ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko1546 私のなかのでいぶ
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ankoss
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結婚して10年になろうとしていた。
私たちの間には子供はいない。
昔の人は『子は鎹』とはよくいったものだ。
その鎹のない私たちは10年という歳月の間に夫婦関係はすっかり冷えていた。
夫はと言えば口を開くと不況だなんだと愚痴ばかり。
その愚痴をはじめは黙って聞いていた。
聞くことで鬱憤が晴れるなら私のストレスなど些細だと思っていた。
しかし、何カ月もの間聞かされ続けると私もストレスの限界だ。
不況だと嘆いたところで状況が打破されるわけではない。
今の夫の境遇は夫自身の不徳の致すところではないか。
そういう考えに至ったのは自然な流れだった。
「・・・今日は晩御飯は?」
「あぁ。残業多くてな。たぶん遅くなる。連絡する」
「・・・そう・・・」
朝の会話はこれだけ。
昔のように会社での出来事や他愛もない話に盛り上がることはなくなってしまった。
私はといえば、夫が駄目な人間に見えてしかたなくなっていた。罵ったこともあった。
子供がいればまた違ったのであろうが、不幸にも私たちの間に子供は生まれてくれなかった。
朝、夫を送り出し、いつものように日課であるガーデニングをしに庭に出る。
するといつもとは見慣れないものがそこにはいた。
大きさにしてソフトボールより少し大きめ。大きな赤いリボンを付けている。
「ゆ!・・・にんげんさんはゆっくりできるひと・・・?ゆっくりしていってね!」
不安そうに少し距離を置いて私に話しかけるもの。
そう、ゆっくりれいむといわれるものだった。
比較的都会に住んでいる私は初めて目にしたものだった。
ペットとして飼ってる人は見たことがある。
ペットショップでも何回かは見たことがあるが、さして興味もなく注視はしていなかった。
最近は環境美化対策として野良ゆ排除が進んでいるため、街にも野良ゆは少なかった。
野良ゆというものが初めてだったのだ。
会社勤めを辞めてしまった私にはこの土地には友人と呼べる人が少ない。
数少ない友人たちもそれぞれの生活がある。
今になって思えば、私は少し、淋しかったのだと思う。
「はじめまして。ゆっくりしていってね。」
つい返事をしてしまった。
そこから私とれいむの付き合いが始まった。
夫は元より生き物が苦手な方だった。
前に犬を飼いたいといったときも大反対をされた。
子供の出来ない私の淋しさなど、夫には理解できないのだろうとあきらめた。
そんな経緯もありこの庭れいむは私の秘密の友達となった。
夫は私の行動に興味はない。
庭をいくらきれいにしたところで褒めてはくれない。本当に興味がないのだ。
庭は私とれいむだけの秘密の園となっていた。
れいむは非常に素直で純粋だった。
野良と言えば汚くて醜い。そんな印象だったのだがこのれいむはちがっていた。
私が育てている花壇の花々の話をすると、
「おねーさんがゆっくりしているからおはなさんもゆっくりしているね!
れいむもゆっくりしたおはなさんすきだよ!だからほかのくささんたべるね!」
と花を荒らすこともしない。
なにかほしいものはないのかときけば、
「れいむはいまのせいかつがだいすきだよ!おねーさんこれからもれいむとなかよくしてね!」
とかわいいことをいう。
私の荒んだ心に一滴のうるおいを与えてくれる、そんな存在だった。
いつものように夫を送り出し、庭に行く。
ふと思い立ち、れいむの境遇についてきいてみた。
「れいむはどうしてお庭さんにきたの?家族はいないの?」
そう聞くとれいむは少しうつ向いて
「れいむは・・・おかーさんとおとーさんといもうとたちとしあわせー!だったんだよ・・」
と語り出した。
要約すると、人間に見つかりにくい公園の隅で家族幸せにすごしていた。
箱入り娘だったれいむは外の世界はあまり知らないまま育った。
ある日人間に家族が連れて行かれた。
両親は最後の力を振り絞りれいむを逃がした。
どうしていいかわからないれいむは私の育てた花をみてゆっくりできたのでここにきた。
そういうことらしい。
まぁよくある話といえばそれまでだ。一斉駆除があったのだろう。
「そう。大変だったのね・・・ここですきなだけゆっくりしていくといいわ」
「おねーさん・・!ありがとう!れいむゆっくしていくね!」
子供がいない淋しさも手伝ってわたしはこのれいむを見守ることにした。
ある日、いつものように庭に出るとれいむが顔を赤らめてもじもじしていた。
「どうしたのれいむ?」
「ゆん!おねーさん・・・しょうかいするね・・!まりさだよ!」
「まりさはまりさなのぜ!ゆっくりしていってねなのぜ!」
「あら、れいむお友達なの?まりさ。ゆっくりしていってね」
れいむはどこからかまりさをつれてきていた。
様子を見るにれいむはこのまりさが好きなようだった。
「まりさはかりのめいじんなのぜ!おねーさんにはめいわくかけないのぜ!」
「ん?」
「れいむがまりさにおはなさんはむーしゃむーしゃだめっておしえたんだよ!」
「そうなの。ありがとうね。」
そういってれいむの頭をなでてやると幸せそうにしていた。
これからこの二匹は番になるのだろう。
そう予感した私は二匹のためにおうちを庭の隅の目立たないところにプレゼントした。
「ゆーん!おねーさんとてもゆっくりできるおうちありがとう!」
「まりさも一緒に住んだらどう?」
「ゆ!おねーさん!れいむ・・・はずかしいよ!」
「・・・・ほんとにいいのぜ?」
「いいのよね?れいむ?」
「・・ゆん!まりさもいっしょにゆっくりしてね!れ、れいむ・・・まりさとずっといっしょに
ゆっくりしたいよ・・!」
それはれいむからのプロポーズ。
「ゆぅぅ!て、てれるのぜぇぇ!まりさがんばってかりするのぜ!!!」
私の庭に家族が増えたのだった。
私は特に餌は与えていない。
庭にいる虫や雑草などを食べて二匹は生活しているようだった。
二匹にしてみればごはんさんには事欠かない環境らしく飢えを訴えることはなかった。
れいむはひなたぼっこをしながら上手とはいえないおうたを歌い、
まりさは狩りも兼ねた虫との追いかけっこ。
日々ゆっくりとしていた。
そんな日が何日かすぎ、れいむがおうちからあまりでてこなくなっていた。
「まりさ。れいむをみないようだけど・・・何かあったの?」
「ゆん!れいむはにんっしんっ!したのぜ!おちびがもうすぐふえるのぜ!」
「・・・そう。おめでとう」
「おねーさんありがとうなのぜ!まりさかりをがんばるのぜ!」
心から喜んであげられない自分がいた。
私には子供が出来ないのに、こんなに簡単にゆっくりには子供ができる。
ゆっくりの性質上当たり前のことだが。
そんな自分に気がつくと自分のことが前より嫌いになりそうだった。
これでは悪循環。喜んであげようと私は精一杯明るく努めた。
「これからはもっとがんばらないとね。まりさ?」
「ゆん!そうなのぜ!まりさはれいむをゆっくりさせるのぜ!」
そういってまりさは狩りを再開させた。
れいむの様子をみようとおうちを見ると、れいむは額から茎を生やしていた。
とてもゆっくりした表情で寝息を立てて寝ていた。
それから何日かしておちびちゃんが生まれたようだった。
「ゆーん!おちびちゃんとってもゆっくりしているよぉぉ!
