうきょうへ行くよって言ったの」
目をつぶって、ぱちゅりーは静かに呟き続けます。
「そのお婆さんはゆっくりしてたの?」と隣の成体れいむが聞くと
「ぱちゅりーよりもゆっくりしてたわ。
でも、ゆっくりしすぎて、夏さんが来た時にずーっと横になってたの。
『ぱちゅりーちゃんより先にげんそうきょうへ行くよ。ごめんねぇ』って言うの。
いくらぺーろぺーろしても具合が良くならなかったわ。
ある日ぱちゅりーが、お友達もげんそうきょうへ連れて行きたいって言ったら
お婆さんは『待っちぇるよぉ』って言ってゆっくり眠っちゃったわ。
いくら起こしてもあまあまをくれなかったから、きっと永遠にゆっくりしたのね。
それからぱちゅりーはお婆さんのおうちを出て、たまたまここに来たの」
ぱちゅりーは巣穴の上を見て、懐かしそうに答えます。
突然でいぶが目をキラキラさせて、ありすの耳元で叫びました。
「ぱちゅりーのお友達だからでいぶも人間さんにたっくさんあまあま貰えるね!
ゆっくりしてる場合じゃないよっ!」
そして、入り口近くのれいむを押しのけ、「痛いよ!」という抗議に耳も貸さず
でいぶはゆっくりハウスの外を目指します。
「何してるの」
ぱちゅりーのどうでもよさそうな声に反応して元気に振り返り、
でいぶは朗らかに、だけどバカにしきったように答えました。
「『げんそうきょう』を探してお婆さんにあまあま貰いに行くんでしょぉぉ!!」
その言葉に、群れのみんなも反応します。
「ボスさまが一番乗りだぜ!」「れいむも行くー!!」
「れーむもだよ!」「れいむ忘れちゃやだぁー!!」
狭い入り口に一斉に詰めかけ、葉っぱと枝で作った覆いを壊し
ぐいぐい押し合いながら冬風の吹くお外へ駆け出すゆっくり達。
ゆっくりぷれいすの中には唖然としているぱちゅりーとありす、
それに無理矢理起こされた赤れいむが残されました。
ありすは何故か満足そうに体を揺すり
「あのいなかもの達は全員『じごく』行きね! ありすは違うけど」
と、ぱちゅりーの方を横目で見ました。
ぱちゅりーは何も言わず眉間のあたりを掻き、壊れてしまった入り口を直し始め
行きがけにボスまりさ達が残していった糞を片付け始めます。
ありすはそれを見てますます満足そうに都会がどうの、げんそうきょうがどうのと言い
赤れいむは、げんそうきょうのベッドさんはよく動くんだな、と寝ぼけながら
ぱちゅりーと一緒に入り口を直しました。
ありすは口をヘの字に曲げて、壁の方を向いてしまいました。
その日の夕方、冬の冷たい風が吹き始める頃。
直し終わった入り口のそばで、ぱちゅりーが荒い息を整えてお夕寝を始め
赤れいむが紫色のもみあげをつたって大きな帽子の中に入ろうとしていると
すぐ近くに何か鼻息の荒い生き物が近づいてきました。
「ゆっ? ありしゅ、どーちたの?」
赤れいむは慣れた仲間の匂いにきょとんとして振り返りましたが、すぐに後悔しました。
母親のいない小さなれいむにも優しくしてくれたありす。
そのお腹部分からは大きなキノコみたいなものが生えていました。
「んほぉぉぉぉぉ! ぱちゅりぃぃぃぃ!!」
「ゆきゃぁぁぁ!!!」
ありすと赤ちゃんれいむの耳障りな声で、ぱちゅりーは重い瞼をなんとか開けました。
「やっと二人っきりよほぉぉん! すっきりしたいわぁぁん!」
血走った目で見つめられ、ぱちゅりーは顔をしかめます。
「おちびちゃん、言ってあげなさい」
赤ちゃんれいむはぷくーっと膨らんで「れいぱーはでていっちぇね! 『じごく』ゆきだよ!」
と言おうとしましたが、凶悪なぺにぺにの大きさにしーしーを漏らしてしまい
それどころではありませんでした。
「いなかものはどいてねぇっ!」
狭い巣の中で、ぺにぺにを振り回して赤れいむを潰そうとするれいぱー。
とっさに赤ちゃんの前に出たぱちゅりーの右目に、ぺにぺにが刺さりました。
「む゙ぎぃっ」
「まにあっくだわぁぁん!」
ぱちゅりーの悲鳴も気にせず、れいぱーが腰と言うかお尻を前後に激しく揺すり
その度にぱちゅりーの口から白いクリームが漏れます。
狭い巣の中なので十分に動けませんが、それでも一突き一突きが凄まじい力です。
小さなれいむは顔を真っ赤にして泣きながら怒りました。
「どおちてこんにゃことするにょおおお!?」
「ありすもぱちゅりーとゆっくりしたかったのよ!
そしたら出来たの! 愛よぉ! 愛の奇跡よほぉぉ!」
律儀に質問に答えたれいぱー(ゆっくり達は基本的には親切なのです。ズレていますが)は
自分のクリームをぱちゅりーの中に注ぎ込もうと一瞬腰を引きました。
その一瞬を見逃さず、小さなれいむはれいぱーの長いぺにぺにに飛び掛り
今まで出した事の無い力で噛みました。
ぱつん。
短く高い音と同時に、ぺにぺにに充填されていた大量のクリームが吹き出します。
「ゆっべぇぇぇ!?」
「ありすなんて『じごく』ゆきだよ!」
溢れたクリームを浴びた、真っ白な赤ちゃんれいむが涙目で叫びます。
ほぼ6割の体内クリームが漏れてしまったれいぱーありす。
少しでも取り戻そうとクリームと土が混じって茶色になった地面を舐めますが
ぺにぺにからはどんどん漏れて行きます。
「お、おちびちゃん、ありすは、ぱちゅりーを喜ばせてあげようと……」
「『じごく』ゆき! 『じごく』ゆきだもん!」
へつらったように笑うありすに、ちびれいむは何度も跳ねて残酷な判決を下します。
ぱちゅりーは体を痙攣させながら残った左目で2匹を見ていました。
「いやよぉ! ありすはゆっくりし続けるのよ、ね、お願い、あんなに遊んであげたのよぉぉぉ……」
「ありすは『じごく』ゆぎ!! にどとゆっくりできない『じごく』ゆぎぃ!!」
ありすの懇願をかき消す大声が巣穴に響き渡りました。
愕然としたありすが恐怖に怯えた顔のまま地面に崩れます。
まだ息を荒くつかせながら、クリームまみれの体でぱちゅりーの右目を舐める赤れいむ。
ゆぐゆぐ泣く小さな声に、ぱちゅりーは静かにかすれた声で言いました。
「本当に、ぜひゅ、ありがとう、おちびぢゃん」
でも小さなれいむは、お礼の言葉なんて聞きたくありませんでした。
「れ、れ、れいみゅも、なかまごろしだから、『じごく』ゆきなの?」
「それは・・・・・・」
「たぁっ、たっ、たぁぁ!!!!」
ぱちゅりーが何か答えようとした瞬間、外から騒々しい声がゆっくりぷれいすの穴まで響きました。
「タヌキさんなのぜぇぇぇぇっっ!!」
鼻水をたらし涎をたらし舌をたらしたボスまりさ、それから遅れてでいぶとれいむ達が
ゆっくりにしては物凄いスピードでこちらに向かってきました。
「ゆぴっ!?」
驚いた赤れいむに、壁にもたれかかったぱちゅりーが必死な声で言います。
「枝さんを真っ直ぐぐわえて入り口で膨らむのよ! はやぐ!」
赤ちゃんれいむはびっくりしすぎてなんだかよく分かりませんでしたが
ぱちゅりーの言うとおりに巣の奥にあった枝を構えてぷくーっと膨らみました。
ゆっくりぷれいすの入り口にある尖った枝と赤れいむを見て
ボスまりさは慌てて飛び跳ねにブレーキをかけたために、お尻が尖った石に引っかかって
皮が破けて餡子の線が地面に数十cmもついてしまいました。
「何してるんだぜぇ!? 早く入れるんだぜぇー!?」
そんな悲鳴をあげながら、お尻のまだ破れてない部分でずーりずーりと巣にじり寄るボスまりさ。
「ボスさまを早ぐ入れるんだぜドチビィィ!!」
必死の形相で叫ぶボスに、赤れいむはかたかた震えだしますが「ぞのままよ!」と
ぱちゅりーの声に従って一生懸命その場でぷくーっと膨らみ、棒で威嚇し続けました。