おねーさん!れいむのかわいいおちびちゃんをみていってね!」
無邪気に赤ゆを私に見せるれいむ。
赤ゆはといえばこれまた無邪気だった。
「ゆぅ!りぇーみゅはりぇーみゅだよぉ!おねーしゃんゆっくちしていっちぇにぇ!」
「ゆっくちゆっくち!」
「まいちゃはまいちゃにゃのじぇ!」
れいむ種が2匹にまりさ種が2匹。一気に6匹家族となったのだ。
「まりさがこれからもっとがんばらないといけないのぜ!れいむはこそだてでいそがしいのぜ!」
まりさは忙しそうに狩りをしていた。
「まりさ!ゆっくりがんばってね!れいむもゆっくりしたおちびちゃんをそだてるよ!」
仲睦まじい。新婚。そんな言葉がぴったりだった。
そんなゆっくりたちをみていると、結婚したばかりだった私たち夫婦を思い出していた。
夫は板前をしていたが収入のために仕事を変えた。大変だったが幸せだった。
大好きな人と一緒に日々を過ごせる幸せ。それは何事にも代えがたいものだと思っていた。
このままこの人と、ずっと幸せな日々が続くと夢を見ていたあの頃。
夫の仕事も軌道に乗り出し、この家を購入した時。
仕事で忙しい夫のため、元気の出るような料理を頑張ってつくっていたあの頃。
ほんの数年前のことだというのに、忘れていた自分がいた。
それに気付かさせてくれたこのゆっくりたちに感謝をしなくてはいけないとさえ思った。
数日後、いつものように庭をみるとまりさが狩りにせいをだしていた。
身の回りのことまで気が回らないのだろう、まりさは少し汚れていた。
「まりさ。ごはんさん集めるの大変なの?」
そう聞くとまりさは元気に、
「ゆん!かぞくのだいこくばしらっ!としてまりさはがんばるのぜ!」
とだけいって私の目の前から消えていった。
忙しそうに働くまりさ。まるで昔の夫のようだった。
れいむはというとおうちのまわりでおちびちゃんたちにおうたを歌っていた。
「ゆっくりのひ~♪まったりのひ~♪~」
「おきゃーしゃんのおうちゃはゆっきゅりできりゅにぇ!」
「ゆっきゅりこーりょこーりょしゅりゅよ!」
おちびちゃんたちも元気にそだっているようだ。
様子がおかしくなってきたのはいつごろだろうか。
まりさが日に日に痩せていくのがわかるようになった。
「まりさ?大丈夫?無理してるんじゃないの?」
「ゆぅ・・・。だいじょうぶなのぜ!ただおちびがすこしおおきくなってごはんさんが
たりなくなってきたのぜ・・・おねーさん・・・ないしょさんがあるのぜ・・・」
「どうしたの?」
「いらないごはんさんをすこしだけわけてほしいのぜ・・・
れいむにはおねーさんにめいわくかけるなっていわれたのぜ・・・でも・・。」
「いいのよまりさ。お父さんとしての立場もあるものね。ちょっとまってて」
そして私は野菜の切れ端を少し分けてあげた。
「ゆん!おねーさん!ありがとうなのぜ!これでおちびもゆっくりできるのぜ!!」
「大事に食べるのよ。狩り、がんばってね」
まりさは帽子に大事そうに野菜を詰め込み、おうちとは反対方向に持って行った。
どうやら多くごはんがとれたときにいざという時のために貯め込んでいるようだった。
また今日もれいむは姿を見せない。いつも私の前にきてくれていたのに。
子育てに忙しいのだろうか。
まりさはというと相変わらずせかせかとごはんを集めていた。
「そろそろおちびちゃん達も大きくなったのかしら?おねーさんにもみせてくれない?」
そうまりさに話しかけるとうれしそうに頷き、おうちにれいむたちを呼びにいった。
数分後、戻ってきたのはまりさだけだった。
「ゆん・・おねーさんゆっくりごめんなさい・・・れいむはこそだてでいそがしいみたいなんだぜ・・」
「そう、ごめんね無理言っちゃって。」
まりさは申し訳なさそうに振り返り、また狩りに戻って行った。
それからまた数日したある日のことだった。
いつもきれいに咲いていた私の花壇がぐちゃぐちゃに荒れていた。
野良ネコでもはいってきたのだろうか。
そうだとするとあの家族は無事だろうか。
私の心は不安に支配されていた。
「れいむ!まりさ!大丈夫!?」
そう言って私は一家のおうちの方に様子を見に行った。
そこには私の見たことのないでっぷりと醜くふとったれいむが眠っていた。
近くにはなすび型に体が膨れた子ゆ。
おうちの外にはあのまりさがぐったり横たわっていた。
こいつか。私の花壇を荒らした犯人は。
このでいぶが花を食べ散らかしたに違い無い。
だとすると、私のれいむはどうなったのか。
どこにも見当たらない。
急いでまりさを抱きかかえ家にあげた。
「まりさ!大丈夫!?」
すっかりやせ細り、体にも髪にも艶がない。
オレンジジュースをストローで少し飲ませてやるとまりさは気がついた。
「・・ゆ・・・ゆん!ここは・・・!?」
「おねーさんのおうちよ。まりさ。何があったの!?」
「ゆ・・・ごめんなさいなのぜ・・・・まりさ・・・まりさ・・・」
そういうとまりさは涙をぽろぽろと流し、今までのことを語り始めた。
れいむと出会っておちびちゃんが元気に育っていったこと。
れいむがごはんを足りないといったこと。