すぐ後ろから、でいぶとれいむ達が言い争いながら全力でゆっくり走ってきます。
「どぼぢでタヌキさん怒ってるのぉぉぉ!?」
「でいぶがタヌキさんのおうちでうんうんしたからでしょお!?」
「れいむだってタヌキさんのごはんさん食べたくせにぃぃ!!」
「ボスさんがタヌキさんにぷくーってしたのがいけないんだよ!」
お互いに罵りあいながらも、一直線にゆっくりぷれいすを目指しています。
「タヌキしゃん、ゆっくりしてね! おねがいね! おねがっ」
一番足の遅いれいむが黒いタヌキに噛まれ、ぽいっと投げ捨てられてゆん生を終えます。
「おちびちゃん、おうちの奥へ!」
ぱちゅりーが寝転んだまま叫び、赤れいむも枝を捨ててトンネルを転がってぱちゅりーの傍へ駆け寄りました。
地面のクリームはもう乾き始めています。
恐慌状態のでいぶとれいむ達は巣の前で倒れているボスまりさを思いっきり突き飛ばし
一度に中に入ろうとしましたが入り口のトンネルは狭くてぎゅうぎゅうに詰まってしまいました。
「ぶぱっ!」
2匹同時に入ろうとしたれいむ達が、仲良くおしくら饅頭しあって餡子を吐きます。
「入れでぇぇぇ」「入れでぇぇぇ」
ぐいぐいと押し合いますが、あまりに同時にピッタリと入り込んでしまったため
前にも後ろにも動けません。2匹は巣穴の奥に叫びます。
「「ぱちゅりぃぃぃ! たずげでぇぇ!!」」
外からはでいぶの悲痛な叫び声が聞こえてきました。
「ぱちゅりぃぃぃ! なんとかしてよねえええ!!」
我慢できなくなって、赤ちゃんれいむは泣きだしました。
「ぱちゅりーがたいへんにゃんだよ!
そんなにうるさかったらゆっくちできにゃいよぉ!
おばちゃんたちは『じごく』ゆきだよぉ!!」
じごく行き。
永遠にゆっくり出来ない世界。
死よりも絶望的な想像をして、ゆっくり達の悲痛な声が山に木霊しました。
「れいむは『げんそうきょう』に行くのぉぉ!!」
「でいぶはゆっくりしたいだげなのにぃぃぃ!!」
「ゆっぐりしたいぃ! 『じごく』行きやだぁぁぁ!」
小さなれいむは力いっぱい怒ります。
「『じごく』ゆきにゃにょぉぉっ!」
―しばらく後。
もうお外はすっかり夜になり、山に静けさが訪れます。
でも、冬の夜だと言うのに巣穴は全然寒くありません。
2匹のれいむが入り口のトンネルの途中でぴったりと挟まって風を防いでいるのです。
「ゆぅぅぅぅ……」
片方のれいむが息も絶え絶えになって体を震わせようとしますが
空ろな目ではそれすらも上手くできませんでした。
きっとこのまま、春さんが来るまで風と雪からゆっくりぷれいすを守り続ける事でしょう。
巣穴の近くにはボスまりさの帽子が転がっているはずですし、
でいぶの残骸と糞も転がっているはずです。
タヌキさんはもうどこかへ行ってしまいました。
でもそんな事は気にせず、赤ちゃんれいむはぱちゅりーのお目目をぺーろぺーろし続けました。
「むきゅう……むきゅう……ありがどう、だいぶ良くなったわ」
ぱちゅりーは蒼紫色の唇で微笑もうとしますが、すぐにクリームを吐いてしまいました。
赤ちゃんれいむは泣き腫らした顔で、でも明るい声で元気付けるようにぱちゅりーに言います。
「み、みんな、えーえんにゆっきゅりしちゃよ?