まりさがどんなに頑張ってごはんを集めても足りないとなじられたこと。
冬に備えて貯め込んでいたごはんがれいむにばれたこと。
まりさが独り占めしたと誤解をうけ、制裁されかけたこと。
ぐずなまりさがごはんをちゃんと集めないせいだといわれ、れいむが花壇の花を食べ始めたこと。
それを止めようとしてまた制裁されたこと。
そんなはずはない。
私の知ってるれいむは優しくて純粋で素直なれいむだ。
あの醜く太ったでいぶではない。
「本当なの・・・それは・・・」
「ゆん・・・ほんとうなのぜ・・・まりさがんばったのぜ・・・でも・・でも・・!」
そう言うとまりさはまた涙を流し始めた。
確かめなければいけない。
私はまだぐったりとしているまりさを家に残し一家のおうちに確かめにいった。
どこかで聞いたのだが、ゆっくりは個体認識を飾りでするらしい。
ということは私のれいむの飾りを取り上げ、れいむになりすましたでいぶなのかもしれない。
そうだとしたられいむは、れいむはでいぶに殺されたのかもしれない・・・
「れいむ!起きなさい!」
「ゆぅ!まだれいむはねむたいんだよ!・・・・ゆ・・・!」
私と目があったでいぶはその巨体をゆっくりと動かし起き上がった。
「おねーさん!ゆっくりしていってね!」
でいぶが私のことをおねーさんといった。
知らない人間に出会ったなら、もう少し反応が違うはず。
「・・・れいむ・・・なの・・?」
恐る恐るそう聞いてみると
「ゆん!おねーさんれいむはれいむだよ!ゆふふ!へんなおねーさん!」
このでいぶは私の知っているれいむだった。
「ど、どうしたの・・・?れいむこんなに大きくなかったよね?」
「ゆん!れいむはこそだてでいそがしいからえいようつけなくちゃいけないんだよ!
まりさとけっこんっ!してからたいへんだったんだよ!おちびちゃんたちはおおきくなるし、
ぐずなまりさはかりがじょうずさんじゃないし。でもれいむこそだてがんばってたんだよ!
だからこんなにおちびちゃんたちもおおきくなれたんだよ!
ゆふふ♪れいむってほんとうにこそだてがじょうずだね!れいむのままもこそだてがじょうず
だったんだよ!だからままのみたいにこそだてしているんだよ!
れいむはぐずだからごはんさんがたりないんだよ!だからおはなさんもたべられたんだよ!
これもぜんぶぐずなまりさがわるいんだよ!」
目の前には明らかに食べ過ぎている子ゆ。
荒れた花壇。
いつからこんなれいむになってしまったのだろう。
「・・・れいむ・・?まりさはちゃんと狩りを頑張っていたわよ?おねーさん見ていたから知ってるよ」
「ゆん!まりさはごはんさんをかくしていたんだよ!かしこいれいむはすぐわかったんだよ!
むのうでぐずなんてどうしようもないちちおやなんだよ!」
「だから・・まりさは・・・」
「ゆ!おねーさんはまりさのみかたなの!?れいむはまりさがいないあいだひとりでこそだてしてたんだよ!
がんばってたんだよ!でもまりさはかりでいそがしいってそればっかりだったんだよ!おちびちゃんたちとも
ろくにあそばないだめなちちおやだったんだよ!そんなまりさのみかたするなんておねーさんもぐずなの!?」
でいぶは自分が自分がと自己中心的な理論を展開し続ける。
「れいむ・・・まりさは狩りで忙しかったのよ。あなたのこともちゃんと考えていたわ。
あなたがわからなかっただけなのよ。いつも忙しそうに狩りをしていたわ。
れいむはなにかまりさのためにしてあげ・・」
そこまで言いかけハッとした。
このでいぶは。このでいぶは私ではないか
自分の主張を通し、褒められたいがだけに行動し、その結果空回り。
ガーデニングだって夫の癒しになればと始めたものの結局褒めてくれない夫が悪いと思っていた。
どうして自分は頑張っているのに認めてくれないのか。
そんなことばかり思うようになり夫に嫌気さえ感じていた。
そんな自分と重なるようだった。
気がつくとスコップを振り上げていた。
私はでいぶじゃない。こんな醜いでいぶじゃない。
私の中のでいぶを消すように、私はスコップの先をでいぶの頭に振りかざそうとしていた。
「ゆん・・・!や!やめるのぜ・・・!」
家に置いてきたはずのまりさが体を引きずりながら足元まできていた。
「まりさの・・・まりさのだいじな・・・れいむなのぜ!おねーさん・・・おはなさんはあやまるのぜ!
まりさのせきにんなのぜ!まりさが、まりさがぐずなばっかりにぃ!だ・だから!!!!」
こうなってしまったでいぶでも愛しているとでもいうのか。
「違うわ!まりさは悪くないの!私が全部悪いの!」
気がつくと私から涙がこぼれていた。
そうだ。夫は私のためにいつだって頑張ってくれていた。
いつまでたっても子供ができない私に、つらい治療をするぐらいなら
二人でゆっくり過ごそう、子供がいなくても大丈夫だと慰めてくれたこともあった。
そんなことも忘れていた自分。
またこのれいむに助けられた。そんな気さえした。
わたしはこのでいぶをれいむへと戻さなければいけない。
そんな使命感がうまれた。
「れいむはわるくないよ!せーっさいっ!するならぐずなまりさにしてね!