ぱ、ぱ、ぱちゅりーは『げんそうきょう』にいくんだよね?
ゆっくりかみさまと、おばーしゃんにあえりゅね!」
にっこり笑うちびれいむ。
「バカなチビ。無理に決まってるでしょそんなこと」
死に掛けのぱちゅりーが物凄く暗い左目で赤れいむを睨みました。
あまりに怖い声だったので、小さなれいむはしーしーを漏らす事も出来ず
ぺーろぺーろしようとした舌をだらんと出したまま固まります。
歯軋りをしながら、まるで赤れいむこそがゆっくりさせてくれない原因であるかのように
ぱちゅりーが呻きました。
「『げんそうきょう』なんてぱちゅりーの考えたウソっこの場所よ。
お婆さんはきっと『ちぇんごく』に行っちゃったんだわ」
そう言い切ると、舌を出した間抜けな顔の小さなれいむを紫のもみあげでパシンと叩きます。
とても弱い力でしたが、赤れいむには今までぱちゅりーにされたどんな事よりも痛みました。
ぱちゅりーは壁に寄りかかったまま真っ暗な巣穴の中で叫びます。
「だってぱちゅりーは、お婆さんのおうちでいっつも遊んでばかりだったもの!
お婆さんが苦しいよって言ってる時も、『はやくあまあまちょうだい!』ってわめいてたのよ!?
新聞さんをわざわざ運んであげて『ゆっくりかんしゃしてね!』って威張ってたの!
なんて悪いゆっくりなの!
お婆さんは、ぱちゅりーの事が嫌いだったのよ!」
右目の痛みとはなにか別の痛みで、ぱちゅりーは悲鳴をあげます。
「それにお婆さんはぱちゅりーがゆっくりしようとする度に怒ったわ。
いいじゃない、どこでうんうんしたって。
ぱちゅりーがしたくなった場所でうんうんするのよ。
ぱちゅりーが食べたくなった時にあまあまを貰えるはずなのよ。
気に入らない野良ゆっくりを踏んでいじめて笑ったっていいはずよ。
なのに『そんなんじゃ、げんそうきょうへ行けないよぉ、悪い子はじごくに連れてかれるよぉ』
って意地悪言うの!」
小さなれいむも、豹変してしまったぱちゅりーをがたがた震えて見上げる事しかできません。
「もし本当にげんそうきょうがあるとしたら、
ぱちゅりーはそこに住んでるゆっくり達を全員ぶってやりたい気分だわ。
その子達はみんな、大うそつきのずるっこさんだからよ。
幸せにゆっくり生きて、心配事も無くゆっくり笑っていなければ
げんそうきょうへなんか行けないわ。
きっとれいむやまりさとご飯さんを奪い合う事もなくて、
なんだかほわほわした気持ちの時に好きなだけおちびちゃんを作る事もなくて、
みんなの邪魔ばっかりするおちびちゃんを潰すこともしなくて、
いばりたい時もおとなしくして、たくさん食べたい時にはガマンしてたのよ。
そんな事が出来るのは大うそつきのずるっこさんだけよ。
どうしてそんな子達がとくべつ扱いなの!?」
そこまで一気に言うと、自分の言葉に興奮したぱちゅりーは
息を苦しそうに吸いながら、赤れいみゅに身体を撫でるよう頼みました。
小さなれいむはぱちゅりーが何に怒ってるのかよく分からなくて、怖くて泣きながらすーりすーりしました。
「それに、げんそうきょうの大きな大きなゆっくりなんてのに会ったら、
ぱちゅりーは大声で文句を言ってやるわ。
どうして雨さんが降るたびに体が溶けないように産んでくれなかったの?
どうしておちびちゃん達がみんな元気になれるように産んでくれなかったの?
どうして冬さんの寒さで凍えないように産んでくれなかったの?
どうして他のゆっくりの事を思いやれるように産んでくれなかったの?
どうしてぱちゅりーたちが生きてる間にたっぷりゆっくりさせてくれなかったの!?
永遠にゆっくりしちゃった後でご褒美をあげますって言われても
そんなの全然嬉しくないわ!
まるでおやつを見せびらかして、でも結局分けてくれない意地悪な子みたい。
ゆっくりかみさまってそんなに……」
喉の奥に粘ったクリームが絡み、ぱちゅりーは激しく咳き込もうとしましたが
咳き込むための空気も吸う事が出来ず、顔がもはや黒い紫色になって苦しそうに震えました。
赤れいむが泣きながら心配しますが、なんの役にも立ちません。
文字通り身を振り絞り、ぱちゅりーはおちびちゃんを怒ったように睨んで
掠れた甲高い声で続けます。
「いま言った事もウソよ。
だって『げんそうきょう』なんてぱちゅりーが考えた言葉だもの。
ぜひゅ……ひっ ひっ……
うれしいのもウソなら、怒っているのまでウソなんだわ。
どこまでぱちゅりーはゆっくりできないの!」
泣いているのか笑っているのか、妙な声色でぱちゅりーは呟きました。
「みんなを騙した悪いゆっくりは、じごくへ落ちるのよ」
赤れいむはどうしていいか分からなくなって
とてもこんがらがった頭で精一杯考えました。
窒息しかけて青黒くなっているぱちゅりーに、上ずった声で言います。
「ぴゃ、ぴゃ、ぴゃちゅりーは『げんそうきょう』ゆきだよ」
ぱちゅりーは本当に驚いた顔で小さなれいむを見下ろしてから
急にその顔をみるみる赤く歪ませその太いもみあげを巻いて、小さなれいむを潰れないように、
でもとても力強く抱きしめました。
もう息は落ち着いて、弱々しいものでした。
「ちょっとの餡子さんしか入ってない、考えなしのおちびのおばかさん。
いつかお婆さんに会ったら、『ぱちゅりーはとってもゆっくりしていました』って言ってね。
うれしいけど、ぱちゅりーのじごく行きはたぶん変えられないわ。
それでもぱちゅりーは永遠にゆっくりする……いいえ。
もう二度とゆっくり出来なくなる前に、一つだけ良い事をするの」
あまりに耳元で囁かれたので、赤ちゃんれいむの体は
ぱちゅりーの熱い息と涙とクリームで湿ってしまいましたが
そんな事には2匹ともお構いなしに体を寄せ合いました。
そしてゆっくりと体に巻かれたもみあげが解かれ、ぱちゅりーが自慢のふかふか帽子を外した時
小さなれいむにはこれから何が起こるか分かっていました。
そして何があろうと自分がそれをやり遂げ、冬さんを見送り、春さんを迎えるのも分かりました。
れいむのおかーしゃんのいとこのおかーしゃんのそのまたおかーしゃんのともだちから
延々とゆっくり達の中身のどこかにそのやり方は伝えられてきたのです。
「さあ、おたべなさい」
◆6
「おせーよグズここまで喋んのに何日かかってんだ」
春の午後に俺は青空市場で糞饅頭に出会ってイライラが最高潮に達したところ
つれて帰った部屋の中でダラダラと興味ない話をされて怒りが腰に来ていた。
「れ、れいむは、それで、にんげんさんにあって」
「そんで?」
「れ、れいむは、ゆっくりかみさまにはこばれて、ぱちゅりーのおばあさんに」
「それ百万遍聞いたわボケ。
どう聞いても死んだって言ってんだろその婆さん」
「れ、れいむは、それで『げんそうきょう』に」
だからそんなもん無ぇって自分の話の中で言ってんじゃねえか。
イライラが足元を覆い全身を満たしたのでれいむの艶のない黒髪を引っ張り持ち上げる。
自重で饅頭の肉餡子がだらんと垂れ下がり皮膚が突っ張るらしくて痛いらしくうるさい。
「あハーイ♪ハーイ♪ハイハイハイハイ♪」
俺は極めてリズミカルにゆっくりデブれいむの肛門へぶっといボールペンを突き刺す。
やっべこのペンもう使えねー。
「やべでぇぇぇ! うんうんでぢゃうぅぅ! ぱぢゅりーがくれたぐりーむさん出ぢゃうぅ!」
「いやそれが狙いだから。お前に発言権とかないから。」
ハイハイハイハイ!