それがおわったらあまあまもってきてね!ゆっくりしないでもってきてね!」
生まれた使命感はその瞬間はじけ飛んだ。
そう相手はゆっくり。人間ではないのだ。
一度こうなってしまったからには私が決着を付けてやるのがせめてもの心。
いや、まりさも止めていることだし、ここは辛抱強くれいむを改心させるべきだ。
そんな二つの意見が私の中でバトルを繰り返す。
私はスコップを持ったまま考えていた。
「おーい。ただいまー。いないのかー」
まだ昼間だというのに夫が帰ってきたのだ。
夫は私をリビングへ呼び出し、「これ」と小さな箱をくれた。
簡素な包みのその箱を私はゆっくり開いていった。
指輪だ。
「ほら・・その・・・なんだ。あれだ。10周年だろ。今日・・・」
少し照れくさそうに夫は目をそらす。
小さいながらもダイヤが光っていた。
「これ、、、え。。。高くなかった・・・?」
「うん。今月残業頑張ったからな。ごめんな。いつも」
「え、あ・・」
「悪いなとは思ってたんだ。切っ掛けなくってさ。いつもな。かまってやれなくて」
「・・・・うん・・・・わたし・・わたし・・・!」
私は馬鹿だ。こんなに大事な夫がそばにいたのに。
私はでいぶになっていたなんて。
夫の胸で、今までたまっていたものが全部でていくかのように泣きじゃくった。
涙と一緒にわたしのなかのでいぶは消えてなくなった。
「こ、これなんだけど・・・」
どうしていいのかわからない私は思い切って夫に相談してみた。
「あぁゆっくりかー。久々にみたな~昔は田舎によくいたもんな」
「なんかれいむがでいぶになっちゃって。」
「こんなの簡単だよ。」
そういうと夫はでいぶの前でしゃがみこんだ。
「ゆ!にんげんさん!あまあまもってきたの?それともどれいにりっこうほなの!?
ゆゆん!かわいくってごめんねー!」
「ほら。鏡みろ」
そういうと夫はでいぶの前に鏡をおいた。
「ゆふふ!でぶでみにくいれいむがこっちみてるよ!おぉあわれあわれ・・・ってどぼじででいぶど
おなじうごきずるのぉぉぉ!!!!」
「鏡だからな。今のお前はこれだよ。でぶでみにくいなぁ?」
「ゆぅぅぅ!!!!!れいむはびゆっくりなんだよ!こんなみにくいはずないよ!」
「じゃぁ鏡に映ってるのはなんだ?」
「ゆぅぅぅぅぅ!!!!!!!」
「まりさもお前のことがデブで醜いからちがうれいむと結婚するかもなぁ?」
「うるざいぐぞにんげん!!!!!・・ぶぎゅっあ!」
夫はれいむを殴った。
「や、そんな!かわいそうよ!」
「だいじょーぶだって。見てろって。ってかこれ重症だな・・・」
「いだいぃぃぃぃ!!!!!!!!」
「これからどうしよっかな~♪」
「ゆぅぅぅぅ!!!!!!たすけてね!れいむはわるくないよ!」
「そうだ。まりさにきこう!」
「ゆ”!?」
そういうと夫はまりさを抱えてでいぶの前に立った。
「まりさかわいそうだな?こんなになって」
「まりさ!かわいいれいむをたすけてね!」
「れいむ!だいじょうぶなのぜ!いまたすけるのぜ!」
まりさは至って健気であった。
「まりさの愛も確認したし」
そういうと夫は重たいでいぶを軽々と持ち上げ家へと運んだ。
「あなた・・どうするの・・?」
「ゆっくりってゆーのはなー。組織の中身が大体餡子なんだよ。消化器官も餡子なら脳みそも餡子」
夫は少し上機嫌だった。久々だ。こんな夫を見るのは。
お菓子の入った戸棚からラムネと市販の餡子を取り出すと手際良く包丁を握る。
「え・・・?どうするの・・・?」
「まぁまぁ。みてのお楽しみ。」
ラムネをでいぶに食べさせ麻酔をする。
手際良く背中の方から包丁をいれ、餡子をとりだしてく夫。
「あなた・・・なんだか楽しそうね・・・」
「俺の田舎じゃこんなの沢山いたからな。おまえは慣れてないだろうけど。」
ダブついた皮を包丁で取り除き、小麦粉で補修していく。
最後に餡子を少し足して傷を埋めていった。
オレンジジュースをかけるとれいむは目が覚めた。
「ゆ・・・ゆん・・・れいむ・・・」
一回りちいさくなったれいむはあのでいぶではなくなっていた。
「れいむぅぅぅー!!!!!・・・だいじょうぶなのぜ?」
「ゆん!なんだかからだがかるいよ!まりさ!れいむはれいむだよ!」
夫によると悪い記憶もゲスな中身もすべて餡子が左右するらしい。
餡子を取り出したり中身を変えることによりどうにかなってしまうものらしい。
ゆっくりは反省などしない。
一度悪くなってしまったものはどうにもならないとのことだった。
「人間とは違うからな。言葉は話すけど根底が違うナマモノ。それがゆっくりだからな」
とのことだった。
「それで・・・あのね・・・」
「いいぞ。こいつら飼っても」
「え・・・」
「俺実は犬苦手なんだ。ゆっくりだったらいいぞ。」
こうして一家は晴れて飼いゆとなった。
これからは私がこのれいむを再びでいぶにしないように見守っていこう。
きっとわたしがでいぶになったらまたこのれいむはでいぶになってしまう。
そんな気がした。
些細な幸せも見逃さなず感謝する。
いつだって相手のことを思いやる。
大きな幸せばかり求めるといままであった小さな幸せは霞んで見えてしまいがちだ。
そう私は再確認できた。それだけで幸せだ。このゆっくり一家のおかげだ。
私の手に光る指輪とこのれいむ。
この二つをみればもう忘れることはないだろう。
わたしの中のでいぶにあらためてさようならをいった。
おまけ
その1年後・・・
「だー!だっっとぅ!あばー!」
「こら。あんまりれいむのぴこぴこさんひっぱっちゃだめよ」
「うぶー!」
「おねーさんれいむだいじょうぶだよ・・・ちょっといだいぃぃぃ!」
「ゆーくんひっぱりすぎ!もぉ・・・かわいいこ」
「おちびちゃんはゆっくりできるね!」
「そうね・・・」
私たちの間には子供はいない。
昔の人は『子は鎹』とはよくいったものだ。
その鎹のない私たちは10年という歳月の間に夫婦関係はすっかり冷えていた。
夫はと言えば口を開くと不況だなんだと愚痴ばかり。
その愚痴をはじめは黙って聞いていた。
聞くことで鬱憤が晴れるなら私のストレスなど些細だと思っていた。
しかし、何カ月もの間聞かされ続けると私もストレスの限界だ。
不況だと嘆いたところで状況が打破されるわけではない。
今の夫の境遇は夫自身の不徳の致すところではないか。
そういう考えに至ったのは自然な流れだった。
「・・・今日は晩御飯は?」
「あぁ。残業多くてな。たぶん遅くなる。連絡する」