強くそして優しく四つ打ちを刻む俺。
テクノ知らないけど強弱のリズムと時々ねじ回す動作が超効くみたいで
れいみゅ(苦笑)ちゃんは舌を突き出して喘いでやがる。
うっわ洋物AVよりきめぇなっつーか三次元のアヘ顔って引くわー
とか思いながら、ここで俺は慈悲の心なるものを呼び起こして手を止める。
「やべてね! おがーしゃんいやがってるよ! やべてぇ!」
机の上で泣き叫ぶ赤豆ども。
道端で会った「おばーさんのところにゆっくりつれてってね!」とか言い出した脳無しれいむに
野良まりさのチンコ突っ込んでみた結果がこれだよ。
ちなみに使い終わった野良まりさは川に投げた。
そうだ!
こいつの餡子をガキゆっくりに食わせたらどうなるかな?
賢い2号ちゃんが生まれたら売れるかな……バカ共にはかなり売れるな、うん。
さっきから「おがーしゃん! おがーじゃんがぁぁ!」とか
ビャービャー泣いてた赤まりさをつまんで俺は冷酷に言う。ブサイクの罪でまりしゃは死刑!
赤まりさはびゃーぴゃー喚く。
生きてる事が罪だなこいつら。
そいつの姉の小さなれいむちゃんはどこかへかくれんぼ中で妹を助けに来ない。
ゲスゆっくりを始末するというのは趣がありますなぁ。
机の上でゆっくりとライターで尻を炙ると気持ちの良い声を出して赤まりちゃは暴れる。
ケツにボールペンつっ込んだままの母れいむがうつ伏せになって尻を上げて
「だ、だいじょうぶだよ! おちびちゃんはわるいことしてないから、
ゆっくりかみさまにのって『げんそうきょう』へいけるよ!」
と励ます。
おいおい死ぬの前提かよクソ母が。
「なワケねーだろ!」
と俺は赤まりさのくりくりした両目にシャー芯を突っ込み折る。
この小さなゆっくりサイズの目玉に正確にブッ刺すのは意外と技術が要るのだ。
「おでぃびちゃあああああん!!」
れいむは通算9回目(今のまりさは12番目の末っ子だ)の悲鳴を上げ、赤ちゃんもそれに呼応する。
部屋のどこかに隠れている子れいむも我慢しきれずビビリ声出してアンサンブル。
「ゆっぐい、ゆっぐいかみしゃまなんちぇいないよぉ・・・」
目玉を刺された赤まりさが絶望の声音で母に恨みを述べて事切れる。
母れいむはまーた泣き出してうるさいが、あまりに悲痛な声に俺の心はマジで動く。
「大丈夫だ、神は存在する」
ゆぎゃゆぎゃ泣き叫ぶ親れいむの姿に胸が痛くなって、
ボールペンを引き抜いた俺はつい優しい言葉をかける。
きょとんとした顔の親れいむがこちらを見上げたのを確認してから
俺は隅っこに隠れていた子れいむの揉み上げをそっと掴んで引っ張り出して
びっくりして焦ってぴこぴこ動くそいつのもみあげを2本とも思いっきり千切った。
「はい、ミロのヴィーナス」
「おがあしゃああん!」
「おちびぢゃんがああああ!!」
相変わらずうるさいガキれいむは舌を全部出して助けの声を求めるのだ。
うわー生き物の舌ってこんな長いんだなーとか思ってると
「にゃにしちぇるのぉぉぉ!?」
と相変わらず楽しい合いの手を入れてくれる親れいむ。
見て分かんねーのか。
神の再臨だ。
先ほど引き千切ったガキゆの揉み上げの傷口から
ぐちぐちぐちぐちと餡子が漏れてやがるので、俺はそこにありったけの爪楊枝を
両方から軽く刺してやる。
おちびちゃんは叫ぶと顎が動いて痛みが倍増するのをやっとご理解したようで
目を血走らせ歯を食いしばって激痛に対抗中。
賢いね。
おかげで顔の横に合計50本も爪楊枝が刺せたよ。
「千手観音」
「にゃにしちぇるのぉぉぉ!?」
あんなに見たがってた神様なのにつれないなー。
それじゃ地獄へ落ちて当然だね。
喚くだけの親れいむと違い、歯を食いしばって震えちゃって
健気に痛みに耐えてる子れいむちゃんはとっても偉いので
あまりにいじらしくて俺はその爪楊枝の千手をわさわさしてやる。
「ゆきゃぱぁー!!!!!!」
あ、なんか新しい叫び声出た。
新しい声は出たけどひくひく震えて、ゆん生の限界みたいだ。
というわけで俺は爽やかに、子ゆっくりの髪の毛を掴んで頭皮ごと引き剥がす。
むりむりむりむりぃっ!