「・・・そう・・・」
朝の会話はこれだけ。
昔のように会社での出来事や他愛もない話に盛り上がることはなくなってしまった。
私はといえば、夫が駄目な人間に見えてしかたなくなっていた。罵ったこともあった。
子供がいればまた違ったのであろうが、不幸にも私たちの間に子供は生まれてくれなかった。
朝、夫を送り出し、いつものように日課であるガーデニングをしに庭に出る。
するといつもとは見慣れないものがそこにはいた。
大きさにしてソフトボールより少し大きめ。大きな赤いリボンを付けている。
「ゆ!・・・にんげんさんはゆっくりできるひと・・・?ゆっくりしていってね!」
不安そうに少し距離を置いて私に話しかけるもの。
そう、ゆっくりれいむといわれるものだった。
比較的都会に住んでいる私は初めて目にしたものだった。
ペットとして飼ってる人は見たことがある。
ペットショップでも何回かは見たことがあるが、さして興味もなく注視はしていなかった。
最近は環境美化対策として野良ゆ排除が進んでいるため、街にも野良ゆは少なかった。
野良ゆというものが初めてだったのだ。
会社勤めを辞めてしまった私にはこの土地には友人と呼べる人が少ない。
数少ない友人たちもそれぞれの生活がある。
今になって思えば、私は少し、淋しかったのだと思う。
「はじめまして。ゆっくりしていってね。」
つい返事をしてしまった。
そこから私とれいむの付き合いが始まった。
夫は元より生き物が苦手な方だった。
前に犬を飼いたいといったときも大反対をされた。
子供の出来ない私の淋しさなど、夫には理解できないのだろうとあきらめた。
そんな経緯もありこの庭れいむは私の秘密の友達となった。
夫は私の行動に興味はない。
庭をいくらきれいにしたところで褒めてはくれない。本当に興味がないのだ。
庭は私とれいむだけの秘密の園となっていた。
れいむは非常に素直で純粋だった。
野良と言えば汚くて醜い。そんな印象だったのだがこのれいむはちがっていた。
私が育てている花壇の花々の話をすると、
「おねーさんがゆっくりしているからおはなさんもゆっくりしているね!
れいむもゆっくりしたおはなさんすきだよ!だからほかのくささんたべるね!」
と花を荒らすこともしない。
なにかほしいものはないのかときけば、
「れいむはいまのせいかつがだいすきだよ!おねーさんこれからもれいむとなかよくしてね!」
とかわいいことをいう。
私の荒んだ心に一滴のうるおいを与えてくれる、そんな存在だった。
いつものように夫を送り出し、庭に行く。
ふと思い立ち、れいむの境遇についてきいてみた。
「れいむはどうしてお庭さんにきたの?家族はいないの?」
そう聞くとれいむは少しうつ向いて
「れいむは・・・おかーさんとおとーさんといもうとたちとしあわせー!だったんだよ・・」
と語り出した。
要約すると、人間に見つかりにくい公園の隅で家族幸せにすごしていた。
箱入り娘だったれいむは外の世界はあまり知らないまま育った。
ある日人間に家族が連れて行かれた。
両親は最後の力を振り絞りれいむを逃がした。
どうしていいかわからないれいむは私の育てた花をみてゆっくりできたのでここにきた。
そういうことらしい。
まぁよくある話といえばそれまでだ。一斉駆除があったのだろう。
「そう。大変だったのね・・・ここですきなだけゆっくりしていくといいわ」
「おねーさん・・!ありがとう!れいむゆっくしていくね!」
子供がいない淋しさも手伝ってわたしはこのれいむを見守ることにした。
ある日、いつものように庭に出るとれいむが顔を赤らめてもじもじしていた。
「どうしたのれいむ?」
「ゆん!おねーさん・・・しょうかいするね・・!まりさだよ!」
「まりさはまりさなのぜ!ゆっくりしていってねなのぜ!」
「あら、れいむお友達なの?まりさ。ゆっくりしていってね」
れいむはどこからかまりさをつれてきていた。
様子を見るにれいむはこのまりさが好きなようだった。
「まりさはかりのめいじんなのぜ!おねーさんにはめいわくかけないのぜ!」
「ん?」
「れいむがまりさにおはなさんはむーしゃむーしゃだめっておしえたんだよ!」
「そうなの。ありがとうね。」
そういってれいむの頭をなでてやると幸せそうにしていた。
これからこの二匹は番になるのだろう。
そう予感した私は二匹のためにおうちを庭の隅の目立たないところにプレゼントした。
「ゆーん!おねーさんとてもゆっくりできるおうちありがとう!」
「まりさも一緒に住んだらどう?」
「ゆ!おねーさん!れいむ・・・はずかしいよ!」
「・・・・ほんとにいいのぜ?」
「いいのよね?れいむ?」
「・・ゆん!まりさもいっしょにゆっくりしてね!れ、れいむ・・・まりさとずっといっしょに
ゆっくりしたいよ・・!」
それはれいむからのプロポーズ。
「ゆぅぅ!て、てれるのぜぇぇ!まりさがんばってかりするのぜ!!!」
私の庭に家族が増えたのだった。
私は特に餌は与えていない。
庭にいる虫や雑草などを食べて二匹は生活しているようだった。
二匹にしてみればごはんさんには事欠かない環境らしく飢えを訴えることはなかった。
れいむはひなたぼっこをしながら上手とはいえないおうたを歌い、
まりさは狩りも兼ねた虫との追いかけっこ。
日々ゆっくりとしていた。
そんな日が何日かすぎ、れいむがおうちからあまりでてこなくなっていた。
「まりさ。れいむをみないようだけど・・・何かあったの?」
「ゆん!れいむはにんっしんっ!したのぜ!おちびがもうすぐふえるのぜ!」
「・・・そう。おめでとう」
「おねーさんありがとうなのぜ!まりさかりをがんばるのぜ!」
心から喜んであげられない自分がいた。
私には子供が出来ないのに、こんなに簡単にゆっくりには子供ができる。
ゆっくりの性質上当たり前のことだが。
そんな自分に気がつくと自分のことが前より嫌いになりそうだった。
これでは悪循環。喜んであげようと私は精一杯明るく努めた。
「これからはもっとがんばらないとね。まりさ?」
「ゆん!そうなのぜ!まりさはれいむをゆっくりさせるのぜ!」
そういってまりさは狩りを再開させた。
れいむの様子をみようとおうちを見ると、れいむは額から茎を生やしていた。
とてもゆっくりした表情で寝息を立てて寝ていた。
それから何日かしておちびちゃんが生まれたようだった。
「ゆーん!おちびちゃんとってもゆっくりしているよぉぉ!