今のは擬音だったのか……それともれいみゅの叫びだったのか……
僕にはよく分かりません。
よく分かんねーけど綺麗に頭皮が剥げました。
禿げました?
右目も一緒に取れてやたらキモい。
脳みそ餡子を露出して寒天の左目だけがまだ体に残って
身体の両端からいっぱいの爪楊枝をぶるぶるぶるぶる痙攣させて
それでもまだガキゆは生きちゃってる。
だって餡子はまだ全然こぼれてないもんねー!
そこで俺は頭皮をゴミ箱(口に枠を嵌めて改造したありす)に投げ、
子れいむの残った左目もぶちぶちと引っ張って取ってやり
半円形にくぼんだ目の部分にティッシュを詰め込み、
ふるふる震える餡子を漏れないようにしてやる。
これならあと10分は持ちこたえるな。
「サモトラケのニケ」
「おでぃびぢゃああああんっ!?」
うるせーよ。
俺はぱちゅりーの物真似をしてやって、れいむを少しでも慰めようとする。
「むっきゅぅぅぅ~~ん! 『ぐぇんすぉうきょう』へいくのよぉぉ~ん」
「ぱちぇはそんなに変なお顔じゃにゃかったも゙ん!!
ぱちぇはそんな変な踊りで喋んないも゙ん!!」
「ほうら、ぱちゅりーのもみあげさんよぉん? ブーラブラ♪」
「ゆっきぃぃぃぃ!!」
モストマスキュラーポージングの俺にれいむちゃんはブチギレ。
ぷくーっどころじゃなくて歯茎を露出して怒っちぇるよのお顔。
マジで死ねよ。
でも生きとし生けるものに愛を抱く俺は決してこいつを殺さないのだ。
殺さない代わり、また吼えようとして口を開いたれいむちゃんの左右の奥歯に
出産箱から取り出した最後の2匹である赤まりさと赤れいむを詰める。
「ゆっきゃー! おにーさんさっきのぽーずまたやっちぇ!」
「おかーしゃんのおくちのにゃか、ゆっくちできゅりゅよ!」
ハイハイ超萌え。
何にも気付いてないバカ赤ん坊どもと違って親れいむはさすがに分かったようだ。
「おめーが歯を食いしばったらこいつら両方死ぬからな。
俺は置いただけだから。
噛み殺すのはお前自身がやっちまう事なんだぞ。
あとガキ殺しは『じごく』行きだから俺より酷い鬼どもにたっぷり反省させられる。
『じごく』行きの親がいるガキも一緒にじごくで反省会だ」
れいむの真っ赤だった顔が未来の罪に真っ青になり
すっかり固まってくれちゃって作業をやりやすくさせる。
ぶにぶにとした唇を引っ張ってむりやり上下縫い付けてやる。
「ありぇっ? まっくらになっちゃよ!」
「こわいよぅおかーしゃん!」
「むぎゅー!? ゆぐっ、ゆぐぅぅー!!」
はい、ぷっくりれいむの完成。
「萎んだら大事な赤ちゃんを潰しちゃうぞー?」
注意してやるが、でっかく顎を開いてる親れいむはそのうち疲れて歯を閉じるかもしれない。
「ゆぶぶぶぶぶっ・・・・」
目を剥いて、縫われた唇の痛みに耐える親れいむ。
お口の中から精一杯の声が聞こえます。
「せみゃいよー! みゃみゃー!」
「もうやだおかーしゃんのところかえるぅ!」
大☆爆☆笑!
もう一度俺はサービス。
「むっきゅぅぅ~~ん! ぱちゅりーがひとつだけいいコトするわぁ~~ん」
ぶちゅっ。よぉれいむ! 今回の子どもの味はどうだい? ちゃんと喋れよ。
3日後、待望のお外の散歩で野良ありすにすっきりーさせられたれいむはぷっくりとお腹が膨らむ。
オレンジジュースを注いだら縫い付けられてべろべろになった唇もすぐに治りやがったので
全く生命力が強いのか弱いのか分からない。
ちなみにその3日間は足部分を焼いた父野良ありすをゆっくりゆっくり万力で潰して皮を剥いで反応を楽しんでた俺。
「ゆっ! ゆゔぅっ! うばれないでね! ゆっくりひっこんでね!」
餡子がきれいにふき取られた机の上で体を曲げ、
涙目の親れいむの尻の奥から小さく赤ゆが出始める。
それでもこのれいむは決して絶望しないだろう。
良い事をすれば『げんそうきょう』へ行けると信じている。
いくら砂糖水を飲んでも、いくら子殺しをしても、いくら人の机の上でうんうんをしても、
良い行いで最後の時にゆっくり神さまが来てくれると思い込んでいる。
赤ん坊が生まれる度に「こんどこそゆっくりするよ!」と期待して
無理だと分かりきっているのに数日間のゆっくりタイムを味わう。
助けを求める子ども達を『かみさまとゆっくりできるよ!』とか全くトンチンカンな方向で励ます。
自分でついた嘘を自分で信じている。
それが地獄なのに。
糞穴からウンコと粘液にまみれた紫色の丸いのが転がり出て俺は思わず笑う。
遺伝子もなんもない饅頭にこんな芸当が出来るとは!
れいむはすぐさまぺーろぺーろとそのベチャベチャの紫ゆっくりを舐め
周りの糞と粘液を舐め取って呼吸できるようにする。
そしてようやく自分の産んだ赤ん坊の種類に気付く。
地獄だ。
ぷるぷる体を震わせ、初めて見る世界にびっくりして目をまん丸にしてきょろきょろする赤ん坊。
うんうんぺにぺにしーしーまむまむおうち宣言ゲス地獄。りきゃいできりゅ?
そして俺が神だ。
こいつらゆっくりの地獄に救いの糸を垂れ給う救いの御手。
「むっきゅー! ゆっきゅりしちぇいっちぇにぇ!」
生まれたての小さなぱちゅりーが、引きつった笑顔の母親とにこやかな俺に希望の声をあげる。
自分がこれからしあわちぇーになってゆっくちできりゅと何の疑いも無く信じる明るい希望の声だ。
頬を指先でつんつんしてやると、ゆきゃゆきゃくすぐったそうに笑う赤ん坊ぱちゅりー。
「よ、よかったね! おにーさんのおかげでゆっくりできたね!」
横目で俺の表情を伺いながら早口ではしゃぐ親れいむ。
寛大な神はこいつら親子をしばらく殺さない事に決めて誰にも聞こえないように呟く。
可哀想な、可哀想なゆっくり。
(終わり)
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・もしかしたら、「このゆっくりぱちゅりー賢すぎるよ」
という人もいるかもしれません。
でも全然賢くないんです。
なぜなら本当に賢いゆっくりは、生まれた瞬間に絶望して
飛び降り自殺でもしているはずですからね。
・前作で「ゆっくりがリュックサックなんて背負えるわけないだろ?」
と色々な方に叱られたので、自分なりに絵を描きました。
文章の書き方が悪かったのだと反省しております。
ヘタッピのみが可能な二次元のイリュージョンをご覧下さい。
いなかもの落書きスレ1263210872956.jpg
あれ、ひょっとして「もみあげを触腕みたいに動かして物を操作する」って一般的ではないのかな?
っていうことはオリジナル設定だね! 取ったらべんしょうきんね!
嘘です。
過去作:ふたば系ゆっくりいじめ 610 目指せ、ゆっくりユートピア