おねーさん!れいむのかわいいおちびちゃんをみていってね!」
無邪気に赤ゆを私に見せるれいむ。
赤ゆはといえばこれまた無邪気だった。
「ゆぅ!りぇーみゅはりぇーみゅだよぉ!おねーしゃんゆっくちしていっちぇにぇ!」
「ゆっくちゆっくち!」
「まいちゃはまいちゃにゃのじぇ!」
れいむ種が2匹にまりさ種が2匹。一気に6匹家族となったのだ。
「まりさがこれからもっとがんばらないといけないのぜ!れいむはこそだてでいそがしいのぜ!」
まりさは忙しそうに狩りをしていた。
「まりさ!ゆっくりがんばってね!れいむもゆっくりしたおちびちゃんをそだてるよ!」
仲睦まじい。新婚。そんな言葉がぴったりだった。
そんなゆっくりたちをみていると、結婚したばかりだった私たち夫婦を思い出していた。
夫は板前をしていたが収入のために仕事を変えた。大変だったが幸せだった。
大好きな人と一緒に日々を過ごせる幸せ。それは何事にも代えがたいものだと思っていた。
このままこの人と、ずっと幸せな日々が続くと夢を見ていたあの頃。
夫の仕事も軌道に乗り出し、この家を購入した時。
仕事で忙しい夫のため、元気の出るような料理を頑張ってつくっていたあの頃。
ほんの数年前のことだというのに、忘れていた自分がいた。
それに気付かさせてくれたこのゆっくりたちに感謝をしなくてはいけないとさえ思った。
数日後、いつものように庭をみるとまりさが狩りにせいをだしていた。
身の回りのことまで気が回らないのだろう、まりさは少し汚れていた。
「まりさ。ごはんさん集めるの大変なの?」
そう聞くとまりさは元気に、
「ゆん!かぞくのだいこくばしらっ!としてまりさはがんばるのぜ!」
とだけいって私の目の前から消えていった。
忙しそうに働くまりさ。まるで昔の夫のようだった。
れいむはというとおうちのまわりでおちびちゃんたちにおうたを歌っていた。
「ゆっくりのひ~♪まったりのひ~♪~」
「おきゃーしゃんのおうちゃはゆっきゅりできりゅにぇ!」
「ゆっきゅりこーりょこーりょしゅりゅよ!」
おちびちゃんたちも元気にそだっているようだ。
様子がおかしくなってきたのはいつごろだろうか。
まりさが日に日に痩せていくのがわかるようになった。
「まりさ?大丈夫?無理してるんじゃないの?」
「ゆぅ・・・。だいじょうぶなのぜ!ただおちびがすこしおおきくなってごはんさんが
たりなくなってきたのぜ・・・おねーさん・・・ないしょさんがあるのぜ・・・」
「どうしたの?」
「いらないごはんさんをすこしだけわけてほしいのぜ・・・
れいむにはおねーさんにめいわくかけるなっていわれたのぜ・・・でも・・。」
「いいのよまりさ。お父さんとしての立場もあるものね。ちょっとまってて」
そして私は野菜の切れ端を少し分けてあげた。
「ゆん!おねーさん!ありがとうなのぜ!これでおちびもゆっくりできるのぜ!!」
「大事に食べるのよ。狩り、がんばってね」
まりさは帽子に大事そうに野菜を詰め込み、おうちとは反対方向に持って行った。
どうやら多くごはんがとれたときにいざという時のために貯め込んでいるようだった。
また今日もれいむは姿を見せない。いつも私の前にきてくれていたのに。
子育てに忙しいのだろうか。
まりさはというと相変わらずせかせかとごはんを集めていた。
「そろそろおちびちゃん達も大きくなったのかしら?おねーさんにもみせてくれない?」
そうまりさに話しかけるとうれしそうに頷き、おうちにれいむたちを呼びにいった。
数分後、戻ってきたのはまりさだけだった。
「ゆん・・おねーさんゆっくりごめんなさい・・・れいむはこそだてでいそがしいみたいなんだぜ・・」
「そう、ごめんね無理言っちゃって。」
まりさは申し訳なさそうに振り返り、また狩りに戻って行った。
それからまた数日したある日のことだった。
いつもきれいに咲いていた私の花壇がぐちゃぐちゃに荒れていた。
野良ネコでもはいってきたのだろうか。
そうだとするとあの家族は無事だろうか。
私の心は不安に支配されていた。
「れいむ!まりさ!大丈夫!?」
そう言って私は一家のおうちの方に様子を見に行った。
そこには私の見たことのないでっぷりと醜くふとったれいむが眠っていた。
近くにはなすび型に体が膨れた子ゆ。
おうちの外にはあのまりさがぐったり横たわっていた。
こいつか。私の花壇を荒らした犯人は。
このでいぶが花を食べ散らかしたに違い無い。
だとすると、私のれいむはどうなったのか。
どこにも見当たらない。
急いでまりさを抱きかかえ家にあげた。
「まりさ!大丈夫!?」
すっかりやせ細り、体にも髪にも艶がない。
オレンジジュースをストローで少し飲ませてやるとまりさは気がついた。
「・・ゆ・・・ゆん!ここは・・・!?」
「おねーさんのおうちよ。まりさ。何があったの!?」
「ゆ・・・ごめんなさいなのぜ・・・・まりさ・・・まりさ・・・」
そういうとまりさは涙をぽろぽろと流し、今までのことを語り始めた。
れいむと出会っておちびちゃんが元気に育っていったこと。
れいむがごはんを足りないといったこと。
まりさがどんなに頑張ってごはんを集めても足りないとなじられたこと。
冬に備えて貯め込んでいたごはんがれいむにばれたこと。
まりさが独り占めしたと誤解をうけ、制裁されかけたこと。
ぐずなまりさがごはんをちゃんと集めないせいだといわれ、れいむが花壇の花を食べ始めたこと。
それを止めようとしてまた制裁されたこと。
そんなはずはない。
私の知ってるれいむは優しくて純粋で素直なれいむだ。
あの醜く太ったでいぶではない。
「本当なの・・・それは・・・」
「ゆん・・・ほんとうなのぜ・・・まりさがんばったのぜ・・・でも・・でも・・!」
そう言うとまりさはまた涙を流し始めた。
確かめなければいけない。
私はまだぐったりとしているまりさを家に残し一家のおうちに確かめにいった。
どこかで聞いたのだが、ゆっくりは個体認識を飾りでするらしい。
ということは私のれいむの飾りを取り上げ、れいむになりすましたでいぶなのかもしれない。
そうだとしたられいむは、れいむはでいぶに殺されたのかもしれない・・・
「れいむ!起きなさい!」
「ゆぅ!まだれいむはねむたいんだよ!・・・・ゆ・・・!」
私と目があったでいぶはその巨体をゆっくりと動かし起き上がった。
「おねーさん!ゆっくりしていってね!」
でいぶが私のことをおねーさんといった。
知らない人間に出会ったなら、もう少し反応が違うはず。
「・・・れいむ・・・なの・・?」
恐る恐るそう聞いてみると
「ゆん!おねーさんれいむはれいむだよ!ゆふふ!へんなおねーさん!」
このでいぶは私の知っているれいむだった。
「ど、どうしたの・・・?れいむこんなに大きくなかったよね?」
「ゆん!れいむはこそだてでいそがしいからえいようつけなくちゃいけないんだよ!
まりさとけっこんっ!してからたいへんだったんだよ!おちびちゃんたちはおおきくなるし、
ぐずなまりさはかりがじょうずさんじゃないし。でもれいむこそだてがんばってたんだよ!
だからこんなにおちびちゃんたちもおおきくなれたんだよ!
ゆふふ♪れいむってほんとうにこそだてがじょうずだね!れいむのままもこそだてがじょうず
だったんだよ!だからままのみたいにこそだてしているんだよ!
れいむはぐずだからごはんさんがたりないんだよ!だからおはなさんもたべられたんだよ!
これもぜんぶぐずなまりさがわるいんだよ!」
目の前には明らかに食べ過ぎている子ゆ。
荒れた花壇。
いつからこんなれいむになってしまったのだろう。
「・・・れいむ・・?まりさはちゃんと狩りを頑張っていたわよ?おねーさん見ていたから知ってるよ」
「ゆん!まりさはごはんさんをかくしていたんだよ!かしこいれいむはすぐわかったんだよ!
むのうでぐずなんてどうしようもないちちおやなんだよ!」
「だから・・まりさは・・・」
「ゆ!おねーさんはまりさのみかたなの!?れいむはまりさがいないあいだひとりでこそだてしてたんだよ!
がんばってたんだよ!でもまりさはかりでいそがしいってそればっかりだったんだよ!おちびちゃんたちとも
ろくにあそばないだめなちちおやだったんだよ!そんなまりさのみかたするなんておねーさんもぐずなの!?」
でいぶは自分が自分がと自己中心的な理論を展開し続ける。
「れいむ・・・まりさは狩りで忙しかったのよ。あなたのこともちゃんと考えていたわ。
あなたがわからなかっただけなのよ。いつも忙しそうに狩りをしていたわ。
れいむはなにかまりさのためにしてあげ・・」
そこまで言いかけハッとした。
このでいぶは。このでいぶは私ではないか
自分の主張を通し、褒められたいがだけに行動し、その結果空回り。
ガーデニングだって夫の癒しになればと始めたものの結局褒めてくれない夫が悪いと思っていた。
どうして自分は頑張っているのに認めてくれないのか。
そんなことばかり思うようになり夫に嫌気さえ感じていた。
そんな自分と重なるようだった。
気がつくとスコップを振り上げていた。
私はでいぶじゃない。こんな醜いでいぶじゃない。
私の中のでいぶを消すように、私はスコップの先をでいぶの頭に振りかざそうとしていた。
「ゆん・・・!や!やめるのぜ・・・!」
家に置いてきたはずのまりさが体を引きずりながら足元まできていた。
「まりさの・・・まりさのだいじな・・・れいむなのぜ!おねーさん・・・おはなさんはあやまるのぜ!
まりさのせきにんなのぜ!まりさが、まりさがぐずなばっかりにぃ!だ・だから!!!!」
こうなってしまったでいぶでも愛しているとでもいうのか。
「違うわ!まりさは悪くないの!私が全部悪いの!」
気がつくと私から涙がこぼれていた。
そうだ。夫は私のためにいつだって頑張ってくれていた。
いつまでたっても子供ができない私に、つらい治療をするぐらいなら
二人でゆっくり過ごそう、子供がいなくても大丈夫だと慰めてくれたこともあった。
そんなことも忘れていた自分。
またこのれいむに助けられた。そんな気さえした。
わたしはこのでいぶをれいむへと戻さなければいけない。
そんな使命感がうまれた。
「れいむはわるくないよ!せーっさいっ!するならぐずなまりさにしてね!
それがおわったらあまあまもってきてね!ゆっくりしないでもってきてね!」
生まれた使命感はその瞬間はじけ飛んだ。
そう相手はゆっくり。人間ではないのだ。
一度こうなってしまったからには私が決着を付けてやるのがせめてもの心。
いや、まりさも止めていることだし、ここは辛抱強くれいむを改心させるべきだ。
そんな二つの意見が私の中でバトルを繰り返す。
私はスコップを持ったまま考えていた。
「おーい。ただいまー。いないのかー」
まだ昼間だというのに夫が帰ってきたのだ。
夫は私をリビングへ呼び出し、「これ」と小さな箱をくれた。
簡素な包みのその箱を私はゆっくり開いていった。
指輪だ。
「ほら・・その・・・なんだ。あれだ。10周年だろ。今日・・・」
少し照れくさそうに夫は目をそらす。
小さいながらもダイヤが光っていた。
「これ、、、え。。。高くなかった・・・?」
「うん。今月残業頑張ったからな。ごめんな。いつも」
「え、あ・・」
「悪いなとは思ってたんだ。切っ掛けなくってさ。いつもな。かまってやれなくて」
「・・・・うん・・・・わたし・・わたし・・・!」
私は馬鹿だ。こんなに大事な夫がそばにいたのに。
私はでいぶになっていたなんて。
夫の胸で、今までたまっていたものが全部でていくかのように泣きじゃくった。
涙と一緒にわたしのなかのでいぶは消えてなくなった。
「こ、これなんだけど・・・」
どうしていいのかわからない私は思い切って夫に相談してみた。
「あぁゆっくりかー。久々にみたな~昔は田舎によくいたもんな」
「なんかれいむがでいぶになっちゃって。」
「こんなの簡単だよ。」
そういうと夫はでいぶの前でしゃがみこんだ。
「ゆ!にんげんさん!あまあまもってきたの?それともどれいにりっこうほなの!?
ゆゆん!かわいくってごめんねー!」
「ほら。鏡みろ」
そういうと夫はでいぶの前に鏡をおいた。
「ゆふふ!でぶでみにくいれいむがこっちみてるよ!おぉあわれあわれ・・・ってどぼじででいぶど
おなじうごきずるのぉぉぉ!!!!」
「鏡だからな。今のお前はこれだよ。でぶでみにくいなぁ?」
「ゆぅぅぅ!!!!!れいむはびゆっくりなんだよ!こんなみにくいはずないよ!」
「じゃぁ鏡に映ってるのはなんだ?」
「ゆぅぅぅぅぅ!!!!!!!」
「まりさもお前のことがデブで醜いからちがうれいむと結婚するかもなぁ?」
「うるざいぐぞにんげん!!!!!・・ぶぎゅっあ!」
夫はれいむを殴った。
「や、そんな!かわいそうよ!」
「だいじょーぶだって。見てろって。ってかこれ重症だな・・・」
「いだいぃぃぃぃ!!!!!!!!」
「これからどうしよっかな~♪」
「ゆぅぅぅぅ!!!!!!たすけてね!れいむはわるくないよ!」
「そうだ。まりさにきこう!」
「ゆ”!?」
そういうと夫はまりさを抱えてでいぶの前に立った。
「まりさかわいそうだな?こんなになって」
「まりさ!かわいいれいむをたすけてね!」
「れいむ!だいじょうぶなのぜ!いまたすけるのぜ!」
まりさは至って健気であった。
「まりさの愛も確認したし」
そういうと夫は重たいでいぶを軽々と持ち上げ家へと運んだ。
「あなた・・どうするの・・?」
「ゆっくりってゆーのはなー。組織の中身が大体餡子なんだよ。消化器官も餡子なら脳みそも餡子」
夫は少し上機嫌だった。久々だ。こんな夫を見るのは。
お菓子の入った戸棚からラムネと市販の餡子を取り出すと手際良く包丁を握る。
「え・・・?どうするの・・・?」
「まぁまぁ。みてのお楽しみ。」
ラムネをでいぶに食べさせ麻酔をする。
手際良く背中の方から包丁をいれ、餡子をとりだしてく夫。
「あなた・・・なんだか楽しそうね・・・」
「俺の田舎じゃこんなの沢山いたからな。おまえは慣れてないだろうけど。」
ダブついた皮を包丁で取り除き、小麦粉で補修していく。
最後に餡子を少し足して傷を埋めていった。
オレンジジュースをかけるとれいむは目が覚めた。
「ゆ・・・ゆん・・・れいむ・・・」
一回りちいさくなったれいむはあのでいぶではなくなっていた。
「れいむぅぅぅー!!!!!・・・だいじょうぶなのぜ?」
「ゆん!なんだかからだがかるいよ!まりさ!れいむはれいむだよ!」
夫によると悪い記憶もゲスな中身もすべて餡子が左右するらしい。
餡子を取り出したり中身を変えることによりどうにかなってしまうものらしい。
ゆっくりは反省などしない。
一度悪くなってしまったものはどうにもならないとのことだった。
「人間とは違うからな。言葉は話すけど根底が違うナマモノ。それがゆっくりだからな」
とのことだった。
「それで・・・あのね・・・」
「いいぞ。こいつら飼っても」
「え・・・」
「俺実は犬苦手なんだ。ゆっくりだったらいいぞ。」
こうして一家は晴れて飼いゆとなった。
これからは私がこのれいむを再びでいぶにしないように見守っていこう。
きっとわたしがでいぶになったらまたこのれいむはでいぶになってしまう。
そんな気がした。
些細な幸せも見逃さなず感謝する。
いつだって相手のことを思いやる。
大きな幸せばかり求めるといままであった小さな幸せは霞んで見えてしまいがちだ。
そう私は再確認できた。それだけで幸せだ。このゆっくり一家のおかげだ。
私の手に光る指輪とこのれいむ。
この二つをみればもう忘れることはないだろう。
わたしの中のでいぶにあらためてさようならをいった。
おまけ
その1年後・・・
「だー!だっっとぅ!あばー!」
「こら。あんまりれいむのぴこぴこさんひっぱっちゃだめよ」
「うぶー!」
「おねーさんれいむだいじょうぶだよ・・・ちょっといだいぃぃぃ!」
「ゆーくんひっぱりすぎ!もぉ・・・かわいいこ」
「おちびちゃんはゆっくりできるね!」
「そうね・・・」